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DXの時代をリードするCFOと財務部門の役割とは

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(1)

一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻客員教授

DXの時代をリードする

CFOと財務部門の役割とは

VUCAと呼ばれる先行き不透明な時代、そして経営環境がかつてないスピードで変化す るデジタル化の時代。こうした複雑な時代の企業経営をリードしていくためのCFO(最 高財務責任者)と財務部門の役割とは何か。そして、その役割を確実に遂行していくため に求められる経営管理の基盤とはどのようなものなのか。企業戦略の権威である一橋ビ ジネススクール客員教授の名和高司氏、および企業のデジタル変革をさまざまな角度か ら支援している日本オラクルへの取材から、その答えを探っていきたい。

未来に対して正しいリスクをどう取るか CFOはそのシナリオと検証を担うべきだ

名和高司

Nawa Takashi

Part. 1

三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパ ニーに入社。自動車・製造業分野におけるアジ ア地域ヘッド、デジタル分野における日本支社 ヘッドを歴任。2010年一橋大学ビジネススク ール(国際企業戦略研究科)教授を経て、現在、

同客員教授。著書に『経営改革大全 企業を壊す 100の誤解』(日本経済新聞出版社)、『企業変

革の教科書』(東洋経済新報社)、『CSV経営戦略』(同)、『学習優位の経営』(ダイヤモンド社)など 多数。東京大学法学部卒、米ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカースカラー授与)。ファー ストリテイリング、味の素などの社外取締役の他、大手企業のシニアアドバイザーなどを務める。

 デジタル化、グローバル化、サステナビリティなど、

企業が対応すべき主要課題は多岐にわたる。そうした時 代環境を経営者はどのように認識し、自社の変革を図っ ていくべきか。また、経営者の環境認識とビジョン策定、

変革プロセスの実行をCFO(最高財務責任者)やCFO 組織はどのようにサポートしていけばいいのか。一橋ビ ジネススクール 客員教授の名和高司氏に、DX(デジ タルトランスフォーメーション)時代におけるCFOの 役割について聞いた。

(2)

VUCAの時代に外せない

「新しいSDGs」とは

──経営者は今、時代環境の変化をどう捉えて、どのよう なビジョンを策定し、トランスフォーメーション(変革)を図 っていくべきですか。

ご承知の通り、過去からの延長線上に未来への“解”が ないことは明らかです。VUCA(変動、不確実、複雑、曖昧)

といわれる先の見えない時代において、過去と同じことを やっていたのでは確実に滅びてしまう。新しいことに何もチ ャレンジしないことこそが、最大のリスクなのです。

答えは最初からあるわけではないので、予定調和的に PDCA サイクルを回すことができなくなっています。かと いって、無手勝流にやっても成功にはたどり着けません。

そこで、(最低限のコストと短いサイクルで仮説・検証 を繰り返していく)リーンスタートアップのアプローチが 必要になってくるわけですが、それも当てずっぽうでは駄 目で、きちんとした仮説がないと、トライアル&エラーの エラーが重なるだけで、学習にはなりません。

トライをするには仮説が必要で、仮説を組み立てる上 では、傾向値やデータを見ながら判断することになります。

そして、誰も手を付けていない事業領域など新たなスペ ースに着目して、アクションを起こしていきます。それに よって生まれる世の中や顧客の反応を再びデータで捉え、

仮説・検証のプロセスを高速で回していくのです。

一方で、世の中には外してはいけない大きなトレンドがあ り、私はそれを「新しい SDGs」と呼んでいます。S はサス テナビリティ、Dはデジタル、Gはグローバルズを意味します。

サステナビリティは、今や確実に外せないトレンドです。

デジタルは、デジタル技術をツール化、方法論化し、自 社ならではの方程式に落とし込んでいくことが大事です。

そして、日本発にこだわっていたのではもはやイノベー ションは生まれませんから、グローバルズ化が外せない。

世界は決して同質ではないので、あえて複数形にしてい ます。実験や開発の拠点を世界各地に多極展開し、そ こで生まれた情報やナレッジをグローバルに吸い上げて、

組織としてのナレッジに統合するプロセスが重要です。

──しかし、経済産業省の「DXレポート」(ITシステム

「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開)でも指摘さ れている通り、多くの企業では、老朽化し、継ぎはぎだらけ になった基幹系システムがデータのブラックボックス化を もたらしており、多極分散化した組織内で生まれたナレッ ジを吸い上げ、統合するためのインフラがありません。

確かに、ERP(統合基幹システム)一つを取ってみても、

各拠点が違うソフトウエアを導入していたりして、会計デ ータを統合することすら簡単ではない、あるいは非常に 時間がかかる企業が多いようです。

こうした会計データに加えて、仮説・検証プロセスを高速 に回したり、ナレッジを統合したりするためには、現場のリア ルなデータやサプライチェーン全体のデータ、あるいは人 材のデータなども見える化し、統合しなくてはなりません。

グループ全体で同一のシステムを使うのか、必要なデ ータを集積するレポジトリーを別途作るのか、やり方はい ろいろあると思いますが、組織としてのナレッジに統合す るためのインフラは必要です。

さらに、メーカーでいえば BOM(部品表)のコードが 統一されていないために、同じ部品が同じものとして認識 されないといった問題もあります。きめ細かい仮説・検証 を続けていくためには、そういう細かい部分の統一も欠 かせません。そこは、CFO をはじめとする経営層が主導 していくべきでしょう。

“筋のいい投資先” いかに見つけるか

──CEO(最高経営責任者)がビジョンを策定し、変革プ ロセスを実行していくときに、CFOやCFO組織はそれを どのようにサポートしていけばいいのでしょうか。

ファイナンス部門がやるべき本質的な仕事の一つに、

結果としてボトムライン(利益)にどう結び付くかというシ ナリオ、ストーリーを作ることがあります。事業活動には エクスペンス(費用)やインベストメント(投資)が伴い、

当初はコストやマイナスの収益として評価されます。これ に対して CFO は、どこでリターンを上げていくのかとい う説明責任を CEO や事業部門のトップに課すという重要 な役割を持ちます。単に説明責任を課すだけでなく、財 務会計や管理会計など社内のリアルなデータ、あるいは サードパーティー(第三者)のデータなどを含め、シナリ オやストーリーを作るための客観的データや知見を CEO や事業部門トップに提供し、支援することも CFO の大切 な役割だと思います。

出所:名和高司(一橋ビジネススクール客員教授)

▪ 図表1│新SDGsの時代~VUCAを超えて~ ▪

2050

2045

2049

Digital

D

Globals (Geo Economics)

G

変曲点

Sustainability

S

(3)

ただし、ここで注意すべきは、投資とリターンの因果関 係は極めて複雑で、例えば研究開発投資をしたからといっ て、すぐにリターンが生まれるわけではないということで す。その間には紆余曲折があり、当初の想定とは異なる 発見やリターンにつながるケースもあります。そうした“筋 のいいところ”に投資をしていくことが大事です。

経済学では「オプションバリュー」と言いますが、ある アクションを起こすことで、次のものが見えてくる、そう いうところに投資をします。言い換えれば、投資に対する リターンが一対一対応ではない複雑系の領域です。それ を経営者や事業部門に語らせ、きちんとストーリーにして、

データでモニタリングしながら結果を検証できるようにす る。そうした枠組みを作るのが CFO の役割です。

つまり、リスクを取らないことを優先するのではなく、

未来に対して、正しいリスクを取ることを CFO が促して いかないと、過去の延長で何もしないという不作為のリス クを抱え込むことになってしまいます。

──先が見えない中で、オプションバリューのある投資先 を見つけることはなかなか難しそうです。

筋の良さには大きく2つあります。1つは、自分たちが 本当にやりたいこと、自分たちらしさが発揮できることで す。自分たちの強みの周りにどういう可能性があるのかを 探ることで、自社ならではの発想が生まれると思います。

もう1つは、社会的な観点から見た筋の良さです。サステ ナビリティは、もはや避けて通れないトレンドであり、その方 向に追随している限りは、大きく外れることはないでしょう。

ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の世界ではマテ リアリティ分析(重要課題の特定)といいますが、自分た ちらしさが発揮できることと、社会が求めていることの交 点に目指すべき将来があるはずです。そのゾーンを狙っ て、経営資源を集中したり、新たな KPI(重要業績評価 指標)を設定したりする。

とはいえ、筋がいいかどうかは未来の話ですから、現 時点でオプションバリューの判断材料となるデータは存在 しないことが多いのも事実です。例えば、今から3年前に、

植物由来の代用肉を使ったインポッシブルバーガーやビヨ ンドミートが、人々からここまで支持されると考えた人が どれだけいたでしょうか。

「パーソナルコンピューターの父」といわれる米国の計算 機科学者、アラン・ケイは「未来を予測する最善の方法 は、それを発明することだ」という有名な言葉を残してい ます。つまり、志やコミットメントを持った人が、仲間を 巻き込んで変革のプロセスを実行することで、大きな潮 流ができていく。そのストーリーを組み立て、データで検 証可能な仕組みを整えるのが CFO の役割です。

交点を見つけたと思っても、最初から全てうまくいくわ けではないので、アーリーインジケーター(初期指標)

となるデータをしっかり見て、うまくいっていないと判断し たら、早めにピボット(軸旋回)するなり、再投資するな りして成功の可能性を高めていくことです。

多面的に情報やデータを収集し、

組み合わせるのがDX時代の人間の役割

──DXによってデータから価値を生み出すためには、社 内だけでなく社外ともデジタルでつながり、価値を共創し ていくことが重要だといわれます。そうした時代に、人間に はどのような役割が求められるのでしょうか。

大局観を持って高度な判断を担うとか、次世代のビジネ スを創造するとか、基本的に機械にはできない役割を求め られることになりますが、その一つとして、多面的に情報 やデータを収集し、うまく組み合わせることが挙げられます。

英インペリアル・カレッジ・ビジネススクール経済学 教授のジョナサン・ハスケルは共著書『無形資産が経済 を支配する』(東洋経済新報社、原題『CAPITALISM WITHOUT CAPITAL』)で、無形資産にはスケーラブル(拡 張しやすい)、シナジー(組み合わせやすい)というポジテ ィブな特徴と、スピルオーバー(コピーされやすい)、サン クコスト(転売しにくい)というネガティブな特徴があると 指摘しました。中でも私が重要だと考えるのがシナジーです。

デジタル化によってさまざまなデータがつながり、それら を融合することで、同質的な他社と集約して規模を取る「ス ケール(規模)の経済」、異質な他社の知恵をレバレッジする

「スコープ(範囲)の経済」、徹底的に自らの強みを磨く「ス キル(技能)の経済」、そして他社と自社の資産を活用する ことで進化を加速させる「スピードの経済」が生まれる。私 が「S⁴ の経済」と呼んでいる DX の経済効果です。

例えば、フィンテックとアグリテック、ヘルステックが融 合することで、「10X(10 倍速)」の成長を実現できるか もしれません。

▪ 図表2│「10X」(10倍速)実現に向けたアセットモデル ▪

(Competition)「競争」

(Collaboration)「協創」

(Co-sourcing)「共層」

規 模

無形資産重要性

「スキル(技能)の経済」

(Economies of Skill)

…徹底的に強みを磨く

「スコープ(範囲)の経済」

(Economies of Scope)

… 他者の知恵をレバレッ ジする

「スピードの経済」

(Economies of Speed)

…他社と自社の資 産を活用すること で進化を加速する

「スケール(規模)の経済」

(Economies of Scale)

… 他社と集約してスケー ルをとる

出所:名和高司(一橋ビジネススクール客員教授)

(4)

同質的なデータをいくら集めても、インサイト(洞察)

を得ることは難しいし、そこから新たな価値は生まれにく い。でも、生命保険会社と食品メーカーとスポーツジム が持っているデータを融合すれば、データが持つ価値が 格段に高まる可能性があります。

ですから、自社のデータの精度を高めながら、これまで突 合したことがなかった他社のデータをうまく組み合わせて S⁴ の経済の獲得を図っていくのが人間の重要な役割となります。

そのときに、先ほど述べたオプションバリューのありそ うなところ、自分たちらしさが発揮できて、かつ社会が求 めていることといった、意味のある文脈でデータを組み合 わせていくと、インサイトが生まれやすくなります。つまり、

データは目的を持って集めることが重要です。

例えば、南アフリカのディスカバリー社は、加入者が健 康になるほど保険料が下がる新しい保険プログラム「Vitality

(バイタリティー)」を開発しました。「人々を健康にするこ と」を目標に掲げ、健康になればなるほど死亡率が下がり、

けがもしにくくなるといった仮説を立て、人々のヘルスケ アデータを 10 年かけて集め、それを検証しました。そして、

ウエアラブル端末やスマートフォンを通じて、保険加入者 のデータをどんどん蓄積しています。

バイタリティーは世界各国の保険会社で採用され、加入 者が急増しています。日本では、住友生命保険がディスカ バリー社と提携し、健康増進型保険として販売しています。

明確な目的を持って集めたデータの蓄積があったからこ そ、監督当局から保険販売の認可を得ることができたし、

他の保険会社が同じような商品を出そうと思っても、簡単 にはまねができないわけです。

ゾーンマネジメントと CFO の役割

──自社変革、エコシステム変革から事業モデル変革へと 進み、あるべき姿に向けて非連続な成長を続けるというD Xのプロセスを名和さんは示していらっしゃいますが、こ の変革プロセスをマネジメントする上でのCFOの役割を どう考えるべきでしょうか。

CFO の大きな役割の一つは、ポートフォリオ管理によ って経営資源を配分することですが、ポートフォリオには

いろいろな考え方があります。

ここでは、“キャズム理論”で知られる米国の経営コン サルタント、ジェフリー・ムーアが著書『ゾーンマネジメ ント』(日経 BP、原題『ZONE to WIN』)で指摘した4 つのゾーンを例に、CFO が果たすべき役割について説明 しましょう。

4 つのゾーンのうち右側の 2 つは持続的イノベーション のゾーン、つまり既存事業のゾーン。そして左側の 2 つ が破壊的イノベーション、すなわち新規事業を育て、拡大

していくゾーンです。企業活動をこの 4 つのゾーンに分 けて、それぞれを独立させて経営資源を管理することを ムーアは提唱しています。

右下の「プロダクティビティゾーン」は、スタッフ部門の 生産性を上げて既存事業の収益拡大を支援することが重要 となります。具体的には、IT インフラの整備やデジタル技 術に投資して、バックオフィス業務の見える化や自動化を図 るといったことになるでしょう。

その上に位置する「パフォーマンスゾーン」は既存事業 の収益を拡大するところで、この 2 つのゾーンでは従来型 の CFO の役割が求められます。ただし、いつまでも同じ 事業を継続するのではなく、ポートフォリオの新陳代謝の ために、あえて収益が出ているときにこそ既存事業を売却 して、そのキャッシュを将来性の高い無形資産に投資する という大胆な資産の組み換えの知恵が、デジタル時代の CFO には不可欠です。

一方、破壊的イノベーションの取り組みを進めるゾーンの 一つ、「インキュベーションゾーン」では、成功確率は“千三つ”

(1000 分の 3)でもいいから、いろいろな可能性に懸けな がら、0 から 1 を生み出す投資を続けることになります。こ こでは、CFO はベンチャーキャピタリストのような役割を 求められます。

その上の「トランスフォーメーションゾーン」では、1 から 10、10 から 100 へと新規事業を拡大していきます。

言うまでもありませんが、この 2 つのゾーンにおいては、

不確定な未来に投資しながらスピーディーな仮説・検証を 続けていくことになりますから、CFO の役割は従来型の CFO とは大きく異なります。

仮説・検証のためのデータも従来型の基幹系システムで 集められるものだけでなく、現場で何が起こっているかを見 られるデータが必要で、かつ自社の無形資産と他社の無形 資産をポジティブに組み合わせていかなくてはなりません。

これら4つのゾーンにいかに経営資源を振り分け、ポー トフォリオを管理できるか。それが、CFO の腕の見せど

ころと言えるでしょう。

出所:ジェフリー・ムーア(ジェフリー・ムーア・コンサルティング マネージングディレクター)

▪ 図表3│4つのゾーン ▪

破壊的イノベーション

トランスフォーメーションゾーン 新事業を拡大する

(CEO直下の新部門)

インキュベーションゾーン 新事業を育む

(R&D、事業開発部門)

パフォーマンスゾーン 既存事業で成果を出す

(ライン部門)

プロダクティビティゾーン 生産性を上げる

(スタッフ部門)

収益パ

持続的イノベーション

支援型投資

(5)

──名和さんが社外取締役を務めておられるファーストリ テイリングが新しいビジネスモデルとして「情報製造小売 業」を標榜するなど、いわゆるデータ駆動型の経営やビジ ネスモデルへの変革を志向する企業が増えています。

一般的にアパレルの製造小売りはリードタイムの長い事 業なので、半年前に意思決定しないと、商品が調達でき ません。半年先の天候は読めませんから、多くの在庫を 抱えてしまうことがあります。

半年の間には天候だけでなく、消費者の嗜好や競争環 境も変わります。そこで、変わることを前提にしながら、

アーリーインジケーターを見つけて、細かい修正をかけ ていく必要がある。それは、アパレルに限らず、さまざま な製造業、小売業に共通していえることです。

細かい修正をかけていくには、相当小さな管理単位でマイ クロマネジメントをしていかなくてはならず、日本のコングロ マリット経営の企業がうまくいっていないのは、そうしたマイ クロマネジメントが上手にできていないからともいえます。

マイクロマネジメントがうまいのは、日本電産やキーエ ンスなどで、身の変わり方がすごく早い。それを可能にし ているのが情報で、まさに情報製造業に近いビジネスモ デルと言っていいでしょう。

経営者に現場感覚を持たせる 意思決定システムが必要

──マイクロマネジメントをうまく行うためには、現場の 社員を情報武装化し、データに基づいた仮説・検証や行動 ができるようにしていくことも重要になりそうですね。

VUCA の時代には現場の瞬発力が競争優位を左右す るので、PDCA ではなく、 観 察(Observe)、 情 勢 判 断(Orient)、意思決定(Decide)、行動(Act)という OODA ループを高速で回していく必要があります。

OODA ループを回すには、観察や情勢判断ができる道 具を与えないと、現場は意思決定も行動もできません。そ うした道具や武器を与えた上で、現場に任せるべき意思決 定には本社が口を挟まないことです。大本営にいちいちお 伺いを立てていたのでは、戦局の変化に対応できませんから。

一方で、本社は本社でもっと大局的な観点から意思決 定を行う必要があります。OODA ループは局地戦を戦う ための意思決定プロセスなので、局地は局地で判断させ ながら、本社は局地戦の情報を統合して、どの局地に経 営資源を追加投入するのか、または撤退するのかといっ た判断をしたり、あるいは大きなトレンドを新たにつくった りといった戦略的な意思決定をしなくてはなりません。

日本企業の多くは現場主導ですから、もともと局地戦 には強いのですが、情報武装もせずに局地戦を繰り返し

ているので、大本営である本社は現場が見えていないし、

現場の情報を吸い上げて組織としてのナレッジを集積して いくといったことも進まないのです。

──現場と本社を結ぶ、シームレスなデータ基盤が必要 ですね。

カイゼン活動に象徴されるように、日本企業の現場では 仮説・検証や科学的発想ができているのに、経営層ではい まだに経験と勘、度胸の“KKD”が幅を利かせています。

私が経営層の人たちに常々申し上げているのは、まず 数字を見てくださいということです。数字に基づいて、ま ずはありそうな仮説を導き出してみましょうと。ただ、当 たり前のデータを見ていても、当たり前の仮説しか出て きません。それでは、他社との差異化はできませんから、

当たり前の仮説を疑ってみる、その仮説の裏をかく、ある いは自分たちらしい味付けをしてみる。それが経営者や CFO の価値ですし、そこで初めて KKD というアナログ の知恵が生きてます。

経営者がデータを見ないで判断しがちなのは、現場か ら遠く離れてしまって、五感を働かせることができるよう なリアルな情報が入ってこないからです。例えば、作り場

(工場)や売り場(店舗)で機械や人が動いているリア ルな現場を、数字や映像、音までを含めて全て見える化 できれば、経営者は鋭い勘を働かせられるはずです。

経営者のデスクトップにリアルな現場情報を出して、現場 感覚を取り戻せるようにする。そういう意思決定システムが あれば、日本の DX はもっと加速するのではないでしょうか。

(6)

「新しい SDGs」に対応するための  経営情報基盤

──名和教授は先の見えないVUCAの時代において、決 して外してはいけない大きなトレンドとして、「新しいSDGs」

(サステナビリティ、デジタル、グローバルズ)を挙げて います。デジタル技術をツール化、方法論化し、自社なら ではの方程式に落とし込んでいくと同時に、実験や開発 の拠点を世界各地に多極展開し、そこで生まれた情報やナ レッジをグローバルに吸い上げて、組織としてのナレッジに 統合するプロセスとインフラが重要だという指摘です。

 こうしたナレッジ統合のプロセスやインフラをどのよう に構築していけばいいのでしょうか。

久保(以下、略):デジタル時代の到来によってビジネス環境 が急速に変化する中、従来型のシステム導入やプロセス変 革は限界を迎えつつあるといわれています。ビジネスを支 える基盤が、変化のスピードに追いつくことができるのかと いう懸念があるからです。そこで注目を集めているのがEPM

(エンタープライズ・パフォーマンス・マネジメント)です。

ERP(統合基幹業務システム)がオペレーションエクセ レンス(卓越した業務)の基盤だとすると、EPM はマネ ジメントエクセレンス(卓越した経営)を実現するための 仕組みといえます。 

EPM の基本機能は、経営ダッシュボード・分析・予測 などです。中長期の戦略立案から、単年度の予算編成、

予算実績管理、勘定照合・突合、そして制度会計・管理

会計に至るまでの経営管理を支援します。

EPM の大きな特徴は 2 つあります。1つは、ERP とは 別の世界で進化を遂げてきたということ。会計システム を中心とした ERP は過去の取引や実績情報を正確に記帳 することが重要です。これに対して EPM は将来のデータ、

将来の予測が重要であり、正確性よりもスピードが求め られます。将来に対する打ち手を考えるためのツールが EPM なのです。

もう 1 つの特徴は、既存の ERP や会計システムはその ままで、グループ全体の経営情報を統合できることです。

名和教授も指摘されている通り、事業のグローバル展 開が進む中でグループ全体の経営情報を統合するのは簡 単なことではありません。世界中どこでも、グループ各 社が同一の ERP を使って情報を統合するのが理想ではあ りますが、実際にそれができている企業はほとんどありま せん。グループ内の会社ごと、あるいは同じ会社でも海 外拠点ごとに違うシステムを使っていたり、異なるプロセ スで業務を処理していたりするのが実態です。

EPM はそうしたばらばらな状態でも情報統合を可能に するもので、非常に現実的な統合基盤といえます。

海外では先進企業を中心に EPM を導入し、リアルタイム な連結経営情報の可視化、戦略的な多次元分析やシミュレ ーションなどを行っています。一方、日本では、制度会計の 連結の仕組みはどの上場企業も持っていますが、開示セグ メント単位の粗い情報、しかも過去実績中心の情報となるの で、分析と将来の意思決定にはあまり役に立ちません。

▪ 図表4│経営管理システムの位置づけ ▪

競争優位性

時間

オペレーション・レンス 業務の卓越性

マネジメント エクセレンス 経営の卓越性 EPM

ERP

経営ダッシュボード・分析・予測

AI/機械学習・音声認識・RPA ERP連携・統合マスター基盤

連結(管理・制度) 経営戦略立案・中長期計画 リコンサイル(勘定照合) 計画・予算・管理会計

会計・販売・調達・人事など

Part. 2

「経営管理クラウド」シェアNo.1*の日本オラクルに聞く

DX時代のCFOが手にすべき経営情報基盤とは

Part.1では、DX時代におけるCFOの役割について、一橋ビジネススクールの名和高司客員教授にインタビューし、多 くの示唆に富んだ話を聞くことができた。名和教授が示したCFOとしての役割を果たしていくためには、どのような 経営情報基盤を構築すればいいのだろうか。その点について、日本オラクルのクラウド・アプリケーション事業統括 ERP・EPMソリューション部部長の久保誠一氏に聞いた。 *2019年上半期の日本国内でのシェア。IDC調べ(2019年11月)

1

ERP ERP ERP

(7)

経営層が知りたいのは、なぜその事業が良いのか悪い のか、課題は製品なのか、地域なのか、あるいはチャネ ルなのかといったリアルな情報であり、それを知るにはい ろいろな切り口で分析する必要があります。既存システム ではそれができないため、いろいろなデータソースから 情報を集めて、Excel などを使って手作業で集計している のが多くの企業の実態です。

──具体的にグローバルかつグループ全体で経営情報を 統合していくには、どのようなアプローチがあるのですか。

グループ経営情報の統合アプローチには、大きく3つあ ります(図表 5 を参照)。

まず、「A. グループ経営ガバナンスモデル」は、基幹 系システムや業務プロセスはそのままで、EPM によって 情報統合を図ろうというアプローチです。具体例として、

ある EC(インターネット通販)大手企業のケースを簡単 にご説明しましょう。

この EC 企業は、月次決算プロセスにおいて 1 万 6000 もの Excel シートを使って、リコンサイル(勘定照合)を 手動で行っていました。業務プロセスの削減とスピードアッ プを図るために、この企業ではオラクルのリコンサイルシ ステムを導入し、照合業務全体の 8 割を自動化することに 成功し、日次ベースでの連結業績報告ができるようになり ました。

2 つ目のアプローチが、「B.+会計情報統合モデル」で す。企業によっては「A」のレベルでは明細情報が不十分 だと考えるところもあります。特に日本企業は現場の情報 を見たいというニーズが強く、それを可能にするのが「B」

のアプローチです。業務プロセスまでは標準化しないけ れども、会計の明細レベルや取引の情報は統合しましょう というものです。これによって原単位の取引や仕訳明細 の情報までさかのぼって分析することが可能です。

さらに一歩進めた統合アプローチが、「C.+会計業務標 準化モデル」です。このモデルでは、各社の会計業務を 標準化することで、より精度の高い情報をタイムリーに収 集できます。

EPM は変化することが前提の仕組みです。制度会計

の勘定科目を変えることはめったにありませんが、管理会 計では毎年、あるいは半期に1度、組織が変わることがあ りますし、製品・サービスも増えていきます。これに伴い 管理単位や KPI(重要業績評価指標)も変化していきます。

これらの変化に対してユーザーが自らメンテナンスを行え る点も、オラクルの EPM の大きなメリットです。

仮説・検証プロセスを高速回転 させるための経営情報基盤

──名和教授は先の見えない時代は、新しいことに何もチ ャレンジしないことこそが、最大の経営リスクであり、リー ンスタートアップのアプローチで、データに基づく仮説・検 証のプロセスを高速で回していく必要があると語ってい ます。それを可能にするインフラとはどのようなものでし ょうか。

クラウドサービスが有力な選択肢になります。クラウド サービスであれば、最短で 2 ~ 3 カ月程度と従来よりも クイックに導入できますし、いきなり全社展開するのでは なく、ある部門のある業務に限定して導入した上で、段 階的に拡張することも可能です。

クラウドサービスはコストの面でも優位です。クラウド だと初期投資のコストはオンプレミスに比べて、5 分の 1 から 10 分の 1 程度で済みます。

AI(人工知能)やブロックチェーンなど最新のテクノロ ジーを手軽に、いち早く活用できるのもクラウドの大き なメリットです。例えば、「Oracle EPM Cloud」は7つ の業務プロセスを対象とした基本的なソリューションの他、

月に 1 回、スマートフォンのアプリのように新しい機能が 追加されています。ユーザーはどの機能・ソリューション から始めてもいいですし、使いながら自社に最適なシステ ムに育てていくことが可能です。

オンプレミスの場合は、導入した時点がシステムとして最 高の状態ですが、クラウドの場合は、稼働した時がスタート ラインであり、そこから新しい機能を加えることなどによっ て、自社にとって最適なシステムにアップデートしていくこと ができるのです。

2

▪ 図表5│グループ経営情報統合の統合アプローチ例 ▪

A. グループ経営ガバナンスモデル グループ経営管理

制度連結 グループ予算管理

データ収集 会計

業務 会計 業務

会計 業務

会計 業務

会計

業務 本社 A社 B社 M&A M&A 高度化 早期にグループ経営情報一元化・ガバナンス強化 正確性透明性 データ。Excel取り込み時に整合性チェック 標準化 N/A

マスタ統

B. +会計情報統合モデル グループ経営管理

制度連結 グループ予算管理

データ収集

業務 業務 業務 業務 業務

会計

業務 本社 A社 B社 M&A M&A

+仕訳明細までドリルスルーした要因分析 共通ルール経由の精度の高い会計明細の統合 N/A

マスタ統

C. +会計業務標準化モデル グループ経営管理

制度連結 グループ予算管理

データ収集

会計

業務 本社 A社 B社 M&A M&A

+各業務(取引)までドリルスルー要因分析

+標準化された業務から精度の高いデータ連携

+会計業務の標準化による効率化

マスタ統

グループ会計情報管理(GL統合) グループ会計(仕訳、取引明細 など)

会計・調達業務管理 債権・債務 購買 .etc グループ会計情報管理(GL統合)

グループ会計(仕訳、取引明細 など)

(8)

Oracle EPM Cloud は、5 年前にリリースし、2019 年 6 月時点で世界の 4400 社以上、現在は 5000 社以 上に導入されています。国内でも数百社の導入実績を持 ち、経営管理システムでの国内シェアは 2019 年上半期で 41.6%(IDC 調べ)と圧倒的なトップになっています。

Oracle EPM Cloud は AI、音声認識、RPA(ロボテ ィック・プロセス・オートメーション)などを組み込んでおり、

業務の自動化を強力に支援できる上、ERP 連携、統合マ スター基盤をサポートする機能なども備えている点が評 価されています。

さらに補足すると、Oracle EPM Cloud は、グロー バルで 20 年以上にわたりトップシェアを維持してきた Hyperion(ハイペリオン)社の製品がベースとなってい ます。経営管理システムには、「クラウド計画・予算・管 理会計」と「連結決算・グループ経営管理」の 2 つの市 場が存在しますが、両方の市場でリーダーとして評価され ているのはオラクルだけです。

オプションバリューのある投資先を 見つけるための経営情報基盤

──名和教授は企業が変革のプロセスを実行していく上 でのCFOの役割として、「オプションバリューのある投資 先を見つける」ことを挙げています。投資に対するリター ンが一対一対応ではない複雑系の領域において、経営者 や事業部門に成長ストーリーを語らせ、データでモニタリ ングしながら結果を検証できるようにする枠組みを作る のがCFOの役割だという指摘です。

 一方で、自社内にある過去のデータだけでは、オプショ ンバリューを判断することは難しいとも述べています。

Oracle EPM Cloud にはすでに「予測プランニング」

という機能が搭載されています。これは EPM に蓄積され た過去のデータを基に、統計学的な予測をかけることが できる機能で、いわゆるデータサイエンスの領域です。

現時点で 13 種類の統計手法がすでにバンドルされて いて、データサイエンティストがいなくても、この中から 最適な予測手法を自動的に選んでくれます。これが使え ると、人が立てた予測、統計学的予測、実績の 3 つを比 較して分析することも可能です。

さらに、当社が予定している EPM の機能拡張が、オプ ションバリューの判断に大いに役立つと思われます。

例えば、今後出そうとしている予測機能は、EPM に蓄 積された過去の実績情報だけでなく、サードパーティーが 持っている天候や市場データ、SNS のビッグデータなど を連携させて、相関関係を機械学習で見つけるという新 機能「Intelligent Performance Management」です。

ある製品の売り上げ動向と相関を持つ何らかのデータ を学習済み AI が見つけてくるなど、人間では分からなか ったインサイト(洞察)を膨大なデータの中から探り出す ことができます。これら AI を組み込んだ機能は随時リリ ースの予定です。

経営管理業務において、今までできなかった自動化を どう実現するかも重要なポイントです。Excel を使った従 来の経営管理は、データの収集・加工・検証・修正が業 務の過半を占めていました。当社が EPM で提案したのは、

それらを自動化・効率化することで、データ分析など付加 価値の高い業務を増やしていこうということでした。

今後は分析業務をも自動化し、課題に対するアクション により多くの時間を割いていただきたいと考えています。

これを実現するのが、IPA(インテリジェント・プロセス・

オートメーション)と IPM(インテリジェント・パフォーマ ンス・マネジメント)の仕組みです。

IPA は RPA をパッケージの中に組み込んで、これまで 自動化が難しいといわれた業務の自動化を図っていくもの です。

一方の IPM は、機械学習と予測分析に基づき、意思決定 をサポートする情報をプロアクティブに提供する機能です。

Oracle EPM Cloud は最適なアルゴリズムをあらかじ め組み込んだ形で AI を提供していきますので、具体的な 業務で、すぐに試してみることができます。業務ユーザー 主導でメンテナンスや機能拡張ができるので、実際に使 いながら、高度化させていくことが可能です。

今までデータサイエンティストがやってきた、予測を立 て、それに基づいてレポートを作成するところまでを自動 化し、人間は課題解決へのアクションにつながる業務によ りシフトしていくというのが、オラクルの EPM が目指すと ころです。

Oracle EPM Cloud では、API(アプリケーション・プロ グラミング・インターフェース)を使って、企業内もしくは 社外のデータと連携することが可能で、より幅広いデータの 中から相関関係を見つけ出し、業績や投資に対する効果を 含めた予測を支援することが可能となります。

日本オラクル株式会社

TEL:0120-155-096

受付時間:月~金 9:00-12:00/13:00-17:00(祝日・年末年始休業日を除く)

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