博 士 ( 理 学 ) 富 水 大 輝
学位論文題名
A Neutron Scattering Study on The Structure of Double Network Hydrogels: Towards Understanding of The Toughness J¥/Iechanism
(中性子散乱によるDouble Network ゲルの構造解析と そ の高強度メカニ ズムの解明に 関する研究)
学位論文内容の要旨
近年の関節部位における総疾病件数は世界的に急増しており、より良い関節代替材料の創製 は急務である。我々の生体の中の関節を構成する軟骨は体重を支えられる程の高強度性を持ち ながら、非常に小さぃ滑走面における摩擦係数(10‑3ー1ヂ)を持っている。これまでに、ソフ トでウェットな材料である合成ゲルを関節模倣材料とみなして低摩擦を有した高強度ゲルの合 成を目指した研究や、高強度化メカニズムや低摩擦メカニズムを解明しようとする物性研究が 多数行われてきた。結果、低摩擦係数を有しながら、実際の関節軟骨に近い強度(20MPa)を 有するハイドロゲル‐DbubleNetwo永(DMゲル|の創製に成功したが、これらのメカニズムは詳 細には分かっていなぃ。このメカニズムの解明は、より良い材料の創製へ直ちに反映させるこ とが出来るという点で非常に重要である。また、我々の生体の中の関節滑走面はマイクロオー ダーの粗さを有していることが分かっており、また疎水基で構成される脂肪酸による表面構造 をとる可能性が指摘されている。しかし、これらが超低摩擦挙動へどのような役割を果たして いるかなどその機構はほとんど明らかにされていない。
本論文は第1章の序論以降、大きく2っに研究が分かれている。第2章から第4章まででは 小角中性子散乱によるDNゲルの構造解析と高強度化メカニズムの解明への研究をし、第5章 と第6章では摩擦基板の親疎水性と粗さのゲルの表面摩擦に及ぼす影響を評価した。本論文全 体の内容を第7章で総括した。
小負 主性 壬散 乱i三 よるDoubleー丞鐘ヒQ撞造鰹栃と圭Q高強度2盈三丕蠱a)鯉明仝c丑究 2重の親水 性高分子網目構造を有するDNゲルについてはこれまでのマクロスコピックなカ 学測定や動的光散乱などによる詳細な研究によって、高強度発現に必要不可欠な様々な多くの かっ重要な知見を得てきた。しかし、力学強度の増加の発現に関わるそれぞれの網目がゲル中 でどのような構造を形成しているのか、または、それぞれの網目がマクロスコピックな変形に 対してどのように作用して高強度化メカニズムを発現しているのかについては検討できなかっ た。そこで、重水素化された試薬を用いてDNゲルを創製し、非変形下・変形下の場合のそれ ぞれ の網 目の3iAく きく12 p,mという広範囲の構造を小角中性子散乱 により評価した。
第2章では 中性子散乱によるDNゲルの構造解析の概論を示した。これまでの研究によって
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最適 化 さ れ たDNゲ ルの それぞ れの構 造に着 目する と、1つ 目の網目 である 強電解 質高分 子poly (2‑acrylamide‐2‐m甜ッlpropaneSmfonicacidXPAMPS)´ゲルはRu江PSゲルのみに比ベ、また2つ目 の網 目 で あ る中 性 の 高 分子 で あ るpoly卿la尚de(陥|Am)はPAAnの みに比 べ、マ クロス コピ ッ ク な 構 造 は 均 一 な 構 造 を と り 、 またPAMPSとPAAmの両 方 の 構 造は 不 均 一 な構 造 を と るこ とが 分 か っ た。 ま た 、50% の 圧 縮に よ り 一 軸方向 にのみ 伸展され た同高 強度を 有するDNゲル は、1.5pmもの巨 大な構 造を有 してい ること が分か った。こ れらは 中性子 散乱に よって 初めて 明らかになった極めて重要な知見である。
第3章 で は 得ら れ た非 変形時 の散乱 結果をFloッ・H1畷jns定数 (z)に よって解 析し、2つの 網 目 の 間 に ど の よ う な 相 互 作 用 が あ る の か を 評 価 し た 。 結 果 、PAMPSとPAAmの2つ の網 目 間にはエンタルピー的な相互作用をしている(XP^Am…pズPAMPS |噛冫冫ズmlロsm^。)ことを定 量的 に 示 し た。 こ の 分子レ ベルの2種の高 分子鎖問 に働く 相互作 用が先 に記し たマク ロレベ ル の 均 一 、 不 均 一 な 構 造 を と る こ と に 深 く 関 係 し て い る こ と が 示 唆 さ れ る 。 第4章 で は 、変 形 下に おける 散乱結 果につ いて考 察し、 これまで に得ら れてい るカ学 測定に よ る 知 見 と 、 第2,3章 で 得 ら れ た 知 見 を 元 に 、PAMPS網 目 と 絡 み 合 うPAAmがP心 ロSと の 相互作 用のた めに、 力学変形 時に摩 擦とし て働く ことに よって も高強 度化を 発現する と考える 新た な モ デ ルを 構 築 した。 第2ー4章 で得ら れた知 見により 、2っの 網目問 により 強い相 互作用 を 導 入 す る こ と で 更 な る 高 強 度 のI)Nゲ ル の 創 製 が 可 能 に な る こ と を 明 ら か に し た 。 塵擁基極Q惹速丞性と麈擁基極@粗さQ鐘ヒQ塵擁!三及區士効墨
ゲルの 摩擦で 関節軟 骨並の 超低摩 擦を発現 するの は、低 速度下 におけ るガラ ス基板 に対する 自由末 端鎖を 表面に 有する強 電解質 高分子 ゲルを 用いた 系など が挙げ られる が、実際 の関節の 稼働 速 度 全 域に お け る低摩 擦メカ ニズムの 完全な 理解を 遂げた とは言 い難い 。第5章 では、 関 節軟骨 表面の 疎水的 な構造に 着目し て、様 々な親 疎水性 を持っ た表面 が平滑 な基板上 の生体適 合性 を 有 す る非 電 解 質のポ リビニ ルアルコ ール(PWL)ゲ ルの摩擦 測定を 行い、 基板の 親疎水 性の摩 擦への 影響を 評価した 。ゲル の摩擦 挙動は 特に低 速度下 で吸着 カと特 に高速度 域で基板 の疎水 性に強 く依存 する。親 水性の 基板上 の摩擦 は、吸 着が小 さぃ場 合に相 当し、従 来のミク ロスコ ピック のダイ ナミック スで説 明される吸着‐反発モデルによって評価できる。しかし、疎 水性 の 増 加 に伴 っ て 、PVA高分 子鎖が 強く吸 着し、 結果低 速度下で は摩擦 カが増 加する 。親水 基板上 では、 高速度 下の摩擦 カは、 疎水性 度には ほぼ依 存しな いが、 疎水基 板では親 水性の基 板と比 べて摩 擦カは1/10ー1/100に急激 に低下 する。 これは 強い疎水基板では強制ぬれがおこ り、超 低摩擦 となる と考えら れる。 高速度 下にお けるゲ ルの超 低摩擦 発現メ カニズム としてこ の実験結果は、非常に大事な知見であると考えられる。
一 方 、 第6章で は 関節 軟骨表 面の粗 さに着 目した 。摩擦 基板の粗 さだけ 異なる 親水性 基板上 におけ る摩擦 挙動を 評価した 。粗さ の増加 ととも に、摩 擦カは 低速度 下では 微増し、 高速度下 では激 減する 。これ はマイク ロオー ダーの 大きな 粗さを 有する 基板に 対して 顕著に表 れ、平滑 なもの と比べ て高速 度下で摩 擦カは1/10に なった。 粗さに よる影響を考慮したモデルを新たに 構築し 実験結 果と比 較検討し 、粗い 表面で は、高 分子blobサ イズ( 数ナノ メート ル)に よる運 動より も、粗 さと同 程度のマ クロス コピッ クな運 動が支 配的に なるこ とに起 因するこ とを示唆 した。 第6,7章 による 研究に より、 天然の関 節軟骨 表面の 構造に よる低 摩擦挙 動を統 一的に理 解した。
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以上2つの研究は、新規軟骨代替材料の創製に大きく貢献出来るものであり、また同時に高 分 子 基 礎 科 学 や 基 礎 摩 擦 科 学 の 見 地 に と っ て も 非 常 に 重 要 で あ る 。
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学位論文 審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教 授 教 授 教 授 准 教授
冀 佐 々 木 川 端 古 川
剣萍 直樹 和重 英光
学位論文題名
A Neutron Scattering Study on The Structure of Double Network Hydrogels: Towards Understanding of The Toughness Mechanism
(中性子散乱によるDouble Network ゲルの構造解析と そ の高 強度メ カニ ズムの解明に関する研究)
博士学位論文審査等の結果について(報告)
近年の 関節部位における総疾病件 数は世界的に急増しており、 より良い関節代替材料の創 製 は急務 である。我々の生体の中の 関節を構成する軟骨は体重を 支えられる程の高強度性を 持ちな がら、非常に小さい滑走面に おける摩擦係数(1ザー10J)を持っている。これまでに、
ソ フトで ウェットな材料である合成 ゲルを関節模倣材料とみなし て低摩擦を有した高強度ゲ ル の合成 を目指した研究や、高強度 化メカニズムや低摩擦メカニ ズムを解明しようとする物 性 研究 が 多数 行わ れて きた 。 結果 、低 摩擦 係数 を 有しながら、 実際の関節軟骨に近い強度 (20MPa)を 有す るハ イ ドロ ゲル‑Double Network(DMゲルーの創 製に成功したが、これらの メ カニズ ムは詳細には分かっていな い。これらのメカニズムの解 明は、より良い材料の創製 ヘ 直ちに 反映させることが出来ると いう点で非常に重要である。 本研究は、ゲルの高強度・
ゲ ル の 低 摩 擦 の メ カ ニ ズ ム を 解 明 す る こ と を 最 終 目 的 と す る も の で あ る 。 本 学 位 論 文 は 第1章の 序論 、第2章 から 第6章の 本 論、 第7章 の 結論 から 構成 さ れ、 生体 ゲ ルの高 強度性・低摩擦性を理解す るために有用な知見を与えて いる。その要旨は以下のと おりで ある。
第2章か ら第4章 まで は小 角 中性 子散 乱に よるDoubleNe眦orkゲル の構 造解 析とその高強 度 メカ ニ ズム の解 明へ の研 究 であ り、2重 の親 水性 高分 子 網目 構造 を有 するDNゲルについ て はこれ までのマクロスコビックな カ学測定などによる詳細な研 究によって、高強度発現に ―1537―
必要不可欠な様々な多くのかっ重要な知見を得てきた:,しかし、力学強度の増加の発現に関 わる構造情報は皆無であった。そこで、著者は、重水素化された試薬を用いてDNゲルを創 製し、未変形下・変形下の場合のそれぞれの網目の3iAくきく12′』mという広範囲の構造を小 角中性子散乱により評価した。
第2章では未変形下、変形下におけるDNゲルの散乱結果を示した。これまでの研究によ って最適化されたDNゲルのそれぞれの構造に着目すると、それぞれの成分は均一な構造を もち、両方の構造は不均一な構造をとっていることが分かった。また、1.5倍に一軸伸張され たDNゲルは、1.5弘mもの巨大な構造を有していることが分かった。これらは中性子散乱に よって初めて明らかになった極めて重要な知見である。第3章では得られた未変形時の散乱 結果をFlory‑Huggins定数によって解析し、PAMPSとPAAmの2つの網目間には親和性があ ることを定量的に示した。第4章では、変形下における散乱結果について考察し、これまで に得られているカ学測定による知見と、新たに中性子散乱で得られた知見を元に、PAMPS とPAAmの間の親和カが効果的に働くことでDNゲルの高強度化を発現する可能性を強く示 唆する新たなモデルを構築した。
第5,6章は摩擦基板の親疎水性と摩擦基板の粗さのゲルの摩擦に及ぼす効果についての研 究である。第5章では、ゲルの摩擦挙動は特に低速度下で吸着カと特に高速度域で基板の疎 水性に強く依存することを明らかにした。親水性の基板上の摩擦は、吸着が小さい場合に相 当し、従来のミクロスコピックのダイナミックスで説明される吸着‐反発モデルによって評価 できる。低速度下では疎水性の増加に伴って、PVA高分子鎖が強く吸着し、摩擦カが増加す る。ー方、高速度下の摩擦カは、親水基板上では、疎水性度にはほぼ依存しなぃが、疎水基 板では親水性の基板と比べて摩擦カは1/10ー1/100に急激に低下する。これは強い疎水基板 では強制ぬれがおこり、超低摩擦となると考えられ、高速度下におけるゲルの超低摩擦発現 メ カ ニ ズ ム と し て こ の 研 究 結 果 は 、 非 常 に 大 事 な 知 見 で あ る と 考 え ら れ る 。 一方、第6章では摩擦表面の粗さに着目した。摩擦基板の粗さだけ異なる親水性基板上に おける摩擦挙動を評価した。粗さの増加とともに、摩擦カは低速度下では微増し、高速度下 では激減する。これはマイクロオーダーの大きな粗さを有する基板に対して顕著に表れ、平 滑なものと比べて高速度下で摩擦カは1/10になった。粗さによる影響を考慮したモデルを新 たに構築し実験結果と比較検討し、粗い表面では、高分子blobサイズ(数ナノメートル)に よる運動よりも、粗さと同程度のマクロスコビックな運動が支配的になることに起因するこ とを示唆した。第6,7章による研究は、天然の関節軟骨表面の粗さ構造による低摩擦挙動を 説明しうる非常に重要な基礎研究である。
以上2つの研究は、新規軟骨代替材料の創製に大きく貢献出来るものであり、また同時に 高分子基礎科学や破壊科学、基礎摩擦科学などにも非常に重要の見地を与えるものであり、
国際的にも広く注目されていますー
よって著者は、北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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