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地域猫活動の支援
阿部 勝彦1) 藤井 信昭1) 堀 敬太1) 大川 育之1)
森田不二子2) 河野 憲治1) 鈴木 裕子1)
(受付:平成28年12月20日)
Support for volunteer activity to care for stray cats
KATSUHIKO ABE1), NOBUAKI FUJII1), KEITA HORI1), YASUYUKI OKAWA1), FUJIKO MORITA2), KENJI KOUNO1) and YUKO SUZUKI1)
1) Hiroshima City Animal Control Center, 11-27, Fujimi-cho, Naka-ku, Hiroshima 730-0043
2) Hiroshima City Agriculture, Forestry and Fisheries Promotion Center, 8-30-12, Fukawa, Asakita-ku, Hiroshima 739-1751
SUMMARY
We developed a regional cat protection campaign to reduce the number of stray cats that occupy a large proportion of animals that need to be culled.
Neighborhood associations took the lead to discuss the following: 1) management of pet food and toilets, 2) implementation of a trap-neuter-return (TNR) program including the modes of trapping and transportation, 3) raising awareness in the neighborhood, and 4) addressing complaints and any issues that may arise.
Centers that received requests for support provided personnel to perform surgeries at no cost. In order to maintain the number of stray cats at a minimum in each region, the TNR program was implemented as needed when new stray cats were found.
The benefits of this program include 1) the ease of implementation because it is provided for free, and 2) low financial and operational costs. Thus, the program is effective for reducing the number of stray cats.
We have been providing this service for 2 years; we received requests from 147 neighborhood associations from 8 districts, and performed surgeries on 915 cats. As a result, neighborhood associations have reported reductions in cat crying (76%), cat manure (59%), cat food being left over (72%), and issues with people feeding cats (64%).
──Key words: volunteer activity to care for stray cats, trap-neuter-return, TNR
1)広島市動物管理センター(〒 730-0043 広島市中区富士見町 11-27)
2)(公財)広島市農林水産振興センター(〒 739-1751 広島市安佐北区深川八丁目 30-12)
─ 110 ─
は じ め に
近年,広島市動物管理センター(以下「センター」
という.)には,市民から猫に関する苦情が多く寄せ られるようになった.中でも,野良猫のふん尿被害や 鳴き声などに関する苦情が最も多く,エサを与える人 と住民がトラブルになっているケースもある.
センターでは毎年,約1300頭に上る野良猫の引き 取りを行ってきたが,地域の野良猫やその被害が減る 様子はなく,エサを与える人(以下「エサやり」とい う.)に無責任な給餌に対する指導を繰り返しても,
効果が見えない状況が続いてきた.
そうした中,平成23年度の犬猫殺処分頭数で広島 県が全国最多であったことがクローズアップされ,殺 処分数の大部分を占める野良猫の引き取り頭数を減ら す対策が急務となった(図1).そこで,野良猫を減 らすことにより被害の軽減が期待できる野良猫対策と して国も推奨1)し,全国的に広がりを見せている「地 域猫活動」に,平成26年度から広島県全体で取り組 むことになった.今回,センターで行った地域猫活動 の支援の状況及び地域での活動状況についてまとめた ので報告する.
*地域猫活動とは
地域に住む人が主体となり,野良猫に不妊去勢手術
(以下「手術」という.)をするなど適切な管理を行っ て,野良猫の数を減らすことで野良猫を原因とする環 境問題を解決し,「住みよい地域」をつくるための活動.
(TNRとは:野良猫を捕獲(trap)・手術(neuter)
を行い・元いた場所に戻す(return)ことを指し,地 域の合意がある場合は地域猫活動という.地域猫活動 そのものを意味するものではない.)
方 法
1.支援方法
動物病院で猫の不妊去勢手術を行う場合は,高額な 費用が必要となる.町内会・自治会等(以下「町内 会」という.)からの費用負担や市の助成による方法 では多頭数の手術実施が困難であり,活動の普及は期 待できないことから,センターが手術を実施して支援 する方式とした.
センターが行う支援の流れは以下のとおりである.
1) 町内会から野良猫相談を受けた際に,地域猫 活動の説明をする.
2) 必要に応じて,役員会等に職員が出向き,地 域猫活動の説明会を実施し,以下のことを説明 する.町内会が実施主体となって次の活動を行 うこと.①エサ・トイレ管理の実施,②TNR の実施,③TNRの実施に際し,飼い猫を間違 えないために地域内の世帯に周知すること,④ 地域猫に関する苦情・トラブルに対応すること 等
3) 町内会で実施決定されれば,支援要請書をセ ンターに提出する.
4) 地域内の世帯に回覧等で地域猫活動を行うこ 要 約
殺処分数の大部分を占める野良猫の引き取り頭数を減らすため,「地域猫活動」に取り組 んだ.
町内会が実施主体となり,以下のことを決める.①エサ・トイレ管理の実施,②TNR
(Trap:野良猫を捕獲,Neuter:手術,Retern:戻す)のための捕獲・搬送,③地域内への周 知,④苦情・トラブルに対応すること等.
支援申請を受けたセンターは,職員が無料で手術を実施する.新たな流入猫が見つかる度 にTNRを繰り返し,町内会の範囲内で,野良猫が増えない状況を維持する.
この方法のメリットは,①無料であるため町内会が取り組みやすいこと,②低コスト・簡 便手術であるため,財政負担・業務負担が少ないことがあげられ,効果的に野良猫の数を抑 制することができる.
支援を開始して2年経過し,市内8区の147町内会から申請があり,手術実施頭数は合 計915頭となった.活動を開始してしばらく経過した町内会からは,鳴き声が減った
(76%),ふん尿被害が減った(59%),エサの放置が減った(72%),エサやりとのトラブ ルが減った(64%)と報告を受けた.
──キーワード:地域猫活動,TNR,野良猫
─ 111 ─ とを周知する.
5) 必要に応じて町内会,センター職員,動物愛 護団体で現地調査を行い,野良猫の頭数,エサ やり場所,捕獲・搬送方法を確認する.
6) 地域内の世帯に捕獲日等を周知する.
7) 動物愛護団体・住民(エサやり)で猫を捕獲 し,センターに搬送する.
8) センター職員が,無料で手術を実施し,耳の
Ⅴ字カット,ノミ取り,ワクチン接種を合わせ て実施する.
9) 動物愛護団体・住民でセンターから搬送し,
翌日に元の場所に放す.
10) 活動を開始後,対象の野良猫の手術がある程 度進んでいる町内会に,約半年ごとに報告書
(アンケート形式)を提出してもらう.
11) 新たに他所から入ってきた野良猫には,その 都度TNRを実施し,猫が増えない地域を維持 する.
2.周知方法
市民からの野良猫の苦情相談時には地域猫活動を提 案した.また,広島市公衆衛生推進協議会の会議の場 でPRするとともに,地元新聞や市広報紙に記事を掲 載,地元テレビで紹介してもらうこと等により周知を 図った.
3.手術方法
野良猫のTNR活動を行っている市内の動物愛護団 体に協力を依頼し,当該団体のTNR専任獣医師の指 導のもとでセンターの職員(獣医師)が実地訓練を1 年間行い,TNR専用の手術方式を習得した.
簡単に言うと,鎮静・麻酔後,オスは睾丸摘出後に 陰嚢は縫合せず開放とし,メスは卵巣子宮摘出後に筋 層は絹糸,皮膚は吸収糸で縫合する.術後には手術済 の印として,左耳をV字にカットする.抗生剤・3 種混合ワクチン・ノミ駆除剤・駆虫薬を投与して終了 とする.通常,手術に要する時間は保定後,オスで5 分,メスで30分から1時間を要する.
結 果
1.実施地区
地域猫活動の支援を開始して2年が過ぎたところ であるが,市内8区の147町内会から申請があり,
手術実施頭数は合計915頭となった(平成28年11 月末現在).1町内会で39頭実施した町内会もある.
2.活動報告
既に予定頭数の野良猫の手術が済み,しばらく経過 した町内会にアンケート形式の報告書を送り,回収し た.報告のあった41町内会において,好意的な内容 であった.内訳として,鳴き声が減った(76%),ふ ん尿被害が減った(59%),エサ等の放置が減った
(72%),エサやりとのトラブルが減った(64%)で ある(図2).
表 地域猫活動実施方法の違い 実施
方式
手術 実施者
手術の リスク
職員 負担*1
市民の
費用負担 財政負担 頭数
制限
エリア 全頭手術
費用負担できない 町内会での実施 助成金
方式
開業 獣医師
○ 無
○ 無
× 有
× 重
× 有
× 困難
× 困難
センター内 手術方式
センター 職員
× 有
× 有
○ 無
○ 軽
(安価な消耗品費のみ)
○ 無
○ 可能
○ 可能
協定 開業獣医師
○ 無
○ 無
○ 無
△ 中
(消耗品費+
開業医への報酬)
○
無 △ ○
可能
*1:申請数が増えれば実施困難に。
図 1 犬(A)および猫(B)における引き取り後の譲渡・返還・殺処分数の推移
0 100 200 300 400 500
H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26
譲渡 返還 殺処分
0 500 1,000 1,500 2,000 2,500
H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26
譲渡 返還 殺処分
犬 猫
A エリア内に未手術の猫を残した場合 B エリア内の猫が全頭手術済みの場合
※図中の
○
未 は未手術猫、○
済 は手術済猫を表す。図 3 エリア内に未手術猫がいる時・いない時の違い
(頭)
引 取 頭 数
(年度) 引 取 頭 数
(頭)
(年度)
(A) (B)
図 1 犬(A)および猫(B)における引き取り後の譲渡・返還・殺処分数の推移
図 2 地域猫活動の報告結果
─ 112 ─
考察とまとめ
申請数が順調に伸びている理由として,町内会が取 り組みやすいように実施条件のハードルを高くしすぎ ないことがあげられる.例えば,エサやりルール・ト イレ管理は,最初から完璧を求めていない.また,捕 獲・搬送を町内会でできない場合は,動物愛護団体等 の協力してくれるボランティアを紹介している.
多くの自治体で既に地域猫活動の支援が行われてお り2),大きく2つの支援方法に分類される(表).一 つ目の支援方法は助成金方式で,1頭当たり数千円の 助成金を,申請者又は手術を行った開業獣医師に支払 うものである.(例えばある自治体では,申請者一人 当たり3頭までの手術を開業獣医で行った費用のう ち,1頭当たり5000円を申請者に助成している.)
この方法では,費用を負担できない町内会は地域猫活 動の実施が困難となる.もう一つの支援方法はセン ター内手術方式で,職員獣医師や協定を結んだ開業獣 医師がセンター内で手術するもので,開業獣医師が実 施した場合には報酬を支払う.職員が手術する方が財
表 地域猫活動実施方法の違い 実施
方式
手術 実施者
手術の リスク
職員 負担*1
市民の
費用負担 財政負担 頭数
制限
エリア 全頭手術
費用負担できない 町内会での実施 助成金
方式
開業 獣医師
○ 無
○ 無
× 有
× 重
× 有
× 困難
× 困難
センター内 手術方式
センター 職員
× 有
× 有
○ 無
○ 軽
(安価な消耗品費のみ)
○ 無
○ 可能
○ 可能
協定 開業獣医師
○ 無
○ 無
○ 無
△ 中
(消耗品費+
開業医への報酬)
○
無 △ ○
可能
*1:申請数が増えれば実施困難に。
図 1 犬(A)および猫(B)における引き取り後の譲渡・返還・殺処分数の推移
0 100 200 300 400 500
H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26
譲渡 返還 殺処分
0 500 1,000 1,500 2,000 2,500
H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26
譲渡 返還 殺処分
犬 猫
A エリア内に未手術の猫を残した場合 B エリア内の猫が全頭手術済みの場合
※図中の
○
未 は未手術猫、○
済 は手術済猫を表す。図 3 エリア内に未手術猫がいる時・いない時の違い
(頭)
引 取 頭 数
(年度) 引 取 頭 数
(頭)
(年度)
(A) (B)
図 3 エリア内に未手術猫がいる時・いない時の違い 表 地域猫活動実施方法の違い
実施方式 手術
実施者 手術の
リスク 職員
負担*1 市民の
費用負担 財政負担 頭数
制限 エリア
全頭手術 費用負担できない 町内会での実施 助成金方式 開業
獣医師 ○
無 ○
無 ×
有 ×
重 ×
有 ×
困難 ×
困難
センター内 手術方式
センター職員 ×
有 ×
有 ○
無
○軽
(安価な消耗品費のみ)
○無 ○
可能 ○
可能
開業獣医師協定 ○
無 ○
無 ○
無
△中
(消耗品費+
開業医への報酬)
○無 △ ○
可能
*1:申請数が増えれば実施困難に.
政負担はより少ないが,手術のリスクと職員の負担を 伴う.この方法であれば,市民の費用負担はない.い ずれの方式も,予算計上限度の頭数に達した時点でそ の年度の助成は終了となる.また,一人当たりの実施 頭数が制限されていることが多い.しかし,未手術猫 が残ってしまうと繁殖スピードに負けてしまい,効果 が表れにくい3).
色々な方法を模索し,市の厳しい財政状況も考慮し て,最終的にセンターの職員である獣医師自らが手術 を行う方法を選択することとなったが,結果的には効 率的で良い方法であったと考える.
その理由として,①町内会の費用負担がないこと,
②町内会のエリアにいる全ての野良猫を手術するた め,他所からの野良猫流入を防ぐことができる(図3),
③TNR専用の手術法により,低コスト・短時間で実 施可能であること,④センターの獣医師のスケジュー ルに合わせて搬入頭数や日程を調整し,勤務時間内に 無理なく手術を実施できることなどがあげられる.
センターが地域猫活動の支援を始めてようやく2 年が過ぎたところであり,効果の判定を行うには時期
─ 113 ─ 尚早だが,この活動が市民に周知されていくことによ り,野良猫の持ち込みが徐々に減っている.また,市 内には数年前から寄付金を募り地域猫活動を進めてき た先進的な町内会があるが,その町内会によれば,4
〜5年で野良猫は激減し,50頭近くいた野良猫が現 在は7頭になったと聞いている.地域猫活動による 野良猫減少効果は数年先でなければ判定できないが,
子猫が生まれない,発情やケンカの声がしなくなる,
ふん尿の臭いの軽減,エサやりとのトラブルの解消と いう,すぐに目に見える効果があることを相談者には 粘り強く説明していきたい.
今後も,猫を原因とするトラブルの無い「人と猫が 共生できるまちづくり」のため,ひいては不幸な猫が いなくなることを期待して,この活動を継続していき たい.
文 献
1) 住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン
(環境省)
2) 動物愛護管理行政事務提要(平成28年度),環 境省自然環境局総務課動物愛護管理室
3) 土田あさみ:行政による地域猫活動の支援状況お よびその効果について,東京農大農学集報,57 (2)
119〜125(2012)