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妊娠初期の妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識

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*1群馬パース大学保健科学部看護学科(School of Nursing, Faculty of Health Science, Gunma Paz College) *2群馬大学大学院保健学研究科(Gunma University Graduate School of Health Sciences)

2010年7月22日受付 2011年1月31日採用

資  料

妊娠初期の妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識

Analysis of couples’ awareness about husbands’ support

for their wives’ satisfaction during the early phase of pregnancy

中 島 久美子(Kumiko NAKAJIMA)

*1

常 盤 洋 子(Yoko TOKIWA)

*2 抄  録 目 的  妊娠初期の夫婦を対象に,妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識の共通性および差異を明 らかにし,妻が満足と感じる夫の関わりを高める看護援助への示唆を得る。 方 法  妊娠初期の夫婦8組を対象に半構成的面接法によりデータを収集し,分析はベレルソンの内容分析法 を参考に行った。カテゴリー分類のスコットの一致率では,夫婦の認識の共通性88.0%,夫婦の認識の 差異では,妻のみの認識87.0%,夫のみの認識89.0%となり,信頼性が確保された。 結 果  妊娠初期の妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識として,【妻の健康と情動への気づかい】 【家事労働の援助】【親になるための準備】の3カテゴリーが抽出され,夫婦の認識の共通性および差異が 明らかとなった。 結 論  妊娠初期の妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識の共通性および差異として,3カテゴ リーが抽出された。夫婦の認識の共通性および差異が明らかとなり,妻が満足と感じる夫の関わりを高 める看護援助として,夫婦の間で気持ちの共有と夫婦の良好なコミュニケーションが強化されるよう夫 婦に働きかけることが重要であると示唆された。 キーワード:妻の満足感,夫の関わり,夫婦の認識,妊娠初期 Abstract Purpose

The purpose of this study was to clarify similarities and differences of couples' awareness about husbands' sup-port for their wives' satisfaction during the early phase of pregnancy, and discuss the effect of nursing activities that enhance husbands' support for their wives' satisfaction.

Method

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inter-views were transcribed, and a qualitative inductive analysis was performed using the methods of Berelson. Ratios of agreement obtained by the Scott's equation in categories were 88.0% for similarities of couples' awareness, 87.0% for differences of couples' awareness on wives side and 89.0% for differences of couples' awareness on husbands side. These results confirmed the reliability.

Results

The following three categories were identified about husbands' support for their wives' satisfaction during the early phase of pregnancy: 'Empathy for wives' feelings and health', 'Support with housework', and 'Preparation for parenthood'. Similarities and differences of couples' awareness about husbands' support for their wives' satisfaction were clarified.

Conclusion

The three categories were identified from the view point of similarities and differences of couples' awareness about husbands' support for their wives' satisfaction during the early phase of pregnancy. From the discussion about the similarities and differences of couples' awareness, it has been suggested that nursing activities to improve husbands' support for their wives satisfaction during the early phase of pregnancy should focus on enough commu-nication and sharing mind within a couple.

Key words: satisfaction of wives, husbands' support, couples' awareness, early phase of pregnancy

Ⅰ.緒   言

 近年の核家族化や少子化,女性の社会進出を背景に, 妊娠・出産・育児は女性一人が担うものではなく,妊 娠期からの夫の関わりが重要視されるようになってき た。しかし,夫からの精神的または道具的な関わりが 欠如するときには,夫の関わりに対する妻の満足感が 低下し,妻の精神的健康が障害される可能性が危惧さ れる。大野・吉村・山内他(1995)は,ストレスに由 来する精神的な悩みを抱えた患者を全体的な人間とし て接し理解し手助けしていくためには,満足感などの 陽性感情に注目する必要があると指摘している。よっ て,妊娠期の女性が精神的に健康な状態で妊娠生活を 過ごしていくためには,夫の関わりを妻が満足と感じ ることが重要であり(中島・常盤,2008),妊娠期から 妻の精神的健康を促す夫の関わりが期待される。  Scanzoni & Scanzoni(1988)の結婚生活理論による と,夫婦生活には,道具的領域(子育てや家事,収入 を得るなどのシステム維持に不可欠な役割の領域)と, 精神的領域(役割を超えたコミュニケーションや共通 行動といった精神的充足に重点がおかれた領域)の2 つがあり,夫婦生活を維持するためには,家族システ ムの安定と夫婦の親密性の発達が重要であるとしてい る。よって,妊娠期の夫婦においても,夫婦生活を維 持するためには,夫婦の親密性の発達と家族システム の安定が重要であると考えられる。  また,妊娠期にある初産婦の夫婦を中心とした家族 関係は,Duvall(1977)の8段階の家族ライフサイクル において,第1段階(新婚期)の婚礼から第1子の誕生 までの時期にあてはまる。つまり,妊娠期は夫婦の2 者関係からお腹の子どもを含めた3者関係となり,家 族関係の広がりを見せることから家族システムが発達 する時期と考えられる。この家族システムが発達する 妊娠期において,夫婦が新しい関係の中で生じる葛藤 を乗り越えて夫婦の親密性を深め,夫婦間での役割調 整を行いながら家族システムの安定を図っていくこと は重要と考える。  特に妊娠初期は,妊娠の受容に伴う妻の精神的な不 安や葛藤といった情動への気づかい,つわりなどの身 体的変化に対する理解や妊娠に伴う妻の仕事上の変更 への理解など,妻の妊娠経過に伴う身体的,精神的, 社会的変化に応じた夫の言動や態度が求められる(中 島,2006)。よって,妊娠初期から妻の妊娠経過に応 じた夫の関わりが求められ,妊娠初期において妻が満 足と感じる夫の関わりを高めていくことが重要と考え られる。  これまでの研究では,妊娠期の妻が夫の言動や態度 を満足と感じるか否かといった妻の認識に論点がおか れ(中島,2006),妻が満足と感じると夫自身が感じて いる夫の関わりに対する夫の認識については明らかに されていない。また,妻への夫の関わりとは,2人の 相互作用の上に成り立つことから,夫の一方的な見方 による妻への関わりは,たとえどんなに真剣でも妻の 満足が得られなければ妻にとっては無効であり,他方, 夫の意図的な言動や態度,あるいは感情や意思ではな くても,妻にとって満足と認識する関わりも存在する と考える。さらに妊娠期の妻は,夫に対して精神的サ ポートを期待しているが,夫は妻の期待を意識し難 い状況にあることが報告されている(衣笠・栗山・羽 座他,2006)。一方,夫は妻が考えている以上に妊娠

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実質的に夫婦関係にあると対象者が認知しており,胎 児の母親・父親となるカップルとした。対象の条件と して,妻は正常な妊娠経過をたどり,夫婦ともに精神 疾患がないこととした。本研究は,妻が満足と感じる 夫の関わりにおける夫婦の認識を捉えることを目的と し,感情や意思について面接を予定していることから, 夫婦のいずれかに精神疾患を有する場合には,原疾患 に影響を及ぼす可能性があることを考慮し,対象の条 件を定めた。  調査期間は,2007年8月∼2008年11月であった。 3.調査方法  面接は,県内2カ所の産科医療施設に来院した妊婦 とその夫に対して妊婦健康診査の待ち時間を使って, 夫婦個別に行った。この2施設は,研究者との関係性 はなく,年間1,300∼2,000件と県内の正常な妊娠,出 産を多く扱う施設であることから2施設間の偏りは少 なく,対象の協力を得られやすいと考えた。また,協 力を依頼する助産師への負担を考慮すると共に面接で 使用する施設の個室の利用を配慮して,2施設を対象 施設に定めた。  調査対象の選定は,研究者から本研究の主旨等を研 究協力施設の妊婦健康診査に携わる助産師に説明し, 研究協力の同意が得られた助産師によって,対象の条 件を充たしている夫婦が産科カルテから確認された。  調査は,半構成的面接法により実施し,面接内容は 対象者の了解を得て録音し逐語録を作成した。 4.調査内容  属性は,夫婦の年齢,妻の就労状況,結婚期間,家 族形態,妊娠の成立,妊娠経過を妻の面接時に質問紙 に記入してもらった。  妻が満足と感じる夫の関わりについては,①状況や 場面,②妻が満足と感じる夫の関わり(夫に対しては, 妻が満足と感じると夫自身が感じている夫の関わり) について,夫婦個別に自由に語ってもらった。インタ ビューガイドは,大日向(1988)の母性の発達変容に 関する研究を基に,中島(2006)の研究により抽出さ れた「妊婦が満足と感じる夫の言動や態度」の妊娠初 期のカテゴリー「情動への気づかい」「仕事上の変更へ の理解と母親意識への評価」「父親としての自覚と子 どもへの愛着」「出産・育児に関する夫婦の話し合い」 「直接的支援」の5つを参考に作成した。 中の妻に関わり,母子をいたわる気持ちが存在してい ること(寺口・河原・門田他,1997)など,妊娠期の夫 婦の認識には差異が生じていることが指摘されている。 よって,妊娠期の妻が満足と感じる夫の関わりにおけ る夫婦の認識の差異が大きいにもかかわらず,そのこ とを理解しない夫婦では,その後の出産,育児期にお ける夫婦の関係性に影響を及ぼす可能性があると考え られる。  以上のことから,妻が満足と感じる夫の関わりに対 する妻の認識,および妻が満足と感じると夫自身が感 じている夫の関わりに対する夫の認識について,夫婦 の認識に焦点をあて,妊娠初期の妻が満足と感じる夫 の関わりにおける夫婦の認識の共通性および差異を明 らかにする必要があると考えた。それにより,妻が満 足と感じる夫の関わりへの看護援助への示唆が得られ ると考えられた。  本研究の目的は,初めて子どもをもつ妊娠初期の夫 婦を対象に,妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫 婦の認識の共通性および差異を明らかにし,妻が満足 と感じる夫の関わりを高める看護援助への示唆を得る ことである。 [用語の操作的定義] 妊娠初期:妊娠の診断から胎動を自覚する前までの期 間 妻の満足感:夫の関わりによる妻の喜びや安心感,あ るいは助けられたという気持ち 夫の関わり:妊娠初期の妻に対する夫の言動や態度, あるいは感情や意思 夫婦の認識:妻が満足と感じる夫の関わりに対する妻 の理解,妻が満足と感じると夫自身が感じている夫 の関わりに対する夫の理解

Ⅱ.研 究 方 法

1.研究デザイン  本研究は質的帰納的研究である。 2.調査対象  調査対象は,初めて子どもをもつ妊娠初期の夫婦8 組であった。本研究は,当初,妊娠初期の夫婦10組 に調査依頼をし,夫の仕事により面接協力が困難とな った1組,妻の妊娠経過が正常から逸脱した1組を除き, 夫婦ともに研究協力の同意の得られた8組16名を対象 とした。本研究における夫婦とは,婚姻関係を問わず

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5.倫理的配慮  対象者に対して,調査への参加は任意であること, 拒否・中断をしても不利益を被ることはないこと,研 究への参加・不参加が医療サービス等に影響しないこ とを文書および口頭で説明し,同意のサインを得た。 また,本研究は,群馬大学大学院医学系研究科臨床研 究倫理審査委員会(承認番号GU07016)の承認を得て 行った。 6.分析方法  分析は,Berelson(1952/1957)の内容分析法を参考 に夫婦別々に行った。この内容分析法は,「表明され たコミュニケーション内容を客観的,体系的,数量的 に記述するための調査技法である」と定義されている。 本研究は,妊娠期の夫婦の認識を明らかにすることを 目的として,言語的コミュニケーションを分析の対象 とするため内容分析法が適していると考えた。  まず,妻および夫の面接内容から逐語録を作成し, 妻が満足と感じる夫の関わり(以下,「妻が認識する夫 の関わり」とする),妻が満足と感じると夫自身が感 じている夫の関わり(以下,「夫が認識する妻への夫の 関わり」とする)について語られた主語,述語からな る文を1文章とし,文脈単位を1単位としてデータとし, それを記録単位とした。1つの文脈の中で,妻が認識 する夫の関わりや夫が認識する妻への夫の関わりが複 数あった場合には,その種類ごとに分けて複数の記録 単位として扱った。その後,夫婦の認識の比較検討を 行うため,妻が認識する夫の関わりと夫が認識する妻 への夫の関わりの記録単位と照らし合わせて,夫婦の 認識の共通性,および差異(妻のみの認識,夫のみの 認識)に分類した。それらの記録単位を集め,内容の 類似性に従って分類し,抽象化の作業を得てコード化 した。その後,その意味表現の同質性,異質性に基づ き集約,分類し,カテゴリー化を行った。  分析の過程では,質的研究法を熟知した母性看護学 の研究者によるスーパービジョンを受けた。また,結 果の信頼性を確認するために,母性看護学の研究者3 名に分析を依頼し,スコットの式(Scott,1995)に基 づく一致率を算出した。スコットの式は,カテゴリー の一致率を算出するにあたり,偶然から生じる一致と 加味し,その頻度を補正した一致率を得ることができ, 70%以上の一致率を示した場合には,得られたカテゴ リーの信頼性が確保されていると判断される。本研 究において,カテゴリーの信頼性を確保するために有 用であると判断し用いた。また,データの信頼性の確 保のため,対象夫婦から得られた妻が認識する夫の関 わりと夫が認識する妻への夫の関わりの語りの内容に ついて,対象夫婦に直接確認をとりデータの信頼性の 確保に努めた。さらに,カテゴリー分類の精度を上げ るため,分析を依頼した3名の研究者の分類結果や意 見を参考に,カテゴリー分類や命名の精選を繰り返し, 最終的な結果を導き出すまでに2度分析を依頼し,信 頼性の確保に努めた。

Ⅲ.結   果

1.対象者の属性   妻 の 平 均 年 齢 は29.6歳(SD 1.4), 夫31.1歳(SD 0.3)であった。妻の就労状況は常勤,非常勤を合わせ て6名であった。今回の妊娠の成立は,自然妊娠が5組, 不妊治療後の妊娠が3組であった。この8組の夫婦に ついて,自然妊娠後と不妊治療後の夫婦の語りから抽 出された記録単位をみると,夫婦の認識を研究データ として使用する上で,不妊治療による精神的,身体的 影響の語りは認められなかった。また,妊娠経過は全 員順調であったことから,自然妊娠後と不妊治療後の 夫婦の認識を区別せず,合わせて分析しても,妻が満 足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識に支障はな いと判断し,この8組の夫婦を分析の対象とした(表1)。  面接回数は,妊娠初期に1回実施し,面接時間は妻, 夫ともに一人につき平均45分(SD 5)であった。 2.妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識  夫婦8組の逐語録から,妻が満足と感じる夫の関 わりにおける夫婦の認識は,121記録単位抽出された。 そのうち,夫婦の認識の共通性41記録単位,夫婦の 認識の差異は,妻のみの認識44記録単位,夫のみの 認識36記録単位が抽出された。これらの記録単位を 分類した結果,最終的には夫婦の認識の共通性およ び差異において,【妻の健康と情動への気づかい】【家 表1 対象の属性 (N=8) 妻の平均年齢 夫の平均年齢 妻の就労状況 結婚期間 家族形態 妊娠の成立 妊娠経過 29.6歳(22∼37歳) 31.1歳(27∼36歳) 常勤3 非常勤3 主婦2 半年∼4年 全員 核家族 自然妊娠5 不妊治療後の妊娠3 全員 順調

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事労働の援助】【親になるための準備】という3カテゴ リーが抽出された(表2)。  カテゴリー分類のスコットの一致率では,夫婦の認 識の共通性88.0%,夫婦の認識の差異では,妻のみの 認識87.0%,夫のみの認識89.0%となり,信頼性が確 保された。  以下,各カテゴリーについてサブカテゴリー(〈 〉 で示す)と,そこに含まれた記録単位(「 」で示す)を 用いて内容を示し,夫婦の認識の共通性および差異に ついて特徴的な語りを抜粋して述べる。 1)【妻の健康と情動への気づかい】  このカテゴリーは,妻の妊娠を一緒に喜ぶ,妻の仕 事を理解する,また妊娠中の妻の健康を精神的・身体 的に気づかうという夫の関わりにおける夫婦の認識を 示した。夫婦の認識の共通性17記録単位,夫婦の認 識の差異では,妻のみの認識23記録単位,夫のみの 認識15記録単位が抽出された(表2)。  〈妊娠の知らせを一緒に喜ぶ〉は,対象8組の夫婦 のうち,夫婦の認識の共通性は6記録単位が抽出され, 夫婦の認識の差異では,妻のみの認識2記録単位,夫 のみの認識1記録単位が抽出された(表2)。  夫婦の認識の共通性は,妻からは「結婚後すぐに妊 娠と分かり驚いたが夫が一緒に喜んでくれ嬉しかっ た」と語られ,夫からは「待ちに待った妊娠で一緒に 喜んだ」と語られた。  夫婦の認識の差異は,夫のみの認識として夫からは 「妊娠を知った時は嬉しかった」と語られたが,その 妻からは「夫は喜ぶというより,むしろびっくりとい うか,まさかという状態。私も実際,(不妊治療をし ていたので)本当に今回妊娠するとは思っていなかっ たし,夫の反応は仕方ないかも知れない」と語られた。  〈仕事を理解し妻の意思を尊重する〉は,対象のう ち共働き夫婦6組から,夫婦の認識の共通性に5記録 単位が抽出され,夫婦の認識の差異では,妻のみの認 識は抽出されず,夫のみの認識は1記録単位が抽出さ れた(表2)。  夫婦の認識の共通性では,妻からは「今の仕事を辞 めるのは惜しいから産休・育休を最大限使って続けて いったらと言ってくれる」,夫からは「医療職は大変 な仕事だから辞めてもいいし,職場の協力もかりて上 手にやるように(妻に)話している」と語られた。  夫婦の認識の差異では,夫のみの認識として夫から は「妊娠してからいつまで働けるかを周りの意見を参 考にしながら二人で決めた」と語られたが,その妻か らは「私はすぐに働きたかったが,夫からは子どもが 生まれたら小さいうちは家で面倒を見て欲しいと言わ れてしまった」と語られた。  〈妻の話を聞く・気づかう言葉をかける〉は,夫婦 の認識の共通性が3記録単位,夫婦の認識の差異では, 妻のみの認識が8記録単位,夫のみの認識が7記録単 位抽出され,夫婦の認識の共通性に比べ,差異に記録 単位数が多く抽出された(表2)。  夫婦の認識の共通性は,妻からは,「前回,流産し ていたので,不安な面もあったんです。(夫は,)『無理 表2 妊娠初期の妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識 カテゴリー 記録単位数(出現率) サブカテゴリー 記録単位数(出現率) 夫婦の認識 の 共 通 性 夫婦の認識の差異 夫婦の認識 の 共 通 性 夫婦の認識の差異 妻のみの認識 夫のみの認識 妻のみの認識 夫のみの認識 妻の健康と情 動への気づか い 17(41.5%) 23(52.3%) 15(41.7%) 妊娠の知らせを一緒に喜ぶ 仕事を理解し妻の意思を尊重する 妻の話を聞く・気づかう言葉をかける 気分転換を図れるよう配慮をする 体を気遣いマッサージする 体調が良好に整えられるよう気づかう 妊娠したことで妻に気遣い両親に配慮をする 体を気づかい安全運転をする 6(14.6%) 5(12.2%) 3( 7.3%) 2( 4.9%) 1( 2.3%) ̶ ̶ ̶ 2( 4.5%) ̶ 8(18.2%) 2( 4.5%) 2( 4.5%) 5(11.5%) 2( 4.5%) 2( 4.5%) 1( 2.8%) 1( 2.8%) 7(19.4%) 4(11.1%) 1( 2.8%) ̶ ̶ 1( 2.8%) 家事労働の援 助 13(31.7%) ̶ 4(11.1%) 食事の準備・後片づけをする掃除・洗濯をする 重い荷物を持つ 今まで以上に家事労働を担う 4( 9.8%) 5(12.2%) 4( 9.8%) ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ 4(11.1%) 親になるため の準備 11(26.8%) 21(47.7%) 17(47.2%) お腹を撫でたりお腹の子どもに話しかける胎児の成長や誕生を楽しみだと言葉にする 妊娠や子どもに関する情報収集をする 子どもが生まれる準備や話し合いをする 5(12.2%) 2( 4.9%) 2( 4.9%) 2( 4.9%) 4( 9.1%) 6(13.6%) 6(13.6%) 5(11.5%) 1( 2.8%) 5(13.9%) 6(16.6%) 5(13.9%) 記録単位数の 総計 41(100%) 44(100%) 36(100%)

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しなくていいよ。俺の夕飯は考えないで,買ってく るのでもいいし,あまり動くな』と言ってくれました。 嬉しいですよね」,夫からは「前回のこと(流産)もあ ったので,誰に原因があったわけじゃないですけれど も,『十分注意して,無理しないでいこうね』と,伝え ました」と語られた。  夫婦の認識の差異では,妻のみの認識として妻から は「今日一日の話を聞いてもらうと気持ちが楽になる」 「つわりで気分が悪くても家事は協力するから頑張れ と励ましてくれた」と語られたが,夫からは妻の話を 聞く,気づかう言葉をかけるという内容は語られなか った。一方,夫のみの認識として夫からは「高齢出産 のことで不安だと思うので,こちらはあまり重く受け 止めない。しゃべることがストレス発散になると思う ので,あえてさらっと返す」「自分が仕事で遅くなる 時は先に休んでいるようにと連絡している」「寒くな る時期なので,『なるべくあったかい格好しろ』と,体 調面に十分注意したらいいんじゃないかと言葉で伝え ている」と語られたが,妻からは夫が妻の話を聞いて くれる,妻の体をいたわる言葉をかけてくれるという 内容は語られなかった。  〈体調が良好に整えられるように気づかう〉は,夫 婦の認識の共通性は抽出されず,夫婦の認識の差異で は,妻のみの認識が5記録単位抽出され,夫のみの認 識は抽出されなかった(表2)。  夫婦の認識の差異では,妻のみの認識として妻から は「食事のことを結構(夫から)言われます。食事を朝 抜いちゃったりするので,『ご飯食べるように』って。 (夫にそう言われて,)食べなくではいけないなって思 います。」と語られたが,夫からは妻の体調が良好に整 えられるように気づかうという内容は語られなかった。  以上,【妻の健康と情動への気づかい】において,夫 婦の認識の共通性としては,妻の妊娠を一緒に喜ぶ, 妻の仕事を理解し尊重するといった夫の関わりにおけ る夫婦の認識が抽出された。夫婦の認識の差異とし ては,妻のみの認識,夫のみの認識として,妻の話を 聞く,妻を気づかう言葉をかけるといった夫の関わり, 妻のみの認識として,体調が良好に整えられるように 気づかうといった夫の関わりにおける夫婦の認識が抽 出された。 2)【家事労働の援助】  このカテゴリーは,妻の家庭内の家事労働の負担を 軽減する夫の関わりにおける夫婦の認識を示した。夫 婦の認識の共通性は13記録単位,夫婦の認識の差異 では妻のみの認識は抽出されず,夫のみの認識は4記 録単位が抽出された(表2)。  〈食事の準備・後片づけをする〉〈掃除・洗濯をす る〉〈重い荷物を持つ〉は,夫婦の認識の共通性がそれ ぞれ4,5,4記録単位抽出され,夫婦の認識の差異は 抽出されなかった(表2)。  夫婦の認識の共通性では,妻からは「つわりで体調 が悪くなり家事全般をしてくれるようになった」「お 腹の負担にならないようにお風呂掃除をしてくれる」 「重たい布団や買い物袋を持ってくれる」,夫からは 「朝は弁当作って,洗剤の臭いが嫌だっていうので洗 い物も全部やる」「お風呂掃除は妊婦には大変なので やるようにしている」「妊娠してから重い物とか持た せられないから,自分がなるべく買い物とか一緒に行 って重い物は持つようにしている」と語られた。  〈今まで以上に家事労働を担う〉は,夫婦の認識の 共通性は抽出されず,夫婦の認識の差異では,妻のみ の認識は抽出されず,夫のみの認識が4記録単位抽出 された(表2)。  夫婦の認識の差異では,夫のみの認識として夫から は「共働きなので掃除・洗濯は分担していたが家事は 全部やっている」「掃除も洗濯も料理も家事全般やっ ている。共働きをしているので妻も疲れているだろ うから」と語られたが,妻からは今まで以上に夫が家 事労働を手伝っているという内容は語られなかった。 (表2)。  以上,【家事労働の援助】における夫婦の認識の共通 性としては,食事の準備・後片づけをするなどの家事 労働の負担を軽減するといった夫の関わりにおける夫 婦の認識が抽出された。夫婦の認識の差異には,夫の みの認識として,今まで以上に家事労働を担うといっ た夫の関わりにおける夫婦の認識が抽出された。 3)【親になるための準備】  このカテゴリーは,夫が胎児に関心を抱いているこ とや,夫婦が協働しながら子どもを迎えるための話し 合いと準備をするといった夫の関わりにおける夫婦の 認識を示した。夫婦の認識の共通性11記録単位,夫 婦の認識の差異では,妻のみの認識21記録単位,夫 のみの認識17記録単位が抽出された(表2)。  〈お腹を撫でたりお腹の子どもに話しかける〉は, 夫婦の認識の共通性5記録単位,夫婦の認識の差異で は,妻のみの認識4記録単位,夫のみの認識1記録単

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位であり,夫婦の認識の共通性に記録単位数が多く抽 出された(表2)。  夫婦の認識の共通性では,妻からは「お腹に耳をあ てて赤ちゃんの様子を聞いている」「妊娠した時から お腹に顔を近づけて話しかけている」,夫からは「『お 腹に触って仕事に行ってきます』って話しかけている」 「お腹をさすったり,まだ聞こえていないうちから話 しかけていた」と語られた。  夫婦の認識の差異では,夫のみの認識として夫から は「お腹の赤ちゃんに話しかけるように言われるので 寝る前に撫でたりする」と語られたが,妻からは「ま だ照れがあるみたいで,たまにお腹に触ったりするだ け。まだ,お腹(の赤ちゃん)に話しかけたりとかし ていない」と語られた。  〈胎児の成長や誕生を楽しみだと言葉にする〉は, 夫婦の認識の共通性2記録単位,夫婦の認識の差異で は,妻のみの認識6記録単位,夫のみの認識5記録単 位であり,夫婦の認識の差異に記録単位数が多く抽出 された(表2)。  夫婦の認識の共通性では,妻からは「健診の度に胎 児の順調な経過という知らせに対して満足してくれ る」,夫からは「冗談で早く赤ちゃんに出てきて欲し いと話している。男は実感が湧かないから早く(子ど もに)接したい」と語られた。  夫婦の認識の差異では,妻のみの認識として妻から は「(夫は)とにかく,元気に生まれればいいといつも 言っている。本当に喜んでくれて,楽しみにしてくれ ている」と語られたが,夫からは胎児の誕生が楽しみ だという内容は語られなかった。一方,夫のみの認 識として夫からは「お腹の子どもの成長を感じるのは, どんどん大きくなってきているところ。『本当に大き くなったねっ』と(妻に)言っています」と語られたが, 妻からは夫が胎児の成長を楽しみにしているという内 容は語られなかった。  〈妊娠や子どもに関する情報収集をする〉は,夫婦 の認識の共通性が2記録単位,妻のみの認識および夫 のみの認識が6記録単位であり,夫婦の認識の差異に 記録単位数が多く抽出された(表2)。  夫婦の認識の共通性では,妻からは,「職場の人や 義母に便秘によい食事について聞いてくれる」,夫か らは「妊娠経過のことを会社の先輩に聞いている」と 語られた。  夫婦の認識の差異では,妻のみの認識として妻から は「子どもの病気のことなど職業柄か勉強会があれば 真剣になってやるし,薬については調べてくる」と語 られたが,夫からは子どもに関する情報収集をすると いう内容は語られなかった。一方,夫のみの認識とし て夫からは「インターネットで妊娠初期はどう気をつ けたらいいのか,食べ物やつわりの対応を少し調べた。 それを実践してみていると思う」と語られたが,妻か らは夫が妊娠に関する情報収集をするという内容は語 られなかった。  〈子どもが生まれる準備や話し合いをする〉は,夫 婦の認識の共通性が2記録単位,妻のみの認識および 夫のみの認識が5記録単位であり,夫婦の認識の差異 に記録単位数が多く抽出された(表2)。  夫婦の認識の共通性では,妻からは「一回,専門店 に行って,たとえばベビーカーいくらだとか,どんな ものかとか,目安をみています」「本や雑誌でつわり の時期の食べ物や注意することを私に教えてくれた」, 夫からは「こないだ店に初めて行って,ベビーグッズ は買わなかったんですけど,色々見ているんです」「妊 娠についての資料を一緒に見て,今はこういう時期だ よって言いながら」と語られた。  夫婦の認識の差異では,妻のみの認識として妻から は「出産前に里帰りするので実家の家族と一緒に掃除 をしてくれてありがたい」と語られたが,夫からは子 どもが生まれる準備をしているとは語られなかった。 一方,夫のみの認識として夫からは「『子ども服とか 色々,出産後にかかるものはもらえたらいいね』って (妻が)いうので,親類に,もう使ってないんだった ら(譲って欲しい)って,そういった形で進めていま す」と語られたが,妻からは夫が子どもが生まれる準 備をしているとは語られなかった。  以上,【親になるための準備】において,夫婦の認識 の共通性では,夫がお腹を撫でたりお腹の子どもに話 しかけるなど夫が胎児に関心を示す夫の関わりにおけ る夫婦の認識が多く抽出された。夫婦の認識の差異か らは,妊娠や子どもに関する情報収集をする,子ども が生まれる準備や話し合いをするといった夫の関わり における夫婦の認識が多く抽出された。

Ⅳ.考   察

1.妊娠初期の妻が満足と感じる夫の関わりにおける 夫婦の認識  妊娠初期の妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫 婦の認識の共通性および差異において,3カテゴリー

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が抽出された。以下に,妊娠初期の妻が満足と感じる 夫の関わりにおける夫婦の認識の共通性および差異に ついて考察する。 1)妊娠初期の妻が満足と感じる夫の関わりにおける 夫婦の認識の共通性  【妻の健康と情動への気づかい】において〈妊娠の知 らせを一緒に喜ぶ〉(6記録単位)が夫婦の認識の共通 性として抽出された。妊娠の知らせは妻にとっても夫 にとっても喜ばしい出来事であり,本研究の夫婦の認 識においても,妊娠の喜びを夫婦で一緒に共有するこ とができていたと考える。妊娠を知ったとき女性は, 妊娠が待ち望んだものであれば,妊娠の喜びを夫とと もに共有しようとし,夫が妊娠を肯定的に受け止めて くれたと認識することにより妊娠を受容できる。また, 夫から期待どおりの反応を得られた時には,妻は妊娠 の喜びを大きくし,ひいては母親になることへの意識 として成長する契機ともなる(新道・和田,1990)。  よって,妊娠初期に妻の妊娠の知らせを夫が一緒に 喜ぶという夫の関わりにおける夫婦の認識の共通性は, 妻の妊娠の受容を促すうえで重要であり,妊娠の喜び を夫婦で共有することにより,母親になることへの意 識に繋がると考えられた。  また,〈仕事を理解し妻の意思を尊重する〉(5記録単 位)が夫婦の認識の共通性として抽出された。妊娠を 機に,妻は仕事と妊娠の継続について思い悩むが,本 研究における夫婦の認識では,夫は妻の仕事を理解し 妻の意思を尊重しようと関わり,妻は夫が仕事を理解 し自分の意思を尊重してくれたと感じることができ, 夫婦の気持ちの共有がなされていたと考える。共働き 夫婦の推移は年々増え続け,平成9(1997)年以降は毎 年,共働き夫婦世帯のほうが夫が働き妻が専業主婦の 世帯を上回っている。また,「夫は外で働き,妻は家 庭を守るべき」に対する男女の賛成反対の意見が逆転 し,平成14(2002)年以降では,反対の意見が賛成意 見を上回っている(平成21年男女共同参画白書)。し かしながら,働く女性が第1子妊娠を機に就業を中断 することが多いという現状や,就労を希望しながらも 子育てなどに専念することで働けないという状況もみ られる(平成21年男女共同参画白書)。このような現 在の共働き夫婦の状況において,有職者の妻は,妊娠 を機にこれまでの仕事を今後どのようにするべきかと いう社会的な役割への調整に対し決断を余儀なくされ る。そのため,仕事を継続することを希望する妻は, 仕事について夫の理解が得られることを望んでいると 推察される。これらのことから,妻の仕事を理解し妻 の意思を尊重するといった夫の関わりにおける夫婦の 認識の共通性は,有職者の妻が仕事をもちながら精神 的に健康な状態で妊娠期を継続するうえで重要である と考えられた。  【家事労働の援助】において,夫婦の認識の共通性 として〈食事の準備・後片づけをする〉(4記録単位)な どが抽出された。家事労働の負担を軽減するよう助け る夫の関わりは,実際的援助であり,夫は妊婦である 妻の身体的負担を軽減しようとする気持ちから妻の家 事労働を助けるという行為となり,妻も妊娠初期の体 調の不調などにより夫からの家事労働の助けを望んで いることから,夫婦の気持ちの共有がなされていたと 考える。妊娠初期はつわりなどの体調の不調よって妊 娠以前のような家事労働を担うことは妻にとって身体 的,精神的に苦痛であり,身体症状も苦痛感も増強す ることがあるが,夫の心温まる支援により悪循環のサ イクルが終わることもある(新道・和田,1990)。  Scanzoni & Scanzoni(1988)の結婚生活理論におい て,夫婦生活を維持するうえで重要な要素の一つに家 族システムの安定があり,夫婦で家事労働の役割を担 うことは,家族システムの維持に不可欠である。よっ て,妊娠初期に妻の家事労働の負担を軽減するといっ た夫の関わりにおける夫婦の認識の共通性は,夫婦生 活を維持するうえで重要な家族システムに必要となる 家事労働の役割を夫婦で担うということを意味する。 よって,妊娠初期に妻の家事労働の負担を軽減すると いった夫の関わりにおける夫婦の認識の共通性によっ て,妊娠初期の妻の家事労働による身体的負担が軽減 され,家事労働という妻の家庭内役割からの解放感が 得られるだけでなく,夫が家事の一部を担うことによ って夫婦が相互に支えられていると実感が得られると 示唆される。このことは,家族システムの安定の基盤 が構築される要素であり,妻の精神的な安定を維持す るうえでも重要であるといえよう。  【親になるための準備】において,夫婦の認識の共 通性に〈お腹を撫でたりお腹の子どもに話しかける〉 (5記録単位)が抽出された。胎動の出現により,夫は 父親としての意識が現われ,胎児への態度や意識が変 化する(川井,1990)が,まだ胎動を実感できない妊娠 初期では,夫自らが実際に言葉や行為によって胎児に 関心を示すことは難しい。よって,〈お腹を撫でたり お腹の子どもに話しかける〉から,妻は胎児に関心を

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示してほしいという気持ちを夫に伝え,夫はその妻の 期待に応えようと妻のお腹を撫でたりお腹の子どもに 話しかけていたと推察される。  古田・生塩・池尻他(1999)は,妻の妊娠中に夫の 親性を発達させる要因に夫婦関係が関与していること から,夫婦関係の一要因であるコミュニケーション, 特に妊娠中の妻の夫に対する言語的働きかけに着目し, 夫の親性との関係を明らかにしている。つまり,妊娠 期から妻が夫に対して胎児に関心を示して欲しいと言 葉で伝え,夫が妻の期待に添うよう胎児への関心を示 すことにより,妊娠期の夫の父親となる意識に繋がる と考えられる。しかし,妊娠期からの妻の夫に対する 働きかけに対して,夫が妻の期待に応えずに胎児への 関心を示すことが出来ずにいる場合には,妻は夫婦で 一緒に子どもを育てることへの不安感を抱く可能性が 懸念される。佐々木(2004)は,妊娠期のペアレンテ ィング(親になること)として妊娠期における夫婦の 親になる意識,およびペアレンティングの規定因であ る夫婦関係に着目し,良好な夫婦関係が妻の母親とな る意識の否定的側面を緩和することを明らかにした。 つまり,夫婦の良好なコミュニケーションの基,妻の 働きかけにより夫が胎児に関心を示し,夫が妻の期待 に応えることの出来る良好な夫婦関係を保つ夫婦では, 夫の父親となる意識の現れと妻が感じることにより, 妻の母親となる意識の発達が促され,夫婦で子どもを 育てるという意識の共有が強化されることが推測され る。よって,妊娠初期に胎児に関心を示す夫の関わり における夫婦の認識の共通性によって,妻が夫の父親 となる意識の表れと感じるだけでなく,妻の母親とな る意識の発達が促され,夫婦で子どもを育てるという 意識の共有が強化されることが示唆された。  以上,妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の 認識の共通性において,夫婦の間で気持ちの共有が図 られていることが明らかとなった。妊娠の知らせを一 緒に喜ぶ夫の関わりにおける夫婦の認識は,妻の妊娠 の受容に有効であり,母親としての意識の発達を促す ことに繋がると考えられた。家事労働を助ける実際的 援助における夫婦の認識は,妻の身体的負担の軽減と 家庭内役割からの解放感をもたらす可能性があると考 えられた。また,夫が家事の一部を担うことによって 夫婦が相互に支えられていると実感が得られることに より,家族システムの安定の基盤が構築される要素と なりうると考えられた。胎児への関心を示す夫の関わ りにおける夫婦の認識により,夫婦で子どもを育てる という意識の共有が強化されることが示唆された。 2)妊娠初期の妻が満足と感じる夫の関わりにおける 夫婦の認識の差異  【妻の健康と情動への気づかい】において,夫婦の 認識の差異として,特に〈妻の話を聞く・気づかう言 葉をかける〉に,妻のみの認識(8記録単位)と夫のみ の認識(7記録単位)が抽出された。  本研究の夫婦の認識において,妻のみの認識からは, 日常生活の中での夫婦の会話をもつことや,体調が悪 い時に気づかう言葉をかけてくれたことに妻は満足と 感じていたが,夫からは同様の内容は語られず,夫婦 の認識の差異が明らかとなった。つまり,妻は,日常 生活における夫婦の会話を大事なこととして捉え,体 調が悪い時や妊娠を継続する上で不安な時には夫に心 配して気づかってほしいと望んでおり,妻の気持ちに 添った夫の気づかいに対して妻の満足感が得られやす いと考えられた。一方,夫のみの認識からは,夫は妻 の妊娠に伴う不安に対し,妻のストレス発散のために 話を聞いたり,妊娠中の妻の身体をいたわる言葉をか けることによって,妻は満足と感じていると夫は認識 していたが,妻からは同様の内容は語られず,夫婦の 認識の差異が明らかとなった。つまり,夫は,妊娠中 の妻の話を聞いている,身体をいたわる言葉をかけて いるつもりでも,その夫の関わりに対して妻は満足と 認識しておらず,妻の気持ちに添わない夫の関わりに おける夫婦の認識は,一方向の認識になると考えられ た。よって,妻の話を聞く,妻を気づかう言葉をかけ るといった夫の関わりにおける夫婦の認識の捉え方に よる違いから,夫婦の親密性の発達に支障が生じる可 能性があると示唆された。  平山(2002)は,夫婦間のコミュニケーションを通 じて,夫婦の親密性が現わされ,その中核は,言葉と 行為を使ってお互いの存在を喜びにすることができる と述べている。つまり,夫は妊娠に伴う妻の体調の不 調や不安の気持ちに添った気づかいができるよう,夫 婦の良好なコミュニケーションを図り,何気ない妻へ の気づかいや言葉かけに対しても,夫が言葉と行為を 使って妻を気づかう気持ちを伝えていくことが妻の満 足感に繋がると考える。他方,妻は,夫からの気づか いや言葉かけに対する夫への感謝の気持ちをその状況 や場面毎に夫に伝えていくことが,夫との気持ちの共 有を促す上で重要であると考える。よって,妊娠初期 では夫婦の良好なコミュニケーションを通じて夫との

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気持ちの共有が図られるよう,夫は妊娠に伴う妻の気 持ちに添った気づかいがなされ,妻は夫からの気づか いに対する感謝の気持ちを夫に伝えることにより,夫 婦の認識の共通性が高まり,夫婦の親密性の発達が促 されると考えられた。  【家事労働の援助】において,夫婦の認識の差異と して〈今まで以上に家事労働を担う〉(4記録単位)が, 特に共働き夫婦の夫のみの認識に抽出された。共働き 夫婦の夫は,妻の妊娠を契機に今まで以上に家事労働 を担っているという認識がある一方で,共働き夫婦の 妻は,夫の家事労働を満足とは認識していないという 現状が明らかとなった。

 Benin & Joan(1988)は,夫婦間の役割に関する研究 の中で,夫の家事労働に対する貢献度が相対的に高く, しかも夫は伝統的な女性役割をより多く行い,一緒に 家事を行う夫に対して,妻は満足すると考える傾向に あると述べている。つまり,一般には,夫の家事労働 の貢献度が高いほど,妻の満足感が高まると考えられ るが,共働き夫婦では,妊娠前から家事労働の役割分 担が行われ,夫の家事労働の貢献度が高いこともあり, 妻の妊娠により今まで以上に家事労働を担っていると いう状況があっても夫の家事労働に対し妻の満足感が 得られにくいと考えられた。よって,妻の妊娠により 夫が今まで以上に家事労働を担っている場合には,妻 は夫に対して好意的な評価を示すことにより,夫婦の 間で家庭内役割に対する共通の理解が得られると考え られた。  【親になるための準備】において,夫婦の認識の差 異として,〈子どもが生まれる準備や話し合いをする〉 (妻のみの認識5記録単位,夫のみの認識5記録単位), 〈妊娠や子どもに関する情報収集をする〉(妻のみの認 識6記録単位,夫のみの認識6記録単位)などが多く抽 出された。  本研究の夫婦の認識において,子どもを迎える準備 のために夫婦が行動を共にすることや妊娠に関する本 や雑誌を共有しながら話し合うといった夫婦の協働に よる子どもを迎える準備は,相互に理解しやすく,夫 婦の認識の共通性となる。しかし,子どもを迎える準 備に関して妻と共有せずに夫自らで行う場合や妊娠や お腹の子どもに関する情報収集について夫自らで行う 場合は,夫婦で子どもを迎える準備について,夫婦が 話し合い相互理解しあう行為であるとは認識され難く, 妻のみの認識,あるいは夫のみの認識となり,夫婦の 認識の差異が明らかとなった。  柏木(1993)は,妊娠・出産・子育ての情報が錯乱 し,かつ核家族化,少子化から子育ての伝承が乏しい 現代のコミュニティにおいて,妊娠期から子どもを迎 えるための心身の準備を整え,子どもを持つことで生 じる夫婦の役割調整について夫婦で話し合う機会の重 要性を指摘している。また,妻の妊娠によって,夫婦 の会話に子どもに関する夫婦間の話題がみられ,その 内容も変化するが,妊娠初期では,子どもに関する話 題の頻度は少なく,内容も子どもの将来についてや育 児の方針といった,漠然としたものや抽象的なものが 比較的多い(新道・和田,1990)。つまり,子どもを迎 える準備を整え,子どもを持つことで生じる夫婦の役 割調整について,妊娠初期から夫婦の間で話し合う機 会を持つことは,子育ての伝承が乏しい現代の夫婦が 妊娠期から親になるための準備をしていくうえで重要 といえる。また,妊娠初期の夫婦間の子どもに関する 会話が漠然としたものや抽象的なものであっても,妊 娠初期から子どもが生まれる準備や話し合う機会をも ち,夫婦の間でコミュニケーションを図ることで夫婦 の認識の共通性が高まれば,妊娠経過に伴い子どもに 関する話題は増し,子どもを持つことで生じる夫婦の 役割調整を図るための具体的な内容へと発展すると推 測される。これらのことから,夫婦の良好なコミュニ ケーションの基,妊娠初期から子どもを持つことで生 じる夫婦の役割調整について夫婦で話し合う機会がも たれることにより,妊娠初期から親になるための準備 における夫婦の共通の理解が得られるであろうと考え られた。  以上,妊娠初期の妻が満足と感じる夫の関わりにお ける夫婦の認識の差異において,夫婦が互いの気持ち を理解することが難しい夫の関わりについて,夫婦の 良好なコミュニケーションが図られることが重要であ るという示唆が得られた。妻の話を聞く,妻を気づか う言葉をかけるといった夫の関わりにおける夫婦の認 識からは,夫から妻の気持ちに添った気づかいがなさ れ,夫からの気づかいに対する妻の感謝の気持ちを夫 に伝えることにより夫婦の親密性が発達されると考え られた。今まで以上に家事労働を担うといった夫の関 わりにおける夫婦の認識からは,夫の家事労働に対す る妻の好意的な評価が示されることによって家庭内役 割に対する共通の理解が得られると考えられた。子ど もが生まれる準備や話し合いをするといった夫の関わ りにおける夫婦の認識から,子どもを持つことで生じ る夫婦の役割調整についての話し合いによって,親に

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なるための準備における共通の理解が得られることが 示唆された。 2.妊娠初期の妻が満足と感じる夫の関わりを高める 看護援助  本研究の結果より,妻が満足と感じる夫の関わりに おける夫婦の認識の共通性と差異として,【妻の健康 と情動への気づかい】【家事労働の援助】【親になるた めの準備】の3カテゴリーが抽出された。  夫婦の認識の共通性と差異から,妻が満足と感じる 夫の関わりを高める看護援助としては,妊娠初期の妻 の妊娠の受容を促すため,妻の妊娠に対する喜びの気 持ちを夫婦の間で共有することができるように働きか けることが重要であると示唆された。また,夫婦の良 好なコミュニケーションを基盤に,妻の気持ちに添っ た夫からの気づかいや夫に対する妻の感謝の気持ちの 表出がなされるよう夫婦の親密性に働きかけることが 重要であると考えらえた。夫からの実際的援助よって, 妻の身体的負担の軽減と家庭内役割からの解放感が得 られ,夫の家事労働に対する妻の好意的な評価が示さ れることによって家庭内役割に対する夫婦の共通の理 解が得られることから,つわりなどの体調の不調が生 じやすい妊娠初期の看護援助では,夫婦の認識の共通 性に着目し,家族システムの安定が図られるように働 きかけることが重要であると考えられた。さらに,良 好な夫婦関係によって,夫が胎児への関心を示すこと により夫婦で子どもを育てるという意識の共有化と, 子どもをもつことで生じる役割調整における夫婦の話 し合いによる理解の共有化が促進されるように,夫婦 の親となる意識に働きかけることが重要であると示唆 された。

Ⅴ.結   論

 妊娠初期の妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫 婦の認識の共通性および差異として,【妻の健康と情 動への気づかい】【家事労働の援助】【親になるための 準備】の3カテゴリーが抽出された。妊娠初期の妻が 満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識の共通性 としては,妻の妊娠を一緒に喜ぶ,妻の仕事を理解し 妻の意思を尊重する,妻の家事労働の負担を軽減する, お腹を撫でたりお腹の子どもに話しかけるといった夫 の関わりにおける夫婦の認識が明らかになった。夫婦 の認識の共通性からは,夫婦の間で気持ちの共有が図 られることが重要であると示唆された。妊娠初期の妻 が満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識の差異 としては,妻の話を聞く・気づかう言葉をかける,今 まで以上に家事労働を担う,子どもを迎えるための話 し合いと準備をするといった夫の関わりにおける夫婦 の認識が明らかになった。夫婦の認識の差異からは, 夫の関わりに対し,夫婦が互いの気持ちの理解が得ら れるよう夫婦の良好なコミュニケーションを図ること が重要であると示唆された。妊娠初期の妻が満足と感 じる夫の関わりにおける夫婦の認識の共通性および差 異が明らかとなり,妻が満足と感じる夫の関わりを高 める看護援助として,夫婦の間で気持ちの共有と夫婦 の良好なコミュニケーションが強化されるよう夫婦に 働きかけることが重要であることが示唆された。  本研究の対象夫婦は,1県内2施設の8組の夫婦を対 象としているため,一般化には限界がある。さらに, 今回は妊娠初期という一期間に限定し,正常な妊娠経 過の夫婦の認識に焦点をあてたが,妊娠経過に応じた 夫の関わりの変化や,結婚期間,妊娠の成立による夫 婦の認識については検討していない。以上のことから, 今後はサンプル数を増やし,妊娠期の夫婦の認識を縦 断的に捉えるとともに,夫婦の属性が夫婦の認識にど のように影響するのかについて探索していきたい。 謝 辞  本研究に快く参加いただいたご夫婦とご協力いただいた 産科施設のスタッフの皆様に心より感謝いたします。なお 本研究は,平成19∼21年度科学研究費の助成を受けて実 施した研究の一部であり,本研究成果の一部は第49回母 性衛生学会にて口頭発表した。 文 献

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参照

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