デンマークにおける肢体不自由(運動障害)教育システムの動向
−インクルーシブ教育における肢体不自由(運動障害)特別学校・学級の意義と役割−
石川衣紀・田部絢子・石井智也・内藤千尋・
能田昴・柴田真緒・池田敦子・髙橋智
Trends in Educational System for Students with Physical Disabilities in Denmark
;Significance and Role of Special Schools and Classes
for Students with Physical Disabilities in Inclusive Education
ISHIKAWA Izumi, TABE Ayako, ISHII Tomoya, NAITOH Chihiro, NOHDA Subaru, SHIBATA Mao, IKEDA Atsuko, TAKAHASHI Satoru
1.はじめに
北欧の高度な福祉国家として著名なデンマークにおいては,ノーマライゼーション・イ ンクルージョンの理念のもとに先駆的にインクルーシブ教育を促進してきた。一方,肢体 不自由や知的障害等の重度障害を有する子どもに対しては専門性の高い教職員や豊富なリ ソースが備わっている特別学校・学級を求める声も強く,近年,特別学校に就学する児童 生徒数は増加傾向にある。
しかし,特別学校(specialskole)や特別学級(specialklass)における専門スタッフ の配置が困難となっていることも指摘され(谷・青木:2017),またデンマーク障害者協 会(Danske Handicaporganisationer)も障害児の保護者調査を通して,障害のある子ど ものインクルージョンのためのリソースの確保,学校と家庭の連携の強化,就学前学校か らの情報の引き継ぎ等の教育改善について提起している(Danske Handicaporganisa- tioner:2020)。
このような状況を踏まえ本稿では,インクルーシブ教育を推進するデンマークにおい て,特別学校・学級の形態のもとに肢体不自由(運動障害)教育システムを維持している ことの理由について検討する。そもそもデンマークの肢体不自由(運動障害)教育の動向 についてはほとんど明らかになっておらず,それゆえに本稿で検討するものであるが,イ ンクルーシブ教育と肢体不自由(運動障害)特別学校・学級による教育の両者の関係性を どのように捉え,肢体不自由(運動障害)教育をいかに進めていくのかという課題は,日 本も含めて国際的な教育問題である。
さて,1982年の「移動困難な児童生徒のための特別教育支援に関するガイダンス(Ve- jledning om specialpædagogisk bistand til elever med bevægelsesvanskeligheder)」に よれば,デンマークにおいて肢体不自由に該当する用語は「bevægelseshæmmede」(直 訳すると運動障害)であり,同義語として「motorisk handicappede(運動障害)」もよ く使われると述べられている。肢体不自由(運動障害)児童生徒とは「運動に影響を及ぼ し,身体発達を損なう先天性または後天性の障害を有する子どもおよび若者であって,学
写真1 ハンス・クヌーセン(1813-1886)
(Sahva(Samfundet og Hjemmet for Vanføre)ウェブサイトより)
写真2 「障害者のための社会と家」の男子寮(1898年)
(http://www5.kb.dk/images/billed/2010/okt/billeder/object284659/en/)
校活動への参加に特別な措置が必要な程度のもの」と定義されている。肢体不自由(運動 障害)の原因として脳性まひ・関節炎・交通事故等が挙げられ,先天性運動障害の原因疾 患として骨形成不全・脊髄ヘルニア等,その他の運動障害として筋ジストロフィー・血友 病・関節リウマチ等が示されている。
なお,筆者らの「北欧福祉国家と子ども・若者の特別ケア」研究チーム(代表:髙橋智 日本大学文理学部教育学科教授・東京学芸大学名誉教授)はこれまで四半世紀にわたり,
北欧福祉国家(スウェーデン,デンマーク,ノルウェー,フィンランド,アイスランド)
における多様な発達困難を有する子ども・若者の発達支援・特別ケアのあり方についての 訪問調査研究を行ってきたが,本稿はその共同研究の一環である。
2.デンマークの肢体不自由(運動障害)教育の歴史的経緯
デンマークにおける肢体不自由(運動障害)教育の源流は,1872年に司祭のハンス・ク ヌーセン(Knudsen, H.)が肢体不自由(運動障害)児者が置かれていた劣悪な社会状況 を改善するための民間慈善協会「障害児や欠陥児を想定した社会(Samfundet, som an- tager sig vanføre og lemlæstede børn)」を設立したことに始まる。この協会の目的は,
肢体不自由(運動障害)児に対する仕事を通じての自立支援の提供であった。そのために 医療・訓練,義肢の提供,学校教育を継続するための支援が計画され,放課後は協会内に 設立された工房で職業教育を受ける体制も整っていた。1908年に協会名称は「障害者のた めの社会と家(Samfundet og Hjemmet for Vanføre)」に変更された。
写真3 「障害者のための社会と家」の建具工房(1898年)
(http://www5.kb.dk/images/billed/2010/okt/billeder/object284646/en/)
1933年にデンマーク政府は大規模な社会福祉改革を実行し,高齢者年金・障害年金の支 給,無料で医療を受けられるための病気基金制度の導入,失業手当の改善等がなされた。
この改革に協会が大きな役割を果たしたため,同年に協会が公的部門に切り替えられ,国 の障害者ケア部門を協会が担う形となった。協会は3,500人の職員を採用し,全国に4つ の病院,寄宿制学校,工芸学校(håndværksskolen),多くの福祉的雇用企業(beskyttede virksomheder)を運営した。
それから半世紀が経過し,1980年に国の特別ケアが県(amt)やコムーネ(kommune)
に移管されたことで協会の機能・施設の大部分も県に移管された。このときに協会内の義 肢・整形外科用靴・補助器具等の製造部門が工芸学校・福祉的雇用企業と合併して,新た に独立企業「Sahva(Samfundet og Hjemmet for Vanføre)」として出発した。さらに 1998年,工芸学校・コペンハーゲン福祉的雇用企業(BVK)・イプセン段ボール工場(Ib- sens Kartonnagefabrik)がSahvaから独立して,現在の「ハンス・クヌーセン研究所
(Hans Knudsen Instituttet,HKI)」となった。
次に学校教育における肢体不自由(運動障害)教育の展開についてみていく。1937年制 定の「国民学校法(Lov om folkeskolen)」によって,通常の教育を受けられない子ども に対して地方自治体が「特別学級(særklasser)」等を設ける必要があることが明記され た。1949年の国民学校法改正では「分離指導相談員(konsulenter for særundervisnin- gen)」と呼ばれる学校心理士の雇用に関する規則が言及された(池田:2018)。
1958年の国民学校法改正では発語障害,聴力低下,視力低下,能力低下,読み障害の子 どもに対して国民学校にて特別教育が実施されることが決定されたが,このときはまだ視 覚障害・聴覚障害・知的障害・肢体不自由などの子どもは対象とされていなかった。
1975年の国民学校法改正では「発達に特別な配慮または支援が必要な子どもには特別教 育およびその他の特別教育支援が提供される」(第3条2項)と初めてすべての障害児に ついて明文化された。
これにもとづき1979年,教育省は「肢体不自由(運動障害)児童生徒のための国民学校 での特別教育およびその他の特別教育支援に関する施行令(Bekendtgørelse om folkes- kolens specialundervisning og anden specialpædagogiske bistand)」を発出した。この 施行令で定められた特別教育の実施形態として,①「通常学級における特別教育(子ども は通常学級で学習するが特別教育教師による数時間の支援がある)」,②「特別グループに おける特別教育(1科目以上の学習の一部またはすべてを特別グループで行い,残りは通
常学級で学習する)」,③「特別学級での学習(すべての科目を特別学級で学習する。この クラスは通常学校または特別学校に設置される)」の3種類(第3条)を挙げ,特別学校・
特別学級・通常学級等の多様な教育形態によって,肢体不自由(運動障害)児童生徒への 教育支援がめざされた。
また「肢体不自由(運動障害)児童生徒のための国民学校での特別教育およびその他の 特別教育支援に関する施行令」においては「特別グループで一緒に教える児童生徒数は,
児童生徒が科目の一部を学ぶときは4人を超えてはならず,科目の全てを学ぶときは6人 を超えてはならない」(第4条1項),「特別学級では肢体不自由(運動障害)児童生徒の 年齢分布と教育ニーズに応じて,児童生徒数は学年の初めに6〜8人を超えてはならな い」(第4条2項),「肢体不自由(運動障害)児童生徒の特別教育はトレーニングを受け た,または児童教育省によって承認されたコースを修了した教師によって提供される」(第 13条),「肢体不自由(運動障害)児童生徒の特別教育は,場所・サイズ・レイアウトが目 的に適していると見なされる部屋で行う必要がある。校舎や校庭へのアクセス条件は肢体 不自由(運動障害)児童生徒を念頭に置いて調整する必要がある」(第14条)等の細かな 条件整備についても規定されている。
1982年には「移動困難な児童生徒のための特別教育支援に関するガイダンス(Vejledning om specialpædagogisk bistand til elever med bevægelsesvanskeligheder)」が出されて いる。このガイダンスでは肢体不自由(運動障害)児童生徒に対して国民学校で取り組む べき事項が記載され,特別な教育的配慮の内容,教育形態,補助器具,成績評価の配慮,
通学手段の保障,移行支援,教室環境等についての基礎的理解を国民学校教師に促すもの となっている。
ガイダンスでは学習活動・食事・着替え・トイレ等の支援にヘルパーを活用できるこ と,ハビリテーションセンターと連携して理学療法士・作業療法士による専門的ケア・ア ドバイスを受けられることについて説明されている。
教師の役割は,肢体不自由(運動障害)児童生徒だけでなく,保護者等に対するカウン セリングも特別教育支援に含まれている旨も説明され,家庭訪問や本人を交えた保護者面 談等によって家族のニーズを把握する必要性が述べられている。
通学手段は基本的に自治体が保障する義務があり,保護者が子どもを送迎することを選 択する場合にはその費用を自治体が負担することとなっている。
試験は「肢体不自由(運動障害)児童生徒に能力を示す機会を与えなければならないと いう考えに基づいて,準備時間中および試験において肢体不自由(運動障害)児童生徒に 特別な条件を与えることができる」と記載され,試験時間の延長,口頭発表が難しい場合 には書面発表にするなど,肢体不自由(運動障害)児童生徒に応じた代替課題の用意,補 助器具の使用の許可等について説明されている。
肢体不自由(運動障害)児童生徒の特別教育を担当できる教師は「教育省によって承認 されたコースを修了した教師」であると明文化され,当面の間は「教育実践専門ゼミC」
を履修した教師または「デンマーク教師養成大学(Danmarks Lærerhøjskoles)」の特別 教育基礎コースで学んだ教師が担当するものとするとされた。これらに該当しない教師の 場合には,肢体不自由(運動障害)児童生徒を教育する資格取得のための休暇制度が設け られることも記載されている。
1980年代初頭において肢体不自由(運動障害)特別学校・特別学級は,通常学級に在籍 する肢体不自由(運動障害)児童生徒への訪問教育も実施するなど,通常学校との連携・
協働のもとに肢体不自由(運動障害)児童生徒の困難やニーズに応じた教育支援がめざさ れていた。
3.デンマークの肢体不自由(運動障害)教育の現状
2012年に国民学校法の全面的改正がなされ「発達に特別な配慮または支援が必要な子ど もは特別学級や特別学校で特別教育およびその他の特別教育支援が提供される。さらに特 別教育およびその他の特別教育支援は,通常学級での教育が週に少なくとも9時間の授業 サポートでしか完了できない生徒に提供される」(第3条2項)とされた。すなわち,特 別学級または特別学校で学ぶことが認められるのは週あたり最低9時間の支援を必要とす ると認められた児童生徒のみとなり,それ以外の障害児は基本的に通常学級で学ぶことと された。この改正はインクルーシブ教育推進の一環として実施されたものであり,学校現 場等では「インクルージョン法(Inklusionsloven)」と呼ばれている。
国民学校法の全面的改正によって多くの障害児が通常学級で学ぶことになったため,学 校現場はその対応に追われる形となった。例えば,首都のコペンハーゲン市では国民学校 における障害児受け入れに対応するため,2013年に教師の5〜15%を特別学校で勤務する
「ペダゴー(pedagog)」と入れ替える決定をしているが,これは実質的な教師削減と受 け止められ,成績評価や教育の質に大きな影響を及ぼすと指摘されている(Riise:2012)。
特に政府はこの改正によって障害児の国民学校へのインクルージョンの指標として
「96%」という数値を掲げたため,現場からは「量的インクルージョン」と呼ばれた。
国民学校法の全面的改正に伴い,2014年6月に「国民学校の特別教育およびその他の特 別教育支援に関する施行令(Bekendtgørelse om folkeskolens specialundervisning og anden specialpædagogisk bistand)」が改正された。特別な支援が必要とされる児童生 徒については「教育心理学的評価(Pædagogisk Psykologisk Rådgivning,PPR)」によっ て児童生徒の実態やニーズが評価され,通常学級を中心に,場合によっては特別学級や特 別学校で「特別教育およびその他の特別教育支援」が実施されることが規定されている。
原則,通常学級において障害等の多様な困難を有する子どもの教育支援の実施が示される とともに,子どもの実態やニーズが教育心理学的に評価され,それに応じて教育支援が実 施される方法が採用されるようになった。
デンマーク教育省の統計によれば,2010年から2020年の10年間における通常学校への統 合率は約94%である(図1)。実際には障害のある子どもの特別学校への教育要求は依然 として強く,近年,特別学校における就学児童生徒数は増加傾向にある。具体的には国民 学校(公立)の就学児童生徒数は555,618名(2016年)から521,336名(2020年)へと減少 しているのに対し,特別学校は8,914名から10,407名,社会・情緒障害学校は2,525名(2016 年)から3,038名(2020年)と増加している(表1)。
デンマークでは国民学校等におけるインクルーシブ教育の実施がめざされているが,現 実的に中重度の障害を有する児童生徒に対しては特別学校や特別学級にて教育支援が実施 されている。肢体不自由(運動障害)や重度重複障害の児童生徒を対象とする特別学校・
特別学級では,ハビリテーションセンターとの連携のもとに理学療法士・作業療法士によ
図1 インクルージョン達成率の年次推移
(https://uddannelsesstatistik.dk/Pages/Reports/1791.aspx)
(Statistics Denmark:https://www.dst.dk/en/Statistik/emner/uddannelse-og-viden/
fuldtidsuddannelser/grundskole)
表1 初等中等教育段階の学校種別就学児童生徒数(人)
692,306 701,704
710,076 716,664
720,153
合 計
1,085 960 1,099
1,117 462
他の学校
3,038 3,221
3,029 2,681
2,525 社会・情緒障害学校
10,407 9,965
9,454 9,192
8,914 障害のある子どもの特別学校
3,763 3,555
3,842 4,040
4,760 自治体寄宿制学校
121,861 122,509
122,029 121,483
119,239 国民学校(私立)
521,336 531,073
541,198 549,064
555,618 国民学校(公立)
30,941 30,296
29,425 29,087
28,635 寄宿制学校
2020年 2019年
2018年 2017年
2016年
る専門的ケア・アドバイスの実施,食事・着替え・トイレなどの日常的支援が実施され,
肢体不自由(運動障害)に伴う多様な困難に応じた教育支援が取り組まれている。
ハビリテーションセンターは各自治体に設置されており,コペンハーゲン市のハビリ テーションセンターである「コペンハーゲン子どもセンター(Børnecenter København)」
では心理士,言語聴覚士,理学療法士,作業療法士等によって外来支援・家庭支援のみな らず,特別学校・特別学級,国民学校との協働のもとに,肢体不自由(運動障害)児童生 徒の発達支援を実施している。なお後述するが,コペンハーゲン市において肢体不自由(運 動障害)児童生徒を対象としているのは特別学校「Heerup Skole」と国民学校「Skolen ved Sundet」の特別学級(F-sporet)の2ヶ所であり,肢体不自由(運動障害)教育の 拠点校として機能している。
4.デンマークにおける肢体不自由(運動障害)教育の実際 4.1 保育・就学前教育における肢体不自由(運動障害)幼児支援
肢体不自由(運動障害)を含む障害・発達困難を有する幼児の多くは通常の保育所・幼 稚園に在籍している。デンマークの保育・就学前教育は0〜6歳の子どもを対象として5 形態で行われている(表2)。一人ひとりの支援計画を立てながら保育・就学前教育を行 うほか,特別な教育的ニーズを有する子どもを受け入れる際にはスタッフの加配,専門的
表3 コペンハーゲン市の特別保育施設を運営する法人
(KØBENHAVNS KOMMUNES:https://www.kk.dk/をもとに作成)
重複障害の子ども,発達障害の子ども,重度後天性脳損傷(高次脳機能障 害)の子ども
Guldregn
自閉症の子どもおよび発達障害の子ども Wagnersvej
Hvalen Krudtmøllen Troldpilen
重複障害の子どもと発達障害の子ども De Fire Birke
脳性麻痺(CP)およびその他の肢体不自由(運動障害)の子ども Centerbørnehaven
対象の子ども 法人名
表2 デンマークの保育・就学前教育制度
(石井:2010)
小学校に付設された小学校入学に向 けての準備教育を行う
ペダゴー 小学校教員 5〜6歳
1日あたり3時
⑤プリスクール 間
施設型保育の不足を補完することを 目的としたサービス。自宅を使って 乳幼児をもつ保護者が自分の子ども とともに4〜5人の乳幼児を保育す る。デイケアマザーと呼ばれる保育 者を自治体が雇用
無資格 0〜6歳 保護者の就業時
間に応じて(午 前6時30分前後 から午後5時前 後が一般的)
④ファミリーデイ ケア
デイナーサリーとデイケアセンター が統合されて就学前の乳幼児が一貫 した保育を受ける保育所
ペダゴー ペダゴーア シスタント 0〜6歳
③年齢統合保育所
3歳以上の幼児を対象とした保育 所。自然の中での活動を中心とした もの(森の保育所)や特別ニーズの ある子どもとの統合を意図したもの 等,多様な方針の施設がある
②デイケアセンタ 3〜6歳 ー
乳幼児を対象とした保育所 0〜3歳
①デイナーサリー
内 容
スタッフ 対象年齢
利用時間 施設名称
研修の実施,理学療法士等の派遣も行われる場合がある。幼稚園と呼ばれるフルタイムの デイケアセンターでは3〜6歳児までの幼児を対象にしている。デンマークのデイケアは 地域生活と一体となった教育とケアが実施されることにある。デイケアセンターの多くは 午前7時〜夕方5時まで運営しており,デイケアセンターを幼稚園と呼ぶ場合でも日本の 幼稚園とは異なる(山田:2007)。
デンマークでは社会サービス法(Social Service Act)第7条により,地方自治体には 身体的または精神的な障害のある子どもにデイケアを提供することが義務づけられてい る。社会サービス法第16条により「特別保育施設(særligedagtilbud)」の設置が規定さ れているが,特別保育施設は障害幼児の受け入れを専門的に行う保育施設であり,特別保 育施設に通っていない子どもの保護者の相談や障害幼児を受け入れている保育施設への助 言等も行っている(OECD:2020)。
写真4 活動の場の様子
(https://www.centerbh.dk/index.php/component/k2/item/34-trygge-rammer)
写真5 Skolen ved Sundet の内観
(https://dac.dk/viden/arkitektur/skolen-ved-sundet-og-friluftsskolen/)
特別保育施設は地方自治体と契約している法人によって運営されていることが多いが,
コペンハーゲン市には7種類の法人があり,204の特別保育施設が開設されている(表3)。
肢体不自由(運動障害)の幼児が通う特別保育施設はCenterbørnehavenによって運 営されており,コペンハーゲン市全域に住む脳性まひ・脳委縮・脊髄ヘルニア・後天性脳 損傷(高次脳機能障害)等の幼児を対象にしている(Centerbørnehavenウェブサイト)。
施設には0〜7歳の幼児が通い,職員は「エルザス財団(Elsass fonden)」と「CPデン マーク(CP danmark)」との協力により,ペダゴー・理学療法士・作業療法士等の専門 職員を確保している。
特別保育施設(Specialinstitutionen Centerbørnehaven)は「子どもにとって安全で 良い子ども時代を送ること,子どもの一般的な幸福を確保し,子どもがもつ潜在能力を最 大限発揮できるように支援すること」を目的としている。活動内容は遊び・外出・共同活 動など,通常の保育施設での日常生活と可能な限り近い活動が行われている。その中で子 どもの運動と認知を発達させ,可能な限り自立できるようになることがめざされ,理学療 法と作業療法を通じて個別のトレーニング活動が組織されている。1日の活動は遊びに重 点を置き,誕生日・お茶会など構造化されたロールプレイングゲーム,認知を強化するゲー ムやタスク,グループ活動では対話型読書,クライミング,アウトドアや焚き火を行って いる(写真4)。
4.2 国民学校併設の肢体不自由(運動障害)特別学級
(1)国民学校「Skolen ved Sundet」の肢体不自由(運動障害)特別学級
コペンハーゲン市の国民学校「Skolen ved Sundet」には肢体不自由(運動障害)やそ
写真6 Heerup Skole
(http://www.bsaa.dk/frederiksgrd-skole)
の他の困難を抱える児童生徒の特別学級が開設されており,他校の児童生徒を含めて45名 に対して教育支援を実施している(写真5)。
この特別学級ではコペンハーゲン子どもセンター(Børnecenter København)と連携 をとり,センターの心理士・言語聴覚士・作業療法士・理学療法士等のスタッフが対象と なる肢体不自由(運動障害)児童生徒の調査やハビリテーションを実施し,また児童生徒 の様子や教師の対応を観察しながらアドバイスを実施している。さらに特別学級にはリ ソースセンターが開設されており,近隣の国民学校の教師・スタッフのサポートを実施し ている。
(2)国民学校「Rosengårdskolen」の肢体不自由(運動障害)特別学級
国民学校「ローゼンゴード学校(Rosengårdskolen)」に設置されている肢体不自由(運 動障害)特別学級「Fønix」は,オーデンセ市やフュン島等に在住する肢体不自由(運動 障害)の児童生徒を対象としている。具体的には脳性マヒ・脊髄ヘルニア・神経筋疾患・
てんかん等の診断を受けた中重度の肢体不自由(運動障害)児童生徒である。多くが車椅 子を利用し,食事・着替え・トイレなどの日常生活のサポートを必要としている。また,
早産や後天的な脳損傷に伴って集中力・注意力・記憶力・言語に困難を有しており,加え て行動上の問題,学習意欲の欠如,孤独等の多様な不安や困難を抱えている児童生徒も少 なくなく,教職員の協働によって個々の子どものニーズに応じた対応や配慮が実施されて いる。
こうした肢体不自由(運動障害)児童生徒への教育支援を適切に実施するために,オー デンセ市のハビリテーションセンター「子どもセラピー」との連携を重視し,子どもセラ ピー所属の理学療法士・作業療法士による多様な支援,具体的には特別学級教師・スタッ フ等と協議,学習環境整備,チームトレーニング・個別トレーニング,補助器具配置,運 動技能の改善等に取り組んでいる。
4.3 特別学校における肢体不自由(運動障害)教育
(1)「Heerup Skole」(コペンハーゲン市)
「Heerup Skole」は肢体不自由(運動障害)児童生徒を対象とした特別学校であり,
定員90人,1〜10年生を受け入れている(写真6・7)。コペンハーゲン市のハビリテー ションセンター「コペンハーゲン子どもセンター(Børnecenter København)」のスタッ
写真8 ビスコブ学校(Byskovskolen)
(https://byskovskolen.aula.dk/)
写真7 各クラスの屋外スペースにあるアクティビティ
(https://www.rumsans.dk/artikler/heerup-skole)
フが定期的に学校を訪問支援している。入学するためにはコペンハーゲン市による教育心 理学的評価(PPR)を受ける必要があるが,子どもセンター所属の心理士・言語聴覚士・
理学療法士・作業療法士等がその実務も担当している。
教室環境では全てのクラスに相互にやりとりの可能なホワイトボードが設置され,IT とデジタル学習ツールは教育の大部分に関与するようになっている。また,iPad,Prowise スクリーン(電子黒板),スマートフォンの使用も実施される。
デンマークでは2017年の「国民学校での義務的試験に関する施行令」によって7科目で 知識とスキルに関する「全国テスト(nationale test)」の受検が児童生徒に義務づけられ,2 年生から8年生にかけて10回のテストを受けなければならない。しかし,子どもが障害を 有する場合やデンマーク語の習得が困難な場合は,校長判断でテストに際して特別な配慮 を行うまたは全国テスト自体を免除できるとされており,この学校では全ての児童生徒が 全国テストを免除され,代替評価が行われている。
(2)「ビスコブ学校(Byskovskolen)」(リングステズ市)
リングステズ市にはかつて肢体不自由(運動障害)と言語障害の児童生徒を対象とした 特別学校である「Asgårdsskolen」と聴覚障害児童生徒の「Parkskolen」があったが,2013 年8月に「Asgårdsskolen」に隣接する国民学校「Benløse Skole」との統合がなされて,
新しく「ビスコブ学校(Byskovskolen)」が設立された(写真8)。
ビスコブ学校は,肢体不自由(運動障害)教育・言語障害教育・聴覚障害教育を実施す る「エスゴル部門」と通常の国民学校である「ビンルース部門」に分かれている。
エスゴル部門では早期の予防措置の実施,通常教育と特別教育の連携・調整の強化,家 庭との連携等の取り組みが実施されており,とくに言語聴覚士・理学療法士・作業療法士 等と連携しながら,肢体不自由(運動障害)・言語障害・聴覚障害とともに知的障害や学 習困難を有する児童生徒に対して特別プログラムが実施されていことが特徴的である。さ らにエスゴル部門では肢体不自由(運動障害)児らを地域の国民学校に戻すことも視野に 入れて,エスゴル部門とビンルース部門のすべての児童生徒が共同で活動するための機会 を設けている。
なお「Læseløft(早期の読み書きに関する支援)」は,第1学年において半年たっても 十分な読み書きができない場合に実施され,第2学年以降では必要に応じてフォローアッ プが実施される。その後も児童生徒のニーズに応じながら,スペリング・算数に特化した り,代替的コミュニケーションを含んだIT支援教育などが実施されている。
4.4 高校(後期中等教育)における肢体不自由(運動障害)教育
デンマークの高校(後期中等教育)は4種類から構成されている。①技術高校(Teknisk gymnasium)において一般科目に加えて技術・科学の科目を中心に学ぶ3年間の「高等 技術試験課程(HTX)」,②職業高校(Handelsgymnasium)において一般科目に加えて 経済・ビジネス関係の科目を中心に学ぶ3年間の「高等職業試験課程(HHX)」,③ギム ナジウム(Gymnasium)において人文科学・社会科学・自然科学の幅広い科目を学ぶ3 年間の「高等一般試験課程(STX)」,④高校または成人教育センター(Voksenuddannels- escentre)において職業大学・ビジネスアカデミーへの入学をめざす2年間の「高等予備 試験課程(HF)」である。
デンマークの高校(後期中等教育)において,障害のある生徒はインクルーシブ教育の 理念のもと,可能な限り通常の高校に通い,特定の教育プログラムを利用することになっ ている。高校で特別なニーズを持つ生徒へのサポートは,特別教育支援(SPS)プログラ ムを通じて提供される。SPSは障害により生じる教育上の課題を補い,通常の生徒と対 等な立場で教育を受ける機会を保障するものである。
高校(後期中等教育)における肢体不自由(運動障害)生徒への支援の形態は,肢体不 自由(運動障害)の種類と程度によって異なる。例えば,介助を受けることができ,デン マーク教育品質庁と提携しているサプライヤーに雇用された介助員により,ノートテイク などの支援が行われる。その他,人間工学に基づいたオフィスチェアや高さ調節可能なテー ブル,マウスやキーボードなどの人間工学的補助,ディクタフォン(音声レコーダー・ボ イスメモ),IT機器や音声認識プログラムなどの提供等の実際的な支援が行われる。
SPSスキームを通じてサポートを受けるための最初のステップは,高校のSPSマネー ジャーに連絡することである。SPSマネージャーは,高校の生徒カウンセラーやその他 の教職員が担っている。入学が許可されたら,入学前に高校に連絡してSPSマネージャー と一緒に教育を修了するために必要なサポートについて話し合い,その後に支援ニーズの 評価が行われる。
肢体不自由(運動障害)生徒の場合,SPSマネージャーと初めて会う時に,医師・専
図2 25歳人口における高校(後期中等教育)修了率
(https://handicap.dk/sites/handicap.dk/files/media/document/AE_Mange%20unge%20med%20 handicap%20f%C3%A5r%20ikke%20en%20ungdomsuddannelse.pdf)
門家または病院からの文書を提出することが望ましいとされ,多発性硬化症などの進行性 疾患の場合には現在の状態を把握するために新しい情報を提示することが重要である。
高校(後期中等教育)において特別教育支援(SPS)プログラムが実施されているもの の,2017年度の実態調査では肢体不自由(運動障害)を有する18歳の若者の約31%が高校
(後期中等教育)教育を受けていないことが示され,通常の18歳の若者が約15%であるの に対して倍以上の数値となっている。また25歳人口でみたときに,図2に示したように,
通常の若者の約80%が高校(後期中等教育)を修了しているにもかかわらず,肢体不自由
(運動障害)を有する若者は約60%しか後期中等教育を修了していないことが明らかにさ れている(Danske Handicaporganisationer:2019)。
高校(後期中等教育)への進学が難しい場合や特別学校在籍生徒の多くは,主に特別学 校等で実施される「特別支援を必要とする若者の青少年教育(Ungdomsuddannelse for unge med særlige behov, STU)」を受けることが多い。STUは義務教育を修了した特別 なニーズを有する若者のうち,通常の高校(後期中等教育)へ移行が困難な16〜25歳を対 象とした3年間の個別カリキュラムであり,重度肢体不自由(運動障害),重複障害,自 閉スペクトラム症,注意欠如・多動症(ADHD),精神障害,後天性脳損傷(高次脳機能 障害)のある若者を対象としている。義務教育を修了した全生徒のうち約5%がSTUを 履修しており,肢体不自由(運動障害)児においても重度肢体不自由(運動障害)や重複 障害を抱えている若者の多くはSTUを履修しているものと推察される(Om ungdomsud- dannelse for unge med særlige behov(STU))。
STUは教育とインターンシップ(年間840時間)から組織され,教育は可能な限り,若 者の興味を考慮して実施されている。教育内容は教師・本人・保護者の協議によって決め られ,「個別教育計画(Individuel Uddannelsesplan)」も作成される。STUに修了試験 はなく,教師との面接を通じて作成するコンピーテンスシートで修了の判定がなされる。
コンピーテンスシートには学習やインターンシップを通しての専門的能力・社会的能力が 評価される。なお,STUは高校(後期中等教育)修了扱いではなく,国民学校修了程度 としてみなされる。
2007年のSTUの制度化の当初の参加者は年間2.3%程度(およそ4,100名程度)と想定 されたが,2014年には5,464名,2015年以降も約5,800名と参加者数は多い。STUは高校(後
表4 「あなたの子どもが他の子どもと対等な立場で学習に参加するために,
必要な支援をどの程度受けていますか?」
( https://handicap.dk/nyheder/ny-undersoegelse-halter-med-inkludere-elever-med-handicap-skolen)
1%
11 わからない
25%
191 まったくない
34%
263 あまりない
27%
208 少しある
13%
105 かなりある
割 合
回 答 数 項 目 名
表5 「あなたの子どもの教師とペダゴーはあなたの子どもの障害について 十分な知識を持っていますか?」
2%
13 該当なし
6%
44 わからない
69%
536 十分な知識はもっていない
3%
24 社会的状況での支援についてだけ
7%
52 学習面についてだけ
14%
109 学習面でも社会的状況での支援面でも十分な知識を持っている
割 合 回答数
項 目 名
期中等教育)からドロップアウトとした若者の教育保障を実施するものとして位置づけら れるが,若者がメインストリームから分離された環境で進路選択を行わざるを得ない事態 になり得る懸念も指摘されている(池田:2018)。
5.当事者組織のニーズ
「デンマーク障害者協会(Danske Handicaporganisationer)」は2019年に国民学校に 通う障害児の保護者約1,107名を対象に,インクルージョン教育に関する調査を実施して いる(Danske Handicaporganisationer:2020)。
その結果,59%の保護者が子どもが必要な支援を受けられていないと回答しているほ か,69%の保護者は教職員が子どもの障害について十分な知識を持っていないと回答して おり,学校へのインクルージョンに対して満足している保護者も27%にとどまっているこ とが示された(表4・5・6)。
加えて,障害児の約7割が障害のためにしばしば欠席していること,その内の約3割が 1ヶ月以上の欠席を余儀なくされていること,またインクルージョンの状況下において約 3割の子どもが1つ以上の科目が免除されていることが報告されており,インクルーシブ 教育の進展において,多くの障害児童生徒の困難やニーズに応じた教育支援が実施されて いない状況であることが示されている。こうした調査を通してデンマーク障害者協会は,
障害児のインクルージョンのためのリソースの確保,学校と家庭の連携強化,保育・就学 前教育からの情報の引き継ぎ等の教育改善を提起している。
表6 「全体として,あなたはあなたの子どもを学校に含めることに どの程度満足していますか?」
(https://handicap.dk/nyheder/ny-undersoegelse-halter-med-inkludere-elever-med-handicap-skolen)
1%
6 わからない
29%
220 非常に不満
26%
192 不満
17%
124 どちらともいえない
18%
138 満足
9%
69 非常に満足
割 合 回答数
項 目 名
6.おわりに
本稿では,デンマークの肢体不自由(運動障害)教育の動向を整理し,インクルーシブ 教育を推進するデンマークにおいて,特別学校・学級の形態のもとに肢体不自由(運動障 害)教育システムを維持していることの理由について検討してきた。
デンマークにおいては長い肢体不自由(運動障害)教育の歴史のなかで,特別学校や特 別学級において,ハビリテーションセンターと連携しながら,専門性の高い肢体不自由(運 動障害)教育が実施されている。デンマークではインクルーシブ教育が促進されているが,
実際には肢体不自由(運動障害)特別学校・特別学級への教育要求は依然として強く,近 年,就学児童生徒数は増加傾向にある。
デンマークにおいても肢体不自由(運動障害)を有する子どもが通常の学校で差別・偏 見・排除のリスクが高いことも指摘されている(Mariane Sentenacほか:2013)。また,
脳性まひの当事者団体も,脳性まひの子どもが可能な限り通常学校に在籍できるように子 どもが必要とする支援と条件が保障されることを要求しつつ,一方で,特別学校や特別学 級において専門的な教育を受ける権利も保障されるべきであることを指摘している(CP Denmark:2019)。
ソーシャルインクルージョン実現の方法としてインクルーシブ教育を推進するデンマー クであるが,インクルーシブ教育促進のなかで肢体不自由(運動障害)の子どもの発達困 難・ニーズに応じた発達支援をどのように深化させていくのかが大きな課題となってい る。
文献
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https://handicap.dk/sites/handicap.dk/files/media/document/AE_Mange%20unge%
20med%20handicap%20f%C3%A5r%20ikke%20en%20ungdomsuddannelse.pdf Danske Handicaporganisationer(2020)NY UNDERSØGELSE: DET HALTER MED
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https://handicap.dk/nyheder/ny-undersoegelse-halter-med-inkludere-elever-med- handicap-skolen
Hans Knudsen Instituttetハンス・クヌーセン研究所:https://hki.dk/
Heerup Skole:https://heerupskole.aula.dk
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https://www.folkeskolen.dk/518000/laerere-udskiftes-med-paedagoger-paa-koeben- havnske-specialskoler
Rosengårdskolen:https://rosengaardskolen.aula.dk/#nolink
Sahva(Samfundet og Hjemmet for Vanføre):https://www.sahva.dk/
Skolen ved Sundet:https://svs.aula.dk/
Specialpædagogisk støtte(SPS):
https://www.spsu.dk/for-elever-og-studerende/hvad-er-sps Specialskolen Bramsnæsvig:
https://www.xn--specialskolenbramsnsvig-r9b.dk/videncenter/
Specialundervisning og anden specialpædagogisk bistand特別教育その他の特別教育支 援:
https://www.uvm.dk/folkeskolen/laering-og-laeringsmiljoe/specialundervisning Statistics Denmark:
https://www.dst.dk/en/Statistik/emner/uddannelse-og-viden/fuldtidsuddannelser/
grundskole
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Vejledning om specialpædagogisk bistand til elever med bevægelsesvanskeligheder移 動困難な児童生徒のための特別教育支援に関するガイダンス:
https://www.retsinformation.dk/eli/retsinfo/1982/22037 山田敏(2007)『北欧福祉諸国の就学前保育』明治図書。