Title
流行性耳下腺炎性睾丸炎の5例
Author(s)
片村, 永樹; 新井, 永植; 福山, 拓夫; 小松, 洋輔
Citation
泌尿器科紀要 (1967), 13(1): 35-41
Issue Date
1967-01
URL
http://hdl.handle.net/2433/113086
Right
Type
Departmental Bulletin Paper
Textversion
publisher
35 泌 尿紀 要13巻1号 ,昭 和42年1月
流行性耳下腺 炎性睾 丸炎 の5例
大阪府済生会中津病院泌尿器科(院 長:間 島良二博士)
片
村
永
樹
新
井
永
植
京都大学医学部泌尿器科学教室(主 任;稲 田 務教授)
福
山
拓
夫
小
松
洋
輔
FIVE
CASES
OF
MUMPS
ORCHITIS
Eizyu
KATAMURA and Eisyoku ARM
From the Department of Urology, Saiseikai Nakatu Hospital, Osaka
(Chief : Dr. E. Katamura)
Takuo
FUKUYAMA and Yosuke
KOMATSU
From the Department of Urology, Faculty of Medicine, Kyoto University
(Director : Prof.
T. Inada)
Five cases of adult mumps orchitis
were presented.
Four were affected unilateral
and
one was bilateral.
Testicular
biopsy was performed at acute stage in three of five cases, of
which findings were described.
Consecutive seminal analysis examined during 2 to 28 months
after orchitis revealed oligozoospermia in four cases.
1緒
言
流 行 性 耳 下 腺 炎 は ウイ ル ス に よ る伝 染 性 疾 患
で あ る.こ れ に 睾 丸 炎 を 併 発 す る こ とは 既 に
Hippokratesの
時 代 か ら知 られ,広
く一 般 成 書
に記 載 され て い る が,わ れ わ れ 泌尿 器科 医 が か
か る症 例 に遭 遇 す る こ とは 比較 的稀 で あ る.
最 近 そ の5例 を 経 験 した の で こ こに 報 告 す
る.近 年 ウイ ル ス学 の進 展 に よ り ム ン プス
ウ
イル ス は 唾 液 腺 と くに 耳 下 腺 を 侵 す の み な ら
ず,そ の他 の腺 組 織,神 経 組 織 に も強 い 親 和 性
を有 し,全 身 感 染 症 と して 扱 わ れ る よ うに な っ
た が,こ
こで は一 般 的 に 流 行 性 耳 下 腺 炎 性 睾 丸
炎(以 下M.Orchitisと
略)と
して記 載 す る.
■
自
験
例
症例1高
○亀○郎31才,建
設労務.
初診:昭 和41年8月1日.
主訴:右 睾 丸部の激痛,
現病 歴:5日 前 よ り右耳 下 腺 部 の 腫 脹,発 熱 を来 た し,4日 前 よ り右 睾 丸 部 に激 痛 お よび 腫 脹 が あ る. 局所 所 見=右 側睾 丸 は超 鶏 卵 大 に 腫 脹 し,陰 褒 皮 膚 は 発赤,浮 腫 状 で あ る.右 副 睾 丸 お よび 左 畢 丸 副睾 丸 に は 異 常 を認 め ない. 聖 丸Biopsy所 見:間 質 に は浮 腫 お よび 炎 症 性 細胞 浸 潤,出 血 性 変 化 を 認 め る. 精細 管壁 に は変 化 は 少 な い が,精 細 管 内腔 へ の 細 胞 浸 潤 と精 細 胞 系 の 脱 落 変性 が み られ る.Spermatoge-nesisは 減 少 して い る(Fig.1,2). 精 液 検 査所 見:表1に 一 括 す る. 治 療:ア ク ロマ イシ ンV静 注750mg×3日 タ ソデ リーノレ3錠 ×7日. 症 例2肥 ○ 政031才,洋 服 仕 立 人. 初 診:昭 和41年4月13日. 主 訴:右 下 腹 部 の 激 痛. 現 病 歴:1週 間前 子 供 が 流 行 性 耳 下 腺炎 に罹 患 し, 4日 前 右 の ち 左 の耳 下 腺 の 腫 脹 を きた した.1日 前 よ り右 睾 丸 部 の 激 痛 あ り,今 朝 よ り右 下 腹 部 に激 痛 を来36
片村他:流 行性耳下腺炎性聖丸炎の5例
表1自
験例の精 液所見
症 例
年令
L高 ○ 亀 ○ 郎31 2,肥 ○ 政031 3.四 〇 俊030 4.長 ○ 賢021 5,前 ○ 孝022患側
右
右
両
左
左
急性剃
・ヵ月後1・ 力服1・
力咽15カ
月後
6×106 Mob(一) WBC(+) 5。3×106 Mob50% WBC(+) 1×106 Mob(一) WB(+)C無精子症
5×106 Mob(一) WBC(+) RBC(+) 6.8×106 Mob(一) 15×106 Mob良 4.2×10e Mob良 36×106 Mob良 24×106 Mob70% 5×loe Mob良 28ヵ 月 後 6.3×106 Mob良治
療1備
考
セ ロ ト ロ ピ ソ90本 VB12 90本 ゴ ナ ス テ ロ ソ22本 VB,2 22本 一 子 あ り 罹 患 後 妊 娠(一) 一 子 あ り 罹 患後 妊 娠(+) 一 子 あ り た した. 局所 所 見:右 睾 丸 は 超 鶏 卵 大 に腫 大 し,圧 痛 著 明 で あ る.右 副 睾 丸 及 び 左睾 丸 副 睾 丸 に は異 常 を 認 め な い. 聖 丸Biopsy所 見:間 質 に 浮 腫 と リンパ 球,プ ラズ ・マ細胞,好 中 球 な どの炎 症 性 細 胞 浸潤 がっ よい.間 質 細胞 は 不 明瞭 とな って い る,精 細 管壁 は肥 厚 し,細 胞 が増 加 し てい る.精 細 管 は 不 規 則 に侵 され,内 腔 が炎 症 性細 胞 で満 され た もの と,精 上 皮細 胞 が 残 存 して い る精細 管 が 混 在 して い る. 巨大 細 胞 は 認 め られ ない(Fig。3,4). 治 療:ア ク ロマ イ シ ン1.09×7日,タ ソ デ リール 6錠 ×7日. 症 例3四 〇 俊030才,会 社 員. 初 診:昭 和41年5月27日. 主訴:両 側 翠 丸 の有 痛 性 腫 脹. 現 病 歴310日 前 に 左耳 下 腺 腫 脹 し,同 時 に 両 皐 丸 痛 が あ り,翌 日 よ り両耳 下 腺 腫 脹 し,両 睾 丸 が 腫 大 して きた. 近医 に て抗 生 物 質 の投 与 を うけ て い た. 局所 所 見:両 睾 丸 と も軽 度 に 腫脹 して い た, 睾 丸Biopsy所 見 ・リンパ 球,好 中球,プ ラズ マ 細 胞 の浸 潤 が つ よ く,精 細 管 は 萎 縮,破 壊 され てい る. 間 質 に は線 維 素 の 沈 着 が認 め られ る(Fig.5,6). 治 療:ア ク ロマ イ シ ソ1.09×7日,タ ン デ リール 3錠 ×7日. 症 例4長 ○ 賢021才,自 動 車 運 転 手. 初 診:昭 和39年4月22日 。 主訴:左 下 腹 部 痛. 現病 歴=左 耳 下腺 炎 発症 後1週 間 目に左 睾 丸 部 の 激 痛,の ちに 左 下 腹 部痛 を来 た した.高 熱が っ つ い て い Mob:運 動 性,WBC:白 血 球,RBC:赤 血 球 る, 局 所 所 見:左 睾 丸 は 超鶏 卵 大 に 腫 大 し,弾 性 硬 に 触 れ る.左 副 聖 丸 及 び 右 副睾 丸聖 丸 は 異常 を認 め な い. 治 療=ア ク ロマ イ シ ソ1.09×6日,タ ソ デ リール 3錠 ×6日. 症 例5前 ○ 孝022才,自 動 車運 転 手. 初 診:昭 和40年1月24日. 主訴:左 寒 丸 の有 痛 性腫 脹. 現 症=初 診 の1週 間 前 に 両側 耳 下 腺腫 脹 を来 た し, そ の腫 脹 が 消 腿 した と ころ,1月24日 よ り左睾 丸 部 が 有 痛性 に 腫 大 して 来 た. 局所 所 見 言右 睾 丸 に 比べ て 左睾 丸 は僅 かに 腫 大 して い る.左 副 睾 丸 に は 異 常 を 認 め な い. 治療:ア ク ロマ イ シ ソ1.09×6日.皿
考
按
病 源 問 題 本 症 は ム ン プ ス ウ イ ル ス に よ る.1934年 Johonson&Goodpasturei〕 が 始 め て ム ソ プ ス ・ウ イ ル ス の 分 離 に 成 功 し た .甲 野2)(1952) は ム ン プ ス ・ウ イ ル ス 感 染 は1つ のsystemic diseaseで あ っ て,耳 下 腺 炎 は そ の う ち 最 も頻 度 の た か い も の に す ぎ ず,ム ン プ ス ・ウ イ ル ス 感 染 の 全 貌 を 表 現 す る の に 流 行 性 耳 下 腺 炎 と い う 呼 称 は 不 適 当 で あ り,ま た 睾 丸 炎 を 耳 下 腺 炎 の2次 的 合 併 症 と 見 徴 す こ と も 妥 当 で な い と主 張 し て い る.そ し て ム ン プ ス ウ イ ル ス 感 染 を 臨 床 的 に2型 に 分 け,第1型 は 腺 組 織 系 統 を 侵 して 症 状 を 呈 す る も の で 耳 下 腺 炎,睾 丸 炎,卵片村他:流 行性耳下腺炎性睾丸炎 の5例
巣 炎,膵 臓 炎 等 を 起 し,第2型
は 神 経 系 統 を 侵
して症 状 を呈 す る もの で,髄 膜 炎,神 経 炎 等 を
起 す もの と し,第1型
で は 耳 下 腺 炎 以 外 の もの
で は思 春 期 以 後 の 成 人 に み られ,小 児 では 稀 で
あ り,第2型
は小 児 に 多 く成 人 に 少 な い との べ
て い る.
発 生 頻 度
流 行 性 耳 下 腺 炎 は小 児 期 に罹 患 す る こ とが 多
く,梢 男 子 に 多 く.4才
以 下40才 以 上 に は 少 な
い.患 者 の80%ま
でが15才 以下 で あ
る.Fried-wald3)は
免 疫 学 的 検 査 に よ り,成 人 で は60%
に耳 下腺 炎 の既 往 が あ り,30%は
不 顕 性 に感 染
を経 過 し,10%が
未 感 染 の状 態 に あ る と推 定 さ
れ る と述 べ て い る.終 生 免 疫 を得 る よ うで あ る
が,稀 に 再 感 染 を 起 す こ とも あ る.
M.Orchitis併
発 の頻 度 に関 し て は外 国 に お
い て は多 数 の報 告 が あ る(表2).流
行 に よ り
また 発生 した 集 団 に よ りか な りの差 を 認 め る よ
表2流
行性耳下腺炎性睾丸炎発生頻度
報 告
者
年代 量一
難
廃澱%
Wesselhoeft Benard Radin Dermon&LeHew Candel Gellis Rambar Eargel Werner Riggs Scott 1920 1927 1918 1944 1944 1945 1946 1947 1950 1962 1963 8,153 5,000 4,397 126 1,037 502 249 1,086 18.O l5.O l3.9 35.0 17.6 32.0 24.5 25.5 4,9 (成 人19) 14∼35 (成 人20) う で あ る. 一 般 に 幼 小 児 期 に 睾 丸 炎 を 合 併 す る こ と は 稀 で あ るが,思 春 期 以 後 で は 睾 丸 炎 合 併 の 頻 度 が 高 く な る.Wesselhoeft4)(1942),Cande15) (1951)はM.Orchitisは 思 春 期 お よ び 成 人 期 に 限 っ て 発 生 し10才 以 下 に は 発 生 し な い と述 べ て い る が,Werner6}は 小 児 期 に4例(小 児 期 流 行 性 耳 下 腺 炎 患 老 のO.5%)を 認 め,本 邦 に お い て も小 児 期2例 の 報 告 が あ る.Wernerは13 才 以 後 に 罹 患 し た も の で は19%にM.Orchitis の 合 併 を 認 め,Scott7〕(1960)は25,000名 の 成 37 人 の 耳 下 腺 炎 罹 患 者 の5分 の1に 睾 丸 炎 合 併 を み た と 述 べ て い る. 一 方 本 邦 に お い て は 矢 野8}(1953)の110例 , 吉 田9)(1955)の307例,落 合 工o)(1957)の188 例,矢 野11)(1964)の296例 と 各 々 流 行 時 に お け る流 行 性 耳 下 腺 炎 の 観 察 が あ る.こ の う ち 落 合 は11例(5.8%)(成 人7例)に 睾 丸 炎 の 合 併 を 認 め,吉 田 は 睾 丸 炎1例,卵 巣 炎1例 の 合 併 が あ っ た と報 じ て い る が,他 は 全 く睾 丸 炎 の 合 併 を 認 め て い な い.M.Orchitisの 本 邦 報 告 例 は 昭 和18年 ま で 田 村12)の18例,昭 和18年 ∼ 昭 和30 年 ま で 小 川131等 の12例 の 集 計 が あ る が(表3), 以 降 現 在 ま で わ れ わ れ の 調 べ え た 範 囲 で は 報 告 例 を 見 出 さ な か っ た.未 報 告 例 も か な り あ る と 思 わ れ る が,そ れ に し て も 欧 米 に 比 し て 頻 度 は 低 い よ う で あ る. 病 理 急 性 期 の 所 見 に っ い て は,Ga1114},Charnyi5}, 酒 徳16).小 川 の 記 載 が あ る.後 期 の 所 見 は, Scottが 報 告 し て い る. 陰 嚢 皮 下 組 織 は 肥 厚 し 浮 腫 状 で あ る.鞘 膜 腔 に は 多 少 滲 出 液 が 増 加 し て い る 程 度 で,陰 嚢 水 腫 は 認 め な い.鞘 膜 内 板 に は 斑 点 状 に 線 維 性 物 質 が 付 着 し,表 面 の 血 管 は 拡 張 努 張 し て い る. 睾 丸 は 全 体 に 硬 く触 れ,青 味 を お び,被 膜 切 開 を 加 え て も 内 容 は 圧 出 さ れ な い, 組 織 学 所 見:一 般 に 巣 状 に 変 化 が 起 る と い わ れ,間 質 の 浮 腫 に 始 り,間 質 の 血 管 は 拡 張 充 盈 し,リ ソ パ 球,プ ラ ズ マ 細 胞,組 織 球 様 細 胞 の 浸 潤 が 認 め ら れ る.自 験 症 例1の ご と く,精 細 管 壁 の 変 化 は 未 だ 少 な い 第2∼ 第3病 日 に な る と 問 質 の 細 胞 浸 潤 は さ らに 高 度 と な り,う っ 血,線 維 素 沈 着 を 認 め る.こ の 頃 に な る と精 細 管 壁 は 肥 厚 し,精 細 管 の 中 心 部 に,リ ソ パ 球,プ ラ ズ マ 細 胞,好 中 球 等 の 炎 症 性 細 胞 浸 潤 が 始 ま り,精 細 胞 系 の 脱 落,変 性 破 壊 が 起 る.一 部 の 精 細 管 で は 精 細 胞 系 は 全 く 消 失 し,セ ル ト リ ー 細 胞 の み と な る. 自 験 症 例2に お い て,精 細 管 壁 の 肥 厚 お よ び 精 細 管 内 腔 に 炎 症 性 細 胞 浸 潤 が 著 明 で あ る.精 細 胞 系 の 残 存 し て い る精 細 管 も 認 め られ る.さ ら に 進 行 す る と精 細 管 内 腔 は 全 く リ ン パ 球,プ ラ38
片村他:流 行性耳下腺炎性睾 丸炎 の5例
表3流
行性耳下腺炎性睾 丸炎本邦報告例
番号擁 潴
年代 匡
令1。雑 議
患
側
と 合 併
症
睾 丸 炎 治 療 日 数
1 小 林1924 19 5日左側(両 側難聴)
記載な し
2 代 田1926 20 7日右側(両 側難聴)
5日 後 下 熱 3 池 上1928 23 8日左側
む3日 目 よ り下 熱腫 脹 去 り始 4 北 野1929 43 2∼3日患側不明(脳 膜炎)
18日 5 伊 藤 〃 18記載な し
左 側(血 尿 一尿 意 頻 数)記載な し
6 片 平1931 32 10日両側
21日 7 藤 田1932 26 4日右側
腿10日 目に下 熱 同時 に 腫 脹 消 8 大 山 〃 32 5日両側
13日 9 〃 〃 21 5日右側(右 乳腺炎)
12日 10 増 田1933 27 20日両側
工5日 11 鵜 沢1934 5記載な し
記載 な し
数 日 12 長 竹1937 29 耳 下腺 炎の1日 前左側
17日 13 稲 垣1938 32 7日両側
4日 間 で 稽 々腫 脹 消 腿 14 倉 垣 〃 23記載な し
記載 なし
記載な し
15 大 藤1939 39 〃右側
〃 16 本 村1940 6年4カ 月 耳 下腺 炎 の1日 前右側(出 血性腎炎)
18日 17 田 村1942 22 5日右側
9日 18 〃 〃 24 3日 〃 5日 19 近 藤1949 27 5日 〃 12日 20 〃 〃 26 9日 〃 9日 21 〃 〃 24 7日 〃不明
22 鈴 木1951 20 10日左側
7日 23 〃 〃 22 6日 右 側(右 副 睾 丸 ・精 嚢 炎) 15日 24 野 村1955 22 7日右側(右 副睾丸炎淋巴球性髄膜炎)
7日 25 酒 徳1958 24 5日右側
記載 なし
26 小 川 〃 22同時
両側(両 副睾丸炎)
10日 27 〃 〃 ' 30 3日両側(両 副睾丸炎)
8日 28 〃 〃 24 4日右側
5日 29 〃 〃 29 2日両側(両 副睾丸炎)
7日 30 鈴 木 〃 28 7日左側
14日 31 〃 〃 29同時
〃 8日 32 自験例1966 31 1日右側
10日 33 〃 〃 3正 3日 〃 7日 34 〃 〃 30同時
両側
7日 35 〃 〃 21 7日左側
7日 36 〃 〃 22 7日 〃 12日 1ズ マ細 胞,組 織 球 様 細 胞 で 占 め られ,こ れ らの
細 胞 浸 潤 のた め,精 細 管 構 造 は 不 明瞭 となっ て
了 う.間 質 細 胞 も不 明瞭 とな り認 め られ な くな
る.自 験 症 例3で は 細 胞 浸 潤 が 高 度 とな り精 細
管 構 造 は 不 明 瞭 と な り萎 縮 して い た,
炎 症 が 軽 度 の 場 合 は 治 癒 に お もむ き精 細 管 は
再 生 す るが,高 度 の場 合 は精 細 管 壁 は硝 子 様 に
肥 厚 し,精 細 胞 系 は 全 く消 失 す る.間 質 に は線
維 増 殖 が 起 る.な お,ウ イ ル ス に よ る病 変 の 特
徴 で あ る封 入 体 を認 め た との 記 載 は ない.自 験
例 に おい て も認 め る こ とは で き なか っ た.
診 断
急 性 耳 下 腺 炎 が存 在 し,し か も流 行 時 に は診
断 は 容 易 で あ る.
散 発 的 で耳 下 腺 腫 脹 を 欠 く場 合 は1)赤
血 球
凝 集 抑 制 試 験2)補
体 結合 反 応3)ウ
イ ル ス分
離4)皮
内反 応 な どの特 異 的 診 断 法 に よ らね ば
な らな い.
片村他=流 行性耳下腺炎 性睾丸炎の5例
こ の 他 患 者 の 病 歴 で 耳 下 腺 炎 患 者 と の 接 触 機 会 の 有 無 を 参 考 に し な け れ ぱ な ら な い. 症 状 お よ び 経 過 悪 寒,高 熱,悪 心 嘔 吐 お よ び 耳 下 腺 腫 脹 に 始 り,通 常 耳 下 腺 腫 脹 後5∼7日 目 に 睾 丸 に 激 し い 疹 痛 を 訴 え,睾 丸 は 腫 大 す る. し か し睾 丸 炎 の 症 状 が 耳 下 腺 腫 脹 に 先 行 す る 例,睾 丸 炎 の み で 経 過 す る 例 の 報 告 も あ る.一 般 に 偏 側 性 に 来 る こ と が 多 い が,約5分 の1に 両 側 性 罹 患 が 認 め ら れ る(Werner).本 邦 例 で は36例 中7例 に 両 側 性 罹 患 を 認 め る .他 覚 的 に は 陰 嚢 皮 膚 は 発 赤 浮 腫 状 に 腫 脹 し,罹 患 側 陰 嚢 内 容 は2∼3倍 の 大 ぎ さ に 腫 大 す る.睾 丸 は 圧 痛 が 著 明 で あ り弾 性 硬 に 触 れ,局 所 体 温 上 昇 を 認 め る.検 査 所 見 と し て は 耳 下 腺 炎 の 結 果 第1 週 ま で,血 清 ア ミ ラ ー ゼ,尿 中 ア ミ ラ ー ゼ の 上 昇 を 認 め る. Mongani7)(1959)は30例 のM,Orchitisに つ い て,そ の 自然 経 過 を 観 察 し て い る が,発 病 後2∼3日 で 最 高 潮 に 達 し,有 熱 期 間 は 第3∼ 第4日 ま で つ づ き,第6∼ 第8日 目 か ら 睾 丸 の 腫 脹 が 消 腿 す る と述 べ て い る 。 予 防 お よ び 治 療 未 だ 決 定 的 な 予 防 お よ び 治 療 法 は な い 以 前 は 浮 腫 に よ る 睾 丸 実 質 の 圧 迫 萎 縮 を 防 ぐ 目 的 で,睾 丸 被 膜 穿 刺,陰 嚢 水 腫 液 の 除 去 等 の 外 科 的 療 法 が 行 な わ れ た が,既 にCharnyが 指 摘 した ご と く精 細 管 の 変 性,破 壊 は 浮 腫 に よ る 圧 迫 萎 縮 よ り も 炎 症 性 細 胞 浸 潤 に よ る 方 が 大 で あ る の で,今 日 で は 最 早 行 な わ れ な い. 安 静,挙 睾,局 所 冷 湿 布,鎮 痛 解 熱 剤 投 与 な ど の 従 来 か ら の 対 症 療 法 の 他 に 種 々 の 抗 生 物 質 が 投 与 さ れ る が,予 防 お よ び 治 癒 経 過 に 著 効 は な い.Diethylstilbestrol投 与 に つ い て も そ の 効 果 は 不 定 で あ る(Savran,ユ946;Norton, 1950;Hoyne,DiamondandChristian,1949). Cortisonの 効 果 に 関 し て は 多 数 の 報 告 が あ る が,予 防 的 な 効 果 は な い が 対 症 的 に 著 効 を 示 す と い わ れ る(Solem,1959;Risman,1956; ZelroffandFatheree,1957).し か しMongan (1959)はCortisone投 与 群 と 対 照 群 と を 比 較 し て,臨 床 経 過 上 殆 ん ど差 を 認 め な か っ た と述 39 べ て い る. 唯,回 復 期 患 者 血 清 の γ一グ ロ ブ リソ が 予 防 的 な 効 果 を も っ て い る よ う で あ る(Gellis,194518) ;Risman,1956;Scott,1963).Gellisは 対 照 群27.4%の 睾 丸 炎 併 発 の 頻 度 が 投 与 群 で は 7.8%に 減 少 し た と報 告 し て い る. 合 併 症 副 睾 丸 炎,前 立 腺 炎,精 管 炎 な ど の 隣 接 臓 器 へ の 波 及 が 認 め ら れ る が,問 題 と な る の は,睾 丸 萎 縮 な ら び に そ の 後 に 起 る不 妊 症,そ し て 極 め て 稀 で あ る が 腫 瘍 の 発 生 で あ る.睾 丸 萎 縮 は 炎 症 消 失 後1∼6ヵ 月 の 間 に 起 り(Werner), そ の 発 生 頻 度 は36∼55%と い わ れ る(Wessel-hoeft,1920;Cande1,1945;DermonandLe Hew,1944;Werner,1950).男 性 不 妊 症 の 病 因 と し て 本 症 の 占 め る 割 合 は 小 さ い よ う で あ る. これ は 先 述 し た よ う に 耳 下 腺 炎 に は 大 部 分 は 小 児 期 に 罹 患 し,思 春 期 後 の 罹 患 は 少 な い こ と, ま た 小 児 期 に お い て は 睾 丸 炎 を 来 す こ とが 稀 で あ る こ と か ら首 肯 で き る.WemerはMOrc-hitisの13%は 不 妊 と な る が,耳 下 腺 炎 全 体 の 数 か ら み れ ば 非 常 に 少 な く男 性 不 妊 の 原 因 と し て 本 症 は 重 要 で な い と 述 べ て い る. 本 邦 で は 石 神19}(1957)が 不 妊 男 子67例 中1 例,酒 徳(1958)が102例 中5例,志 田20,(1950) が80例 中4例 にM.Orchitisに よ る と 思 わ れ る も の を 認 め て い る.最 近 の 本 邦 諸 家 の 男 性 不 妊 症 の 臨 床 統 計 を み て も,そ あ15∼20%に 流 行 性 耳 下 腺 炎 の 既 往 が み ら れ る が 不 妊 と の 因 果 関 係 は 明 ら か に さ れ て い な い(石 神2n,1962;加 藤 22} ,1965;入 沢23},1966)Heinke24}が 述 べ て い る よ う に 流 行 性 耳 下 腺 炎 に 罹 患 し て も不 顕 性 に 睾 丸 炎 を 経 過 し て い る場 合 も推 測 さ れ,こ れ が 不 妊 を 招 来 す る よ う な 睾 丸 の 病 的 変 化 の 原 因 と な っ て い る 場 合 が あ る の か も知 れ な い. 不 妊 と な る 絶 対 数 は 少 な い わ け で あ る が,一 旦M.Orchitisに 罹 患 す る とか な り高 率 に 造 精 機 能 の 障 害 を 来 す よ う で あ る.雌chelson25) (1947)はM.Orchitisの 既 往 の あ る19例 に つ ぎ9例(47.3%)に 無 精 子 症 を 認 め,う ち 両 側 性 罹 患 は8例 で あ っ た と 記 載 し て い る.Scott (1960)は 思 春 期 以 後 にM.Orchitisに 罹 患 し40