地下水利用を考慮した貴志川漏水対策について
中野 彩,山崎 裕治
近畿地方整備局 和歌山河川国道事務所 調 査第一 課 (〒640-8227 和歌山県和歌山市西汀丁16番) 紀の川水系貴志川では,2011年台風12号の出水により,堤防法尻部および堤内地の水田や畑 等の10箇所超で噴砂跡が発見された.貴志川における堤防点検結果では,基礎地盤のパイピン グ破壊に対する安全性が不足する区間が約3.6kあり,うち、3.0kが未対策となっている.本報告 は一連の詳細点検結果を踏まえて,その対策工の検討を行うとともに,対策工の選定について は,現地における施工性,経済性および維持管理等を考慮した新工法(ウェルドレーン工法)を 適用した.検討にあたっては三次元飽和-不飽和浸透流解析を実施し,対策工としての効果を 確認するとともに,対策工費の大幅な削減が可能となった. キーワード 河川堤防,浸透流解析,浸透対策,ウェルドレーン工法1. はじめに
紀の川水系貴志川は和歌山県北部を北流し,紀の川本 川19.4k付近で合流する支川であり,合流点から5.2kまで が国管理区間にあたる. 2011年9月に発生した台風12号による出水では,紀の 川本川及び支川貴志川においても避難判断水位を超過す る水位を観測した.支川貴志川においては,最高水位と 堤内地盤の比高差は約2.6mとなった.これにより、堤防 法尻部および堤内地の水田や畑等で噴砂跡が発見された. また,2012年6月の梅雨前線による出水においても同 様に噴砂が確認され,地元からは早急な対策を講じるよ う要望があがっており,これら被害の防止・軽減に向け た対策が急務となっている. 昨年度,九州の矢部川において出水時法尻のパイピン グにより堤防が破堤し,堤内地に浸水被害が発生したこ とで,堤防の質的強化対策についてさらに関心が高まっ てきている.本報告は貴志川丸栖地区で実施した「ウェ ルドレーン工法」について紹介するものである. 図-1 紀の川流域概要及び貴志川位置図2. 貴志川での噴砂
(1)2011年(平成23年)9月の台風12号時の被災状況 台風12号の出水による紀の川流域の2日間平均雨量は 船戸地点上流で415mmであり,1959年(昭和34年)9月 伊勢湾台風時の2日間雨量313mmを大きく上回り,戦後 最大値を更新する雨量であった.また,降り始めから5 日間 で年間雨量の4分の3が集中している. 紀の川水系の支川である貴志川においても流域平均で 334mmの雨量があり,水位は5.65mを観測し,避難判断 水位5.50mを超過した.貴志川左岸0.2k付近(紀の川市丸 栖地区)においては,内水被害が発生し,排水ポンプ車 による排水作業が実施された.1) 図-2 2011 年(平成 23 年)9 月台風 12 号時の噴砂状況別紙―2
貴志川 ① ① ③ 7.6m 4.6m 3.2m ② ③ 7.6m 4.6m 3.2m 7.6m 4.6m 3.2m ②v w v v v d d d i Δψ Δφ ρ h h h d d i Δψ Δφ (水平方向) (鉛直方向) △φ △φ φ;各節点の圧力水頭 dh d V この出水において左岸丸栖地区(1.2k~2.0k)で地盤 の隆起,噴砂が確認されたため,稲刈り後に実施した現 地調査の結果,大きく分けて3点で10箇所の噴砂を確認 した. (2) 2012年(平成24年)6月の梅雨前線時の被災状況 また,昨年2012年6月には前年の2011年9月時に比べ河 川水位は1.8m程度低い状況であったが,概ね同じ箇所に おいて噴砂を確認した.
3. 浸透に対する照査
(1) 土質調査 堤防の浸透流解析にあたり,検討対象地点における土 層の堆積状況およびその連続性を確認する目的で土質調 査を行った.調査結果より透水性が高い砂礫層が堤防下 を横断的に分布し,川裏側では基礎地盤表層にやや透水 性の低い中間土(砂質土~粘性土)が分布しており,河 川水位上昇時には川裏側の砂礫層が被圧状態になりやす い地盤条件であることが判明した. (2) 地盤のモデル化 図-3に地盤モデル図を示す.地盤特性値の設定には当 該箇所における試験値を採用することを基本とした. 図-3 地盤モデル図 表-1 地盤定数一覧 (3)詳細点検結果 堤防の浸透に対する安定性検討は「河川構造の構造検 討の手引き2)」(以下「手引き」)に準じ,降雨.洪水 を外力として非定常飽和-不飽和浸透流解析を実施する. 詳細点検では,すべり安定性照査と堤内法尻部におけ るパイピング破壊に対する照査をそれぞれ行った結果, すべり破壊および鉛直方向の局所動水勾配に対する安全 性が確認されたものの,水平方向の局所動水勾配(ih)お よび,盤ぶくれに対して所要の安全率を満足しない結果 となった. 図-4 パイピング破壊に対する安全性照査の考え方 図-5 現況堤防の安全性評価結果4. 浸透対策工法の検討
(1) 周辺条件 a) 堤内地の地下水利用状況 左岸丸栖地区には農業用水および水道の揚水ポンプが 点在しており,地下水位は河川水位と連動してしている ことから,浸透対策として遮水矢板を設置すればポンプ からの揚水量が低減する可能性が考えられた. 図-6 堤内地の揚水ポンプ位置図 b) 内水被害の発生区域 堤内地の丸栖地区は内水区域で,ドレーン工法を適用 した場合には内水流量がどの程度増えるか留意する必要 があった. また,近畿地方農政局により農地浸水軽減を目的とし てた農地防災事業が実施中であり,対策工として丸栖地 写真① 写真② 地下水の流れ(想定) 被覆土 なし i <0.5 i ;裏のり尻近傍の基礎地盤の局所動水勾配の最大値 被覆土 あり G/W >1.0 G ;被覆土層の重量 W ;被覆土層基底面に作用する揚圧力 パイピング破壊(浸 透破壊)に対する 安全性 Fc=4,Gc=68 H.W.L. +26.897m Bg1(砂礫) Ag(砂礫) kP=8.23E-01 Bg2(砂礫) Acs(中間土) As(砂質土) +20.00m +25.00m +15.00m kM=1.51E-02 Bc(耕作土) ・Fc=55,Gc=24 ・Fc=21,Gc=20 ・Fc=11,Gc=59,D50=3 ・Fc=5,Gc=73,D50=9 ・Fc=6,Gc=8 ・Fc=9,Gc=49 ・Fc=14,Gc=50 ・Fc=7,Gc=56,D50=2 ・Fc=6,Gc=51,D50=2 N値 N値 平水位 +19.156m φ=41.4,c=11.0 γt2=20.3,γsat=21.3 層区分 飽和単位体積重量γsat(kN/m ) 内部摩擦角 φ(deg) 粘着力 c(kN/m ) 透水係数 k(cm/s) Bg1 3 2 (Bg2) 湿潤単位体積重量 γt(kN/m )3 (As) Ag Acs 0.0 34.6 - 20.0 現場にて水置換法により体積・単重を把握. 1.51E-02 粒度試験結果より帯水層と判断し,Ag層に含めてモデル化を行う. Bg1層と粒度分布および平均N値(平均N=10)が類似することから,同等の透水性・力学 特性を有すると判断し,Bg1層に含めてモデル化を行う. 1.00E-06 1.63E-01 L2.0k-2MSの現場 透水試験値 左岸下流地区の透水 試験結果から設定 貴志川下流地区の現 場透水試験平均値 20.3 21.3 1.0 41.1 礫分粒調試料の三軸試験結果(CD条件) L1.6k-2Sの室内試験結果から設定. 19.8 20.1 24.0 17.2 道路橋示方書(Ⅳ.下部構造編)に準拠 (手引き中のDunhamの式②に準拠)平均N値18から推定. 河川用地内・ ・ ・ OUT 堤内民地側・ ・ ・ OUT G/W=0.67<1.0→OUT G/W=0.77<1.0→OUT ih=0.52>0.5→OUT iv=0.42<0.5→OK 被覆土層 層厚T=2.0m 堤体盛土(Bg) 1.51E-01cm/sec 難透水層(Acs) 1.00E-06cm/sec 耕作土 1.00E-05cm/sec 透水層(Ag) 1.63E-01cm/sec 被覆土層 層厚T=2.3m 流速ベクトル区下流域で排水ポンプの設置が計画されており,ドレー ン排水量により,農地防災事業計画にどの程度影響を与 えるか把握する必要があった. c) 堤防裏法尻水路 堤防裏法尻には土地改良区のかんがい用水路が存在す るが,その運用はかんがい期のみであり,出水時には樋 門からの取水が停止されることから,法尻ドーレンから 排水する場合,水路規模に問題なければ利用可能と考え られた. (2) 対策工法の比較 当該対策工における対策工の決定にあたり,対策工の 抽出,選定を行った.第3案の遮水矢板工法は揚水ポン プ取水に影響を与えることから非選定とした.第1案の ドレーン工法は法尻部をバックホウにより床堀りを行う ため,ドレーン断面が大きくなり施工にあたっては相当 量の現況堤防の掘削が必要となる.一方,第2案のウェ ルドレーン工法はケーシングマシンで掘削するため,コ ストおよび施工性が大幅に改善されることから,当該箇 所における対策工として第2案のウェルドレーン工法を 採用した. 表-2 本検討における対策工の比較 (3) ウェルドレーン工法の構造 本工法は杭工法を応用し,オールケーシング掘削機に より掘削,排土した後に,図-4に示すウェルドレーンを 建て込むものである.ウェルドレーンの径は、オールケ ーシング掘削機での施工性及び堤体の安定性を考慮し、 掘削幅が過大にならないよう1.1mとした。 ウェルドレーンの深さとしては、地下水の通っている砂 礫層に十分に貫入させるために、砂礫層に50cm貫入させ る深さとした。 (4) ウェルドレーンピッチの算定 ウェルドレーンピッチの算定にあたっては図-7に示す モデルを作成し,三次元飽和-不飽和浸透流解析を行っ た.基礎地盤の帯水層の被圧水頭に着目して堤体部はモ デル化していない. 2本のウェルドレーンの中間点を圧力水頭の照査点と してG/W>1.0となるウェルドレーンピッチを算定し,20m ピッチのとき,上記照査基準を満足することを確認した. この時の砂礫層上面の圧力水頭を図-8に示す. 図-8 三次元解析による圧力水頭コンター図 案1 ドレーン工法 案2 ウェルドレーン工法 案3 遮水矢板工法 概 要 図 工 法 概 要 ドレーン工を透水性の高い砂礫層まで整備すること により、砂礫層の浸透による被圧(揚圧力)を低減す る工法。 案1のドレーン工と同様の機能を有する工法である が、堤防法線方向に間隔を設けて鉛直部ドレーン を設置する工法。 川側ののり面を不透水材で被覆し、矢板を不透 水層まで打ち込むことで遮水する工法。 メ リ ッ ト • 浸透による被圧を低減するため、噴砂が抑制さ れる。 • 平常時の河川水が堤内側へ供給される。 ‧ 浸透による被圧を軽減するため、噴砂が抑制さ れる。 • 平常時の河川水が堤内側へ供給される。 • 掘削重機は汎用機(ケーシングマシン)で対応 可能で、施工費は安価である。 • 堤内地側のパイピングにも効果が期待できる。 • 矢板と被覆により浸透を遮断するため、噴砂 が抑制される。 • 他案と比較して堤体の掘削が少ない。 デ メ リ ッ ト • 堤体を一部掘削する必要がある。 • 砂礫層が高透水10-1オーダ(cm/sec)のため他案 より排水量が大きくなる。 • 堤体を一部掘削する必要があるが、ケーシング マシンでの施工となるため、堤体への影響は比 較的小さい。 • 砂礫層が高透水10-1オーダ(cm/sec)のため他 案より排水量が大きくなる。 • 川から堤内側への水の供給が遮断される。 ・地下水流動への影響が大きい (堤内側に上水の水源ポンプ有) 礫層が厚く、透水層をすべて遮断しなければ 遮水効果が期待出来ない。 • 経済性で最も劣る。 評 価 ○ ◎ △ 案1 ドレーン工法 案2 ウェルドレーン工法 案3 遮水矢板工法 概 要 図 工 法 概 要 ドレーン工を透水性の高い砂礫層まで整備すること により、砂礫層の浸透による被圧(揚圧力)を低減す る工法。 案1のドレーン工と同様の機能を有する工法である が、堤防法線方向に間隔を設けて鉛直部ドレーン を設置する工法。 川側ののり面を不透水材で被覆し、矢板を不透 水層まで打ち込むことで遮水する工法。 メ リ ッ ト • 浸透による被圧を低減するため、噴砂が抑制さ れる。 • 平常時の河川水が堤内側へ供給される。 ‧ 浸透による被圧を軽減するため、噴砂が抑制さ れる。 • 平常時の河川水が堤内側へ供給される。 • 掘削重機は汎用機(ケーシングマシン)で対応 可能で、施工費は安価である。 • 堤内地側のパイピングにも効果が期待できる。 • 矢板と被覆により浸透を遮断するため、噴砂 が抑制される。 • 他案と比較して堤体の掘削が少ない。 デ メ リ ッ ト • 堤体を一部掘削する必要がある。 • 砂礫層が高透水10-1オーダ(cm/sec)のため他案 より排水量が大きくなる。 • 堤体を一部掘削する必要があるが、ケーシング マシンでの施工となるため、堤体への影響は比 較的小さい。 • 砂礫層が高透水10-1オーダ(cm/sec)のため他 案より排水量が大きくなる。 • 川から堤内側への水の供給が遮断される。 ・地下水流動への影響が大きい (堤内側に上水の水源ポンプ有) 礫層が厚く、透水層をすべて遮断しなければ 遮水効果が期待出来ない。 • 経済性で最も劣る。 評 価 ○ ◎ △ ▽洪水時水位 ドレーン工 堤脚水路 浸透(圧力伝播)イメージ ▽洪水時水位 ドレーン工 堤脚水路 浸透(圧力伝播)イメージ ▽洪水時水位 ウェルドレーン工 堤脚水路 浸透(圧力伝播)イメージ 水平ドレーン 鉛直ドレーン ▽洪水時水位 ウェルドレーン工 堤脚水路 浸透(圧力伝播)イメージ 水平ドレーン 鉛直ドレーン 浸透(圧力伝播)イメージ 矢板で浸透を遮断 被覆工 遮水矢板工 浸透(圧力伝播)イメージ 矢板で浸透を遮断 被覆工 遮水矢板工 図-7 三次元浸透流解析モデル 堤内側 堤外側 堤防下部 堤内地下部 ウェルドレーン の中心断面 堤防裏法尻ライン
5. 浸透対策工法の施工状況
ウェルドレーン工の施工手順は堤防裏法尻部に施工ヤ ードを掘削により確保し,オールケーシング掘削機によ り礫層まで掘削を行い,鉄筋カゴ組み立てたものを削孔 内に据え付け,ドレーン材を投入,間詰め材(砂)の充 填を行い,その後ケーシングを引き抜き,ウェルドレー ンを完成させる.その後ウェルドレーン上部に堤脚部の パイピングによる堤防破壊対策として水平ドレーン工法 を施工する.ウェルドレーン工は4本/日の割合で建て込 み可能であることから施工性についても他工法より優れ ていると言える. 写真-1 削孔および鉄筋カゴの据え付け(Step1) 写真-2 ドレーン材の充填(Step2) 写真-3 ケーシングの引き抜き(Step3) 写真-4 ウェルドレーン完成(Step4) 写真-5 水平ドレーン工設置(Step5)6. モニタリング計画
ウェルドレーン対策工の効果確認および設計方法の妥 当性確認を目的としてモニタリング調査を行う.モニタ リング項目は表-3に示す項目について実施する.図-10 に示すモニタリング実施位置は噴砂発生箇所近傍におい て計画した. 表-3 モニタリング項目一覧 図-10 モニタリング位置7. まとめ
紀の川水系貴志川における河川堤防を一事例として盤 ぶくれに起因する浸透破壊に着目し,その強化対策とし て近畿地方整備局管内で初めてウェルドレーン工法を適 用した.本検討で明からかになったことを列挙する. 分類 モニタリング項目 使用センサー 設置数量 適用 ・堤防横断方向における河川側堤防 内と堤内側法尻部での砂礫層内の被 圧水位の比較 ウ ェ ル ド レ ー ン の 効果確認と設計妥当 性確認 水位計 5 点×2 箇所(上 下流) ・ウェルドレーン延長方向における ドレーン間の砂礫層内の被圧水高さ 分布の確認 ウェルドレー ン 1 本 の ウ ェ ル ド レ ーンの排水能力確認 流量計 1 箇所 ウェルドレーン 1 本あたりの排水 量の確認 排水路 全 体 の ウ ェ ル ド レ ーンの排水能力確認 流量計 1 箇所 対策区間末端部での流量確認(1) 三次元の飽和-不飽和浸透流解析より,ウェルド レーンピッチにおける水頭低下量を算出した結 果,当該箇所において必要なピッチは約 20m と なることを確認した. (2) 対策工の比較検討より,貴志川丸栖地区の堤防 漏水対策として,ウェルドレーン工法は,掘削 機械に汎用機(ケーシングマシン)を用いるた め施工性,経済性に優れ,また特に維持管理の 必要性がないことから適していることを確認し た.