平 成 1 8 年 度
機械産業に係る企業の公的負担が 企業活力に与える影響に関する
調査研究報告書
平 成 1 9 年 3 月
日機連18先端-8
日本機械工業連合会
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
http://keirin.jp/
財団法人 社団法人
企 業 活 力 研 究 所
序
我 が 国 機 械 工 業 に お け る 技 術 開 発 は 、 戦 後 、 既 存 技 術 の 改 良 改 善 に 注 力 す る こ と か ら 始 ま り 、 や が て 独 自 の 技 術 ・ 製 品 開 発 へ と 進 化 し 、 近 年 で は 、 科 学 分 野 に も 多 大 な 実 績 を あ げ る ま で に な っ て き て お り ま す 。
し か し な が ら 世 界 的 な メ ガ コ ン ペ テ ィ シ ョ ン の 進 展 に 伴 い 、 中 国 を 始 め と す る ア ジ ア 近 隣 諸 国 の 工 業 化 の 進 展 と 技 術 レ ベ ル の 向 上 、 さ ら に は ロ シ ア 、 イ ン ド な ど B R I C s 諸 国 の 追 い 上 げ が め ざ ま し い 中 で 、 我 が 国 機 械 工 業 は 生 産 拠 点 の 海 外 移 転 に よ る 空 洞 化 問 題 が 進 み 、 技 術 ・ も の づ く り 立 国 を 標 榜 す る 我 が 国 の 産 業 技 術 力 の 弱 体 化 な ど 将 来 に 対 す る 懸 念 が 台 頭 し て き て お り ま す 。
こ れ ら の 国 内 外 の 動 向 に 起 因 す る 諸 課 題 に 加 え 、 環 境 問 題 、 少 子 高 齢 化 社 会 対 策 等 、 今 後 解 決 を 迫 ら れ る 課 題 も 山 積 し て お り 、 こ の 課 題 の 解 決 に 向 け て 、 従 来 に も 増 し て ま す ま す 技 術 開 発 に 対 す る 期 待 は 高 ま っ て お り 、 機 械 業 界 を あ げ て 取 り 組 む 必 要 に 迫 ら れ て お り ま す 。
こ れ か ら の グ ロ ー バ ル な 技 術 開 発 競 争 の 中 で 、 我 が 国 が 勝 ち 残 っ て ゆ く た め に は こ の 力 を さ ら に 発 展 さ せ て 、 新 し い コ ン セ プ ト の 提 唱 や ブ レ ー ク ス ル ー に つ な が る 独 創 的 な 成 果 を 挙 げ 、 世 界 を リ ー ド す る 技 術 大 国 を 目 指 し て ゆ く 必 要 が あ り ま す 。 幸 い 機 械 工 業 の 各 企 業 に お け る 研 究 開 発 、 技 術 開 発 に か け る 意 気 込 み に か げ り は な く 、 方 向 を 見 極 め 、 ね ら い を 定 め た 開 発 に よ り 、 今 後 大 き な 成 果 に つ な が る も の と 確 信 い た し て お り ま す 。
こ う し た 背 景 に 鑑 み 、 当 会 で は 機 械 工 業 に 係 わ る 技 術 開 発 動 向 等 の 補 助 事 業 の テ ー マ の 一 つ と し て 、 財 団 法 人 企 業 活 力 研 究 所 に 「 機 械 産 業 に 係 る 企 業 の 公 的 負 担 が 企 業 活 力 に 与 え る 影 響 に 関 す る 調 査 研 究 」 を 調 査 委 託 い た し ま し た 。 本 報 告 書 は 、 こ の 研 究 成 果 で あ り 、 関 係 各 位 の ご 参 考 に 寄 与 す れ ば 幸 甚 で す 。
平 成 1 9 年 3 月
社 団 法 人 日 本 機 械 工 業 連 合 会 会 長 金 井 務
序
本 報 告 書 は 、 日 本 自 転 車 振 興 会 か ら 自 転 車 等 機 械 工 業 振 興 事 業 に 関 す る 補 助 金 の 交 付 を 受 け て 実 施 す る 「 平 成 1 8 年 度 機 械 工 業 に 係 る 技 術 開 発 動 向 等 の 調 査 研 究 補 助 事 業( 機 械 産 業 高 度 化 対 策 及 び 産 業 協 力 )」の 一 環 と し て 、財 団 法 人 企 業 活 力 研 究 所 が 受 託 し た 「 機 械 産 業 に 係 る 企 業 の 公 的 負 担 が 企 業 活 力 に 与 え る 影 響 に 関 す る 調 査 研 究 」 の 成 果 を 取 り ま と め た も の で あ る 。
経 済 の グ ロ ー バ ル 化 の 進 展 と 国 際 競 争 が 激 化 す る 近 年 、 日 本 経 済 の 国 際 競 争 力 の 低 下 が 重 大 な 懸 念 事 項 と な っ て い る 。 一 方 、 国 民 生 活 の 点 で は 、 少 子 高 齢 化 が 進 む 中 で の 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の あ り 方 に つ い て 論 議 さ れ て い る と こ ろ で あ る 。そ の よ う な 負 担 の 増 加 は 企 業 の 国 際 競 争 力 を 低 下 さ せ る だ け で な く 、 国 内 雇 用 に 対 し て も 悪 影 響 を 与 え る 可 能 性 も あ る 。 ま た 、 企 業 収 益 の 低 下 は 配 当 、賃 金 の 減 少 に 結 び つ く も の で あ り 、家 計 の 消 費 を 冷 え 込 ま せ る 恐 れ が あ る 。 こ の よ う な 背 景 を 踏 ま え 、 本 調 査 研 究 で は 個 別 企 業 の 財 務 デ ー タ を 用 い て 法 人 税 負 担 の 実 態 を 把 握 し 、 社 会 保 障 負 担 や 税 負 担 と い っ た 公 的 負 担 の 増 大 が 、 企 業 経 営 に 対 し て ど の よ う な 影 響 を 与 え る の か に つ い て 分 析 を 行 っ て い る 。
本 事 業 を 実 施 す る に 当 た り 、 格 別 の ご 指 導 を い た だ い た 経 済 産 業 省 経 済 産 業 政 策 局 企 業 行 動 課 に 対 し 、 心 か ら 謝 意 を 表 す る と と も に 、 本 報 告 書 が 、 我 が 国 企 業 の 発 展 に 貢 献 で き れ ば 幸 甚 で あ る 。
平 成 1 9 年 3 月
財 団 法 人 企 業 活 力 研 究 所 会 長 黒 田 眞
<目次>
第 1 章 日本と海外における企業公的負担の比較 1
第 1 節 法人税負担の国際比較 1
第 2 節 社会保障費負担の国際比較 9
第 2 章 法人税の転嫁と帰着に関する議論 15 第 1 節 法人税の転嫁と帰着とは 15
第 2 節 部分均衡論的分析 16
第 3 節 一般均衡論的分析 18
第 4 節 実証分析(K-Mモデルを中心に) 47 第 5 節 社会保障費の転嫁と帰着 57
第 3 章 企業財務データによる実証分析 59
第 1 節 法人税率について 59
第 2 節 仮説と分析方法について 61
第 3 節 統計データについて 62
第 4 節 基礎的財務データ 62
第 5 節 基礎的財務データの業界比較 65
第 6 節 法人税 67
第 7 節 法定実効税率による分析 73 第 8 節 税効果会計適用後税率による分析 77 第 9 節 実際支払税率による分析 81
第 4 章 分析結果のまとめ 85
第 1 節 法人税負担について 85
第 2 節 法人税の転嫁について 85
第 3 節 今後の検討課題 86
(参考資料) 87
第1章 日本と海外における企業公的負担の比較
企業活動のグローバル化が一層進展し国際競争が激化する近年、日本経済の国際競争力 の低下が重大な懸念事項となっている。その要因の一つとして、税や社会保障といった公 的制度が他の競争相手国に比較して制度上劣っている点が挙げられることが多い。一方で 国民生活の視点からは、少子高齢化が進む中での持続可能な社会保障制度のあり方につい て論議されているところである。これら企業の国際競争力の維持と社会保障制度という2 つの問題は無関係なものではなく、持続可能な社会保障制度を実現するためには、企業に 対して一層の社会保障負担を求めざるを得ないという意見もある。
しかし、そのような負担の増加は企業の国際競争力を低下させるだけでなく、国内雇用 に対しても悪影響を与える可能性もある。また、企業収益の低下は配当、賃金の減少に結 びつくものであり、家計の消費を冷え込ませる恐れがある。
このような問題意識を踏まえ、本年度、企業活力研究所においては、社会保障負担や税 負担といった公的負担が、企業の収益にどのような影響を与えるのかについて分析を行い、
あるべき公的負担のあり方について調査し検討を行うこととなった。本報告書では、まず、
日本と海外における企業の公的負担について比較しながら、現状の把握を行う。次に、実 際の企業負担について財務データを基に整理を行い、特に法人税の転嫁と帰着という問題 を考慮しながら実証分析を行っている。最後に、その分析結果を踏まえて、法人税や企業 の社会保障費負担が企業の競争力に与える影響について検討を行った。
第 1 節 法人税負担の国際比較
企業活動のボーダーレス化が進み、グローバルな事業展開を広げている企業にとって、
事業活動の拠点を選定する上で、その国の税負担は大きな要素のひとつである。企業の誘 致によって地域経済活動を活発化させ、雇用の拡大を図りたい各国政府の意向を反映し、
近年、法人税の引き下げ競争ともいうべき状況が起こっている。
昨年末には半導体大手エルピーダメモリが、台湾の優遇税制が決め手となって新工場の 建設を決定している。誘致合戦に敗れた形の我が国に関しては、企業を誘致するための優 遇制度が不十分であり、法人税負担も世界水準に照らして高いという指摘がある。これら の制度は、我が国企業の国際競争力を阻害するばかりでなく、国の競争力低下の大きな要 因になっていると考えられている。
税の公平性や負担のあり方という観点から、このような状況の是非について議論もある が、現実に企業は法人税負担の低い国や地域を新しい事業の拠点として選択し、企業の競 争力を何とか維持しようとしていることを踏まえれば、我が国の法人税負担を諸外国の水 準と同等なものにしていくことが、国の競争力維持という意味から避けて通れない選択肢 となってくる。
では、我が国の法人税制は、本当に企業に過大な負担を強いているのか。法人税は、諸 外国と比較して本当に高いのか。これまで多くの議論が繰り広げられており、まずは整理 してみたい。
法人税負担の国際比較を行う上で一般的に用いられる数値は「法定実効税率」である。
財務省HPから資料を引用したものが、次の図表1-1である。
<図表1-1:法人税実効税率の国際比較>
(注1) 上記の実効税率は、法人所得に対する租税負担の一部が損金算入されることを調整した上で、そ
れぞれの税率を合計したものである。
(注2) 日本の法人事業税については、外形標準課税の対象となる資本金1億円超の法人に適用される税 率を用いている。なお、このほか、付加価値割及び資本割が課される。
(注3) アメリカでは、一部の州・市で、法人所得課税のほか、支払い給与額等に対して課税される場合 がある。
(注4) ドイツの法人税は連邦と州の共有税(50:50)、付加税は連邦税である。なお、営業税は市町村税 であり、営業収益の 5%に対し、市町村ごとに異なる賦課率(デュッセルドルフは 450%)を乗じて 税額が算出される。
(注5) フランスでは、別途法人利益社会税(法人税額の 3.3%)が課され、法人利益社会税を含めた実効 税率は 34.43%となる(ただし、法人利益社会税の算定においては、法人税額から 76.3 万ユーロ の控除が行われるが、前記実効税率の計算にあたり当該控除は勘案されていない)。なお、法人所 得課税のほか、法人概算課税及び職業税(地方税)が課される。
(注6) カナダの連邦法人税の基本税率は 38%であるが、州法人税額控除(課税所得の 10%相当額)及び一 般法人税額控除(課税所得の 7%相当額)が控除されるため、税率は 21%となる。なお、付加税は 連邦税であり、連邦基本税率(38%)を用いて算出した額から、州法人税額控除を控除した後の額
の 4%が課される。また、州法人税の税率は業種により異なり、一部の業種では 12%となる。
(注7) イタリアの法人税は連邦税、生産活動税は州税である。なお、生産活動税の課税所得には人件費 及び支払利息等が含まれる。
(注8) 中国の法人税は中央政府と地方政府の共有税(原則として 60:40)である。
(財務省資料 法人所得課税の実効税率の国際比較(未定稿)より)
また、より多くの国を比較しているものが、2006 年時点では世界 86 カ国を対象に調査 を行っている、KPMG「世界法人税率の動向分析」である。その資料を基に、OECD30カ 国の法人実効税率についてまとめたものが、図表1-2に示すグラフである。日本の法人 実効税率は、最も高い税率となっていることが分かる。
多くのヨーロッパ諸国において法人課税は 30%以下であるのに対して、日本は米国とと もに40%を超える課税を行っている。一方で、アイルランドは過去約15年間にわたり、常 に新たな投資先として投資家を引きつけるべく政策を打ち出し、経済成長を遂げた代表国 として位置づけられている。アイルランドの法人税率は 1993 年当時の 40%から、今日の 12.5%まで徐々に引き下げられ、先進国の中で法人税率の最も低い国となった。また、ノル ウェー、スウェーデン、デンマークなどのスカンジナビア諸国も、法人税率の引き下げを 実施した期間中、高い経済成長を遂げている。これらの国々では、他国に先駆け80年代後 半から90年代初めにかけて、法人税税率の大幅な引き下げと税制の見直しを実施した。そ の効果、過去10 年間、これらの国々の経済成長率は世界のトップ10 に入る結果となって いると分析されている。なお、例外は米国のケースであり、常に40%という高い法人税率
<図表1-2:OECD実効税率の国際比較>
(KPMG「世界法人税率の動向分析」(2006)より作成)
12.5 16
18 19 19
24 25 26 27.5 27.5 28 28 28 29 29 29 29.6 29.63 30 30 30
33 33.3333.99 35 36.137.2538.34 40 40.69
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45
アイルランド ハンガリー アイスランド スロバキア ポーランド チェコ オーストリア フィンランド 韓国 ポルトガル スウェーデン デンマーク ノルウェー ギリシャ スイス メキシコ オランダ ルクセンブルク 英国 オーストラリア トルコ ニュージーランド フランス ベルギー スペイン カナダ イタリア ドイツ 米国 日本
%
でありながら、高い経済成長を維持している。
「日本の法人税負担は世界最高レベルにあって、企業は過重な負担を強いられており、
グローバルな競争で他国の大企業に対して大きなハンディを負っている。」という主張は、
ここまでの資料を見る限り、妥当性を持っていると考えられる。
では、わが国の法人税率は、このような世界的な法人税引き下げ競争に対して、どのよ うな対応を行ってきたのか整理してみる。財務省データ、政府税制調査会に提出されてい る資料を参照して、日本における法人税引き下げの経過を整理してみると、図表1-3、
図表1-4の通りである。ここでは国税のみを提示しているが、大幅な引き下げが行われ、
他の先進諸国との格差は解消してきたかのように見受けられる。
<図表1-3:我が国法人税率の推移>
(出典:財務省HP)
<図表1-4:各国の法人税率の推移>
(出典:政府税調資料)
しかし、上記の図表1-3、図表1-4は、いずれも国税についてのみ比較しているに 過ぎず、地方税を含めた比較である図表1-1、図表1-2で示した実態とは大きく乖離 している。地方税を含めた、法定実効税率の推移については、図表1-5にてOECD諸国 の平均税率との比較を行い、図表1-6にてG7各国の法人税率の推移を示している。
2006年には、OECD諸国法人税の平均税率はついに30%を割り込み、わが国との格差は 10%を越える状況にある。さらにG7各国も、米国を除いて法人税の引き下げを進めており、
特にドイツやイタリアの急激な法人税引き下げを受けて、わが国の法人税率は、諸外国と 比較し最も高い状況にある。
法人税引き下げや制度改革について、各国の具体的な施策を整理してみると、各国の法 人税改革の取り組みの背景には、EUの統合・拡大を契機とした欧州における法人税率の引 き下げ競争が存在している。EU15ヶ国ベースの法人実効税率(注:国と地方の法定税率を 単純に合算、地方税の損金算入分のみ調整)は、1997年の37.8%から2005年には30.1%
まで低下している。拡大後のEU加盟国ベースでは23.3%である。(ただしエストニアを除 く24ヶ国で計算)
まずドイツでは、シュレーダー政権の下、ドイツ経済の国際競争力強化、海外からの対 内投資促進、失業率低下等を目的とし企業の税負担軽減等を図る税制改革法が、2000年 7 月に成立した。これを受けて、2001年1月より、連邦の法人税率が40%から25%に大幅に 引き下げられた。この結果、国と地方を合わせた実効税率は 48.55%から 38.47%に引き下 げられた。
次にフランスの税制改革においては、法人税の税額を課税標準として課される税率3%の 付加税について(実効税率は34.33%)、雇用と投資の促進を目的として2005年1月から2 年間で段階的に廃止するとことなった。2005年1月から実効税率は33.83%に、2006年1 月からは33.33%になっている。さらに、中小企業に対する軽減税率を25%(2001年)か ら15%(2003年)に引き下げている。
北欧諸国では、資本所得と労働所得をそれぞれひとまとめにし、別々の税率を適用する という二元的所得課税が採用された。労働所得には累進税率が適用される一方、法人税を 含む資本所得には労働所得に対する最低税率と原則同水準に設定し、資本の国外逃避に配 慮したものとなっている。現行の法人税率は、スウェーデン28%、ノルウェー28%、デン マーク28%、フィンランド26%である。
さらにイギリスの税制改革では、2002年から中小企業に対する軽減税率を、5万ポンド 以下19%、1万ポンド以下9%に(それぞれ20%、10%から)引き下げた。
オランダの税制改革としては、法人税の基本税率を段階的に引き下げている。34.5%→
31.5%(2005年1月)→30.5%(2006年1月)→26.9%(2007年1月)。また中小企業向 けの軽減税率は20%に軽減された。さらに、オランダ法人が株式の5%以上を保有する子会 社からの配当・キャピタルゲイン等には法人税が免除される(資本参加免税)など、企業 の立地を税制面で優遇し企業誘致を進めている。
<図表1-5:OECD諸国の法人税(平均値)と我が国法人税の推移>
(KPMG「世界法人税率の動向分析」(2006)より作成)
OECD諸国の法人税平均値と日本の法人税の推移
28.75 40.69 42 42
日本 52.4
平均 37.99
34.07 30.60
20 30 40 50 60
1993年 2000年 2003年 2006年
%
<図表1-6:G7諸国の法人税推移>
(KPMG「世界法人税率の動向分析」(2006)より作成)
さらに、日本企業が新規立地先として検討する可能性が高いアジア諸国との比較を行っ たものが、次の図表1-7である。
ただし、中国については、国内企業に対する税率は、図表に示すとおり 33%であるが、
外国企業への優遇措置を取っており、外資系企業に対しては「二免三減」(会社設立後、黒 字に転換してから2年間は免税、その後3年は法定税率の半額)、あるいは経済特区内に設 立されたハイテク等特定産業の企業の所得税率を 15%にする等の大幅な各種優遇税制が認 められている。
また、韓国についても外国人投資促進法に基づく、外国人投資企業に認定された場合に は、国税の最長7年間の減免(5年間100%減免+2年間50%減免)、地方税の最長 15 年 間の減免(3年間100%減免+12年間50%減免)、関税の100%減免などの優遇措置が制度 化されている。
シンガポールについては、一定の要件を満たし、「地域統括本部(RHQ)」として政府の認 定を受けた企業は、海外からの適格収入に対して3 年間にわたり15%の軽減税率が適用さ れる。更に厳しい基準を満たす場合には「国際統括本部(IHQ)」として 5~20 年間 15%を 超える軽減税率が適用される。2005年以降税率が20%まで引き下げられており、積極的な 企業誘致を進めている。
G7法人税の推移
30 40.69 40
37.25 38.34
33.33 36.1
0 10 20 30 40 50 60 70
カナダ フランス ドイツ イタリア 日本 英国 米国
%
1993年 2000年 2006年
<図表1-7:アジア諸国と日本の法人税の推移>
(KPMG「世界法人税率の動向分析」(2006)より作成)
アジア諸国と日本の法人税の推移
33 33
中国, 33 33 日本, 51.6
40.69 42
42
27.5 30.8 29.7
韓国, 30.8
20 26 22
シンガポール, 26 20
30 40 50 60
1997年 2000年 2003年 2006年
%
第 2 節 社会保障費負担の国際比較
本節では企業の社会保障費負担について国際比較を行い、わが国における企業負担の特 徴を明らかにしたい。
まず、高木(2000)1では、企業保障について「企業がその従業員や家族のために行う生活 保障」であると定義し、これを法定福利費と法定外福利費に分類している。その構造を国 際的に比較してみることによって、我が国の企業福祉の特徴を明らかにしようとしている。
具体的には、欧米についてはEurostatと全米商工会議所のデータを用い、国内については 労働省と日経連のデータを使って、1975年と1992 年の比較と各国の福利厚生費に関する 類型化を試みている。
<図表1-8:社会保障費負担の類型>
(企業保障の国際比較 高木俊之より)
その結果、我が国の社会保障の特徴としては、法定外福利費の労働費用全般に対する比 率は欧米並みであるが、法定福利費については平均を大幅に下回っていることが明らかに なった。社会保障の類型については図表1-8のような分類がなされているが、法定福利 費も法定外福利費も高い「企業保障先進国」にプロットされた国は、ドイツ、フランスな ど西欧大陸諸国、「法定外福利優先」は自助主義が社会保障を抑制しがちなアメリカ、「企 業保障後進国」は社会保険や公的社会福祉サービスを優先するイギリス、デンマークなど、
という結果になった。我が国については、第三類型に属し法定福利費も法定外福利費も少 ない類型である。これは北欧諸国と同じ類型に属していることを意味するが、実は家族に よる福祉のウェイトが高い故に、このような結果となったと解釈されている。また、日本 における法定外福利費の比率は調査期間で減少しており、逆に法定福利費の割合は増加し ている。
法定福利費 大 法
定 外 福 利 費 大
③企業保障後進国
(イギリス、デンマーク、
日本等)
②法定外福利優先国
(アメリカ)
④法定福利優先国
①企業保障先進国
(ドイツ、フランス)
橘木(2005)では、法定福利厚生費の特に社会保険料の事業主負担について、以下のよ うに国際比較を行っている。
企業が負担する公的支出としては、法人税のほかに法定福利厚生費があるが、法人税が 企業の利益(益金)に課されるのに対し、法定福利厚生費は賃金支払額に課されるため、
事業主の社会保険負担と法人税率は算定ベースが異なり、そして負担感も微妙に異なる。
図表1-9は社会保険料負担の国際比較を行ったものであり、図表1-10は、このデー タをグラフ化したものである。ここで事業主の社会保険負担率とは、法律によって明記さ れている名目的負担率であり、純社会保険負担率とは、労働費用を加味した実質的な負担 率を意味している。
<図表1-9:社会保険料負担の国際比較①>
(橘木俊詔[2005] 「企業福祉の終焉」より)
<図表1-10:社会保険料負担の国際比較②>
(橘木俊詔[2005] 「企業福祉の終焉」より)
10%
11.1%
32,287
0%
5%
10%
15%
20%
25%
30%
35%
40%
45%
フィンラ ンド
フラ
ンス ドイツ オラ
ンダ
スウ ェーデ
ン
イギリ ス
アメ リカ
日本
0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000
事業主の社会保険負担率(%) 事業主の純社会保険負担率(%) 労働費用(ドル)
事業主の社会保 険負担率(%)
事業主の純社会
保険負担率(%) 労働費用(ドル)
フィンランド 20% 25.0% 35,513
フランス 29% 40.8% 32,856
ドイツ 17% 20.5% 42,197
オランダ 10% 11.1% 36,019
スウェーデン 25% 33.3% 33,345
イギリス 8% 8.7% 32,557
アメリカ 7% 7.5% 34,650
日本 10% 11.1% 32,287
事業主の社会保険負担については、日本は国際的に比較して低いグループに属している。
一般的に福祉国家と言われている北欧諸国は、フィンランド、スウェーデンなど 20%を越 える負担率である。さらに、福祉国家とは認識されていないフランスにおいては、名目負 担率が29%であり実質負担率では40%を超えている。この要因としては、フランスが社会 保険料負担に関して、労働者と事業者の負担割合を 20%:80%としていることが指摘され ている。我が国における労働者と事業者の負担割合は 50%:50%であり、他の先進国もこ れに近いが、フランスや北欧諸国においては、事業者負担の割合が高くなっている。
事業者負担と労働者負担の比率を比較したものが、次の図表1-11である。各国の社 会保険料率を人件費との比率で整理しているが、最も高いのはフランスであり 38%、ドイ ツ、イタリア、スウェーデンなどが負担率の高い国である。日本は19%と中位である。特 殊な国としては、デンマークが挙げられる。デンマークは福祉国家として知られているが、
その財源を社会保障費としてではなく税、主に付加価値税として徴収しており、社会保障 費の割合が低くなっている。
<図表1-11:社会保障負担率の国際比較>
(橘木俊詔[2005] 「企業福祉の終焉」より)
加えて社会保険料や手取り賃金などの合計である労働者の総労働コストで比較すると、
雇用コスト高が国際競争力の観点から深刻な問題となっているドイツを除き、先進国はあ
7% 9%
5%
7% 5%
11%
17% 19%
7% 9%
7%
8%
25%
29% 17% 10%
10%
7%
20%
25%
1% 11%
0%
5%
10%
15%
20%
25%
30%
35%
40%
イ ギ
リス
イ タ
リア
フ ラ
ンス ドイツ オランダ デンマーク ノルウェー
ス ウ
ェーデン フィンランド アメリカ 日本
社会保険料(労働者)
社会保険料(事業主)
デンでは、保険料率は極めて高いものの、労働者の手取り賃金が低いため、総労働コスト としては必ずしも高くなっていない。一方で日本は、手取り賃金の水準が国際的に最も高 く、社会保険料率が低くとも総労働コストは既に相当高い状態にある。所得税負担の見直 しも見込まれる中、社会保険料率が今後増大する場合、手取り賃金の減少か、労働コスト 高による競争力低下か、どちらかを迫られる可能性が高いと言わざるを得ない。
<図表1-12:労働者一人当たりの年間総労働コストの国際比較(2004年)>
期中平均為替レートで円換算、平均所得の労働者で比較
(OECD Taxing Wagesより作成)
さらに永野(2000)2では、日本の社会保障制度について1975年と1989年のデータを用い た国際比較を行うことによって、今後の見通しを分析している。
日本の社会保障負担額の水準は、アメリカ、イギリスなどとともに国際的には低負担国 に位置しており、高負担国としては、スウェーデン、デンマークなど北欧諸国が該当する。
調査期間における日本の社会保障負担の上昇率は極めて高く、今後、高負担国に加わって いくことが予測される。
社会保障の負担上昇率が高い国(スペイン、イタリア、ノルウェー、フィンランド)で は、社会保障財源が保険料負担から租税負担へと移行し、保険料負担も事業主から被保険 者へと配分変動が行われてきているが、唯一日本だけが保険料負担の強化へと動いている。
これは、企業が納める保険料の事業主負担部分、つまり法定福利費が他の諸国に比べて高 額化することを意味している。そして日本企業は、このような収益悪化要因を避けるため
2武川正吾・佐藤博樹[2000]「企業保障と社会保障」第8章 社会保障負担の国際比較 永野博之 431
552
473
500
459
406
0 100 200 300 400 500 600
フランス ドイツ 日本 スウェーデン イギリス アメリカ
万円(為替レート)
雇用主 社会保険料 被用者 社会保険料 所得税
手取り賃金
労働コスト
53%
49%
73%
52% 69%
70%
手取り賃金/労働コスト 431
552
473
500
459
406
0 100 200 300 400 500 600
フランス ドイツ 日本 スウェーデン イギリス アメリカ
万円(為替レート)
雇用主 社会保険料 被用者 社会保険料 所得税
手取り賃金
労働コスト
53%
49%
73%
52% 69%
70%
手取り賃金/労働コスト
に、社会保障財源を保険料率引き上げではなく税負担の拡大によって確保すべきだと考え ている。
最後に橘木(2003)では、こういった各国の社会保障制度の特徴について、その成り立 ちを踏まえて、次のような整理を行っている。
(以下引用)
『企業が福祉に関与する方式には 2 つの種類がある。それら法定福利厚生費(社会保 険料の企業主負担)、非法定福利厚生費(企業内福祉)の双方に関して、企業がどのよう な形で福祉に関与してきたか、なぜ福祉に取り組むようになったのか、19世紀末から20 世紀初頭にかけてのいくつかの先進国の歴史をたどってみた。さらに現代において、国 際比較の視点から、各国がどのような特色をもっているか。
第 1 に、産業革命以降多くの国で工業化が進んだが、一部の大企業の資本家はパター ナリズムに立脚して、従業員の福祉に熱心であった。企業も福祉に関与すべきとの思想 が一部に根づいていたことがわかる。これは後の時代になって、企業が法律によって強 制的に福祉に関与するような制度に発展することの土壌になっていた。
第 2 に、工業化の進展は労働者を過酷な労働に追い込んだ。労働者の意識の高まりと 労働組合の形成、そして社会主義思想の台頭によって、労働条件の向上や労働者の権利 獲得をめぐって資本家との対決姿勢が高まった。労働側の要求に対して、国による温度 差、産業による差、企業規模の差、等はあったが、企業側も福祉向上に一定の理解を示 した。
第3に、企業側が福祉に取り組む動機はさまざまである。1つには、福祉の向上は労働 者の勤労意欲を高めるのに役立つとする、いわば労務管理上の目的がある。2つには、本 心をいえば、福祉のために企業負担を進んで拠出するものではないが、時の政府が法律 で負担を求めてくるので、仕方なく受け入れるというものである。
第4に、第3の点に関連して、前者の動機は非法定福利厚生の解釈として有効であり、
アメリカや日本の大企業による福祉資本主義につながる。後者の動機は法定福利厚生費 への企業負担が、なぜ広まったかを説明するものであり、イギリスのベヴァリッジ報告 が倫理的な基礎になっている。
第 5 に、非法定福利厚生と法定福利厚生は対象とする労働者が異なることに留意した い。すなわち、前者ではその企業に勤務する労働者のみにベネフィットが及ぶのに対し て、後者では、財政負担を担うものの、そのベネフィットは匿名のその国の全労働者な いし全国民が受ける。企業の立場からすれば、前者への拠出は労務管理上役立つと判断 するが、後者への拠出は渋々受け入れる側面がある。しかし後者であっても、企業が社 会の構成員として公共政策に積極的に貢献する必要がある、という自覚さえあれば、あ ながち“渋々”とはいえない。そこには、「企業は社会の公器である」との理解が背後に あるとみなせる。
第 6 に、非法定福利厚生は企業の支払能力に依存するので、サービスを受ける労働者 によってその格差が大きく異なる。日本はアメリカとともに、企業の規模に応じて企業 内福祉に大きな差があることはよく知られている。この不公平を除去するには、非法定
さらに公平性を保つには、財源を国民から税収に求めて、福祉サービスはどの職業とか、
どの企業に勤務しているとかの差がなく、すべての人が同質の福祉サービスを受けるの がよい、という考え方もありうる。
ここで述べた 6 つの結論は、国際比較から次のようにまとめられる。北欧諸国の福祉 水準は高く、日本、アメリカ、スイスは逆に低い。他の諸国は中レベルとみなせる。た だし、福祉のレベルは公共部門の提供するものだけを念頭においているので、日本が総 合的に見て極端に低かったとは断定できない。日本とアメリカは家族(日本)と企業の 非法定福利厚生(アメリカ)がそれを補完しているのである。
負担をどの方法で行なっているかに関しては、税が中心と社会保険料が中心の国があ ってさまざまである。社会保険料も企業と被保険者の負担割合は一様ではない。負担の 方法は国によって大きく異なるといってよい。
企業の役割に注目すれば、企業の社会保険料の負担が大きい国は、デンマークを除い た北欧諸国とドイツ、フランス、イタリアの大陸ヨーロッパ、ということになる。それ が逆に低いのは主要国のなかで日本、イギリス、アメリカである。ただし、アメリカは 非法定福利厚生費が相当高いので、企業の役割はそう小さくない。
最後に、まとめの意味で、日本に関する結論を述べておこう。わが国の企業は法定福 利としての保険料の事業主負担と、非法定福利厚生費は諸外国と比較して低い。ただし、
非法定福利厚生費は大企業に限定すればそう低くはない。』
第2章 法人税の転嫁と帰着に関する議論
本章では、企業の法人税や社会保障費などの公的負担についての考察を深めるために、
その負担が実際はどこに帰属しているのか、つまり転嫁と帰着の問題について、先行する 論文を整理していく。
第 1 節 法人税の転嫁と帰着とは
租税負担が経済全体でどのように配分され、最終的に所得分配にどのような変化をもた らすかを見極めることは容易ではない。財政理論では、伝統的にこの問題に対して転嫁と 帰着の概念によって分析を行ってきた。
まず、転嫁とは通常、法律上の納税義務者が何らかの方法で課税により負担を他の人々 に移しかえることを言う。例えば酒税に関しては、酒やビールの製造業者は、その価格の 50%以上を占める酒税を、ほぼ卸売価格に含めて卸売業者に負担させている、すなわち税は 転嫁されている。また、消費税はほとんどの財・サービスに一律に課される税であり、法 律上も円滑かつ適正に転嫁すべきものとされている。転嫁がどのように行われるかは、一 般的には経済的な条件に依存する。
一方で帰着とは、租税負担の最終的な帰属を指しており、先の酒税のケースにおける税 負担は、卸売業者から小売業者に転嫁され、小売業者から消費者に転嫁され、最終的には 消費者にほぼ帰着している、とみられる。転嫁は常に100%行われるとは限らず、一部分が 転嫁されるというケースも少なくない。また最終的な帰着も複数の人々に分散して負担さ れるということもある。税の帰着を正確に捉えるには、税を課したことによる影響が、経 済全体に波及する効果を見極める必要がある。
法人所得税の転嫁について考える前に、法人の性格について整理すると、法人擬制説と 法人実在説の2つの立場から議論がなされてきている。このいずれを採用しても、法人所 得税の転嫁の問題は、政策的に重要な意味を持つ。法人実在説のもとでは個人所得税と同 様に累進税を法人に課すことが理論的にも容認されるが、大企業が、最終的にその法人税 を負担するとは断定できない。大企業に累進的に課税することは、転嫁が無い場合に初め て意味を持つ。一方で法人擬制説をとる場合には、法人に対する課税とは転嫁されようが 転嫁されまいが、自然人に対する課税に他ならない。公平の原則とは、租税が最終的に帰 着した状態での負担を議論しなければ意味が無い。
また、法人所得に対する課税が転嫁されるならば、インフレ抑制効果を期待した法人税 の引き上げは、法人税が前方転嫁されるならば、インフレ昂進に寄与してしまう。
法人税転嫁の伝統的概念としては、セリグマン(1927)があげられる。これは租税転嫁論の 古典的権威であるが、基本的な用語および概念を次のように設定している。まず、shifting とは租税が移転する過程を指し、incidence
ように、法人所得税の衝撃(impact)を受けた法人が、その負担を他者に移転するのか、
するとすればどの程度であるかを明らかにしようとしている。
<図表2-1:租税の転嫁と帰着の伝統的概念>
(林正寿「法人所得課税論」p.223より)
課せられた租税負担をその経済主体から他の経済主体へと移転する過程を輾転と呼び、
輾転された租税負担が最終的に何者かに落ち着くことを、租税の帰着という。一般的には、
この輾転と帰着をあわせて、税の転嫁という。
さらに転嫁の形態としては以下のような区分がされている。
前転:租税の負担が財・サービスの取引関係における前位者より後位者へ移転される 現象。つまり、販売者より購買者へ移転する形。
後転:同様に後位者より前位者へ、つまり、購買者より販売者へ移転される現象。
消転:課税によって商品価格への変化が起きず、生産費を低下させるなどによってか 税額を吸収する形。
還元:課税対象の価格が、その課税対象に対する将来にわたる課税額を資本還元した 額だけ低下し、結果的に販売者が購買者の将来の累積税務負担を負うことにな る現象。
第 2 節 部分均衡論的分析
法人税の転嫁に関する主な学説としては、大きく分けて部分均衡論的分析と一般均衡論 的分析とがある。
部分均衡論的分析においては、Rグードが、「法人税は短期的にみると消費者や賃金労働 者よりも、主として会社とその株主に帰着する。法人税は独占市場であるか競争市場であ るかに関わらず、一定の設備のもとで創業している企業に最大の利潤をもたらす生産量に 変化を与えない。」とし、転嫁を否定している。
租税の転嫁と帰着の伝統的概念
生産要素 生産者 卸売商 小売商 消費者
課税の衝撃
更転 後転 前転 更転
Rグードは、法人税の短期的転嫁を否定する理由として、①法人はあらかじめ売上高、
原価、法人税負担を推測しているか。②前期の税額を当期にて回復する価格設定を行いう るか。③法人間で所得額に差があったり、法人税が課されない形態で事業を行ったりする 場合、大きい所得ゆえに大きい価格引き上げを行う企業は価格競争に不利になる。また、
一般的に法人税率が引き上げられるのは好況期、インフレ期であるが、この時期には大幅 な賃金上昇も同時に起こり、さらに大幅な利益増加も生じるというメカニズムにある。一 方で、法人税が引き下げられる局面とは、景気後退期や不況期であるが、このような時期 には賃金の下方硬直性ゆえに製品価格の下方調整は起こってこない。と主張している。
一方で、J.F.デューは、「完全競争や完全独占よりも、不完全競争を前提とするモデルの 方が、実際の市場の現実に近い。このような不完全競争のフレームワークの下では、価格 決定に際してマークアップ方式の採用等、いくつかの前提をおけば、製品価格の上昇とい う形で、少なくとも部分的には法人税の前転が生じるモデルを考えることができる。」とし て、転嫁を肯定している。
法人税の部分均衡論的分析についてまとめると、まず、法人税は法人という形態をとっ ている企業の利潤に対する課税であるから、完全競争下あるいは純粋独占下の短期の企業 の価格や産出量に影響を及ぼすことはない。つまり、完全競争下あるいは純粋独占下の企 業にとっては、法人税が課されたからといって法人税が課税されないときに決定された均 衡産出量(独占の場合は価格)を変更する理由は無い。税引後利潤極大産出量と税引前利 潤極大産出量が均しいことから、この均衡状態を変更することによって税引後利潤を増加 させる余地が無いからである。従って、法人税はこの限りでは転嫁されない、という結論 が法人税に関する古典的結論である。
しかし、企業が実際の市場において利潤極大化を目的に行動していないとすれば、この 帰結は修正される。例えば純粋独占市場における場合、企業が独占禁止法の適用を避けよ うとしたり、労働組合からの賃上げ要求を避けようとしたりする場合、さらには潜在的な 参入企業を牽制しようと考えた場合、製品価格を高く設定して市場支配力を100%行使する という行動を選択しないかもしれない。つまり、このようなときに独占企業は、価格を低 めに設定し独占利潤をそのまま実現しないこととなるが、法人税が課税されると利潤減少 の穴埋めに製品価格を引き上げることとなり、税の転嫁が生じる。
また、企業が独占的競争あるいは不完全競争の下で行動しているとき、企業がマークア ップ原理に従って行動すると転嫁が生じる。マークアップ原理とは、企業がコストに一定 のマージンを加えた水準に販売価格を設定することをいう。この原理に従って、企業が税 引後マージンを一定にするように行動すれば、法人税率分だけ販売価格が引き上げられる ことになり、100%に近い前方転嫁が生じる。ざらに、企業が税をコストとみなして、課税 前と同じマージンで販売価格を設定するならば、100%を超える税の前方転嫁が生じること になる。
第 3 節 一般均衡論的分析
法人税転嫁の有無については、複雑な様相を呈し現在でも意見の一致を得られていない。
法人税のように経済全体に広範な影響を及ぼす税を分析する場合、部分均衡分析では十分 な分析を行うことが難しい。部分均衡分析は、租税の転嫁と帰着を分析する上で、複数の 市場に波及する課税の効果を十分に把握できないという弱点を持っているのである。つま り、課税に伴って製品市場と生産要素市場に起こる変化を、市場間の相互依存関係を明示 的に取り入れて扱うことが困難であり、さらに、税収の使途が分配面や総需要の変化に与 える影響を分析することも難しい。
そこで、様々な変数の相互依存関係を取り入れた一般均衡分析の手法が不可欠であると の主張が多く展開されてきたが、これに最初に取り組んだのが A.C.ハーバガー(1962)であ る。後述するが、A.C.ハーバガーは、「法人税の帰着を分析するためのモデルとして、①経 済は法人・非法人の二部門にて形成されている。②生産要素は所与の労働と資本であり完 全雇用が常に達成されている。③完全競争市場である。という前提において、法人部門に 投資された資本方の所得に課税されれば、資本は法人部門から非法人部門に移動し、この 移動は両部門における資本の税引後収益率が均衡するまで行われる。この結果、法人所得 税は長期的にみて、法人部門のみならず非法人部門も含めた企業に対して投資を行う投資 家一般により負担される。」と結論しており、静学的帰着論といわれる。
一方で、動学的帰着論として整理されている主張として、まずM.フェルドスタインは、
「資本の存在量と労働力が変化し、経済全体の貯蓄率は税引後収益率に依存するとすれば、
法人税は貯蓄率を下げ、長期的には資本蓄積を減少させ、賃金所得の上昇を抑制する可能 性がある。」としている。しかし、J.E.スティグリッツは「借入による資金調達の可能性と 支払利子の損金算入を考慮すれば、法人税は投資決定に影響を与えない。」と主張している。
では、以下に A.C.ハーバガーによって最初に論じられた、法人税の転嫁と帰着に関する 一般均衡分析の概要について、林正寿(1991)3 を参照し整理してみる。
ハーバガーの確立した一般均衡モデルは、先に述べた複雑な市場間の相互依存関係を明 示的に説明し、様々な市場の変化を分析している。そして、法人所得税のみならず、あら ゆる租税の転嫁および帰着の分析をも可能にした。以下は、部分均衡分析ではカバーする ことができない、いくつかの市場間の経済波及効果を把握する、一般均衡分析の数値例に よる解説である。
3 林正寿(1991)「法人所得課税論」同文舘出版 10章
ハーバガー・モデルの仮定
a)経済は法人部門X、非法人部門Yからなる。
b)2つの財、X財は法人部門、Y財は非法人部門より生産される。
c)生産関数は2部門とも一次同次を仮定するから規模に関して収穫一定である。
d)生産要素は資本と労働の2要素からなる。
e)生産要素市場と製品市場は、ともに競争的である。
f)生産要素の資本および労働の経済全体の総量は課税によって影響されない。
g)資本量は一定だが、課税効果が各種市場に浸透し均衡が達成されるのに十分な時 間経過後の効果を分析する。
h)課税によって生じるはずの両部門製品に対する民間需要の変化を相殺するように 政府の税制による支出が行われる。
i)完全雇用であり、法人部門の需要が決まれば非法人部門の需要も同時に決まる。
使用する記号の意味 X:法人部門の生産物 Y:非法人部門の生産物 PX:Xの価格
PY:Yの価格
LX:法人部門の労働量 LY:非法人部門の労働量 KX:法人部門の資本量 KY:非法人部門の資本量 PL:労働の価格
PK:資本の価格
PKX:X部門の税引後資本の価格 PKY:Y部門の税引後資本の価格 PLX:X部門の税引後の労働価格 PLY:Y部門の税引後の労働価格
ただし、各生産要素の2部門間の移動性が完全であるならば、
資本の場合 PKX=PKY=PK
(一定の時間を経過後、2部門の税引後資本の価格は同一になる。)
P*KX:X部門の税引前資本価格
ただし、X部門の資本収益に対して適用される税率がtKXであるならば、
PKX=P*KX(1-tKX) a:法人部門の資本分配率
(1-a):法人部門の労働分配率 b:非法人部門の資本分配率
(1-b):非法人部門の労働分配率
Z:経済全体の所得(名目額で一定に維持されると仮定)
基本的な設定条件
≪生産関数≫
一般的なコブ・ダグラス型生産関数として、X、Yの生産関数を示すと Xの生産関数 X=AKXaLX1-a
Yの生産関数 Y=BKYbLY1-b
≪経済全体の労働量と資本量≫
労働量と資本量は一定として仮定されるから LX+LY=L
KX+KY=K
≪生産面のモデル≫
資本量×税引前資本価格=資本分配率×生産物X×Xの価格
各産業において、各生産要素は生産物の価値の一定割合の分配を受ける。
KXP*KX=aXPX
LXP*LX=(1-a)XPX KYP*KY=bYPY
LYP*LY=(1-b)YPY
≪課税のモデル≫
経済全体の所得は、課税の無い場合、生産物X×X価格+生産物Y×Y価格 Z=XPX+YPY
tKXの課税が行われた場合、資本価格+労働価格+税率×X資本量×税前資本価格 Z=(KX+KY)PK+(LX+LY)PL+tKXKXP*KX
≪需要のモデル≫
各財に対する需要の割合は一定と仮定されており、X財に対する需要をcとするとY 財に対する需要は(1-c)となる。
XPX=c(XPX+YPY)
YPY=(1-c)(XPX+YPY)
以上の前提を踏まえて、林(1991)では、マクレーア(1975)に従って数値例を用いた一般均 衡分析の説明を行っている。
具体的数値を設定した経済条件
国民所得$2,400はX産業、Y産業にて各$1,200ずつ産出
市場全体の労働分配率は60%(1,440/2,400)、資本分配率は40%(960/2,400)
X産業は資本集約的で、資本分配率は60%(720/1,200)、労働分配率は40%(480/1,200)
Y産業は労働集約的で、資本分配率は20%(240/1,200)、労働分配率は80%(960/1,200)
≪課税前の均衡状態≫
課税前の均衡状態における各要素の単価は全て$1 PX=$1,200:生産物Xの価格
PY=$1,200:生産物Yの価格 PK=$960 :総資本の価格 PL=$1,440 :総労働の価格
課税前の均衡状態における生産単位、要素単位の量は、
X:X財の産出量 1,200単位 Y:Y財の産出量 1,200単位 K:資本の分配所得量 960単位 L:労働の分配所得量 1,440単位
<図表2-2:課税の無い状態での資本及び労働の所得分配>
生産要素 産業部門
X
産業部門 Y
要素所得合計 X+Y
(価格) $480 $960 $1,440 労働L (単位量) 480 960 1,440
(価格) $720 $240 $960
資本K (単位量) 720 240 960
$1,200 $1,200 $2,400 合計 (価格)
(単位量) 1,200 1,200 2,400
<図表2-3>
資本X, 720 資本Y, 240
労働Y, 960
労働X, 480
課税の無い状態での資本・労働の所得分配
X部門 生産物価値:$1,200 Y部門 生産物価値:$1,200
総資本:$960
総労働:$1,440
1) X部門に法人所得税50%を課税(税の衝撃)、Y部門は非課税 2) 課税後のX部門資本は、$720×50%=$360
3) X部門の投資家は収益率の高いY部門へ、両部門の収益率が均衡するまで移動 4) 経済全体の資本量は960単位で一定だが、税引後資本収益額600につき、
税引後資本の1単位は 0.625(=600/960)
5) X部門の資本量は、資本額360につき576単位(=360/0.625)
6) Y部門の資本量は、資本額240につき384単位(=240/0.625)
7) 資本Xの税引前単価は、@0.625×100/50=@1.25→1.25×576単位=$720 8) 資本Yの税引前単価は、@0.625→0.625×384単位=$240
<図表2-4>
<図表2-5>
労働X, 480 労働Y, 960
資本Y, 240 税引後資本X,
720($360)
課税直後の状態
X部門の資本が全ての税負担を負う。
資本量は720単位、資本額は360 よってX部門資本単価は$0.5に低下
資本X, 720 資本Y, 240
労働Y, 960
労働X, 480
資本Xに対し50%の課税を行った状態
法人税($360) 法人税($360)
法人所得税$360が政府へ
ケース1:X部門の資本収益に対する課税が経済全体に与える影響
<図表2-6>
<図表2-7>
<図表2-8:課税後の均衡状態における資本及び労働の所得分配>
生産要素 産業部門
X
産業部門 Y
要素所得合計 X+Y
(価格) $480 $960 $1,440 労働L (単位量) 480 960 1,440
(価格) $720(@1.25) $240(@0.625) $960 税引前資本K
(単位量) 576 384 960
(価格) $360(@0.625) $240(@0.625) $600(@0.625)
(政府へ)$360 $360
税引後資本K
(単位量) 576 384 960
資本が移動した状態
労働X, 480 労働Y, 960
税引後総資本量
(X+Y), 960
資本はY部門へ移動し、経済全体の資本単価が均一に 資本単価$0.625=資本額600/資本量960
労働X、480 労働Y、960
税引後資本Y, 384($240)
税引後資本X, 576($360)
課税後の資本移動が終了した状態
法人所得税は、X・Y両部門の資本が負担する。
資本の受ける報酬は、1単位当り$1→$0.625
労働は課税の影響を受けない。
≪財の生産量と価格への影響≫
租税は生産要素の価格を変化させると同時に製品価格にも影響を与える。そして、その 変動は、各消費者集団の実質的な所得への変化をもたらし帰着する。価格の上昇した製品 を相対的に大量に消費する消費者にとっては、実質所得が低下したことを意味し、逆に価 格の低下した製品を相対的に大量消費する消費者は、実質所得の増大という利得を享受す ることとなるのである。
製品価格の変化については、仮定より各製品に対する支出総額は一定とされているから、
各製品に対する支出総額を、課税後の経済調整の結果を受けた生産量で割ることによって 算出できる。X財の産出量の変化は下記によって示すことができる。
X X X
X
L
+(1-a)
ΔL K=a
ΔK X ΔX1) 右辺第1項:資本量720、資本量変化 576-720=-144 2) 右辺第2項:X財の当初労働量480は不変→0
3) X財の生産量は、資本量の変化分だけ減少するから、
当初生産量1,200×(1-144/1,200)=1,056(新生産量)
4) Y財の当初資本量240、資本量変化 384-240=144 5) Y財の当初労働量960は不変
6) Y財の生産量は、資本量の変化分だけ増加するから、
当初生産量1,200×(1+144/1,200)=1,344(新生産量)
7) 各製品に対する支出総額は一定と仮定されていることから、
各製品に対する支出総額を課税後の経済調整後の各製品の産出量で 割ることによって算出する。
新しいX財の価格 PX′:$1,200/1,056=$1.1364(13.61%▲)
新しいY財の価格 PY′:$1,200/1,344=$0.8929(10.71%▼)
≪課税後の均衡状態≫
課税後の均衡状態における各要素の価格および単価 生産物Xの価格 PX=$1,200(@1.1364) 生産物Yの価格 PY=$1,200(@0.8929) 税引後資本の価格 PK=$600(@0.625) 労働の価格 PL=$1,440(@1) 課税後の均衡状態における生産量、要素量
X財の産出量 X:1,056単位 Y財の産出量 Y:1,344単位 資本の分配所得量 K: 960単位 労働の分配所得量 L:1,440単位
<図表2-9:課税による財の生産量と価格の変化>
生産要素 産業部門
X
産業部門 Y
要素所得合計 X+Y
(価格) $1,200 $1,200 $2,400
(単位量) 1,200 1,200 2,400 課税前
(単価) @1 @1
(価格) $1,200 $1,200 $2,400
(単位量) 1,056 1,344 2,400 課税後
(単価) @1.1364 @0.8929
<図表2-10:課税による財の生産量の減少>
<図表2-11:生産量の減少と価格の上昇>
当初資本X, 720
労働X、480 労働X、480
税引後資本X, 576($360)
生産量減少 1,200⇒1,056
$0.85
$0.90
$0.95
$1.00
$1.05
$1.10
$1.15
1040 1060 1080 1100 1120 1140 1160 1180 1200 1220 X財生産量
X 財 価
格 価格上昇