遅延微分方程式の安定性と振動性
Stability and oscillation for delay differential equations
関数方程式研究室
BV15052
中原 愼二 指導教員 竹内 慎吾 教授1
はじめに微分方程式で表される数理モデルの中には
,
関数の 過去の値が現在の値の変化の仕方を決めているものが ある. このような数理モデルの微分方程式は時間遅れ をもつといわれ,遅延微分方程式と呼ぶ. 本研究は遅延 微分方程式の解の挙動について, [1]を中心にまとめた ものである.
2
時間遅れの影響微分方程式に時間遅れを与えると, 解の挙動にどの ような変化が起こるかを調べる
.
微分方程式x
′(t) = − x(t − r)
の解
x(t)
を,r ≥ 0
を変えながらグラフにした. この作業には
Mathematica
のNDsolve
を使用した.2 4 6 8
t
-2 -1 1 2 x
t ≤ 0
では初期関数ϕ(t) = e
−tとして,x(t)
の解のグ ラフを0 ≤ t ≤ 8
の範囲で描いた. r = 0, 0.5, 1.0, 1.4
として,順に赤,緑,青,黒のグラフを得た.r = 0
ではx(t)
は単調に減少し,t → ∞
のとき0
に収束している. しかし,r > 0
ではx(t)
は単調減少 ではなくなり,増減を繰り返している.r
が大きくなる とx(t)
の増減の幅も大きくなっている.
このように,
時間遅れr
の値がx(t)
の動きに様々な影響を与えて いることが見てとれる.
3
特性方程式x(t)
をN
次元ベクトル値関数として,
x
′= − Ax(t − r) (A
はN
次実定数行列, r >0) (1)
がx(t) = be
λt(b
は0
でないN
次定数ベクトル,λ ∈ C )
の形の解をもつとする.
方程式(1)
にx(t) = be
λt を代入するとbλe
λt= − Abe
λ(t−r) となり,この式から得られるdet(λI + Ae
−λr) = 0 (I
はN
次単位行列) (2)
を(1)
の特性方程式とよぶ.4
安定性と振動性の定義初期時刻
t
0≥ 0
とし,
初期関数ϕ(s) (t
0− r ≤ s ≤ t
0)
をN
次元ベクトル値関数とする.t
0≤ t ≤ t
0+ r
の ときx
′(t) = − Aϕ(t − r),
かつt
0− r ≤ s ≤ t
0のときx(s) = ϕ(s)
となるような(1)
の解をx = x(t; t
0, ϕ)
と表す.
x(t) = 0
は(1)
の解であり, 零解という. まず
,
零解の安定性を定義する.
定義1. ∥ ϕ ∥ = sup | ϕ(s) |
とする.(i)
方程式(1)
の零解が一様安定とは,任意のε > 0
に 対して,
あるδ(ε) > 0
が存在し,
以下が成り立つとき である.∥ ϕ ∥ < δ(ε) ⇒ | x(t; t
0, ϕ) | < ε (t ≥ t
0).
(ii)
方程式(1)
の零解が一様吸収的とは,
あるδ
0> 0
が存在し,任意のε > 0
に対して,T (ε) > 0
が存在し, 以下が成り立つときである.∥ ϕ ∥ < δ
0⇒ | x(t; t
0, ϕ) | < ε (t ≥ t
0+ T (ε)).
(iii)
方程式(1)
の零解が一様漸近安定とは,(i) (ii)
を 同時に満たしているときである.次に解の振動性を定義する
.
定義
2.
方程式(1)
の解x(t)
が振動的とは,x(t)
の 成分x
k(t) (k = 1, 2, . . . , N )
について,x
k(t
n) = 0, t
n→ ∞ (n → ∞ )
を満たす数列{ t
n}
が存在する ことである.安定性と特性方程式について
,
次の定理が成り立つ.
定理3.
方程式(1)
の零解が一様漸近安定⇔
特性方程式(2)
のすべての根λ
に対しRe λ < 0.
また
,
振動性と特性方程式について,
次の定理が成り 立つ.定理
4.
方程式(1)
の任意の解が振動的⇔
特性方程式(2)
が実根をもたない.5 N = 1
の場合方程式
x
′(t) = − ax(t − r) (a ∈ R , r > 0) (3)
について, 定理3, 4
での特性方程式の条件をa, r
の 条件に置き換えた次の定理が成り立つ.
定理
5.
方程式(3)
の零解が一様漸近安定⇔ 0 < ar < π 2 .
定理
6.
方程式(3)
の任意の解が振動的⇔ ar > 1 e .
これらの定理により方程式(3)
にa
とr
が与えられ れば,
すぐに一様漸近安定や振動的であるかが判別で きる.6 N = 2
の場合方程式
x
′(t) = − Ax(t − r) (A
は2
次実定数行列, r >0) (4)
について, A
の固有値は, (I) 2
つの実数a
1とa
2, (II)
複素数
ρ(cos θ ± i sin θ)
のどちらかである. ここでは0 < | θ | < π
2 , ρ ∈ R , ρ ̸ = 0
とする. それぞれ適切なP
をとることで, (I)
のときP
−1AP = (
a
1b 0 a
2)
(b ∈ R ),
(II)
のときP
−1AP = ρ (
cos θ − sin θ sin θ cos θ
)
とすることができる. ここで
x = P y
となるy
をと るとy
′(t) = P
−1x
′(t) = − P
−1Ax(t − r) = − P
−1AP y(t − r)
という方程式が与えられる. 改めてy(t)
をx(t)
に書 き換えると,
(I) x
′(t) = − (
a
1b 0 a
2)
x(t − r) (5)
と
(II) x
′(t) = − ρ (
cos θ − sin θ sin θ cos θ
)
x(t − r) (6)
になる.これらの特性方程式はそれぞれ(λ + a
1e
−λr)(λ + a
2e
−λr) = 0,
(λ + ρe
−λr+iθ)(λ + ρe
−λr−iθ) = 0 (7)
である.
定理3, 4
より,
方程式(5)
について特性方程 式の条件をa
1, a
2, r
の条件に置き換えた安定性と振 動性の定理が成り立つ.
また,
定理3
より,
方程式(6)
ついて特性方程式の条件をρ, r
の条件に置き換えた 安定性の定理が成り立つ.定理
7.
方程式(5)
の零解が一様漸近安定⇔ 0 < a
1r < π
2
かつ0 < a
2r < π 2 .
定理8.
方程式(5)
の任意の解が振動的⇔ a
1r > 1
e
かつa
2r > 1 e .
定理
9.
方程式(6)
の零解が一様漸近安定⇔ 0 < ρr < π 2 − | θ | .
また,
θ ̸ = 0
より,特性方程式(7)
は常に実根をもた ない.
よって,
定理4
より次の定理が成り立つ.
定理10.
方程式(6)
の任意の解は振動的である.7
おわりに遅延微分方程式は一般には解を求めることは出来ず, その特性方程式も根は容易には求まらない. しかし,特 性方程式の根がどのような値をとるかで安定性や振動 性を考えることができる.
参考文献