論文内容要旨
論文題名 Novel gene Merlot inhibits differentiation and promotes apoptosis of osteoclasts
(新規遺伝子Merlotは破骨細胞分化を阻害しアポトーシスを促進させる)
掲載雑誌名 Bone Vol. 138, 2020年 doi: 10.1016/j.bone.2020.115494. 掲載
専攻名 病理系 薬理学 医科薬理学分野 氏名 山 川 智 之
内容要旨
破骨細胞の寿命を決定するメカニズムは完全には解明されいない。破骨細胞の寿命延長 は、骨粗鬆症や関節リウマチなどの骨疾患の病因に深く関与してる。我々は、遺伝子網 羅解析の結果からマウスの破骨細胞分化の過程で約 10倍に発現量が増加する新規遺伝 子を見出し、本研究でこれを myeloid and encephalic region-located transcript
(Merlot)と命名した。Merlot は脊椎動物で高度に保存されているがまだ詳しい働きが
未知であったが、我々はMerlotがアポトーシスの誘導を経由し破骨細胞形成の寿命を 調整するために重要であることを発見した。
Merlot を単球/マクロファージ系列細胞株 RAW264.7 細胞に過剰発現させると成熟破骨
細胞形成は抑制され、CRISPER/Cas9遺伝子編集システムを用いてMerlotを欠失すると 破骨細胞分化は促進した。これらの結果と一致して Merlot欠損マウスは野生型マウス に比べ破骨細胞数増加と骨吸収の増加により骨量が減少することが判明した。破骨細胞 分化の促進には、RANKLシグナル下流で破骨細胞分化マスター転写因子である Nuclear factor of activated T cell c1 (NFATc1)が核内移行し活性化することが必須であり、
成熟破骨細胞ではNFATc1が核外に排出されアポトーシスを引き起こす。Merlotを欠損 させた破骨細胞前駆細胞はNFATc1の核局在化を持続させアポトーシスを引き起こさず、
長期生存することが分かった。このシステムとして NFATc1活性の調整とアポトーシス を誘導すると知られているderepression of glycogen synthase kinase-3 (GSK3)を 抑制することにより、破骨細胞が過剰多核形成となり破骨細胞の生存を延長させること を解明した。Merlot 欠損破骨細胞は caspase-3 を介したアポトーシスを抑制すること もわかった。Merlot 欠損は実行型カスパーゼCasp-3,-6,-7とBax,Bak,Noxa,Bim を含 む前アポトーシスカスケードの転写の発現低下を引き起こし、抗アポトーシスである Bcl2の発現上昇によりアポトーシスの閾値低下となった。Merlot は破骨細胞分化抑制
と同時に NFATc1-GSK3軸の調整を介したアポトーシスの誘導により破骨細胞寿命を調
整していることが分かった。Bcl-2ファミリーはアポトーシスだけでなく破骨細胞の分
化や機能など多様な機能を持っている。そのため、破骨細胞のアポトーシスを改変させ る新規治療の開発では、特定の関与するタンパク質を標的とするよりもアポトーシス経 路のバランスを変えることによりアポトーシスの閾値を低下させるのがより良いと考 えられる。今回の結果から、Merlot 欠損は一般的にアポトーシス経路の発現低下を引 き起こす。その結果、骨吸収活性に影響することなく破骨細胞の生存延長となる。その ため、Merlot をターゲットとすることは破骨細胞のアポトーシスを調整するのに有益 な治療アプローチとなりうる。