平成 19 年度
地球環境・プラント活性化事業等調査
「インドネシア・東ジャワ海水揚水発電計画調査」
(インドネシア)
報告書要約
平成 20 年 3 月
電源開発株式会社
要 約
1. プロジェクトの背景・必要性
インドネシアの電気事業は、発電部門をインドネシア国有営電力会社(Perusahaan Listrik Negara Persero : PLN)とその子会社、あるいは IPP が受け持ち、送・配電部門 を PLN が独占している。 PLN が「国家電源開発計画(RUKN)」に基づいて見直した 2006~2015 年の電力供給事業 計画(RUPTL)によれば、インドネシアにおいては年率9%程度の電力需要の伸びと同6 ~7%の最大電力需要の伸びが想定されている。その結果、ジャワ・バリ系統において 2016 年時点で約 3,000~4,000 MW のピーク対応電源が必要となる。 現在のピーク対応電源は石油系燃料火力発電設備によって占められているが、世界的 な原油価格の高騰を反映して、PLN においても石油系燃料調達コストは全発電コストの 70%以上を占めている。RUPTL によれば、今後の電源開発は石炭のウェートを増やし、石 油のウェートを大きく下げる一方 中で大きく変えないというの が基本方針である。 このような状況下でピーク需要に対応す ための電源として、現在進行中の Upper Cisokan 揚水発電計画(1,0000 MW)、既設大水力発電所の他に、新たな新規大規模揚水発 電所の建設が急務である。現在 地点を持っているが、まだプ レフィジビティ段階であり計画の熟度は極めて低い状態である。よって下部調整池が不要 で、淡水揚水発電計画に比較して土地改変面積が小さく周辺環境への影響の小さい東ジャ ワ海水揚水発電計画(800 MW)を、新たなピーク需要対応電源として提案するものである。 2. プロジェクトの内容決定に関する基本方針 沖縄海水揚水発電プロジェクトは、電源開発株式会社(J-POWER)が旧通商産業省(現 経済産業省)から委託を受けて 1987 年から 2003 年にかけて、沖縄県国頭村美作地点にパ イロットプラント(実証プラント)を建設し、試験運転を通して総合的な実証試験を実施 した事業で、2003 年以降も引き続き営業運転を継続実施している世界で唯一の海水揚水 発電所である。 沖縄海水揚水実証試験プラントが、有効落差約 140 m、発電規模 30 MW であるのに対し て、本プロジェクトは大幅に設備が大型化する。また、気象・海象といった外的条件も大 幅に異なる可能性もある。したがって、東ジャワ海水揚水計画へと展開する上では、他の ピーク対応電源に対する経済的優位性を確保すると同時に、以下の技術的課題を解決する 必要がある。 ① 海水の飛散・浸透対策 ② 海水による腐食対策 ③ 海生生物付着対策 、ガスのウェートは電源の る PLN は、2ヶ所淡水揚水計画
④ 海域環境下での運用 1,900 m の水路で結び最大 242 m3/s の海水を取水し、有効落 差 電時間は1日最大 6 3. プロジェクトの概要 東ジャワ海水揚水発電計画は、東ジャワ州ジェンベル県ウルハン郡オジェジェール村 に位置するワタンガン山近傍に位置する。この山頂付近に設ける上部調整池と下部調整池 となるインド洋を、延長約 389.4 m を得て最大 800 MW の発電を行う計画である。 上部調整池は高さ 47m、有効調整池容量 590 万 m3の掘込式アスファルト表面遮水壁型 ロックフィルダムである。水路は、延長約 850 m の導水路(水圧管路部を含む)と延長約 1,050 m の放水路よりなる。発電所は地下の導水路の終端に設ける。発 時間である 発電された電気は、新しく建設される延長約 80 km の 500 kV の送電線にて、既設の Piton – Kediri 線に送られる。また、この送電線を通して、揚水のための電力を Paiton 火力発電所から受電する。
調査地点
図2 海水揚水発電計画位置図(ジャワ島)
Meru betiri 国立公園
Bromo Tengger Semeru 国立公園
Blulan 国立公園
◎Jember計画地点
東ジャワ州
バリ州
Banyuwanggi◎ 20km 0 ◎LumajangNusa Barung 自然保護区
Meru betiri 国立公園
Bromo Tengger Semeru 国立公園
Blulan 国立公園
◎Jember計画地点
東ジャワ州
バリ州
Banyuwanggi◎ 20km 20km 0 ◎LumajangNusa Barung 自然保護区
図3 海水揚水発電計画位置図詳細Source of topographic map: Live Serch Maps (Microsoft corporation)
3.1 事業総額
送電線を含む総工事費は、5億 6,721 万ドルである。計画地点の気象、地質、地域条 件および工事規模を踏まえ、2007 年 10 月時点単価で積算した。工事費は、準備工事、環 境対策、土木工事、水力機器、電気機器、送電線、管理費、エンジニアリング費、予備費
で構成されている。なお、工事費に課税される付加価値税は 10%とし、輸入関税は PLN の場合免除されるものとした。 工事工期は6年である。建設工事着工後 71 ヶ月目に1号機の、72 ヶ月目に2号機の商 業運転を開始する。 3.2 経済・財務分析の結果概要 3.2.1 経済分析 経済分析は、代替火力法、即ち等価能力の火力発電所との比較に基づいて実施した。 プロジェクト・ライフを 50 年として行った、経済分析の結果は、経済的内部収益率 (EIRR)が 20.35%、割引率 10%とした場合、正味現在価値は(NPV)が 3 億 9.960 万ド ルおよび費用便益比(B/C)が 1.67、割引率 12%とした場合、NPV が 2 億 5,456 万ドルお よび B/C が 1.49 とな れをも超えているの で、当該プロジェクトは経済的観点から見て実行可能といえる。 3.2.2 財務分析 財務評価においては、電気の売上収益を財務便益として算定する。財務分析の結果、財 務的内部収益率(FIRR)が 6.37%、10%で割引かれた NPV および B/C がそれぞれマイナ ス 1 億 6,641 万ドルおよび 0.75 となった。従って、当該プロジェクトは、10%のリター ンを期待する場合には財務視点から見て、実現可能であるとは言えない。 これは、PLN の電気料金は政治的に決定され、原価を料金に反映できていないことに起 因するものである。 しかし、6.37%未満の利率の財源が提供されれば、プロジェクトは財務的観点から見て 実行可能である。 3.3 代替案との比較結果および最適案選定理由 現在、PLN では詳細設計が終了した Upper Cisokan 揚水発電計画(250 MW x 4)とプレ フィジビリティ作業が終了したばかりで熟度の低い2件の淡水揚水発電計画を進めている。 電力需要予測で述べたように、2016 年時点で 3,000~4,000 MW のピーク対応電源が必要 とされており、既設の貯水 Cisokan 揚水発電計画を あわせても、 上の理由により、現在、PLN で検討されているいずれの純揚水発電計画も、当該プロ とはならない。また、経済分析の結果では、当該プロジェクトの推進は イ った。EIRR が、資本機会費用の 10%、12%の何 池式水力と現在計画が進行中の Upper さらに 2,000 MW 程度の電源が必要になる。 以 ジェクトの代替案 ンドネシア経済にとって有意義であるとなっている。 淡水揚水発電計画では、通常上部調整池と下部調整池は、自然河川に造られるとこと が多い。その場合、ダム高(調整池容量)は、地形・地質的制約により上限値が設定され
る。また、地点特性にもよるが、一般的にはスケールメリットが出るため、揚水発電所の 規模は、上限値内で大きければ大きいほど経済性が得られることが多い。 に造られるため、2,000 MW、3,000 MW 程度の調整池を造ることは 物 的に可能である。しかしながら、災害や事故といった場合の発電所停止による系統へ 観点から、ここでは、揚水発電所1箇所当りの最大規 に止めた。さらに、機器の製作限界、プロジェクトの経済性から当該 プ 3.4.1 自然環境への影響 献調査の結果、当該プロジェクトエリアの自然環境に関して以下のこ と (1 上部調整池エリアは国有地で保安林に指定されているが、生態を保 護 のうち5程度と自然度はあまり高くない。IUCN が示すレッドデータ 希少種とされる植物は確認されなかった。 ョウビンが確認された。哺乳 類 たものである。 当該計画の下部調整池は海のため、調整池の容量としては無限大に等しい。また上部 調整池も、広大な台地 理 の影響を避けるというリスク分散の 模を 1,000 MW 程度 ロジェクトの出力は 800 MW(400 MW x 2)とした。 3.4 環境的・社会的影響 プロジェクトがもたらす環境への影響は自然環境と社会環境に分けられる。また時間的 な影響についてはプロジェクトの建設期間と運転期間とに分けられる。 現地調査および文 が判明した。上記調査結果の中で、今後特に注意を払うべきこととしては、世界環境保 護連合(IUCN)で絶滅危惧種に指定されたバンテン牛の生態調査(行動範囲や食餌場所な ど)を詳細に実施し、モニタリング方法や十分な対策を立案し、実施することである。 ) 植物相 当該プロジェクトの する目的ではなく自然災害等の防止目的となっている。地域一体は伐採がすすんでおり、 植生自然度が 10 段階 に (2) 動物相 現地調査で確認された動物のうち、世界自然保護連合(IUCN)が示すレッドデータリス トのカテゴリーで NT(准絶滅危惧種)に属するシシガシラゴシキドリとサイチョウ、LC (軽度懸念種)に属するモモグロヒメハヤブサ、ナンヨウシ では、EN(絶滅危惧種)に属するバンテン(野生牛)と VU(危急種)に属するマレーヤ マアラシが確認された。その他、インドネシア国内保護種であるアミメニシキヘビが確認 された。これらは、目視と聞き取り・痕跡により確認され
(3) 上部調整池からの塩分飛散 上部調整池からの強風による塩分飛散は、現時点で入手した風速データに基づいて解析 し 発的住民移転はないものと考え られる。工事区域から住民居住地域までの距離は約4km 程度あり、工事による周辺住民 るが、工事中の騒音については必要に応じてモニタリング、 防 ものとする。運 転 始後の放流水の水質は取水した水と基本的に変わらないものであり、周辺生態系・漁 と考える。 ジュール 機の試運転を行い、その4ヶ月後の 71 ヶ 月目に1号機の、また 72 ヶ月目に2号機の商用運転を開始する。 部調整池、取水口、水圧管路、放水口の施工は、準備工事終了後、発電所工事の影 次実施される。放水路の施工は、発電所連絡トンネルの完成後、本トンネ ル た結果、海起源の塩分飛散が支配的で上部調整池からの飛散の影響はほとんどない。今 後実施する環境影響評価の中で得られる詳細気象データに基づきさらに検討を実施する。 3.4.2 社会環境への影響 プロジェクト計画地点は国有地と国有企業によるプランテーション用地からなっている。 計画地点に居住民および住民土地利用は認められず、非自 への悪影響はないと判断され 音壁設置等により周辺住民への影響を軽減するものとする。工事中の濁水については、 陸域では濁水プラントを設け、また海域では濁水拡散防止対策を実施する 開 業者への影響は殆ど無いもの 工事中は安全対策として一部立入制限を行うがその範囲は狭い。完成後の放水口は取・ 放水時の流速を制限し、周辺海域への影響を軽減する事から漁業への影響は少ないものと 考える。発電機器は地下にあることから、発電所運転中は機器による周辺環境への影響は ほとんどない。 4. 実施スケ プロジェクト実施スケジュールは、ファイナンス手配、詳細設計(入札書類を含む)、 入札手続き、建設工事からなる。当該プロジェクトにおいては、詳細設計期間を 24 ヶ月、 入札手続きを 18 ヶ月(この内最初の6ヶ月は詳細設計期間と重複する)、建設工事期間は 72 ヶ月である。工事着工から 67 ヶ月目に1号 上 響を受けず、順 から分岐したアクセストンネルを設け、発電所工事と独立して実施していく。 なお、送電線設備は 60 ヶ月後には完成し、試運転開始(67 ヶ月目)前までに各種試験を 完了する。図4に当該プロジェクトの全体工程を示す。
2007 2008 2009 2 項目 010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 5 6 7 8 1 2 3 4 1 2 3 4 可 追加調査(環境調査等) コンサルタント選定 入 能性調査 全体工程 設計 詳細設計・入札書類作成 札手続き 建設 L/A 図4 プロジェクト工程 5. 円借款要請・実施に関するフィージビリティ 当該プロジェクトの経済分析の結果を表す EIRR は、20.35%と大きな値を示している。 一方、ピーク時の売電収入を考慮した FIRR は、6.37%で、EIRR の高さと対照的に相当低 い値となっている。 PLN の財務体質とプロジェクトのもつ財務的評価結果を考慮すると、PLN が当該プロ ジェクトの投資資金を全額自己調達することは難しいが、低金利の公的資金(ソフトロー ン)により PLN が開発すれば PLN に大きな便益をもたらすことになる。ただし、日本の円 借を要請するには、一般アンタイド条件の場合に資金の最低 15%をインドネシア側にて 己負担することを含めて政府との協議が必要である。当該プロジェクトの資金調達の見 検討課題としており、現時点で他ドナーや民間との間で当該プ ロ を実施しておく必要 が 与の対 応 、日本側の体制を完備しておく 事が肝要である。 自 通しについて PLN は今後の ジェクトの資金調達の動きはない。 一方、当該プロジェクトの実施計画を PLN の作成する電力供給事業計画(RUPTL)に組 入れ、さらにインドネシア政府の作成する国家電力開発計画(RUKN)組入れてもらう必要 がある。円借款要請に向けては、国家開発企画庁(BAPPENAS)に対してブルーブックに当 該プロジェクトが掲載されるよう働きかけると同時に、環境影響調査 ある。 日本サイドとしては当該プロジェクトが、インドネシア政府から日本政府に対して、 正式な外交ルートを経由して、円借款要請が提出されて来た場合、即座に円借款供 が出来る様に、事前に、当該プロジェクトに関する情報を日本側関係者全員の間で、し かるべく共有し、かつ、相互連携動作が円滑に機能する様
6. 我が国企業の技術面等での優位性 沖縄海水揚水発電所は、電源開発(株)が沖縄県国頭村美作村に設備を保有・運転・ 保守を実施している世界唯一の商業プラントであり、これまで、約8年間大きな問題もな く営業運転を継続している。海水揚水発電プロジェクトの調査・設計・施工管理・運転・ 保守の経験とノウハウは、唯一本邦のコンサルタントとコントラクターだけが有している。 沖縄海水揚水発電設備に関する機器類はすべて日本国産であり、当該プロジェクト実 施に際して日本企業の国際競争力は極めて高いと判断される。 7. 案件実現までの具体的スケジュールおよび実現を阻むリスク PLN は、本報告書をベースとしてインドネシア政府承認等の手続きを経て、次期 RUPTL トを織り込んでいくこととしている。 課題と解決策を明快にし、インドネシア国内の手続きが順調に進め ら および RUKN に可能な限り早い時期に当該プロジェク そのためには、本プロジェクトの経済性の面での有利さを確保することは当然の事な がら、沖縄海水揚水発電所(30 MW)から本プロジェクト(400 MW×2台)に大きく規模 拡大する上での技術的 れるよう後押しする必要がある。 また、今回の調査で、絶滅危惧種の存在がほぼ確認されたことから、迅速かつ細心な 環境影響評価を行うことが重要である。 PLN が、円借款を利用して「4 実施スケジュール」で述べたような本プロジェクトの 2017 年の運転開始を達成するためには、経済性の確保、技術的課題の解決、そして十分 な環境への配慮が必須となる。