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リプロダクティブ・ヘルス/ライツは私たちに何を問いかけているか

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J. Jpn. Acad. Mid., Vol. 12, No. 2, pp. 5-11, 1999. 1

特 別 寄 稿

リ プ ロ ダ ク テ ィ ブ ・ヘ ル ス/ラ

イ ツ は

私 た ち に何 を 問 い か け て い る か

Reproductive Health/Rights

- Future

Challenges

in Japan

由利子 (Yuriko ASHINO) *

は じ め に 1998年 に入 り 「カ イ ロ+5(ブ ラス フ ァイ ブ)」 とい う言 葉 が 家 族 計 画 そ の他 の 関係 者 の 間 で し き りに聞 か れ る よ う に な っ た。1999年 が カ イ ロで 開 か れ た 国 際 人 口開 発 会 議(通 称 カ イ ロ会 議)か ら 5年 目 に 当 た るた め,こ の間 の総 活 を し よ う とい う国連 の 呼 び か けで あ る。 そ の 目 的 に沿 っ て,99 年2月 に は オ ラ ン ダ でNGO(非 政 府 組 織)や 国 会 議 員,政 府 間 の 国 際 会 議 が 開 か れ,6月 に は 国 連 特 別 総 会 も開催 され る。 そ こで 本 稿 で は,リ プ ロ ダ ク テ ィ ブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツの 基 本 理 念 を改 め て確 認 し,カ イ ロ 会 議 以 降 の 日本 の 動 き を振 り返 りな が ら今 後 の課 題 を考 えて み た い。 カ イ ロ会 議 は,世 界 の人 口 と開 発 の 問 題 を考 え 行 動 計 画 を作 成 す る た め の 国連 会 議 で あ るが,リ プ ロ ダ ク テ ィ ブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ や 女 と男 の 平 等,女 性 の エ ン パ ワ ー メ ン ト(社 会 ・経 済 ・政 冶 ・法 津 な ど あ ら ゆ る 面 で 女 性 が 力 を つ け る こ と)を キ ー ワ ー ドに した点 で大 き く注 目さ れ た 。 これ は,途 上 国 の トッ プ ダ ウ ンの人 口抑 制 政 策 が 見 直 され,カ ップ ル と個 人,特 に女 性 の人 権 と健 康 とい う ミク ロ の視 点 を重 視 す る新 し い流 れ が生 まれ た 結 果 で あ る。 この 流 れ は第4回 世 界 女 性 会 議(通 称,北 京 会 議,北 京 ・1995)に 引 き 継 が れ,そ こで 採択 され た 「行 動 綱 領 」 で は,リ プ ロ ダ クテ ィブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツが 女 性 の 人 権 と して 明 確 に うた わ れ た。 これ らの 会 議 に呼 応 し て,日 本 に も新 しい動 きが み られ る。 その い くつ か を あ げ る と次 の とお りで あ る。 [政 府]● 生 涯 を 通 じ た 女 性 の 健 康 支 援 事 業 (1996-):厚 生 省 児 童 家 庭 局 母 子保 健 課 の 新 規 事 業 ● 「男 女 共 同参 画 ビジ ョ ンー21世 紀 の 新 た な価 値 の創 造 」(男 女 共 同 参 画 審 議 会,1996): リプ ロ ダ ク テ ィブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ の普 及 に言 及 ● 「男 女 共 同 参 画2000年 プ ラ ン」(男 女 共 同 参 画 推 進 本 部,1996):リ プ ロ ダ ク テ ィ プ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ の 推 進 に 言 及 ● 「厚 生 白 書 」 (1998):リ プ ロ ダ ク テ ィ ブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ の 重 要 性 に言 及 。 [国 会]● 「母 体 保 護 法 」(優 生 保 護 法 の 一 部 改 正 法)成 立(1996):同 法 成 立 時 に参 議 院 で リ プ ロ ダ ク テ ィ ブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ を盛 り込 ん だ 附 帯 決 議 を採 択 ●旧 優 生 保 護 法15条(受 胎 調 節 実 地 指 導 員 の 資 格 に関 す る時 限 つ き条 項)延 長 時 に参 議 院 で リプ ロダ クテ ィ ブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ を盛 り込 ん だ 附 帯 決 議 を採 択(1995)。 *日本家族計画連盟事務局長

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リプ ロ ダク テ ィブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ は私 た ち に何 を問 い か け てい るか [NGO]● 政 府 との対 話 の 促 進(例 ・NGOと 外 務 省 の連 絡 会 議)● 女 性 の か らだ と性 ・健 康 に 取 り組 む 女 性 グル ー プ/ネ ッ トワー クの 増 加 。 政 府,国 会 の 動 き は ま だ 十 分 な も の で は な い が,次 の 大 き な変 化 に つ なが る一 歩 と して 期 待 し た い 。 Iリ プ ロ ダ ク テ ィ ブ ・ヘ ル ス/ ラ イ ツ の 意 味 す る も の カ イ ロ会 議 以 降,リ プ ロ ダ ク テ ィブ ・ヘ ル ス/ ラ イ ツ(正 確 に は リ プ ロ ダ ク テ ィ ブ ・ヘ ル ス= reproductivehealthと リプ ロ ダ ク テ ィ ブ ・ラ イ ツ=reproductive rights)と い う 言 葉 は,助 産 婦 は じ め保 健 ・医 療 関 係 者 の 間 で もか な り知 られ る よ う に な っ て きた 。 た だ,そ の 内容 は十 分 理 解 され て い る とは い い に くい。 一 般 に使 わ れ る 「性 と生 殖 の 健 康/権 利 」 とい う 日本 訳 もわ か りや す い とは い え な い。 リプ ロ ダ ク テ ィブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツの 基 本 理 念 を考 え る と,む し ろ 「女性 の 健 康 と権 利 」 あ る い は 「生 涯 に わ た る女性 の健 康 とか らだ と性 に関 す る女 性 の 権 利(自 己 決 定 権)」 と い い切 っ た ほ うが よ り適 切 な よ う に思 え る。 いず れ に せ よ,重 要 な の は リ プ ロ ダ ク テ ィ ブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ が何 を意 味 す るか を正 確 に把 握 し,カ タ カ ナ語 を使 わ な く と も 自分 な りの 言 葉 で 説 明 で きる こ とで あ る。 惰 報 や サ ー ビス を提 供 す る助 産 職 に とっ て,そ の こ と は特 に重 要 と思 わ れ る。 リプ ロ ダ クテ ィブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ を理 解 す る に は,① 権 利 と して の健 康,② 社 会 的 ・文 化 的 に つ くられ た性 差(ジ ェ ン ダ ー),③ ラ イ フ サ イ ク ル,と い う3つ の視 点 が 重 要 で あ る.そ れ ぞ れ の 意 味 す る と こ ろ は次 の とお りで あ る。 ① 性 と生 殖 (産 む ・産 ま な い ・産 め な い)は,歴 史 的 に宗 教 や 人 口政 策,男 性 中 心 の 道 徳 な ど に よ っ て管 理 ・支 配 され て きた 。 しか し,性 と生 殖 に関 す る こ とは 個 人,特 に妊 娠 す る機 能 を もつ女 性 の健 康 の 問題 で あ り,基 本 的 権 利 と し て 保 障 さ れ る べ きで あ る。 ② 女 と男 の 生 物 的 違 い に対 し,社 会 的 ・文 化 的 に つ くられ た性 差(ジ ェ ン ダ ー)は 女 性 を社 会 的 弱 者 に す る要 因 に な っ て い る。 女 と男 の平 等 な しに,女 性 が 真 に 自分 の か らだ の 主 人 公 に な る こ とは で きな い。 ③ 女 性 は妊 娠 ・出 産 す る と きだ け 女 な の で は な い。 女 性 の 健 康 は生 涯 を通 して保 障 さ れ るべ きで あ る。 これ で わ か る よ うに,リ プ ロ ダ クテ ィ ブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ は母 子 保 健 や 家 族 計 画,母 性 保 健 よ り 広 い概 念 で あ る。 した が っ て そ こ に は,妊 娠 ・出 産 の調 節(避 妊,不 妊 手 術,人 工 妊 娠 中 絶)や 母 子 保 健 を は じ め,不 妊,性 感 染 症,HIV/エ イ ズ,女 性 特 有 の 病 気,生 殖 器 系 の が ん,乳 が ん, 思 春 期 ・更 年 期 ・老 年 期 の 問題,性 暴 力,買 売 春, 女 性 性 器 切 除(FGM)*な どの 有 害 な 因 習 的 慣 行 が 含 まれ る。 前 記 ② の視 点 が な け れ ば,性 暴力 や 買 売 春 が 女 性 の 健 康 と権 利 の 問 題 と して取 り上 げ られ る こ と は難 しか っ た ろ う。 *ア フ リカや 中近 東,ア ジア の一 部 で 行 わ れて い る 慣 習 。女 性 性器 の一 部 また は全 部 を切 除 す る こと で,世 界 で1億3千 万 以上 の女 児 や女 性 が犠 牲 に な って いる。FGMは 女性 に対 す る暴 力 と健康 破壊 で あ り,廃 絶 の た めの 運 動 が 国 連 やNGOに よ っ て推 進 され て い る。 か つ て の 「女 性 の 割 礼」 とい う表現 は間違 いで ある。 性 と生 殖 に関 す る健 康 課 題 は男 性 に もあ るが, そ の 重 要 性 は図1が 示 す よ う に「 女 性 」 の場 合 比 較 に な ら な い ほ ど大 きい 。 それ は,前 述 の 生物 的 性 差 に加 え,ジ ェ ンダ ー に よ る性 差 別 が あ るた め だ 。 日本 は 途 上 国 に比 べ 恵 ま れ て い る面 は多 い が,雇 用 や 政 策 決 定 の 場 の 男 女 の 不 平 等,「 女 は 家 庭,男 は仕 事 」 と い う性 別 役 割 分 業,根 強 い 「母 性 神 話 」,男 性 中心 の性 規 範,女 性 に対 す る暴 力,商 品 化 され る女 の性 な ど,女 性 が 構 造 的 「弱 者 」 で あ る とい う本 質 的 問 題 は変 わ ら な い。 と こ ろ で,「 健 康 」 と は,WHO(世 界 保 健 機 関)に よ っ て 「単 に病 気 や 障 害 が な い こ とで は な く,身 体 的 ・精 神 的 ・社 会 的 に完 全 に良 好 な状 態 (wel1-being)に あ る こ と」 と定 義 され て い るが, この 定 義 で は病 人 や 障 害 者 は 「不 完 全」 で 劣 る者 と解 釈 され る恐 れ が あ る。 そ こで 本 稿 で は,健 康 を 「病 気 や 障 害 の 有 無 に か か わ らず,そ の 人 な り に よ り良 い状 態 で 自立 的 に生 き られ る状 態 に あ る こ と」 と解 釈 した い 。 6 日本 助産 学 会 誌 第12巻 第2号(1999.1)

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リプ ロダ クテ ィブ ・ヘ ルス/ラ イ ツ は私 た ち に何 を問 いか けて い るか 図1リ プ ロダ ク テ ィ ブ ・ヘ ル ス の は か り II 産 む ・産 ま な い ・産 め な い を め ぐ る 日 本 の 課 題 す で に み た よ うに,リ プ ロダ クテ ィ ブ ・ヘ ル ス に含 まれ る課 題 は広 範 囲 で あ る。 そ こで こ こで は 助 産 婦 に深 くか か わ る課 題 と して,産 む ・産 ま な い ・産 め な い を中 心 に考 え て み た い 。 1。 産 む こ と をめ ぐる課 題 最 近 あ る女 性 か ら,出 産 時 の 医 師 の対 応 に傷 っ け られ,い ま だ に そ の 負 の 経 験 を 引 きず っ て い る,そ れ が 原 因 で長 い 間 子 ど もが か わ い く思 えな か った とい う話 を聞 い た。 た しか に,子 ど もが 無 事 生 まれ れ ば めで た しで 済 まさ れ が ち な の が 私 た ち の社 会 で あ る。 戦 後,自 宅 分 娩 の ほ とん ど は施 設 分 娩 へ と移 行 し,出 産 の安 全 性 は大 幅 に 向 上 し た 。 そ の反 面,女 性 の か らだ は 医 師 の管 理 下 に置 か れ,い わ ば 「産 ま され る」 お産 が増 えた 。 こ う した 状 況 へ の批 判 か ら,自 宅 や 助 産 院 で の 出 産 を 希 望 し,夫 の立 ち会 い分 娩,ラ マ ー ズ 法,座 位 分 娩 な ど を試 み る女 性 た ちが 現 れ る よ うに な った 。 もち ろ ん,い た ず らに 自宅 出産 に走 るの は危 険 だ が,産 む当 事 者 とし て納 得 で きる お産 を した い と い う女 性 た ち の 模 索 は,「 産 ま され る」 現 場 を改 善 す る上 で 一 つ の 力 に な る だ ろ う。助 産 婦 が そ こ

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リプ ロダ クテ ィブ ・ヘ ルス/ラ イ ツは私 た ち に何 を問 い か けて い るか

表1避 妊法別割合の各国比較 (%)

出 典)オ ラ ン ダ:Central Bureau for Statistics(18-42歳 の 女 性) 西 欧:International Health Faundatian(15-45歳 の 女 性) 米 国:Alan Guttmacher Institute(15-44歳 の 女 性)

日 本:「 第24回 全 国 家 族 計 画 世 論 調 査 」(16-49歳 の 既 婚 女 性)毎 日 新 聞,1998年 で 果 た す 役 割 は大 き い。 産 む こ との 課 題 に妊 産 婦 死 亡 率 が あ る。 日本 の 場 合,妊 娠 ・出 産 に関 連 した 女 性 の死 亡 率 は途 上 国 に比 べ れ ば は るか に低 いが,先 進 国 の 中 で は ま だ 高 い ほ う に入 る。 この 問 題 に関 して は 緊 急 医療 体 制 な どの 改 善 が 必 要 で あ る。 2.産 まな い こ と をめ ぐる課 題 1)避 妊:産 まな い 選 択 に は避 妊 と不 妊 手 術,人 工 妊 娠 中 絶 が あ る。 避 妊 に つ い て い え ば,先 進 国 の 中 で 日本 ほ ど選 択 肢 の少 な い 国 は な い(表 1)。 避妊 し て い る カ ッ プ ル の 約8割 が コ ン ド ー ム使 用 とい うの は その た め で あ る。 リプ ロダ クテ ィブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ の核 に は産 む ・産 ま な い の 選 択 が あ るが,そ の実 現 に避 妊 法 は不 可 欠 だ 。 コ ン ドー ム の 欠 点 は男 性 に依 存 しな け れ ば な らな い こ とで あ る。 したが っ て,女 性 の意 思 で使 え る低 用 量 ピル(経 口避 妊 薬)も 選 択 肢 の一 つ と して 認 め られ るべ きで あ る。 す で に20 万 人 以 上 の 女 性 が 中 ・高 用 量 ピ ル を避 妊 に転 用 して い る事 実 もあ る。 ピル の副 作 用,男 性 の避 妊 責 任,性 感 染 症/エ イズ 予 防 の た め の コ ン ド ー ム との併 用 な ど教 育 ・情 報 の徹 底 は もち ろ ん 大 切 だ。 ピル 認 可 は,副 作 用,女 の性 道 徳 の乱 れ,エ イ ズ拡 大 の 恐 れ,内 分 泌 か く乱 化 学 物 質 (い わ ゆ る「環 境 ホ ル モ ン」)と の 関 係 な どが 指 摘 され るた び に延 期 され,す で に30余 年 が た っ て し ま った 。 一 つ の薬 の 認 可 を め ぐ り,こ れ ほ ど長 い 時 間 が か か る の は 異 常 とい うほ か な い。 本 稿 執 筆 の 時 点 で も な お 先 行 き は 不 透 明 で あ る。 女 性 の 選 択 の 権 利 と して 改 め て ピル 認 可 の 必 要 性 を 強 調 し た い。 2)不 妊 手 術:不 妊 手 術 は母 体 保 護 法(優 生 保 護 法 の一 部 改 正 法,1996>で 許 可 条 項 が 規 定 され て い る。 そ の 内 容 は女 性 の健 康 また は生 命 に危 険 が あ る場 合 で あ る。 旧 優 生 保 護 法(1948-1996)の 目 的 の 一 つ は 「不 良 な 子 孫 の 出 生 防 止 」 に あ り,不 妊 手 術 は優 生 手 術 と呼 ば れ,本 人 の意 思 を無 視 した 強 制 不 妊 手術 も認 め られ て いた 。 これ ら障 害 者 差 別 の優 生 的 条 項 は,優 生 保 護 法 とい う名 前 と と もに1996年 の 母 体 保 護 法 成 立 時 に す べ て 削 除 され た。 しか し,強 制 不 妊 手 術 の被 害 者 に対 す る政 府 の 謝 罪 は一 切 な く, 市 民 グ ル ー プ か ら被 害 者 へ の 謝 罪 と補 償 を求 め る動 きが 起 きて い る。 3)人 工 妊 娠 中絶:中 絶 は現 在 も,刑 法 の堕 胎 罪 (1880,1907に 改 訂)で 理 由 に か か わ ら ず 犯 罪 とされ る。 い い か えれ ば,こ れ は 出産 強 制 法 で あ る。 処 罰 対 象 は女 性 と医 師 の み で,妊 娠 させ た 男 性 は一 切 罪 に問 わ れ な い 。 戦 後,中 絶 は優 生 保 護 法 で 条件 付 き合 法 とな り,女 性 は と りあ えず は堕 胎 罪 の 恐 怖 か ら解 放 され た。 中 絶 に も 8 日本 助産 学 会誌 第12巻 第2号(1999.1)

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リプ ロ ダ クテ ィブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ は私 た ち に何 を問 いか け て い るか 優 生 的許 可 条 項 が あ っ た が,そ れ は前 記 の 経 緯 で 削 除 さ れ た。 現 在 中 絶 の 許 可 条 項 は,① 医 学 ・経 済 的 理 由,② 強 姦 に よ る妊 娠 の 場 合,で あ る。 この ほか 次 の要 件 も満 た す 必 要 が あ る。 ① 医 師 の 認 定,② 原 則 と して配 偶 者 の 同 意,③ 妊 娠 満22週 未 満 。 出 産 強 制 法 と もい え る堕胎 罪 は,女 性 の リプ ロ ダ ク テ ィ ブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ を根 底 か ら否 定 して い る。 し たが っ て堕 胎 罪+母 体 保 護 法 とい う法 制 度 は 撤 廃 し,女 性 の 意 思 を 尊 重 した 新 し い 法 津 (例 避 妊 ・不 妊 手 術 ・人 工 妊 娠 中絶 法)の 制 定 が 必 要 で あ る。 と ころ で,「 胎 児 条 項 」(出 生 前 診 断 に よ り,胎 児 に障 害 や 病 気 が あ る場 合 は 中 絶 を許 可 す る 条 項)を 母 体 保 護 法 に導 入 しよ う とい う動 きが,い ま医 師 な どの 間 に起 き て い る。 厚 生 省 の 審議 会 も これ を検 討 して い る。 しか し,国 が胎 児 条項 を認 め る こ と は,生 まれ て くる生 命 の 質 に優 劣 をつ け た 旧優 生保 護 法 時 代 へ の逆 戻 りで 問題 で あ る。 い た ず ら に妊 婦 の 不 安 を煽 る よ うな 出 生 前 診 断 の 応 用 に も問 題 が あ る。 そ こで,後 述 す る よ う に出 生 前診 断 に関 す る抑 制 的 な ル ー ル が 必 要 だ ろ う。 同 時 に,時 間 はか か っ て も障 害 を もつ 人 が 社 会 参 加 で き る環 境 つ く りが必 要 だ 。 障 害 者 の い る風 景 が ご く日常 的 に なれ ば,偏 見 や 差 別 も減 るの で は な い だ ろ うか 。 3.産 め な い こ と をめ ぐる課 題 女 は産 むべ き もの とい う価 値 観 の 強 い社 会 で, 不妊 の 女 性 は夫 の家 族 や 周 囲 か ら多 大 な プ レ ッシ ャー を受 け て い る。 した が って,産 め な い問 題 を 考 え る と き,「 女=母 」 とい う価 値 観 の 問 い 直 し が 基 本 的 に必 要 で あ る。 それ は,不 妊 の ま まの私 を生 き る とい う選 択 が しや す くな る よ うな社 会 環 境 をつ くる こ とで あ る。 た だ 現 実 に は,す で に多 くの 女性 が 心 身 の 負担,経 済 的 負 担 を抱 え な が ら も不 妊 治 療 を受 け て お り,そ の 選 択 を全 面 的 に否 定 す る こ とは で きな い だ ろ う。 そ こで問 われ な け れ ば な らな い の は,不 妊 治 療 の 現 場 で どれ だ け イ ン フ ォー ム ド ・コ ンセ ン ト/チ ョイ スが 実 施 され て い る か とい う問 題 で あ る。 同 時 に,次 々 に 開発 さ れ応 用 され る先 端 生 殖 技 術 を ど こ まで許 容 す る か も問 わ れ るべ きで あ る。 例 え ば,排 卵 誘 発 剤 の 多 用 に よ る多 胎妊 娠 の 増 加 とそ の一 部 を 「中絶 」 す る減 数(減 胎)手 術 につ い て是 非 を め ぐ る議 論 が あ るが,こ の よ う に新 た な技 術 の応 用 は新 た な 問題 を生 む 。 こ う した 生 命 倫 理 上 の諸 問題 に ど う 対 処 して い くべ きか,次 に考 えた い。 4.先 端 生 殖 技 術 をめ ぐる課 題 人 工授 精 や体 外 受 精 は性 交 な しの妊 娠 を可 能 に した 。 そ こか ら さ ら に さ ま ざ ま な先 端 生 殖 技 術 が 開 発 ・応 用 され,そ の 結 果,遺 伝 子 上 の親 ・産 み の親 ・育 て の 親 の 分 断 や 精 子 銀 行,代 理 母 へ の金 銭 報 酬,死 者 の 凍 結 精 子 の 使 用 な ど新 た な 問題 が 生 じ る よ う に な った 。 これ らは,生 まれ た子 ど も の人 権 に もか か わ る問 題 で あ る。 動 物 の世 界 で は す で に ク ロー ン牛 や ク ロ ー ン羊 が 誕 生 し,ク ロ ー ン人 間 の 誕 生 も技 術 的 に は 可 能 とい わ れ る。 一 方,胎 児 の 出 生 前 診 断 や 受 精 卵 の遺 伝 子 診 断 も 次 々 に研 究 され 実 施 され て い る。 生 殖 技 術 と生 命 倫 理 に関 す る法 律 を制 定 した 西 欧 と違 い,ア メ リ カで は生 殖 医 療 が ビ ッグ ・ビジ ネ ス に まで な って い る。 日本 で は これ らの技 術 の す べ て が 実施 され て い るわ け で は な いが,歯 止 め の な い状 態 は問 題 で あ る。1998年 に は,非 配 偶 者 間 の体 外 受精 が 行 わ れ て い る こ とが 報 道 さ れ論 議 を呼 ん だ 。 先端 生 殖 技 術 を す べ て 否 定 す る こ と は非 現 実 的 だ ろ う が,胎 児 条 項 の問 題 で も触 れ た よ うに,こ れ ら技 術 は生 命 の質 の選 別 を可 能 に し優 生 思 想 を強 化 す る危 険 を は らん で い る。 また,選 択 の 幅 が 増 え た よ うで 実 は技 術 へ の 依 存 度 が 増 し,「 不 妊 治 療 を しな い 」 「出生 前 診 断 を 受 け な い 」 とい う選 択 を ます ます 困難 に して い る。 そ の こ と は多 様 な生 き 方,多 様 な あ り方 を否 定 す る こ と に もつ な が る。 先 端 生 殖 技術 の抑 制 的 ル ー ル の検 討 が急 務 で あ る。 III そ の 他 の 課 題 と制 度 ・意 識 の 改 革 1.か らだ と性 の 相 談 所 海 外 に は,家 族 計 画 セ ン タ ーや 女 性 健 康 セ ン タ ー の よ うな相 談施 設 を政 府 が 援 助 して い る国 が 数

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リプ ロ ダ クテ ィブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ は私 た ち に何 を問 いか けて い るか 多 くあ る。 日本 で もか らだ や性 に 関 す る情 報 ・カ ウ ンセ リン グ ・手 段 な ど包 括 的 な サ ー ビ スが 気 軽 に得 られ る相 談 施 設 の充 実 が 望 まれ る。 そ の運 営 は国 が 直 接 行 う よ り民 間委 託 の ほ うが 望 ま し い と 考 え る。 2.厚 生 行 政 政 府 は西 暦2001年 を 目標 に 省 庁 の 再 編 成 を検 討 し て い る が,こ の機 会 に 従 来 の母 子保 健 偏 重 の 体 制 を見 直 し,生 涯 に わ た る女性 の 健 康 を管 轄 す る 女 性 保 健 課 の よ うな 専 門部 署 を創 設 す る こ とを提 案 した い。 3.教 育 1)性 教 育:女 と男 の対 等 な 関 係 とか らだ と性 の 自己 決 定 権,セ ク シ ュア リテ ィの 多様 性 を尊 重 す る性 教 育 の普 及 が必 要 で あ る。 それ は互 い に尊 重 し責 任 あ る行 為 の とれ る個人 を育 て る こ とで もあ る。 2)保 健 ・医 療 専 門 家 の養 成:保 健 婦(士),助 産 婦,看 護 婦(士),養 護 教 員,医 師 な ど,保 健 ・ 医 療 の提 供 者 に対 す る教 育,例 え ば母 性 の 健 康/ 母 子 保 健 偏 重 の カ リ キ ュ ラム の 見 直 し な どが 必 要 と思 わ れ る。 最 も基 本 的 な 課 題 として,患 者 や 相 談 者 が イ ン フ ォー ム ド ・コ ンセ ン ト/チ ョイ ス を 行 使 で き る よ う,医 者 や 保健 従 事 者 に は,当 事 者 の 自由 意 思 を尊 重 し,十 分 な情 報 を提 供 す る姿 勢 と責 任 を期 待 した い 。 4.性 感 染 症,HIV/エ イ ズ 若 い 世 代 の間 に淋 病 や ク ラ ミ ジ ア な ど性 感 染 症 が 増 加 し て い る。 異 性 間 の性 的 接 触 に よ るHIV /エ イ ズ も増 え て い る。 政 府 は,感 染 者 の人 権 尊 重 に配 慮 した 性 感 染 症 ・HIV/エ イ ズ 予 防 対 策 を 早 急 に強 化 す べ き で あ る。HIV/エ イ ズ 予 防 は ピル に 責 任 転 嫁 して済 む 問 題 で は な い 。 5.女 性 に対 す る暴 力 近 年,女 性 グ ル ー プ や 東 京 都 の 調 査 な ど に よ り,夫 や 恋 人 に よ る暴 力(ド メ ス テ ィ ッ ク ・バ イ オ レ ン ス),職 場 や 学 校 で の セ ク シ ュ ア ル ・ハ ラ ス メ ン トの 実 態 が 徐 々 に 明 らか に さ れ て きた。 少 数 な が ら女 性 た ち に よ りシ ェル タ ー も設 け られ る よ うに な った 。 こ う した活 動 に対 す る政 府 の支 援 策 が望 まれ るが,他 方,女 性 に対 す る暴 力 禁 止 法 の よ うな 法 制 度 の確 立 も必 要 で あ る。 女 性 議 員 が 中 心 に な り,1998年 の 国会 に児 童 買 春 ・児 童 ポ ル ノ 禁止 法 案 が 提 出 さ れ た こ と は注 目 に値 す る。 6.雇 用 と性 別 役 割 分 業 日本 の 場 合,理 想 子 ど も数 は実 数 よ りわ ず か で は あ るが 多 い。 つ ま り産 み た いが 産 め な い とい う 表2妻 が理 想子 ど も数 を もたな い理 由 (%) 資料)国 立社会保障 ・人口問題研究所 「第11回出生動向基本調査」1997 調査対象 は50歳未満の妻 10 日本助 産 学 会誌 第12巻 第2号(1999.1)

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リプ ロ ダ クテ ィブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツは私 た ち に何 を問 いか けて い るか 状 況 が あ る の だ。 産 め な い理 由 で 上 位 を 占 め るの は経 済 的 負 担(特 に教 育 費)や 育 児 の 精 神 的 ・身 体 的 負 担 で あ る(表2)。 仕 事 と子 育 て の 両 立 が 難 しい こ と も あ る。 こ れ らの 問 題 を 解 決 す る に は,「 女 は家 庭,男 は 仕 事 」 に代 表 され る性 別 役 割 分 業 意 識 と,「 夫 は 稼 ぎ手 で 妻 は被 扶 養 者 」 を 温 存 させ る税 制 度(例:女 性 の パ ー ト労 働 収 入 103万 円以 上 に は所 得税 が か か る),女 性 と男 性 の 賃 金 格 差,男 性 を基 準 に した長 時 間 労 動 な どの見 直 しが 必 要 だ ろ う。 夜 間 保 育 や 三 歳 児 以 下 の低 年 齢 児 保 育 の 改 善 も必 須 で あ る。 ほ か の先 進 国 に比 べ 日本 の 男 性 の家 事 時 間 は極 端 に 少 な く,育 児 休 業 制 度 も男 性 の利 用 者 は1%に も満 た な い。 国 の 政 策 は,障 害 の有 無 に か か わ らず産 み た い 人 に は産 め る環 境 を,産 み た くな い人 に は産 まな い 自 由 を保 障 す る もの で な くて はな らな い。 しか し,1998年 の労 働 基 準 法 改訂 で,深 夜 労働 禁 止 や 残 業 時 間 の 制 限 を定 め た 女 子 保 護 規 定 が 撤 廃 さ れ,99年 か ら実 施 さ れ る こ と に な っ た 。 そ の 結 果,日 本 社 会 の長 時 間労 働 と い う シ ス テ ム が改 善 され な い か ぎ り,女 性 に も 「男 な み 」 の労 働 が 強 要 さ れ る危 険 が あ る。 これ は 女性 の健 康 か ら考 え て も大 きな 問題 で あ る。 低 経 済 成 長 と高 齢 社 会 の い まだ か ら こそ,私 た ち は これ まで の 仕 事 優 先, 経 済 効 率 優 先 の価 値 観 を見 直 す と きで は な いだ ろ うか。 7.ク オ ー タ制(割 当 て制)の 導 入 あ らゆ る レベ ル の政 策 決 定 の場 に女 性 を最 低5 割 は参 画 させ る よ う法制 化 す る。 以 上,リ プ ロダ ク テ ィブ ・ヘ ル ス/ラ イ ツ とい う観 点 か ら,い くつ か の 問題 提起 を試 み た 。 性 と 生 殖 をめ ぐ る問題 に つ い て読 者 諸 姉 が 考 え を深 め る ヒ ン トに な れ ば幸 い で あ る。 (1998年10月)

参照

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