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森林102_166

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I.は じ め に  日本森林学会では 2018 年大会から教育部門が創設され た。教育部門の創設は,家高(1925)を始まりとする多く の研究蓄積(大石・井上 2014a,b)を礎とするものであ るが,その背景には様々な森林教育の実践がある。近年で は,森のようちえんの増加(今村 2011),自然学校の増加 (西村 2014),林業大学校の開校(林野庁 2018)など,森 林教育の実践がさらなる広がりをみせている。  森林教育の研究では,多様な森林教育の実践を研究対象 としてとらえて検討するために,森林教育の名称や目的に ついての概念整理が行われてきている。  森林教育の名称については,森林教育,林業教育,林学 教育,森林・林業教育,森林文化教育,森林環境教育,森 林・環境教育,木育,森林技術者教育,森林 ESD などの 用語が用いられている(大石・井上 2014b)。そのなかで, 森林教育は林業を含む多面的機能を教育内容とするものと して明治期から用いられ(志賀 1894;今井 1930),その 後も林業技術者の養成を目的とする林業教育と環境教育の 流 れ を 受 け た 森 林 環 境 教 育 な ど の 総 称 と さ れ(井 上 2007),森林に関する教育である森林・林業教育,森林 文化教育,森林環境教育と木材に関する教育である木育, 林産教育,木材教育および森林と木材に関する教育である 林業教育を包含する総称(井上・大石 2010)とされてい る。このように,森林教育は早期から近年に至るまで関係 する諸教育を包括する名称としてとらえられている。この ようなことから,本稿においても関係する諸教育の総称と して森林教育を用いている。  森林教育の目的については,1975 年のベオグラード憲 章に示された環境教育の目的における “環境” を “森林” に 読み換えた「森林とそれに関わる問題に気づき,関心を持 つとともに,当面する問題を解決したり,新しい問題の発 生を未然に防止するために個人および社会集団として必要 な知識,技能,態度,意欲,実行力などを身につけた人々 を育てること。」(大石 1998)や,環境教育の指導原理を 踏まえた「森林と触れ,森林と親しむことで,森林そのも のや森林と人間とのさまざまなかかわりに気づき,森林に ついての理解を深めながら,森林および森林とかかわる人 間が置かれている状況を改善するために,あらゆる分野で 行動できる人材を育成することを目標とする教育および教 育的営みである。」(比屋根 2003),さらに,学校教育にお いて森林教育が果たし得る役割の視点からの「森林での直 接的な体験を通じて,循環型資源を育む地域の自然環境で ある森林について知り,森林と関わる技能や態度,感性, 社会性,課題解決力などを養い,これからの社会の形成者 として,持続的な社会の文化を担う人材育成を目指した教 育」(井上・大石 2014)などがある。このように,森林教 育の目的についての既往の論考には,森林や森林と人との 関係性をよりよいものにすることができる人の育成という 点に共通性がみられる。 論   文

森林教育の領域に関する実証的考察

大 石 康 彦

*,1

・井上真理子

1  森林教育の実践は広がっており,森林教育の研究が検討すべき対象が拡大している。森林教育の名称や定義については一定 の概念整理が行われているが,森林教育の領域については十分な検討がされていない。一方,教育分野においては生涯学習に 関する基本概念としてフォーマル教育,ノンフォーマル教育,インフォーマル教育の区分が行われている。本研究はこの区分 に基づいた森林教育の領域の確認を目的とした。文献調査法を用いて各区分に該当する実践を確認した結果,森林教育の領域は, (1)市民を育成対象とする普通教育と,(2)森林・林業の専門家を育成対象とする専門教育の二つの区分で構成されるフォーマ ル教育,(3)市民を育成対象とする社会教育および林業普及と,(4)森林・林業の専門家を育成対象とする林業普及と職業訓練 の二つの区分で構成されるノンフォーマル教育,(5)市民を育成対象とする家庭教育等で構成されるインフォーマル教育の,あ わせて 5 区分で構成されることが確認された。 キーワード:森林教育,領域,フォーマル教育,ノンフォーマル教育,インフォーマル教育

 Yasuhiko Oishi,*,1 Mariko Inoue1 (2020) Empirical Consideration about the Fields of Forest Education. J Jpn For Soc 102: 166-172

 The practice of forest education has spread, expanding the subjects of study. The concept has been organized for terms used in forest education and their definitions; but what the field of forest education covers has not been fully discussed. On the other hand, in the field of education, the basic concepts related to lifelong learning have been classified into formal, non-formal and informal learnings. This study aimed to ascertain what forest education includes based on this classification. Practices in each category were investigated by using the literature search method. The results showed that the field of forest education consists of five categories: 1) general education targeted at citizens, 2) specialized education targeted at specialists in forests and forestry, which are both formal education, 3) social education and forest extension targeted at citizens, 4) forest extension and vocational training targeted at specialists in forests and forestry, which are non-formal education, and 5) informal education including home education, targeted at citizens.

Key words: forest education, field, formal education, non-formal education, informal education

* 連絡先著者(Corresponding author)E-mail: oishi@ffpri.affrc.go.jp

1  森林総合研究所多摩森林科学園 〒193︲0843 東京都八王子市廿里町 1833︲81(Tama Forest Science Garden, Forestry and Forest Products

Research Institute, 1833︲81 Todori, Hachioji, Tokyo 193︲0843 Japan) (2019 年 10 月 18 日受付;2020 年 3 月 29 日受理)

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 一方これらの論考では,森林教育の目的を達成するため の方法として「森林と触れ,森林と親しむこと(比屋 根 2003)」や「森林での直接的な体験を通じて(井上・大 石 2014)」といった森林体験がとらえられているものの, 森林教育をどこでどのように行うかという,森林教育の領 域については示されていない。そこで,森林教育の領域に 焦点をあてて既往の論考をみると,昭和初期に,林業教育 には大学教育,専門学校教育,実業学校教育に加えて,林 業の指導奨励のための講習講演や民衆の森林思想を涵養す るためにする社会教育もあるとしたもの(岡部 1930)や, 林業教育を普通教育(学校教育,社会教育)と専門教育(学 校教育,社会教育,修成教育(注 1))に分類したもの(上 村 1930),さらに,林業教育を学校教育,家庭教育,社会 教育で構成される全教育体系中の一環であるとしたもの (鹽谷 1940)がみられ,近年では,森林環境教育における 教育的営みについて学校教育や社会教育だけでなく,たと えば NPO 活動に参加する市民が結果的に多くの物事につ いて主体的に学び取ることをも含む幅広い教育概念を意味 しているとしたもの(比屋根 2003)がみられる。これら の論考を俯瞰すると,森林教育の領域観には,学校教育- 社会教育-家庭教育と普通教育-専門教育の二つが交錯し ていることがわかる。  このように森林教育の領域が複雑な様相を呈しているこ とが森林教育の実践や研究に関わる人々の認識に影響を及 ぼし,その結果として,当事者間の認識不足によるミスマッ チ(山本 2001)」や,人によってイメージする森林での活 動目的や内容がくい違っていることも多い(井上 2007) といった事態を引き起こし,森林教育の実践や研究を進め る上での課題となっているものと考えられる。このような ことから,森林教育の領域の確認が,関係者がもつ森林教 育の領域観を整え,ミスマッチやくい違いといった問題を 回避し,ひいては森林教育の実践や研究の進展に資するも のと考えられる。  教育全般に目を向ければ,わが国の近代教育制度は 1872(明治 5)年に公布された学制に定められた学校制度 に始まるとされ,社会教育も同年の書籍館設立によって始 まっている(文部省 1972)。また,家庭教育についても 1878(明治 11)年に作成された「日本教育令草案」にお いて教育事務は学校・書籍館・博物館・幼稚園・家庭の教 育を掌理するものとされており(湯川 2012),明治期の教 育行政のなかにとらえられていた。  教育の領域をこのように幅広くとらえる考え方は,近年 では,学校教育や社会教育に個人の学習や様々な活動から 得られる意図的ではない学習を加えた幅広い概念を包含し た生涯学習としてとらえられ(文部科学省 2019),学校教 育での授業場面のような定型教育(formal education),学 校教育以外の成人学級や職員研修といった非定型教育 (non-formal education), 家 庭 教 育 の よ う な 不 定 形 教 育 (informal education) と し て 再 整 理 さ れ て い る( 赤 尾 2015)。また,教育のノンフォーマル/フォーマル性に 基づいた教育領域観は,国際協力機構や OECD が採用し ており(国際協力機構 2005;OECD 2011),これらの定義 がほぼ同一の内容となっていることをふまえた,フォーマ ル教育を制度化された学習,教育システム内での教育,ノ ンフォーマル教育をある目的をもって組織された学校教育 以外の教育活動。インフォーマル教育を日常生活の結果と して生じる学習過程全般とする整理もなされている(村 松・村山 2016)。  森林教育は教育全般と同じ社会・文化の下で行われる教 育の営みであり,森林教育以外の諸教育と関連するもので あることから,森林教育の領域を教育全般の領域観に沿っ て整理することに一定の妥当性があると考えられる。  このようなことから,本研究は,教育分野における教育 のノンフォーマル/フォーマル性に基づく領域観に沿った 森林教育の領域の確認を目的とする。 II.研 究 方 法  本研究が目的とする森林教育の領域の確認には,森林教 育が事実としてどこでどのように行われてきたか,行われ ているかを実証的に確認するアプローチが必要である。  教育という営みは,ある社会・文化において人に働きか けるものであるが,社会・文化は常に変動するものであり, それに伴って教育も変遷している。森林教育も同様に社会・ 文化の変動に伴って変遷している。したがって,例えば学 校教育のなかで行われる森林教育の現状を理解し,これか らどうなるのか,どうあるべきかを考えるためには,現在 の学校教育における森林教育の実践の事実を確認するだけ では不十分であり,1987(明治 5)年に始まった学校教育 のなかで森林教育がどのように行われてきたかを過去に 遡って明らかにすることが重要な意味をもつ。  このようなことから,本研究では,教育分野における教 育の領域観を準用して,森林教育の領域をフォーマル教育, ノンフォーマル教育,インフォーマル教育で構成される領 域として仮定し,各区分に該当する森林教育の実践の確認 を可能な範囲で過去に遡って行うこととした。森林教育の 実践の確認には,以下の理由により文献資料の記述に基づ いて森林教育の実践を確認する文献調査法を用いることと した。実践の確認には実践現場を対象として情報を収集す る調査研究法を用いることも考えられるが,調査研究法で は調査対象が特定の地域や実践者に限定されるために,広 範にわたる領域に該当する森林教育の実践の確認は困難で ある。また,調査研究法によって明らかにできるのは現状 のみであり,過去に遡った確認は不可能である。これに対 し,文献調査法では,地域,実施者の範囲を限定せず過去 に遡って確認することが可能である。  探索対象の文献は,日本森林学会等が刊行した森林・林 業系の学会誌を中心に,森林・林業系の雑誌や書籍,さら には教育系の学会誌や雑誌,書籍,教科書などとし,可能 な範囲で過去に遡って森林教育の実践に関する記述を探索 した。 III.結 果 と 考 察  文献調査の結果,フォーマル教育,ノンフォーマル教育, インフォーマル教育に該当する以下の森林教育の実践が確

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認された。 1.フォーマル教育  フォーマル教育は,学校教育での授業場面のような定型 教育である。学校教育は,1872(明治 5)年の学制によっ て開始され,現在は学校教育法第 1 条に規定された学校で ある幼稚園,小学校,中学校,高等学校,大学等で行われ ている。この他,学校教育法に規定された専修学校(同法 第 124 条)や各種学校(同法第 134 条)である林業大学校 も,フォーマル教育として取り扱うことが妥当と考えられ る。  学校教育には,小中学校において行われる普通教育(学 校教育法第 21 条)と,高等学校における普通教育と専門 教育がある(同法第 50 条)。また,大学においては,広く 知識を授けるとともに深く専門の学芸を授ける(同法第 83 条)ために一般教育および専門教育が行われている(石 橋 2010)。この他,林業大学校においても専門教育が行わ れている。このようなことから,フォーマル教育を普通教 育と専門教育に分けて整理する。 1)普通教育  普通教育は小中学校と高等学校において行われている が,本稿では幼稚園における教育と大学における一般教育 も普通教育として扱う。  明治期の普通教育における森林教育の実践についての報 告はみられない。しかし,同時期の小学校教科書には,例 えば 1894(明治 27)年の『尋常小學新讀本(田中 1894)』 の材木の項に木材の特徴や用途,1900(明治 33)年の『小 學國語新讀本尋常科用(文學社編輯所 1900)』の山林の項 に木材生産や洪水防止,山林保護についての記述がある。 さらに,高等小学校の農業の教科書である 1912(明治 45) 年の『新定農業教科書(滋賀縣教育會 1912)』に森林の効 用,林木の種類,林地,造林,森林の手入れおよび保護に ついての記述がある。  さらに,昭和戦前期の普通教育については,小学校,中 学校,高等女学校,師範学校等の国語,地理,理科,博物, 数学,手工,実業等の科程内で常識としての林樹,木材, 山林等の最低度の林業教育が実施されているとの報告があ る(上村 1930)。同時期の教科書には,例えば 1928(昭和 3) 年の『尋常小学国語読本(文部省 1928)』のわが国の木材 の項に木材の性質や産地,1929(昭和 4)年の『尋常小学 国語読本(文部省 1929)』の植林の項に植付,補植,下刈, 枝打,間伐,主伐の一連の作業についての記述がある。  また,現在の普通教育における森林教育には,以下の実 践がある。幼稚園については,幼稚園教育要領における木 育の環境構成について(寺床 2018),幼稚園における園内 外の森の教育資源としての活用について(内野 2018),幼 稚園の園庭における木のぼり等について(遠藤 2018)の 報告がある。小学校については,小学校社会科の学習指導 要領と教科書における森林・林業の扱われ方について(石 橋・内出 1995),国語,理科,社会,図画工作の四つの教 科と総合的な学習の時間における副読本を活用した森林環 境教育の授業について(服部ら 2018),小学校全教科の教 科書に掲載されている樹種名について(杉浦ら 2018)の 報告がある。中学校については,修学旅行における農村体 験学習での植林作業について(内田・杉浦 2000),森林・ 林業の授業と植林,間伐の体験学習について(比屋根 ら 2002),理科授業における森の健康診断活動実習につい て(小西 2009)の報告がある。高等学校については,大 学附属高校の宿泊研修における森林実習について(堀 江 1992),大学附属高校の生物授業における木材構造観察 実習と大学演習林実習について(東原・吉本 2004),総合 学科高校の環境科学授業における森林調査実習について (長尾 2007)の報告がある。大学については,経済学部の 実習における炭焼きについて(室田 1983),文科系大学に おける森林調査実習について(泉 2010),大学経済学部に おける森林整備等のプロジェクト型学習について(中山・ 松村 2018)の報告がある。  以上のように,普通教育の幼稚園から大学までの各学校 段階における森林教育の実践が確認された。 2)専門教育  専門教育は高等学校と大学および林業大学校において行 われている。  高等学校における専門教育のはじまりは 1901(明治 34)年の木曾山林学校開校である。明治期の高等学校専門 教育における森林教育の実践についての報告はみられな い。しかし,木曾山林学校では,森林保護学,森林動物, 林学通論,森林数学,森林経理学,造林学,森林利用学, 林産製造,森林測量,森林土木,森林行政等が講じられて いた(長野縣立木曾山林学校 1912)。また,同時期の農学 校・農業学校の教科書には,例えば 1905(明治 38)年の『林 学教科書(本多 1905)』や 1910(明治 43)年の『農学校 用林学教科書(白沢 1910)』があり,それぞれに造林学, 森林保護学,森林利用学,測樹学,森林経理学についての 記述がある。さらに,大正期の農業学校における専門教育 に つ い て, 林 学 の 体 系 に つ い て の 報 告 が あ る(家 高 1925)。また,戦後の高等学校における専門教育につい ては,森林科学科におけるバイオマス利用や木材工芸利用 に関する教育実践について(早尻 2011),森林・林業教育 の目標,内容の変遷について(井上・大石 2013),「森林 経営」および「森林科学」関連科目の変遷について(井上 ら 2014;井上・大石 2016)の報告がある。  大学における専門教育のはじまりは 1882(明治 15)年 の東京山林学校開校である。明治期の大学専門教育におけ る森林教育の実践についての報告はみられない。しかし, 東京山林学校では,山林歴史,山林測量術,樹木測知法, 造林學,山林保護法,山林利用論,営林規法論,林政論等 が講じられていた(山林局 1882)。また,同時期の大学の 専門教育の教科書には,例えば 1894(明治 27)年の『林 政学前編(本多 1894)』,1895(明治 28)年の『森林経理 学(志賀 1895)』があり,林政学,森林経理学についての 記述がある。さらに,明治期以降の大学における専門教育 については,高等農林学校および帝国大学林学実科の各科 目講義時間数について(上村 1930),大学および高等農林 学校の学科課程の変遷について(片山 1953),大学農学部 の林学コース学生を対象とした森林教育指導者養成のため

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の授業について(井倉ら 2003),大学農学部の専門教育科 目実践森林・林業教育における森林教育指導者養成のため の演習林公開講座企画運営体験について(小林ら 2005) の報告がある。  林業大学校における専門教育のはじまりは,1971(昭和 46)年の岐阜県林業短期大学校(専修学校である岐阜県立 森林文化アカデミーの前身)開校であり,造林学,林業経 営学,森林保護学,森林工学,木材利用学,林産化学,林 業概論,林業普及論等が講じられていた(林 1979)。林業 大学校における専門教育については,林業大学校(各種学 校)の現状と課題について(志方 2017),林業大学校(専 修学校)学生の教育とカリキュラムに対する満足度などに ついて(小川 2018)の報告がある。  以上のように,専門教育の高等学校と大学および林業大 学校における森林教育の実践が確認された。 2.ノンフォーマル教育  ノンフォーマル教育は,学校教育以外の成人学級や職員 研修といった非定型教育である。公民館や図書館,博物館, 青年の家などの社会教育施設等によって一般市民を対象に 行われている社会教育は,ノンフォーマル教育に該当する。 この他,森林所有者や一般市民を対象に森林・林業に関す る技術や知識を普及する林業普及や,都道府県や林業事業 体が森林・林業の専門家を育成対象として技術や知識を伝 える職業訓練も,学校教育以外の非定型教育であることか ら,ノンフォーマル教育として取り扱う。 1)社会教育  現代以前の社会教育における森林教育の実践についての 報告はみられない。しかし,社会教育のはじまりとされる 1872(明治 5)年に文部省博物館によって湯島聖堂におい て開催された博覧会(東京国立博物館 1973)の出品目録 に松毬と山刀の記載がある(東京文化財研究所美術部 2004)。続いて,内山下町博物館における 1879(明治 12) 年の『博物館分類一覧表』には,山林之器具(山林ノ栽培, 伐木,伐根及ヒ材木運搬等ノ諸具),山林之方法(山林の 方法,諸制規,試験ノ結果及ヒ図画,模型)の記載がある (東京国立博物館 1973)。さらに,現在の森林・林業系の 社会教育施設である森林学習施設については,その管理・ 運営や利用についての報告がある(藤土・石橋 1992;木 山・土屋 2014;木山ら 2014)。また,地域博物館による 一般市民を対象とする自然観察会や地域学習活動について の報告もある(浜口 2007;青柳 2010)。  以上のように,社会教育における森林教育の実践が確認 された。 2)林業普及  現代以前の林業普及における森林教育の実践についての 報告はみられない。しかし,近世の山林書(注 2)の一つ として知られる琉球王国の林政八書の一部に,地域住民を 対象とする林業普及の実践を示す記述がある。すなわち, 1737(乾隆 2/元文 2)年の『山奉行所規模帳』第 15 項に は山工人(技術者)は杣山養生の法(山の保全・管理手法) に述べてあることを年寄や若者にも詳しく説明しておくべ きであるという記述があり(仲間ら 2013),1751(乾隆 16/宝暦元)年の『山奉行所公事帳』第 28 項には山の法式 (技術体系)などに記載されている全ての条項の内容を老 若男女に詳細に申し聞かすべきであるという記述がある (仲間ら 2015)。  現在の林業普及指導事業のはじまりは,1949(昭和 24)年の林業技術研究普及助長事業の発足であり(関 岡 1997),道府県による市民を対象とする普及活動につい て(富樫 2001;市川 2007;枚田 2010),県による林業者 を対象とする普及活動について(中川・金山 2013)の報 告がある。  この他,学校教員や市民を対象とする指導者養成を通じ て市民を対象とする林業普及の推進を図る取り組みも行わ れており,都県による学校教員を対象とする森林教育指導 者 養 成 研 修 に つ い て(井 上・ 大 浦 2004; 大 築・ 矢 萩 2006;大石・井上 2010;井上ら 2017),県による県民を 対象とする森林インストラクター養成事業について(高橋・ 比屋根 2006)の報告がある。  以上のように,林業普及における森林教育の実践が確認 された。また,林業普及には,市民を育成対象とするもの と森林・林業の専門家を育成対象とするものが併存してい ることが明らかになった。 3)職業訓練  現代以前の職業訓練における森林教育の実践についての 報告はみられない。しかし,先述の林政八書には,職業訓 練の実践を示す記述がある。すなわち,1737(乾隆 2/元文 2)年の『山奉行所規模帳』第 23 項には,製材技術者 89 人に鋸で製材する技術指導を行ったという記述があり(仲 間ら 2013),1751(乾隆 16/宝暦元)年の『山奉行所規摸 帳仕次』第 1 項には,山師・山工人(技術者)に山工の正 法(山の手入れの技術体系)が伝授されているという記述 がある(仲間ら 2016)。  昭和戦前期の職業訓練については,国有林における技能 者教育についての報告があり(和 1981),昭和戦後期の職 業訓練については,国有林における職員研修について(竹 越 1963), 林 業 会 社 に お け る 教 育 指 導 に つ い て(和 智 1995), 林 業 事 業 体 に よ る 教 育 訓 練 に つ い て(早 尻 2005;早尻・中尾 2008)の報告がある。  以上のように,職業訓練における森林教育の実践が確認 された。 3.インフォーマル教育  インフォーマル教育は,家庭教育のような不定形教育で ある。日常生活の結果として生じる学習過程全般であり, 家庭,職場,遊び場で学ぶことや,家族や友人の手本や態 度から学ぶこと,さらにはラジオを聴取,映画・テレビの 視 聴 を 通 じ て 学 ぶ こ と な ど に よ っ て 行 わ れ る(渋 谷 2006)。この他,森林管理への自主的な参加である森林 ボランティアも,社会貢献活動であると同時に自主的に学 ぶ学習集団であり(紙野 1998),体験学習活動であり(山 本 1998), 学 習 過 程 と し て の 市 民 参 加 で あ る(山 本 2007)と指摘されているように,不定形教育であると みなすことができることから,本稿ではインフォーマル教 育として取り扱う。

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 インフォーマル教育は,森林との関わりによって維持さ れる日常生活における実践を想定すれば太古まで遡ること となるため,そのはじまりを見定めることは難しい。  日常生活における森林教育については,1910 年代以降 の里山における自然体験と動植物認識の関係について(大 越ら 2004),1930 年代以降の子どもの森林体験と両親や 家族の関係について(比屋根・畑中 2001),1992 年当時 の小学生の日常生活における森林との関わりと家族・親戚 の関係について(菅原・太田 1993),2010 年当時の小学 生が樹種名を知るきっかけとなった環境要因について(杉 浦ら 2014)の報告がある。  森林ボランティアについては,首都圏域で森林ボラン ティア活動に従事している集団について(紙野 1998),市 民参加活動の一つの形態として各地で展開されつつある森 林ボランティアについて(山本 1998),森林ボランティア 団 体 に よ る 森 林 を 場 と す る 体 験 学 習 に つ い て(秋 廣 2002)の報告がある。  以上のように,インフォーマル教育における森林教育の 実践が確認された。 4.森林教育の領域  以上のように,フォーマル教育,ノンフォーマル教育, インフォーマル教育の各区分に該当する実践を確認するこ とができた。このことによって,森林教育の実践がこれら の区分で構成される領域に広く及んでいることが確認され た。さらに,フォーマル教育には市民を育成対象とする普 通教育と森林・林業の専門家を育成対象とする専門教育が 含まれ,ノンフォーマル教育には市民を育成対象とする社 会教育および林業普及と,森林・林業の専門家を育成対象 とする林業普及および職業訓練が含まれていることが明ら かになった。一方,インフォーマル教育には森林・林業の 専門家を育成対象とするものは見当たらなかった。これら のことから,森林教育の領域は,市民を育成対象とする普 通教育と森林・林業の専門家を育成対象とする専門教育の 二つの区分で構成されるフォーマル教育と,市民を育成対 象とする社会教育および林業普及と森林・林業の専門家を 育成対象とする林業普及および職業訓練の二つの区分で構 成されるノンフォーマル教育,および市民を育成対象とす るインフォーマル教育の,あわせて五つの区分で構成され る領域として確認された(図︲1)。 IⅤ.お わ り に  本研究の結果として得られた森林教育の領域の 5 区分 は,森林教育の諸問題を,ノンフォーマル/フォーマル性 の観点に基づく区分(フォーマル教育,ノンフォーマル教 育,インフォーマル教育)と,育成対象の観点に基づく区 分(市民を育成対象とする森林教育と森林・林業の専門家 を育成対象とする森林教育)の二つの面からとらえたもの といえる。二つの観点が組み合わされた五つの区分がもつ 特性や役割等について検討を加え,それぞれがもつ特性や 役割を活かしていくことによって,森林教育活動の実践に おける関係者間の相互理解や連携を進め,研究面における 議論の発展に資することができるものと考える。  なお,森林教育の実践を確認する過程においては,フォー マル教育,ノンフォーマル教育,インフォーマル教育の 3 区分にまたがる複雑な実践の存在も明らかになった。  例えば,児童福祉法に定められた児童福祉施設である保 育所における森林教育の実践の報告がある(綛谷・川 島 2007;神田 2009)。また,森のようちえんには,幼稚 園や保育所の他に自然学校や認可外保育,自主保育などが 多くの割合を占めることが明らかにされている(菊田 ら 2016)。しかしながら,保育所は学校教育法に定められ た学校ではなく,自然学校や認可外保育も学校ではない。 保護者主導型の自主保育は家庭教育に該当する。さらに, 林業大学校には学校教育である専修学校と各種学校の他 に,都道府県の研修機関において専門教育が行われている 例があるが,林業や林産業を学ぶことができる大学校等と して一括りにされている(日本森林学会 2018)。  幼稚園と保育所や自然学校等との関係も林業大学校にお 図︲1. 森林教育領域の区分と育成対象

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ける専修学校と各種学校,都道府県の研修機関の関係も, そこで行われている森林教育を実質的な機能に焦点をあて てみるか制度上の位置づけに焦点をあててみるかによって とらえかたが異なってくる。例えば幼稚園における木のぼ りやターザンロープ(遠藤 2018)と保育所における遊び や探検(綛谷・川島 2007)は,実質的な機能に焦点をあ ててみるならば,森林における冒険的な体験活動として同 じカテゴリーに属する事例としてとらえられるかもしれな い。しかし,制度上の位置づけに焦点をあててみるならば, 幼稚園での実践は幼稚園教育要領に定められた育みたい資 質・能力(文部科学省 2017)の事例としてとらえられ, 保育所の実践は保育所保育指針に定められた保育の環境 (厚生労働省 2017)の事例としてとらえられるかもしれな い。制度上の位置づけと実質的な機能は,いずれも森林教 育の問題を考える上で無視することができない要素であ る。これらの要素に焦点をあてるならば,森林教育は本研 究によって確認されたノンフォーマル/フォーマル性の観 点や育成対象の観点に基づく区分とはまた異なった領域観 でとらえることもできるものである。 注   記 (注 1)上村(1930)は修成教育を「林業若しくは,林業關係の職務 に從事するものゝ林業智識の退歩を防ぎ,日新の進歩せる智識 を與へ,以て能率の增進,地位の向上を期せんとする教育.」と 説明しており,本稿における職業訓練に相当するものと考えら れる. (注 2)佐藤ら(1995)は近世の山林書として,琉球の『林政八書(1737 ~1751・1869)』,萩藩の『弐拾番山御書付(1743~1747)』,南 部藩の『山林雑記(1842~1858)』,下野国黒羽藩の『太山の左 知(1849)』をあげている. 引用文献 赤尾勝己(2015)生涯学習社会におけるノンフォーマル・インフォー マル学習の評価をめぐる問題―ユネスコと OECD の動向を中心 に―.教育科学セミナリー 46: 1︲16 秋廣敬恵(2002)森林の管理・利用にみる「住民参加」の地域社会 における位置づけ(Ⅲ)―森林ボランティア団体の活動内容の動 向―.日林講 113: 425 青柳かつら(2010)地域博物館における他者との連携による環境教 育活動の現状と課題.日林講 121: G17 文學社編輯所編(1900)小學國語新讀本尋常科用卷八.文學社.33︲34 遠藤知里(2018)幼児教育における子どもと森;安心と挑戦をもた らす環境としての樹木.日林講 129: 207 藤土久美子・石橋整司(1992)林業の啓蒙・PR 活動の現状と問題点 ―常設展示施設の実態と効果―.森林科学 6: 1︲10 浜口哲一(2007)森林を舞台にした博物館活動の一例―ガイドブッ クに結晶した自然観察会の積み重ね―.森林科学 49: 11︲14 服部真一・大川智船・木本美知子・樋口大輔・平山大輔(2018)副 読本を活用した小学校での森林環境教育の取組み―第 6 学年に おける教科横断的実践―.環境教育 28(1): 40︲45 早尻正宏(2005)企業組合の展開と林業・森林管理を支える労働者 形成―雇用保険制度下の北海道―.林業経済研究 51(2): 48︲57 早尻正宏・中尾信彦(2008)林業事業体における教育訓練の現状と 課題:北海道の林業事業体を対象にしたアンケート調査結果を 中心に.林業経済研究 54(1): 59︲69 早尻正宏(2011)高等学校森林・林業系学科の教育実践と地域づく りの担い手形成.日林誌 93: 171︲178 林  進(1979)林業大学校教育と後継者問題―岐阜県林業短期大 学校の事例―.林業経済研究 1979(96): 38︲47 東原貴志・吉本和夫(2004)高等学校における「樹木がわかる林学 実習」実施報告.日林講 115: 391 枚田邦宏(2010)鹿児島県における森林環境税による森林環境教育 の動向.日林講 121: G20 比屋根哲・畑中勝也(2001)森林活動家の生活体験に関する分析事例: 森林教育研究へのライフヒストリー法の応用.林業経済研究 47 (2): 9︲16 比屋根哲・山本信次・大石康彦・中村文治・上野幸子・和田政男(2002) 異なる内容の森林体験学習が生徒の森林観に及ぼす影響(Ⅰ)― 事前・事後における意識の比較―.日本環境教育学会第 13 回大 会(仙台)発表要旨集: 1A1030 比屋根哲(2003)森林環境教育.(森林計画学,木平勇吉編,朝倉書 店).204︲222 本多静六(1894)林政学前編.本多静六 本多静六(1905)林学教科書.中外図書局 堀江千代子(1992)森林の役割を肌で学ぶ―普通高校における森林 実習の試み―.山林 1301: 12︲23 市川貴大(2007)都道府県による一般住民が対象の森林ボランティア を育成するための研修や実習等の調査結果.日林講 118: P1a04 家高甚一(1925)農業学校ノ林学ニ就キテ.林学会雑誌 1925: 15︲21 今井正三(1930)同上.林学会雑誌 12: 485︲489 今村光章(2011)森のようちえんとは何か?―用語「森のようちえん」 の検討と日本への紹介をめぐって―.環境教育 21(1): 59︲67 井倉洋二・枚田邦宏・福満博隆(2003)林学教育における森林教育 指導者養成のとりくみ―森林教育入門講座の実践と効果―.日 林講 114: 215 井上かおり・大浦由美(2004)教職員を対象とした森林・林業教育 研修の現状と課題―岐阜県を事例として―.日林講 115: 385 井上真理子(2007)森林教育の軌跡.森林科学 49: 28︲29 井上真理子・大石康彦(2010)森林教育が包括する内容の分類.日 林誌 92: 79︲87 井上真理子・大石康彦(2013)戦後の専門高校における森林・林業 教育の変遷と今後の課題―学習指導要領をもとにした分析―. 日林誌 95: 117︲125 井上真理子・大石康彦(2014)森林教育に関する教育目的の構築― 学校教育を中心とした分析をもとに―.日林誌 96: 26︲35 井上真理子・大石康彦・宮下理人(2014)戦後における専門高校「森 林経営」関連科目の変化と課題.日林誌 96: 50︲59 井上真理子・大石康彦(2016)戦後の専門高校「森林科学」(育林分 野)関連科目の変化と課題.日林誌 98: 11︲19 井上真理子・大石康彦・佐伯有理・荒川純彦・山根慎次(2017)「木育」 を取り入れた地方自治体による森林教育・普及活動の展開―東 京都における産学官の協力による教員研修をもとにした教育支 援―.関東森林研究 68: 101︲104 石橋 晶(2010)日本の大学・学位制度.学位と大学 1: 265︲317 石橋整司・内出美智子(1995)小学校社会科教育における森林・林 業の取り扱われ方と今後の可能性.森林科学 13: 28︲37 泉 桂子(2010)文科系大学における地域の森林を活かした教育へ の取り組み.日林講 121: L35 紙野伸二(1998)森林・林業教育の再考と市民参加.林業経済 51 (6): 8︲14 神田リエ(2009)幼児を対象とした森林環境教育―絵を通して―. 日林講 120: B36 綛谷珠美・川島秀一(2007)里山における幼児保育がもたらす森林 セラピー効果―里山保育の実施状況と課題―.関東森林研 究 58: 79︲82 片山茂樹(1953)我国林業教育の発展過程と諸問題―2―.林業経 済 6(6): 25︲35 菊田文夫・藁谷久雄・田中誉人・伊藤めぐみ(2016)自然体験活動 を基軸とする幼児教育の現状とその展望―森のようちえん全国 調査の結果から―.聖路加国際大学紀要 2: 72︲77 木山加奈子・土屋俊幸(2014)森林学習施設における管理・運営の 現状―市民との関わりに着目して―.関東森林研究 65: 33︲36 木山加奈子・井上真理子・大石康彦・土屋俊幸(2014)全国におけ る森林学習施設の設置状況―4 種のデータソースをもとにした データベース構築結果から―.日林誌 96: 60︲64 小林 修・大田伊久雄・藤久正文・尾上清利・河野修一(2005)演 習林公開講座の企画・運営体験が大学生に及ぼす教育効果.日 林講 116: 3C09 国際協力機構(2005)ノンフォーマル教育の定義と特徴.(ノン フォーマル教育支援の拡充に向けて.国際協力機構).4︲5 小西伴尚(2009)中学理科授業での人工林の森の健康診断の実践. 日林講 120: J21 厚生労働省(2017)保育所保育指針.https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/ 0000160000. pdf(参照 2020︲01︲22) 文部科学省(2017)幼稚園教育要領,https://www.mext.go.jp/a_menu/ shotou/new-cs/youryou/you/you.pdf(参照 2020︲01︲22)

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