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解説論文 歩行中 自転車運転中の ながらスマホ 時の視線計測と危険性の考察 Gaze Measurement of a Pedestrian Texting While Walking and a Rider Texting While Riding a Bicycle, and Verificat

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Academic year: 2022

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解   説   論   文

129 IEICE Fundamentals Review Vol.10 No.2

1.はじめに

ここ数年におけるスマートフォンの急速な普及に伴い,歩 行中や自転車運転中に使用する“ながらスマホ”による交通事 故が増加しており,社会的な課題となってきた.特に“歩き スマホ”は,駅のホームや階段,エスカレータ,道路の横断 歩道など街中の公共場所の至るところで多くの人に見受けら れる.また,自転車運転中にスマホ操作またはイヤホン着用,

更にはイヤホンを着用してスマホ操作などもよく見掛ける光 景である.

駅のホームや道路・横断歩道など公共の場所では,一歩間 違えば重大事故につながる恐れがある.これらの場所では,

自分が被害者になるばかりでなく,全く関係ない人を事故に 巻き込んでしまう危険性があり,加害者となって責任を問わ れる可能性が大きい.

筆者らは2004年度から,クルマ運転中のドライバの視線計

測によって携帯電話使用(通話,メール操作など)の危険性検 証実験を行ってきた.2008年6月の改正道路交通法施行に伴

い,自転車運転中のイヤホン・携帯電話操作などが禁止され たことを契機として,自転車運転中の携帯電話等使用の危険 性検証実験を行ってきた.

更に2011年7月には,NHKテレビ「クローズアップ現代」

と共同でいち早く駅での“歩きスマホ“の危険性検証実験を西 武鉄道西武新宿駅の御協力を得て同駅のホームで実施した.

利用客のいるホームで実施できた日本で唯一の実験と思われ る.また,2011年11月に名古屋市中区の栄交差点の横断歩道 で“歩きスマホ”の危険性検証実験を行った.

本稿では,歩行中・自転車運転中の“ながらスマホ”時の視 線計測結果と危険性に関する考察をまとめてみたい.せっか くの機会なので,一旦事故が起きれば大事故になり兼ねない クルマ運転中の“ながらスマホ”についても触れたい.各種の 現場で実施した実験に関する裏話も交えながら述べたい.読 者の方々の安全意識向上に少しでも寄与できれば幸いであ る.

本稿では次章から次のように記していく.2.では,スマホ に絡む交通事故の実態などについて記す.3.では,実験に用 いた視線計測装置について記す.4.では,駅のホームや交差 点の横断歩道での“歩きスマホ”時の視線計測と危険性の考察 について記す.5.では,自転車運転中のスマホ及びイヤホン 使用の危険性について記す.6.では,クルマ運転中の“なが らスマホ”時の危険性についてハンズフリーの場合も含めて

歩行中・自転車運転中の“ながらスマホ”時の 視線計測と危険性の考察

Gaze Measurement of a Pedestrian Texting While Walking and a Rider Texting While Riding a Bicycle, and Verification of Dangerousness of Texting

小塚一宏

Kazuhiro KOZUKA

アブストラクト ここ数年におけるスマートフォンの急速な普及に伴い,“歩きスマホ”による駅のホームでの人身事故が 多発し社会的な課題となってきた.自転車運転中の携帯電話操作などは 2008 年から,クルマ運転中の携帯電話操作 などは 1999 年から改正道路交通法施行により禁止されているが,多くの人が何となく危ないと思いつつ“ながらス マホ”を行っているのが現実である.本稿では,歩行中・自転車運転中・クルマ運転中の“ながらスマホ”時の人の視 線を計測し,スマホ操作時の視線は画面にくぎ付けで周辺の交通環境認識ができず非常に危険なことを示した.

キーワード 視線,スマートフォン,歩きスマホ,交通事故,集中

Abstract With the rapid spread of smartphones in recent years, accidents have occurred frequently on the platforms of stations. In Japan, amendments to road traffic laws have made texting while riding a bicycle illegal since 2008 and texting while driving illegal since 1999. However, many people disregard these laws in spite of increased awareness of the risk of such behavior. In this study, the gaze of a pedestrian texting while walking, that of a rider texting while riding a bicycle and that of a driver texting while driving have been measured. It was found that the gaze was concentrated on the screen while handling a smartphone and surrounding traffic conditions were not fully recognized, resulting in a very dangerous situation.

Key words gaze, smartphone, texting while walking, traffic accident, concentration

小塚一宏 正員 愛知工科大学工学部情報メディア学科

 E-mail [email protected]

Kazuhiro KOZUKA, Member (Faculty of Engineering, Aichi University of Technology, Gamagori-shi, 443-0047 Japan).

電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ

Fundamentals Review Vol.10 No.2 pp.129–136 2016年10月

©電子情報通信学会 2016

(2)

130 IEICE Fundamentals Review Vol.10 No.2 記す.7.では,まとめを,8.では,今後の課題・展望など

について記す.

2.スマホに絡む交通事故の実態など

東京消防庁の調べによると,2011~2015年の5年間で“歩 きながら,自転車に乗りながら”などの携帯電話,スマート フォンなどに係る事故により少なくとも172人が救急搬送さ れた(1).図1に示すように20112013年の3年間は年々増加 し,2014年は前年より少し減少したが2015年は再び増加して おり,全体的には増加傾向と言える.

場所別では,道路・交通施設が139人で約80%強を占め,

その中でも駅での発生が39人で全体の22.7%となっている.

また,一歩間違えば重大事故につながるおそれのある駅の ホームから線路に転落する事故により,2011年に3人,2012 年に1人,2013年に4人,2015年に5人が救急搬送されている.

国土交通省のホームページによると,鉄道会社から同省に 報告された件数(事故の実数ではない)であるが,“スマホ・

携帯電話使用”中にホームから転落した人は,2010~2014年 度の5年間では11人,18人,19人,45人,32人となっており(2) 全体的には年々増加傾向にあると言える.これらのデータは あくまでも報告された数であり,当事者があえて報告しない 場合など実態はもっと多いと推測される.

2016年5月に東京りんかい線の駅のホームで20代の女子 学生がイヤホン装着しかつスマホを操作していて線路に転落 し,電車にひかれて死亡という痛ましい事故が報じられてい (3).同年6月には埼玉県熊谷市の秩父鉄道の警報機も遮断 機もない踏切にヘッドホン装着した30代の男性が入り,電 車にはねられて死亡,神奈川県の江の島では女子高生が駅の ホームで“歩きスマホ”を行い,電車に接触してけがするなど,

主に首都圏での事故が報道されている.

1.で述べたように,筆者らは2004年度から,クルマ運転 中のドライバの視線計測によって携帯電話使用(通話,メー ル操作など)の危険性検証実験を行ってきた.2008年6月の 改正道路交通法施行に伴い,自転車運転中のイヤホン・携帯 電話操作などが禁止されたことを契機として,自転車運転中 の携帯電話使用の危険性検証実験を行ってきた.

更に2011年7月には,NHKテレビ「クローズアップ現代」

と共同で駅のホームでの“歩きスマホ”の危険性検証実験を 西武鉄道西武新宿駅の御協力を得て同駅のホームで実施し,

2011年11月に名古屋市中区の栄交差点の横断歩道で“歩きス

マホ”の危険性検証実験を行った.交差点の横断歩道での実 験を継続するとともに最近では,自転車運転中のイヤホン使 用,イヤホンとスマホの同時使用についても実験検証を行っ ている.

筆者は,2001年までトヨタグループの総合研究所である

(株)豊田中央研究所にシステム分野の研究者として在籍し た.この間に,トヨタグループの基本思想である“現地現物”

を身に付けたので,以上述べてきた大学での研究は室内など での模擬実験ではなく,できるだけ現場で行うことを基本と した.

2.の終わりに,“ながらスマホ”の危険性に関する新刊書 を紹介する.マット・リヒテル(ニューヨーク・タイムズ記 者で2010年にピュリツァー賞受賞)著「神経ハイジャック―

もしも『注意力』が奪われたら」(4)が2016年6月に発行された.

2006年アメリカユタ州でドライバがクルマ運転中に携帯電話 でメール操作してセンターラインをはみ出し,他の2車が衝 突して科学者2名が亡くなった事故を題材とし,欧米の神経 科学者に綿密な取材をして最新の神経科学の研究成果から事 故原因を解き明かしている.人間の脳の情報処理能力,同時 に複数のことを行うマルチタスクの問題,人間の注意力など の観点から,現代人が最新テクノロジーやスマホに時間や注 意力を奪われること,そしてその根本要因が「つながりたい」

という人間の根源的欲求にあることが解き明かされている.

この著書は,本稿の主題である“ながらスマホ”を無意識に してしまう原因を考える上で非常に参考になると思われる.

また,日本と欧米を中心としてクルマの安全運転支援技術と その先の自動運転技術が精力的に研究開発されている.これ らの技術開発においてドライバの認知判断が非常に重要で,

本書の神経科学者による人間の脳の注意力,意思決定,マル チタスクに関する最新の研究成果は非常に参考になると思わ れる.

筆者は,文献(4)において解説として,クルマ運転中・自 転車運転中・歩行中の“ながらスマホ”の危険性検証実験につ いて視線計測実験データを付けて書いているので参考にして 頂ければ幸いである.

 

3.視線計測装置

筆者らの実験には,(株)ナックイメージテクノロジーの 視線計測装置EMR-8Bを使用した.一般的に広く活用されて いる装置である.その構成ブロック図を図2に,撮影原理を 図3に示す.弱い近赤外光を照射して両目眼球を左右のアイ カメラで撮影し,2値化などの画像処理を行って瞳孔を抽出 してその位置から視線方向を得るものである.人間の目に相 当する視野カメラで前方風景を撮影する.視線計測データは miniDVレコーダに映像として視野映像に重畳して記録され 図 1 歩きスマホなどに係る事故の救急搬送

人員数(1)  平成 26 年は減少しているが,

全体的には年々増加傾向と言える.

(3)

131 IEICE Fundamentals Review Vol.10 No.2

る.オフラインで専用分析ソフトに取り込み,視線の軌跡や 停留点分布などの数値情報が得られる.

歩行時及び自転車運転時の実験では,被験者にコントロー ラ,記録装置,バッテリーなど装置一式を背負ってもらった

(図2).

4.“歩きスマホ”時の視線計測と 危険性の考察

(1)駅のホームでの検証実験

スマホが急速に普及し始めたことに伴って,駅のホームで スマホを操作中に線路に転落し,死傷する事故が国内外で出 始めた.NHKテレビ「クローズアップ現代」はいち早く社会 的な課題として取り上げることになり,小塚研究室に共同実 験の依頼があった.NHK報道局社会番組部(当時)山田礼子 プロデューサの御努力で,西武鉄道西武新宿駅で夕方ラッ シュ時前までの条件で実験させて頂けることになり,2011年 7月に学生たちと装置を持って出掛けて実験を行った.西武 新宿駅では3名の駅員が安全確保のために付き添って頂いて 実験できたことに感謝している.NHKのプロデューサやカメ ラマン,西武新宿駅,当研究室の3者の日程上の都合などか らこの日しかなく,かつ,8月放送予定に向けて失敗はでき ないので実験装置をメーカから1セット予備に借りて持参す

るなど万全を期した.駅のホームで予備実験が行えなかった こと,時間帯によっては被験者の顔や目に反射光が当たるた めに視線データが十分取れないこと,時間が夕方のラッシュ までの4時間以内に限られているために1名しか実験できな いことなどから一発勝負であったが研究室の女子学生は落ち 着いてこの役をこなしてくれた.

なお,山田プロデューサが他の鉄道会社にも問い合わせた が,恐らく安全上の社内規定に基づいて利用客のいるホーム での実験は実現できなかった.これらの点から,本実験が利 用客のいるホームで実験させてもらえた日本で唯一の実験と 確信している.

被験者の女子学生が駅のホームで,①旅行パンフレットを 見て歩行,②スマホでツイッターしながら歩行における視線 を計測し比較した.分析の結果,パンフレットを見る場合,

パンフレットの内容が変わらないため,電車の入口,時刻表 などにも視線を送って周囲を見ながら歩行することが分かっ た.

“歩きスマホ(ツイッター) ”の場合,視線は画面にくぎ付 けとなり,周囲をほとんど見てないことが分かった.特に,

すぐ横を母親に手を引かれた2,3歳の女の子が追い抜いて 行ったが,女子学生の視線は画面に集中して移動せずその子 に気が付かなかった(図4).女子学生はビデオを見てびっく りし,女の子を蹴ったりする危険性があったと印象を語った.

これらの実験データは2011年10月6日NHKテレビクロー ズアップ現代「ケータイ事故『駅のホームでいま何が』」で他 大学のアンケート調査結果なども交えて放送され,視聴者に 関心を持って見て頂けた.10月6日はスマートフォンの生み の親であるスティーブ・ジョブズ氏が亡くなったその日で偶 然ながら何かの縁を感じた.これを契機として民放テレビや 新聞の全国紙で“歩きスマホ”の危険性が取り上げられるよう になり,社会的な関心を喚起することができた.

JRや私鉄の主要駅で,2011年の年末年始,2012年5月の大 型連休やお盆の混雑時に駅のホームでの“歩きスマホ”に対し て放送やビラで注意喚起され始めた.更に,2012~2013 に駅のホームでの“歩きスマホ”による人身事故の多発に伴っ 図 2 視線計測装置 EMR-8B の全体構成図と計測中の

様子  視線動画をミニDVレコーダに取り込み,オ フラインで専用ソフトを使って視線軌跡・停留点など を分析する.被験者は装置一式をリュックで背負う.

図 3 視線計測装置の撮影原理  弱い赤外光で左右の瞳 を撮影し,左右のアイカメラに取り込む.画像処理を行っ て瞳を抽出し,この位置から視線を計測する.視野カメラ で得られた前方風景に視線動画を重ねて表示する.

アイカメラ

視野カメラ

図 4 ツイッター歩行時の視線特性  視線は画面に集中 してくぎ付けとなり,横を通る親子には視線が移動せず,

認識できていない.

(4)

て,駅のホームで日常的に放送やビラによって注意喚起され るようになった.小塚研究室で行ってきた研究成果により,

モラル向上や危険性を社会の方々に知って頂くことに少しは 寄与できたのではないかと自負している.

(2)横断歩道での検証実験

筆者は,自宅のある名古屋市から大学のある蒲郡市まで片 道55 kmをクルマ通勤している.一ドライバの立場から,歩 行者の“歩きスマホ”の危険性をいつも感じている.信号が青 になるとスマホ画面に集中して右折・左折してくるクルマな ど周りを全く見ずに横断する歩行者を多く目にする.ドライ バとしては,歩行者と一瞬お互いの存在を認識して通行した いと思っている.

そこで,2011年11月に名古屋市の代表的な栄交差点の横断 歩道で検証実験を行うことにした.前もって所轄の中警察署 に実験の届けを行い,許可書をもらっておいた.警察の話で は,被験者が装置を付けて横断歩道を歩くだけなら他の通行 人などに迷惑を掛けることもないので実験の届け出は必要な いこと,取材するマスコミは例えば映像に周辺の建物などが 映るために届け出が必要ということである.実験を行ってい ると,たまに男性高齢者がぶつぶつ文句を言ってくるケース がある.この場合には,警察の許可書を見せると立ち去られ るので,まさに葵の御紋並みに役に立った.

研究室の学生が被験者になって,通常歩行,通話歩行,ツ イッター歩行(読取り,書込み)時の視線を比較した.図5~ 7に結果の一例を示す.

通常歩行の場合,無意識に左右と前方の歩行者,自転車,

クルマなどに幅広く視線を送って安全を確認しながら歩行し ていることが分かる(図5).

通話歩行の場合,視野は前方寄りに狭くなり,かつ見るべ きものがないビルなどに視線がとどまる“上の空”状態が見ら れ,周囲への注意がおろそかになると思われる(図6).

ツイッター歩行の場合,視線は画面に集中してくぎ付けと なり,数度前方をチラ見する程度で左右には全く視線が移動 しないことが大きな特徴である(図7).また,視野に入って くる風景もスマホとその奥の路面,人の下半身などで歩行に 必要な周辺環境認識が全くできず,非常に危険と思われる.

約23 mの横断歩道を渡り切る歩行速度は,通常歩行に比べ

て約20~30%遅くなる.人によっては,蛇行するケースも

見られた.更に実験データを積み重ねて2016年3月の本学会 ITS研究会で研究成果を発表した(5)

(3)“全員歩きスマホ in 渋谷スクランブル交差点”(6)

NTTドコモは,CGシミュレーション「全員歩きスマホin渋 谷スクランブル交差点」を2014年327日にネット上で公開 した(図8).公開7日後には約200万アクセスと爆発的な人気 を博した.現在も閲覧可能である.同社からの依頼を受け,

筆者らの実験結果である“歩きスマホ”する人は,約30%ゆっ くり歩く(時速3 km),人が1.5 mに近付くと初めて気付く,

スマホを中心とした30 cm程度の範囲しか見ていないなどを

図 5 通常歩行時の視線特性(軌跡と停留点分布)  目が ほぼ同じ方向に0.1秒以上とどまった状態を視線の停留と定 義.視線の軌跡と停留点を示す.視線は左右と前方に幅広 く移動し,無意識に通行の安全性を確認している.

図 6 通話歩行時の視線特性(軌跡と停留点分布)  視野が 前方寄りになって狭くなり,前方を漫然と見ている“上の空”

状態も見られる.停留点も存在.

図 7 ツイッター歩行時の視線特性(軌跡と停留点分布)  

画面上に停留点が幾つか見られるので視線は画面に集中して くぎ付けとなり,前方を数回チラ見する程度である.左右へ の視線移動が全くなくなることが特徴.

(5)

133 IEICE Fundamentals Review Vol.10 No.2

提供した.このシミュレーション動画像に小塚研究室提供と 記載されている.

(4)渋谷 道玄坂下スクランブル交差点での実験

日本自動車連盟(JAF)との共同研究で,渋谷 道玄坂下スク ランブル交差点で実験を行った.ドコモのシミュレーション と同じ渋谷スクランブル交差点での実験を検討したが,撮影 上の問題などで難しかったので,隣の道玄坂下のスクランブ ル交差点で実験を行った.本学の女子学生が視線計測装置を 付けて“歩きスマホ”した場合,たまたまよそ見をして歩いて きた対向者とぶつかる場面が見られ,JAFのホームページに 動画像が掲載されている(7).この実験動画像は,英訳されて 海外のJAFと同様な組織を通じて活用されている.

繁華街の歩道や横断歩道での実態を見てみると,“歩きス マホ”の人は,周囲に全く無頓着に画面を見続けていて,ぶ つかりそうになる場合は対向者がやむを得ず避けている.対 向者の不満は大きい.

(5)“歩きスマホ”に関するまとめと留意点

日本中どこでも,周りを見渡せば“歩きスマホ”の人を多く 見掛ける.特に注意して頂きたい点は,①駅のホーム,階段,

エスカレータの入口と出口,歩道や横断歩道など公共の場所 では,人身事故につながる恐れが大きいので“歩きスマホ”を しない.最近,駅のホームで転落による死傷事故が多発して いる.②実験データから分かるように,“歩きスマホ”時は左 右方向の視線移動が全くなくなるので,横を通る高齢の方,

体に障害を持った方,妊婦さん,幼い子供など,とっさに避 けられない人たちにけがをさせる危険性がある.自ら被害者 になるだけでなく,加害者になる可能性があることを十分認 識して欲しい.

5.自転車運転中のスマホ及び イヤホン使用の危険性

2008年6月に施行された改正道路交通法で自転車運転中の

携帯電話操作(通話やメール操作),イヤホン使用などが禁止

されて社会的な関心が高まったことに伴い,この問題も実験 対象とした.

2008年5月から自転車運転中の携帯電話使用について学内 の道路で通常走行時,通話走行時,メール操作時(閲覧,文 章作成と送付)の視線特性を比較した.通常走行時には視線 は無意識に左右・前方に幅広く移動し,安全を確認しながら 走行している(図9).通話走行時は通話歩行時とほぼ同じ傾 向であるが視野が前方寄りに狭くなり,かつ“上の空”状態と なることも見られた(図10).運転中にメール操作する場合,

視線はほぼ携帯画面に集中してくぎ付けになり周囲道路環境 を見ていないことが明らかとなった(図11).

通話時もメール操作時も運転に必要な周囲への安全確認が 図 8 NTT ドコモのシミュレーション(6)  1,500 人全員が

“歩きスマホ”して一斉に渡る場合.ぶつかったり,渡り切れ ない人が続出する.小塚研から,歩きスマホ時は速度が約30%

遅くなるなどの条件を提供した.

図 9 自転車で通常走行時の停留点分布  目がほぼ 同じ方向に0.1秒以上とどまった状態を視線の停留と定 義.視線の停留点は左右と前方に幅広く分布し,安全 確認して走行している.

図 10 自転車で通話走行時の停留点分布  視野 は前方寄りに狭くなり,前方を漫然と見ている“上 の空”状態も見られる.

図 11 自転車でメール操作時の停留点分布  視線 は画面に集中してくぎ付けとなり,周辺環境をほと んど見ていない.

(6)

おろそかになり非常に危険なことが分かった.これらの実験 結果を2008年12月の第7回ITSシンポジウムで発表した(8)

自転車運転中に携帯電話に夢中になっていて加害者となっ た例を述べる.2002年9月,横浜市で無灯火で携帯電話を使 用していた当時16歳の女子高生が,歩行中の57歳の女性に 衝突し,転倒した女性に後遺症が残った.2005年12月に裁判 で19歳になった女性に5,000万円の賠償を命ずる判決が出た.

自転車の場合,事故になると重い加害者責任を問われること になる.

JAFと共同研究で,自転車運転中のスマホ使用の危険性検 証実験を2014年12月につくば市の自動車学校で行った.運 転中にスマホ使用時,青信号を確認後は画面を見続けるため,

赤信号に変わっても気付かずに信号無視する例が4人中2人 に見られた.これらの結果はJAFのホームページで2015年3 月に公開(7)されて関心を集めており,英語版が欧米でも公開 されている.

自転車運転中のイヤホン・ヘッドホン使用も携帯電話と同 様に2008年の改正道路交通法で大音量での使用が禁止され た.しかし,自転車運転中にイヤホンを使用している若者を 多く見掛ける.

そこで,自転車運転中にイヤホンを使用して大音量で音楽 などを聴くとどんな影響があるかを実験検証した.両耳イヤ ホンの場合,横からの人の飛び出しに気付く時間は,通常走 行に比べて約0.2~0.3秒遅れることが分かった(9).これは,

好きな音楽などに入り込んでいると脳の認識機能は主に音楽 に使われるため,周辺環境認識がおろそかになることが一因 と考えられる.両耳イヤホンでは聴覚がふさがれるだけでな く,視覚にも影響を及ぼしていることになる.

一方,片耳イヤホンなら大丈夫という意見をよく聞く.道 路交通法は都道府県によって内容が異なるので,片耳なら問 題ないとしている都道府県もある.しかし,片耳イヤホンで 自転車走行した場合,緊急音(救急車のサイレン,急ブレー キ音など)がイヤホンを付けた耳側で鳴っても,イヤホンを 付けてない耳側で鳴っているように方向を錯覚する現象が実 験で見られた(9).自転車運転中の両耳イヤホン,片耳イヤホ ン共に危険性があることが実験的に明らかとなった.

スマホを使用し,同時に好きな音楽などをイヤホンで聞き ながら自転車運転している若者を街中で多く見掛けるが,以 上述べた実験結果から危険極まりない行為だと危惧される.

視覚と聴覚を奪われ,脳はスマホ画面や好きな音楽などに集 中し,運転に必要な道路や周囲環境に全く注意・関心が向い ていない.

日本では,自転車走行について信号無視などいろいろな課 題が出てきたため,2015年6月に改正道路交通法が施行され て罰則が強化されたことは御承知のとおりである.

6.クルマ運転中の

“ながらスマホ”時の危険性

せっかく本稿を書く貴重な機会を与えて頂いたので,10年

前後遡るが筆者が愛知工科大学に着任して最初に行ったクル マ運転中の携帯電話使用の危険性に関する検証実験について も触れたい.

日本では,1999年に施行された改正道路交通法でクルマ運 転中の携帯電話使用が禁止された.また2004年の改正道路交 通法で罰則が強化された.

公益財団法人交通事故総合分析センターの調査によると,

日本における携帯電話等使用違反による検挙件数は2014年中 に約110万件,1日約3,000件にも上っている(10).携帯電話等 を使用していた事故は,20~30歳代の比較的若い運転者に 多い.同事故件数は,2014年中に画像注視が749件,通話が 187件,その他動作が760件となっている.通話は年々減少 しているが,画像注視は2010年以降増加傾向で推移している.

これは,スマホの高画質な動画像,ゲーム,SNS,地図案内 など魅力的なアプリの普及により,運転中も見てしまうこと が一因と考えられる.

筆者は名古屋市から大学のある蒲郡市まで片道55 kmをク ルマ通勤している.現在も,高速道路や幹線道路で運転中の ドライバが通話やスマホ操作(SNS,ゲームなど)を行ってい る例をかなりの頻度で見掛ける.

筆者らは,2004年から実車を運転中のドライバが手に持つ タイプの携帯電話で通話やメール操作する場合の視線特性を 計測してその危険性を検証する研究を行ってきた(11)

実車を運転中のドライバは,通常走行(無負荷)の場合には,

無意識に視線を左右と前方に幅広く送って安全を確認しなが ら走行している(図12).通話の場合には,左右やバックミ ラーなどへの視線がほとんどなくなり,視野は前方中央寄り になって狭くなり,かつ,ぼんやり見ている(上の空状態)と なった(図13).

メール閲覧または文章作成・メール送信する場合,実験は 学内の道路で行った.視線は携帯画面と前方の間の直線的な移 動となり,画面に1秒以上停留する現象も見られた(図14).第 6回ITSシンポジウムでこれらの実験結果を発表した(11)

1秒間に走行する距離は,時速50 kmで約14 m,時速100 kmで約28 mである.運転中の1秒間の画面注視で1428 m を全く周辺確認せずに走行するのでいかに危険かが分かる.

最後に,運転中の携帯電話使用の中でハンズフリー装置に ついて言及したい.JAFの実験によれば,ハンズフリー運転 でのブレーキ反応時間は,携帯電話を手に持った運転と同様 に通常運転に比べて大幅に遅れ,非常に危険なことが明らか となった(12),(13).これは,脳の認識機能が通話に集中するた めに交通環境認識がおろそかになるためと考えられ,携帯電 話を手に持つか持たないかの違いは大きな意味を持たないと 考えられる.

マルチタスクの場合,脳の認識機能は関心が高いタスクで ある通話やメール操作に集中してしまい,運転には注意がほ とんど向いていない状態と考えられる.運転に必要な周囲環 境認識が全くおろそかになり,非常に危険なことが明らかと なった.

(7)

135 IEICE Fundamentals Review Vol.10 No.2

7.まとめ

スマートフォンの急速な普及に伴い,歩行中・自転車運転 中・クルマ運転中の“ながらスマホ”が急増し,駅のホーム からの転落など人身事故が多発して社会的な問題となってき た.

筆者らは,これら3ケースにおける人の視線を計測して“な

がらスマホ”時の視線特性を実際の場で実験検証してきた.

その結果,通常時には視線は左右・前方に幅広く移動し,無 意識のうちに安全を確認していることが分かった.一方,ス マホ操作時(SNS,動画像閲覧,地図アプリなど)には,視線 は画面に集中してくぎ付けとなり,左右には全く移動しない ことが明らかとなった.また,通話時も視野が前方寄りになっ て狭くなり,前方を漫然と見ている,いわゆる“上の空”状態 にもなることが分かった.

スマホ操作時,通話時とも交通に必要な周辺環境認識が全 くおろそかになり,非常に危険な状態と思われる.自ら被害 者になるだけでなく,加害者になる可能性があり,移動中の スマホ使用は絶対やめるべきである.また,イヤホン使用も 同様な危険性があるので,注意を要する.スマホとイヤホン の両方を移動中に使用している若者を街中で見掛けるが,危 険極まりない行為である.

8.今後の課題・展望など

2016年7月に,AR(拡張現実)技術を活用して現実の風景 の中にCGのキャラクタを組み合わせたスマホ向けの新型 ゲームアプリが,まずアメリカやオーストラリアなどで配信 されて爆発的な広がりを見せ,社会現象を巻き起こしている.

その後,欧州でも配信され,日本では7月22日に配信が開始 された.

スマホのカメラで撮影した現実世界の風景にGPSによる位 置情報を活用してある特定の場所に現れるCGのキャラクタ を捕まえたり,他の人のキャラクタと戦わせたり,それを育 てたりするゲームである.現実の世界を利用し,それに昔な じんだキャラクタを組み合わせることなど従来にない点が欧 米で爆発的人気を博している理由と思われる.

しかし,海外で事故や事件が発生しているとネットで報じ られており,安全性には十分気を付けたい.このゲームでは 実世界を移動してキャラクタを探すことが必要でクルマ運転 中・自転車運転中・歩行中にゲームに夢中になると思わぬ事 故・事件の原因となり,かつ,被害者・加害者の両方になる ことが危惧される.米道路交通安全局(NHTSA)が早速「運 転中はこのゲーム禁止」と呼び掛けていると報じられている

(14).ゲームに夢中になり,没入してしまうと交通環境に関す る注意がおろそかになり,交通事故を起こす危険性があるこ とは,従来のCGのゲームも今回のARのゲームも同様と考え られる.

ここ数年,眼鏡形や腕時計形などウェアラブル端末が開発,

実用化されてきた.これらは,スマホと同等な,また,異な る新たな機能を備えており,新しい利便性を提供するととも に“ながらスマホ”と異なる課題も出てくる可能性がある.関 連分野の技術者としては,利便性と課題の両面で動向を注視 していくとともに課題に対しては実験検証し改善していく必 要がある.

図 12 クルマで通常走行時の視線軌跡(右目)と停留点 視線は左右に幅広く移動し,かつ前方の中央付近に停 留点も見られる(白円で停留時間の大小を示す).

図 13 クルマで通話走行時の視線軌跡(右目)と停留点 左右やサイドミラーなどへの視線軌跡は減少し,前方 の停留点が多く停留時間も長い.

図 14 クルマで文章作成・メール送信走行時の視線 軌跡(両目)と停留点  視線軌跡は画面と前方の往 復となり,左右への視線はなくなる.携帯画面(右下)

上に長い時間の停留点(白い円)が多く見られる.

(8)

文  献

(1) 東京消防庁,“歩きスマホ等に係る事故に注意!,”2016,

http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/topics/201602/mobile.html

(2) 国土交通省,“スマホ・携帯使用中のホームからの転落,”

http://www.mliy.go/jp/common/001021265.pdf

3 朝日新聞,“歩きスマホ死亡事故も―画面見ながらイヤホン ホーム転落,”2016530日夕刊社会面,2016.

4 マット・リヒテル,“神経ハイジャック―もしも注意力が奪 われたら―,”三木俊哉(訳),小塚一宏(解説),英治出版社,

2016.

(5) 尾林史章,杉江亮輔,金  洪,小塚一宏,“視線計測によ る「歩きスマホ」の危険性,”信学技報,ITS2015-87,pp.17-21,

March 2016.

6 NTTドコモ,携帯電話のマナー「歩きスマホ」はやめましょ う マナー「全員歩きスマホ in 渋谷スクランブル交差点」篇,

March 2014http://www.nttdocomo.co.jp/info/manner/

7 日本自動車連盟(JAF),“歩行中・自転車乗車中の「ながらス マホ」の危険性実験動画を公開,”20152月16日,“JAF

「ながらスマホ」危険性検証動画,FIA(国際自動車連盟)が評 価,”2015年4月28日,http://www.jaf.jp/

(8) 尾林史章,小林一信,小塚一宏,“自転車走行中に携帯電操 作を行う運転者の視線計測,”第7ITSシンポジウム2008 no.1-B-09pp.37-41Dec. 2008.

9 尾林史章,松井一磨,杉江亮輔,小塚一宏,“自転車運転中 におけるスマホやイヤホン使用の危険性の実験検証,”第13 回ITSシンポジウム2015,no.2-2A-03,Dec. 2015.

(10)本田正英,“携帯電話等の使用が原因となる事故の分析,”(公 財)交通事故総合分析センター第18回研究発表会テーマ論 文,2015ITARDA,http://www.itarda.or.jp/pdf/

(11)小塚一宏,飯田智之,小林一信,“アイマークレコーダによ る運転中のドライバの視線計測,”第6ITSシンポジウム 2007no.O6-3pp.495-499Dec. 2007.

12 JAF(日本自動車連盟),“運転中の携帯電話 これだけ危険,”

JAF MATE 19987月号,pp.18-20, 1998.

(13) JAF(日本自動車連盟),“運転中の通話 ハンズフリーなら 安全か?,”JAF MATE 2005年6月号,pp.30-32, 2005.

(14)中日新聞「ポケモンGO トラブルもGO?」,2016年7月16 日朝刊26面特報, 2016.

ITS研究会提案,平成2878日受付)

1.中見出し

小塚一宏(正員)

 昭43名大・工・電子卒.昭48同大学院博士課程了.

同年(株)豊田中央研究所入社.以来,自動車用エン ジンの燃焼研究,ETC(自動料金収受システム)の基 礎研究・開発などに従事.平14愛知工科大・工・着 任,平23~26同工学部長・工学研究科長.現在,教授・

高度交通システム(ITS)研究所長.工博.IEEE Inter.

Vehicle Electronics Conf.(IVEC)2001 Best Paper Award,

第12回ITSシンポジウム2014優秀論文賞各受賞.著 書「ドライバ状態の検出,推定技術と自動運転,運転 支援システムへの応用―分担執筆:ドライバの挙動 計測と運転への集中力の評価方法」((株)技術情報協 会).

参照

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