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博 士 ( 水 産 科 学 ) 岩 橋 雅 行

     学位論文題名

西部北太平洋におけるサンマ(Co め励ろおsaira) の 初期成長様式に与える経験水温の影響

学位論文内容の要旨

【はじめに】

  日本におけるサンマ(Cololabisざロira)漁業の歴史は古く,現在も主要な沖 合漁 業 のー っ と して , 毎年 秋 (8月 後半 か ら12月 )に西部 北太平洋 の北部日 本列島沿い を南下す る個体を 対象とし た棒受網漁が行われている。漁獲物は,

一般的に小型魚(20≦体,長く24cm),中型魚(24≦体長く28―29cm),大型魚

(28―29≦体長く32cm)の3群に分けられ,このうち中型魚と大型魚が各年の漁 獲物の主体 となる。 サンマの 研究にお ける問題のーっとして,中型魚と大型魚 の年齢に関する統一した見解がないことが挙げられる。かって,それぞれの年齢 は3歳と4歳であると考えられていたが(Hatanaka 1955),その後徐々に短く考 えられるよ うになり(堀田1960;小坂1973),福島ら(1990)は0.75歳と1歳で ある可能性 が高いと いう見解 を示した 。ところが最近の研究では,再び福島ら

(1990)の見解 より長い 年齢が推 定されて おり(Suyama etロ ´,1996;根本 1997),この議 論は依然 として続 いている。本研究では,この問題を念頭に置 き, サ ンマ の 生 活史 初期に注 目して, 産卵場お よび初期 経験水温 の推定と 脊 椎骨数の解析を行った。以下にその概略を示す。

【サンマの産卵場と初期経験水温の推定】

  1つ 目 の解 析 で は, 西 部北 太 平 洋に お ける サ ン マの初期 生息場の 分布と水 温環境の季 節的な違 いを明ら かにする ことを目的とした。西部北太平洋におけ るサンマは,ほば年中産卵を行うことが知られているが,これまでに大規模な卵 調査が行わ れたこと はなく, 産卵場分 布は主に仔魚分布をもとに推定されてき た。サンマ 卵は粘着糸を持ち(Yusa 1960),流れ藻などの浮遊物に産み付けら れる。そして,孵化するまでに少なくとも1週間(堀田・福島1963),浮遊卵とし て西岸境界 流やその 周辺の複 雑な流れ のなかを漂流する。また,孵化仔魚も稚     ―1350ー

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魚へ成長する過程において,これらの流れによって他の場所へと輸送される。し たがって,卵として産み放された場所と仔稚魚として生息する場所は異なってい る可能性 が高い。 そこで,採 集された 仔稚魚をその時・その場の海洋表層の流 れ場 に 応じ て 数 値的 に逆追跡 する実験 を行い,季 節毎の産 卵場分布 と卵・仔 稚魚の経験水温を推定した。

  サンマ仔 稚魚採集 データ(1993―1996:我が国周辺漁業資源調査(水産庁)

)をもとに,卵と遊泳能カの低い仔稚魚(体長く4.0 cm)の移動を,表層地衡流 とエクマン流による輸送のみによると仮定して,仔稚魚が採集された地点(既知)

から産卵された地点(未知)まで逆追跡するモデルを構築した。そして,産卵場 分布 と 卵・ 仔 稚 魚が 輸送され る過程で 経験する水 温を推定 した。表 層地衡流 は,TOPEX/POSEIDONにより 観測され た海面高 度偏差デ ータをもと に倉賀野 ・ 柴田(1997)とKuragano and Kamachi(2000)が作製した1°Xl°グリッドの海面 力学高度 データ( 気象庁・気 象研究所 )を,時 間解像度1日に線形 内挿を施し た デ ー タ か ら 計 算 し た 。 エ ク マ ン 流 は デ ー タ 同 化 手 法 に よ り 構 築 され た 1.875°x1.905°グリッド,1日毎の海上風データ(NCEP/NCAR Reanalysis data) から計算した。卵・仔稚魚が経験する水温は,1°Xl°グリッドの西部北太平洋海 面水温デ ータセット(気象庁・気象研究所)から1日毎に線形内挿を施して求め た。

  その結果 ,秋から 春にかけて 継続するサンマの産卵期のなかで,秋と春は同 じ混合水 域に大規 模な産卵場 が形成さ れる。このとき卵が経験する水温は,秋 に約17―25°C,春に約9‑19゜Cと両季節間には差があった。その後,卵が孵化し て仔 稚 魚へ と 成 育す る期間に っいては ,秋の個体 は水温下 降,逆に 春の個体 は水 温 上昇 を 経 験し ていた。 一方,冬 は黒潮水域 に大規模 な産卵場 が形成さ れる。このとき卵が経験する水温は約17‑22°Cであり,その後仔稚魚へと成育す る期間も水温はほば一定に保たれていた。

【サンマの脊椎骨数の解析】

  2つ 目 の解 析 で は, 季 節 的な 初 期生 息 場 の水 温環 境の違い がサンマ の初期 成長 様 式に 与 え る影 響を探る ことを目 的とした。 魚類の脊 椎骨数が 生活史初 期に経験した水温に逆比例することは,これまでに多くの実験研究やフイールド 研究 か ら示 さ れ てい る(例え ばTaning 1952;Blaxter and Holliday 1963; Garside 1966)。年齢 が確定し ていない中型魚と大型魚も,生活史初期に経験 する水温 が異なっ ていれば, その影響 により脊椎骨数が異なることが考えられ

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る 。 そ こ で , 秋 に 漁 獲 さ れ た サ ン マ 標 本 の 脊 椎 骨 数 に つ い て 解 析 を 行 っ た 。 中 型 魚 と 大 型 魚 の 脊 椎 骨 数 の 聞 に 差 異 が あ る こ と は す で に 認 め ら れ て い る が ( 小 達1956;小 達1962) , 本 研 究 が 過 去 の 研 究 と 異 な っ て い る 点 は ,i) 長 期 間 に わ た っ て蓄 積さ れた 大量 の標 本( 約40000個 体) を扱 った こと ,11)サ ンマ の体 長 だ け で な く 体 重 も 考 慮 に 入 れ た 体 型 と 脊 椎 骨 数 の 関 係 を 調 べ た こ と で あ る 。   秋 の 漁 獲 さ れ た サ ン マ 標 本 デ ー タ (1951―1989:東 北 区 水 産 研 究 所 ) を 用 い て , 脊 椎 骨 数 の 解 析 を 行 っ た 。 こ のデ ータ には ,サ ンマ の体 長・ 体重 ・脊 椎骨 数 が 記録 され てい る。 そこ で, まず 体長(19.0ー35.8cm)と体重(22―186g)を2軸と し た 体 型 平 面 上 に 体 長0.7 cmx体 重8g毎 の 格 子 を 配 置 し , そ れ ぞ れ の 格 子 に 当 て は ま る 標 本 の 平 均 脊 椎 骨 数 ( メ ) を 求 め た 。 っ ぎ に , ヌ と 全 標 本 平 均 脊 椎 骨数 (凡  64.86)の 比較 を行 い,Xく脇 とな る上 側信 頼限界もしくはX冫ルぃと なる下側信頼限界の信頼係数(p:%)を求めた。

  そ の 結 果 , 秋 に 漁 獲 さ れ る サ ン マ は , 体 型 平 面 上 で 平 均 脊 椎 骨 数 が 全 標 本 平均脊椎骨数より少ないグル ープ(ヌくルッ:p>95%)と,多いグループ(ヌ冫ルぃ:

p>95% ) に2分 さ れ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 平 均 脊 椎 骨 数 が少 ない グル ープ に は 体 長21−28 cmの 個 体 が 含 ま れ , 平 均 脊 椎 骨 数 が 多 い グ ル ー プ に は 体 長 26−30 cmで 比 較 的 体 , 重 が 軽 い 個 体 と 体 長30−33 cmの 個 体 が 含 ま れ る こ と が 明らかになった。

【結論】

  秋 に 漁 獲 さ れ る サ ン マ の 年 齢 は , 近 年 体 長 約20 cmの 個 体 に 関 し て は 約0.5 歳 と 一 致し て推 定さ れて いる もの の, 大型 魚に なる 段階 ではWatanabe etロ ´. ( 1988) が1歳 以 下 , 根 本 (1997) が 約1.1歳 , そ し てSuyamaefal.(1996) が1.5 歳 以 上 と 推 定 年 齢 が 異 な っ て い る 。 こ れ ら 推 定 年 齢 の 差 は1歳 未 満 で あ る こ と か ら, 推定 発生 季節 の違 いで ある と捉 える こと もで きる 。 そこで,本研究で得られ た 季 節 に よ る 初 期 経 験 水 温 の 違 い と 体 型 に よ る 平 均 脊 椎 骨 数 の 違 い を も と に , 大型魚の年齢について考察を 行った。

  Gabriel(1944) は ,Funぬlus属 が 胚 発 生 期 に 経 験 す る 水 温 が 低 い ほ ど は 胚 発 生 速 度 が 遅 く な り , 脊 椎 骨 数 が 多く なる こと を実 験的 に証 明し てい る。 サン マ の 胚発 生速 度も ,水 温が 低い ほど 遅く なる こと が実 験に よ り確かめられている(堀 田 ・ 福 島1963) 。 サ ン マ の 脊 椎 骨 数 の 決 定 に 卵 期 水 温 の 与 え る 影 響 が 大 き い の で あ れ ぱ , 本 研 究 の 結 果 か ら 大 型 魚 は , 季 節 別 の 卵 発 生 水 温 が 一 番 低 い 春 生 ま れ が 中 心 で あ る と 考 え る こ と がで きる 。た だし ,西 部北 太平 洋の 仔魚 の成 長     一1352―

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速度は秋にもっとも遅いことが指摘されている(Watanabe etロ´,1997)。餌を充 分に与えたサンマ仔魚の成長速度は,孵化後の経験水温が低いほど遅くなるこ とが実験的に証明されている(Oozeki and Watanabe 2000)。一方,西部北太 平洋において秋の初期成育場となる混合水域には,サンマ仔魚の餌(動物プラ ンクトン)が充分でないことも知られている(小達1994)。サンマの脊柱骨化作用 は体長〜2.5 cmまで続くことから(Hatanaka 1955),孵化直後(体長〜0.7 cm)に 摂 餌を 開始す るサ ンマ の脊 椎骨 形成 には ,本 研究 では 議論しなかった餌環境 も影響する可能性が考えられる。

  以上のように,西部北太平洋において,サンマ仔魚が産卵された場所の水温 は,秋,冬,そして春の順番で低くなることが明らかとなった。また,秋に漁獲され る サン マの脊 椎骨 数は 小型 魚と 中型 魚に 少な く, 中型 魚の一部と大型魚に多 いことが明らかとなった。サンマの脊椎骨数を胚発生期の経験水温が決定する のであれぱ,本研究の結果から大型魚は春生まれが中心であると考えられる。

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学位論文審査の要旨

主 査  教 授  岸  道 郎 副 査  教 授  三 宅 秀 男

副 査  教 授  渡 邊 良 朗 ( 東 京 大 学 海 洋 研 究 所 ) 副 査  助 教 授   磯 田  豊

副 査  助 教 授   桜 井 泰 憲

     学位論文題名

西部北太平洋におけるサンマ(Co 励励ろぬsaira) の 初期成長様式に与える経験水温の影響

  日 本に おけ るサ ンマ の研 究は 古くから行われてきているが、その寿命に関し て の 研 究 に あ って も1年 から2年半 と学 説が 多く 、ま た、 生活 史の 研究 も論 文 が 発 表 さ れ て いる ものの 産卵 場と 索餌 場と の間 をど のよ うに 回遊 して いく の か、 その 間、 環境 に対 して どの ような関係を保っていくのか、にっいての研究 は数少なく、学説も定まっていない。

  本 研 究 で は 、日 本にお ける サン マ(Cololabis saira)の生 活史 初期 に注 目 して 、産 卵場 およ ぴ初 期経 験水 温の推定と脊椎骨数と環境の関係についての解 析を行って新しい地検を数多く得ている。

  ま ず、 海流 によ る移 流を 考慮 したモデルを用い産卵場の推定と稚仔魚が経験 した 水温 の解 析を 行っ てい る。 これは人工衛星による海面高度の情報から海面 の流 れを 推定 し、 この 流れ を用 いて、稚仔魚の分布から産卵場を逆追跡して産 卵場 を推 定し 、産 卵場 から 稚仔 魚になるまでに経験した水温を解析するという もの であ る。 その 結果 、秋 から 春にかけて継続するサンマの産卵期のなかで,

秋と 春は 同じ 混合 水域 に大 規模 な産卵場が形成され、このとき卵が経験する水 温は,秋に約17−25。C,春に約9―19。Cと両季節間には差があること、その後、

卵が 孵化 して 仔稚 魚へ と成 育す る期間に秋の個体は水温下降、逆に春の個体は 水温 上昇 を経 験し てい たこ と、 一方,冬は黒潮水域に大規模な産卵場が形成さ れる 、このとき卵が経験する水温は約17―22。Cであり、その後仔稚魚へと成育 する 期間 も水 温は ほぼ 一定 に保 たれていたことが分かった。このことは過去に 経験 的に 言わ れて きた こと とほ ぼ一致しており、このことを理論的に証明した ことに大きな価値がある。

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一方、脊椎骨数の解析では、秋に漁獲されるサンマは、体型平面上(縦軸に 体長、横軸に体重をとった平面)で平均脊椎骨数が全標本平均脊椎骨数より少 ないグループと,多いグループに2 分されることが明らかとなり、平均脊椎骨 数が少ないグループには体長21 ー28 cm の個体が含まれ、平均脊椎骨数が多い グループには体長26 −

30 cm

で比較的体重が軽い個体と体長30 −33 cm の個体が 含まれることが明らかになった。すなわち、この研究は、西部北太平洋におい て,サンマ仔魚が産卵された場所の水温は,秋,冬,そして春の順番で低くな ることを明らかにし、秋に漁獲されるサンマの脊椎骨数は小型魚と中型魚に少 なく、中型魚の一部と大型魚に多いことを示した。この結果はきわめてユニー クな研究結果であり、サンマの脊椎骨数の研究に新たな知見を加えるものであ る。

    

以上の結果は、サンマの生態と生育環境に、従来にはない知見を与えたも

のであり、高く評価できる。よって審査員一同f ま本論文が博士(水産科学)の

学位を授与される資格のあるものと判定した。

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