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- Executive Summary 年 12 月に中央経済工作会議が開催され 2014 年の経済政策の方針が決定された 打ち出された 6 点の主要任務の中には 中国経済のリスクとしてここ数年燻り続けている生産能力過剰と地方政府債務の問題への対策が盛り込まれた そこで本稿では この

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2014 年 2 月号

中 中国国経経済済 1 中国で燻る生産能力過剰と地方政府債務 ∼改革による投資依存型成長からの脱却が鍵∼ 産 産業業・・地地域域政政策策 5 中国の「一人っ子政策」緩和転換の背景と影響㊤ ―人口高齢化加速への対策始動とその効果と課題― 中 中国国アアドドババイイザザリリーーのの現現場場かからら 9 中国で資本金 1 元会社が可能に∼『会社法』の改正と外資系企業への影響∼ 中 中国国戦戦略略 13 中国の都市化−未来への財源− 法 法務務 21 中国への技術移転・ライセンスにおける秘密保護の実務 税 税務務会会計計 27 上海自由貿易試験区の投資税務規定 税 税務務会会計計 32 ファイナンスリースにかかわる流通税(営業税及び増値税)課税の変遷 人 人事事労労務務 38 中国におけるトレーニング提供事情について みず ほ銀 行 中国営業推進部

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-中国経済 中国で燻る生産能力過剰と地方政府債務 2013 年 12 月に中央経済工作会議が開催され、2014 年の経済政策の方針が決定された。打ち出された 6 点の 主要任務の中には、中国経済のリスクとしてここ数年燻り続けている生産能力過剰と地方政府債務の問題への 対策が盛り込まれた。そこで本稿では、この 2 つの問題について、足元の状況や習政権下で打ち出された政策 等を振り返るとともに、今後の課題について考察する。 産業地域政策 中国の「一人っ子政策」緩和転換の背景と影響㊤ 2013 年 11 月の三中全会で、いわゆる「一人っ子政策」に関し一部緩和されることが決定された。本稿では 2 回 に分けて、この決定の背景となる中国の人口動態の実態を概観し、これまでの「一人っ子政策」の実施状況や 実質的効果を考察する。あわせて今般の政策緩和による経済的・社会的効果を展望し、その課題も検討する。 中国アドバイザリーの現場から 中国で資本金 1 元会社が可能に 全人代常務委員会は 2013 年 12 月 28 日、『会社法』改正案を公布した。最低登録資本金額、会社登記時の出 資金払込検査報告の提出、資本金の初回払込比率等に係る規定を削除しており、2014 年 3 月 1 日より施行さ れる。本稿では現行の会社法と比較しつつ、改正の経緯や外商投資企業設立に与える影響等を解説する。 中国戦略 中国の都市化−未来への財源− 中国はこの 30 年間、大規模な都市化の推進によって成長と発展が促されてきた。しかし、都市化を実行継続す るためには、地方政府の財源調達の問題がある。本稿では、中国がこれまで行ってきた財源調達の方法と今後 の課題について検証し、地方債や官民パートナーシップに関する政策の動向についても考察する。 法務 中国への技術移転・ライセンスにおける秘密保護の実務 日本企業にとって長年にわたる重要かつ困難な課題である、中国における技術秘密の流出防止策について、 事例をふまえて紹介する。事前の流出防止策、日常的な防止策のほか、契約における具体的な注意点などに ついて解説している。 税務会計 上海自由貿易試験区の投資税務規定 中国(上海)自由貿易試験区の投資税務規定について、登録資本金制度の改正と資産再編税制に焦点をあて て紹介する。登録資本金制度については、会社法改正との関連等を解説。資産再編税制については、中国全 土を対象に適用されている企業資産再編税制との関連をふまえた考え方を解説している。 税務会計 ファイナンスリースにかかわる流通税(営業税及び増値税)課税の変遷 中国のファイナンスリースにおいて主流を占めるセールスアンドリースバックは、営業税の増値税改革に伴う適 用課税関係の変化により大きな打撃を受けたが、2013 年末に課税政策変更通知が公布され、2014 年以降は状 況が改善されると見込まれている。本稿では、中国のセールスアンドリースバックに対する課税の変遷について 解説する。 人事労務 中国におけるトレーニング提供事情について エーオンヒューイットが毎年実施している、中国 1 級都市(北京、上海、深セン、広州)における外資系企業・中国 大手民営企業を対象とした各種人事施策普及調査の結果に基づき、各社が人材育成に行っている施策を紹介 する。人材の流動性が高いと言われる中国において、リテンション策として効果を発揮することが期待される、各 人のキャリアの発展に資するトレーニングを検討する。

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中国経済

中国で燻る生産能力過剰と地方政府債務

∼改革による投資依存型成長からの

脱却が鍵∼

1.高まる生産能力過剰と地方政府債務への対策の優先度 2013 年 12 月、翌年の経済政策を策定する場として毎年注目を集める中央経済工作会議が開催 された。同会議では、同年 11 月に開催された三中全会で習近平政権としての改革方針が示され たことを受け、2014 年の経済政策は「穏中求進、改革創新」(安定の中での前進と、改革・イノ ベーション)の堅持が基本方針とされた。また、積極的な財政政策及び中立的な金融政策の継 続がマクロ経済運営の方針と設定された。そして、具体的な主要任務としては、①食糧安全保 障の確保、②生産能力過剰対策等の産業構造の調整、③地方政府債務リスクの予防・抑制、④ 地域間の調和のとれた発展の促進、⑤国民生活の改善、⑥対外開放レベルの引き上げ、の 6 点 が挙げられた(図表 1)。 このうち、主に②で示された生産能力の過剰と、③で示された地方政府債務の増加という 2 つの問題は、ここ数年、中国経済の安定を脅かすリスクとして燻り続けている。そこで本稿で は、2014 年の経済政策の優先事項として位置づけられたこれらのリスクについて、足元の状況 や習政権下で打ち出された政策等を振り返るとともに、今後の課題について考察する。 図表 1 中央経済工作会議の概要 経済運営方針 安定の中での前進と、改革・イノベーションを堅持する 財政・金融政策 積極的財政政策・中立的金融政策の維持 ①食糧安全保障の確保 ②産業構造の調整(生産能力過剰問題の解決など) ③地方政府債務リスクの予防・抑制 ④地域間の調和のとれた発展の促進 ⑤国民生活の改善 ⑥対外開放レベルの引き上げ 主要任務 (資料)「中央経済工作会議在北京挙行 提出明年経済工作六大任務」(『新華網』2013 年 12 月 13 日)によりみ ずほ総合研究所作成 2.解消が進まない生産能力の過剰に対して新政策を公表 生産能力の過剰問題については、胡錦濤前政権が 2000 年代後半以降ほぼ毎年対策を打ち出す など、中国政府は一貫して問題視してきた。需給軟化によって価格押し下げ圧力が増大するこ とで、企業収益の圧迫につながり、その結果として企業倒産が相次げば、不良債権が増加して 金融セクターへも悪影響が及ぶ恐れがあるからだ。 ただ、中国では、問題の深刻度をみるうえで必要となる生産設備の稼働率や資本ストックと いった統計が断続的な公表にとどまる、あるいは公表されていないため、時系列での変化等の 実態が追いづらい状況にあった。しかし、2013 年 12 月に開催された会議の席上で、国家統計局 の副局長が足元の設備稼働率について見解を示した。同見解によれば、設備稼働率は、国際的 には 82%が正常な水準とされているのに対し、中国では 2006 年以降の平均が 80.1%、2013 年 は 7∼9 月期まで 80%を下回る水準にあり、生産能力の過剰が改善をみていないことが示唆され みずほ総合研究所 アジア調査部 中国室 主任研究員 三浦 祐介 yusuke.miura@mizuho-ri.co.jp

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中国経済 る(図表 2)。とりわけ、鉄鋼やセメント、電解アルミ、コークス、船舶、太陽光パネル、建機 等については、稼働率が最高でも 75%、業種によっては 50%にも満たないとされる等、過剰が 比較的深刻なようだ。 こうしたなか、2013 年 10 月には、習政権発足後、初となる生産能力過剰に対する政策方針と して、「生産能力の深刻な過剰の矛盾解消に関する指導意見」(以下、意見)が公表された。同 意見では、①非効率な新規投資の禁止・抑制、②国内外需要の喚起・開拓、③生産拠点の海外 移転促進を通じた国内の生産能力削減、④企業間の合併促進による生産の効率化、⑤立ち遅れ た設備の廃棄や不採算企業の倒産の促進による生産能力の削減が基本方針となっている。とく に、鉄鋼、セメント、電解アルミ、平板ガラス、船舶の 5 業種が、重点対策業種とされた。そ のうえで、土地利用や環境保護に係る基準の厳格化、電力等の差別的価格体系の導入によるエ ネルギー効率の悪い設備淘汰の促進、地方政府による優遇政策提供等の市場介入の排除、企業 倒産による雇用への悪影響緩和のための職業訓練や創業支援、海外展開や合併等に対する積極 的な金融支援といった具体策が示された。なお、電解アルミ産業向けの段階別電力価格制度(利 用量が多いほど電力単価が高くなる制度)が 2014 年から導入されるなど、意見に則った具体策 も打ち出され始めている。 図表 2 工業企業の設備稼働率の推移 75 77 79 81 83 85 7-9 10-12 10-12 1-3 4-6 7-9 2012年 2013年 (月期) (%) 2009年 (国際的に正常とされる水準) 2006年以降 の平均値 四半期毎 の水準 (資料)「国新弁就 2009 年国民経済運行情況挙行発布会」(『中国網』2010 年 1 月 21 日)、「統計局副局長:前三 季度工業企業産能利用率不及近年来八成水平」(『財経網』2013 年 12 月 24 日)によりみずほ総合研究 所作成 3.シャドーバンキングにより増加が続く地方政府債務 地方政府の債務、とくに地方政府が資金調達のために設立した融資プラットフォームによる 債務は、2008 年末から実施された 4 兆元の景気刺激策以降、速いペースで拡大している。地方 政府債務の主な使途は公共インフラ投資であるため、短期的にはそこからの収益を返済財源と して見込みにくいこと、さらには地方政府自体の財政余力が十分でないケースも多いことなど から、地方政府の債務返済能力への疑念が高まり、デフォルトのリスクが指摘されている。 この債務残高についても統計データは整備されていなかったが、2011 年 6 月に審計署(会計

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中国経済 2010 年末における地方政府債務の残高は、10.7 兆元で、そのうち約 8 割が銀行からの借入であ った。これを受け、前政権下では融資プラットフォーム向けの銀行貸出について審査厳格化を 求めるなど、債務増加を抑制するための措置がとられた。 しかし、その後も、こうした規制の影響を受けづらい信託貸出や銀行理財商品(銀行が販売 する小口の資産運用商品)といったいわゆるシャドーバンキングや、BT(Build-Transfer:企 業が公共インフラを建設した後、政府に所有権が移転され、政府が運営を担う)といったスキ ーム等を通じて、地方政府によるインフラ投資向けに資金が供給された結果、地方政府債務の 増加抑制は十分に進まなかったとみられる。 このように問題解決が目立って進展していない恐れがあることから、2013 年 8 月には、審計 署がこれら新たな資金調達方法等も対象に含め、再度調査を開始した。2013 年 12 月 30 日に公 表されたその調査結果によれば、2012 年末時点での地方政府債務残高は 15.9 兆元、2013 年 6 月末時点では 17.9 兆元と、増加が続いていることが確認された(図表 3)。中国は経常黒字国 であり、外貨準備高も世界第 1 位の規模を誇る等、国内で国債を消化するに足る余剰資金を有 することから、この問題が現時点で中国経済全体に危機をもたらす可能性は低いと考えられる。 ただ、中央政府債務と合わせた政府債務残高の対 GDP 比は、2012 年末時点で 53.5%と、2010 年 末の 44.6%から上昇しており、一部の地方政府では債務負担が重くなっているともされている 等、必ずしも楽観視できる状況にはない。 図表 3 地方政府債務残高の推移 0 5 10 15 20 2010年末 2012年末 2013年6月末 (兆元) 10.72兆元 17.89兆元 15.89兆元 (注)2010 年末の値と、2012 年末及び 2013 年 6 月末の値では、調査対象範囲が異なる。 (資料)審計署「全国地方政府性債務審計結果」(2011 年 6 月 27 日)、同「全国政府性債務審計結果」(2013 年 12 月 30 日)によりみずほ総合研究所作成 4.改革を通じた投資依存型の成長からの脱却がリスク解消の要に 以上のように、生産能力の過剰と地方政府の債務という 2 つのリスクは、足元、中国経済を 危機に陥れるまでには至っていないものの、前政権下でとられた政策は奏功せず、目立って解 消もしていないというのが実情だ。しかし、今後、7%台或いはそれを下回る水準での経済成長 が常態化していくと予想されるなか、設備や債務の増加がこれまでと同様のペースで続けば、 いずれはその負担に耐え切れなくなり、経済の混乱を招く恐れもある(図表 4)。 こうしたリスクを解消するためには、設備が増加した後に淘汰をしたり、債務が増加した後 にその処理をするといった従来型の政策だけでは不十分だ。後手に回るのではなく、中国経済

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中国経済 が投資依存型の経済成長となるメカニズムそのものを変え、設備や債務が必要以上に増加しな いよう予防的な政策をとることが必要となる。 例えば、投資を積極的に行う主たる存在として、強い経済成長志向を持つ地方政府が挙げら れるが、地方政府がこのような志向を持つ背景には、脆弱な地方財政や、経済成長の度合いに 依拠する幹部の評価システムがある。それゆえ、地方政府の行動を変えるためには、税源や中 央政府からの移転収入の拡充等によって健全な地方財政を構築したり、経済成長率だけでなく 国民生活の改善等をより重視した幹部評価システムへと改善することが必要だ。また、国有企 業・金融機関も、景気刺激や地方経済振興といった政府の意向を受けて、非効率な投資を行っ たり、そうしたプロジェクトに資金を融資することがある。このため、人事制度等のガバナン ス改革や民営企業との競争促進などを通じた国有企業の経営効率化も求められる。 習政権は、三中全会において「資源配分において市場が決定的な役割を果たす」ようにする 方針を明確にしたうえで、上述した改革の実施についても言及している。また、三中全会終了 後には、中国共産党中央組織部が地方政府幹部の評価システムの改善に関する通知を公表する など、改革を積極的に具現化していく動きもみられる。ただ、いずれの改革も一朝一夕に成し 遂げられるものではなく、まだ緒に就いたばかりといえよう。 改革が奏功すれば、投資実行の判断にあたって、市場経済メカニズムに基づき、よりいっそ う経済合理性が重視されることになる。そのため、これまでは看過されてきた非効率な投資プ ロジェクトが淘汰され、短期的には投資、ひいては経済成長の押し下げ圧力になるという点で 痛みを伴う可能性がある。これが行き過ぎて景気の腰折れを招くことのないようにする一方、 改革の手を緩めて過度な投資を容認することもないよう、習政権が景気の安定と改革の実行を 両立できるか否かが、2014 年も引き続き焦点となろう。 図表 4 中国の GDP 成長率 0 2 4 6 8 10 12 14 16 2006 08 10 12 14 16 18 20 (年) (%) 予測値 (注)2013 年以降の成長率は、みずほ総合研究所予測値。 (資料)みずほ総合研究所作成 以 上

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産業・地域政策

中国の「一人っ子政策」緩和転換の背景と影響㊤

―人口高齢化加速への対策始動とその効果と課題―

1.はじめに 世界一の人口を持つ中国は、30 年以上にわたり「一人っ子政策」という厳しい計画出産政策 を採り続けてきたが、ここに来てその是正に向けた政策調整の動きが出てきた。昨年 11 月に開 かれた中国共産党第 18 期中央委員会第 3 回全体会議(「三中全会」)で採択された「改革の全面 的深化における若干の問題に関する中共中央の決定」において、「人口抑制のため 1979 年に始 まった計画出産を国策として堅持する」としつつも、「夫婦の一方が一人っ子の場合、2 人目の 子供を産むことを認める『単独二胎』政策を実施する」ことが明らかにされ、いわゆる「一人 っ子政策」緩和への転換がようやく決定された。これに基づき、各地域の政府が 2014 年春から 順次、どちらか一方が一人っ子の夫婦に第 2 子の出産を認めていくことになった。こ れによる年間出生数の増加は、例年の1割 超に当たる約 200 万人という見方が多く、 大きな経済効果に加え人口年齢構成の改 善にも一定の役割が期待されている。 本稿では中国の人口動態変化の実態を 概観することで、「一人っ子政策」の緩和 調整の背景と必要性を明らかにするとと もに、これまでの「一人っ子政策」の実施 動向と実質的効果を考察する。また、これ を踏まえて、今般の政策緩和の実施による 経済的・社会的効果を展望的に見るととも にその課題や問題点も取り上げたい。 2.中国の人口動態の概観と「一人っ子政策」緩和調整の原因背景 中国政府は自国の人口動向を把握するために、建国初期の 1953 年から 2010 年までに、合計 6 回の人口センサスを行ってきた(表 1)。1964 年の第 2 回人口センサス実施後間もなく文化大革 命の混乱期に突入したことで、第 3 回が実施された 1982 年までは長い間隔が開いている。この 間の人口増加は顕著で、18 年間に 3.14 億人増加し、7 億人未満だった総人口は 10 億人を突破 した。その理由は、それまでにも人口抑制問題は意識されてはいたものの、厳格な「一人っ子 政策」を実施する政治的、社会的、国際的な条件が存在しなかったからである1) 1980 年代初めに実施された厳格な人口出生制限(バースコントロール、いわゆる一人っ子政 策)によって、出生率・自然増加率はいずれも顕著な低下傾向に転じた。1981 年の総人口 10 億 1) 当時の人口に対する基本的な考え方は、当時の人口学者マルサスの「人口論」に基づく抑制計画の必要よりも毛沢東によ る「人手論」(人口が多ければそれだけ働き手になる労働力が増大し、経済発展も速くなる)が主体であった(中兼和津次『開 発経済学と現代中国』名古屋大学出版会、2012 年 9 月)。しかし 1957 年毛沢東が人口問題を重視する旨の講話を発表してお り、1962 年出産ピークを迎えたことで国務院が「計画生育政策の提唱に関する指針」を公布、その後政府内に計画生育委員 会が設置され、1971 年にも計画生育政策が打ち出されたことから言えば、中国はかなり早い時点から人口問題を重視してき みずほ銀行 中国営業推進部 研究員 邵 永裕 Ph.D. yongyu.shao@mizuho-cb.co.jp 指標/年次 1953年 1964年 1982年 1990年 2000年 2010年 総人口 (万人) 58,260 69,458 100,818 113,368 126,583 133,972 男性(〃) 30,190 35,652 51,944 58,495 65,355 68,685 女性(〃) 28,070 33,806 48,874 54,873 61,228 65,287 性比 (女性人 口=100) 107.56 105.46 106.3 106.6 106.74 105.2 世帯規模 (人/戸) 4.33 4.43 4.41 3.96 3.44 3.10 0-14歳人口 の比率(%) 36.28 40.69 33.59 27.69 22.89 16.60 15-64歳人口 の比率(%) 59.31 55.75 61.50 66.74 70.15 74.53 65歳以上人 口の比率(%) 4.41 3.56 4.91 5.57 6.96 8.87 少数民族人 口比率 (%) 6.06 5.76 6.68 8.04 8.41 8.49 都市化率(%) 13.26 18.3 20.91 26.44 36.22 49.68 都市人数 (万人) 7726 12710 21082 29971 45844 66557 農村人口数 (万人) 50534 56748 79736 83397 80739 67415 平均寿命(歳) - - 67.77* 68.55 71.4 74.83 男性(歳) - - 66.28* 66.84 69.63 72.38 女性(〃) - - 69.27* 70.47 73.33 77.37 資料『中国統計年鑑(2012)』より作成。「*」は1981年の数字。 表1 過去6回の人口センサスにみる中国の人口情勢

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産業・地域政策 人から 1995 年の 12 億人までの純増 2 億人に要したのはわずか 15 年だったが、 2005 年に総人口が 13.1 億人になって からは明確に増勢が弱まり(2000 年に 年純増 1000 万を割り込み、2006 年から 年純増 700 万を下回る)、2012 年の総人 口は 13.54 億人、2013 年は 13.61 億人 となっている(図 1)。 人口の基数が非常に大きいこともあ り、中国はこれまで人口ボーナス2) 果により社会保障負担が比較的軽く済 んできた。しかし、現在高齢化が急ピ ッチで進み、経済への圧力も次第に増 大している。中国国家統計局発表の 「2012 年統計公報」によると、2012 年 末の総人口(13 億 5404 万人)は前年 比 669 万人増加したのに対し、中国政 府が規定する労働年齢人口(15∼59 歳) は 345 万人減の 9 億 3727 万人と建国後 初めて減少に転じ、2013 年には更に 244 万人以上減少(総数約 9 億 3483 万 人、2 年連続のマイナス増)、総人口に 占める割合は 67.6%に縮小した。表 1 の年齢構成の変化と図 2 の国際基準の 労働年齢人口(15 歳∼64 歳)と雇用者 数の増勢低下から見ても、中国は人口 ボーナス期から人口オーナス期に転じ つつあることが推察される。 1987 年に人口転換を完了した3)中国 の合計特殊出生率(TFR)は、1980 年 代に人口置換の水準とされる 2.1 に近 づき、2000 年以降 1.8 を割り込み4) 現在は 1.5∼1.6 の水準とされており 2)人口ボーナス(利得)とは、生産年齢人口に対し、年少人口、老年人口が少ない状態を指す。この時期における経済発展は 若年・高齢人口に対する社会的負担が小さいため利得があると見なされる。対する人口オーナス(重荷)とは、生産年齢人口 に対し、老年人口が増加している状態をいい、人口構成が経済発展にとって重荷となる状態を意味する。ちなみに日本では、 90 年代のバブル崩壊直後あたりから人口オーナス期に入っているとされる。 3) 邵永裕『中国の地域開発と人口都市化・産業発展の研究 : 開発経済学・経済地理学の複合的方法論によるアプローチ』東 京大学博士論文、2007 年。邵永裕『中国の都市化と工業化に関する研究:資源環境制約下の歴史的・空間的展開』多賀出版、 2012 年。人口転換とは、人口増加の傾向が「多産多死」から、「多産少死」を経て「少産少死」へ変わっていくプロセスをい 図2 中国の労働年齢人口と雇用人口の推移(1995~2012) 0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 19 9519961997199819992000200120022003200420052006200720082009201020112012 人口 数( 万人 ) 0.0% 0.2% 0.4% 0.6% 0.8% 1.0% 1.2% 1.4% 前年比 労働年齢人口数 雇用者数 労働年齢人口前年比 雇用者数前年比 資料)『中国統計年鑑(2013)』より作成。増加率は計算 値。注)中国では労働年齢人口は通常15~59歳として いる(12年からマイナス増に転じた)が、ここでは国際通 用の15~64歳の人口数を対象とした。 図3 中国の総人口と主要年齢層別人口構成比の推移 0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000 160,000 19 82198719901991199219931994199519961997199819992000200120022003200420052006200720082009201020112012 総人 口数 : 万 人 0 10 20 30 40 50 60 70 80     構 成 比 と 指 数 値 ( % ) 0-14歳の比率 15-64歳の比率 65歳以上の比率 従属人口指数 年少人口指数 老年人口指数 資料)『中国統計年鑑(2013)』より作成。注)従属人口指数と年少人口指数(「年少従属人口指数」ともいう)、老年人 口指数(「老年従属人口指数」ともいう)はいずれも人口の年齢構成変化を見るための重要指標で、その計算式は以 下の通り。従属人口指数=(年少人口+老年人口)÷生産年齢人口×100 。年少人口指数=年少人口÷生産年齢 人口×100。老年人口指数=老年人口÷生産年齢人口×100。 ちなみに、従属人口指数は年少人口指数と老年人 口指数の合計値であるが、年少人口指数よりも老年人口指数の増分が大きいので今後の中国における高齢者扶養 の負担増が示されている。 図1 中国人口動態の長期的推移(1978~2013年) 10.0 12.1 11.1 13.1 9.6 13. 6億 人 0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000 160,000 1978 年 19 81 年 19 83年1985年1987年 19 89 年 19 91年1993年1995年 19 97 年 19 99年2001年 20 03 年 20 05 年 20 07年2009年 20 11 年 20 13年 総 人 口 ( 万 人 ) 0 5 10 15 20 25 出 生 ・ 死 亡 率 と 自 然 増 加 率 ( ‰ ) 総人口 出生率 死亡率 自然増加率 資料)国家統計局『中国統計年鑑(2012)』及 び「2012統計公報」、統計速報より作成。

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産業・地域政策 (2013 年 11 月 15 日付の中国国家衛 生・計画生育委員会 WEB サイト掲載資 料)、日本の 1990 年の 1.54 とほぼ同等 になっている。 図 3 にみる年齢構成の推移と従属人 口指数および老年人口指数における顕 著な変化は、中国でも一段と少子高齢 化が進んでいることを裏付けている。 2010 年の国連による中国の中位人口推 計に基づく人口ピラミッドは、今世紀中 の中国高齢化加速を克明に示している (図 4)5) 国連の推計によると、中国は 2001 年 に高齢化社会(aging society、65 歳 以上の人口比率が 7%を超える)に入 り、日本と同様、世界で最も速いスピ ードで 2026 年(所要年数 25 年、ほぼ人口増 のピークアウト時期と重なる)に高齢社会 (aged society、65 歳以上の比率 14%)に 突入する。2025 年頃には、65 歳以上の人口 が 2010 年の約 1 億 1883 万人(総人口の 8.87%)から 2 億人近くに拡大、60 歳以上 (2010 年時点約 1 億 8000 万人、総人口の 13.26%)を含めると、3 億人を超える高齢 社会を迎える。表 2 の国連中位人口推計でも 2050 年までの中国高齢化の進行加速が確認 できる。2010 年に実施された第 6 回 人口センサスの結果は、改めて中国 が完全に高齢化社会に入ったことを 示しており、大中都市の高齢者家庭 の比率は 56.1%にのぼり、都市と農 村における自活能力喪失者および自 活能力一部喪失者の数は 3300 万人 (老年人口の約 19%を占める)に達 していることが明らかにされた。 少子高齢化の進行により、長らく 世界最大規模を誇ってきた中国の総 5) 少子化と国民平均寿命の延長に伴い、中国の人口動態に大きな変化が生じてきたことは、表 1 の全 6 回の人口センサスの結 果よりはっきり見て取れる。15∼64 歳の人口増加は上述した人口ボーナスの動向を反映しているが、65 歳以上の人口比率も 図4 中国人口ピラミッドの変化動向(人口数ベース)

資料)国連公式WEBサイト「United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2011)」より引用。データは「UN, World Population Prospects: The 2010 Revision」による。横軸のメモリ単 位は「thousands or millions」人。 図5 中国とインドの総人口と世界シェアの推移 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 20 02 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2020 2030 2040 2050 中印両国の 総人口数( 1 0 0 万 人 ) 0% 5% 10% 15% 20% 25% 中 印 人 口 の 世 界 シ ア 中国 の総人口 インドの総人口 中国人口の世界シェア インド人口の世界シェア 資料)表2に同じ。両国人口 の世界に占める割合(世界 シェア)は計算値。 年 次 総人口 (1,000人) 女性の 比率 (%) 年平均 増加率 (%) 年少人 口指数 (%) 老年人 口指数 (%) 中位数 年齢 (歳) 1950年 550,771 48.2 - 34.2 4.5 23.8 1960年 658,270 48.1 1.8 39.6 4.0 21.3 1970年 814,623 48.3 2.2 39.6 4.0 19.7 1980年 983,171 48.4 1.9 35.5 5.2 22.4 1990年 1,145,195 48.4 1.5 28.0 5.9 25.1 2000年 1,269,117 48.2 1.0 25.5 7.0 29.7 2010年 1,341,335 48.1 0.6 19.5 8.2 34.5 2020年 1,387,792 48.1 0.3 16.7 12.0 38.1 2030年 1,393,076 48.3 0.0 14.6 16.5 42.5 2040年 1,360,906 48.5 -0.2 13.6 23.3 46.4 2050年 1,295,604 48.6 -0.5 13.5 25.6 48.7 表2 国連統計にみる中国人口動態の長期的変化 資料)日本総務省『世界の統計(2013)』より作成。原資料は国連の世界 人口統計に基づく。2020年以降は推計値。

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産業・地域政策 人口は、2030 年以前にイン ドに追い抜かれると推計さ れている。総人口数のピーク となるのは 14 億人以内とさ れ(人口のピークアウトは 2026 年)、今後は現在の日本 と同様の人口マイナス増の 状況になると見られている。 これらが中国の「一人っ子 政策」の緩和調整の原因背景 となろう。つまり、これまで 人口抑制に大きく貢献して きた(中国の公式見解では約 4 億人の出生抑制ができた)「一 人っ子政策」のマイナス効果と して、労働力の減少と社会保障 負担増大の加速による経済の停 滞と社会発展の活力低下が政策 決定者の危機感を高め、各分野 の専門家や有識者の提言などに より、今般の政策調整決定につ ながったと考えられる。ただ、5、 6 年前から長く議論されてきた 政策緩和がここに来て断行に踏 み切られたのは、後述(次号 「㊦」)の経済成長促進効果への 期待と、都市化進展による人口抑制効果(世界一般と同様、中国の都市化率と人口出生率はマイナ スの相関関係を示している(図 6。相関係数r≒−0.6))の考慮という両面性を織り込んだ政策判 断だと思われる。 専門家によると、新制度で新たに第 2 子出産を認められる条件に合致する夫婦は全国で 1500 万∼ 2000 万組。このうち第 2 子を産む意志があるのは約 5 割前後とされる。近年の年間出生数は約 1600 万人であるが、今後 5 年以上、毎年 200 万人前後(日本全体の年間出生数の約 2 倍に当たる)上積 みされる可能性があるとされ、早くも産婦人科のベッド増設の必要性やベビー用品関連の地場企業 の株価上昇が報じられ、育児関連ビジネスの拡大や経済浮揚効果が期待されている。 ただ、中国は経済や社会発展の水準が異なる多民族で構成された国であり、地域レベルの人 口動態は多様である(図 7)。いかに各地域の経済発展と人口管理政策を維持し、更に資源環境 保全との共存・協調を図っていくのかは大きな課題であり、今後の政策運営において様々な工 夫や行政運営コストが必要となると思われる。 (次回へ続く) 図7 各地域の都市化率と人口動態比較(2012) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 北 京 天津 河北 山西 内蒙 古 遼 寧 吉林 黒龍 江 上 海 江蘇 浙江 安徽 福建 江西 山東 河南 湖北 湖南 広東 広西 海南 重慶 四川 貴州 雲南 西蔵 陝西 甘粛 青海 寧夏 新疆 人 口 の 都 市 化 率 ( % ) -2 0 2 4 6 8 10 12 人 口 の 出 生 率 ・ 死 亡 率 と 自 然 増 加 率 ( ‰ ) 都市化率 出生率 死亡率 自然増加率 資料)『中国統計年鑑(2013)』 より作成。 図6 中国の都市化率と人口出生率の関係(2012年) 山 西 寧夏 湖北 重慶 陝 西 四川 内蒙古 吉林 黒龍江 遼寧 河南 山東 浙江 江蘇 福建 広東 天津 北京 西蔵 新疆 海南 広西 貴州 上海 y = -0.1057x + 17.071 R2 = 0.353 r=-0.5941 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 各地域の都市化率(%) 各 地 域 の 出 生 率 ( ‰ ) 資料)『中国統計年鑑(2013)』より算出・作成。 注)都市化と出生率の逆の相関関係は経済発展 が人口成長に一定の抑制的な効果を与えること を示しており、このたびの政策緩和実施の社会的 背景や政策操作上の歯止め要素となると考えら れる。尚、中国各地域的の都市化率と出生率の 関係は非常に特徴的であり、3大直轄市と2大経 済圏が先頭組に、少数民族自治区等が末尾組に まとまってる。従来から都市化率の高い東北地域 は出生率が特に低く、回帰直線から離れた部分 に集まっている。

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中国アドバイザリーの現場から

中国で資本金1元会社が可能に

∼『会社法』の改正と外資系企業への影響∼ 1.8 年ぶりの法改正 中国で会社設立に係る規制が緩和されます。全国人民代表大会常務委員会は 2013 年 12 月 28 日、『中華人民共和国公司法』(以下『会社法』という)の改正案を可決し、同日付で公布しま した。改正『会社法』(以下『改正法』という)は、最低登録資本金額、会社登記時の出資金払 込検査報告の提出、資本金の初回払込比率等に係る規定を削除しており、2014 年 3 月 1 日より 施行されます。 本稿では、『改正法』と 2006 年 1 月に改正施行された現行『会社法』(以下『現行法』という) を比較しつつ、改正の経緯や外商投資企業設立に与える影響等を解説します。 2.出資金払込検査が不要に 『改正法』のポイントの 1 つは、会社の最低資本金額規制の撤廃です。『現行法』は最低資本 金額について、有限責任公司で 3 万元、一人有限責任公司(100%出資の外商独資も含まれる) で 10 万元、株式有限公司で 500 万元と規定しています。『改正法』はこれらの条文を削除して おり、今後は原則として資本金 1 元から有限公司を設立できるようになります。ただし、業界 関連規定が別途、最低資本金額や資本金払込に対して要求を設けている場合、その規定に従わ なければなりません。また、『現行法』は資本金の 30%以上を現金で払い込むよう要求していま したが、『改正法』はこの条文も削除しています。 『現行法』の条文 『改正法』の条文 【第 26 条第 2 項】 有限責任公司の登録資本金の最低限 度額は、人民元 3 万元とする。法律、行政法規に有限責 任公司の登録資本金の最低限度額に対する比較的高い 規定がある場合、その規定に従う。 法律、行政法規および国務院の決定 に有限責任公司の登録資本金の払込、 登録資本金の最低限度額に対する規 定が別途ある場合、その規定に従う。 【第 59 条第 1 項】一人有限公司の登録資本金最低限度 額は、人民元 10 万元とする。株主は会社定款が規定す る出資額を一括して全額払い込まなければならない。 〔削除〕 最低 資本 金額 【第 81 条第 3 項】株式有限公司の登録資本金の最低限 度額は、人民元 500 万元とする。法律、行政法規に株式 有限公司の登録資本金の最低限度額に対する比較的高 い規定がある場合、その規定に従う。 法律、行政法規および国務院の決定 に株式有限公司の登録資本金の払込、 登録資本金の最低限度額に対する規 定が別途ある場合、その規定に従う。 出資 方式 【第 27 条第 3 項】株主全体の通貨出資金額は、有限責 任公司の登録資本金の 30%を下回ってはならない。 〔削除〕 減資 【第 178 条第 3 項】会社減資後の登録資本金は、法定の 最低限度額を下回ってはならない。 〔削除〕 (中国アドバイザリー部翻訳・作成) 『改正法』は、出資者全体の初回出資額、出資金払込の最終期限に対する制限も撤廃してい ます。『現行法』は、出資者全体の初回出資額を登録資本金の 20%以上と定め、残りの資本金を みずほ銀行(中国)有限公司 中国アドバイザリー部 月岡 直樹 naoki.tsukioka@mizuho-cb.com

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中国アドバイザリーの現場から 2 年以内(投資性公司の場合は 5 年以内)に払い込むことを求めていました。『改正法』施行後 は、当事者がこれらの事項について自主的に約定し、会社定款に記載することとなります。 『現行法』の条文 『改正法』の条文 有限責任 公司の出 資金払込 期限 【第 26 条第 1 項】有限責任公司の登録資本金は、会社登 記機関で登記した株主全体が引き受ける出資額とする。会 社株主全体の初回出資額は、登録資本金の 20%を下回って はならず、法定の登録資本金最低限度額も下回ってはなら ず、残りの部分は発起人による会社の成立日から 2 年以内 に払い込む。このうち、投資性公司は 5 年以内に払い込む ことができる。 有限責任公司の登録資本金 は、会社登記機関で登記した株 主全体が引き受ける出資額とす る。 株式有限 公司の出 資金払込 期限 【第 81 条第 1 項】株式有限公司を発起設立方式により設 立する場合、登録資本金は会社登記機関で登記した発起人 全体が引き受ける株式資本総額とする。会社の発起人全体 の初回出資額は、登録資本金の 20%を下回ってはならず、 残りの部分は発起人による会社の成立日から 2 年以内に払 い込む。このうち、投資公司は 5 年以内に払い込むことが できる。払込前に、他者に株式を募集してはならない。 株式有限公司を発起設立方式 により設立する場合、登録資本 金は会社登記機関で登記した発 起人全体が引き受ける株式資本 総額とする。発起人が引き受け る株式を払い込む前に、他者に 株式を募集してはならない。 (中国アドバイザリー部翻訳・作成) 中国における有限責任会社の企業登記制度は今回の法改正により、実際に払い込んだ資本金 額を登記する「払込資本金登記制度」から、会社定款等で定めた資本金額のみを登記する「引 受資本金登記制度」へと変わります。『改正法』は、会社登記時に出資金払込検査報告の提出を 求める規定を削除。出資金払込後の工商登記を不要としており、「営業許可証」には「払込資本 金」が記載されなくなります。 『現行法』の条文 『改正法』の条文 営業許可 証の記載 事項 【第 7 条第 2 項】会社の営業許可証には、会社の 名称、住所、登録資本金、払込資本金、経営範囲、 法定代表者の氏名等の事項を明記しなければな らない。 会社の営業許可証には、会社の名称、 住所、登録資本金、経営範囲、法定代表 者の氏名等の事項を明記しなければなら ない。 設立 条件 【第 23 条第(2)項】株主の出資が法定の資本金最 低限度額に達していること。 会社定款の規定に合致する株主全体が 引き受けた出資額を有すること。 出資金 払込検査 報告 【第 29 条】株主が出資金を払い込んだ後、法に 基づき設立された出資金払込検査機構の出資金 払込検査を経て証明を発行しなければならない。 〔削除〕 設立 登記 【第 30 条】株主の初回出資金は、法に基づき設 立された出資金払込検査機構の出資金払込検査 を経た後、株主全体が指定する代表者もしくは共 同委託する代理人が会社登記機構に会社登記申 請書、会社定款、出資金払込検査報告等の文書を 送付し、設立登記を申請する。 株主が会社定款規定の出資額を引き受 けた後、株主全体が指定する代表者もし くは共同委託する代理人が会社登記機構 に会社登記申請書、会社定款等の文書を 送付し、設立登記を申請する。 株式有限 公司の設 立条件 【第 77 条第(2)項】発起人が引受および募集する 株式資本が法定の資本最低限度額に達している こと。 会社定款の規定に合致する発起人全体が 引き受ける株主資本総額または募集する 払込株式資本総額を有していること。

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中国アドバイザリーの現場から 『現行法』の条文 『改正法』の条文 株式有限 公司の設 立登記 【第 84 条第 3 項】発起人が初回の出資を払い込 んだ後、董事会および監事会を選挙し、董事会が 会社登記機関に会社定款、法に基づき設定された 出資金払込検査機構が発行した出資金払込証明 および法律、行政法規の規定するその他の文書を 送付し、設立登記を申請しなければならない。 発起人が会社定款で規定した出資額を 引き受けた後、董事会および監事会を選 挙し、董事会が会社登記機関に会社定款 および法律、行政法規の規定するその他 の文書を送付し、設立登記を申請しなけ ればならない。 (中国アドバイザリー部翻訳・作成) 3.先行実施を踏まえ改正決定 会社設立に係る規制緩和は、中国政府が目下、推し進めている「政府機能の転換」方針の一 環でもあります。 全国人民代表大会は 2013 年 3 月 14 日に『国務院機構改革および職能転換計画についての決 定』を公布。投資や生産経営活動に係る批准事項の削減・委譲、工商登記制度の改革等によっ て政府による企業経済活動への介入を減らし、同時に行政の簡素化・効率化を進めて、市場の 活性化を図る方針を明らかにし、実際に行政許認可の廃止や権限委譲、行政手続費用の無料化 等の改革を進めています。この決定には、払込資本金登記制度から引受資本金登記制度への変 更と工商登記条件の緩和も盛り込まれており、深圳市等の一部地域で出資金払込検査を不要と する等の改革が先行実施されていました。 市場開放と規制緩和をさらに進めるために設置された中国(上海)自由貿易試験区(以下「上 海 FTZ」という)においても、会社設立手続の簡素化が図られました。引受資本金登記制度を実 施し、最低資本金額や出資要件に関する規制を緩和したほか、「先照後証(先に営業許可証、後 に行政認可証取得)」の措置を実施しています。 「先照後証」は、企業が営業許可証の取得後すぐに一般的な生産経営活動を開始できるよう にするものです。事前認可が求められている事項は、これまでどおり認可取得後に営業許可証 を申請する必要があるものの、その他の認可事項については営業許可証取得後に申請すること ができます。行政許認可の取得はこれまで、営業許可証の取得や営業開始の前提条件とされて おり、会社設立の難易度や設立準備期間の長さをも左右していました。この措置も、『国務院機 構改革および職能転換計画についての決定』に盛り込まれていたものです。 こうした改革の進展を受け、国務院は 10 月 25 日の常務会議において登録資本金登記制度改 革の全国展開を決定しました。この決定は、以下の 5 つの方針を盛り込んでおり、改革によっ て「創業コストを引き下げ、社会の投資活力を刺激する」考えを明確にしています。 ① 『現行法』が定める最低資本金制限の緩和と初回出資比率・出資期限に係る制限の撤廃 ② 年次検査制度から年度報告制度への変更 ③ 企業の住所登記条件の緩和 ④ 企業信用制度の構築

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中国アドバイザリーの現場から ⑤ 払込資本金登記制度から引受資本金登記制度への変更 今回の『会社法』改正は、この決定を受けたものです。今後、会社設立関連規定の改訂が進 むものとみられます。 4.「外資三法」の改正作業に着手 『改正法』により、外商投資企業の設立手続はどう変わるのでしょうか。外商投資企業に対 しては、一般法である『会社法』のほか、特別法・規定も適用されるため、当面はその修正や 新規定公布の進展を見定める必要があります。 とりわけ、外商投資企業に関する基本法である「外資三法」(『外資企業法』『中外合資経営企 業法』『中外合作経営企業法』)とその実施細則の改正が焦点となります。上海 FTZ では現在、「ネ ガティブリスト」掲載の参入不可・制限業種を除き、外商投資のプロジェクトや企業設立に係 る認可・批准手続を原則不要とする規制緩和措置が実施されています。全国人民代表大会常務 委員会は 2013 年 8 月 30 日、この改革を実行するため、「外資三法」が定める外商投資企業の設 立・変更、経営期限の延長等に係る審査・批准手続を上海 FTZ 内において 3 年間停止し、すべ て届出管理へと変更することを決定しています。 もしこの改革が全国展開されれば、中国の外商投資政策における一大転換となります。商務 部はすでに「外資三法」の改正草案作成と意見募集を開始しており、その進展に注目が集まっ ています。 以 上

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中国戦略

中国の都市化−未来への財源−

この 30 年間の中国の成長と発展を促した重要な要因の一つは、都市化という変化のプロセス が、間断なくかつ未曾有のスケールで続いたことでした。かつては農村主体の社会だった中国 は、都市主体の社会へと変化しつつあります。都市化はなおも進んでおり、2030 年頃まで続く と予想されます1。この間に毎年約 1,500 万人2が中国の都市人口へ流入するでしょう。 こうした変化の裏に隠れているのが財源調達の問題です。中国は都市化推進のため、向こう 20 年間で約 40 兆人民元(2012 年の年間 GDP とほぼ同額)を投資する計画です3。最終的に 10 億 人が都市に暮らすという都市化目標を掲げていますが、そのための財源を効率的に、かつ持続 可能な形で調達する方法はあるのでしょうか。 本稿では、中国がこれまで都市化の財源をどのように調達してきたのか、さらに都市化を進 めるためにはどのような課題が待ち受けているかを含め、近年の都市建設の流れを検証します。 また、今後の取組みの一環として推進されると思われる、地方債や官民パートナーシップを含 めた政策の動向についても考察します。 前進する中国 中国は世界最大の 13 億人以上の人口を擁しますが、つい最近まで、その大部分の人々が農村 部に住んでいました。1950 年代半ばまでの中国は農村主体国で、都市部の人口は約 10%に過ぎ ませんでした。それから 30 年間で中国の人口は大幅に増加しましたが、農村部と都市部の人口 比率はあまり変化しませんでした。1978 年、改革開放政策が始まった頃の都市化率は 15%前後 でした4 しかし、経済改革が始まると農村部から都市部への大規模な移住が起こりました。おりしも 発展中の工業地帯で数百万単位での製造業関連の雇用が生まれ、農業の余剰労働者が高収入を 求めて都市部へと向かいました。1980 年代末には都市化率が 26%5に、さらに 2000 年には 35% へと上昇しました6 1 2030年について:中国が成熟する時期として2030年が挙げられることが多い。都市化の成熟とは、その国の都市人口が総人 口の70%以上に達した状態を指す。脚注2のURL参照。 2 約20年間で人口が3億人増加するとの予想に基づく。 http://www.scmp.com/comment/insight-opinion/article/1236136/how-fund-chinas-urbanisation

3「China urbanisation plan hits roadblock over spending fears(中国の都市化計画、資金不足で行き詰まり)」South China

Morning Post 南華早報, 2013年5月23日

http://www.scmp.com/news/china/article/1244228/china-urbanisation-plan-hits-roadblock-over-spending-fears

4 Harvey, Hal.「Paying for the great urbanization of China(中国大規模都市化のツケ)」Bulletin of the Atomic Scientists,

2013年5月8日 http://www.thebulletin.org/paying-great-urbanization-china

5 Shan, Juan.「Census:Population hits 1.37b(国勢調査:人口が13億7,000万を突破)」China Daily 中国日報,2011年4月

29日 http://www.chinadaily.com.cn/china/2011-04/29/content_12416974.htm

KPMG Advisory (China) 編 厚谷 禎一 訳・監

www.kpmg.com.cn www.kpmg.or.jp/jp/china

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中国戦略 中国の都市化率の上昇は比較的緩やかですが(急速な経済成長を経た他の発展途上国が年 5 ∼6%なのに対して中国は年 3∼4%7、この人口移動の累積効果は極めて重大です。この 10 年 という短い期間に、2 億人以上8の人々が農村部から都市部へと移り住みました。2012 年は中国 にとって非常に画期的な年でした。歴史上初めて、都市部の人口が全体の 50%以上に達したの です。 中国には「直轄市」「地級市」「県級市」という 3 つの都市レベルがあります。現在およそ 650 の都市があり、そのうち 100 都市以上で人口が 100 万人を超えています9,10 現在、中国都市部の人口は約 7 億人です。アナリストは、さ らに 3∼4 億人の農村住民が 2030 年までに都市部に移り住 むだろうと予想しています11 その結果、1978 年にはわずか 2 億人弱だった中国の都市人口 は 10 億人を超えることになる でしょう12

7 Henderson, J. Vernon.「Urbanization in China: Policy issues and options(中国の都市化:政策の問題点と選択肢)

China Economic Research and Advisory Programme, 2009年11月14日

8「Urbanization in China, fast change and great challenges(中国の都市化、急速な変化と大きな課題)」CRIENGLISH, 2012

年3月12日 http://english.cri.cn/7146/2012/03/12/2702s686158.htm (国家統計局公表データ)

9「China has fewer cities, but population is booming(都市が減少し人口が爆発的に増加する中国)」Shanghai Daily 上

海日報,2008 年 4 月 1 日 http://en.chinagate.cn/news/2008-04/01/content_13999914.htm

10 Briney, Amanda.「Largest cities in China(中国の大都市)」About.com Geography, 2011 年 1 月 30 日

http://geography.about.com/od/chinamaps/a/largest-cities-china.htm

* Jao, James C./Janet Adams Strong

「Straight Talk about China's Urbanization(中国都市化に関する直言)」 Xinhua Publishing House, 2012,161.

2011 年、2,100 万人もの人々が中国農村部か ら都市部へ移動した。これはニューヨーク市 2 つ分の人口にあたる* 。 出典:中国国家統計局 http://www.stats.gov.cn/ よりKPMG作成 人民日報 Online, 2013年8月28日 http://english.peopledaily.com.cn/90882 /8380709.html より予測 中国農村部/都市部の人口 都市部人口の割合 農村部人口の割合

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中国戦略 社会インフラへの影響 およそ 2 世代にわたる期間続いた都市主体国家への変転は、非常に大きな社会的問題を引き 起こしただけでなく、財政面でも影響がありました。中国の都市化に関する最も重要な問題は、 これだけスケールの大きい都市化の財源をどこから調達するかです。 中国の経済モデルと中央集権的政策を考えれば、地方自治体予算に中央政府から巨額の補助 金が提供されているはずと予想されるかもしれません。 しかし、実際には中央政府からの財政支援はごく一部で、資金調達はほとんど地方政府の幹 部と市のトップ(すなわち党書記や市長)の仕事になっています。彼らが、各都市で進行中の 都市化プロセスを管理し、資金源を確保し、住宅、学校、道路・交通網、病院、電気・水道・ ガス等の公共サービス、インフラ設備、娯楽施設等の都市化プロジェクトの継続に必要な資金 を確保します。地方政府はこの他に、増加した都市人口のために社会福祉サービスを拡大し、 維持する費用も捻出しなければなりません。 しかし、同時に、地方政府の財源確保には大きな制約が課せられています。地方税による財 源調達もその制限の一つです。つまり、地方で徴収された税収の大部分は中央政府に吸い上げ られ、手元に残る資金や再配布される資金は微々たるものなのです13。また、開発プロジェクト が公共インフラに負担をかけるという理由によって、公害課徴金や改善費用を徴収するなどの 方法により、開発業者に手数料ベースの請求をすることも可能ですが、これらの請求額は現在 非常に低くしか設定できません。 従って、地方レベルで都市化を推進するための主な財源は基本的に下記の 2 つに絞られます。 地方政府の資金源 地方政府が活用できる第一の財源は土地の売却です。 土地の所有権は政府にあるので、実際に土地そのものを売却するわけではありませんが、地 方政府は開発業者から直接資金を徴収し、その収入を道路や学校、その他の都市プロジェクト の建設に充てます。中国は広大な国ですが、このようなシステムには明らかな欠陥があります。 一般に土地は 1 回しか売却できません(土地の使用年限が通常 40∼70 年なので、頻繁には売却 できないという方が正確かもしれません)。開発が進んでいる東部の一部地域ではすでに、政府 が売却できる土地が残り少なくなっています14 第二の財源は借入です。これまでのところ主に銀行融資ですが、地方債発行などの新しい手 段も使われるようになりました。 規則上、中国の地方政府が銀行から直接資金を借り入れることはできません。こうした制約 はあるものの、多くの都市が「城市建設投資公司(Urban Development Investment Corporations =UDICs)」などと呼ばれる地方政府投資事業体を使って、銀行から融資を受ける方法を利用し

13 脚注4参照

14 Wong, Christine「Some suggestions for improving China's municipal finance for the 21st century(21世紀の中国都

市財政改善に向けた提言)」The Paulson Institute, 2012年12月

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中国戦略 ました。地方プロジェクトの資金源として借入が多く使われるようになったのはここ 4 年ばか りのことです。これは北京の中央政府が比較的緩やかな金融政策を続けているからです。り KPMG 成15 現在、約 8,000 件の城市建設投資公 司があり、都市インフラ整備費用のた めの借入財源の 80∼90%を占めてい ます16。地方政府の借入総額は 20 兆人 民元に近づきつつあり17、このような 負債のレベルと構造が持続可能かどう か懸念が生じています。返済期限が、 担保である資産の年限に合わせて設定 されていないケースが多いからです。 改革の可能性 この 30 年で急速な都市化が進んだものの、中国がこれから何十年も都市建設と開発に励まな ければならないことは事実です。中国の都市が、増大する人口のために行政サービスやインフ ラを拡張する資金を調達できるかどうかは、この国の経済成長と福祉サービスに大きな影響を 及ぼします。 15中国国土資源部 http://www.mlr.gov.cn/zwgk/tjxx/201004/P020100414360818094638.pdf http://www.mlr.gov.cn/zwgk/zytz/201110/P020111019408400790897.pdf http://www.mlr.gov.cn/zwgk/tjxx/201205/P020120516305280627517.pdf http://www.mlr.gov.cn/zwgk/tjxx/201304/P020130420316544303241.pdf

16「PPIAF helps the Chinese Government move toward credit-based borrowing by sub-national entities(PPIAF、地方事

業体による信用ベース借入に向け中国政府を後押し)」PPIAF, 2010年3月

http://www.ppiaf.org/sites/ppiaf.org/files/publication/PPIAF-Impact-Stories-China-SNTA.pdf

17 Song, Sophie「China's local government debt estimated around 20 trillion yuan($3.3 trillion),rivals Germany's

GDP(中国地方政府の借入が約20兆元(約3兆3,000億ドル)に。ドイツのGDPに匹敵)」International Business Times, 2013 年9月17日 ※2013年12月の中国審計署の発表では、2013年6月末時点で17兆8,909億人民元 土地売却 (兆人民元) 債券発行 (兆人民元) 地方政府の都市化財源 出典:中国国土資源部よりKPMG作成15 注:中国国内84の主要都市と地方自治体のデータ。 資金用途は主に都市化関連インフラ(学校、電気・ 水道・ガス等の公共サービス、道路、その他プロ ジェクト)の建設・整備(脚注15参照)。 財政部財政科学研究所の賈康所長は、「4 億 人の農村住民を今後 20∼30 年で都市住民 にするための費用を 1 人当たり 15 万人民 元とすると、都市化には約 41.6 兆人民元 (6.8 兆ドル)の費用がかかる」との見通 しを述べた* * Bloomberg,2013 年 8 月 28 日 http://www.bloomberg.com/news/2013-08-28/china-urban-migran ts-cost-seen-at-least-6-8-trillion-economy.html

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中国戦略 中国のソーシャルファイナンスを専門とする、オックスフォード大学のクリスティン・ウォ ン教授は、「土地の売却と城市建設投資公司の相互作用が、その両方の乱用をもたらした。また、 現状の土地売却収益への過度な依存は危険であり、持続可能ではない」と指摘しています18 都市化推進のための資金調達をより堅実で持続可能なものにするために、地方政府にはもっ と多様かつ柔軟な調達手段とビジネスモデルが必要です。近年、このテーマを巡って白熱した 議論が交わされ、多くの解決策が提示されました。そのうち、地方債の起債と官民パートナー シップの 2 つについて紹介します。 広がる地方債発行計画 一部の地方政府は、地方債発行を通じて都市化のための財源を資本市場で調達できるように なりました。 これまで、地方政府が直接債券を発行することは禁じられていました。政府による債券等は すべて中国財務部が発行することになっていたのです。しかし、2011 年 10 月、試験プログラム の一環として、上海市、深圳市、浙江省、広東省の 4 つの地方政府を対象に、債券を直接発行 する権限が与えられました19 2013 年 7 月、中央政府はこの試験プログラムを拡大し、より多くの地方政府が債券市場を通 じた資金調達を可能とする計画を発表しました。具体的には前述の 4 つに加え、江蘇省と山東 省にも債券を直接発行する権限が与えられました。地方債の満期は、3 年、5 年または 10 年か ら選べます。 債券発行権を与えられた地方政府は債務負担が軽減され、また債務の透明性も高まるとアナ リストは考えています20。こうした動きは、各プロジェクトのニーズに最適な資金調達方法を選 択できるよう地方政府の権限を拡大し、市場のリスクファクターの緩和にもなる、新しいモデ ルへの漸次移行と見ることもできます。 中国の官民パートナーシップ 都市化プロジェクトの資金調達及び実行・運営するための方法のもう一つが、官民パートナ ーシップの利用です。これは他国では幅広く活用されている方法で、従来公共部門によっての み提供されてきた公共サービスを民間部門と協力して提供します。 官民パートナーシップは以前から中国にも存在しています。実は中国政府は 1990 年代から、 18 脚注14参照

19「China's provinces allowed to issue debts(中国の地方自治体に債券発行権)」Shanghai Daily 上海日報, 2011年10月

21日 http://english.peopledaily.com.cn/90778/7622625.html

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中国戦略 建設・運営・譲渡(BOT)と呼ばれる官民パートナーシップを大規模に活用してきました21。BOT モデルでは、政府が民間事業者にプロジェクト建設の権利を与え、民間事業者は許可された期 間中営利的にプロジェクトを運営することができます。期間満了後、民間事業者はプロジェク トを政府に譲渡します。 よく知られている事例としては、広西チワン族自治区の来賓発電所が挙げられます。これは 1990 年代半ばに実施された最初の BOT22で、国際競争入札を通じて承認され、以後中国国内にお ける BOT プロジェクトの基本モデルになりました。 官民パートナーシップ方式は、地方のイン フラプロジェクトのごく一部で使われている に過ぎません。この方式には公共部門と民間 部門双方の利益を損なう恐れもあります。例 えば、中国の法律や規制政策には変更があり えます。投資家にとっては事業運営における 不確定要素が存在することになり、一定のリ スクを価格に含めるなどの対応が必要です。 他国でも同様ですが、官民パートナーシップ 契約の許可と管理は複雑で、政府と民間参加 者の両方に専門的スキルが必要です。 「2030 年の世界経済を最終的に牽引する 2 つの注目すべきメガトレンドは、 米国のテクノロ ジー開発と中国の都市化である」 デビッド・オブライエン(KPMG カナダ、シティーズ・セン ター・オブ・エクセレンス、グローバルヘッド) しかし、都市化改革が今後も政府の政策を牽引すると予想されるため、中国の官民パートナ ーシップは数々の事業分野でさらに広がるでしょう。医療、教育、環境保護など、重要な都市 サービスへの投資が必要な地方政府にとっては、中央政府が設定した GDP 目標の達成は容易で はありません。政府の投資だけでは、増大するインフラや公共サービスのニーズを満たせない と認める政府関係者もいます23。結果として、官民パートナーシップなどの仕組みを通じて民間 部門の関与が深まるでしょう。

21 Liu, Zhiyong、Hiraku Yamamoto「Public-private partnerships(PPPs)in China: Present conditions, trends, and future

challenges(中国の官民パートナーシップ(PPP):現状、傾向および将来の課題)」東北大学 2009年6月26日

22 Wang, S.Q./L.K. Tiong.「Case study of government initiatives for PRC's BOT power plant project(中国のBOT発電

所プロジェクトに関する政府イニシアチブのケーススタディ)」International Journal of Project Management,18

官民パートナーシップ方式で関 心が高いのは水道・廃水処理分 野。2011 年時点の推定で、約 400 件の水道・下水関連プロジェク トが実施されている* * http://www.Adb.org/urbandev

Urban Innovations and Best Practices

「Sustainable urban development in the PRC(中国の持続 可能な都市開発)」

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中国戦略 都市人口トップ 1024 都市名 国名 人口 (単位:100万人) 1. 上海 中国 17.8 2. カラチ パキスタン 13.0 3. ムンバイ インド 12.5 4. ダッカ バングラデシュ 11.9 5. 北京 中国 11.7 6. モスクワ ロシア 11.5 7. イスタンブール トルコ 11.3 8. サンパウロ ブラジル 11.2 9. 天津 中国 11.1 10.広州 中国 11.0 結論 中国の都市化は長期にわたるトレンドです。この都市化プロセスはまだ一部が進んだに過ぎ ません。今、起こっている本当の変化は、地方政府が物理的な拡大を推進する財源を確保する ために、新たな方法を探る努力をするようになったことです。解決策としては、財政改革の推 進と中央政府から地方政府へのより幅広い権限の付与などが実施されると考えられます。 このほかには、地方債発行のさらなる改革・拡大や、官民パートナーシップ方式をより活用 することによる、経済的負担とリスクを民間部門とともに負担する方法が挙げられます。 中央政府と地方政府は都市化財源に関していくつかの選択肢を持っていますが、土地売却を 通じた開発のトレンドはピークを過ぎたようです。今後は、急激で大胆な政策変更ではなく、 試験的プログラムや持続的拡大を特徴とする実験期が続くと思われます。 同時に、新たな都市住民の流入は止まることなく、また容赦ない力で起こります。あらたに数 億人もの人々が中国の輝かしい新都市での生活を可能とする、実際的な政策ソリューションの 実施がますますの急務となっています。 注: 中国の人口データは 2010 年時点 (a)北京の人口は中心地区(東城区、西城区、朝陽区、豊台区、石景山区、海淀区)の人口をもとに計算。 (b)上海の人口は中心地区(黄浦区、盧湾区、徐匯区、長寧区、静安区、普陀区、閘北区、虹口区、楊浦区、閔行区、 宝山区、嘉定区、浦東新区)の人口をもとに計算。 (c)都市人口のみ。周辺郊外地域の人口は含まない。

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中国戦略

厚谷 禎一

KPMG Advisory (China) Limited ディレクター 東京工業大学理学部卒業・同大学理工学部修士課程修了(情報科学専攻) 米国ペンシルバニア大学ウォートン校経営学修士(財務専攻) これまで 20 年以上にわたり、日本、米国、カナダ、英国、韓国にて経営コンサル ティング会社及び会計事務所に勤務、各国企業顧客に戦略・M&A・オペレーション 等の分野でのアドバイザリー・サービスを提供。 2003 年より KPMG LLP(米国)ニューヨーク事務所に勤務、主に日本企業顧客に対 して事業デュー・ディリジェンスを中心とした M&A 支援サービスを提供。 2008 年より現職、KPMG 中国の上海事務所にて同じく日本企業顧客に対して M&A 支 援サービスを提供。 専門は市場評価、事業計画の精査、M&A 実施後の統合支援等を含む事業デュー・ ディリジェンスだが、日本企業顧客に対しては広く、財務・税務デュー・ディリジ ェンス、企業価値評価、不正調査、リストラクチャリング支援等を含む、M&A 支援 サービス全般のプロジェクト・マネジメント・サービスを提供する。 +86 10 8508 7111 teiichi.atsuya@kpmg.com

参照

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