A . 研究目的
侵襲性肺炎球菌感染症 (IPD) は、ワクチン接種 により予防可能な疾患である。日本国内において は、成人を対象とする肺炎球菌ワクチンとしては、
23価 肺 炎 球 菌 莢 膜 ポ リサ ッカラ イド ワ ク チ ン
(PPSV23)および沈降13価肺炎球菌結合型ワクチ ン (PCV13) が承認されている。また、PPSV23 が 65歳以上の成人を対象に、2014年10月に定期接種
(B類疾病) になった。免疫不全のない成人におい て、PPSV23 やPCV13 の接種率の増加によって、
今後のIPDの罹患率の減少が予想される。本分担 研究は、研究期間中、日本国内の成人IPDから分 離された肺炎球菌の細菌学的解析を行い、ワクチ ン効果の評価を可能とする基礎疫学データを提供 することを目的とした。
B . 研究方法
1 . 成人IPD症例由来肺炎球菌
2013年 7 月から2016年12月まで、10道県で報告 された成人IPD由来の 742 検体 (肺炎球菌 738 株 および臨床検体 4 検体)を対象とした。肺炎球菌 は 5 %ヒツジ血液寒天培地にて37℃、5 % CO2
の条件下で一晩培養したものを用いて解析を行っ た。臨床検体 (血液または髄液)は、検体から直
接にDNAを抽出し、PCR法で血清型別を行っ
た。
2 . 血清型別
肺 炎 球 菌 の 血 清 型 はStatens Serum Institut 製抗血清を用いて、莢膜膨潤法により決定した。
臨床検体の血清型別は、Multiplex PCR法で行っ た。また、血清型11E型肺炎球菌は新しく11A型 から分けられた血清型で、現在販売されている抗 血清およびMultiplex PCR法では11Aと11Eを区 別できないため、11A/Eと記入した。
(倫理面への配慮)
該当無し。
C . 研究結果
1 . 成人IPD症例の背景
2013年 7 月から2016年12月現在まで、10道県で 成人IPD症例 753 例が報告された。そのうち、2 例の臨床情報は不明であった。751 症例の患者年 齢は 15〜103 歳、平均は70歳で、男女それぞれ 466 名と 285 名で、男女比は 1.6:1 であった。65 歳以上の患者は 513 名で、全体の 68.3%を占めた。
5 年以内にPPSV23 を接種されていたのは53名
( 7 %)で、PCV13 を 接 種 さ れ て い た の は 2 名
(0.3%)であった。753 例IPDのうち、髄膜炎は 124 症例 (16.5%)、菌血症を伴う肺炎は 440 例
(58.4%)、菌血症のみは 126 例 (16.7%)であっ た。61症例 (8.1%) は菌血症に髄膜炎、肺炎以外 の巣感染がみられた。また、心外膜炎および胸膜 炎と診断された症例がそれぞれ 1 例報告された。
厚生労働科学研究費補助金 (新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)
分担研究報告書
成人侵襲性肺炎球菌感染症由来株の細菌学的解析に関する研究
研究分担者:常 彬 (国立感染症研究所細菌第一部)
研究要旨 2013年 7 月から2016年12月現在まで、10道県の成人侵襲性肺炎球菌感染症 (IPD)症例 から分離された肺炎球菌の細菌学的解析を行った。収集した742検体のうち、血清型 3 型がもっと も分離率が高く、17.5%であった。一方、血清型23Aおよび 10A 型による髄膜炎の症例が多くみら れ、血清型と肺炎球菌感染症病型との関連性について、さらに解析する必要がある。また、2016年 に発症した成人IPDの症例の原因血清型において、沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン (PCV13)血 清型の分離率低下、とりわけ血清型 3 型及び19A型の低下がみられた。この結果は、小児における
PCV13 の定期接種による成人への集団免疫効果を示唆しており、引き続き観測する必要がある。
2 . 成人IPD由来肺炎球菌の血清型分布
成人IPD症例 753 例のうち、738 例から肺炎球 菌が分離され、4 症例の髄液または血液検体より 肺炎球菌のDNAが検出された。11症例の分離菌 を収集できなかった。742 症例の原因菌の血清型 別を行い、その結果を図 1 と 2 に示す。血清型 3 型によるIPDは 108 例 (分離率17.5%)で、最も 多かった。PCV13 およびPPSV23 に含まれる血
清型の分離率はそれぞれ40.2%と66.6%であった
(図 2 )。PCV13 とPPSV23 のいずれにも含まれ ない非ワクチン型の分離率は 30.9%であった。
2010年 2 月に日本に導入された小児用PCV7 に含
まれる血 清型 (4、6B、9V、14、18C、19F、23F)
による症例は72例で、9.7%を占めた。PPSV23 の 接 種 後 5 年 以 内 に 発 症 し たIPD症 例53例 中、
52例より分離された肺炎球菌の血清型別決定を
図 2 2013/7〜2016/12月に診断された成人IPD由来肺炎球菌の血清型別の分離頻度 (n=742)
図 1 2013/7〜2016/12月に診断された原因菌の血清型別の成人IPD症例数 (n=742)
㻜 㻞㻜 㻠㻜 㻢㻜 㻤㻜 㻝㻜㻜 㻝㻞㻜
㻠 㻢㻮 㻥㼂 㻝㻠 㻝㻤㻯 㻝㻥㻲 㻞㻟㻲 㻝 㻟 㻡 㻢㻭 㻣㻲 㻝㻥㻭 㻝㻜㻭 㻝㻡㻮 㻞㻞㻲 㻟㻟㻲 㻥㻺 㻝㻞㻲 㻞 㻤 㻝㻝㻭㻛㻱 㻝㻣㻲 㻞㻜 㻝㻡㻭 㻝㻡㻯 㻞㻟㻭 㻞㻟㻮 㻞㻠㻲 㻢㻯 㻢㻰 㻣㻯 㻝㻤㻮 㻟㻤 㻟㻡㻮 㻟㻠 㻝㻟 㻟㻝 㻟㻣 㻝㻢㻲 㻺㼀
ᩘ
㻼㻯㼂㻝㻟
㻼㻼㻿㼂㻞㻟㻌㻔㻢㻭㻌䜢㝖䛟䠅㻌
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0
4 6B 9V 14 18C 19F 23F 1 3 5 6A 7F 19A 10A 15B 22F 33F 9N 12F 2 8 11A/E 17F 20 15A 15C 23A 23B 24F 6C 6D 7C 18B 38 35B 34 13 31 37 16F NT
⾑Ύᆺ ศ
㞳⋡( )
㻼㻯㼂㻝㻟
㻼㻼㻿㼂㻞㻟㻌㻔㻢㻭㻌䜢㝖䛟䠅㻌
㻞㻜㻝㻟㻛㻣㻙㻞㻜㻝㻢㻛㻝㻞㻌᭶
㻼㻯㼂㻣㻌䜹䝞䞊⋡㻦㻌㻥㻚㻣㻑 㻼㻯㼂㻝㻟㻌㻌㻌䜹䝞䞊⋡㻦㻌㻠㻜㻚㻞㻑 㻼㻼㻿㼂㻞㻟㻌䜹䝞䞊⋡㻦㻌㻢㻢㻚㻢㻑
䠂
行った。52例中、29例 (56%)はPPSV23 型によ る症例であった。2 症例はPCV13 が 1 回接種さ れ、原因菌の血清型はそれぞれ11A/Eと12Fで、
非PCV13 型であった。
3 . 成人IPD由来肺炎球菌の血清型分布の年別の
比較
本研究期間中の2013年、2014年、2015年および 2016年、10道県から報告された成人IPD症例数 はそれぞれ53、210、225 と 265 症例であった。そ のうち、起炎菌または臨床検体が収集できたのは 53、205、221 と 263 例であった。2013年は研究班 が始まり、報告システムの設立に時間がかかった ため、症例報告及び菌株の収集が少なかったと考 えられる。2014年以後に年間に報告された症例数 および起因菌の株数は同程度であったため、2014 年、2015年、2016年の成人IPDを引き起した肺 炎球菌の血清型分布および各肺炎球菌ワクチンの カバー率の比較を行い、その結果を図 3 に示す。
2014年と2015年において、各血清型肺炎球菌の 分離率は多少違いがあったが、全体的な分布傾向
には大きな変化がみられなかった (図 3 )。しか し、2014年および2015年分離株に比べ、2016年分 離株のPCV13 のカバー率 (37.4%)の低下がみら れた。特に、血清型 3 型と19A型によるIPD症例 の減少がみられた。一方、2016年に山形県、新潟 県においてPPSV23 に含まれる12F型によるIPD 症例数の増加がみられた (図 3 )。この12Fによる IPD症例の増加については、そのリスク因子につ いての解析を行っている。
4 . 分離部位が異なる成人IPD由来肺炎球菌の血
清型分布の比較
解析された 742 症例IPDのうち、髄膜炎由来 122 例 (16.4%)、非髄膜炎由来の 620 例 (83.6%)
の原因菌の血清型分布を比較した (図 4 )。
髄膜炎由来IPDのうち、血清型23A型肺炎球菌 による症例は20例で、最も多かった。血清型10A 型及び 3 型による症例はそれぞれ17例と14例で あった。血清型23Aと10A型によるIPD症例は全 部で50例と51例だったため、髄膜炎を起こす割合 はそれぞれ 40.0% および 33.3%で、他の血清型
図 3 2014〜2016年に診断された年別、成人IPD由来原因菌の血清型別の分離頻度 (n=689)
0 5 10 15 20 25
4 6B 9V 14 18C 19F 23F 1 3 5 6A 7F 19A 10A 15B 22F 33F 9N 12F 2 8 11A/E 17F 20 15A 15C 23B 23A 24F 6C 6D 7C 18B 38 35B 34 13 31 37 16F NT
2014ᖺ㻌(205) 2015ᖺ㻌(221) 2016ᖺ㻌(263)
⾑Ύᆺ
㻼㻯㼂㻝㻟
㻼㻼㻿㼂㻞㻟㻌㻔㻢㻭㻌䜢㝖䛟䠅㻌
ྛ䝽䜽䝏䞁䛾䜹䝞䞊⋡
㻼㻯㼂㻣 㻼㻯㼂㻝㻟 㻼㻼㻿㼂㻞㻟 㻝㻞㻚㻣㻑 㻠㻠㻚㻥㻑 㻢㻢㻚㻤㻑
㻣㻚㻢㻑 㻟㻣㻚㻠㻑 㻢㻡㻚㻣㻑 㻤㻚㻝㻑 㻠㻡㻚㻞㻑 㻢㻤㻚㻟㻑
ศ㞳
⋡( ) 䠂
より高かった。一方、血清型 3 型による髄膜炎の 割合は 13.0% (14/108 症例)で、髄膜炎症例全体 の 割 合 (16.4%)と 大 き な 変 化 は な か っ た (図 4 )。
D. 考察
日 本 で はPPSV23 が1988年 に 薬 事 承 認 さ れ、
2014年10月から B 類疾病として65歳以上の成人 対象に定期接種が始まった。また、PCV13 の65 歳以上の成人への適応も追加承認された。本研究 の 同 一 地 域 に お け る 成 人IPDの 疫 学 調 査 は、
PPSV23 が定期接種の対象になる前後の期間を含
む形で2013年に始まったため、PPSV23 の直接効 果および小児のPCVによる間接効果をリアルタ イム、かつ正確に反映することが期待されてい る。
本分担研究の調査では、2013から2016年まで に、成人IPD由来肺炎球菌の 30.9%はPCV13 と PPSV23 のいずれにも含まれていない血清型で あった。さらに、PCV7 タイプが占めている割合 は減少した。小児用ワクチンの普及は、PCV7 に 含まれる血清型の肺炎球菌による小児IPDの減 少のみならず、成人への効果 (集団免疫効果)も
果たしたと考えられる。また、成人IPD原因菌 の中で多く分離される血清型 3 型および19A型は PCV13 にも含まれるタイプであり、2016年に 3 型および19A型によるIPDの減少がみられたの は、PCV13 による集団免疫効果かどうかを観測 し続ける必要がある。さらに、原因血清型により 髄膜炎の頻度が異なることから (図 4 )、このよ うな傾向が続くかどうかについても観察を継続す る予定である。
E . 結論
2013年 7 月から2016年12月現在までに成人IPD から分離された肺炎球菌はPCV7 とPCV13 に含 まれない血清型が多く占めていて、特に2016年の IPD原因菌ではPCV7 およびPCV13 のカバー率 の低下もみられた。この効果には、小児用PCV13 による成人への間接効果が示唆された。今後も成 人IPD症例の原因菌の収集と血清型を含む細菌 学的解析を継続する必要がある。
F . 研究発表 1 . 論文発表
1) Fukusumi M, Chang B, Tanabe Y, Oshima 図 4 2013/7〜2016/12月に診断された原因菌の血清型別成人IPD症例数 (髄膜炎および非髄膜炎;n=742)
㻜 㻞㻜 㻠㻜 㻢㻜 㻤㻜 㻝㻜㻜 㻝㻞㻜
㻠 㻢㻮 㻥㼂 㻝㻠 㻝㻤㻯 㻝㻥㻲 㻞㻟㻲 㻝 㻟 㻡 㻢㻭 㻣㻲 㻝㻥㻭 㻝㻜㻭 㻝㻡㻮 㻞㻞㻲 㻟㻟㻲 㻥㻺 㻝㻞㻲 㻞 㻤 㻝㻝㻭㻛㻱 㻝㻣㻲 㻞㻜 㻝㻡㻭 㻝㻡㻯 㻞㻟㻮 㻞㻟㻭 㻞㻠㻲 㻢㻯 㻢㻰 㻣㻯 㻝㻤㻮 㻟㻤 㻟㻡㻮 㻟㻠 㻝㻟 㻟㻝 㻟㻣 㻝㻢㻲 㻺㼀
㧊⭷⅖㻌㻔㼚㻩㻝㻞㻞㻕 㠀㧊⭷⅖㻌㻔㼚㻩㻢㻞㻜㻕
⾑Ύᆺ
ᩘ
㻼㻯㼂㻝㻟
㻼㻼㻿㼂㻞㻟㻌㻔㻢㻭㻌䜢㝖䛟䠅㻌
㻠㻜㻚㻜㻑 㻟㻟㻚㻟㻑
㻝㻟㻚㻜㻑
K, Maruyama T, Watanabe H, Kuronuma K, Kasahara K, Takeda H, Nishi J, Fujita J, Kubota T, Sunagawa T, Matsui T, Oishi K, the Adult IPD Study Group. Invasive pneumococcal disease among adults in Japan, April 2013 to March 2015: disease characteristics and serotype distribution.
BMC Infect Dis. 17: 2. doi: 10.1186/s12879- 016-2113-y, 2017.
2 . 学会発表
1)友廣真由美, 岸川孝之, 山崎一美, 常 彬, 大石和徳:成人肺炎球菌性肺炎の罹患率につ いての検討:population-based study. 第86 回日本感染症学会西日本地方会学術集会・第 59回日本感染症学会中日本地方会学術集会・
第64回日本化学療法学会西日本支部総会合同 学会. 2016年
2)福住宗久, 西 順一郎, 丸山貴也, 渡邊 浩, 大島謙吾, 青柳哲史, 高橋弘毅, 武田博明, 田邊嘉也, 笠原 敬, 藤田次郎, 横山彰仁,
常 彬, 大石和徳:成人侵襲性肺炎球菌感 染症(IPD)の臨床像と原因菌血清型分布に 関する疫学 (2013年 4 月〜2015年12月). 第
20回日本ワクチン学会学術集会. 2016年
3)西 順 一 郎, 藺 牟 田 直 子, 徳 田 浩 一, 常 彬:鹿児島県における小児と成人の侵襲性肺 炎 球 菌 感 染 症 (IPD)サ ー ベ イ ラ ン ス − PCV13普及後の小児IPDの減少−. 第20回 日本ワクチン学会学術集会. 2016年
4)佐藤千紗, 鈴木博貴, 土田文広, 常 彬, 山本友香, 西塚 碧, 渡邊麻莉, 大石和徳, 武田博明:当院における肺炎・気支管炎患者 の肺炎球菌の莢膜血清型および薬剤耐性遺伝 子pbpの過去 9 年間の経年的検討. 第90回日 本感染症学会総会. 2016年
G. 知的財産権の出願・登録状況 1 . 特許取得:なし
2 . 実用新案登録:なし 3 . その他:なし