ミスアロケーションと事業所のダイナミクス - 180 -
ミスアロケーションと事業所のダイナミクス
*1細野薫
*2滝澤美帆
*3要 約
資源の非効率な配分(ミスアロケーション)は,企業・事業所の規模や参入・退出行動を 歪め,経済全体の生産性(TotalFactorProductivity:TFP)を低下させる。本稿では,日本の製 造業を対象に,事業所レベルの資本と産出の歪み(wedge)を計測し,その規模分布,参入・ 退出,および製造業全体の TFP への影響を試算した。さらに,歪みの要因を分析した。主要 なファインディングは,以下のとおりである。 第1に,もし資本と労働が米国と同程度に効率的に(すなわち,限界生産力が均等化され るように)再配分されれば,日本の製造業全体の TFP は 7.7%上昇する。また,過去 30 年の 間に,資源配分の効率性は低下傾向にあった。 第2に,現実の事業所の規模分布は,資本と産出の歪みがない場合の仮想的な分布に比べ ると,全体のばらつきが小さく,また規模の大きな事業所(例えばトップ 1%)のシェアが小 さく,規模の小さな事業所(例えばボトム 20%)のシェアが大きい。 第3に,資本と産出の歪みが大きい産業ほど退出・参入事業所の割合が低く,同一産業内 では資本と産出の歪みが大きい事業所ほど,退出確率が高い。 最後に,歪みの要因としては,借入制約に直面する可能性が高い産業に属している事業所 ほど資本の歪みが大きく,また,生産性の高い事業所ほど産出の歪みが大きい。 本稿の結果は,資源配分の効率性を改善させることよって生産性を改善させる余地は大き いが,そのためには,金融システムの資金配分機能を向上させるとともに,規模に依存した 政策を見直し,生産性の高い事業所に対する制約を除く(あるいは生産性の低い事業所に対 する補助を削減する)ことが重要であることを示唆している。 * 1 阿部修人,青木浩介,伊藤隆敏,上田晃三,江上雅彦,小林慶一郎,宮川大介,宮川努,中川雅之,中島智之, 小川一夫,齊藤誠,櫻川昌哉,敦賀貴之,渡辺努,CatherineWolfram,SjamsuRahardjaの各氏,その他一橋大学, 日本大学,RIETI,学習院大学,京都大学,CARF,NBER-EASE2012,日本経済学会 2012 年度春季大会, SWET2012 におけるセミナーでの参加者からのコメントに対して,謝意を表する。なお,細野薫は,科学 研究費の基盤研究(S)No.22223004 の助成を受けている。 * 2 財務省財務総合政策研究所総括主任研究官。学習院大学経済経営研究所客員所員。〒 171 - 8588 東京 都豊島区目白 1 - 5 - 1 Email.[email protected]Tel.+81-3-5992-4909.Fax.+81-3-5992-1007。 *3 東洋大学経済学部准教授,財務省財務総合政策研究所客員研究員。〒112-8606 東京都文京区白山5-28-20 Email.[email protected]Tel.+81-3-3945-7423.Fax.+81-3-3945-7667。< 財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成 25 年第 1 号(通巻第 112 号)2013 年1月> - 181 - 完全な市場のもとでは,資源配分は最適とな り,何ら生産の損失は生じない。しかし,現実 の経済では,さまざまな規制,税・補助金,労 働市場におけるミスマッチ,金融市場の不完全 性などの歪み(distortionあるいはwedge)によ り,資源配分は非効率的となり,生産の損失が 生じる。 例として,企業AとBの2企業からなる経済 を考えよう(図1)。仮に何の歪みもなければ, 生産要素の需要(限界生産力)と供給が一致す る点で要素価格が決まり,このとき,経済全体 の生産は最大となる。他方,例えば企業Aには 補助金が給付され,企業Bに税が課されている 場合,企業Aの生産は過大であり,企業Bの生 産は過小となる。ここで重要なのは,両者の生 産の合計が,歪みが無い場合に比べて,死荷重 (シャドー部)分だけ小さくなる点である。経 済全体の生産要素量を所与として総生産が減る ということは,歪みによって経済全体の生産性 (TotalFactorProductivity:TFP)が低下している ことを意味している。換言すると,限界生産性 の低い企業から限界生産性の高い企業に資源を 移動させることによって,経済全体の生産性が 高まる余地がある。
Ⅰ.はじめに
図1 ミスアロケーションの例ミスアロケーションと事業所のダイナミクス - 182 - このように,企業あるいは事業所レベルでの 歪み(distortion)が資源配分の非効率性を生み, 経済全体の生産性を低下させることは,近年, 途上国を対象とした研究で明らかになりつつ あ る(RestucciaandRogerson,2008;Hsiehand Klenow,2009)。たとえば,HsiehandKlenow (2009)は,アメリカと同程度に労働と資本の 限界生産力が事業所間で均等化されれば,中国 では TFP が 30-50%上昇し,インドでは TFP が 40-60% 上昇することを示している。 本論文は,日本の製造業を対象として,資源 配分の歪みの要因とマクロ経済への影響を定量 的に把握することを目的としている。具体的に は,第一に,事業所レベルで,資本と生産に 対する歪みを計測し,その歪みが規模の分布, 参入・退出,および集計された TFP にどの程 度の影響を及ぼしているかを定量的に把握す る。事業所レベルの歪みの計測には,Hsiehand Klenow(2009,以下 HK)の手法を用いること とする。歪みがなければ均等化されるであろ う事業所間の限界収入の違いを計測するのが, HK の基本的な分析のアイディアである。した がって,歪みを測るのに必要とされる主なデー タは,事業所レベルの限界収入の推計に必要な, 名目産出額,労働費用,および資本ストックで ある。 第二に,事業所レベルの歪みが,どのよう な要因によって生じているかを明らかにする。 特に,借入制約が資本の配分を非効率にして いるかどうかに着目する。借入制約があると, 生産的な企業に規模拡大のために必要とされ る外部資金が十分に提供されない一方で,非 生産的企業に豊富で低コストの資金が供給さ れてしまい,規模の縮小を促すことができな い。仮に,資本やその他の資源が,非生産的な 企業から生産的企業に配分されれば,経済全 体の生産性をより高めることができる(Jeong andTownsend,2007;Bueraetal.,2001;Moll,2010; MidriganandXu,2010)。我々は,借入制約の指 標として,技術的な資金需要を示すと考えられ る,上場企業の産業別外部資金依存度を用いる こととする。個別企業(あるいは事業所)レベ ルの外部資金依存度を用いないのは,中小企業 を含む我々のサンプルでは,資金需要のみなら ず,借入制約の影響も受けてしまうため,仮に 外部資金依存度が低くても,資金需要が少ない のか,資金需要はあるが借入制約に直面してい るのかの判別ができないことによる(Rajanand Zingales,1998)。 本研究により得られた結果は以下の通りであ る。第一に,もし資本と労働が米国と同程度に, 限界生産力が均等化されるように再配分されれ ば,日本の製造業の TFP は 7.7%上昇する。また, 生産の歪みと資本の歪みをすべて取り除くと, 日本の製造業全体の TFP は 47.2%上昇し,資 本の歪みのみを取り除くと,製造業全体の TFP は 23.4%上昇する。さらに,過去 30 年の間に, 資源配分の効率性は低下傾向にあった。第二 に,現実の事業所の規模分布は,資本と産出の 歪みがない場合の仮想的な分布に比べると,全 体のばらつきが小さく,また規模の大きな事業 所(例えばトップ 1%)のシェアが小さく,規 模の小さな事業所(例えばボトム 20%)のシェ アが大きい。第三に,資本と産出の歪みが大き い産業ほど退出・参入事業所の割合が低く,同 一産業内では資本と産出の歪みが大きい事業所 ほど,退出確率が高い。最後に,歪みの要因と しては,借入制約に直面する可能性が高い産業 に属している事業所ほど資本の歪みが大きく, また,生産性の高い事業所ほど産出の歪みが大 きい。 本研究は,主にミスアロケーションに関する 先行研究と関連しているが,その多くは,米 国,あるいは,発展途上国を対象としている (HsiehandKlenow,2009;RestucciaandRogerson ,2008;JeongandTownsend,2007;Bueraetal., 2011;Moll,2010;MidriganandXu,2010)。例え ば Bueraetal.(2011)は,金融市場の不完全性が, 国による TFP の違いの相当割合を説明するこ とができることを示している。Moll(2010)も, 同じく 2 つの新興市場経済(チリとコロンビア) では,金融市場のフリクション(摩擦)によっ
< 財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成 25 年第 1 号(通巻第 112 号)2013 年1月> - 183 - て米国と比べ最大 20%程度マクロの生産性の 低さを説明できることを示している。一方で, MidriganandXu(2010)では,外部資金が全く 得られない経済でさえも,ミスアロケーション における全要素生産性(TFP)の損失は,せい ぜい 5 ~ 7%程度であるとの結果が得られてい る。これらの先行研究に対し,本稿では,日本 を対象とすることで,米国以外の先進国におけ る様々なひずみによるミスアロケーションの分 析を行っている。 本研究はまた,日本の金融機関のゾンビ企業 に対する貸出による信用のミスアロケーション に関する先行研究とも関連している。Peekand Rosengren(2005)は,日本の銀行は 1990 年代 の不況期に,間違った方法で信用を割り当てて いたことを指摘している。Caballeroetal.(2008) は,返済不能であるが,銀行の援助により破産 を免れている企業をゾンビと名付け,ゾンビ企 業が数多く存在する産業の生産性が低いことを 示した1)。Kwonetal.(2009)では,Restuccia andRogerson(2008)で用いられた手法を「工 業統計調査」を用いて作成した日本の製造業事 業所のデータベースに適用し,ゾンビ企業への 貸出のマクロ経済の生産性への影響についての 実証分析を行っている。彼らは,1990 年代の 労働のミスアロケーションによる経済全体の生 産性成長率の低下の 37%が,ゾンビ企業への 貸出に起因していると指摘している。しかし, 本研究で用いられるデータセットは製造業に属 する事業所のデータセットであり,Caballeroet al.(2008)で,ゾンビ企業が多く存在している と指摘されている建設業や不動産業,卸売・小 売業,その他の非製造業に属する事業所は含ま れていない。また,本研究では銀行危機の期間 だけではなく,過去およそ 30 年間にわたる日 本のミスアロケーションを分析する2)。このた め,90 年代の非製造業におけるゾンビ企業の 存在を考慮すれば,ミスアロケーションの影響 は,本稿の試算値よりも大きくなる可能性があ る。 本稿の構成は以下の通りである。第Ⅱ節では, HK の手法を日本の製造業に属する事業所レベ ルデータに適用し,事業所レベルの歪みと,歪 みが経済全体の TFP と事業所の規模分布に及 ぼす影響を計測する。第Ⅲ節では,事業所及び 産業の特性を表す様々な変数をコントロール変 数として用いて,外部資金依存度が事業所レベ ルの歪みに与える影響について分析を行う。第 Ⅳ節では結論を示す。 本節では,事業所レベルの資本と産出の歪み の計測方法ついて述べる。そして,歪みが経済 全体の生産性や事業所の規模分布に与える影響 を分析する。 Ⅱ-1.モデル 本節では,HK モデルに従い,独占的競争下 での静学的部分均衡モデルのセットアップを行 う。経済には,代表的な最終財生産者,代表的 な産業別の財の生産者,そして各産業における 1)Caballeroetal.(2008)では,ゾンビ企業への貸出の経済全体への影響についての分析は行われていない。 2)FukudaandNakamura(2011)では,2000 年代前半に大部分のゾンビ企業が復活したと述べられている。 AkiyoshiandKobayashi(2010)は日本の銀行危機が企業レベルの生産性に与える影響を実証的に分析してい る。金融危機が集計された TFP に与える影響に関するその他の実証研究に関しては,PratapandUrrutia(2010) を参照されたい。
Ⅱ.歪みと経済全体の TFP 損失の計測
ミスアロケーションと事業所のダイナミクス - 184 - 3)代わりに起業家が,労働の歪み 5 ラス型の生産関数により生産する。 , 1
∏
= = S s s s Y Y θ∑
= = S s s where 1 1 θ (1) 産業の生産財Ysの価格をPsで表し,完全競争市場における費用最小化問題を解くと, PY Y Ps s=θs (2) が得られる。 s s s P P θ θ∏
= は最終財の価格で,限界費用と等しい。最終財をニュメレ ールとし,P=1とする。 産業sの最終財生産者si∈{
1, ,,Ms}
は,差別化された財Ysiを組み合わせることによっ て,産業の財YsをCES生産関数で表される技術で生産する。 , 1 1 1 − = − =∑
σ σ σ σ Ms i si s Y Y σ>1(3) 差別化された財の価格をPsiで表し,費用最小化問題を解くと, σ σ 1 1 − = s s si si PY Y P (4) が得られる。σは差別化された財siの需要の価格弾力性を示している。 起業家siは,企業固有のTFPであるAsiと規模に関する収穫一定のコブ・ダグラス型 生産関数で表される技術を用い,資本ストックKsiと労働Lsiより,差別化された財Ysiを 生産する。 s s si si si si AK L Y = α 1−α (5) 本稿では,限界費用と限界収入を乖離させる2つの歪みを考慮する。一つは産出の歪 みであり,それをτYsiで表し,もう一つは資本の歪みで,それをτKsiと表す。産出と資 本の歪みのかわりに,労働と資本の歪みを考慮することもできるが,3つの歪みのうち, 2つの歪みを特定化することで,残りの歪みも一意に求めることができるので,今回は 産出と資本の歪みの2つを考慮することとする3) Y τ 。 は,例えば政府によって生産活動 に厳しい規制がかけられている企業にとっては高く,補助金を得ている企業については 3) 代わりに企業家が,労働の歪み Lsi * τ と資本の歪みτ*Ksiに直面していると仮定する。一階の条件を比 べると, Lsi Ysi 1 1* 1 τ τ + = − , Lsi Ksi Ksi * * 1 1 1 τ ττ + + = + となる。つまり,産出と資本の歪みが労働の歪みに よって,基準化されていることになる。そのため,どの歪みを選ぶかによって,集計されたTFP(TFPGAP やTFPGAIN)には影響が出ないことが示される。 と資本の歪み 5 ラス型の生産関数により生産する。 , 1∏
= = S s s s Y Y θ∑
= = S s s where 1 1 θ (1) 産業の生産財Ysの価格をPsで表し,完全競争市場における費用最小化問題を解くと, PY Y Ps s=θs (2) が得られる。 s s s P P θ θ∏
= は最終財の価格で,限界費用と等しい。最終財をニュメレ ールとし,P=1とする。 産業sの最終財生産者si∈{
1, ,,Ms}
は,差別化された財Ysiを組み合わせることによっ て,産業の財YsをCES生産関数で表される技術で生産する。 , 1 1 1 − = − =∑
σ σ σ σ Ms i si s Y Y σ>1(3) 差別化された財の価格をPsiで表し,費用最小化問題を解くと, σ σ1 −1 = s s si si PY Y P (4) が得られる。σは差別化された財siの需要の価格弾力性を示している。 起業家siは,企業固有のTFPであるAsiと規模に関する収穫一定のコブ・ダグラス型 生産関数で表される技術を用い,資本ストックKsiと労働Lsiより,差別化された財Ysiを 生産する。 s s si si si si AK L Y = α 1−α (5) 本稿では,限界費用と限界収入を乖離させる2つの歪みを考慮する。一つは産出の歪 みであり,それをτYsiで表し,もう一つは資本の歪みで,それをτKsiと表す。産出と資 本の歪みのかわりに,労働と資本の歪みを考慮することもできるが,3つの歪みのうち, 2つの歪みを特定化することで,残りの歪みも一意に求めることができるので,今回は 産出と資本の歪みの2つを考慮することとする3) Y τ 。 は,例えば政府によって生産活動 に厳しい規制がかけられている企業にとっては高く,補助金を得ている企業については 3) 代わりに企業家が,労働の歪み Lsi * τ と資本の歪みτ*Ksiに直面していると仮定する。一階の条件を比 べると, Lsi Ysi 1 * 1 1 τ τ + = − , Lsi Ksi Ksi * * 1 1 1 τ ττ + + = + となる。つまり,産出と資本の歪みが労働の歪みに よって,基準化されていることになる。そのため,どの歪みを選ぶかによって,集計されたTFP(TFPGAP やTFPGAIN)には影響が出ないことが示される。 に直面していると仮定する。一階の条件を比べると, 5 ラス型の生産関数により生産する。 , 1 ∏ = = S s s s Y Y θ ∑ = = S s s where 1 1 θ (1) 産業の生産財Y の価格をs P で表し,完全競争市場における費用最小化問題を解くと, s PY Y Pss=θs (2) が得られる。 s s s P P θ θ ∏ = は最終財の価格で,限界費用と等しい。最終財をニュメレ ールとし,P=1とする。 産業sの最終財生産者si∈{1,,,Ms}は,差別化された財Y を組み合わせることによっsi て,産業の財Y をCES生産関数で表される技術で生産する。 s , 1 1 1 − = − = ∑ σ σ σ σ Ms i si s Y Y σ>1(3) 差別化された財の価格をP で表し,費用最小化問題を解くと, si σ σ1 −1 = ss si si PY Y P (4) が得られる。σは差別化された財si の需要の価格弾力性を示している。 起業家si は,企業固有のTFPであるA と規模に関する収穫一定のコブ・ダグラス型si 生産関数で表される技術を用い,資本ストックK と労働si L より,差別化された財si Y をsi 生産する。 s s si si si si AK L Y = α 1−α(5) 本稿では,限界費用と限界収入を乖離させる2つの歪みを考慮する。一つは産出の歪 みであり,それをτYsiで表し,もう一つは資本の歪みで,それをτKsiと表す。産出と資 本の歪みのかわりに,労働と資本の歪みを考慮することもできるが,3つの歪みのうち, 2つの歪みを特定化することで,残りの歪みも一意に求めることができるので,今回は 産出と資本の歪みの2つを考慮することとする3) Y τ 。 は,例えば政府によって生産活動 に厳しい規制がかけられている企業にとっては高く,補助金を得ている企業については 3)代わりに企業家が,労働の歪みτ*Lsiと資本の歪みτ*Ksiに直面していると仮定する。一階の条件を比 べると, Lsi Ysi 1 * 1 1 τ τ + = − , Lsi Ksi Ksi * * 1 1 1 τ τ τ + + = + となる。つまり,産出と資本の歪みが労働の歪みに よって,基準化されていることになる。そのため,どの歪みを選ぶかによって,集計されたTFP(TFPGAP やTFPGAIN)には影響が出ないことが示される。 , 5 ラス型の生産関数により生産する。 , 1 ∏ = = S s s s Y Y θ ∑ = = S s s where 1 1 θ (1) 産業の生産財Y の価格をs P で表し,完全競争市場における費用最小化問題を解くと, s PY Y Pss=θs (2) が得られる。 s s s P P θ θ ∏ = は最終財の価格で,限界費用と等しい。最終財をニュメレ ールとし,P=1とする。 産業sの最終財生産者si∈{1,,,Ms}は,差別化された財Y を組み合わせることによっsi て,産業の財Y をCES生産関数で表される技術で生産する。 s , 1 1 1 − = − = ∑ σ σ σ σ Ms i si s Y Y σ>1(3) 差別化された財の価格をP で表し,費用最小化問題を解くと, si σ σ 1 1 − = ss si si PY Y P (4) が得られる。σは差別化された財si の需要の価格弾力性を示している。 起業家si は,企業固有のTFPであるA と規模に関する収穫一定のコブ・ダグラス型si 生産関数で表される技術を用い,資本ストックK と労働si L より,差別化された財si Y をsi 生産する。 s s si si si si AK L Y = α 1−α(5) 本稿では,限界費用と限界収入を乖離させる2つの歪みを考慮する。一つは産出の歪 みであり,それをτYsiで表し,もう一つは資本の歪みで,それをτKsiと表す。産出と資 本の歪みのかわりに,労働と資本の歪みを考慮することもできるが,3つの歪みのうち, 2つの歪みを特定化することで,残りの歪みも一意に求めることができるので,今回は 産出と資本の歪みの2つを考慮することとする3) Y τ 。 は,例えば政府によって生産活動 に厳しい規制がかけられている企業にとっては高く,補助金を得ている企業については 3)代わりに企業家が,労働の歪み Lsi * τ と資本の歪みτ*Ksiに直面していると仮定する。一階の条件を比 べると, Lsi Ysi 1 * 1 1 τ τ + = − , Lsi Ksi Ksi * * 1 1 1 τ τ τ = ++ + となる。つまり,産出と資本の歪みが労働の歪みに よって,基準化されていることになる。そのため,どの歪みを選ぶかによって,集計されたTFP(TFPGAP やTFPGAIN)には影響が出ないことが示される。 となる。つまり,産出と資本の歪みが,労働の歪みによって基準化されていることに なる。そのため,どの歪みの組み合わせを選ぶかによって,集計された TFP(TFPGAP や TFPGAIN)には 影響が出ないことを示すことができる。 差別化された財を生産する多数の生産者がい る。差別化された財の生産者は、それぞれ一つ の事業所を所有する。以下、最終財生産者や産 業別財の生産者と区別するため、差別化された 財の生産者を、単に起業家と呼ぶ。最終財生産 者と産業別の財の生産者は,完全競争市場にお いて生産活動を行っているが,起業家は独占的 競争市場で生産活動を行っている。 最終財生産者は,産業 4 をゾンビと名付け,ゾンビ企業が数多く存在する産業の生産性が低いことを示した1)。Kwon et al. (2009)では,Restuccia and Rogerson (2008)で用いられた手法を「工業統計調査」 を用いて作成した日本の製造業事業所のデータベースを用いて適用し,ゾンビ企業への 貸出のマクロ経済の生産性への影響についての実証分析を行っている。彼らは,1990 年代の労働のミスアロケーションによる,経済全体の生産性成長率の35%低下が,ゾン ビ企業への貸出に起因していると指摘している。しかし,本研究で用いられるデータセ ットは製造業に属する事業所のデータセットであり,Caballero et al. (2008)で,ゾンビ企 業が多く存在していると指摘されている建設業や不動産業,卸売・小売業,その他の非 製造業に属する事業所のデータが含まれていない。また,本研究では銀行危機の期間だ けではなく,過去およそ30年間にわたる日本のミスアロケーションを分析する2) 本稿の構成は以下の通りである。第Ⅱ節では,HKの手法を日本の製造業に属する事 業所レベルデータに適用し,事業所レベルの歪みと,歪みが経済全体のTFPと事業所の 規模分布に及ぼす影響を計測する。第Ⅲ節では,事業所及び産業の特性を表す様々な変 数をコントロール変数として用いて,外部資金依存度が事業所レベルの歪みに与える影 響に関する分析を行う。第IV節では結論を示す。 。この ため,90年代の非製造業におけるゾンビ企業の存在を考慮すれば,ミスアロケーション の影響は,本稿の試算値よりも大きくなる可能性がある。 Ⅱ.歪みと経済全体のTFP損失の計測 本節では,事業所レベルの資本と産出の歪みの計測方法ついて述べる。そして,歪み が経済全体の生産性や事業所の規模分布に与える影響を分析する。 Ⅱ-1.モデル 本節では,HKモデルに従い,独占的競争下での静学的部分均衡モデルのセットアッ プを行う。経済には,代表的な最終財生産者,代表的な産業別の財の生産者,そして各 産業おける差別化された財を生産する多数の起業家がいる。最終財生産者と産業別の財 の生産者は,完全競争市場において生産活動を行っているが,起業家は独占的競争市場 で生産活動を行っている。 最終財生産者は,産業s∈
{
1, ,,S}
の生産財Y
sを組み合わせて,最終財Y
をコブ・ダグ 1) Caballero et al. (2008) では,ゾンビ企業への貸出の経済全体への影響についての分析は行われていな い。2)Fukuda and Nakamura (2011) では,2000 年代前半に大部分のゾンビ企業が回復したと述べられている。
Akiyoshi and Kobayashi (2010)は日本の銀行危機が企業レベルの生産性に与える影響を実証的に分析して いる。その他の,金融危機が集計されたTFP に与える影響に関する実証研究に関しては,Pratap and Urrutia (2010)を参照されたい。 の生産財 YS を組み合わせて,最終財 Y をコブ・ダグラス 型の生産関数により生産する。 5 ラス型の生産関数により生産する。 , 1