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「PEシースを用いたPC橋の設計施工指針(案)」の制定とその内容について

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(1)

1 .  は じ め に

 プレストレストコンクリート(以下,PC)橋の要で ある PC 鋼材の保護は,PC 橋の耐荷性・耐久性を確保す るうえで重要となる。ポリエチレン(以下,PE)シースは,

塩化物イオンや水,空気等を遮蔽する性能が非常に高い のみならず,シース自体も高い耐腐食性を有しているた め,PC 鋼材の保護に有効な材料の一つである。一方で,

PE シースを鋼製シースと比較した場合,温度の影響を受 けやすく高温時は損傷に対して敏感なこと,クリープ変 形が大きいこと,シース外径が大きいこと等が留意点と して挙げられる。そのため,PE シースの本来持つ特長 を十分に活かして使用するには,PE シースの特性に応 じた設計,施工,品質管理が行われなければならない。

 これまでに(公社)土木学会「コンクリート標準示方書」1)

や(公社)プレストレストコンクリート工学会(以下,PC 工学会)「コンクリート構造設計施工規準─性能創造型 設計─」2)等の規準類にて,PE シースに関する記述は見 受けられるものの,いずれも使用時の留意点を簡易に記 述するに留まっている。そこで,PC 工学会では,(一社)

プレストレスト・コンクリート建設業協会(以下,PC 建 協)からの委託を受け,PC 橋において PE シースを適 切に使用するための技術的事項について体系化し,必要 な検討を行い,設計施工指針を制定することとなった。

 指針の制定にあたり,PC 工学会に「PE シースを用 いた PC 橋の設計施工指針作成に関する検討委員会」を 設置し,PE シースの性能確認試験および各種課題の実 験的・解析的検討を実施した。さらに,同時期にプラス チック製シースに関する指針3)の制定に取り組んでいた

International Federation for Struc tural Concrete(fib)

の Commission 9 Reinforcing and Prestressing materials and systems からも情報を入手し,国際規準との整合を 念頭において指針を作成した。

 本稿では,この「PE シースを用いた PC 橋の設計施 工指針(案)」(以下,本指針)の概要について報告する。

2 .  指針の構成

 本指針の構成を表

-1

に示す。指針は 1 章から 7 章まで の条文と解説,試験方法(案),制定資料,ならびに 13 編の参考資料で構成されている。なお,本指針は性能規 定型の構成となっており,原則として条文には確保すべ き性能を,解説文には条文に規定された性能を満足する ための方策を記述している。

 本指針の流れとして,最初に「1 章 総則」にて,“指針 の適用範囲と目的” および “PE シースが果たすべき役割”

を整理している。次に 2 章にて,PC 橋の保有すべき性 能のうち PE シースに関連する性能を挙げ,これらを確 保するために必要な 6 つの “PE シースを用いた PT シ ステムが保有すべき性能” を挙げている。なお本指針で 解説

「PE シースを用いた PC 橋の設計施工指針(案)」の 制定とその内容について

下村 匠

*1

・小林孝一

*2

・天谷公彦

*3

・手塚正道

*4

 概 要 平成 27 年 8 月に,(公社)プレストレストコンクリート工学会より「PE シースを用いた PC 橋の設計施工指針(案)」

が発刊された。この指針は,ポリエチレン(PE)シースを有効かつ適切に使用してプレストレストコンクリート(PC)

橋の品質を高めることを目的とし,PE シース自体の性能,品質のみならず,その諸特性を踏まえた PC 橋の設計,施工,

品質管理・検査の方法を示したものである。本稿は,新たに制定したこの指針の内容と,制定にあたっての検討成果の要 点について概説するものである。

 キーワード: プレストレストコンクリート橋,ポリエチレン(PE)シース,PC 鋼材,多層防錆構造

*1  しもむら・たくみ/長岡技術科学大学 工学部 教授 (正会員)

*2  こばやし・こういち/岐阜大学 工学部 教授 (正会員)

*3  あまや・きみひこ/㈱日本ピーエス 研究開発部研究開発課

*4  てづか・まさみち/オリエンタル白石㈱ 常務執行役員 (正会員)

-1 PE シースを用いた PC 橋の設計施工指針(案)の構成 章 番 号

資料番号 章・資料のタイトル

1 章 総  則 2 章 保有すべき性能 3 章 使用材料

4 章 PC 橋の設計段階における PE シースの取扱い 5 章 施  工

6 章 品質管理および検査 7 章 記  録

付  録 試験方法(案)

制定資料 PE シースを用いた PC 橋の設計施工指針(案)制定資料 参考資料Ⅰ~

(2)

は,PC 鋼材,シース,定着具,アンカーキャップ,PC グラウト等から構成されるを緊張材全体を総括して PT

(ポストテンショニング)システムとして定義している。

その後の 3 章から 6 章は,2 章で示した保有すべき性能 を満足するための方策を,使用材料(3 章),PC 橋の設 計段階における PE シースの取扱い(4 章),施工(5 章),

品質管理および検査(6 章)の観点からそれぞれ記述し ている。そして最後に “記録” に関する留意点を記述し ている。

 本指針の制定にあたり PE シースの試験方法について も見直しを行っている。付録「試験方法(案)」では,指 針の作成作業とほぼ並行して PC 工学会が制定した 4 つ の試験方法(案)の詳細について記述している。

 制定資料は,本指針の制定にあたって深い議論が行わ れた項目について制定の根拠を記述しており,将来に本 指針を改訂する際にも参考となるように設けている。参 考資料では,指針の制定に伴って実施した各種検討の詳 細について報告している。

 ここで,本指針にて “PE シースの取扱いが従来の鋼 製シースと異なる項目” および “取扱いは変わらないが 考え方を整理した項目” を表-2に示す。指針の内容を確 認するうえでの参考にされたい。

3 .  各章の内容 3 . 1  「1

章 総則」

 「1 章 総則」の制定のポイントは,“適用の範囲” と

“PE シースの果たすべき役割” を明確にした点となる。

「1

.

1 適用の範囲」では,条文にて本指針が “内ケーブル のダクトを形成するために PE シースを用いた PC 橋を 対象としていること”,“PE シースを用いた PC 橋の品質 向上を目的としていること” を明記しており,解説文に て PE シースの効果,特長,留意点と本指針の目的と役 割を関連付けて解説している。

 「1

.

2 PE シースの果たすべき役割」では,PE シース の特長を踏まえ,“PE シースの果たすべき役割” として,

「PC 鋼材に対する多層防錆構造を実現するために,PE シースを用いた PT システム全体にわたっての遮蔽性能 を確保すること」と規定している。本指針では,この “PE シースの果たすべき役割” を確保することを目的として 2 章以降を構成している。なお,この役割の設定にあたっ ては,我が国に先行してプラスチック製シースが使用さ れ,指針・規準類も整備されている fib3),米国 PC ポスト テンショニング協会(Post

-

Tensioning Institute;PTI)お よびアメリカセグメンタルブリッジ協会(American Seg- mental Bridge Institute;ASBI)4)のプロテクションレベ ル(以下,PL)の考え方や,国内の指針・規準類との整 合性の確保を図っている。

 参考として「fib Bulletin 75:Polymer

-

duct systems for internal bonded post

-

tensioning(以下,fib Bulletin 75)」3)

における各 PL の定義と仕様の一例を表

-3

に示す。表

-3

によると,PL 1 は現在の一般的な PC 橋と同程度の防食 対策となっている。これに対し,PL 2 は定着具を含む PT システム全体にわたっての密閉性の確保を,PL 3 は PL 2 に加えて PC 鋼材の電気的絶縁性とその状態のモニタリ ング機能を求めている。この PL 3 の仕様は,直流電流

Establishment of “the Guideline of Design and Construction for PC Bridges Applied

the PE Sheath” and its Contents

By T. Shimomura, K. Kobayashi, K. Amaya and M. Tezuka

Concrete Journal, Vol.54, No.2, pp.137~143, Feb. 2016

Synopsis In August 2015, the Japan Prestressed Concrete Institute published its “the Guideline of Design and

Construction for PC Bridges Applied the PE Sheath”. In addition to the performance and quality of PE sheaths, these Guidelines cover PC bridge design, construction, quality control and inspections based on these properties, for the purpose of increasing the quality of prestressed concrete (PC) bridges through the effective and appropriate use of polyethylene

(PE) sheaths. This paper outlines the contents of these newly established guidelines and highlights the key findings that led to their establishment.

 Keywords: prestressed concrete bridge, polyethylene (PE) sheath, PC steel, multilayer rustproof structure

-2 指針の制定のポイント

項   目 項目の概要

1.2 PE シースの果たすべ き役割

PE シースの果たすべき役割として,

腐食促進物質に対する遮蔽性能の確 保を明記

4.1(3) 曲げ耐荷性能に対す

る照査 曲げ耐荷力の照査を鋼製シースと同 様の手法で行ってよいことを提案 4.2 PC 鋼材と PE シース

の組合せ

箱桁を除くプレキャストセグメント 桁を対象に PC 鋼材と PE シースの 組合せを提案

4.4 摩擦係数の設定 摩擦係数の標準値を提案

4.5 最小曲げ半径 遮蔽性能を確保するための最小曲げ 半径の標準値を提案

4.6 PE シースの支持間隔 PE シースの曲げ剛性に応じた支持間 隔の設定方法,標準的な最大支持間 隔を提案

5 章 施   工 PE シースの温度依存性を考慮した施 工上の留意点を明記

6 章 品質管理および検査 PE シースの品質を確保するための試 験項目を明記。新たな試験方法(案)

を採用

付録 試験方法(案) PC 工学会で制定した試験方法(案)

の詳細を解説

(3)

に起因する迷走電流が PC 鋼材に漏洩することへの対処 として設定されている。

 本指針は,PL 2 を達成することを目指して PE シース を用いる場合の設計,施工,品質管理および検査の留意 事項を述べている。

 PE シースの遮蔽効果の概念を図

-1

に示す。経年劣化 等によりコンクリート表面から塩化物イオンが侵入した 場合でも,本指針に示す PE シースの果たすべき役割が 確保されれば,その高い遮蔽効果により塩化物イオンは PC 鋼材に到達しない。これに加え,遮蔽性能を有する 錆びないグラウトキャップを用いることで,PC 鋼材の 多層防錆構造が実現できる。

3 . 2  「2

章 保有すべき性能」

 PC 橋は安全で快適な社会基盤を築くという役割を担っ ており,「コンクリート構造設計施工規準」2)によれば “安 全性”,“供用性”,“耐久性”,“景観性”,“維持管理性”,“経 済性”,“施工性” 等の多くの性能の確保が求められてい る。このうち PE シースに関連するものとしては,“安全 性”,“供用性”,“耐久性”,“施工性” が挙げられる。「2 章 保有すべき性能」では,これらの 4 つの性能を確保す るために “PE シースを用いた PT システムの保有すべ き性能” として,以下に示す 6 つの性能を確保すること としている。

 ①コンクリートと PC 鋼材の一体性能

 一般的に内ケーブル構造の PC 橋は,部材コンクリー トと PC 鋼材が一体となって挙動すると仮定して設計さ れている。そのため,それを満足するように PE シース

には PC グラウトと PE シース,PE シースとコンクリー トの付着性能が求められる。

 ②ケーブル形状保持性能

 施工時に PE シースや PC 鋼材の自重,コンクリート 打込み時の浮力等によって生じるPEシースの波打ち(た わみ)が大きくなると,PE シースと PC 鋼材が点で接 することになり,摩擦係数の増加や部分的なシースの破 損に繋がるおそれがある。そこで,PE シースを用いた PT システムには,曲げ剛性に応じた支持間隔を設定す ることにより,ケーブル形状を保持する性能が求められる。

 ③遮蔽性能

 本指針は,PE シースを用いることでシースに腐食促 進物質を遮蔽する効果を持たせ,多層防錆構造を達成す ることを目的としている。そのため,PE シースを用いた PT システムには,接続部を含む PT システム全体にわたっ ての遮蔽性能と,PC 鋼材の挿入時および緊張時にこの 性能が損なわれないことが求められる。

 ④ PC グラウトの充填性能

 シース内に配置された PC 鋼材は,PC グラウトが充填 されることで腐食から保護され,PC 鋼材とコンクリート の一体性も確保される。そのため,PE シースを用いた PT システムには,PC グラウトの充填に必要な空隙率 が確保されるとともに,有害な残留空気が発生しないこ とが求められる。

 ⑤断面形状保持性能

 施工時に PE シースに過度な変形が生じると,PC 鋼 材の挿入・緊張作業や PC グラウト注入作業時の施工性 が損なわれる。そのため,PE シースを用いた PT シス テムには,施工時に生じる外圧や支持材等による局部的 な圧力に対して,その断面形状を保持する性能が求めら れる。

 ⑥ PC 鋼材の挿入性能

 PE シースにおいても,鋼製シースと同様に通常の挿 入方法にて PC 鋼材が挿入可能なことが求められる。

3 . 3  「3

章 使用材料」

 この章では,PE シースを用いた PT システムの構成材 料が保有すべき品質について示している。具体的には,

PE シースの原料であるポリエチレン材料の品質基準,PE シースの特徴,PE シースの性能確認試験項目,PE シー スの接続部品の種類と性能確認試験項目について解説し ている。PE シースを用いた PC 橋の設計および施工を 行うにあたり考慮すべきPEシースの特徴を以下に示す。

・耐水性に優れ腐食促進物質に対する高い遮蔽性を有し ている。

・高温時に強度や材料特性が温度の影響を受けやすい。

・鋼と比較して線膨張係数が 10 倍,ヤング係数が 1/200 程度である。

・PE シースの波付け形状は製造会社ごとに異なるため,

その形状,特性に応じた取扱いが必要になる。

-3   Bulletin 75の PL の定義と仕様の例

防食レベル 各 PL の概要と仕様の一例

PL 1 ダクトと PC グラウトにより耐久性のある防食機能を有する PC 鋼材+鋼製(PE)シース+PC グラウト PL 2 PL 1+PT システムの遮蔽性能を確保した密閉構造の実現

PC 鋼材+PE シース+PC グラウト+密閉された定着部 PL 3 PL 2+PC 鋼材の絶縁化+絶縁状態のモニタリング

PL 2+絶縁仕様の PC 鋼材+絶縁状態のモニタリング機能

コンクリート 鉄筋

PE シース

PC 鋼材 PC グラウト

塩化物イオン等の 腐食促進物質

シース位置

表面からの距離

PE シースの遮蔽性による防護層 指針で目指す防食レベル達成時の 外部から浸透した塩化物イオン濃度

かぶりによる防護層 外部から浸透した 塩化物イオンの濃度

-1 PE シースの遮蔽効果の概念図

(4)

3 . 4  「4

章 PC 橋の設計段階における PE シースの 取扱い」

 4 章では,2 章で示した 6 つの “PE シースを用いた PT システムが保有すべき性能” を確保するために,“PC 鋼材と PE シースの組合せ”,“PE シースの接続”,“摩擦 係数の設定”,“最小曲げ半径”,“PE シースの支持間隔”,

“構造細目” について照査を行うこととしている。これら の照査項目のうち,特にポイントとなる項目について,指 針制定にあたっての検討結果を交えながら,以下の( 1 )~

( 4 )に解説する。

( 1 ) PC 鋼材と PE シースの組合せ

 PC 鋼材と PE シースの組合せは,適切な空隙率を有す る呼び径のシースを選定することで,“PC グラウトの充 填性能”,“PC 鋼材の挿入性能”,さらに PC グラウトの 確実な充填による “コンクリートと PC 鋼材の一体性能”

を確保するために規定している。

 PE シースは,同一内径の鋼製シースと比較して外径が 大きいという特徴があるため,プレキャスト桁において所 定の鋼材のあきを確保すると,標準的な設計から主桁の部 材厚を変更する必要が生じる。そこで,この課題に対し,

PC 鋼材の挿入性能および PC グラウトの充填性能を考慮 しつつ,PC 鋼材と PE シースの組合せの見直しを行った。

 一般に,PC 鋼材と鋼製シースの組合せは,PC 鋼材を コンクリート打込み前に挿入する場合(先挿入)と打込 み後に挿入する場合(後挿入)で異なり,後挿入する場 合は先挿入する場合よりも 5 mm 程度大きい径のシース が用いられている。この使い分けの明確な根拠は不明で あるが,コンクリート打込み時のシースの潰れ等への対 処と想定される。そこで,このことを念頭に置き PC 鋼 材と PE シースの組合せについて検討を行い,その結果 本指針では表-4に示すような従来の PC 鋼材と鋼製シー スの組合せを踏襲することを基本とした。表中の上段の 数値は PC 鋼材を先挿入する場合の組合せを,下段([ ] 内)の数値は PC 鋼材を後挿入する場合の組合せを示し ている。ただし,ポストテンション方式の T 桁断面や

スラブ桁断面のプレキャストセグメント桁に PE シース を用いる場合は,以下の①~③の理由により,基本的に 先挿入用の鋼製シースの呼び径と同径の PE シースを選 択してよいこととした。

 ① プレキャストセグメント桁は製作精度が高く,PC 鋼材の挿入長が比較的短いこと。

 ②PC 鋼材の挿入前にシースの変形を確認できること。

 ③ この指針の制定にあたり実施した「耐圧・変形確認 実験」により,コンクリート落下高さ 1

.

5 m 以下が 遵守されて打込まれていれば,コンクリート打込み 時の圧力による変形が問題とならないことが確認さ れたこと。

( 2 ) 摩擦係数の設定

 「fib Bulletin 75」3)では,PE シースの摩擦係数は PC 鋼 より線で

μ

=0

.

10~0

.

14,PC 鋼線および PC 鋼棒で

μ

=0

.

08

~0

.

12 と,鋼製シースの摩擦係数である

μ

=0

.

16~0

.

24 よりも小さい値が示されている。また,国内の既往の知 見5)においても,PE シースの摩擦損失は鋼製シースの 60%程度になるとの報告がある。設計用の摩擦係数

μ

よび

λ

を小さく設定できると,PC 鋼材量が低減でき経 済性の向上が期待できる。そこで,摩擦係数の低減の可 能性を検討するため,以下の①,②の検討を行った。

 ①各種シースの摩擦係数の実態調査

 PE シースは,PC 建協の加盟会社で施工を行った PC 橋のうち標準的な形状の 863 ケーブルの摩擦係数を,鋼 製シースは「プレストレスと緊張管理」6)に示される 65 橋,591 ケーブルの摩擦係数を調査した。調査の結果,

PE シースの摩擦係数の平均値は

μ

=0

.

129,鋼製シース の摩擦係数の平均値は

μ

=0

.

149 となり,いずれも現在 鋼製シースに対して用いられている設計用の摩擦係数

μ

=0

.

30 よりも小さいこと,PE シースの方が若干摩擦係 数は小さくなるものの両者に有意な差は認められないこ とが明らかとなった。

 ②摩擦係数の変動がプレストレスに及ぼす影響の試算  PC 橋の設計段階にて PE シースの摩擦係数を小さく 設定した場合,施工時の摩擦係数が設計時に設定した値 よりも大きくなると,所定のプレストレスを導入できなく なることが懸念される。そこで,摩擦係数の変動が端部 初期引張応力度に及ぼす影響について検討した。

 検討の結果,例えば 3 径間連続箱桁橋(3 @ 40 m)にて 設計時に摩擦係数

μ

=0

.

14 でプレストレスの計算を行った 場合,施工時の摩擦係数が

μ

=0

.

30 となると,端部初期 引張応力度を設計時よりも 32%以上大きくする必要が生 じ,所定の緊張力を与えられなくなる可能性があること が分かった。

 これらの結果から,本指針では表-5に示すとおり,鋼 製シースの摩擦係数の値を踏襲することとした。なお,

今後この指針に従って設計施工された PC 橋にて,PE シースの摩擦係数の値およびばらつきが小さくなること -4 PC 鋼材と PE シースの標準的な組合せ

鋼材種別 鋼材

断面積

(mm2

PE シース (参考:鋼製シース)

呼び径

(mm) 空隙率

(%) 呼び径

(mm) 空隙率

(%)

マルチ ストランド

7 S 12.7 691.0 55

[55] 71

[71] 55

[58] 71

[74]

12 S 12.7 1 184.5 65

[70] 64

[69] 65

[70] 64

[69]

12 S 15.2 1 664.4 75

[80] 62

[67] 75

[80] 62

[67]

シングル ストランド

1 S 19.3 243.7 35

[35] 75

[75] 28

[32] 60

[70]

1 S 21.8 312.9 35

[38] 67

[72] 35

[38] 67

[72]

1 S 28.6 532.4 45

[45] 67

[67] 45

[45] 67

[67]

※) 上段は先挿入用,下段は後挿入用のシースを示している。

(5)

が確認できれば,その時点で摩擦係数を見直すことも提 言している。

( 3 ) 最小曲げ半径の設定

 PE シースの曲げ半径が小さくなると,PC 鋼材の形 状の自由度が高くなり,合理的な PC 橋の設計に繋がる。

一方で,過度に曲げ半径が小さくなると,PC 鋼材緊張 時に角度変化部のシース壁面に作用する腹圧力およびす り減り作用により PE シースに破れなどの損傷が生じる 可能性が生じる。そこで,PE シースの損傷を防止し,“遮 蔽性能” を確保するために最小曲げ半径を規定している。

 最小曲げ半径の設定にあたり,主方向ケーブルおよび 横締めケーブルの代表的な呼び径の PE シースにてすり 減り抵抗性試験を実施した。試験は,PC 工学会が新た に制定した「すり減り試験抵抗性試験方法(案)(JPCI

-

A 003)」に準じて実施した。対象とする PE シースは,呼び 径

φ 

35 mm(横締めケーブル)および

φ 

75 mm(主方向 ケーブル)とし,載荷する腹圧力は 100

D および 200

D に相当する荷重とした。すべり量は,横締めケーブルを対 象とした

φ 

35 は片側緊張で約 21 m のケーブル長を想定 し 150 mm とし,主方向ケーブルを対象とした

φ 

75 は片 側緊張で約 105 m(両側緊張で約 210 m)のケーブル長 を想定し 750 mm とした。温度環境は常温(23±5 ℃)と,

セメントの水和熱の影響を考慮した高温(50±5 ℃)に 加え,中温(35±5 ℃)での試験も実施した。

 高温環境における

φ 

75 の PE シースのすり減り抵抗性 試験結果を図

-2

に示す。試験の結果,呼び径

φ 

35 の PE シースは,50℃の環境下で 100

D に相当する腹圧力を載 荷しても,残留肉厚が最小のもので 1

.

59 mm となり,判 断基準(fib Bulletin 75 の PL

2 の基準値と同等)とした 1

.

5 mm を確保できる結果が得られた。一方,呼び径

φ 

75 の PE シースは,50℃の環境下で 100

D に相当する腹圧 力を載荷した場合に,図

-2

に示すように 1 製品が残留肉

厚 1

.

5 mm を下回り,さらに 1 製品が残留肉厚 1

.

51 mm という結果であった。

 一般に,床版横締めケーブルは薄い部材厚のなかで鉄 筋を避けて配置する必要がある。一方で主方向ケーブル は,横締めケーブルと比較してケーブル形状の自由度が 高い傾向にある。そこで,本指針では PE シースの最小 曲げ半径の標準値を表-6に示すとおり,主方向ケーブ ルは 200

D,横締めケーブルは 100

D を標準とすること とした。

( 4 ) PE シースの支持間隔

 PE シースの支持間隔は,シースの波打ちを抑制し “ケー ブル形状保持性能” を確保するとともに,摩擦係数の変 動を抑えるために規定している。

 PE シースは波付けされていることから,直径方向に は潰れにくいが長手方向には曲がりやすいという特性が ある。そのため,鋼製シースと比較してコンクリート打 込み時の圧力や浮力等による波打ちが生じやすく,過大 な波打ちが生じると PC 鋼材の挿入性や PC 鋼材緊張時 の摩擦係数に影響を及ぼすおそれがある。

 「fib Bulleitn 75」3)によると,施工時の PE シースのた わみを支持間隔の 1/500 以下に抑えることで,波打ちに よる設計への影響を抑制できると記されている。そこで 本指針では,「PE シースの曲げ特性試験(JPCI

-

A002)」

により曲げ剛性を求め,式( 1 ),( 2 )を用いてコンク リート打込み時に作用する浮力による PE シースのたわ みが,支持間隔の 1/500 以下となるような最大支持間隔 を設定することとしている。

    ( 1 )

 

    ( 2 ) 

SS :PE シースの最大支持間隔(mm)

(EI)35℃: 高温時(35℃)の PE シースの剛性(「曲 げ特性試験」の値)(N・mm2

DF : 単位長さあたりの PE シース断面に作用 する重量(N/mm)

Do :PE シース外径(mm)

Wc :コンクリートの単位体積重量(N/mm3) Wd :PE シースの単位長さあたり重量(N/mm)

Wpre : PC 鋼材の単位長さあたり重量(N/mm)

(PC 鋼材を後挿入する場合は考慮しない)

= é ëê 384 × ( )

35℃

( 500 × ) ù ûú

1 3  

= × π

2

4 × - -

-5 PE シースの摩擦係数の標準値 PC 鋼材種類 μ λ PC 鋼より線 0.30 0.004

PC 鋼線 0.30 0.004 PC 鋼棒 0.30 0.003

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0

 0  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10

残留肉厚(mm)

腹圧力(kN/10 cm)

A 社 B 社 C 社 D 社 100 200

判断基準(1.5 mm)

-2 すり減り抵抗性試験結果(φ 75,50℃)

-6 PE シースの最小曲げ半径の標準値 PC 鋼材種別 PC 鋼材配置方向 最小曲げ半径

(mm)

マルチストランド 主方向ケーブル※1 200 D※3 シングルストランド 横締めケーブル※2 100 D※3

※1  片引き長 105 m を想定したすり減り抵抗性試験の結果 をもとに設定

※2  片引き長 20 m を想定したすり減り抵抗性試験の結果 をもとに設定

※3 D:PE シースの呼び径(mm)

(6)

 指針中では,各製造会社の PE シースの曲げ特性試験 の結果に基づき,表

-7

に示す PE シースの最大支持間隔 の標準値を定めており,この標準値よりも広い間隔にて シースを支持する場合や,呼び径

φ 

95 以上のシースを用 いる場合に,先に示した式( 1 ),( 2 )を用いて PE シー スの剛性に応じた最大支持間隔を求めることとしている。

なお,この場合でも最大支持間隔は「fib Bulletin 75」3)に 示される PE シースの呼び径の 12 倍以下に制限するこ とを求めている。

3 . 5  「5

章 施工」

 施工の章では,PE シースを用いた PT システムが,

その保有すべき性能を満足するための留意点について記 述している。PE シースと鋼製シースで,特に取扱いが 異なる点として,“接続部における遮蔽性能の確保” と,

“温度環境による強度特性の変化を考慮する必要がある こと” が挙げられる。

 本指針では,PE シースの接続部における腐食促進物 質の遮蔽性能を確保するために,PE シース相互の接続 部を有する供試体にて土木学会規準の「プレストレスト コンクリート用プラスチック製シースの漏れ試験方法

(JSCE

-

E 707)」7)を実施し,所要の遮蔽性能の確保が可 能な PE シースを用いることとしている。そのため,PE シースの種類に応じたジョイントシースおよびセグメン トカップラーシースを用いるとともに,製造会社が指定 する防水テープを用いて定められた方法で接続する必要 がある。

 温度の影響については,各施工段階においてその影響 を考慮する必要がある。特に PE シースは直射日光下に おいて高温となり,日照面は日陰側との温度差が 20℃以 上になる場合があることが確認されている。そのため,

コンクリート打込み前の段階において,日照による剛性 低下に起因する有害な変形等が生じないように,必要に 応じてシートで覆う等の適切な措置を講じる必要がある。

また,セメントの水和熱による影響についても留意する 必要があり,コンクリート温度が高い時期に PC 鋼材を 緊張すると,すり減り量が増加し PE シースの遮蔽性能 の低下に繋がるおそれがある。本指針では,50℃の環境 下にて所定のすり減り抵抗性を有した PE シースを使用 することとしているため,原則としてシース周辺のコン クリート温度が 50℃以下の状態で緊張作業を行うこと が求められる。なお,この温度環境の範囲外で緊張作業 を実施する場合は,温度条件を変更して別途,前述のす り減り抵抗性試験(JPCI

-

A003)を実施することとして

いる。

3 . 6  「6

章 品質管理および検査」

 「6

.

2 品質管理」では,PE シースを用いた場合の支持 間隔,接続方法および接続位置等,鋼製シースと管理方 法が異なる項目を中心として,品質管理のポイントを解説 している。「6

.

3 検査」では,受入れ検査および施工に関 する検査の検査項目とその詳細について解説している。

 PE シースの受入れ検査の項目を表

-8

に示す。PE シー スは,シースの製造会社が高密度ポリエチレンの原材料 を購入し,一定量を 1 ロットとして製品に加工するとい う工程で製造される。受入れ検査では,シースの原材料 や,製造された製品が所要の品質を有することを確認す るため,表-8の各項目が基準を満たすことを試験成績書 や品質証明書により,納品ごとに確認することとしている。

 ここで,各検査項目の詳細について解説すると,原料の 品質は製造ロットごとの “メルトマスフローレイト(MFR)”

と “密度” により確認することとしている。PE シースの 製品としての品質は,表

-8

中の “等圧外力抵抗性”~“セ グメントカップラーシースの漏れ” の各項目について,製 品開発時または形状や品質に変更がある場合に試験を行 い,その品質を確認することとしている。ただし,PE シー スの代表的な物理的特性である “等圧外力抵抗性” につ いては,PE シースの製造ロットごとに試験を実施し,そ の品質を確認することとしている。

 PE シースの施工に関する検査では,“支持方法・間隔”,

“シースの損傷”,“接続部の状態” について,特に以下の 点に留意しながら確認することとしている。

・シースの支持間隔がシースの種類に応じた最大支持間 隔以下であること。

・シースが固定部で変形していないこと。

・シースの接続部が,製造会社が推奨する方法に従い,

確実に接続されていること。

・PE シースの接続部が一断面に集中していないこと。

-7 PE シースの最大支持間隔の標準値 PC 鋼材種別 シース呼び径

(mm) 最大支持間隔

(mm)

マルチストランド φ 95 未満 750 シングルストランド 500

-8 PE シースの受入れ検査時の確認項目 項  目 試験・検査方法 試験時期・回数 メルトマスフロー

レイト(MFR) JIS K 6922-2 原料の製造ロットごと 密  度 JIS K 6922-1 等圧外力抵抗性 JPCI-A001 製品の製造ロットごと 局部外力抵抗性 JSCE-E 704 製品開発時または形状 や品質に変更ある場合

可とう性 JSCE-E 706

接続部の漏れ JSCE-E 707

曲げ特性 JPCI-A002

すり減り抵抗性 JPCI-A003

付着性能 JSCE-E 710

セグメントカップ

ラーシースの漏れ JPCI-A004 寸  法 ノギス,スケール等 製品の製造ロットごと

外観の状態 目  視

(7)

3 . 7  「付録 試験方法(案)」

 PC 橋の部材に PE シースを用いるためには,PE シー スが保有すべき性能を明らかにし,その性能を確認する ための規準が必要となる。そこで,土木学会や JIS の試 験方法を踏まえつつ,新たな海外規準である「fib Bulletin 75」3)も参考とし,PE シースの試験方法についての検討 が行われ,以下の①~④に示す 4 つの PC 工学会独自の 試験方法が新たに制定された。

 ① 平 板 載 荷 に よ る 等 圧 外 力 抵 抗 性 試 験 方 法( 案 )

(JPCI

-

A001)

 ②曲げ特性試験方法(案)(JPCI

-

A002)

 ③すり減り抵抗性試験方法(案)(JPCI

-

A003)

 ④ プレキャストセグメント用プラスチック製カップラー シースの漏れ試験方法(案)(JPCI

-

A004)

 ①の試験は,PE シースの潰れ応力を求め,コンクリー ト打込み時の潰れに対する安全性を照査することを目的 とする。②の試験は,雰囲気温度 35℃以上の環境下に おける PE シースの曲げ剛性を求め,PE シースの最大 支持間隔を算出することを目的とする。ここで,雰囲気 温度は,暑中コンクリートの打込み時のコンクリート温 度の上限値を想定して設定している。③の試験は,PE シー スの保有すべき性能の一つである遮蔽性能の確認を行う ことを目的としており,PE シースのすり減り抵抗性試 験の結果,残留肉厚が 1

.

5 mm 以上であることを確認す る試験となっている。④の試験は,本指針より使用が標 準となったセグメントカップラーシースの遮水性を確認 することを目的としている。なお,この試験方法自体は 土木学会規準の「漏れ試験方法(JSCE

-

E 707)」7)と同 様であり,これをセグメントカップラーに適用した試験 となっている。

 各試験方法の詳細については,指針の「付録 試験方 法(案)」に示されているので,そちらを参照されたい。

4 .  お わ り に

 本稿では,本指針の本編および付録に示されている試 験方法(案)の概要を中心に解説した。本指針では,こ の他に,制定にあたっての議論を取りまとめた制定資料 や各種検討の成果を取りまとめた参考資料も示している ので,そちらも確認を願いたい。本指針が有効に活用さ れ,今後建設される PE シースを用いた PC 橋の耐久性 および信頼性の向上につながることを願っている。

 最後に,指針制定に従事された委員各位に感謝の意を 表すとともに,検討委員会の委員一覧を以下に示す。

PE シースを用いた PC 橋の設計施工指針作成に関する検討委員会 委員長  下村 匠

幹事長  小林孝一

委 員  青木圭一,呉 承寧,岡本 大,斉藤成彦,

白濵昭二,濱田 譲,野澤伸一郎,山本貴士,

渡辺博志,秋月敏政,天谷公彦,安藤 健,

池田秀樹,梅津健司,岡田 稔,小野塚豊昭,

佐藤 徹,関根 肇,谷山慎吾,手塚正道,

徳光 卓,中村 淳,中山良直,藤井暁宏,

南 浩郎,三本竜彦,八木橋浩隆 (敬称略)

参 考 文 献

1) (公社)土木学会:2012 年制定 コンクリート標準示方書[施工編],

pp.309~310,2012. 12

2) (公社)プレストレストコンクリート工学会:コンクリート構造設 計施工規準─性能創造型設計─,pp.49~50,2011. 9

3) fib:Polymer-duct systems for internal bonded post-tensioning, Bulletin 75, 2014. 12

4) PTI/ASBI:Guide Specification for Grouted Post-Tensioning, PTI M50.3-12, 2012. 6

5) 細木康夫・渡辺陽太・鬼木立行・黒木隆二:ポリエチレン製シース 実用化に向けての研究,第 8 回プレストレストコンクリートの発展 に関するシンポジウム論文集,pp.493~498,1998. 10

6) (一社)プレストレスト・コンクリート建設業協会:プレストレス と緊張管理,2011. 3

7) (公社)土木学会:コンクリート標準示方書[規準編]土木学会規 準および関連規準,2013. 11

参照

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