• 検索結果がありません。

大学生の過剰適応とソーシャル・サポート,抑うつ,不登校傾向の関連

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "大学生の過剰適応とソーシャル・サポート,抑うつ,不登校傾向の関連"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

 大学生は,環境の変化や人生における重大な決定を 迫られる時期であり,精神的に揺らぎやすいといえ る。大学入学に伴う生活環境や対人関係の変化などか らストレスを感じやすく,抑うつを経験することも多 い(西河・坂本,2005)。このような状況の中,臨床 心理学的な支援対象とはならないまでも,多少の困難 を抱えながら学生生活を送っている大学生は少なくな い(白石,2005)。こうした問題の中で近年注目され ているのが,大学生の不登校である。大学生の不登校 に関する定義は複数みられるが,「大学には正式な届 け出を出さないままに,3ヶ月以上研究室や講義に出 席しない状態(小柳,2001)」や,「出席しなければな らない講義がある日に大学に登校しない,あるいはそ れが連続する状態(蔵本,2011)」などが示されている。

大学生の不登校は中退へつながる可能性もあり,さら に中退は将来のキャリアに負の影響を及ぼす(辰巳,

2015)。大学への進学率が53.3% となり年々上昇して

いることからも(文部科学省,2018),今後大学生の 不登校予防の重要性は増すと考えられる。

 小柳(1996)によると,大学生の不登校は「対人恐 怖を伴う不登校」と「抑うつを伴う不登校」に大別さ れ,後者はさらに「疲弊型」「アパシー型」「逃避型」

に分けられる。中でも疲弊型は「抑うつの典型的タイ プで,几帳面,完全主義などのために,あらゆること を怠りなくこなそうとして心身ともに疲れ果てて不登 校になるもの」をさしている(小柳,1996)。このタ イプは,小泉(1973)による児童生徒を想定した不登 校分類における「優等生の息切れ型」と酷似している と考えられる。「優等生(よい子)の息切れ型」は,

よい子を演じてきた子どもたちの内面の問題が表面化 したものと捉えられている(庄司・林田,2001)。山 田・宮下(2008)は,そのような子どもは,思春期に 入ると,大人の期待する「よい子」でいることの息苦 しさを感じるようになり,そして周囲の期待と自立へ の内的欲求との葛藤から疲れや身体症状を訴えたり,

大学生の過剰適応とソーシャル・サポート,抑うつ,

不登校傾向の関連

池田 真理子 飯島 有哉

1

 松葉 百合香 

早稲田大学

田中 友梨香 

元早稲田大学

 桂川 泰典 

早稲田大学

The relationship between over-adaptation of university students and social support, depression, and school refusal tendency

Mariko IKEDA, Yuya IIJIMA1, Yurika MATSUBA (Waseda University), Yurika TANAKA (former Waseda University),

and Taisuke KATSURAGAWA (Waseda University)

 The purpose of this study was to investigate how over-adaptation and social support relate to depression and school refusal, and to discuss over-adapters' mis-adaptation and its prevention. The results showed that social support from family and friends effectively reduces depression in university-level students. Additionally, the cluster of over-adaptation most relevant to depression has a high external aspect, which is an other-oriented characteristic, and a high internal aspect, which is a self-inhibiting characteristic. Other-orientated traits can be regarded as one of adaptation strategies. However, those who suppress themselves and feel such a sense of insuffi ciency are more likely to be depressed.

Furthermore, the results suggested a difference in the school refusal based on the cluster of over-adaptation. Those with a heightened aversion towards school had a low external aspect, a low internal aspect. In addition, as social support reduces depression, a preventive effect is expected from it in cases of school refusal with depression.

Key words: over-adaptation, social support, depression, school refusal Waseda Journal of Clinical Psychology

2019, Vol. 19, No. 1, pp. 37 - 44

1 日本学術振興会特別研究員(Research Fellow of Japan Society for the Promotion of Science)

(2)

行動化したりすることによって,不登校になることが 多いと述べている。このように,外界からの要求に過 度に応えようとし疲れ果ててしまった結果として不登 校が生じるという点で,大学生の「疲弊型」と児童生 徒の「優等生(よい子)の息切れ型」は共通した特徴 を持つ不登校の類型であると考えられる。

 一方,大学生は民法上成人であり,義務教育を終え,

親権に服することがないため,進路や就職なども自ら 選択できる権利がある。したがって,本人の自律的な 意思によって不登校の状態になる者も少なくない。し かしながら,近年の大学生の不登校は,一日中家にい る 引 き こ も り タ イ プ が 多 い と さ れ て い る( 高 塚,

2002)。大学の保健センターに来談した学生の多くが,

夜間の「コンビニ」に行くことや,電話で人と話せる 程度のコミュニケーションしか取れない者であり,親 も含めた他人とほとんどコミュニケーションを取らな い者も存在しているという報告もある(福田,2000)。

これらの学生の多くは自律的な選択による者ばかりで なく,本人も苦痛を感じ,疲弊している状態の者もい ると考えられる。したがって,大学生における「疲弊 型」と児童生徒における「優等生の息切れ型」は同様 であると明言することはできないものの,多くの点で 共通する特徴を持つ不登校の類型であると考えられ る。

 近年の研究では,こうしたよい子の周囲の期待に沿 うように常に気兼ねをして自分自身の自由な感情を抑 えるといった特徴は,「過剰適応」という言葉に要約 できると考えられている(桑山,2003)。過剰適応と は,「環境からの要求や期待に個人が完全な形で従お うとすることであり,内的な欲求を無理に抑圧して も,外的な期待や欲求に応える努力を行うこと」(石 津・安保,2008)と定義されている。過剰適応は,他 者志向的で適応方略とみなせる外的適応と,いわゆる

「よい子」に特徴的な自己抑制的な特性からなる内的 側 面 か ら 構 成 さ れ る と さ れ て お り( 石 津・ 安 保,

2008),過剰適応は,「外的適応の過剰さ」と「内的適 応の低下」の2側面から定義されることが一般的であ る(益子,2010)。過剰適応は以前から心身症の病前 性格として知られてきた概念であり(小林・古賀・早 川・中嶋,1994),高校生を対象とした研究で,過剰 適 応 と 不 登 校 傾 向 の 関 連 が 示 さ れ て い る( 益 子,

2009)。

 児童期には過剰な適応をして「素直なよい子」「模 範生」などと言われながら一見何の問題もなく過ごし てきた子どもが,青年期に至って問題を表面化すると いう現象が指摘されており(桑山,2003),大学生の

「疲弊型」の不登校は,「よい子の息切れ型」と同様の 過剰適応という問題が,青年期の環境変化にともなっ て顕在化したものであると考えられる。したがって,

発達段階は異なるものの,大学生の「疲弊型」と児童

期の「よい子の息切れ型」は,その本質的な問題が過 剰適応にある点で同質的にとらえられると考えられ る。そこで本研究ではこれまで検討されてこなかった 過剰適応と大学生の不登校傾向の関連について調査す ることとした。

 加えて本研究では,不登校傾向と関連を有するとさ れる諸変数の中でも,過剰適応者においてはその機能 が十分に明らかになっていない,ソーシャル・サポー トに着目する。ソーシャル・サポートとは,普段から 自分を取り巻く重要な他者に愛され大切にされてお り,もし何か問題が起こっても援助してもらえる,と いう見込みの強さである(久田・千田・箕口,1989)。

個人のもつソーシャル・サポートは①社会的なネット ワークの広さ,②どの程度援助を受けることができる かに関する主観的な期待感の程度,③実際にどの程度 の 援 助 を 受 け た か, に よ っ て 評 価 さ れ る( 鈴 木,

2000)。これまでの研究では,ソーシャル・サポート は学校ストレスを軽減することや(岡安・嶋田・坂 野,1993)不登校の予防効果があることが明らかに なっているが(菊島,2001),過剰適応傾向が高い者 に対しては,本来不登校を予防するはずのソーシャ ル・サポートが機能しない可能性があるという研究結 果も示されている(石津,2008)。また,大学生のソー シャル・サポート量は家族より友人の方が多いという 指摘もあり(嶋,1992),大学生では友人などによる サポートの重要性が増してくるなど,主なサポート源 は発達にともない変化することが示されている。先行 研究(石津,2008)は中学生を対象としており,大学 生においてはサポート源によって,その機能が異なる 可能性がある。したがって不登校予防の観点から,大 学生を対象として,過剰適応と不登校傾向そしてソー シャル・サポートの関連について検討する意義がある といえる。 

 また,不登校の前段階には小柳(1996)の指摘に代 表されるように抑うつや不眠,頭痛など様々な要因が 挙げられるが,近年大学生の抑うつ感が高いことが指 摘されている(上田,2002)。したがって本研究で扱 う大学生の不登校は,抑うつを原因とする不登校の典 型的タイプである「疲弊型」とした。このタイプは,

あらゆることを怠りなくこなそうとして心身ともに疲 れ果てて不登校になるものである(小柳,1996)。真 面目で「〜ねばならない」という強迫性が強く,講義 やサークル,アルバイトなどへの熱心な活動による疲 労がかさむことで,抑うつが現れ登校が困難になると されている(小柳,1996)。また,抑うつなどの心身 不調が登校回避感情や登校回避行動につながるとの報 告や(堀井,2016),不登校の契機として精神保健上 の 問 題 が 多 く み ら れ る と の 指 摘 も あ り( 磯 辺 他,

2006),不登校の前段階としての抑うつを予防するこ とで,不登校になる大学生を減少させる一助となる可

(3)

能性も考えられる。したがって,過剰適応と不登校傾 向との関連性を検討するにあたり,不登校の前駆状態 として位置づけられる抑うつとの関連性の検討を同時 に行う。

 以上のことから本研究では,過剰適応とソーシャ ル・サポートが抑うつと不登校傾向にどのように関連 するかについて検討し,「疲弊型」「優等生(よい子)

の息切れ型」に代表されるような過剰適応者の陥る不 適応を予防する一助となる知見を得ることを目的とし た。

方  法

調査対象者

 本調査は,首都圏の私立四年制大学に在籍する大学 生243名(男性111名,女性132名,平均年齢20.87 歳(SD=1.33歳))を対象に行なわれた。

調査実施期間

 2017年10月〜11月にかけて行われた。

調査材料

 大学生不登校傾向尺度(堀井,2013):大学生の不 登校傾向(大学の正課活動に対する回避傾向)を測定 する12項目で構成された尺度である。各項目に対す る回答は7件法で求めるもので,得点が高いほど不登 校傾向が高いことを表す。登校回避行動と登校回避感 情の2因子で構成されており,十分な信頼性と妥当性 が確認されている(堀井,2013)。

 学生用ソーシャル・サポート尺度 (The  Scale  of  Expectancy  for  Social  Support:  SESS)(久田・千 田・箕口,1989):大学生用として作成されたソーシャ ル・サポートを測定する16項目で構成された尺度で ある。SESSは,将来何か問題が生じた場合に,周囲 の人々からどの程度援助が期待できるかを測定するこ とを目的とした尺度であり,各項目(たとえば,「あ なたが落ち込んでいると,元気づけてくれる」)に対 し,5つのサポート源(父親,母親,きょうだい,学 校の先生,それ以外の友人・知人)からそれぞれ将来 どの程度援助が期待できるかを4段階で評定を求める ように構成されている。また,合計点が高いほどサ ポートを得られる見込みが高いことを表している。な お,十分な信頼性と妥当性が確認されている(箕口・

千田・久田,1989; 岡安・嶋田・坂野,1993)。本研究 では,大学生のソーシャル・サポート量は,家族より も友人の方が多いという指摘(嶋,1992)を考慮し,

家族のみに焦点を当てず,広く対人関係を調査するた め,サポート源を「家族」「先生」「友人」とした。

 大学生用過剰適応尺度(石津・齋藤,2011):過剰 適応傾向を測定する31項目で構成されている尺度で ある。5因子構造であり,「自己不全感」「自己抑制」

を内的側面,「他者配慮」「人からよく思われたい欲求」

「期待に沿う努力」を外的側面としている。回答は5 件法であり,十分な信頼性と妥当性が確認されている

(石津・齋藤,2011)。

 こころの健康チェック表 K6 日本語版(Furukawa  et  al.,  2008):  うつ病・不安障害などの精神疾患をス クリーニングすることを目的に開発された6項目の尺 度である。5段階で回答を求めて採点し,6項目の合 計得点を計算する。得点は0〜24点の範囲であり,9 点以上であればうつ病や気分・不安障害の可能性が高 いといえる。また,十分な信頼性と妥当性が確認され ている(Furukawa et al., 2008)。

調査手続き

 本調査は,大学構内で実施された。授業担当教員の 許可のもと,授業終了後の教室内で一斉法による質問 紙調査を行った。

倫理的配慮

 本調査は,回答者に対し,個人情報の守秘,回答の 任意性,本調査に回答しないことにより不利益は一切 生じないことについて口頭および調査用紙の表紙への 記載で説明した。なお,本研究は,早稲田大学「人を 対象とする研究に関する倫理委員会」の審査・承認を 得て行われた(承認番号:2017-178)。

結  果

相関分析

 まず,各変数間の関連を予備的に検討するため,相 関分析を実施した。分析の結果,過剰適応の内的側面 と各サポート源からのソーシャル・サポートとの間に は有意な負の相関が認められた(家族 : r=-.24, p<.01; 

友人 : r=-.29, p<.01;  先生 : r=-.15, p<.05)。また,抑う つと過剰適応の外的側面(r=.28, p<.01),内的側面の 間(r=.37, p<.01)にそれぞれ有意な正の相関が認め られ,家族サポートとの間(r=-.22, p<.01)および友 人サポートの間(r=-.21, p<.01)には有意な負の相関 が認められた。また登校回避感情と先生からのサポー トとの間(r=-.21, p<.01)には有意な負の相関が認め られ,抑うつとの間には有意な正の相関が認められた

r=.24, p<.05)。その他の結果についてはTable1に示 した。

過剰適応の内的側面と外的側面の組み合わせおよび ソーシャル・サポートと,抑うつ,不登校傾向との関連  過剰適応は,いわゆる「よい子」に特徴的な自己抑 制的な特性からなる内的側面と,他者志向的で適応方 略とみなすことのできる外的側面から構成されており

(石津・安保,2008),本研究では,過剰適応の様相を 内的側面,外的側面の組み合わせによるものとして扱

(4)

うために,過剰適応尺度の下位尺度得点を用いて Ward法によるクラスター分析を実施した。分析の結 果,4つの解釈可能なクラスターが得られた(Figure  1)。4つのクラスターの特徴は以下のとおりであった。

第1クラスターは内的側面,外的側面いずれの側面も 高い群であった。第2クラスターは外的側面が高く,

内的側面は低い群であった。第3クラスターは外的側 面が低く,内的側面が高い群であった。第4クラス ターはいずれの側面も低い群であった。以上の特徴を 踏まえ,各クラスターを外高内高群 (N=87),外高内 低 群 (N=71), 外 低 内 高 群 (N=69), 外 低 内 低 群 

(N=16) とした。

 また,ソーシャル・サポートの群分けについて,

ソーシャル・サポート全体得点および各サポート源別 の得点に対し,得られた平均値±1/2SDを基準に高

群,低群の群分けを行った。

 過剰適応の群(外高内高群,外高内低群,外低内高 群,外低内低群)とソーシャル・サポート群(高群,

低群)(それぞれSS全体,家族SS,友人SS,先生 SS)を独立変数,抑うつおよび不登校傾向の下位因 子である「不登校感情」と「不登校行動」をそれぞれ 従属変数とした4×2の2要因分散分析を実施した 

(Table 2, 3, 4)。

 その結果,抑うつに対しては,過剰適応の群とソー シャル・サポート全体の交互作用は有意でなく,過剰 適応の群の主効果が有意であった(F(3,134)=3.17, 

p<.05)。Tukey法による多重比較を行ったところ,外

高内高群と外高内低群,外高内高群と外低内高群にそ れぞれ有意差が認められ(p<.05),外高内高群は外高 内低群と外低内高群よりも有意に抑うつ得点が高いこ Table 1

各変数の記述統計量および相関間関係

Figure 1 過剰適応のクラスター分析。

(5)

Table 3

過剰適応のクラスターとソーシャル・サポートの高低による登校回避感情の差

とが明らかとなった(Figure 2)。サポート源によって 関連性が異なるのかを検討するためにソーシャル・サ ポートのサポート源別に分析を実施した結果,家族か らのソーシャル・サポートの群と過剰適応の群の交互 作用は有意でなく,家族サポートにおいて主効果が有 意であり(F(1,235)=7.59,p<.05),家族サポート が高い群の方が抑うつ得点が有意に低かった。また,

友人サポートにおいても同様に,過剰適応との交互作 用は有意でなく,友人サポートの主効果が有意であり

F(1,137)=4.14,p<.05),友人サポートが高い群の 方が,抑うつ得点が有意に低かった。また,先生サ

ポートについては,過剰適応との交互作用および主効 果は認められなかった。したがって,過剰適応の様相 に関わらず,家族と友人からのサポートが,大学生の 抑うつを低減させることが明らかとなった。

 次に,登校回避感情に対しては,過剰適応とソー シャル・サポート全体の交互作用およびソーシャル・

サポートの主効果は有意でなく,過剰適応の主効果の み有意であった (F(3,134)=4.97, p<.05)。多重比較 の結果,外低内低群が他の全ての群よりも有意に登校 回避感情得点が高かった (p<.05)。サポート源別に分 析を実施したところ,全てのサポート源において交互 Table 2

過剰適応のクラスターとソーシャル・サポートの高低による抑うつの差

Table 4

過剰適応のクラスターとソーシャル・サポートの高低による登校回避行動の差

(6)

作用およびソーシャル・サポートの主効果は有意でな かった。したがって,登校回避感情は,各種サポート の高低で差は生じないことが示された。

 最後に,登校回避行動に対しては,過剰適応とソー シャル・サポート全体の交互作用およびいずれの主効 果も有意でなかった。サポート源別に分析を実施した ところ,同様に交互作用および主効果のいずれも有意 でなかった。したがって,過剰適応や各種サポートの 高低によって登校回避行動には差が生じないという結 果が得られた。

考  察

 本研究の目的は,過剰適応とソーシャル・サポート が抑うつと不登校傾向にどのように関連するかについ て検討し,「優等生(よい子)の息切れ型」に代表さ れるような過剰適応者が陥る不適応とその予防につい て考察することであった。

 本研究の結果から,抑うつに関しては,過剰適応の 内的側面と外的側面がともに高い場合に,より高い抑 うつを示すことが明らかとなった。さらに,過剰適応 の様相にかかわらず,家族と友人からのソーシャル・

サポートは抑うつの低減に有効である可能性が示され た。すなわち,家族や友人から愛され,将来自分に何 かあったときに助けてくれるという見通しを持つこと が抑うつの低減に有効であるといえる。また,これら のサポートはどのような過剰適応の様相であっても,

抑うつ低減に対して機能するといえる。

 登校回避感情に関しては,抑うつの結果とは異な り,外低内低群が最も抑うつが高かった。外低内低群 は,他者志向的な適応方略をとっておらず,他人のた めに自分を抑えることをしない者が属する群である。

したがって,自身の自由な気持ちを率直に表現した結 果が,登校回避感情の高得点化であると考えられる。

なお,次に登校回避感情が高い群は外高内高群であっ たことから,外高内高群は,最も抑うつ得点が高い群 でもあり,抑うつを伴う不登校になりやすい状態像で あると考えられる。この状態像は小柳(1996)の定義 していた「疲弊型」と同様の状態であると考えられる。

本研究の結果から外高内高群は,登校回避感情得点に おいて外低内低群よりも低い結果となったが,外高内 高群に属する者は,登校回避感情という,世間から見 て正しく・理想的とは言えない感情を自分が持ってい ると表現することに抵抗がある可能性がある。そのた め,外高内高群に属する者は実際にはさらに高い登校 回避感情を持っていたとしても,表現できていなかっ たことが推測される。しかしながら,外高内高群は外 低内低群以外の群との間には有意差がみられなかった ことから,外高内高群が,高い登校回避感情を抱えて いるとは必ずしも言えないと考えられる。また,本研 究の結果から大学生においてもソーシャル・サポート は過剰適応者の不登校傾向に対して直接的な低減効果 が期待されないことが明らかとなり,中学生を対象と した先行研究(石津,2008)と同様の傾向となった。

 登校回避行動に関しては,過剰適応の様相も,ソー Figure 2 過剰適応の群ごとの抑うつ得点。

p<.01** 外高内高群(N=87) 外高内低群(N=71) 外低内高群(N=69) 外低内低群(N=16

(7)

シャル・サポートも登校回避行動には影響を与えない ことが明らかとなった。ソーシャル・サポートの主効 果が認められなかった理由として,大学生も含まれる 青年期は,親や周囲の大人から心理的に独立し,自ら の意思で行動を決定し,それを実行する力がついてく る時期であるため(益子,2009),登校回避感情を持っ ていても,感情を登校回避という行動に移すまでもな く,自力で解決できるという気持ちが強い者が多かっ た可能性も考えられる。

 以上のことから,過剰適応において最も不適応的な 状態とは,抑うつが最も高く不登校感情も抱きやす い,外的側面と内的側面の両方が高い状態であるとい える。外的側面が高い状態とは他人の評価を気にして しまったり,他人を優先して自分の気持ちを抑えて行 動するような一見適応方略ともとれる傾向が高い状態 である。また,内的側面が高い状態とは,自己抑制的 で自分に自信を持つことができない傾向が高い状態で ある。この両者の特徴をあわせ持っている状態は,他 者志向的な自身の状態に納得しておらず,本当の気持 ちを抑えて適応している ふり をしている状態であ るととらえることができる。したがって,我慢しなが ら外界に適応していることが,かえって抑うつをはじ めとする心理的不適応を招くことにつながっていると 考えられる。

 しかしながら,外的適応が高い場合にも,無理に自 分を抑えることなく,自分らしさを保っているといえ る外高内低群では,高い抑うつや不登校感情は認めら れなかった。したがって,過剰適応が不適応に繋がる 原因となるのが,自己抑制や自己不全感といった内的 な自己不一致の状態であると考えられる。すなわち,

過剰適応者の適応を促すには,自分を無理やり押さえ てしまうところや自分に自信が持てない状態であるこ とをとらえたうえで,支援していくことが重要である といえる。

 また,不登校の予防に関しては,家族と友人のサ ポートを中心として,自己抑制的な側面や自己不全感 に対して支援を行うことで,抑うつ状態を低減させる ことが有用である可能性が示された。抑うつが高い場 合,登校回避感情も高くなることから,抑うつの低減 が,登校したくないという感情の減弱へとつながり,

結果として不登校予防につながる可能性も推察され る。

 最後に本研究の課題点と今後の展望を述べる。ま ず,質問紙調査のみでは,過剰適応者の本質を十分に 測定できなかった可能性が考えられる。過剰適応者 は,他人からの評価を気にして行動することや,自分 のネガティヴな感情を抑圧してしまうことがあり(羽 田,1992; 渡辺,1977),本来感じていたはずの抑うつ や不登校傾向などのネガティヴな感情を質問紙におい て十分に表現できなかった可能性がある。例えば本研

究の結果では,抑うつと登校回避感情には相関が認め られている。しかし,最も過剰適応傾向が高い外高内 高群は他の群と比べて抑うつ得点が有意に高いにもか かわらず,社会的な望ましさの影響を受けやすいと思 われる登校回避感情に関しては有意差が認められな かった。この点は,質問紙法の特性が影響している可 能性もあるため,結果の操作が困難な実験法,投影法 なども用いた多面的な検討が必要である。また,質問 紙調査を行う際に,誰でも本音と建前があることを説 明し,ネガティヴな感情があってもよいこと,またそ れが貴重な研究データとして支援に活かされる可能性 があることなどを理解してもらえるよう,教示の工夫 も必要であろう。また,登校回避行動に対しては,過 剰適応の様相だけでなくソーシャル・サポートについ ても有意な影響が認められなかった。本研究では大学 に登校している学生のみを調査対象としていたため,

過剰適応による登校回避感情が,実際の登校回避 行 動 につながるかという点に関しては,実際に登校で きていない学生を対象とするなどした上で,さらなる 検討の必要性があると考えられる。

引 用 文 献

Furukawa, A.T., Kawakami, N., Saitoh, M., Ono, Y.,  Nakane, Y., Nakamura, Y.,  … Kikkawa,T.(2008). 

The performance of the Japanese version of the K6  and K10 in the World Mental Health Survey Japan. 

International Journal of Methods in Psychiatric Research, 17, 152‑158.

羽田 紘一(1992).よい子が危ない――本当の自信を 育てるには―― 児童心理,46,920‑923.

久田 満・千田 茂博・箕口 雅博(1989).学生用ソー シャルサポート尺度作成の試み(1) 日本社会心 理学会第30回大会発表論文集,143‑144.

堀井 俊章(2013).大学生不登校傾向尺度の開発 学 生相談研究,33,246‑258.

堀井 俊章(2016).大学生の不登校傾向に影響を及 ぼす心理的要因 横浜国立大学教育人間科学部紀 要 . Ⅰ,教育科学,18,106‑114.

福田 真也(2000).大学生の引きこもりと心身症(大 学生のメンタルヘルスと心身症) 心身医学,40, 199‑205.

石津 憲一郎(2008).過剰適応とソーシャルサポート

――知覚されたサポート量とその効果―― 日本 教育心理学会第50回総会発表論文集,39. 石津 憲一郎・安保 英勇(2008).中学生の過剰適応

傾向が学校適応感とストレス反応に与える影響  教育心理学研究,56,23‑31.

石津 憲一郎・齋藤 英俊(2011).大学生用過剰適応 尺度作成の試み 日本カウンセリング学会第44 回発表論文集,156.

磯辺 典子・内野 悌司・鈴木 康之・藤巴 正和・岡 本 百合・林 マサ子…酒井 祥子(2006).学生相 談から見た不登校の現状 総合保健科学:広島大 学保健管理センター研究論文集,22,91‑98.

(8)

菊島 勝也(2001).神経症的不登校におけるストレス 体験とソーシャル・サポート 性格心理学研究,

9,144‑145.

小 林 豊 生・ 古 賀 恵 里 子・ 早 川 滋 人・ 中 嶋 照 夫

(1994).心理テストからみた心身症――パーソナ リティーと適応様式からみた心身症――心身医 学,34,105‑110.

小泉 英二(編)(1973).登校拒否――その心理と治 療―― 学事出版

小柳 晴生(1996).大学生の不登校――生き方の変容 の場として大学を利用する学生たち―― こころ の科学,69,33‑38.

小柳 晴生(2001).不登校学生の心模様――「生き方 の変更」に挑戦する学生たち―― 鶴田和美(編)

学生のための心理相談――大学カウンセラーから のメッセージ―― (pp.182‑195) 培風館 蔵本 信比古(2011).大学生の不登校と単位取得との

関連 北海道情報大学紀要,23,37‑44. 桑山 久仁子(2003).外界への過剰適応に関する一

考察――欲求不満場面における感情表現の仕方を 手がかりにして―― 京都大学大学院教育学研究 科紀要,49,481‑493.

益子 洋人(2009).高校生の過剰適応傾向と,抑うつ,

強迫,対人恐怖心性,不登校傾向との関連――高 等学校2校の調査から―― 学校メンタルヘル ス,12, 69‑76.

益子 洋人(2010).大学生の過剰な外的適応行動と内 省傾向が本来感に及ぼす影響 学校メンタルヘル ス,12,19‑26.

箕口 雅博・千田 茂博・久田 満(1989).学生用ソー シャルサポート尺度作成の試み(2) 日本社会心 理学会第30回大会発表論文集,145‑146.

文部科学省(2018).平成30年度学校基本調査(確定 値)の公表について 文部科学省

  http://www.mext.go.jp/component/b̲menu/other/̲

  ̲icsFiles/afieldfile/2018/12/25/1407449̲1.pdf 

(2019年5月15日)

西河 正行・坂本 真土(2005).大学における予防の 実践・研究 坂本真土・丹野義彦・大野裕(編)

抑うつの臨床心理学 (pp.213‑233) 東京大学出版 会

岡安 孝弘・嶋田 洋徳・坂野 雄二(1993).学生にお けるソーシャル・サポートの学校ストレス軽減効 果 教育心理学研究,41,302‑312.

嶋 信宏(1992).大学生におけるソーシャルサポート の日常生活ストレスに対する効果 社会心理学研 究,7,45‑53.

白石 智子(2005).大学生の抑うつ傾向に対する心 理的介入の実践研究――認知療法による抑うつ感 軽減・予防プログラムの効果に関する一考察――

 教育心理学研究,53,252‑262.

庄司 一子・林田 和恵(2001).「いい子」傾向をもつ

子どものself-controlと対人関係 教育心理学会総

会発表論文集,43,642.

鈴木 伸一(2000).  ソーシャルサポート 坂野  雄二

(編)臨床心理学キーワード(補訂版)(pp.232)

有斐閣

高塚 雄介(2002).ひきこもる心理とじこもる理由

――自立社会の落とし穴―― 学陽書房 辰巳 哲子(2015).大学中退後のキャリアに影響する

大学入学以前の経験 Works Review,10,6‑15.

上田 裕美(2002).抑うつ感を訴える大学生 教育と 医学,50,428‑433.

渡辺 久子(1977). 青年における自我同一性の確立と 親子関係 青年心理,2,104-109.

山田 裕子・宮下 一博(2008).不登校生徒支援にお ける長期目標としての自立とその過程で生じる葛 藤の重要性の検討 千葉大学教育学部研究紀要,

56,25‑30.

参照

関連したドキュメント

The problem is modelled by the Stefan problem with a modified Gibbs-Thomson law, which includes the anisotropic mean curvature corresponding to a surface energy that depends on

We design and implement a high-accuracy cut finite element method (CutFEM) which enables the use of a structured mesh that is not aligned with the immersed membrane, and we formulate

It is well known that an elliptic curve over a finite field has a group structure which is the product of at most two cyclic groups.. Here L k is the kth Lucas number and F k is the

Keywords Algebraic 2–complex, Wall’s D(2)–problem, geometric realiza- tion of algebraic 2–complexes, homotopy classification of 2–complexes, gen- eralized quaternion groups,

Corollary 24 In a P Q-tree which represents a given hypergraph, a cluster that has an ancestor which is an ancestor-P -node and spans all its vertices, has at most C vertices for

The speed of the traveling wave is approximately the speed for which the reduced system has a connection with a special structure between certain high- and

Since we are interested in bounds that incorporate only the phase individual properties and their volume fractions, there are mainly four different approaches: the variational method

The variational constant formula plays an important role in the study of the stability, existence of bounded solutions and the asymptotic behavior of non linear ordinary