最新ベトナムプラスチック産業の現状
長谷川国際技術士事務所 長谷川 正(Tadashi Hasegawa) 「ポリマーダイジェスト」Web 版、2006 年 8 月 (1) はじめに 2006 年 5 月 16 日~19 日の 4 日間、ベトナム・ホーチミン市にある国際見本市会場で開催され た、第 14 回国際工業機械展(IIME2006 ベトナム)を視察する目的で 3 年ぶりにベトナムを訪問し、 その機会にホーチミンおよびハノイ近辺にある工業団地の現状と進出日本企業の実態を調査する ことにした。近年、話題を呼んでいる 21 世紀の世界経済をリードする国としてBRIC‘s(ブラジル、ロ シア、インド、チャイナ)4 カ国に次いで、日本にとっては、近隣のベトナムに対して熱い魅力を感じ ている。 これまで、製造加工業の海外進出の流れとしては、東南アジア諸国から、現在は中国への進出 シフトが続いている。しかし、中国一国主義へのリスクヘッジとして、中国のワーカーの賃金上昇や、 優秀な技術者・管理者の確保困難、などの理由で、ベトナムへの工場進出が積極的に進められて いる。一般ワーカーを含めた人件費は、現在のところ中国の 1/2 であり、人材の素質では、アジア の中で最高レベルとも言える。経済成長率も 7%以上の高水準を続けており、政治的、宗教的にも 安定している。 現在、ベトナム国内には 165 の工業団地があるが、団地内の整備はかなり進んでいる。今後、高 速道路や鉄道網、港などのインフラ整備が進めば、第 2 の中国として急成長することは明らかであ ろう。 今回の訪問では、ホーチミン市の輸出加工区や、工業団地の視察だけでなく、人民委員会と中 央政府との委任を受けた機関である HEPZA のマネージャーとも面会し、ベトナム経済と今後の方 向について話を聞くことができた。 2001 年ごろよりハノイ近隣の工業団地への大手日系企業の進出が特に目立ってきている。ハノ イは行政機能が集中しており、中央政府も積極的な企業誘致を進めている。 (2) ホーチミン市近隣工業地帯の現状 今回、ホーチミン市の工業と輸出加工区管理部(HEPZA)を訪問し、投資部門のマネージャーで ある HAI さんに面会し、ホーチミン近辺の輸出加工区および工業団地の状況について開設を受け た。 HEPZA はホーチミン市の人民委員会と中央政府の委任を受け、輸出加工区では 4,000 万 US ド ルまで、工業団地に対しては 1,000 万 US ドルまでのプロジェクトの投資許可を発行できる。ホーチ ミンには 650 万人の人口が集まり、優秀で安価な人材が集まっており、中国と比較しても、実質的 には 50%程度とのことであった。ベトナム従業員は勤勉で向上心、創造性に優れていると高く評価している。 今回、日系企業を 4 社訪問したが、いずれの代表者も、この優秀性を強調していた。 54 の大学と、250 の職業専門学校から、毎年 30 万人強の卒業生を送り出している。外資企業の マネージャークラスの月収は 4 万円、工場労働者の場合は 8,000 円程度である。 ホーチミン市には現在 16 の工業団地があるが、2010 年までに 20 地区へ増加する。図 1に 3 輸 出加工区と工業団地の位置を示す。写真 1に工業団地の概観を示す。 図 1 ホーチミン市での輸出加工区および工業団地 写真 1 工業団地の概観 ホーチミンには日本人学校や、インターナショナルスクール、オーストラリアの王立メルボルン工 業大学も設立されている。 今回ホーチミンで訪問した日系企業について簡単に紹介する。 ※ KTC ベトナム(㈱カテックス 70%、㈱ツーワン 30%) 1996 年からタン・トゥアン輸出加工区に進出して、ゴム加工および組立加工を行なっている
会社で、主に OA 用のゴムロール、自動車部品などをプレス成形していた。素材的には NBR とシリコーンゴムで、非常にソフトなグレードや、精度の高い研磨加工を行なっていた。 従業員は 200 人程度であるが、吉兼副社長や金子工場長の下で、非常に整理整頓がなさ れ、品質管理も日本以上のレベルであった。ベトナム進出に際しては、このようにゴム素材 の練り加工から成形、加工、組立まで一貫したプロセスを通じ、多くの作業員を、安く、しかも 勤勉で、正確な性質を活用することにより企業メリットが生かせているケースと言える。同社 ではハノイにも工場を新設し、高まる OA 用需要にマッチさせている。(写真 2) 写真 2 KTC ベトナムにて ※ 福山合成ベトナム(アマタ工業団地内)(写真 3) 同社は 3 年前より進出したプラスチック成形加工と一部金型作成の標準的プラスチック成形 加工メーカーで、主に通信機器、自 動車部品と OA 用部品の成形加工 を、射出成形機を使用して生産して いる。射出成形機も日本製で、原料 も日本からの輸入品が多い。メーカ ー指定グレードのためであろう。従 業員は 200 人弱であるが、女性がほ とんどで、品質管理も的確に実施さ れていた。ベトナム人は目がいいの で、日本人では見つけられない欠 陥部所も見つけてしまうので、逆に 困っていた。日本人は石井工場長 1 名で、非常に家族的ムードで、現地従業員を上手にコ ントロールしていた。ビジネスは順調で、受注量は増加が続いている。 このアマダ工業団地には、原料の東洋インキや金型のムトー精工、三光金型などが近くにあり、 日系企業の進出が活発である。この工業団地には現在 64 社が入っているが、そのなかで日本企 業が 27 社とトップである。 一方、KTC の入っているタン・トゥアン輸出加工区には現在 157 社が投資しており、日本企業は 57 社で、永大化工や、大和プラ、ジューキ、日機装、バンビ、デンパールなど多数。 写真 3 福山合成ベトナム工場前にて
ホーチミンを中心とする南部工業団地で、日本企業が多く参加している団地としては、 ※ VSIP(ベトナム・シンガポール工業団地) 日本側としては三菱商事が参加出資、総計 161 社が入居しているが、日本企業としてはロ ート製薬、日本電池、日東電工、フジクラ、オカムラ、昭和化成、大日本インキなど 31 社。 ※ LONG BINH 工業団地 45 社が入居していて、日本企業としては NEC トーキン、原田工業、ムトー精工、明和など 12 社。 ※ SEP ZONE 74 社が入居しており、日本企業も日星電子、富士インパルスなど 10 社。 ※ ビエンホア第 2 工業団地 第1工業団地には、味の素、スズキ、古河電工など多数が入居しており、この第 2 工業団地 にも、富士通、プラス、マブチモーター、ショープラ、ムトー精工、明和産業、王子製紙など 日系企業がもっとも多い工業団地である。 (3) ハノイ近隣、ベトナム北部工業団地 最近のハノイ地域では、日本企業の新規投資として、キヤノンがタンロン工業団地、クエボー工 業団地、ティエンソン工業団地での第3工場までプリンター工場を建設、稼動を進めたため、プラス チック・ゴム成形加工メーカー、金型メーカーの進出がラッシュしている。3年程前には 3~4社であ ったプラスチック成形加工メーカーも、現在は 30 社近くまで進出してきても需要増加に応えられな い状況となっている。2005 年 12 月にはブラザーがフクディン工業団地でのプリンター工場を決定、 東洋インキが 2006 年にプラスチックコンパウンド・マスターバッチ工場を 3 万トン/年で 9 月にスター ト予定であり、住友電工も、ベトナムでの 3 社目の工場として、ダイアン工業団地で自動車用電線会 表 1 ベトナム北部工業団地のハノイ・ハイフォンまでの距離、開発面積、販売価格
社を設立した。北部のハイテク工業団地として、ホアラックハイテクパークには帝国通信工業が進出 決定している。このように北部に対する工業団地のハノイ・ハイフォンまでの距離、開発面積、販売 価格を表 1に示す。 ベトナムでは工業団地への入居時に賃貸期間相当分のリース代金を支払うのが一般的である。 期間は約 50 年分で残存期間は工業団地開発時期によって異なる。 北部工業団地では左のハノイに近い工業団地は高く、100 ドル近い賃料で、ハノイから一時間程 度離れると 20 ドル前後になる。(図 2) ハノイ地区が注目される理由としては、①行政機能が集中しており、政府も企業誘致に積極的で、 投資ライセンスの取得手続きもスムーズ、②労働 力の質の良さで、一流大学が集中しており、優秀 なエンジニアやワーカーが多い、③都市化プロ ジェクトが進行中で空港、港、道路、火力発電所 など、各種インフラ整備中、④地理的優位性とし て、中国、東南アジアの主要都市への地理的中 心である、⑤サパート工業として、金型、プラスチ ック成形、ダイキャスト、プレスなどの中小中堅企 業が、台湾、日本、韓国から多数進出している。 ベトナム全体としては、人口約 8,000 万人で、全 体として勤勉で忍耐強い性格で優秀な国民であ る。人件費としては、中国の約 50~60%程度で あり、広東地域にすでに進出している日系企業が、ベトナムへの平行投資で、競争力を高める傾向 が強い。参考までに表 2にベトナム労働者の平均月間給料を示す。 図 2 北部工業団地の賃貸価格 表 2 ベトナム労働者の平均月間給料
ハノイ・イノバイ空港に近いビンフック工業団地にはトヨタ、ホンダ、井上ゴム、など。 ノイバイ工業団地には住友金属、日本カーバイド、日邦産業など、タンロン工業団地にはキヤノ ン、デンソー、住友ベークライト、TOTO、松下電器など、日本企業 34 社が入居している。 一方、ハイフォン港に近い野村ハイフォン工業団地には、矢崎総業、王子製紙、ローツェ、パロ マ、日本ケーブルシステム、稲畑、トヨタ合成などは日本企業 30 社が入居している。 ここで、ハノイ地域で訪問した日系プラスチック成形金型企業について紹介する。 ※ 日邦メカトロニクス(ベトナム) (写真 4) 日邦産業は名古屋に本社があって、国内では一宮市、稲沢市、浜松市の 3 工場であるが、 海外戦略が進んでおり、生産拠点としてタイ(バンコック、コラートの 2 工場)、マレーシア、ベ トナム、中国(シンセン)を占め、海外 営業部門もシンガポール、上海、台 北、バンコック、マレーシアなどを有 するハイテク産業として株式価格で も注目されている優良企業のひとつ である。 今回訪問したベトナム工場は、ハノ イ空港から近くのイノバイ工業団地 に入居してまだ 3 年であるが、すで に工場内はフル稼働で、現在第 2 工 場に移転中であった。 現在射出成形機は 70 台で、金型工作機械 5 台を有し、キヤノン向けのエンプラ精密成形を メインとして、ホンダ向け部品も増産中であった。ここでは木ノ本社長や竹内取締役との 2 人 の日本人で、約 500 人以上の現地社員をマネージしていた。日邦産業は海外経験が豊富 であるので、進出 17 年の経験があるタイを中心とする現地エンジニアも技術的に高く、タイ、 マレーシア、ベトナム、各工場レベルアップ、生産性 150%工場や、コスト半減運動などを全 工場に展開していた。日邦産業は海外も含めて、3,000 人ほどの優良プラスチック成形加工 メーカーである。 写真 4 ハノイ 日邦産業 ※ MEISEI ベトナム(写真 5) 名古屋精密金型が 3 年前より進出した 精密金型企業で、空港から 30 分ほどの カイ・クワン工業団地に約 6,000 坪の工 場 敷 地 に 金 型 工 場 を 建 設 し 、 CAD 、 CAM からマシニングセンターなど 34 設 備をそろえていた。水田社長、伊藤副社 長以下 30 人くらいの金型メーカーである が、二輪車用部品、金型、電気部品用 写真 5 ハノイ MEISEI 工場内にて
金型をフル生産しても供給不足で、日本からも供給しているとのことで、工場の拡大を検討 中であった。工場内の設備を写真 6に示す。 伊藤工場長の話では、ベトナムの人材は優秀で、日本で 1 年間指導しただけで、自分ひとり で金型作成ができるまでに成長できたのには驚いていた。現在も 10 人ほど、日本で研修中 とのことであった。ハノイ地区の金型需要を満足させるには金型生産能力の拡大と、射出成 形加工まで必要と思われる。 この工業団地のメリットとしては、投資優遇策が他の工業団地と比較しても非常によい点、質 のよい労働者が安く確保できる点、対日感情のよさ、治安政情の安定している点だと強調さ れていた。 一方、問題点としてはインフラ整備問題、輸入関税、手続きの問題、役人の質などであろう。 写真 6 MEISEI 工場設備 (4) ベトナムプラスチック展 第 14 回国際工業用機械展(IIME2006)の一部にプラスチック用機械展が 5 月 16 日より 19 日ま での 4 日間、ホーチミン国際展示場で開催された。(写真 7)全体で約 300 社が出展したが、プラス チック関係の展示は 100 社くらいで、香港・中国本土からが約 50%、台湾・韓国から 30%くらい、 東南アジアから 20%くらいと思われた。日本からは 1 社だけで東芝機械が中国製の全電動射出機 EC-C100 を展示していたが、タイ支店より出張の日本人の稲垣氏から説明を受けた。東芝としては
ベトナムへの出展は 3 回目とのことで、日本 からの機械は価格的に高いので、中国製の EC-C タイプを勧めているが、中国製や台湾 製とは 50%ほど高くなってしまうとのことであ った。ベトナムへ進出している日系企業がタ ーゲットであろう。中国の射出機メーカーとし ては順徳の CHEN-DE や、大同グループの WELTEC が大きく展示デモを行なっていた。 韓国機械メーカーの出展も非常に活発で あった。筆者が特に注目したのが、ベトナム プラスチック市場に対するコンパウンド、マスターバッチメーカーの動向であった。ベトナムでは、原 料メーカーはまだないので、輸入するか、現地でコンパウンド化や、マスターバッチメーカーが進出 している点である。日本からも、稲畑産業、東洋インキ、大日本インキなどの大手だけでなく、中堅 企業も進めている。今回の見本市会場で注目した企業を下記に示す。 写真 7 ベトナム プラスチック展 ※ シンガポールの R&P 社 1989 年設立の大手コンパウンドメーカーで、エンプラのカラリング、コンパウンド、TPE、TPV コンパウンド、機能的マスターバッチ、カラーコンパウンドなどを生産している。工場としては マレーシアと中国にも工場を有しており、ベトナムに対してはマレーシアより供給するとのこと であった。 ※ 中国広東省の MEILIAN 社 PE をベースとしたカラーマスターバッチメーカーで 2 万トン/年の生産能力を有している。フィ ルム、射出、押出用など各分野で使用されている。 ※ マレーシアの SHIFTY TECHNOLOGY この会社は顔料、マスターバッチ、コンパウンド、エンドユーザー向けのスーパーコンパウンド、 フレーク状または微粉形状顔料、パウダーコーティング用顔料、発泡剤などの各種添加剤を 生産供給している。 ※ 米国の AMPACET 社 顔料、各種添加剤、改質剤、コンパウンド、マスターバッチなどを生産供給する。アジア地域 の本部および生産工場はタイにあってインド、マレーシア、オーストラリア、中国、フィリピン、 ベトナムに支店を有している大手コンパウンド企業である。 ※ 中国のマスターバッチメーカーY&L 社 ここでは 60 種類の各色カラーバッチの価格表を入手した。東南アジア、中国におけるカラー バッチの標準コストを知る上で役に立つと思う。(表 3、4) ※ 米国 DOMINO プラスチックス社のスクラッププラスチックス PET から PE、PP、PS からエンプラまで各種スクラップ原料を 25 年間アジア各国に供給して いる。
関心のある方はホームページ:www.domplas.com 表 3 各種カラーバッチの価格表(1) 表 3 各種カラーバッチの価格表(2) (5) 終わりに 今回はベトナムの魅力についてまとめてきたが、国際協力銀行が 2006 年 1 月に発表した「わが 国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」によれば、調査対象企業 945 社からの回答を まとめたもので、総売上高 500 億未満企業も 43%、大企業も 15%と、これまでに海外進出の経験の ある企業が、次の進出有望国として回答した企業は、第1位が中国 393 社、2 位インド 168 社、3 位 タイ 145 社、4 位ベトナムをあげており、その進出が有望である理由についての回答は、①安価な 労働力が 81.7%、②他国リスク分散の受け皿が 38.9%、③優秀な人材が 38.1%であった。一方、 ベトナムに対し今後の課題としては、①インフラが未整備 51.1%、②法制が未整備 39.4%、③法制
の適用が不透明 37.2%であった。これらのメリット、デメリット共に、今回訪問した企業の経営者から も同じ答を得ている。 いずれにしてもベトナムは今後 5~6 年の間には中国の広東地域と同じように、急速な成長が達成 されるものと確信できる。日本の金型、成形加工、コンパウンド・マスターバッチメーカーにとっては 海外進出のベストチャンスではなかろうか。 〈本稿に関する問合せ先〉 長谷川国際技術士事務所 〒468-0042 名古屋市天白区海老山町 2603 TEL & FAX 052-802-5629 E-mail:[email protected]