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世界の CCS の動向 :2016 サマリーレポート

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世界の CCS の動向

:2016

サマリーレポート

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THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016 THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016 THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

「加速させるとき」

–BRAD PAGE

(グローバル CCS インスティテュート CEO)

2016 年は CCS にとって重要な成果を上げた年となった一方、 重大な課題も浮き彫りになった。 パリ協定は世界が気候変動緩和へ向けた礎となっている。パリ 協定締約国会議(COP)において各国が掲げた自主目標では 1.5℃はもちろん、2℃「未満」に抑えるにも不十分である、とされ ている。さらなる対策が必要であり、多くの国々が CCS をより積 極的に導入することが最も重要である。 インスティテュートは、世界の大規模 CCS プロジェクト 38 件をフ ォローしており、そのうち 20 件以上が 2017 年末までに操業す ると見込まれている。これらのプロジェクトによって、CCS の安全 性・信頼性・適応性・コスト効率が証明されるであろう。 本序文の執筆中、2016 年の重要プロジェクト 2 件がスタートした。1 件は Emirates Steel Industries によるアブダビ CCS プロジェクトのフェーズ 1 であり、鉄鋼業界における世界初 の大規模 CCS プロジェクトである。もう 1 件は水素製造施設から CO2を回収し、沿岸近くに 貯留する日本の苫小牧 CCS 実証プロジェクトである。 さらに 3 つの大規模 CCS プロジェクトが米国で操業を開始する予定である。  世界最大の燃焼後回収プロジェクト(テキサス州 Petra Nova 炭素回収プロジェクト)  世界初の大規模バイオ CCS プロジェクト(イリノイ産業炭素回収貯留プロジェクト)  商業規模の石炭ガス化発電施設としては世界初の CCS プロジェクト(ミシシッピー州ケン パー郡発電施設) 世界各地(カナダ、ヨーロッパ、南米、オーストラリア、アジアの一部、中東)にも大規模プロジ ェクトが存在し、また数多くのパイロット・プロジェクトや実証プロジェクトが行われている。 これらのプロジェクトを推進するだけでは、目標達成にははるかに足りない。現在の CCS プ ロジェクトでは 2℃目標の達成には程遠いのである。 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第 5 次評価報告書では、大部分の気候モデルが CCS なくして排出削減目標の達成はできない、としている。重大なことは、CCS がなければ コストは 2 倍以上になり、平均 138 パーセントのコスト増が見込まれることである。 国際エネルギー機関(IEA)は、2°C シナリオの達成には、2040 年に年間約 4,000 百万トン (Mtpa)の CO2を回収・貯留する必要があるとしている。1.5℃目標の達成にはさらなる努力 が必要となる可能性がある。 現在、操業中・建設中のプロジェクト全体の回収能力は約 40Mtpa である。 これではまだ目標には程遠い。 過去数年、大きな進展がなかったといっているわけではない。しかし、CCS のように試行錯 誤しているてはパリ協定の目標達成に必要なペースにいたらないのである。

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結局、ビジネスモデルが成立する場合に限り CCS が広く配備される。これはコストの問題で はない。CCS は CO2を削減する他の技術と比べてコスト競争力を有しているが、他のクリー ンエネルギー技術と同様の支援がないのである。CCS が他の技術と同等の配慮・認識・支 援を得られるような「ポリシー・パリティ」が与えられない限り、パリ協定の目標達成はきわめ て疑わしいものとなる。 こうした状況を受け、インスティテュートは CCS の理解向上へ向けた経済・規制上の措置お よびインセンティブメカニズムを提唱すべくさらに積極的に取り組んでいく。 2005 年の CCS に関する IPCC の特別報告書以降、この 10 年の間に CCS は主要な気候 変動緩和策として認識され、世界の主要な温室効果ガス削減シナリオに盛り込まれるように なった。 IEA と IPCC はいずれも気候変動への対応において確固たる地位を築いている。 私たちは岐路に立っているといえる。現在進行中のプロジェクトは、(当時)10 年後を見据え た政府の政策イニシアチブの成果なのである。 CCS プロジェクトの次なる動きは、10 年後を見据えた動向と関係者の認識・決意にかかって いる。 私は、この気持ちを持って本報告書を推奨し、CCS の展開ペースを加速させるために協力 し、気候目標が達成されることを願っている。 BRAD PAGE グローバル CCS インスティテュート CEO

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THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

CAMERON HEPBURN

オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 環境経済学

教授

2015 年 12 月に採択されたパリ協定は、多国間気候外交にとって 歴史的な節目となった。パリ協定の 2 つのポイントは、(a)気温上昇 を 2℃「未満」に抑えると共に 1.5℃の「努力」目標を追求すること、 (b)今世紀の後半には「ソース(排出源)とシンク(吸収源)」の均衡 (ゼロ・エミッション)を達成することである。パリ協定は、先進国・途 上国が共に課題の重大性と喫緊性を認識している前例のないシグ ナルといえる。各国のコミットメントから読み取れるのは、各国が課 題に取り組み、正味排出量ゼロへ向けた技術支援に対する政治的 関心が向上している点である。 楽観的な見解には理由がある。再生可能エネルギー(特に太陽 光)、電気自動車、エネルギー貯留などのクリーンエネルギー技術の技術進歩が進んでい る。市場の成長と技術の普及が進むにつれて投資コストは低下するため、さらに技術進歩が 進んでいく。しかし、現在のクリーンエネルギー技術はエネルギー・システムの一部をわずか に担うに過ぎず、パリ協定の目標達成にはその展開を大幅に加速する必要がある。 クリーンエネルギー技術が急速に展開したとしても、温度上昇 1.5℃どころか 2℃目標ですら 達成できない可能性が非常に高い。オックスフォード大学の研究では、電力部門から排出さ れるCO2について、既存設備が残存耐用年数まで運用されれば 1.5℃目標を達成する累 積排出量を上回ることが明らかとなった。2017 年末までに発電所を早期廃止(経済的ダメー ジあり)するか、CCS を導入(レトロフィット)しない限り、50 パーセント以上の確率で 2℃目標 の達成は困難となる。つまり、再生可能エネルギーと原子力だけでは、温度が 1.5℃どころ か 2℃に上昇する前に正味排出量をゼロに減らすことは事実上不可能である。CO2を回収し 安全に貯留する技術を開発するためにはさらなる努力が必要である。 さらに、今世紀中に世界全体のゼロ・エミッションを達成するには、CCS と組み合わせたバイ オエネルギー(BECCS)やCO2除去(carbon dioxide removal CDR)技術などのネガティ

ブ・エミッション技術がなければ経済的に不可能に思われる。産業・農業プロセスから排出さ れるCO2排出量は、近い将来においても現状と比べて大きな変化は無いと思われる。最終 的にソース(排出源)とシンク(吸収源)のバランスを取るためには、ネガティブ・エミッション技 術・プロセスが重要になるだろう。再生可能エネルギー技術だけでは、ゼロ・エミッションの達 成に必要なシンク(吸収源)を提供することはできない。 したがって、温室効果ガスの累積排出量を制限し、地球温暖化を 1.5℃~2℃上昇に抑える には、CO2回収技術の進歩が不可欠である。ゼロ・エミッションの達成には、2050 年から 2100 年の間にネガティブ・エミッション技術が必要となる。また、気候変動に関する政府間パ ネルの第 5 回評価報告書(AR-5)では地球温暖化を 2℃以下に抑えるために不可欠な技術 とされている。 常にとは限らないが、報道機関や環境団体がCO2回収技術を好意的に受け止めていること は事実である。これは化石燃料に対する反対から来ているのかもしれないが、現代経済は化 石燃料システムを基盤としており、今後数十年にわたり経済発展に不可欠である。化石燃料 を継続して使用できるか否かは、汚染物質を大幅に削減する技術や温室効果ガス回収技術 にかかっている。これらの技術進歩がなければ、化石燃料の使用は困難となる可能性があ る。

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毎年発行されるインスティテュート報告書『世界の CCS の動向』は、政策立案者及び企業に CCS の加速へ向けた行動を促すための非常に重要な手段となっている。報告書から私が導 いた結論は、「CCS は理論・応用知識の面では発展しており実践的な成功が見られるもの の、CCS の進捗は遅すぎる」ということである。 この結論は、気候変動リスクの重大性、再生可能エネルギー・原子力では排出量削減のスピ ードが十分ではないという事実、ゼロ・エミッションの達成には多様な産業から排出される CO2排出量の削減が必要だという事実、に沿ったものである。CCS の進展は現在の気候政 策が想定するよりもはるかに重要である。パリ協定に適切に対応するには、炭素価格を含め CCS の発展と展開を促進するためのより体系的・実質的かつ持続的な支援が必要である。 CAMERON HEPBURN オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 環境経済学教授

写真:パリ協定の採択を喜び合う COP 21/CMP 11 特別代表 Laurence Tubiana、 UNFCCC 事務局長 Christiana Figueres、国連事務総長潘基文(バン・ギムン)、COP 21/CMP 11 議長、フランス外相 Laurent Fabius、フランス大統領 François Hollande。写真 提供: IISD/ENB | Kiara Worth)

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気候変動に関する国際議論と CCS

2020 年以降の気候緩和行動に焦点を当てたパリ協定は、低炭素経済への移行へ向けた世 界の政治指導者による明白なコミットメントである。パリ協定は努力と進歩の評価基準であ る。パリ協定の目標達成のために政府や企業が取り組まなければならない主要な対策として CCS が採用されなければならない。 パリ合意(2020 年以降の気候合意)のアプローチは、京都議定書に基づく 2020 年以前の合 意とは根本的に異なる。2015 年 12 月の COP21 において、国家レベルの意思決定範囲を 拡充する「ボトムアップ」型のアプローチが合意された。 この新しいアプローチにより以前と比べてより広範な気候対策が可能になると期待されてい る。パリ協定の「発効」までわずか 10 カ月しかかからなかったことは、発効に 8 年を要した京 都議定書とは対照的である。 パリ協定によれば「CCS の普及を加速させるために必要な将来の投資環境」について楽観 的見方ができるが、多くの課題が今後 5 年間にわたり求められる。

パリ協定は課題の重要性と対応のスピードを明確に示しており、主要な

対策として CCS が採用されなければならない。

パリ協定で定められた気候目標は以下のとおり。  短期目標として、可能な限り早急に排出量のピークを迎えること。  長期目標として、平均気温の上昇を産業化以前と比較して 2℃未満に抑えし、可能であ れば 1.5℃未満に抑えること。  今世紀後半、ソース(排出源)とシンク(吸収源)のバランス(ゼロ・エミッション)が必須とな ること。 これらの目標達成に必要な排出削減において、CCS は非常に重要な技術と位置づけられて いる。 CCS の幅広い展開なくして、パリ協定に沿った最小コストの排出削減を実現することは不可 能である。 IPCC と IEA によるモデル検証においても、2℃目標の達成における CCS の重要性が強調 されている。

IPCC の『気候変動2014年版(Climate Change 2014Synthesis Report Summary for Policymakers)』によれば、CCS 無くして 2100 年までに CO2(CO2eq)450ppm を達成する コストは(CCS 有りのシナリオと比べて)138 パーセント増加するとされている。また、CCS 無 くして 450ppm の達成が可能な気候モデルはごくわずかだったことが強調されている1

1 IPCC, 2014. Climate Change 2014: Synthesis Report Summary for Policymakers. Contribution of Working Groups I, II and III to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change. IPCC. Geneva. Switzerland.

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IEA の予測によれば、2℃目標を達成する最も低コストのシナリオでは、2040 年に年間約 4,000 万トン(Mpta)の CO2を回収貯留する必要がある2。これは 2017 年末までに操業予定 の CCS プロジェクト年間 CO2回収量の約 100 倍に相当する。

各国の排出削減目標はパリ協定の合意目標へ向けた堅固な基盤となる

が、その実現には CCS の早期導入が必要である。

パリ協定における約束草案(NDC)により各国の削減成果を評価することが可能になり、必 要に応じて目標の見直しが可能となる。パリ協定は、各国が NDC を見直し、信頼性が高く、 費用対効果が高く、そして予測可能な気候・エネルギー政策を策定する機会となっている。 これは、投資家が CCS のような資本集約的かつ長期的な低炭素技術へ支援を行うよう促す ために必要なのである。 COP21 開催までに提出された NDC(INDC)に基づき 2020 年から 2030 年(まで)の排出削 減が表明された。INDC の実施により排出量の増加に歯止めをかけることができるが、パリ 協定の目標達成には不十分である。

COP 21 前に発表された IEA の分析によれば、INDC は3

……気候目標の達成に必要な方針転換には不十分である。気候目標が 徐々に引き上げられなければ、INDCをベースとした2100年の平均気温上昇 は約2.7℃になると予想されており、2℃未満に抑えるには不十分である。したが って目標の策定においてINDCは重要な要素とされなければならない」。 2°C 目標の達成(2℃「未満」はもちろん)は非常に困難である。平均気温の上昇を 2℃未満 に抑えることは、現行の CO2排出量を(排出量の増加を遅らせるだけでなく)大幅に削減する ことを意味する。パリ協定は気候変動への対応を進める上で重要なステップ(「重要な基盤」) である。

世界(The global community)が 2030 年以降(好ましくは 2030 年まで)の緩和策を強化し なければ、後世さらに大きな課題への対応が求められる。

INDC に欠落している点は、エネルギーの長期的な変革の「流れ」に必要な技術である CCS をあらゆる利害関係者に確実に認識させる重要性について強調していない点である。 気候モデルによれば、他に有効な緩和策が存在しなければ 450ppm の大気濃度閾値を超え る可能性が高いとされている。これは、炭素予算(the carbon budget)を計上する上で 2050 年以降ネガティブ・エミッション(特に CCS と組み合わされたバイオエネルギー(BECCS))に 大きく依存することを意味する。 マイナスの排出量を実現する技術は大規模展開という大きな課題に直面している。BECCS における主な問題は、持続可能なバイオマスが十分に利用可能どうか、また水-エネルギー -農業-気候システム間の相互作用を十分理解する必要があるか、といった問題である。 特に 2℃目標を十分下回るような過剰な炭素予算の可能性を想定しつつ、開発(および研 究)における優先順位を CCS 技術に置かなければならない。

2 IEA, 2016. Energy Technology Perspectives 2016: Towards Sustainable Urban Energy

Systems. Paris. OECD/IEA.

3 IEA, 2015. Energy and Climate Change: World Energy Outlook Special Briefing for COP21. Paris. OECD/IEA.

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再生可能エネルギーとエネルギー効率改善だけではパリ協定の目標を

達成することはできないため、クリーンエネルギーに関する協議では

CCS に対する「平等の政策支援(ポリシー・パリティ)」が必要である。

国際的なクリーンエネルギーに関する協議では、再生可能エネルギーとエネルギー効率改善 に対する先入観がある。CCS はこうした協議においてこれまで以上に重要な役割を果たさな ければならない。これは、化石燃料に関する排出削減について議論する公式な場がない、国 連のクリーンエネルギーに関する最重要構想『持続可能なエネルギー(Sustainable Energy For All (SE4ALL))』において特に当てはまる。

電力部門が化石燃料に依存していること、及び産業部門では化石燃料に代替する燃料がほ とんどないこと、を考えると再生可能エネルギー及びエネルギー効率改善だけではパリ協定 の気候目標達成に必要な CO2排出削減はできない。  既存の石炭火力発電所に加え、世界中で 2,000 以上の石炭火力発電所が建設・開発計 画段階にある4  産業部門から排出される CO2は世界の総排出量の約 4 分の 1 を占めている。CCS は 産業部門の排出量を大幅に削減できるただ一つの選択肢である。産業分野では、再生 可能エネルギー技術は CCS の代替手段にはならない。  多くの地域において電力部門からの排出量増加を抑制するために「ガス推進(push for gas)」が進められているが、2℃を「十分に下回る」目標を達成するにはガス火力発電所 への CCS 導入が必要である。 気候変動に関する国連枠組み条約(UNFCCC)は、CCS に関する第 2 回技術専門家プロセ ス(Technical Expert Process)ワークショップの開催によって有意義な結果が得られるであ ろう。なお、前回のワークショップは 2 年前の 2014 年 10 月に開催されている。 今後もワークショップを継続することで、締約国は CCS のポテンシャルをより理解し、CCS 展開の緊急性が高まり、過去 10 年間にわたるコスト削減や安全かつ効果的な貯留技術の 大幅な進歩が示されることになる。 国連においてこうした「理解」が広がることは、今後の IPCC1.5℃特別報告書(2018 年発行 予定)や第 6 次評価報告書サイクル(2021 年完了予定)5にとって特に重要である。 今後 10 年間に CCS が広く普及するための前提条件を整えるため、今後 5 年間の取組みに 注力する必要がある。 将来、NDC に CCS がどのくらい盛り込まれるか、それはパリ協定の目標達成へ向けてどれ くらい真剣に向き合っているかを示すことになる。 最終的に CCS の普及は、政府が他の低炭素技術と同様の検討・認知・支援(「ポリシー・パ リティ」)をどれくらい行うかにかかっている。 CCS への支援は十分だと満足していては、パリ協定の目標達成のために排出制限の課され た世界経済は大幅に縮小していくだろう。

4 出典:CoalSwarm, Global Coal Plant Tracker、2016 年 7 月データ。国別石炭プラント計画。 5 パリ COP 21 は IPCC に対し、「1.5℃目標の実現による影響と温室効果ガス削減経路」に関する特 別報告書の作成を正式に要請した。IPCC は 2016 年 4 月の第 43 回会合にてこれを承認し、第 6 次 評価報告書(AR-6)において(1.5℃目標に関する特別報告書のさらなる検討に加え)1.5℃-2℃シナ リオを検討することに合意した。

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プロジェクト、政策、マーケット

操業・建設・開発計画の各段階にある世界の大規模 CCS プロジェクト、38 件が確認されて いる。世界における CCS への取り組みは大規模 CCS プロジェクトのみならず、CCS 技術の 向上に資するパイロット・実証規模プロジェクトや CCS イニシアチブは数百にも上る6 一連の CCS プロジェクトは、(代表的な数カ国だけでも)オーストラリア、ブラジル、カナダ、中 国、フランス、ドイツ、日本、オランダ、ノルウェー、サウジアラビア、韓国、スペイン、アラブ首 長国連邦、英国、米国などが挙げられ、CCS に対する世界的関心の広がりが分かる。 操業を開始するプロジェクトが拡大しており、2016 年には注目すべき進展が見られた(下記 参照)。CCS 技術の実証により、CO2は拡散されずに安全かつ効果的に貯留されている。 『世界の CCS の動向:2016』の発行時点において、操業中の大規模 CCS プロジェクトは 15 件、CO2回収能力は年間約 3,000 万トンである。さらに米国において操業が予定されている 3 件の大規模プロジェクトがを加えると、2017 年初めには 18 件(CO2回収能力 35Mtpa)と なる。続いてオーストラリアとカナダのプロジェクトが操業を開始すると、2017 年末時点で操 業中の大規模プロジェクトは 21 件(CO2回収能力約 40Mtpa)になると見込まれている。な お、2010 年時点の大規模プロジェクトは 10 件未満であった。

2016 年に操業を開始した産業部門の CCS プロジェクト

2016 年、2 件の重要なプロジェクトが操業を開始した。1 件は大規模プロジェクト、1 件は実 証規模プロジェクトである。いずれも産業部門のプロジェクトである。

 11 月 5 日、アブダビ CCS プロジェクトが運転を開始した。Emirates Steel Industries (ESI) CCS プロジェクトはフェーズ1にあたる。このプロジェクトは鉄鋼業界初の CCS プ ロジェクトであり、アブダビの ESI プラントにおける直接還元鉄(DRI)処理から CO2(約 0.8 Mtpa)を回収し、石油増進回収(EOR)に利用する。  日本は意欲的にパイロット・実証 CCS プロジェクトに着手している。2016 年 4 月、苫小 牧 CCS 実証プロジェクトにおいて CO2圧入が開始されたことに注目すべきである。(苫 小牧港の水素製造施設から)少なくとも年間 10 万トンの CO2が回収され、沿岸近くの深 層地層に圧入されている。

電力部門・産業部門において開始予定の CCS プロジェクト

大規模 CCS プロジェクト 3 件がプラントの建設と試運転を終了し、間もなく(おそらく数週間 の内に)操業を開始すると見込まれている。3 件はいずれも米国にあり、(石炭火力)発電所 プロジェクト 2 件と産業部門プロジェクト 1 件である。  ミシシッピー州ケンパー郡発電施設(CO2回収能力約 3Mtpa):2016 年末までに操業を 予定。Southern Company と KBR が米国エネルギー省と共同開発した TRIGTM石炭ガ ス化プロセスを初めて商業規模で開発する画期的なプロジェクト。

 テキサス州 Petra Nova 炭素回収プロジェクト(CO2回収能力約 1.4Mtpa):2016 年末ま たは 2017 年初めまでに操業を予定。フル操業時には、発電所としては世界最大の燃焼 後回収プロジェクトとなる予定。

ケンパー郡発電施設、Petra Nova プロジェクトは、2014 年 10 月にカナダのサスカチュ

6 A comprehensive listing of large-scale and pilot and demonstration-scale CCS projects (as well as other project and program activities) and definitions of such is contained in the Institute’s Projects database.

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ワンで操業を開始した世界初の電力部門大規模 CCS プロジェクト、Boundary Dam の Unit 3(CO2回収能力約 1Mtpa)に続くプロジェクトである。

 イリノイ産業炭素回収・貯留プロジェクト(CO2回収能力約 1Mtpa):2017 年初めに操業 を予定。世界初の大規模 BECCS プロジェクトであると同時に、1Mtpa 規模で深部塩水 層に CO2を圧入する米国初のプロジェクトである。

2017 年に操業開始予定のプロジェクト

西オーストラリア州沖合の Gorgon プロジェクトは、2016 年に最初の LNG が供給され試運 転が進んでいる。2017 年上期後半の操業開始が見込まれており、深部塩水層に CO2を圧 入する世界最大のプロジェクト(CO2圧入能力4Mtpa)である。これを加えると、2017 年中頃 に操業中の大規模 CCS プロジェクトは 19 件となる。さらにカナダのアルバータ州では、 Alberta Carbon Trunk Line(ACTL)開発に関連する大規模 CCS プロジェクト 2 件が 2017 年末の操業を予定しており、これを加えると操業中の CCS プロジェクトは 21 件に増加する。

建設・計画段階が見込まれるプロジェクトに対する強い期待

開発計画にある主要プロジェクトにおいて前向きな事実が確認された。  中国では、延長(Yanchang)統合型 CCS 実証プロジェクトが近々(2016 年末まで)建設 段階に進む予定である。0.4~0.5 Mtpa の CO2が陝西省の化学プラントガス化施設から 回収され、EOR に使用される。

 オランダでは、ROAD プロジェクト(CO2回収能力約 1 Mtpa)が新規の初期貯留サイトを 検討中である。貯留・輸送許可の更新を行っており、一部の事業者は 2017 年中に建設 を開始する意向である。  2016 年 10 月初旬に発表されたノルウェーの 2017 年度予算には、フルチェーンの CCS プロジェクト計画に対する助成金 3 億 6,000 万ノルウェー・クローネ(約 4,500 万米ドル) が盛り込まれた。今後、資金提供に関する諸契約を締結する必要があるが、ノルウェー の CCS にとって大きな前進である。

操業中の CCS プロジェクト

昨年、多くの大型・実証規模プロジェクトが重要な節目を迎えた(図1)。  ノルウェー、Sleipner CO2貯留プロジェクト(ノルウェー沿岸)は 1996 年のプロジェクト操 業開始以来 20 年間にわたり操業し、1,600 万トン以上の CO2を圧入した。 さらに、Snøhvit CO2貯留プロジェクト(ノルウェー沿岸、2008 年以降 300 万トン以上の CO2を圧入)との合計では、圧入された CO2合計量は約 2,000 万トンになる。  ブラジル、サントス海盆プレソルト油田 CCS プロジェクト(リオデジャネイロ海岸から約 300 キロメートルの超深層水)は、2015 年 12 月時点で 300 万トンの CO2を圧入した (Petrobras 発表)。

 米国、テキサス州 Air Products Steam Methane Reformer EOR プロジェクトは、2016 年 6 月末時点において水素製造施設から 300 万トンの CO2を回収した(EOR 目的)。  カナダ、Boundary Dam CCS プロジェクトは、2016 年 6 月時点において Unit 3 から

100 万トンの CO2を回収した(主に EOR 目的)。

 カナダ、アルバータ州 Quest プロジェクトは、2016 年 9 月時点において水素処理プラント から 100 万トン以上の CO2を回収し、深部塩水層に貯留した。

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 米国では、2016 年 10 月、米国エネルギー省化石燃料局のウェブサイトにおいて 1,300 万トンの CO2がエネルギー省のクリーン石炭研究・開発・実証プログラム(Clean Coal Research, Development, and Demonstration Programs)を通じて圧入されたと発表さ れた。

 中国、吉林油田 EOR 実証プロジェクトは、10 年前に CO2-EOR 圧入実験を開始し、 2016 年時点において 100 万トンの CO2を圧入した。

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Bo u n d a ry Da m CCS プ ロ ジェ ク ト 100 万ト ン 以上の CO 2 回収、 主に E OR 目的

図1:

主な

C

C

S

プロジェ

クト

開発

状況

P e tr a No v a 炭 素回収プ ロ ジェ ク ト 近々 操業開始 予定 Air P ro d u c ts S te a m M e th a n e Ref o rm e r E OR プ ロ ジ ェク ト 300 万ト ンの CO 2 回収、 E OR 目的 Qu e s tプ ロ ジ ェク ト 100 万ト ン 以上の CO 2 回収 、 深部 塩水層 に貯留 吉林 油田 E OR 実証プ ロ ジェ ク ト 100 万ト ン 以上の CO2 を 圧入 苫小牧 CCS 実証プ ロ ジェ ク ト 日本初の完全統合 型 CCS プ ロ ジェク イ リ ノ イ 産業 CCS プ ロ ジェ ク ト 近々操業開始 予定 ケ ン パー 郡発電施設 近々 操業開始 予定 ノ ルウェ ー フ ルチ ェー ン CCS プ ロ ジェ ク ト 2017 年度予算にお い て、 フ ルチ ェー ン CCS プ ロ ジェク ト への支援が決定 S le ip n e rCO 2貯留 プ ロ ジェ ク ト 20 年間操業、 1 ,6 0 0 万ト ン 以上の CO 2 貯留 アブ ダビ CCS プ ロ ジェ ク ト 鉄鋼業部門にお ける 世界初の CCS プ ロ ジェク ト Go rg o n 二酸化炭素 圧入プ ロ ジェク ト 2017 年上 期末に操業 開始 予定 延長 統合 型 CCS 実証 プ ロ ジ ェク ト 最終投資決定 の 検討中 ROAD プ ロ ジェ ク ト 新規貯留サイ ト の許可申請中 今後の進展に期待 P e tr o b ra s、 S a n to s 盆地 プ レ ソ ルト 油田 CCS プ ロ ジ ェク ト 3 百万 トン の CO 2 生産 井に圧入

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順調に進展するプロジェクトの特徴

これまでに成功したプロジェクトは、CO2排出源または EOR 利用のいずれかにおいて石油・ ガス産業との強い関連性を有するプロジェクトである。だが、世界の削減目標を見据た CCS の普及のためには、EOR を超えて貯留ポテンシャルを活用しなければならない。 操業・建設いずれの段階においても、産業部門における CO2回収プロジェクトが最多となっ ている。また、(a) 通常操業において既に CO2分離プロセスが組み込まれているケース(天 然ガス処理、肥料製造など)、または (b) ガスストリームに含まれる CO2濃度が高く分離コス トが比較的安いケース(水素製造)、が重視される傾向にある。高炉製鉄やセメント製造など の CO2排出産業では、いまだにパイロット規模の CCS プロジェクトに留まっている。 低コストの CO2ストリームや既存の輸送・貯留インフラの活用など、短期間の開発が可能な プロジェクトは、速やかに操業を開始することが可能である。

推進力の低下

— 新たなコミットメントと強い政策サポートが必要

直近 5〜7 年の間に多くの CCS プロジェクトにおいて進展がみられた。2010 年から 2017 年 末にかけて、操業中の大規模プロジェクトは 10 件未満から 20 件を超えるまでに増加し、 CO2回収能力は 2 倍以上の 40 Mtpa に達した。 この間に操業を開始した(まもなく操業開始予定を含む)数多くの重要プロジェクトは、2010 年末に向けて展開された政策イニシアチブの恩恵を受けたものである。しかし、大規模プロジ ェクトの資金調達は厳しい状況となっている。欧州では、2009 年に欧州エネルギー復興プロ グラム(EEPR)が設立されたが、一部の国では支援政策の不確実性が高まり、また炭素価 格の急落により CCS プロジェクトの開発ペースが遅れている。中国では、開発計画段階のプ ロジェクトの大半が EOR 関連であることから、近年の石油価格下落の影響を受け建設段階 への進展が遅れている。 今後、大規模プロジェクトの開発を支援する新たな取り組みがなされなければ、今後 5 年間、 プロジェクトの進展はかなり遅れる見込みである(図 2)。 図 2:大規模 CCS プロジェクトの CO2回収能力(操業・建設・精査段階 2012 年-2022 年) 2022 年までに開始予定の「精査」中のプロジェクト CO 2 回収能力 ( Mtpa ) 「操業」または「建設」中のプロジ ェクト

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注:ケンパー郡プロジェクト及びPetra Novaプロジェクトは2016年末までに操業を開始する予定(本書執筆時 点)のため、CO2回収能力2件合計(4.4 Mtpa)は2016年に含まれている(水色表記)。 パリ協定の気候目標を達成するには CCS の開発・展開の加速化が必要である。 将来の課題を過小評価してはならない(図 3)。IEA の 2℃シナリオ(2DS)は 2040 年に年間 約 40 億トンの CCS(大部分が非 OECD 加盟国)を前提としているが、今後 25 年間に必要 な CCS 回収量と比べて現在の CO2回収能力は少ないのである。 図 3: IEA 2℃シナリオ、2040 年までに必要な CCS 回収量 直近 10 年間に開発された大規模・パイロットプロジェクトにより、将来の CCS 開発を促進す るための手がかりが得られた。近年操業を開始したプロジェクトが着実に進展し、多くの成果 が 2016 年に達成されたことから、CCS 技術の有用性が実証されたことが重要である。プロ ジェクトの進捗を妨げる理由として技術的障壁が挙げられることは滅多にない。一般的な理 由としては、さまざまな規制・商業・リスクシェアに関する利害関係者問題が挙げられる。これ らの障壁は複雑かつ相互に関連しているため、改善には政府・投資家の協力と努力が必要 である。 今後 5 年間、2020 年以降の CCS 普及へ向けた前提条件を確立しなければならない。至急 必要なことは市民からのより大きな支援である。 目前に迫った 2017 年の重要事項は以下のとおり。  米国環境保護庁(EPA)のクリーン・パワー・プランに対し、27 州が起こした訴訟の行方 (訴訟結果に対する反応)  ノルウェーにおけるフルチェーン CCS 研究  英国における CCS の進展

 カナダ Boundary Dam の Unit 4・Unit 5 に関する SaskPower 社の決定(改修(CCS 設 置)または廃止)

こうしたCCSの積極的な展開はプロジェクトを後押しするものの、世界中でより積極的な対応 が求められている。

201611月時点の

CCS

*出典:IEA, 2016 Energy Technology Perspectives 2016: Towards Sustainable Urban Energy Systems. Paris. OECD/IEA.

大規模 CCS プロジェクト 38 件 (約 70Mtpa): ・操業・建築中のプロジェクト 21 件(40.3 Mtpa) ・計画後期段階のプロジェクト 6 件(8.4 Mtpa) ・計画初期段階のプロジェクト 11 件(21.1 Mtpa) 2040 年までに必要な CCS~4,000 Mtpa (IEA 2DS シナリオ)* OECD 非加盟国 OECD 加盟国

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再生可能エネルギー開発から得られた教訓-CCS に不可欠な「ポリシ

ー・パリティ」

2005年-『二酸化炭素の回収・貯留に関するIPCC特別報告書』の発表から10年、CCSは主 要な気候変動緩和策として認識され、主要な温室効果ガス(GHG)削減シナリオに盛り込ま れている。重要なCCSプロジェクトが進展したものの、低炭素経済への移行にとって不可欠 なCCSが各国の政策支援の対象となるにはまだ説明が不十分である。 CCSの普及のためには、他の低炭素技術と同様の評価・認識・支援を行う「ポリシー・パリテ ィ」が必要である。 これは、CCS技術とライフサイクルに沿った支援措置の設計・実施がなされることを意味する。 リスクの複雑性に対処するためインセンティブ・メカニズムを導入し、市場の要求に応えるよう な経済乗数効果を創出しなければならない。また、適切な法・規制の枠組み(およびCO2回収 コスト削減のための継続的な研究開発努力)の開発も進められなければならない。 再生可能エネルギーの躍進から学ぶべきことがある(図4)。世界では過去10年間に約2.5兆 米ドルがクリーンエネルギー技術に投資されており、うち1.8兆米ドルが風力・太陽光技術に 充てられている。強力かつ持続的な政策支援によって投資が推進されてきた。他方、過去10 年間のCCSに対する投資額は約200億ドルである(クリーンエネルギー技術への投資額は CCSへの投資額の120倍)。 図 4: 2006~2015 年の投資額 (10 億米ドル、端数四捨五入) 出典:

クリーンエネルギー:Bloomberg New Energy Finance, 2016. Clean Energy Investment By the

Numbers - End of Year 2015.

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CCS:IEA, 2015. Tracking Clean Energy Progress 2015, Energy Technology Perspectives 2015

Excerpt IEA Input to the Clean Energy Ministerial. Paris. OECD/IEA

過去 10 年間、各国政府は電力買取制度を含めたエネルギー目標及び補助金義務化を通じ て再生可能エネルギー(電源)に対して政策支援を行ってきた7。こうした政策が成功し、太陽 光発電(PV)コストは大幅に削減され、ドイツや中国などの国々において太陽光産業が急速 に成長した。

大きな注目を集める輸送・貯留インフラの展開

一般的に、順調な CCS プロジェクトは、既存の CO2輸送・貯留インフラを利用するか、ある いは長年にわたり地中のリスク管理経験を持つ大規模エネルギー企業によって実施されたプ ロジェクトである。これまで CO2の回収面ばかり注目されてきたが、パリ協定の精神・その目 標達成には、様々な産業に対応可能な(共有)CO2輸送・貯留インフラが必要である。輸送・ 貯留インフラは、現在 CO2排出産業が多数存在する工業地域(英国 Teesside など)が将来 も存続していくために不可欠である。 CCS チェーンを構成する個別要素は異なるため、それぞれ固有の技術・性能が必要であり、 異なる課題・制約に対処しなければならない。多くのプロジェクト事例から明らかなことは、異 なる要素を一つのプロジェクトにまとめ上げ、リスクシェアを行うことの難しさである。 一部、CO2の EOR 利用により課題の克服に繋がったプロジェクトはあるが、すべてのプロジ ェクトにおいて EOR が可能ではないことから、今後数十年にわたる CCS の展開には EOR 目的以外の貯留資源の活用を大幅に拡大する必要がある。 CCS にインセンティブを与える支援モデルについて検討する研究組織が増えている。「CCS チェーンの分割」、または官民共同投資モデルの検討をはじめとして回収プロジェクトの意思 決定リスク軽減に繋がる輸送・貯留インフラの開発などが研究されている8

産業 CCS にとって特に重要な戦略的 CCS ハブ

産業部門から排出される CO2量は 2013 年約 90 億トン(9Gt)であり、世界の CO2排出量の 約 4 分の 1 を占めている9。化石燃料は鉄鋼、セメント、化学製造など幅広い産業において不 可欠な燃料である。しかし発電部門と異なり、CO2排出量削減のために化石燃料を再生可能 エネルギーに置き換えることは現在のところ現実的に不可能である。さらに、多くの産業プロ セスにおいて CO2は化石燃料の燃焼によって生じるのではなく、化学処理過程で発生するの である。 7 過去 5 年間の再生可能エネルギー技術に対する助成金は合計約 5,000 億米ドルである。2014 年 の助成金は 1,350 億米ドルであり、過去 10 年間の CCS 投資額の 7 倍以上である。データ出典は EIA(『World Energy Outlook』を含む)に拠る。

8 2 件のレポートにおいて、詳細な検討とモデル(IEA、2016 を含む)の提示がなされている。20 Years

of Carbon Capture and Storage. Paris. OECD/IEA(『世界のCCSの動向:2016』と同時発行予定)

および Oxburgh, R., 2016. Lowest Cost Decarbonisation for the UK: The Critical Role of CCS.

Report to the Secretary of State for Business, Energy and Industrial Strategy from the Parliamentary Advisory Group on Carbon Capture and Storage. London. Parliamentary

Advisory Group on Carbon Capture and Storage (CCS).

9 IEA, 2016. Energy Technology Perspectives 2016: Towards Sustainable Urban Energy

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エネルギー効率の改善を除き、長期的な CO2排出量の大幅削減に役立つ唯一の大規模技 術が CCS である。 天然ガス処理や肥料・水素製造産業を中心に、1Mtpa(またはそれ以上)の CO2回収能力を 持つ操業・建設中のプロジェクトが多数存在する。また、CO2回収量が少量に過ぎないプロジ ェクトであれば全ての産業分野にわたり数多く存在する。プロジェクト単独では運輸・貯留イン フラへのアクセスコストが高くなる可能性があるものの、多くの排出集約型産業が地理的に密 集(クラスター)している。一定規模の輸送・貯留インフラの開発により、複数の排出源から少 量の CO2を効率的に集約することができる。 CCS を主要な産業や CO2排出源集約地(クラスター)に展開することにより、将来予見される CO2排出規制から産業地域を保護することができる。「低炭素工業地帯」は投資を呼び込む 上で大きな利点となる可能性がある。

各地域の政策、法規制の進捗状況

南北アメリカ

米国における不確実要素は、米国環境保護庁(EPA)によるクリーン・パワー・プラン(Clean Power Plan)の導入に対する 27 州の訴訟により同プランの導入に大きな遅れが生じている ことである。一部の州では同プランの実施へ向けた取り組みをつづけているが、訴訟結果が 出るまで作業を中断している州もある。 新たな法案では、(米国税法「45Q」の下)EOR を含むすべての CO2貯留クレジットを 1 トン 当たり 30 米ドルまで引き上げ、貯留上限(現在 7,500 万トンの CO2を貯留)が撤廃される予 定である。この動きは国会議員団(地域的・政治的広域連合)による支援を受けており、法案 の採択が後押しされている。 米国 DOE は、CO2回収に関する堅実な研究開発プログラムと炭素隔離パートナーシップ (Regional Carbon Sequestration Partnerships)を継続している。大型パイロット規模の回 収技術に対する助成も開始された10 カナダでは、2015 年に採択された石炭火力発電所の CO2性能基準が発効し、長期的な政 策・法規制が整った。最近、トルドー首相は国の「最低規準価格」を発表し、全ての州・地域が 2018 年までに炭素価格を設定するよう求めた。 カナダにおける昨年の発展は、州政府による CCS 技術支援の成果である。2010 年代初頭 に作られたアルバータ州政府及びサスカチュワン州政府の政策枠組みは、多数の大規模プ ロジェクト(2014~15 年操業、2017 年後半に操業予定)を後押しすることとなった。

欧州、中東、アフリカ

欧州では、2015 年の欧州委員会以来、国家の枠組みを超えた政策が継続されている。欧州 連合(EU)によるパリ協定の批准は、EU 排出量取引制度(EU-ETS)と戦略的エネルギー技 10 10 月 17 日、米国 DOE はテキサス州サンアントニオにおける電力プロジェクト(10 メガワット超臨界 二酸化炭素(sCO2)パイロット・プラント)の設計・建設・運営に関する 6 カ年プロジェクトに対し最高 8,000 万米ドルの資金提供を行うと発表した。このプロジェクトは Gas Technology Institute (GTI)、 Southwest Research Institute® (SwRI®)、General Electric Global Research (GE-GR)の主導によ り運営される。http://energy.gov/under-secretary-science-and-energy/articles/doe-announces-80-million-investment-build-supercritical

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術(SET)計画に基づく活動への継続的改革と共に、CCS の展開・支援に対するさらなるコミ ットメントを支えている。 EU-ETS は EU の気候政策の中核であり、EU はさまざまな改革を進めている。改革による 最終的な炭素価格の引き上げだけでなく、CCS をはじめとする低炭素技術への資金援助が 期待されている。 炭素価格の設定や資金調達メカニズムによる EU のアプローチは、これまで多くの国が注目 してきた発電所だけでなく、さまざまな部門から排出される CO2に対処するために重要であ る。 ノルウェーでは『CO2貯留のための金融保証と金融メカニズムに関するガイドライン(

Guidelines on the Financial Security and Financial Mechanism for CO2 Storage)(ノルウ ェー語版の英訳)』の開発により国の認証モデルが強化されると共に、CCS 技術の普及に向 けた政府の新たなコミットメント(Test Centre Mongstad の継続操業や CLIMIT プログラム( CCS 研究・開発・実証に関する国家プログラム)の諸活動に対する助成)が補完されている。 英国では、2015 年 11 月にコンペティション(CCS Competition)が中止されて以降、政策の 見直しが検討されつづけている。英国政府による CCS への関心は継続している。CCS への 支援を訴える動きや英国において CCS が果たす役割を検討することは、将来の政策決定に タイムリーかつ重要な影響を及ぼす可能性がある。 中東では、大規模 CCS プロジェクトが操業中であり、重要な研究開発努力が進められてい る。

アジア太平洋地域

アジア太平洋地域では、CCS に対する各国政府の方針に変更はなく、様々なアプローチを 通じた CCS 政策、法規制の作成が続けられている。 オーストラリア政府(連邦・州)は、資金調達と法律策定をにより CCS に対する支援を行って いる。2016 年、オーストラリア政府は CCS の研究開発に携わる組織やプロジェクトに対し約 2,400 万豪ドルの支援を発表した。 日本と中国は、CCS 技術の実証と展開を続けている。日本はパイロット・実証規模の CCS プロジェクトに取り組んでいる。中国は気候変動への取り組みに関する米中共同発表におい て CCUS に対する新たなコミットメントについて触れている。 インスティテュートが実施した初の(法規制)CCS フェローシップ・プログラムの結果、アジア太 平洋地域全体で効果的な CCS の商業展開を実現するにはさらなる法規制の整備が必要だ ということが明らかになった11

CCS 政策の後退?あるいは検討・展開へ向けた準備期間?

近年、CCS 政策の展開が減速したと思われる地域がある。しかし、政府が CCS 技術に対す る取り組みを見直し新たな支援を行うための検討期間かもしれない、と考えられる確かな理 由がある。 こうした検討期間は驚くべきことではないかもしれない。なぜなら、過去 10 年間における CCS 実証プロジェクトの資金調達は現在とはまったく異なる経済状況の下で行われたからで ある。また、これらのプロジェクトから得られた教訓を活かすことができるのである。輸送・貯

11 Gibbs, M. K., 2016. 効果的な CO2地中貯留(Effective enforcement of underground storage of carbon dioxide)。メルボルン。HWL Ebsworth Lawyers.

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留インフラ整備に対する投資家のリスクを軽減する重要性、および産業部門における CCS 展開の重要性、は数年前と比較して CCS を取り巻く議論が進んだテーマである。 日本、中国、ノルウェーをはじめとした国々が CCS への取り組みを表明し、パイロット規模や 実証規模のプロジェクトを促進しつつ大規模プロジェクトにおける技術実証への道筋をつけよ うとしている。英国では、さまざまなステークホルダーが英国の脱炭素化を最低限のコストで 達成するための CCS の重要性について強調しており、CCS を強く支持している(英国内の CCS 政策の再活性化を求めている)。 米国では、大規模 CCS プロジェクトの操業開始期限が訪れようとしており、これは政策支援 が中断された状況を表している。電力部門の脱炭素化推進を目的としたクリーン・パワー・プ ランは、現在訴訟対象となっている。2017 年に発足する新政権は米国のエネルギー・気候政 策全体を見直す契機となるかもしれない。カナダでは、サスカチュワン州政府が 2017 年に Boundary Dam 発電所の Unit 4・Unit 5 に CCS をレトロフィットするか、または廃炉にする か、について決定を行う予定である。 こうした検討期間は、将来の CCS 政策の方針性を検討するには有益であるが、行動しない ための言い訳にしてはならない。過去 10 年間、CCS プロジェクトのほとんどが北米で展開さ れてきた。これを継続するだけではなく、CCS の展開を欧州やアジアに広げることも必要であ る。

CCS の展開には引続き法規制が重要

安全かつ恒久的な CO2貯留を可能にするために不可欠な法規制の枠組みについて各国が 検討をつづけている。 しかし、プロジェクト全体をカバーする包括的な規制枠組みが整備された国はわずかしかな く、二極化(CCS 固有の法規制について進展が遅い国と早い国)している。 特に懸念されるのはパイプライン大規模プロジェクトに関する法整備であり、CCS 展開を支 援する国内の法規制モデルの検討が行われていない国(中国など)がある。

タイムリーな活動が重要

CCS に関する国内政策、法規制環境の整備については包括的かつ総合的なアプローチを 採用しなければならない。 排出削減に対する各国のコミットメントと共にパリ協定の目標達成において重要なことは削減 努力の規模と緊急性を示すことであり、CCS が組み込まれなければならない。

CCS 技術

「世界の CCS の動向:2015、2016」において多くの CCS 技術分野について取り上げた結 果、以下のことが明らかになった。  過去 10 年間、回収技術の大幅な進歩によりコスト削減が進み、さらなるコスト削減へ向 けた第 2 世代・転換技術の開発が進められている。政府・学界・産業界からの支援を受 け、電力・産業部門への適用へ向けた回収技術の研究プログラムが進められている。 国際協調と知識共有は、新技術の導入を加速させる鍵となる。  CO2の大量輸送は数十年にわたり検討が続けられており、国際基準へ向けて検討・改良 が進められると共に高い安全性を記録してきた。CCS の広範な普及に対応した CO2輸

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送をどのような規模で実施し、またどのように投資を呼び込むのかを探ることが主な課題 である。  貯留サイトの選択と安全な操業・終了・閉鎖に利用可能な技術が確立されている。さまざ まな規模の CO2貯留が世界中で成功している。CCS の展開に必要な貯留資源は膨大 にあり、今後数十年にわたり必要な貯留容量を上回っていることがさまざまな調査により 明らかになっている12

回収

回収費用が CCS チェーンの総コストの大半を占める。例えば、発電所における大規模 CCS プロジェクトでは 70~90 パーセントを回収と圧縮処理関連コストが占める。以下に挙げる取 り組みを通じてさらに費用対効果の高い回収技術の開発が進められている。  電力・新産業部門において CCS の実証を成功させることにより、設計・建設・操業に関す る経験(「実体験からの教訓」)を蓄積する。  様々な回収技術、より効率的な発電サイクル、産業処理に関する継続的な研究開発に努 める。  実験室規模からパイロット試験・大規模プロジェクト実証に至る知識の共有と協力に努め る。 『世界のCCSの動向:20142015』では、回収に関するパイロット規模の試験について強調 されている。他方、2016 では産業部門の回収に関する可能性と課題に焦点が当てられてい る。

回収-研究開発

大規模回収の操業に関する実証が大幅に進展した。操業中のプロジェクトから得た教訓は将 来の回収施設の設計・建設・操業コストの削減にとって有益な情報となる。Boundary Dam および Quest プロジェクトから得られた教訓により、後続する(同様の)CCS プロジェクトの設 計・建設関連コストを大幅に削減できる。 現在開発中の第 2 世代技術はパイロット規模の試験中であり、2025 年までに実証試験へ移 行する予定である。現行技術よりも 20 パーセントのコスト削減が可能とされている。転換技 術は、現行技術と比べて 30 パーセントのコスト削減(「n 番目のシステム」との比較が重要) を目標としており、2030 年までに実証試験への移行を目指している。 転換技術に関して以下に掲げる研究が進行中である。  CO2回収を目的に分子レベルで最適化された液体・固体素材の開発。  超音速膨張や電気化学処理などこれまでガス分離回収に使用されなかった技術の利 用。  複数の技術の利点を組み合わせたハイブリッド技術の開発。ハイブリッド技術は相乗効 果をもたらし、コストや性能面において単独の技術を上回る成果をもたらす可能性があ る。 12 こうした点は気候変動に関する国連枠組み条約事務局長Christiana Figueres 宛2015 年 10 月 8 日付公開状(/cop21-open-letter)『炭素回収貯留の二酸化炭素の確実かつ安全な地中貯留』に反映さ れている。以下 URL 参照:http: // www.sccs.org.uk/news/227-open-letter-to-christiana-figures-executive-secietary-of-the-united-nations-framework-convention-on-climate-change

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第 2 世代技術は、世界中で小型パイロット規模の試験(燃焼後システムでは 0.5-5 MWe、ノ ルウェーのモンスタッド(Mongstad)技術センター、米国の全国炭素回収(National Carbon Capture)センターなどの専用技術試験センター)が行われている。他にも同様の試験が可能 な施設(例えば、オーストラリア、カナダ、中国、ヨーロッパ、日本、韓国など)が多数存在す る。さらに大型パイロット規模(10-25 MWe)の試験も実施されており、これらの技術は更なる コスト削減へ向けた大きなうねりとなり、CCS の幅広い展開につながるかもしれない。 パイロット規模の試験が行われている技術は表 1 のとおり。 表 1: 第 2 世代回収技術のパイロット規模試験 回収技術 特徴/アプローチ 長所 規模 燃焼後-溶媒 プロセスの統合、接触 効率改善、高度な再生 スキーム、非水性溶 媒、触媒吸着 資本コスト・操業コスト 削減、エネルギー効率 向上、プロセス最適化、 モジュラー化アプロー チ、拡張対応可能 0.5~25 MWe 燃焼後-吸着 圧力変動吸着法、熱変 動吸着法、固定床、移 動床、流動床、担持ア ミン、アルカリ化アルミ ナ、 炭酸塩 概念(concept)実証、 プロセス最適化、吸着 剤の磨耗抵抗 1~10 MWe 燃焼後-膜 らせん形状、中空糸、 プレート・フレーム、溶 媒/ハイブリッドアプロ ーチ モジュール式、プロセ ス・イノベーション、プロ セス強化、使用水量削 減 1 MWe 燃焼前 最新溶剤、炭素系吸着 剤 溶媒コスト削減、プロセ ス統合・強化 0.1 MWe 酸素燃焼 加圧流動床酸素燃焼、 酸素/加圧 CO2動力 サイクル、カルシウム・ 鉄ベースのケミカル・ル ーピング 回収コスト削減、高効 率性、酸素キャリアの 磨耗削減、安価な酸素 キャリア 1~17 MWe セメント製造業 カルシウム・ルーピング プロセス革新、熱統合 0.2~0.6 MWe

産業部門における回収

化石燃料は鉄鋼、セメント、化学製造業など多くの産業製造にとって不可欠な燃料である。エ ネルギー効率の改善を除けば、CCS は長期的に CO2排出量を大幅に削減する唯一の大規 模技術である。 産業部門における回収は以下 3 つのカテゴリーに分類できる。

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 当初より CO2の分離プロセスが組み込まれている産業(天然ガス処理、バイオエタノー ル製造、アンモニア/肥料製造など)  比較的安価な CO2分離と販売・貯留が可能なほど高濃度・大容量の CO2がプロセスガ スストリームに存在する産業(精製処理における水素製造など)  規制要件の欠如、高額な回収コスト、国際競争力確保、投資インセンティブの欠如(また はこれら複合要因)により大規模な回収プロジェクトが存在していないものの、大量の CO2を排出する産業(鉄鋼、セメント、石油精製、パルプ・製紙など)。 第 1・2 カテゴリーは比較的成熟しており、多くの商業技術について回収に関して大規模な実 証が行われている。他方、第 3 カテゴリーの回収はより難しく、CO2濃度が低いためにエネル ギー集約的かつ高コストの回収アプローチが必要となる。 現在、低濃度のガスストリームに対する回収コストの削減を目指した研究開発が進んでい る。表 2 は産業部門における CO2回収の現状についてまとめたものである。大規模プロジェ クトは、高濃度のガスストリームを伴う産業に集中しており、低濃度ガスストリームを伴う産業 ではパイロット・実験室規模の開発が中心となっている。 表 2: 産業部門別 CO2回収の概要 産業部門 規模 概要 大規模 パイロット 実験室 天然ガス処理 ● ● 変動する CO2濃度(2~70%)。大規模な物理・化 学・膜分離プロセス。既存の工程において CO2を 分離。 アンモニア肥 料 ● 既存の尿素製造工程においてほぼ純粋な CO2スト リームを分離。余剰 CO2の大部分は放出されてい るが圧縮・輸送・貯留/使用が可能。 バイオエタノー ル ● ● 既存の発酵工程においてほぼ純粋な CO2ストリー ムを分離。CO2の大部分は放出されているが、圧 縮・輸送・貯留/使用が可能。 水素 ● ● プロセスガスストリームにおいて変動する CO2濃度 (15~50%)。高濃度ストリームから CO2の約 60% を回収。 鉄鋼 ● ● ● 高炉において低濃度の CO2ガスストリームが発 生。還元鉄工程において高濃度のストリームが発 生。 セメント ● ● 化石燃料の使用と化学反応により CO2が発生。製 造工程が高温となることから回収プロセスにとって はメリット。 石油精製 ● ● 精油所内の水素製造ではなく、他の複数の低濃度 排出源により回収方法が複雑化する。 パルプ・製紙 ● ● 製造工程において低濃度排出源が複数存在するた め、回収方法が複雑化する。

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輸送

パイプライン、トラック、電車、船舶による CO2の輸送は世界中で日常的に行われている。パ イプライン輸送は CCS プロジェクトにおいて大量の CO2を輸送する最も一般的な方法であ り、今後も主流となるであろう。米国だけでも約 7,600 キロの陸上 CO2パイプラインが存在 し、自然由来の CO2約 68Mtpa を EOR 目的のために輸送している。 CO2パイプラインは蓄積された経験、実証済みの設計、確立された規約・規制に基づき優れ た安全性と実績を誇っている。 既存の CO2パイプライン網は、規制や業界基準を満たした設計と運用がなされている。既存 の国内・国際パイプライン基準および規約を補足すべく、今年 CO2輸送システムの国際規格 が策定された(ISO 規格 27913:2016)13。ISO 規格は、大規模 CCS プロジェクトにおける CO2輸送問題を対象としたものである。 現在、パイプライン設計に必要な新しい予測モデルの開発・検証によってコスト削減と安全性 を向上させる研究が進められている。最近の研究によれば、オンショア貯留や沿岸貯留が難 しい場合の柔軟かつ費用対効果の高い代替手段として、CO2パイプラインに代わり船舶輸送 が検討されるなど、大規模船舶輸送に技術者の関心が高まっている。 長距離 CO2輸送システムのための大規模「基幹輸送網」の開発は、EOR を目的とした CO2 輸送にとって枯渇油田と複数の産業排出源を接続する上で効果的であることが北米で証明 されている。北米の実績は、密集した排出源(クラスター)と経済性のある貯留サイト地域にと って、インフラ開発インセンティブの重要性を示す貴重な教訓となる可能性がある。

貯留

過去 20 年間、オンショア・オフショアにおいて多数のパイロット規模・大規模 CO2地中貯留 が実証された。これは主に米国における 40 年にわたる CO2-EOR 事業を基盤に達成された ものである。こうした実績から、CO2貯留サイトの選択・安全操業・(安全な)閉鎖に求められ るベストプラクティスと技術が確立された。 貯留サイトに求められる 3 つの基本的な技術要件は以下のとおり。 1. 気密性 — リスク(潜在的な漏洩を含む)が低く、管理可能な地中貯留層に CO2を安全に貯留でき なければならない。 2. 容量 — 所定量の CO2を恒久的に貯留可能な地下貯留層が必要である。 3. 圧入性(圧入速度) — 産業排出源の回収プロセスに適した速度で CO2を圧入することが可能な 地下貯留層が必要である。

気密性

CO2-EOR 及び純粋な貯留プロジェクトから得られた経験は、天然ガス貯留や酸性ガス廃棄 物処理などと共に、貯留サイトの選定・特性評価・運用・安全な閉鎖を保証する効果的なリス ク管理に役立った。 リスク管理の原則については、『世界のCCSの動向:2014』参照。 CO2貯留におけるリスク管理の第一は、最適な地質サイトを選定し漏洩の可能性を最小化す ること、貯留層に繋がるあらゆる坑井の完全性を維持すること、である。さまざまな規模のプ 13http://www.iso.org/iso/catalogue_detail.htm?csnumber=64235

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ロジェクト(操業中・終了)で示されるように、適切な特性評価が行われ操業されているサイト ではリスクが非常に低いと考えられる。 さらに研究開発によって、貯留メカニズム、CO2プルーム状態・移動経路が明らかになってき ている。CCS 技術が実証サイトで試験されることにより、圧入された CO2を効果的に追跡す るための坑井設計、プルーム/貯留層のモデリング容量、モニタリング技術が向上した。 操業実績及び国際研究開発プログラムから得られた知識は、広範なベストプラクティスを示し たガイダンスに盛り込また。そして現在、CO2地中貯留の国際規格に統合されている(CO2 の回収・輸送・地中貯留に関する国際標準化機構(ISO)技術委員会(TC)265 の一部を形 成)。 パイロット規模・実証規模・大規模の圧入から得られた経験は、文書化され、公に利用できる ようになっている。米国 DOE 地域炭素隔離パートナーシップや EU CCS 実証プロジェクト網 などの共同プログラムにより、知識共有と圧入実績の蓄積が進み、地球規模で CCS の普及 が加速されるのである。 CO2のモニタリングはリスク管理上の重要な要素である。圧入された CO2の状態を把握する と共に規制当局や関係者に対してプロジェクトが計画通り進行していることを示すことにな る。各貯留プロジェクトに対応した個別モニタリングプログラムの作成が必要となる。 パイロット規模・商業規模のプロジェクトでは、さまざまなモニタリング技術により圧入された CO2の測定、モニタリング、検証が行われている。 世界中で展開されているさまざまな規模の貯留活動により、地中の CO2の挙動をより正確に 把握できるようになってきている。

貯留容量

気候緩和目標の達成に必要な CCS の普及を加速させるためには、主要な地域で十分な貯 留資源が確保されているという強い確信がなければならない。 多くの国々が貯留資源の評価を行っている。各国の貯留資源評価については『世界のCCS の動向:2015』を参照。世界の主要地域の大半が貯留資源を有しており、削減目標へ向けた CCS の商業展開を支援するのに十分な貯留量が確保されていると結論づけている。 貯留資源の評価レベルは地域によって大きく異なるものの、信頼できる手法により貯留資源 の決定・分類が行われている。 米国、カナダ、オーストラリア、日本、ノルウェー、英国などの主要国では、貯留資源に関する 詳細な調査がすでに実施されている。また、欧州や東南アジアなど数カ国に跨る国際イニシ アチブによって貯留資源のデータベースが拡充されている。中国、ブラジル、メキシコ、南アフ リカなどは貯留資源の理論的評価を進めている。 こうした評価から、CCS の展開に必要な貯留資源は膨大に存在し、少なくとも今後数十年間 に必要な貯留容量をはるかに上回る貯留資源が示されている。例えば、地域炭素隔離パー トナーシップによる評価では、規制・経済上の制約はあるものの、米国・北米地域では少なく とも 2 兆トン以上の CO2を深部塩水層に貯留できる可能性がある14。 しかし、正確な地質状況は各貯留プロジェクトにより異なるため、プロジェクト実施主体が最 終投資決定を行うには、信頼できる貯留容量を把握するための詳細なサイト調査が必要であ る。このことから、各地域の貯留資源評価が、個別サイトの詳細な特性・予測モデリング研究

参照

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