身体運動が睡眠に及ぼす効果についての総合的研究
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(2) 1.. 序論 一般に、適度な運動は夜間睡眠の質を向上させると信じられているが、実験研究では、. 一貫性のある結果が示されていない。その理由の1つとして、実験対象が健康な若年成 人である場合、元々の睡眠の質が良く、運動によって睡眠の質が改善される余地が少な いという天井効果のために、運動による効果が検出しにくいという問題が指摘されてい る(Youngstedt, 2003)。一方で、高強度運動についても、夜間睡眠の質が悪化すると いった報告や、睡眠の質は悪化しないといった報告もあり、一貫性のある結果が示され ていない。その中でも特に、無酸素性の運動が睡眠に及ぼす影響についての報告は数が 少なく、その影響については十分に明らかにされていない。 運動が睡眠に及ぼす効果は、運動の強度や種類、実施時間やタイミングなど、数多く の条件で検討していかなければ明らかにならない。本学位論文では、このような大きな 枠組みの一部として3つの実験を行い、運動が睡眠に及ぼす効果について検討した。 2.. 実験1:夕方に行う10km走が夜間睡眠に及ぼす影響 一過性の有酸素性運動(10km走)が夜間睡眠に及ぼす影響を、午後2時以降に昼寝を. 挿むことによって夜間睡眠の質を悪化させることで、天井効果を取り除いた上で検討し た。対象は健常な若年男性9名(平均年齢23±1歳)であった。本実験は、適応夜・基 準夜(Nt0)・昼寝(Np1)+夜間睡眠(Nt1)・昼寝(Np2)+10kmランニング+夜 間睡眠(Nt2)の、合計4夜の夜間睡眠を測定し、睡眠はポリグラフ(PSG)記録を用 いて評価した。運動は10kmのセルフペースランニングとした。Nt1とNt2の比較では、 睡眠段階の出現時間に有意な違いは生じなかった。しかし、脳波周波数解析の結果、 Nt2の総DELTAパワー値はNt1に比して有意に高値を示した。本実験の結果から、夕方 に行う10km走は、夜間睡眠の質を向上させる可能性が示唆された。そして、その影響 は天井効果を取り除いた上でも生じ、睡眠段階の出現時間に有意な変化を及ぼすほど大 きくはないものの、徐波睡眠量を増加させることが示された。 3.. 実験2:就寝前に行う高強度無酸素性運動(間欠的全力運動)が夜間睡眠に及ぼす. 影響 就寝の2-3時間前に行う高強度無酸素性運動(間欠的全力運動)が夜間睡眠に及ぼす 影響を、睡眠PSG、心拍変動、深部体温といった生理指標から検討した。対象は、健常 な若年男性7名(平均年齢22±1歳)であった。本実験は適応夜・基準夜・運動夜の、 合計3夜の夜間睡眠を測定した。運動は自転車エルゴメーターによる、5秒間の全力ペダ リング運動を20セット行う、間欠的全力運動とした。その結果、睡眠段階の出現時間、 脳波周波数解析によるDELTAパワー値という中枢神経系の指標に、運動による有意な 変化は認められなかった。一方で、睡眠中の深部体温の上昇、心拍数の上昇、心拍変動 からは交感神経活動の亢進および副交感神経活動の抑制、という変化が特に睡眠前半で.
(3) 示された。したがって、これらの指標は、睡眠段階によって示される中枢神経系の指標 同様に重要な意味を持っていることが示唆された。 4.. 実験3:2日間連続で行う高強度レジスタンス運動が夜間睡眠に及ぼす影響 2日間連続して日中に行う、高強度レジスタンス運動が夜間睡眠に及ぼす影響を、睡. 眠PSG、心拍変動、深部体温などの生理指標から検討した。対象は、健常な若年男性10 名(23±2歳)であった。本実験は、基準夜・運動夜1(Ex-1)・運動夜2(Ex-2)の合 計3夜の夜間睡眠を測定した。運動は1日2回(10:00および14:00)、2日間連続で行う、 全身にわたる11種類の高強度レジスタンス運動とした。その結果、睡眠段階および脳波 周波数解析によるパワー値、心拍変動、深部体温に大きな変化は認められなかった。し たがって、日中に行う高強度レジスタンス運動は中枢神経系および自律神経系の指標に 大きな影響を及ぼさない可能性が示唆された。 5.. 総合考察 本学位論文では、運動が睡眠に及ぼす影響という大きな枠組みの一部として3つの実. 験を行い、運動の睡眠に対する効果について総合的に考察した。実験1により、運動が 睡眠の質を良くするという観点から、若年者を対象とした場合、天井効果を取り除いた 上でも、睡眠の質が良くなることが明らかとなった。さらに、実験2および3により、運 動が睡眠の質を悪化させるという観点から、これまで十分に明らかにされていなかった、 高強度無酸素性運動が夜間睡眠中の深部体温、心拍変動といった生理指標に及ぼす影響 について検討した。その結果、高強度運動に関しては、運動の実施時間帯によって、睡 眠中の生理指標に異なる影響を及ぼし、特に就寝直前の運動は睡眠の質を悪化させるこ とが明らかとなった。.
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