Effects of global warming on biological diversity and ecosystems 中静 透*
Tohru NAKASHIZUKA* 東北大学生命科学研究科
Graduate School of Life Sciences Tohoku University
摘 要
温暖化が生物多様性に影響を与えるメカニズム、温暖化に対する生物の反応パター ンを概観し、日本で現在観測されている温暖化影響と将来の予測について、知られて いる知見をまとめた。生物多様性に対しては、現在のところ、生息域の減少、生態系 の管理放棄、外来種などの影響のほうが、温暖化影響より顕著であるが、今後は温暖 化の影響が大きくなってくると考えられる。また、両者の複合的な影響が強い。温暖 化に対して脆弱な種の特徴と生息環境の特徴を整理し、温暖化影響の把握のための問 題点を整理した。
キーワード: 脆弱性、相互作用を介在した影響、断片化、複合的要因、分布移動 Key words: vulnerability, effects through biological interactions, fragmented habitat,
interactive factors, distribution shift
1.はじめに
IPCC第4次評価報告書では、温暖化が生物多様 性に与える影響に関する予測をレビューして、今後 平均気温が2℃~3℃上昇した場合には、分類群や 地域などによって違いはあるものの、平均的には
20%~30%の種の絶滅リスクが高まると推定して
いる1)。この報告は主としてグローバルな影響につ いて述べられたものであるが、日本での温暖化の影 響およびその適応策をとりまとめた報告書が2008 年に出版されている2)。ここでは、その報告を中心 に、温暖化が生物多様性に与える影響について、現 時点での知見をまとめてみたい。
この報告書では、生態系ごとに専門家が最新の知 見をまとめている。森林については田中信行・清野 嘉之、高山については増沢武弘、淡水については占 部城太郎、海洋については小暮一啓、沿岸について は仲岡雅裕の各氏がそれぞれの生態系についてとり まとめ、さらに中静と事務局が加わって委員会とし て総括を行った。本稿では、具体的な研究について はこの報告中の生物多様性にかかわる部分を抽出す ると同時に、それ以外の知見も加えた。そのほかの 一般的論議については、この報告を作成した委員会 での議論に文献レビューを加えている。
2.生物多様性の変化を引き起こす原因
一般に、生物多様性の危機を引き起こす要因とし て、日本の第3次生物多様性国家戦略では、4つの 要因を重要だとしている。ひとつは開発による生息 域の減少(オーバーユース)であり、逆に里山に代表 されるように人間が利用しなくなったことによる衰 退(アンダーユース)、さらに侵入生物、そして温暖 化である。現時点で生物多様性の危機を引き起こし ている要因としては、温暖化よりもそれ以外の3つ の要因のほうが大きい。温暖化によると考えられる 変化も一部は顕在化しているが、今後予想される変 化のほうが多い。温暖化と生物多様性の関係にも、
温暖化以外の要因は深くかかわってくるので、最初 にこれらについて概観しておく。
原生的な森林の多くは開発によって、人工林や若 い二次林に転換させられ、野生動植物の生息地が減 少してきた。また、湿原、自然海岸、沿岸域、河川 などでも、自然状態が改変されてきた。原生林の減 少速度は一時より緩やかになってきているが、まだ その減少が収まっていない生態系も多い。そのた め、本来広大で連続的であった生息域が断片化して きた。そのことによって、地域個体群が小さくなり、
地域絶滅の可能性が高くなるほか、遺伝的多様性も 失われる。
一方、いわゆる里地、里山、里海のような伝統的 受付;2009年1月30日,受理:2009年4月27日
* 〒980-8578 仙台市青葉区新巻字青葉6-3,e-mail:[email protected]
に人間の影響を受け続けてきた生態系では、人間の 管理方法やスケジュールとうまく合う生活史をもつ 生物が生息してきた。しかし、近年農林水産業のや りかたが変化した。火入れや採草をする草原がなく なり、定期的伐採や落ち葉掻きをやめ、竹林を放置 するなど、人間の管理が行われなくなったことによ り、こうした生活史をもつ生物が絶滅危惧に陥って いる。
侵略的侵入種は、人間活動にともなって国内に新 たに侵入した種のうち、侵略的な種が国内の土着種 の捕食者となったり、同じ生育環境で競争したりす ることで生物多様性や生態系の機能を変化させる。
3. 温暖化が生物多様性の変化を引き起こす メカニズム
これに対して、温暖化がもたらす生物多様性への 影響には、直接的なものと間接的・複合的なものが ある。温暖化によって、気温が上昇するだけでなく、
降水量が変化する可能性があるほか、北陸、東北、
北海道では平地の降雪量が減少すると考えられてい る。これらの気候条件の変化は、その条件に適応し てきた生物の分布を変化させる。昆虫では温度条件 によって、生活環を1年に何回完結できるかが決定 される場合も多い。さらに食草となる植物の分布に も影響を受けるので、植物の分布が変化すればその 影響も受けるだろう。哺乳類では、積雪量によって 分布が制限を受けるものもある。極端な気象条件の 発生頻度が増えるという予測もある。特に台風は、
頻度が減少する一方で、強く大型の台風が増えると 予想されている。台風は、生物の個体群や群集への 撹乱要因として働くのが一般的であるが、一方で、
その撹乱に依存する生活史をもつ生物もいる。
また、温暖化が単独要因として生物多様性に影響 する場合もあるが、他の要因と複合的に働く場合も 多い。例えば、生息域が減少し断片化することで温 暖化にともなう分布移動が円滑に起こらない、里山 の管理が放棄され竹林の拡大が温暖化とともに促進 される、温暖化によって侵略的侵入種の分布が北上 して被害を広げる、というようなケースがこれに相 当する。
4.温暖化に対する生物側の反応
温暖化に対する生物の反応には、順応、適応(進 化)、分布の移動、相互作用系の変化などに分けら れる。生物学的な定義では、順応は遺伝的な変化を ともなわずに表現型の可塑性によって環境条件の変 化に対応するものである。これに対して、適応(あ るいは進化)は個体群内の遺伝子頻度が環境条件に 合わせて選択を受けるものをいう。一般には、かな りの数の世代数を繰り返さなければならないので、
長寿命の生物では、今回問題になっているような 100年で数℃というような急速な温度変化で選択圧 が働くとは考えにくいが、細菌や単細胞生物のよう に寿命の短い生物なら、進化的な変化も起こりうる。
気候条件が変化すれば、分散によって好適な環境を もつ場所へ移動することが可能である。ただし、こ れにはその種のもつ分散能力が大きく効いている。
また、お互いに強い相互作用をもつ生物で移動速度 が異なる場合や生物季節にずれを生ずる場合には、
あたらしく移動した先では、これまでどおりのパー トナーシップを保つことができない可能性がでてく る。例えば、樹木よりも、送粉昆虫のほうが先に移 動してしまって、送粉者を欠く場合もでてくるだろ う。生物群集も、これまでにはない新しい組み合わ せの中で食物網や共生、競争関係が生ずることにな る3)。
5.温暖化の影響と予測
5.1 陸上生物
温度変化によって、生物の分布がシフトすること は予測されているものの、これまでに実際に観測さ れているものは、移動速度の大きな生物が多い。ナ ガサキアゲハの分布北限は、1950年ころには山口 県、愛媛県付近であったが、最近では関東地方の南 部でも観察されている4)。ヒラタクワガタも関東地 方の都市部で見られるようになり、ヒートアイラン ド現象の結果と考えられている5)。鳥類では、サシ バの分布が北上しているほか、マガンやコハクチョ ウの越冬個体数が増加している6)。
一方、ニホンジカやイノシシの分布域拡大も温暖 化の影響を受けていると考えられている。ニホンジ カの生息地はこの25年に1.7倍に拡大している7)。 ニホンジカは多雪地帯では越冬困難であるが、冬の 平均気温の上昇と積雪期間の短縮により、日光では 1980~1990年代の10年間に越冬地が拡大した8)。 また、日本海側の分布の北限は福井県嶺南地方であ ったが、新潟まで北上した9)。その被食による植物 相の衰退や、それらの植物を利用する動物への影響 が問題となっている。
植物では、高山植物に対する影響がもっとも危 惧されている。ヨーロッパアルプス中部の3,000 m を超えるピークをもつ26の山における植生のモニ タリングによれば、植物の大部分が10年間に約
1 m、最大では10年間に4 m標高の高い場所へ移
動していたことが明らかとなった10)。日本では、富 士山の永久凍土の下限が22年間で100 m上昇した ことが報じられているものの11)、分布移動の正確な 報告例は少なく、10~20年前には分布記録のあっ たキバナシャクナゲ群落が消失した例12)などが報告 されているにすぎない。温暖化が進めば、標高が低 く、かろうじて高山植物の分布が見られる山岳で
「追い落とし現象」が顕著になり、最悪の場合には 地域的絶滅も危惧される。一方では、積雪量の減少 によって、高山におけるニホンジカの食圧・跡圧が 顕著となり、高山植物群落が壊滅的情況に陥ってい る地域が見られるようになった。また、ライチョウ やオコジョなどの高山性の動物に対しても、ニホン ジカのような低山性の動物の移動による影響が懸念 されている13)。
湿原植生は、気候の影響とともに、過湿または貧 栄養という土地条件の影響を強く受け、不連続・孤 立的に分布する植生である。霧が峰に発達する高層 湿原では1960~1974年の間に、やや乾燥した環境 に生育するハナゴケ類の群落が顕著に増加する一 方、ミズゴケ類の群落は減少した14)。また、湿原ド ームの成長が長期にわたって停止していることが示 唆され、温暖化による空中湿度の低下、蒸発散の増 大によってミズゴケの成長が抑制されたためと推定 されている15)。一方、多雪地の山岳の斜面や山頂に 成立する湿原や雪田植生は、積雪量の変化に対して 感受性が高い 。 群馬・新潟県境にある平ヶ岳頂上部 の湿原は、1971~2004年までの33年間で、湿原
面積が約10%縮小したことが航空写真から明らか
になった16)。湿原周辺はチシマザサ草原に変化して いたほか、ハイマツなど針葉樹が湿原へ侵入してい ることが確認され、近年の暖冬・少雪化によって湿 原が乾燥化したと考えられる。この傾向は温暖化に よって促進される可能性がある。温暖な地域の低地 に分布する湿原には、北方系の動植物が隔離分布し て生育することが多く、レフュージアとして機能し ている可能性が示唆されており、生物多様性保全の 面からも、重要な地域である。
関東地方以南の里山の雑木林は、本来は常緑樹林 が成立する温度域にあるが、人間の管理によって落 葉広葉樹が保たれてきた。近年の管理放棄は、常緑 樹林への変化を引き起こすが、そのプロセスは温暖 化で促進されると考えられる。春植物の多くは落葉 広葉樹林では生育できるが、常緑樹林では生育が難 しいだろう。また、モウソウチクやマダケが農地や 雑木林に侵入する例が関東南部以西で増えている。
拡大の直接原因は竹林に対する管理の低下である が、タケ類がもともと南方系の植物であるため、温 暖化によって分布拡大が進むと考えられている17)。 落葉樹林に常緑のタケが侵入し増加すると林冠が一 年中うっ閉するため、林床植物の群落や18)、土壌微 生物19)などにも影響する。
里山地域の森林では、樹木の病気が温暖化によっ て拡大する可能性も指摘されている。マツ材線虫病 は、アカマツ、クロマツ、リュウキュウマツなどを 枯らす。病原であるマツノザイセンチュウの媒介者、
マツノマダラカミキリの発育と分布は温度に規定さ れる20)。年平均気温が約11℃以上(西日本の平地な ど)では1年で成虫になり、それ以下の冷涼な地域(現
在の東北地方)では2年かかることが少なくない21)。 1960年代に西日本で始まった激害はこれまでに高 緯度、高標高方向に拡大を続け、現在は秋田・青森 県境~宮城・岩手県境に達している。
また、カシノナガキクイムシが運ぶ病原菌による、
ブナ科樹木萎凋枯死被害(ナラ枯れ)は1980年代に 顕在化し、その後、日本海側を中心に被害地が拡大 している。薪炭生産が減り、ナラやシイが大径木化 したことや、伐採木の放置が被害の誘引と考えられ ているが22)、カシノナガキクイムシの生活史が温度 条件の制約を受けるため、温度変化によって、被害 が北方あるいは高標高域へ拡大する可能性が高い。
5.2 淡水生物
淡水生態系は環境として不均質性が高く生息環境 も多様であるため、生物種も多様性に富んでいる。
一方、淡水域の種の絶滅速度は熱帯多雨林と同じ程 度に高く23)、生物多様性の観点からは重要な生態系 である。我が国においても、例えば2006~2007年 に公表されたレッドリストにおいて絶滅危惧I,II類 として掲載された動物1,002種のうち、50%以上は 生活の全て、あるいは一部を淡水生態系で行ってい る種である。
一般に、北方系の水生生物は水温20℃を超えると 生育にとって致命的となり、他の水生生物も水温が
40℃を超えると生存に危機的な状況となるため24)、
温暖化により分布域も大きく変化すると予測されて いるが25), 26)、我が国においてはその兆候はまだ十 分に把握されていない。しかし、スイスでは河川水 温が過去25年間で平均1℃上昇し、それにともな ってブラウントラウトの分布域も上流側へとシフ トした27)。また、中流域では、過去20年間で水温が 1.5℃上昇し、それにともなって、温水魚や本来下流 に生息していた水生昆虫が優占するようになった28)。 河畔林の存在は、遮光によって河川の水温上昇を防 止する効果があるが、知床半島では20~40年前に 伐採・植林した地域の河川で水温が高くなり、オシ ョロコマが分布しない事実があり29)、温暖化の適応 策としての河畔林保全の有効性を示唆している。
オオクチバスなどの侵略的侵入種のいくつかは、
温暖化により冬期の水温制限が取り除かれるため、
生息可能域が北方へ拡大する30)。それによって移動 先の在来生物の個体群にマイナスの影響を与えるこ とになる31)。ただし、純淡水魚であるため、人間が 移動させない限り、水系を超えた分布域の拡大は起 こらない。
5.3 海洋生物
温暖化によって、回遊性の動物(魚類、哺乳類、
カメなど)がその回遊ルートを変えている。また、
有毒渦べん毛藻類などの有毒性の植物プランクトン がその分布を極域方向に広げており、水産物の毒化 を広げる可能性がある。そのほかにも、ミズクラゲ、
カブトクラゲ、ヒョウモンダコ、ミドリイガイ、カ
ニ類など、多くの海洋生物の分布、生物量などに温 暖化の影響が現れているといわれている32)。エチゼ ンクラゲに代表されるクラゲの異常増加は、人工構 造物による繁殖場の供給、漁獲による競争する捕食 者の減少、流域環境の変化による好適な餌環境の出 現など人間活動の影響と、温暖化による繁殖場の拡 大が複合的に作用したと推定されている33)。そのほ かにも、海氷の分布や海水の鉛直的混合、海流の変 化などによって、食物連鎖構造が変化することで影 響を受ける生物は多いと考えられる。
5.4 沿岸域の生物
サンゴ礁の劣化は世界的に深刻な問題となってい る34), 35)。その原因は漁獲に伴う物理的破壊、有機 物や栄養塩の付加、埋立などの物理的改変、台風の 巨大化、オニヒトデの大量発生による食害など多岐 にわたるが、中でも高水温によるサンゴの白化と病 気の拡大が重要とされている13), 36)。一方では、サ ンゴの分布域の北上も顕在化しており37)、これらの ことが、サンゴ礁に生息する多くの生物の分布や生 態に影響している38)。
このまま温暖化が進行すると、海水中のpH低下 により炭酸カルシウム飽和度が低下し、サンゴや貝 類など石灰質の殻をもつ海洋生物の石灰化が妨げら れると危惧されているが39)、一方では、海水中の
pH、炭酸イオンの減少は、20年程度では大きな影
響を与えるほど急激には生じないとも予想されてい る。
干潟や磯などの潮間帯では、水温だけでなく干出 時の気温の影響も受けるため、温暖化の影響がより 顕著である40)。さまざまな沿岸性の海洋ベントスで 分布の北上が記録されており、岩礁潮間帯生物では 10年間に平均50 kmのペースで北進しているとす る報告もある41)。日本でも、干潟に生息する種の分 布北限が更新されるケースが、近年相次いでいる42)。 大阪湾や和歌山県田辺湾の干潟や藻場でも、過去数 十年間にわたる長期的な調査によって、南方種の増 加と北方種の減少が確認されている43)。一方、温暖 化によって海流の流動パターンが変化すると、沿岸 海洋生物の分散ステージにおいて、海流が障壁とな って分散が妨げられる可能性がある44)。
6.温暖化に対する脆弱性
このように見てくると、生物の種類によって、あ るいは生息環境によって温暖化の影響に対する脆弱 性が明らかになってくる。大場45)は、絶滅が危惧さ れる植物種として、1)地理的に分布が制限される種、
2)依存的でかつ生存力の低下した種、3)特殊な生育 環境に適応し特殊化した種、4)わずかな散布体しか 生産しない種、5)寿命が長く繁殖開始も遅い種、6)
一年生草本をあげている。また、生物多様性が温暖 化に対してとくに脆弱な環境として、1)山岳や高山、
2)島嶼や分断された磯海岸や砂浜など、3)特殊な環 境の立地、4)市街地の分断化された樹林などをあげ ている。
一般論としては、温度など環境変化に対して負の 応答の大きい因子(生物)が脆弱とされるが、種組成 や生物量が大きく変動するといった属性の不安定さ や、希少あるいは個体数の少ない生物は脆弱だとい える。したがって、分布の南限や垂直分布の下限、
降水量などの環境傾度の限界付近にある個体群や生 態系で脆弱性が高くなる。また、人間の影響によっ て個体群や生態系が分断化された場合には脆弱性が 増す。さらに少数の種の交代によって群集組成が大 きく変化する場合には脆弱性が高い。逆に、生態系 を構成する種が多少変化しても群集組成が変化しな い場合には、群集全体の生物多様性の脆弱性は小さ いといえるだろう。具体的には、高山、湿原、沿岸 域、貧栄養湖などの生態系における生物多様性は温 暖化に対する脆弱性が大きいといえる。
しかし、このような議論はまだ概論的で、脆弱性 を定量化して地図を作るというようなことは、特定 の個体群以外でまだほとんど例がない。欧州では、
植物分布データと気候データを用いて植物種の分布 予測が進んでおり、1,400種の分布予測を行って温 暖化にともなう潜在分布の変化から各地域の種多様 性の変化を予測している46)。 日本の生物多様性につ いても、このようなアプローチを進める必要がある だろう。
7.おわりに
温暖化が生物多様性に与える影響は、すでに顕在 化していると判断できる例もあるが、一方で、真に 温暖化の影響か否かに対する疑問が払拭しきれてい ないものも多い。複合的な影響によると考えられる 現象も多く、脆弱性の評価や適応策を難しくしてい る。これらの問題を解決するためには、科学的で長 期のモニタリングが欠かせない。一方で、さまざま な機関が収集してきた生物多様性データが、その存 在を知られぬまま埋もれている実態もあり、データ ベースの整備と公開も必要である。また、広域にわ たる現象も多いことから、地理情報システムとして の整備も重要である。さらに、種の分布や個体群動 態に関するモデルも、脆弱性の評価や適応策には重 要な役割を果たすが、これまでの多くが静的な分布 モデルであり、分布が平衡に達したことを前提とし たモデルであった。生物分布が変化してゆく過程を 前提としたモデルも開発してゆく必要がある。その 中には、撹乱や異常気象など、極端現象の影響につ いても考慮できるものが必要になるだろう。生息域 の分断化などを組み込んだ、不均質な景観を前提と したモデルが重要なことは言うまでもない。
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1956年、新潟県生まれ。千葉 大学卒。理学博士(大阪市立大学)。
森林総合研究所主任研究官、国際 農林水産業研究センター主任研究 官、京都大学生態学研究センター 教授、総合地球環境学研究所教授 を経て、東北大学生命科学研究科 教授(現職)。国際生物多様性研究計画(DIVERSITAS)科学委 員。専門は森林生態学、生物多様性科学で、温帯落葉広葉樹 林の動態と更新、熱帯林の動態、林冠生物学などを研究。主 な著書に、『モンスーンアジアの生物多様性(岩波書店、共 著)』、Diversity and Interaction in a Temperate Forest Community:
Ogawa Forest Reserve of Japan(Springer-Verlag、共編・共著)な ど。