(東女医大誌 第47巻 第6号頁 286〜290 昭和52年1月)
高アミラーゼ血症で発見された 乳頭部外の1切除例
日京女子医科大学消化器病センター・外科
村田 洋子・高田 忠敬・小沢 俊総・
ムラタ コウコ タリタ タ々1ヒロ オザワ トシフ噸
福島 靖彦・内田 泰彦・中村 光司・
フク,∵ ヤスヒ=r Iリイ タ 、7スピコ ナカムラ ミノ ン
教授羽生富士夫
〔ニユ7ンオ
東京女子医科大学内科
沼 賀 邦 子
ヌマ カ クニ コ
(受付 昭和51年11月24日)
1 はじめに
膵胆道系悪性腫瘍は,一般に黄疸発症後発見さ れることが多いが,いまだ他の消化器系悪性腫瘍 に比しても切除率は著しく低く,早期発見への努 力が最も必要とされている分野とも言えよう.今 回,われわれは高アミラーゼ血症にてチェックさ れ,切除しえた乳頭二二の1例を経験した.そこ で,本例を報告するとともに,当教室で経験した 膵胆道系悪性腫瘍のチェックアップポイントにつ
いても言及したい.
H 症 例
患者:S.H.56歳,主婦.
主訴:高アミラーゼ血症の精査.
家族歴:兄が糖尿病である.
既往歴:特記すべきことなし.
現病歴:昭和50年11月,何ら誘因なく突然一L腹部油痛 発作あり,某病院に入院.高アミラーゼ血症を指摘さ れ,膵炎の診断をうけ内科的治療をうげる.同年12月,
アミラーゼ値が正常化し退院.その後,外来にて経過観 察をうけていたが,昭和51年1月,無痛性に血清アミラ
ーゼ値の上昇をみ,同年3月,当科に紹介され入院し
た.
現症:体格中等度,栄養良好,眼験結膜に貧血 なし.眼球粘膜および皮膚に黄疸を認めない.胸 部理学的所見に異常なし.腹部は平坦で,肝・脾 および腫瘤を触知しないが,左季肋部に軽度の圧 痛を認める.
入院時一般検査所見:赤血.丁数441万/mm3,血 色素量12.79/d1,ヘマトクリット37.7%,白血球 数4700/mm3,血清総蛋白量7.59/d1,血清総ビリ ルビン量。.4mg/d1, GoT 3gKu, GPT 21Ku,
アルカリフォスファターゼ値10.7KAU, LAP 232GRU,γGTP 420U,血清アミラーゼ値857 SRU,便潜血反応陰性,100g GTT境界型, PS
テスト軽度低下.
低緊張性十二指腸造影:十二指腸乳頭部に大き な陰影欠損(写真1)を認める.
経静脈性胆道造影(DIC):胆管拡張はみられ ず,胆嚢ならびに胆管に結石や腫瘍の存在を認め ない(写真2).
Y6ko MURATAg Tadahiro TAKADA, Tosb量busa OZAWA, Yasuhiko FUKUSHIMA, Ya5皿hヨko UCmA, Mitsushi NAKAMURA, Fujio HANYひ, K:覧miko NUMAGA 31ngtitute of Gastroenterology, Tokyo Women s Medical College:Acase of cancer in papilla vater:compllcaled by hyperamylasemia withoutjaundice・
一286.一
写真1 胃十二指腸造影.右下の写真が引き続き行 なった簡便的低緊張性十二指腸造影
写真2 経静脈的胆嚢胆管造影(DIC)
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写真3 内視鏡的膵管胆管造影法(EPCG)
写真4 切除標本.十二指鍾乳頭部
写真5 十二指腸乳頭部横断面,左管腔が十二指腸 壁内膵管右管腔が十二指腸壁内胆管
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図1十二指腸乳頭部断面図
十二指腸内視鏡検査:十二指搾乳頭部に浅い陥 凹を形成した腫瘤を認め,ひきつづき行なった内 視鏡的膵胆管造影では,膵管開口部に陰影欠損と 尾側膵管の拡張を認めた(写真3).なお,同時 に行なった生検にて,乳頭部腫瘤から腺癌を認め
た.
以上より,乳頭部癌の診断にて昭和51年3月27 日,膵十二指腸切除術を施行した.
手 術
切除標本にて,乳頭部に浅い潰瘍を形成した潰 瘍型乳頭部癌(写真4)と判明した.十二指腸壁 内においては,癌は胆管および膵管内に浸潤して いるが(写真5),癌は十二指腸壁内にとどまって おり(図1),膵実質内への浸潤をみない.
本例の術後経過は良好で,術後3週にて退院,
10ヵ月後の現在,何ら愁訴なく社会生活に復帰し ている.
m 考 案
膵頭部領域癌は,その発生母地や進展方向によ り種々の症状を呈するが,一般には,黄疸,腹 痛,発熱などが主症状である.しかしながら,こ の領域癌に特有と言うべき症状,徴候はなく,ま た消化器系癌,とくに胃癌のごとく胃集団検診と いうスクリーニング法が存在していない現在,早 期発見への手がかりをつみかさねて行くことが最
も必要とされるところである.
過去5年間に経験したこの領域癌における症状 および症候をみると(表1),黄疸が最も顕著にみ
られる症状である.しかし,癌腫の占居部位によ って,黄疸の発生頻度も異なり,膵体尾部癌では ほとんど発症しないが,下部胆管癌,乳頭部厚,
膵頭部癌においては,黄疸は65〜100%と高率で あり,また,切除例・非切除胃をとわず,その発 生がほぼ同率である.この事柄は,従来からわれ われが強調してきたように,黄疸は決して末期症 状ではなく,この領域癌のチェックアップポイン トの有力な徴候であることを再認識させるもので もある1)2).しかしながら,黄疸を有していなが らほぼ同数の症例が非切除例であることは,黄疸 発症前にチェックする何らかの症状や所見を見つ けることの重要性を示唆するものである.
われわれの教室において,無黄疸で発見され切 除された膵頭部領域癌の11例についてその初期症 状をみると,多くは,腹痛,一過性黄疸,悪感発 熱などである(表2).また,これらの症状は一 見,胆石様症状とみられるようなものでもある.
検査所見として,ALp値上昇は有意義であり,
11例中7例にみられる.今回報告したアミラーゼ 上昇は,11例中3例にみられ,Al・P値上昇につ ぐ有意な所見と言えよう.この血清アミラーゼ 上昇については,この領域癌の診断価値として比 較的みのがされやすい傾向にあるが,外国文献 に,長期血清アミラーゼ上昇が持続する例は膵癌 を疑って検査を積極的に行うべきであるという記 一288一
表1 膵頭部領域癌の症状及び症候(S45年一S51年6月)
1 切 除 例 非 切 除 例
一旨 14例
醜−
ア鯛・ 25例膵頭部癌
@12例
膵 癌 i頭部以外)
@1例
下 部
̲管癌8例
1乳頭部癌
@8例
膵頭部癌 S7例
膵 癌 i頭部以外)
@39例
黄 疸 86% 79% 100% 0% 100% 100% 65% 22%
発 熱 36 46 25 0 0 17 13 4
腹 痛 57 58 67 100 50 33 60 57
悪心・ロ区吐
o i o
33 0 17 17 15 21@下 痢
「「一「4
0 0 0 0 6 4
便 秘 一〇 1 0 0 0 0 17 6 14
S身倦怠感
29 1 29
42 G 67 50 23 32食欲不振 29 1 29 : 42 旨 0 50 50 40 43
体重減少 14 i 42
一一
厚
50 67 44 64翻触知 14 1171251
50 0 35 36、汗血反応$)i291認i33
O 50 0 29 46表2 膵頭部領域癌における初期症状とチェックアップポイント(S45年一S51年6月)
一無黄疸例一
No. 症例 年齢 疾 患
腹痛 蓬性黄疸
悪悪発熱 ロ区
f
下痢 Al
撃o上昇
ラ血
ォ清
̲τ
チェックAップ検査 所 見
s.S. @61 一 . . 「 . 一 . 一 一
コ部胆管癌 ●
DIC
胆管の拡張.K.Y. ♂
U7 コ部胆管癌
● 1
●
HPDG
球後部の圧排s.K. 草.
一 一 . 『 一 一 .
●
EPCG
胆管狭窄S.Y, ♂ 48 . 一 . 一 一 一
?ェ部癌
●HPDG
乳頭部腫瘤1
@ 」 一
0.Y, ♂ V3
茁ェ部癌
● ● ● ●HPDG
乳頭部腫瘤♂ 69
茁ェ部癌
● ●HPDG
乳頭部腫瘤A.U. ♀ 乳頭部癌 ● ●
DIC
胆のう写らずS.Y.
一盃一
65 一 .
S5
茁ェ部癌
● 胃十二指腸透視 十二指腸狭窄R.T. ♂ 55 乳頭部癌 ● ●
HPDG
乳頭部腫瘤10iS・H・ ♀ 56 乳頭部癌 ● ●
HPDG
乳頭部腫瘤里」LG・
♂ 59 膵癌(体部) ● ● 胃十二指腸透視 大意側からの圧排載3)もある.しかし本邦では,鈴木4)らは血清アミ ラーゼの有意性より,むしろ尿アミラーゼにスク
リーニングテストの位置づけをしうるものである ことを強調している.鈴木らはこの尿アミラーゼ の異常高値について,癌腫が膵管を閉塞した結果 おこる膵管内圧の上昇,癌腫に随伴する膵炎,癌
腫の進展に伴っておこる膵実質の破壊等に起因す るものと述べている.しかし,同様の病態におい て血清アミラーゼ値の一過性の高値,又は軽度上 昇という結果を伴うものと考えられ,われわれの 報告例では,癌腫による膵管口の不完全閉塞→膵 管内圧上昇の結果,高アミラーゼ血症をみたもの
と考えられる.通常は,高アミラーゼ血症がみら れた場合,膵炎又は総胆管結石嵌頓によるもので あり,特に,腹痛を伴う場合そのように診断され る.したがって,このような高アミラーゼ血症や
前述のALP値上昇などの所見をいかなる検査
により,良・悪性の鑑別に進めるかが大きな課題 である.われわれの11例の無黄疸での切除例をみると,HPDG(低緊張性十二指腸造影法)が6
例,胃十二指腸透視が2例と上部消化管X線検査が8例と大半を占めている.特に,HPDGはスク
リーニング胃X線検査にひきつづき,十二指腸係 蹄を低緊張造影にすることによっても行ないうるものであり,簡便なことと同時に,乳頭部を中心 とする病変や膵頭部病変の診断に有力である5).
DIC(点滴静注胆嚢胆管造影法)や膵エコーグ
ラム,膵スキャンニングもチェックアップ検査と して重要なものであり,更に,EPCG(内視鏡的 膵胆管造影法),PTC(経皮的胆管造影法),選択 的腹腔動脈造影法などを駆使し,確診に至るよう な努力が必要なものである.w 結 語
高アミラーゼ血症にて発見された乳頭部癌の症
例を報告した.
また,この膵頭部領域癌の早期発見のためのチ ェックアップポイントとして,黄疸はもちろんの こと,A1−P上昇のみならず,血清アミラーゼ上 昇も重要なチェックアップポイントであると思わ
れる.
これら所見のある時は,常に膵胆道系悪性疾患 を疑い,低緊張性十二指腸造影,胆道造影など積 極的に検査を行なうべきであり,それにより早期 発見,早期治療に浴す症例の増加が期待しうるも
のと考える.
(本稿の要旨は第145回日本消化器病学会関東甲信 越地方会にて発表した).
文 献
1)羽生富±夫・他:治療57(4)937〜948(1975)
2)羽生富士夫・他:臨外30(3)9(1975)
3)Gambm, E.E. et a1。3 Mayo Clin Proc 46 174〜177 (1971 5)
4)鈴木敏行・他:日臨31(8)2569〜2574(1973)
5)羽生富士夫・他:内科33(3)465〜476(1974)
一290一