鉄道営業車両を用いた軌道状態監視システム
1.はじめに
鉄道は環境に優しい交通機関である とともに,定時性に優れ,事故率も極 めて低いという優れた特性を持ってい る.安全・安定輸送の実現のために,
各事業者は鉄道を支えるさまざまなシ ステムのメンテナンスを,休むことな く積み重ねている.中でも軌道のメン テナンスは,脱線につながるような重 大事象を予防するために極めて重要な 意味合いを持っている.
通常,軌道状態の各種測定は,列車 の運行の終わった深夜に人手をかけて 行うか,専用の検測車を用いて行って いる.これには多くの手間を要するか 高額な機器を用いることになり,大き な負担となっている.また,長大な路 線を維持管理することから,検査と検 査の間にはある程度の時間がおかれる ことになり,連続性に欠けたものと なってしまう.
仮に,多くの人手や高価な検測車を 用いることなく営業車両で毎日のよう に軌道状態を監視することができれ ば,コスト削減につながるとともに,
異常が大きくなる前に発見することも 可能となる.こうした発想から,(独)
交通安全環境研究所では東京地下鉄
(株)と住友金属工業(株),住友金属 テクノロジー(株)と共同で軌道状態 を監視できる新たな鉄道用台車の開発 を行った.
2.PQ モニタリング台車の開発
鉄道の走行安全性を測る指標とし て,「脱線係数」という数値が用いら れる.これは車輪に加わる垂直方向の 力(輪重:P)と水平方向の力(横圧:Q)の比で,Q/P で表される.何らか の理由でレールに狂いが生じた場合,
脱線係数の変化としてとらえることが できる.
これまでは脱線係数の測定は新しい 路線ができたときや新型車両が導入さ れるなどの限られた場合にのみ測定さ れることがほとんどであった.その理 由は,従来の測定方法では,車輪を加 工してひずみゲージを貼ちょう付した「PQ 輪軸」を用いる必要があり,通常の車 輪軸と履き替える作業が生じるうえ に,PQ 輪軸からの信号を取り出すた めのスリップリングの取付や計測機器 の設置等で多くの労力が必要とされる ためである.PQ 輪軸は熱の影響を避 けるためブレーキを作用させることが できないため,PQ 輪軸を装着した車
両は営業運行に使うことができず試運 転のみの取り扱いとなる.
そこで,ひずみゲージやスリップリ ングを用いずに,輪重と横圧を測定す ることができ,営業運行にも使うこと のできる新たなシステムとして「PQ モニタリング台車」(図 1)の開発に 着手した.
具体的には輪重の測定方法として,
車輪軸の支持部にある軸ばねのたわみ 量を計測する方法をとっている(図 2).また,横圧の測定には,横圧によ り変形する車輪板部の変形量を非接触 式変位計で検出している(図 3).
横圧による車輪の変形量は極めて微 小であるうえに,横圧を受けることで 車輪は台車枠に対し平行移動したり,
あるいは傾いた状態になることもある ため,これらの変位の影響を取り除き 変形量のみを取り出すことができるよ うさまざまな補正を行っている.また 営業車両で使えるようにするためブ レーキ装置は欠かすことができない が,ブレーキ時の熱による車輪の変形 を避けるため,ディスクブレーキを採 用している.
3.実車走行による検証
開発した PQ モニタリング台車の性 能を確認するため,はじめに台車単体 での台上試験を行った.PQ モニタリ ング台車に PQ 輪軸を装着すること で,輪重と横圧とを新旧二つの手法で 同時に測定し,測定値がほぼ一致する ことを確認した.その結果を受けて東 京地下鉄(株)丸ノ内線の車両に PQ モニタリング台車を装着し,実路線で も試運転による計測を行った結果,新 旧の手法による計測結果はよく一致し ており,モニタリング台車の有効性を 確認することができた(図 4).
現在は営業運行ができるよう PQ モ ニタリング台車から PQ 輪軸を外し,
ブレーキの作用する通常の輪軸とした うえで,システムの耐久性の試験もか ねた継続的な脱線係数の測定を行って いる.
4.おわりに
営業運行をする車両で日常的に脱線 係数を測定することで,多大なコスト をかけることなく軌道状態を監視でき るシステムを開発することができた.
現在の PQ モニタリング台車は量産試 作の段階にあり,今後多くの事業者に 採用されることにより,鉄道のさらな る安全性向上に資することができるも
のと確信している.
(原稿受付 2008 年 9 月 26 日)
〔大野寛之 (独)交通安全環境研究所〕
図1 PQ モニタリング台車
図 2 輪重測定用センサ
図 3 横圧測定用センサ
図 4 測定結果の比較
0 200 400 600
0 200 400 600
PQモニタリング台車
PQモニタリング台車 PQ輪軸
PQ輪軸 距離(m)
横圧(kN)輪
重(kN) 20
50 40 30 20 10 0
−10
日本機械学会誌 2009. 3 Vol. 112 No.1084