地域高齢者への健康行動支援プログラムの評価に関する研究 [ PDF
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(2) ローアッププログラムにおいて月に一回の集団レクリエ. 実施していった。また、各人が運動や健康に対する問題. ーションプログラム(Recreation program;以下 RP)へ. や不安を共有し、その解決の場となるように毎回グルー. の参加率が 75%以上かつ HP の実施率が 70%以上を満た. プワークを取り入れた。. す群(高継続群:10 名)と満たさない群(低継続群:13. HP は、日常生活内での運動実践および習慣化を目的と. 名)を設定し、運動行動支援プログラムの諸効果の継続. し、主に脚筋の強化を意図した筋力トレーニング(大腿. 性について 2 群で比較検討した。コントロール群は設定. 筋を鍛える運動・下腿の筋を鍛える運動・足底筋を鍛え. できなかった。. る運動)および全身のストレッチの方法が記載されたパ. 血液学的指標については、前後の血液データの揃って. ンフレットを配布し、毎日行った回数をセルフモニタリ. いる 29 名とコントロール群 10 名を対象として解析を行. ングした。同時に活動量の指標として、1 日あたりの歩. った。. 行数も万歩計を用いてセルフモニタリングした。歩行に 関しては、その日の歩数をセルフモニタリングすること. 2)運動行動支援プログラム 我々が作成した運動行動支援プログラムは、前年度健. だけを伝え、特に時間を決めて歩くなどの指示はしなか った。HP は、原則として毎日行うものとした。. 診から今年度健診までをワンクールとして約7ヶ月間に. コントロール群には、特別な介入は行わず短期運動プ. わたって行なわれたプログラムである。はじめの 3 ヶ月. ログラムの前後に介入群と時を同じくして介入群と同様. 間は運動プログラムの提示、指導だけでなく、対象者の. のアンケート調査、体力測定を実施した。. 行動変容を促すための積極的な支援対策を含む SP と運. (2)フォローアッププログラム. 動の習慣化を目的とした HP からなる運動プログラムを. フォローアッププログラムは、短期運動プログラムに. 行い、次回健診までの 4 ヶ月間は準自己管理下で運動を. 参加した者を対象に、短期運動プログラム終了後から次. 継続的に実施できるようにするためのフォローアッププ. 回健診までの 4 ヶ月間行い、月に 1 度のレクリエーショ. ログラムで構成されている。行動変容を促すための支援. ンプログラム(recreation program;以下 RP)と HP で. 対策として自己の客観的状態の把握、問題の明確化、目. 構成されている。RP は、フォローアッププログラム参加. 標の設定、問題解決のための知識や方法の獲得などによ. 者の交流や運動のアドバイスを行うためのプログラムで. る自己決定能力の強化と情報や結果のフィードバック、. あり、HP の記録収集およびグループワークの他、軽運動. 問題の共有化としての仲間づくり、セルフモニタリング. のレクレーション、料理講習などを行った。HP の内容は、. などによる動機の強化をそれぞれ図ることが有効である. 短期運動プログラムと同様のものである。RP に欠席した. 7). 対象者には、毎回新しい記録用紙と教室の案内などの手. (1)短期運動プログラム. 紙を送った。. 。本プログラムもこれを参考にした。 短期運動プログラムは、SP およびそれと併行して各個. 人が家庭で実践する HP から構成されている。 SP の開始直前には体力測定や調査を行い、体力の改善. 3)測定項目 以下の項目について、短期運動プログラム前後、フォ. や維持の必要性や意義についての理解を促すため、結果. ローアップ後(介入群のみ)に測定を行った。. を本人に返却し、現在の状況および運動の効用などにつ. 形態指標;身長、体重から Body Mass Index(BMI)を算. いての説明を行った。さらに、対象者自身が感じている. 出した。. 身体的不自由さなどの問題を解決するための知識や方法. 体 力;開眼片足立ち、明治生命厚生事業団体力医科. を獲得する場となるような教育プログラム的な要素も盛. 学研究所開発の生活体力テスト(身辺作業能. り込んだ。SP は週 1 回、約 105 分間の健康教室とし、全. 力、 歩行能力のみ) 、 10m歩行速度を実施した。. 12 回(前後の測定を含む)行った。105 分のうち、30 分. アンケート調査;九州大学健康科学センター式・健康と. 間は保健婦または管理栄養士等による健康講話を行い、. 生活習慣に関する調査(運動・スポーツ・仕. 残り 75∼80 分間を運動教室とした。運動内容は、体力の. 事、健康・体力の状態、生活の充実度のみ) 、. 維持向上を目的として、バランス能力、歩行能力、方向. 東京都老人総合研究所式活動能力指標、高齢. 転換能力を意識した動きや関節可動性を意識した体操と. 者 向 け 抑 う つ 尺 度 ( GDS ; geriatric. ストレッチで構成されている。体操は、椅座位での上半. depression scale)、身体的な不自由さや健. 身をほぐす運動から始め、 参加者の状況を把握しながら、. 診後の生活習慣の変化に関して面接方式で. セラバンドを用いたレジスタンストレーニングを徐々に. 調査した。.
(3) 身体活動量;ライフコーダー(株式会社スズケン)を用. 喜びは体力や身体活動性と関連が高く、HP の実施率が高. いて、総消費量、運動量、歩行数、低・中・. かったことから、歩行・運動の実施による影響が大きい. 高強度活動についてプログラム前後に1週. と考えられた。しかしながら、短期運動プログラムによ. 間連続測定した。. って、身体活動量は変化しなかった。身体活動量は介入. 血液指標;平成 12 年度および平成 13 年度健診において. が始まってから参加者に同意を得て調査した、すなわち. 脂質代謝(総コレステロール、HDL-c、中性. 動機付けがなされた後に調査を行っているため、初めか. 脂肪) 、糖代謝(血糖値、HbA1c)を検査した。. ら高いレベルであり改善の余地が少なかったことが考え られ、高いレベルで維持されたことに意味があると考え. 4)統計. る。. 統計学的解析はすべて StatView for Windows Version 4.5 統計プログラムを用いて行い、その際の統計的有意. 課題 2 高継続群、低継続群の HP 実施率は短期運動プログラ. 水準は 5%とした。. ムとフォローアッププログラムで有意差は認められず、. 課題 1. 運動継続が示唆された(表 1) 。. 各測定項目に関して、両群のベースライン比較には対 応のない t 検定を用い、プログラム前後における各群の 測定結果の比較には対応のある t 検定を用いた。 課題 2. 表1 運動行動支援プログラムの参加率 短期運動プログラム フォローアッププログラム HP 70.7±21.3% 67.7±29.1% SP 92.8±8.3% − RP − 78.4±26.8%. 有意差 n.s. − −. group × time の 反 復 測 定 分 散 分 析 ( Repetition measures ANOVA)を行った。血液学的指標については検. 両群のセルフモニタリングの結果は、高継続群の HP. 査値の変化率を求め、運動行動支援プログラムでアンケ. 実施率が 90.2%、歩行数は平均 8477 歩/日であり、低継. ート調査に参加したコントロール群と比較するため、対. 続群の HP 実施率は 44.4%、歩行数は平均 10482 歩/日で. 応のないt検定を行った。. あった。これから、高継続群は HP に力を入れた HP 重視 群、低継続群は歩行に力を入れた歩行重視群であること. 3.結果および考察. が推察された。本プログラムでは、歩行の重要性につい. 課題 1. ても短期運動プログラムで説明、教育を行い、支援ツー. 3 ヶ月間の短期運動プログラムの参加率は、監視型プ. ルとしてモニタリングシートを配布するなどの働きかけ. ログラム:92.2%、ホームベースプログラムの実施率:. を行っており、低継続群が歩行に力を入れたのはその成. 70.7%であった。短期運動プログラムは、介入群の形態. 果であると考えられた。つまり、低継続群は運動継続が. に影響を及ぼし、介入群の BMI は有意に減少した(23.5. 出来ていない群ではなく、歩行という運動形態を自己選. 2. 2. 。体力は、閉眼片足立ち ±2.9 kg/m ⇒22.82±2.9kg/m ). 択して継続していたことが考えられた。. (65.35±46.1s⇒72.03±38.7s)、歩行速度(1.62±. 運動行動支援プログラム全体を通して、両群ともに開. 0.2m/s⇒1.82±0.3m/s)、歩行能力(8.40±1.0s⇒7.32. 眼片足立ちを除くすべての体力項目に有意な改善が認め. ±1.2s)、身辺作業能力(9.65±3.3s⇒6.37±1.7s)が. られ、運動習慣、健康、心理的健康指標では、主観的健. コントロール群に比べ有意に改善した。歩行能力は、コ. 康度、生きがい、運動の条件、散歩・歩行の実施に有意. ントロール群にも改善が認められた(9.90±2.8s⇒8.84. な改善が認められた(図 2,3) 。血液指標に有意差は認め. ±2.0s)ことから、測定への慣れなどバイアスがあった. られなかったものの、介入群において脂質代謝異常者が. ものと考えられた。また、短期運動プログラム後には主. 減少(16 名⇒9 名)していた。身体活動量には、変化は. 観的健康度(2.84±0.6⇒3.25±0.6) 、主観的体力(18.6. 認められなかった。これらの結果から、教育・支援的要. ±3.9⇒19.8±3.6) 、生きがい(8.16±1.9⇒8.66±1.8) 、. 素を含んだ短期運動プログラムは、運動習慣の獲得およ. 喜び(9.53±2.2⇒9.75±1.8) 、散歩・歩行の実施(2.41. び体力、心理指標の改善をもたらし、その効果はフォロ. ±3.4⇒4.25±3.3)、運動の実施(1.00±1.4⇒1.91±. ーアップを行うことで維持されることが示唆された。以. 3.0)がコントロール群に比べ有意に改善した。主観的体. 上のことから、本プログラムは地域高齢者の運動習慣の. 力の改善は実測の体力が改善していることから、体力へ. 獲得および身体的、心理的健康の改善に有効に作用する. の自信の現われと考えられた。 主観的健康度や生きがい、. ことが示唆された。.
(4) 表 2 運 動 行 動 支 援 プログラムの 効 果 体 力 H P 重 視 群 ( n=10 ). 歩 行 重 視 群 ( n=13 ). 主効果 交互作用. group. tim e. 52.3± 8.0. n.s.. *. n.s.. 22.8± 2.4. 22.5± 2.3. n.s.. *. n.s.. 68.5± 42.1. 70.2± 33.2. 89.2± 39.3. n.s.. n.s.. n.s.. 9.89± 8.4. 6.2± 5.0. 8.1± 3.6. 13.9± 6.0. n.s.. **. n.s.. 1.85± 0.27. 1.90± 0.18. 1.64± 0.24. 1.80± 0.24. 1.93± 0.22. n.s.. *. n.s.. 8.3± 0.8. 7.1± 0.6. 6.6± 0.6. 8.5± 1.2. 7.3± 1.0. 6.7± 0.8. n.s.. *. n.s.. 11.1± 4.4. 7.1± 2.4. 5.8± 1.4. 8.4± 2.1. 6.2± 1.1. 6.0± 1.3. n.s.. *. *. プログラム前. プログラム後. 体 重 (kg). 53.2± 9.0. 52.7± 9.0. 52.2± 8.9. 53.3± 8.7. 52.9± 8.2. B M I(kg/m2). 22.7± 3.6. 22.4± 3.6. 22.3± 3.6. 22.9± 2.4. 開 眼 片 足 立 ち(s) 67.5± 50.8. 72.1± 45.4. 59.2± 38.8. 閉 眼 片 足 立 ち(s). 6.5± 7.1. 12.9± 17.7. 1.63± 0.14. 歩 行 能 力 (s) 身 辺 作 業 能 力 (s). 歩 行 速 度 (m /s). フォローアップ後 プログラム前. プログラム後 フォローアップ後. 注 ) *:p<0.05,**:p=0.05. 表 3 運 動 行 動 支 援 プログラムの 効 果 生 活 習 慣 ・健 康 ・心 理 的 健 康 調 査 H P 重 視 群 ( n=10 ). 歩 行 重 視 群 ( n=13 ). 主効果 交互作用. プログラム前. プログラム後 フォローアップ後 プログラム前. プログラム後 フォローアップ後. group. tim e. A D L (13) 12.10± 1.1. 12.00± 0.8. 12.20± 0.9. 11.77± 1.4. 12.54± 0.7. 12.46± 1.0. n.s.. n.s.. n.s.. G D S (15). 2.30± 1.7. 2.90± 1.7. 1.90± 1.0. 4.85± 3.7. 4.62± 4.1. 4.23± 3.4. n.s.. n.s.. n.s.. 2.90± 0.7. 3.20± 0.6. 3.10± 0.7. 2.92± 0.5. 3.42± 0.5. 3.08± 0.8. n.s.. *. n.s.. 主 観 的 体 力 (28) 17.80± 4.2. 18.90± 4.4. 19.30± 5.2. 19.50± 3.9. 20.33± 3.1. 20.08± 3.3. n.s.. n.s.. n.s.. 9.20± 1.5. 9.30± 1.8. 9.70± 1.3. 7.15± 1.8. 8.08± 2.0. 8.23± 1.4. *. *. n.s.. 喜 び(12) 10.70± 1.2. 10.70± 1.1. 10.40± 1.4. 8.39± 2.7. 9.08± 2.2. 9.23± 2.1. *. n.s.. n.s.. 運 動 へ の 意 識 (16) 12.80± 2.0. 12.80± 1.9. 12.60± 2.3. 11.61± 1.3. 11.77± 1.4. 11.23± 1.7. n.s.. n.s.. n.s.. 運 動 の 条 件 (16) 11.10± 3.4. 11.80± 3.1. 12.00± 3.8. 9.85± 2.4. 11.08± 2.6. 11.31± 2.8. n.s.. *. n.s.. 3.10± 3.5. 5.30± 3.1. 3.90± 3.3. 2.46± 3.8. 4.15± 3.8. 3.23± 3.9. n.s.. *. n.s.. 5 (50.0%). 9 (90.0%). 7 (70.0%). 4 (30.8%). 8 (53.8%). 8 (61.5%). その 他 の 運 動 実 施 (12). 1.00± 1.5. 3.30± 4.4. 2.50± 3.2. 1.39± 1.7. 1.62± 2.3. 1.77± 2.4. n.s.. n.s.. n.s.. その 他 の 運 動 習 慣 有. 4 (40.0%). 4 (40.0%). 4 (40.0%). 5 (38.5%). 5 (38.5%). 5 (38.5%). 主観的健康度. 生 きが い(12). 散 歩 ・歩 行 の 実 施 (12) 歩行習慣 有. 注 )* :p<0.05. ≪参考文献≫ 1)厚生労働省監修:平成 12 年度厚生白書.ぎょうせい, 59-62,2000. 2)Katz S, Branch LG, Branson MH, Papsidero JA, Beck JC, Greer DS:Active life expectancy. N Engl J Med,309:1218-1224,1983. 3)長期プロジェクト研究報告書「中年からの老化予防総 合的長期追跡研究」.東京都老人総合研究所,2000. 4)Green JS, SF Crouse:The effects of endurance training on functional capacity in the elderly; a meta-analysis.Med Sci Sport Exerc,27:920-926, 1995.. 5)平成 10 年度高齢者の健康づくり事業に関する実態調 査報告書.日本体力医学会プロジェクト研究;高齢者 の健康づくり事業実態調査研究所,1998. 6)King A, Blair S, Bild D, Dubbert P, Marcus B, Oldridge N, Paffenberger R, Powell K, Yeager K: Determinants of physical activity and interventions in older adults.Med Sci Sports Exerc,24: S221-S236,1992. 7)宗像恒次:最新行動科学からみた健康と病気.メジカ ルフレンド,1996..
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