C A N C E R,2 (1992) 13- 15
ダンゴムシの雌性ホルモンを単離する試み
鈴 木 幸 子
40
年程前 の東京都大 田区大森で は冬 には海苔 を天 日に干す光景が, 夏にはその準備をする光景 があちらこち らで身 うけられた. 私の家で も同様 で海苔が" ピリッ, ピリッ" と乾燥 して くる音で 生活のテ ンポが左右 された. 春か ら秋の海が穏や かな時には羽根田沖まで舟で出かけるのが 日課の ようになっていて, 今 日のグルメに出て くる海の 幸を豊富に取 ることも出来た. 潮 に取 り残 された ワタリガニが砂の中か ら- サ ミを振 り上 げて逃 げ るのを追いかけ, コブシガこ, ヤマ トオサガこ, ショウジンガニ等 も遊び相手であった. 家の近 く の新春川 にア ミの大群が遡上 して くると子供達 は 手拭 いでバケツにす くい上 げた. 当時の食卓 に 「またカ レイ. カニ. カキ. - マグ リなの. - -- 」 と不平を云 った ものだが, あの味は思い出となっ て しまった. しか し共 に生活 して戯れた動物 は思 い出に留 ってはいなか ったようで, 現勤務先でア カテガこの飼育を始めたのは大森での生活の延長 上 にあるように感 じる. 現在 は実験室の飼育が容 易なダンゴムシと戯れている.5 - 6
年前 に私の 生 まれが蟹座だと知 り驚いたが, 昨今 は勤務先で 私の性格がダンゴムシに似てきた (嫌な事がある とクル リと丸 くなって動かな くなるそうな) ので その内に触覚 (角 ? ) が出て くるだろうと笑われ ている。 甲殻類 に学ぶ事 はなん と多いことであろ うか. ところで, 甲殻類の雄では造雄腺で造雄腺 ホル モ ンを合成 ・分泌 しているが, この雄性ホルモン は雄 の二 次 性 徴 の発 現, 維 持 を支配 して い る (C harnianx-C otton,1954).
ダンゴムシの造雄腺 ホルモ ンはす で に精製 され (H A S E G A W A et a1.,1987 ;
M A R T IN eta1.,1990)
, 性決定物質 とも報告 されている(K A T A K U R A,1984).
一方, 甲殻類のSachiko SuzuKI :A trial of isolation of fem ale hor-m ones inducing sexdifEerentiation in Armadulklium 癖
13 雌性ホルモ ンに関す る研究 は少数であり今だ明 ら かではない。 私達 は甲殻類の雌性分化機構を明 ら かにする事を目的 として, ダンゴムシの雌性 ホル モ ンの単離を試みている. ダンゴムシの抱卵葉 は 雌性二次性徴の一つであるので, 抱卵葉形成を誘 導する物質があるとすれば, それは雌性分化 に関 与 している雌性 ホルモ ンであろ うと推定 してい る. ダンゴムシでは卵巣が抱卵葉形成を支配 してい るか否かについては卵巣を摘出 した雌を使用 した 実験ですでに報告がある (T A K E W A K Iand N A K -A M U R -A,
1944 ;
Legrand,1955 ;
K A T A K U R A,1984).
しか しなが らそれ らの結果 は同 じではな い. 矛盾 しているような結果 となった主たる原因 は摘出する卵巣の成熟の程度が異なる雌を実験 に 使用 した為ではないか と考え られる. 私達の同様 な実験では抱卵葉形成 と摘出する卵巣の成熟度 に は相 関 関係 が あ る こ とが示 唆 され た (S u z U K I andY A M A S A K I,1991
b). そこで内部生殖器官が 分化途上 (S u z U K IandY A M A S A K I,1991
a) の時 期 ( 5 齢) に雌雄の生殖器官を摘出 して, 成虫 に な って も抱卵葉 を形成 しないダ ンゴムシ (中性 雌, 中性雄 と称す) を作 り, これ らに成熟中の卵 巣の粗抽出液を投与 したところ, 中性雌 と中性雄 は抱卵葉を形成 した. この実験 は卵巣の粗抽出液 には抱卵葉 の形成 を誘導 す る因子 (雌性 ホルモ ン) が存在す ることを示唆する. 上述の方法でダンゴムシの抱卵葉形成を誘導す る因子の単離を試みているが, それに必須な生物 検定用の動物 (中性雌) の特殊性の為 にこの仕事 は遅々として進 まない. その特殊性 とは検定 に必 要な一定量の中性雌を準備す る事 にかな りの手間 と時間がかかる事である. 下記 に中性雌の作成 と 検定の方法を順序を追 って述べることとす る.1. 5
齢雌の採集14 ダ ンゴムシの雌性 ホルモ ンを単離す る試 み 抱卵中の雌を野外か ら採集 して親虫の抱卵葉か ら這い出 して くる子虫を飼育すると,
25
度で 1.5
ケ月後に5
齢子虫 (筋化後4
回の脱皮, 体長約3
m m )
とな る. 実体顕微鏡 で雄性外部二次性徴 (第一腹胸 内肢 の伸長) の有無 を調 べ (S u z U x l andY A M A S A K I,1990)
, 雌だけを使用する. 雄を 使 う事 は雌よりも更に難 しい為である.2.
卵巣の摘出 実体顕微鏡で5
齢雌の卵巣を摘出する. クル リ と丸 くした虫を両面テープの上面に張 り付ける. 虫の方向は東部が右側で下, 腹部 は左側で下にす ると顕微鏡では胸部第4
,5
体節の背側が上下に 走 っているよ うにみえ る。 左手 の人差 し指 にも テープを張 り付 け, 虫の第7
体節 を上か ら押え る. 右手の眼科用 ピンセ ットで第5
と第6
体節の 間を開 くと, 視野の左右に血管 (心臓) が走 って 拍動が観察できる. 血管に平行 して一対の卵巣が あるが,5
齢雌の卵巣は透明で糸状であり実際に はみえないので, 成虫でその位置を十分に確認 し てお く必要がある. 卵巣を一つずっ ピンセットで 挟み上げ摘出する. 中腸腺 と血管を傷っけないよ うに, また輸卵管をも丁寧に除去する. 輸卵管を 残すと成虫になった時に抱卵葉を形成するようで ある.5
齢雌の卵巣を摘出 した時の死亡率(2
-3
日以内) は60 - 90%
である.3 .
卵巣摘出雌を成虫まで飼育する 正常雌では5
齢後,2 - 3
ケ月 (筋化後4 - 5
ケ月,25
度) で成虫 (体長6.5m m )
となり産卵 するが, 生殖器官を除去 した場合には成長が遅 く なる. また飼育状態が悪いと死亡率が高 く, 外骨 痛が変形 したり脂肪体が白濁する固体が多 くなり 検定には使用できない. 卵巣摘出後, 約6
ケ月で 成虫の大 きさに達するが, 更に3
回の脱皮で抱卵 葉を形成 しない事を確認 した雌を検定用の中性雌 とす る. 筋化後約10
ケ月で検定用の動物が得 ら れる (体長10m m ). 5
齢で卵巣を摘出 した雌が 中性雌 となるのは5%
以下である.4.
卵巣の粗抽出液の作成 繁殖期に脱皮前期 (胸部第1 - 4
体節腹面に4
対の白点, カルシュウムの沈着) の成虫雌か ら成 熟中の卵巣 (卵母細胞の直径が300 - 450 〝m )
を実体顕微鏡で採取する.100
本の成熟卵巣 (約200 〝1)
に等量の体積の生理食塩水を加え (以下 は低温で扱 う), ホモジナイズ後, 遠心機(12
万 rpm )で15
分間処理 し, その上清を粗抽出液 とす る.5.
生物検定 中性雌で脱皮間期のものに粗抽出液(1 〟1)
を マイクロシリンジで授与する. その後1 - 2
回目 の脱皮の際に抱卵葉を形成 した個体の割合で抱卵 菜形成を誘導する因子の有無を判定する (対照実 験は生理食塩水を投与). このような方法で抱卵葉形成を誘導する因子の 精製を試みているが, 先に述べたようにこの方法 は時間がかかる. 現状は一年に一回の検定に遣わ れ精製は進まない. 抱卵葉形成以外の雌性二次性 徴に抱卵葉形成因子が関与 しているか否かを, 卵 巣の成熟の促進について実験を試みたが, 別の欠 点があり良い結果は得 られていない. ダンゴムシ 以外でこのような実験に最適の甲殻類を教えてい ただ く事 と, また私達の実験に加わって下 さる事 をこの機会に日本甲殻類学会の会員の方々にお願 いする次第である. 参 考 文 献C HARNIAUX - C oTTON,H .,1954.D ecouverte chez un C rustac金 A rnphipode (O rchestia gam m arella) d'une glande endocrine responsable de la dif-ferenciation des caracteres sexuels prim ai res et secondaires m ales.C om pt.rend.239;780.
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鈴 木 幸 子
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