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サルコペニア 予防と改善

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Academic year: 2021

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理学療法学 第 40 巻第 8 号 580 サルコペニアとは  近年,老年学や栄養学,それに公衆衛生学など様々な分野で 国際的にも大きく注目されているのが,加齢に伴って筋量が減 少するサルコペニアである。サルコペニアの定義は未だ確定的 ではないものの,ヨーロッパのワーキンググループ(European Working Group on Sarcopenia in Older People: EWGSOP)が 報告したコンセンサス論文が一般的になりつつあり,ここで は筋量低下とパフォーマンス(握力もしくは歩行速度)低下 の両者を兼ね備えるものをサルコペニアと定義している1)(図 1)。筋量は四肢筋量を身長の 2 乗で除した値を採用する場合 が多く(skeletal muscle mass index: 以下,SMI;四肢筋量/ (身長 m)2),19 ∼ 40 歳という若年者の筋量が基準となり,適 正範囲を逸脱する場合(平均値マイナス 2 ×標準偏差)に筋量 低下と判定される。歩行速度は 1.0 m/sec が基準となり,握力 は男性 30 kg,女性 20 kg がそれぞれ基準となっている(日本 およびアジアの基準は明確になっておらずあくまで暫定的)。 筋量の計測方法としてもっとも適切といわれているのが二重エ ネルギー X 線吸収測定法(DEXA 法)であるが,被爆の問題 や限られた施設でのみの計測となってしまうなどの理由によ り,近年では生体電気インピーダンス法(BIA 法)も推奨さ れるようになってきた。我々は BIA 法によるデータベースを 構築しており,そこからは男性 < 6.75 kg/m2,女性 < 5.07 kg/ m2が筋量低下の基準値となった。EWGSOP のアルゴリズム に我々が算出した筋量低下の基準値をあてはめ,本邦の 65 歳 以上の一般高齢者のサルコペニア有症率を検討したところ,約 20%もの方がサルコペニアに該当していることがわかった。な お,年代別のサルコペニア有症率では,65 ∼ 74 歳までの前 期高齢者では 10%程度であるのに対して,75 ∼ 79 歳では約 25%,80 ∼ 84 歳までは約 40%,それに 85 歳以上では約 60% になることがわかった。この調査では,すべて日常生活が自立 している一般高齢者を対象としており,要介護認定を受けた者 を含めるとその割合はさらに増すことになる。 筋量減少のメカニズム  サルコペニア≒筋量減少の予防・介入を行うためには,その メカニズムを把握しておく必要がある。正常な筋でも日々蛋白 の合成と分解を繰り返しているが(筋代謝),加齢による影響 を受けて蛋白分解量が蛋白合成量を上回ってしまい,これが重 度化するとサルコペニアの状態となる。  このようにサルコペニアは筋代謝のバランス崩壊によって生 じることから,蛋白合成に作用するものと蛋白分解に作用する ものをそれぞれ理解する必要がある。蛋白の合成には,成長ホ ルモン,インスリン様成長因子(IGF-1),それにテストステロ ンといった内分泌系が関与している。なかでも IGF-1 は重要な 役割を担っており,成長ホルモンから分泌調整を受けるととも に,運動(レジタンス運動や有酸素運動)によって IGF-1 の分 泌量が増大する。事実,運動習慣を有している高齢者では IGF-1 が多いことが知られている2)。そして,この IGF-1 は筋サテラ イト細胞を増殖させることで筋蛋白の合成に寄与する。また, 蛋白合成に欠かせないものに栄養が挙げられ,特にアミノ酸と ビタミン D が筋蛋白合成に重要である。一方で,蛋白分解に関 与するものは炎症性サイトカインやステロイドホルモン,それ にグルカゴンである。ステロイドやグルカゴンは直接的に,炎 症性サイトカインはステロイドホルモンを介して間接的に蛋白 分解(異化)に寄与することが知られている。そして,このよ うな蛋白合成に関与するものは加齢に伴って減少し,蛋白分解 に関与するものは加齢に伴い増加するため,結果的に筋代謝バ ランスが崩壊しサルコペニアを惹起することになる(図 2)。 消費エネルギー量と摂取エネルギーのバランス  筋量を適切に維持するために運動と栄養の各要素が必要にな るが,そのバランスも重要であることがわかってきた。我々 は「消費エネルギー / 摂取エネルギー比(consumption intake ratio: CIR)」という指標を作成し,SMI との関連を調査した。 その結果,CIR が「1.0」を下回る摂取エネルギー量が充足して いる高齢者では SMI と CIR が正の相関関係にあったのに対し, CIR が「1.0」を上回り摂取エネルギー量が不足している高齢 者では SMI と CIR が負の相関関係になるという逆 U 字の関係 を認めた。CIR が「1.0」を下回る摂取エネルギー量が充足し ているタイプは運動量が多いほど筋量が増加しているという特 に違和感のない結果であるが,CIR が「1.0」を上回る摂取エ ネルギー量が不足しているタイプでは運動量が多いほど筋量が 理学療法学 第 40 巻第 8 号 580 ∼ 582 頁(2013 年)

サルコペニア 予防と改善

山 田   実

**

ランチョンセミナー

* Managing Sarcopenia ** 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 (〒 606‒8507 京都市左京区聖護院川原町 53)

Minoru Yamada, PT: Human Health Sciences, Graduate School of Medicine, Kyoto University

キーワード:サルコペニア,疫学,介入

Japanese Physical Therapy Association

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サルコペニア 予防と改善 581 減少しているというイレギュラーな結果となっている。このイ レギュラーな現象は筋の異化作用,つまり筋蛋白を分解してエ ネルギー源とする作用で説明できる。  ヒトは激しい運動や身体的ストレスを感じると,副腎皮質よ りコルチゾールが分泌され,筋蛋白を分解する。このコルチ ゾールは TNF-α等の炎症性サイトカインによって増強される こともわかっている。一方,空腹・飢餓状態となり血糖値が低 下することで,膵臓よりインスリンと拮抗作用を有するグルカ ゴンが分泌される。グルカゴンは中性脂肪の燃焼に関与すると ともに,筋蛋白に対しては分解作用を有している。また,グル カゴンの分泌はコルチゾールによって促進されることから,激 しい運動や身体的ストレス,それに空腹環境下では筋の異化作 用が進むことが考えられる。このような生理学的背景によっ て,CIR が「1.0」を上回っているタイプの方は筋の異化が生 じていると考えられる。  このように,摂取エネルギーと消費エネルギーの適切なアセ スメントを行い,そのバランスを調整することが重要であり, 基本的には運動量を増やすように指導を行いながら摂取エネル ギーを適切にコントロールしていくことが望まれる。 サルコペニアに対する理学療法介入  筋量を増加させるためには筋力トレーニングがもっとも有用 である。しかし,筋量減少のメカニズムや CIR を参考にする と理解できるように,筋力トレーニングだけではその効果は不 十分である。筋力トレーニングの効率を高めるためには,適切 な栄養摂取が不可欠となり,近年ではサルコペニアの予防・改 善のためには運動と栄養のコンビネーション介入がもっとも有 用であるという報告がなされるようになってきた。たとえば, 図 1 EWGSOP が提唱したサルコペニアのアルゴリズム 生体電気インピーダンス法を用いた独自のカットオフポイントを利用. 文献 1)から引用改変. 図 2 筋代謝のイメージ 蛋白合成が低下し,蛋白分解が進むとサルコペニアになる.

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理学療法学 第 40 巻第 8 号 582 筋力トレーニングに加えて通常よりも多く栄養を摂取させるこ とが下肢筋力の向上に有用であったことや3),筋力トレーニン グに蛋白質補充を行うことが筋肉量増加に関与すること4)な どが報告されている。さらに Kim らは運動とアミノ酸摂取の 組み合わせによって筋量増加効果が認められることや5),運動 とカテキンの組み合わせによって筋量増加効果を認めることな どを報告している6)。  我々は筋量が低下した虚弱高齢者を対象に,週に 3 回の頻 度で 3 ヵ月間にわたって,レジスタンストレーニング+栄養 サポート(S/Ex 群),レジスタンストレーニング(Ex 群)の 2 群間の比較対照試験を行った7)。両群に共通するレジスタン ストレーニングの内容は,四肢・体幹の主要な筋群に対して 10 RM の負荷量でトレーニングを実施するというものである。 S/Ex 群に対してのみ実施した栄養サポートは高蛋白(10 g, うち分岐鎖アミノ酸 2,500 mg)・高ビタミン D(12.5 μg)含有 の栄養補助飲料を週に 3 回のレジスタンストレーニングの直 後に摂取するというものである。その結果,Ex 群では 3 ヵ月 間の介入によって SMI が改善しなかったのに対して,S/Ex 群 では有意に四肢筋量(身長補正値)の増加を認めた(4.62 ± 0.87 kg/m2→ 4.87 ± 0.99 kg/m2,5.5%増加)。さらに介入終了 後 6 ヵ月間の転倒発生を追跡したところ,S/Ex 群では 22.8%, Ex 群では 48.6%の転倒発生率となり,S/Ex 群で有意に転倒抑 制の効果が認められた。S/Ex 群では,筋量増加や運動機能改 善によって転倒抑制効果が認められたことになるが,けっして 特別なトレーニングプログラムが提供されたわけではない。両 群間での相違は栄養補助を行うか否かという点であり,筋量が 増加せず転倒抑制効果も認められなかった Ex 群においても栄 養補助を行うことでポジティブな効果が得られるものと考えら れる。換言すれば,虚弱高齢者においては,それほど蛋白質等 の栄養補給が不十分となっている可能性があり,虚弱高齢者に 運動指導を行う際には栄養指導も併用する必要性があることが 示唆された。  ただし,一般高齢者のように通常の食事から適切に栄養摂取 ができている場合には,特別な栄養補助を行わなくとも筋量は 増加することを確認している。そのため,前述したように,ま ずは栄養摂取状況を適切に把握し,通常の食事からの栄養摂取 ではどうしても不足してしまうという場合においてのみ,栄養 補助も検討していく必要があるだろう。 おわりに  理学療法の対象となる高齢者の多くは,各種疾患の背景にサ ルコペニアを有していることが多く,サルコペニアのメカニズ ムを適切に理解し予防・改善していくことが求められる。筋量 を増加させるためには,レジスタンストレーニングに加えて栄 養サポートを行うことが重要であり,特に虚弱高齢者では栄養 摂取状態が不良となっている可能性が高く注意が必要である。 また,独居や高齢者世帯といった基本的な属性,生鮮食料品店 までのアクセスビリティーなどといった社会的因子も栄養摂取 や運動習慣に大きく影響を与えることから,このような背景を 十分に考慮した指導が求められるだろう。サルコペニアのマ ネージメントは,正に多職種間での連携が必須であり,それぞ れの専門性を活かしながら情報の統合を行っていくことが求め られる。 文  献

1) Cruz-Jentoft AJ, Baeyens JP, et al.: Sarcopenia: European consensus on definition and diagnosis: Report of the European Working Group on Sarcopenia in Older People. Age Ageing. 2010; 39: 412‒423.

2) Tissandier O, Péres G, et al.: Testosterone, dehydroepi-androsterone, insulin-like growth factor 1, and insulin in sedentary and physically trained aged men. Eur J Appl Physiol. 2001; 85: 177‒184.

3) Scognamiglio R, Avogaro A, et al.: The eff ects of oral amino acid intake on ambulatory capacity in elderly subjects. Aging Clin Exp Res. 2004; 16: 443‒447.

4) Verhoeven S, Vanschoonbeek K, et al.: Long-term leucine supplementation does not increase muscle mass or strength in healthy elderly men. Am J Clin Nutr. 2009; 89: 1468‒1475. 5) Kim HK, Suzuki T, et al.: Effects of exercise and amino acid

supplementation on body composition and physical function in community-dwelling elderly Japanese sarcopenic women: a randomized controlled trial. J Am Geriatr Soc. 2012; 60: 16‒23. 6) Kim H, Suzuki T, et al.: Eff ects of exercise and tea catechins on

muscle mass, strength and walking ability in community-dwelling elderly Japanese sarcopenic women: A randomized controlled trial. Geriatr Gerontol Int. 2012 [Epub ahead of print].

7) Yamada M, Arai H, et al.: Nutritional supplementation during resistance training improved skeletal muscle mass in community-dwelling frail older adults. Journal of Frailty & Aging. 2012; 1: 64‒70.

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参照

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