第三回 尾道 大学 「魂の一行詩」講 座 五月十六日(火) 午後三時四十五分、新尾 道 駅に着くと、い つ も の ように尾 道大学参事の阪井正道さんの 出 迎え で 、 大学へ。本日は同行の海老原実 君も、 「 魂 の 一行詩」を三句提出 す ることになっ て い る。 五月二十五日(木 )から映画「蒼き狼~地 果 て 海 尽きるまで ~」の撮影のために モンゴルへ行 くの で 、 讀賣新聞 と産経新聞の原稿を今朝書 き上げた。二回 分まとめた原稿は次の通り で ある。 産経新聞に渡した原稿は次の通り で ある。 檻の 中 そ こ にある す すきが遠し 檻の 中 獄に棲 む 魑魅(すだま)が 手鞠(て まり)つい て をり 五月憂し妻の手紙に SO LONG 勃起 (ぼっき)せし わが魔羅(まら)か なし夕ざくら 獄を出 て 春の寒さのあるばかり 「魂の一行詩」とは、作者の、 つまりおの れ の「 いの ち 」を一行の詩に乗せ ることが 、一番の 要( かな め)な の で あ る 。 作者の「 いのち 」 と「 たま し ひ 」の叫び が 、 読み 手の「 た ま し ひ 」 と 「こころ 」に通い合うの で ある。以上の五句は、全 て 刑務所の中で の句。 赤い電車 竜天に 登 る日暮の地下の街 春愁(しゅんしゅう)や家族ゐる日の淋しさよ 血を 売って 来 し青年やところて ん 昼の蛾や娼婦が胸 を病ん で をり かげろふ や 赤 い電 車が来て 停まる 元小説家 の友人 で あ る河村季 里 君は、私の 一 行詩を読ん で 、 「 春樹 さんの句は ド ラ マ 性 が ある。 そ こ が他の俳人の作品 と決定的に異なっ て い る」 と述べた が、 正に、 「 魂の一行詩」 とは、 一句の 中 に ドラ マを 含 ん で い な け れ ば ならな い 。 故 に 、 実 よ りも 虚の方が大き く 、 比重が 高 い。詩と は ド ラ マ性の こ とだ。 「 魂 の 一行詩」 は、 他の文芸や映像、 音楽 をも充分に凌 ぐ こ とが できると断言 する。
讀賣新聞に渡した原稿は次の通り で ある。 一行 詩 の 三 原 則 角川 春 樹 二十七年前、私が三 十六歳の時 に 、父・角 川源義の創 刊した俳句 誌「河」を継承した。 腐敗し た俳壇の権威と 権 力にしがみつく者との間で分 裂 騒ぎが 起 こ り 、 結 社誌 「河」 を 立て 直 す ために、 全国に角 川 春樹俳句教 室を作り、 指 導にあた った。良い 俳 句には原 理原則があ る はず と考 え、俳 句の三原則を揚げた。私自身を含め、多くの 弟子 た ち が数々の俳句 の賞を受賞 し た。良い 俳句は 良い 一行 詩 で もあるの で、 次の ことを銘記し て欲しい 。 一.俳句とは映像の復元力 である 二.俳句とはリズム で ある 三.俳句 とは自 己 の投影 で ある。 今回の投句は、 こ の原則に基づい て 選句した。結果は次の通り である。 特選 延命のパイプを外す 涅 槃西風(ねはんにし) 宮本 次 雄 自由なぞな い わ よ 遮断機が 降りる 青木みち 道 な らぬ道に熟れゆく蛇苺 古内美 也 子 秀逸 片付けも死ニ方用意視 野に 入れ 齋藤升八 物の芽や全身全霊の震 え 高橋明江 暮れてなお渚のシャドウ ・ ボクシング 松本一美 この 国 の 何 か こはれ ゆ くさ ざん か 佐野しげを 罪の沸く場所に人 間巣をつくる 山口はんし 「魂の一行詩」は 、前述の「 自 己の投影」 が 特に重 要 となる。単 な る 写 生では 、 作者が見え てこな い。 どう詠む かの前に、何 を詠む の か が 大切だ 。 吟行句や風土 俳句だけ で は 、一番大事な ことを忘れた ことに な る。
今年 の三月十 八日に、詩 人 で 俳 人の 加藤 郁 乎 氏が選 ん だ 賞 の授賞式が 東 京會舘で 行わ れた。 俳人 とし ては、 こ の第 八回の賞 が最後となる。私は俳句 の 賞を唯一 独占し て し ま ったから だ。 こ の賞の以後、私 は 俳人 ではなく「 一 行詩人」 を名乗る ことになる。 この日の賞 状 の文面は、月並 ではな い 。 作 家の森村 誠一さんは、加 藤 郁 乎 さん自らが書いた賞状 にいた く 感 動 した。私 もそ う だ っ た。私 が 「魂の一行詩」を提 唱 し て も、俳壇の大方 は 無視した が 、 加藤さんは そ の こ とを真 摯(しんし)に受け止めた。 賞状 角川 春 樹 五 七 五 音 。当 節 の 季語に 頼る 句 作 り の 姿 勢は、 そろ そろ 改 め ら れ るべきで あ り ま し ょう 。伝 統 の式 目に固執( こ し ゅ う) 、 こ れに がんじ が らめ にされた現代俳句のいかに多い ことか。 百害あ っ て一利な い伝統もどきが時 流に媚び投ずるばかり。本来 、 あるべきはずの一行の誇り は、どこに 消 え失せた か。そ う し た 俳句衰弱 のさなか、 のっぴきならぬ一行詩 を 提唱した のは角 川春樹氏。視界の狭い俳壇に、 ものの見えたる新 しみの方向性を位置付け よ うと し て います 。 男子たらん者、 一片の奇骨あるべし。 句集 「 JAP AN 」 は 、 奇 男子 ・ 角 川春樹の面目躍如 (やく じょ)とし て 、俳句讃 歌の復活を、随所(ずいし ょ)に う かがうことがで き ま す 。傾いた 俳句は 立て 直せば よ い。迷 雲 の一掃 せられ た本 書に 、第 八 回 加藤 郁乎 賞を 贈ります 。 平成十八年三月十八日 加藤 郁乎 尾 道 大学 の応 接 室に 出 向くと 、 当大学 の 同 僚 で 作 家の光原 百 合 さ ん が い る 。 光原さ ん の 書 かれ た 小説 「 銀の犬 」 が五月二十六日に角 川春樹事務所 で 出版 される。 光原さん と話をし て い る内に、 RCC 中国 放送の横山雄 二 君 が現 れた 。 彼 が最近出版 し た 「 別冊 ヨコヤ マ 」 が 広島県 の 本屋 さ ん で ベ スト ・セラ ー 一位にな って い る 、と いう。尾 道にあるハルキ ・ カドカワ ゲスト ・ ハ ウ スの 小管理人、手 塚 淳 三が社 長 をし ている啓文社 (けいぶん し ゃ ) ではサイン会も行ったそ う だ。早 速、 小管理人に電話し て 「別冊 ヨ コ ヤマ 」 を 持っ てこさせる。 ペ ー ジ を開くと、 巻 頭 は ハルキ・ フリ ー ク の横山 雄 二と私と の対 談。面白 いの で 、尾 道 大学 の生 徒は、本 を 買 わずにこ のコピーを 廻し読みすればよい。
特別対談 横山雄 二×角川春樹 お前 に さ あ 、 ア ド バ イ ス な ん か ね え よ 。 流 れ にま か せ れ ば い い ん だ よ 。 横山 第一 印象 でパッ と 感じた こ とが正しく て 、セ カン ドインス ピレーション とか はもう知 恵 とか先 入 観 が入 っ てる か ら ダ メ な ん だっ て、 前 に 角 川 さ ん の 本 で読 み ま し た 。 悩 む こ と は ない ん ですか? 角川 悩ん だ後にいいアイデア出た こ とあるか?お 前。 横山 あー、確かに そうですね(笑) 。会議の多いも の っ て ダメですね 。 角川 よく、 い っぺ んに いろ んなこ と や っ て 混乱 し な い かって 言 わ れ るけど 、 全 然 しな いん だ よ ね 。 脳みその 中 でき ちん と部 屋が分かれ て るか ら大 丈夫 なの (笑) 。 横山 高 層 マンションみ たいに い っぱ いあるん で し ょうね(笑) 。僕 は 今 度 39 歳にな っ て 、 40 歳を目の前 に ここ から 第2ステッ プ だと思っ て 、 角 川 さ ん にアドバイスを受けよ うと今日 は来た んで す け ど 。 角川 お前 にさあ、 ア ドバイス な んか ねえよ (笑) 。 流 れ に まかせればいいん だよ。 昨 日 も 小室 (哲哉) たちと話して たんだけ ど 、 流れに ま かせると いう のは 実は 地道 な 努 力なんだ よ 、 と。 10 個の仕事が来たっ てさ、流 れの中 でこなし ち ゃえと。 横山 それは 自 分 に 負 荷 が か か って い る わ け じゃ な く って ・ ・ ・ ・ ・ ・ ? 角川 か か って な い 。 波 に 乗 って サ ー フ ィ ン じ ゃ な いけ ど 自 然に ね 。 面 白 そう だ と 思 え る 仕 事 を選ん で 。 横山 そ れ はい わゆる 堅 い も の で あ ろ うが柔らかい もの であ ろうが、 「自 分の 中 で 咀 嚼 する と面 白い もの」 と い う こと ですか? 角川 そう そ う 。 遊 び だ か ら な 。 横山 でも、 で っかい遊び で す よ ね(笑)今、刺激な い で しょ う?角 川 さんにドキドキするっ て事 ない ん じ ゃない で すか ? 角川 な い な、それは。 でもス リ リ ン グ な ことがな い わ けじ ゃな いよ。今度モンゴルのカ ラ コ ルムにある 「 赤い滝」 っ て い う 滝 で 神事を す るん だけど、 自 分 が 27 年前 にそ こ で 祈った 時 に、 チ ンギス・ハ ー ン も ここ で 祈 ったん じ ゃな いか と思ったの 、 感覚的に。チンギス ・ ハーンの 映画を モンゴルの人た ちと一緒に作ることになることも 直 感した。 それが 27 年後の今、 実 現 す ることに なるんだけどね 。 もう一つは、自 分 が モンゴルと いう 国 を動かす の かなぁと思ったんだ 。 な ぜ か とい うと、 自 分の前 世 がはっ きりチ ンギ ス ・ ハ ーン だ とい う こと が 分かった か ら 。 今 ま で 何 年 も、 チンギス・ ハ ーンの墓 を探し て も見つからない わ けだ よ 。 こ れ は俺のイメー ジ で 、自分 自 身の前 世が 武田 信 玄 、その前 が チ ンギス・ハーン。実は 記録なんかを 見る と 、武田 信 玄 がやっ て ること の 80 %はチンギス ・ ハ ーンがやった ことなんだ よ 。 武 田信玄は諏訪湖に埋葬され て る から、 チ ン ギ ス ・ハーンも 湖と か 赤 い 滝の 滝つ ぼと か っ て い う 気 がして し ょうが な いんだ。 そこ に 石 棺が 荒 ら さ れな いよう に 埋 葬 さ れ たん じゃ な い かと 。 こ れは 自分 のひ ら めきな んだ よな 。「 自分な ら そう す る 」 っ て い う 直 感。 だ か ら「 蒼き 狼 ~ 地果 て 海 尽き るまで ~ 」は森村誠 一 さんの原 作なんだ け ども 、俺 自身 「 地 果 て海 尽 き る ま で遊ぼ う ! 」 と( 笑 ) 横山 でもね 、 遊ぶおもちゃが デ カイじ ゃ な い です か、角川さんの場合は。映画にし て も 他 の 分 野 に し て も 。 僕 らが 感 じ る ド キド キ と 角川さ ん のド キド キ は 違う 。こ の 人 がド キ ド キす るこ と はあまりな い なと。 角川 いやいや 。今 回、赤 い 滝 で 祈るこ と はド キド キなんだ よ。真剣になれるものをス リリン グと 感じる よ な 。 昨年 7 月 17 日に関東と東海に大地震 が来る ことになっ て たん だけど、 これは俺 が止めた ん だ よ 。
横山 うそ お?角 川さん が!? 角川 うん 。 俺 はそ の 時 に日 本刀 を首 に 当 てて祈っ てい た わ け だ な。そ の 時に、 神 を超 え な き ゃ い けな い と 思った。それ でなければこ の地 震は 止 められな い 。なぜかと い うと 、こ れは神が 計 画した こ と だと思った からだよ。 そ の神を超 えなかった ら俺は神々 に怒りを買 っ て死ぬぞ と。そ れで 結 局 、 地 震を 止 め て し ま っ たんだ け ど ね 。 横山 は ぁ 。今 ま で 人 生 で 自 分の思い 通りに な ら な かった こ とがない でしょ う ? 角川 あ る よ、お前。刑務所 なんか俺も行きた くなかったよ (笑)! 横山 あ、そう か(笑) 角川 ガン な ん かで 切られる のも ま っ ぴらだ よ ( 笑 )2 回手術や ったけど 麻 酔 が 覚 めたら 痛 く てな。腸閉 塞 も普通一 ヶ所じ ゃ ない ?そ れ が 6 ヶ 所 で し か も1ケ所 は腸捻転。 そ れか ら刑 務所入 ったからすさまじいよ な ( 笑) 。 そ れを神仏にチャネ リングしたら 「俺に超えられな い試練 な ん て 与 え てない 」 っ て 。何 とか なった け ど、 長い なぁっ て (笑) 横山 角川 さ ん の か わ い い と こ ろ は 、 地 震 は 止 め ら れ た けど、 腸 捻転はダメだったっ て い う (笑) 。 そ う い う の が いい です よ ね 。 角 川さん、 よ くおっし ゃるじ ゃ ない ですか。 「 こうやっ て 話 し な がら 角川 さ ん か ら エ ネ ル ギ ー も ら って る ん で す ね 」 って 言う と 「 そう だ よ 」 っ て 。 角川 もらって るだろ ? 横山 たぶんも ら っ て ま す ね ( 笑 )。だ か ら 僕 は 40 歳を前にもう一回角 川さんに再生し てもら おうと思っ て 。 角川 だか ら今日会ったから、 こ れ で ち ょ うど良かったんじ ゃな いか(笑) 。 横山 でも嬉しい で すね。角川さんがまた映画界で ガンガンくるじ ゃ な い です か。たまんない ですね、角 川さん が映 画を動か すっ て い うの が。 評論家 が 悪口書 く よ う な映画 を バンバン 作っ て やろうっ て 言 われますけど、あれが いい です よ ね 。 角川 当り前じ ゃな いか!今のブログの時代に評 論 家な ん て 何の意味もな いんだ よ。今は 金 払 って 見 た ヤ ツ が ブ ロ グ書 い て ん だ か ら 。 あ れ で 映 画が 当 た っ た り 当 た ら な か った りす る し、 今 は ブログが 一番影響を持っ て る よ。 横山 今日 のお礼に今度 「蒼き狼~地 果 て 海尽 きる ま で ~」をやられる時は広島 で 宣伝隊長や ります ! 角川 当り前だ よ(笑) 。 横山 僕、 尾道の大和のセッ トを個人的にもう一度見に行ったん ですけど、 こ れを会社じ ゃ な くて 角川 さん 自身が 造 っ た んだ もんな ぁ って 思 いつつ 見 て ま し たよ。 前に 角 川さ んが 「メジャー (も のさし)が 他の人 とは違う ん だ 」っ て 言 わ れ て ま したが 、 あれ は今も全然 変 わらな い ん で す よね 。 角川 変 わ ら な い 。 俺に とっ ては当り前 で も、人 に とっ ては当り前 じ ゃない と 。世の 中 の メ ジ ャーが違う と い う こと が分かるま で は、俺も (世の中に)合 わ せよ うとしたん だ 。その時 は苦 労 したけど、 「 世の中が俺に合わ せり ゃ い いんだ」っ て 決心したのが 24 歳だ った。それからラ クに なったよ 。 横山 僕は会 社 で み んな と ソ リ が 合わ な い んで す が 、 ど う し たら い い んで す か ね ( 笑 ) 。 そ れも メジ ャー が違 うん でしょ う か ( 笑) 。 角川 メジ ャーが違うんだ よ (笑) 。 横山 それ ならそ う い う やり方を自 分 で や っ て い け ばいいや、っ て い う 気 構えが い るん ですよ ね。角 川さん が今、実在 の 人 物 で「 こい つ は すごい な」 とか 思 う人 は? 角川 俺 だ よ 。 俺自 身 。 あ と はい ない 。 当 り前 じ ゃ ない か 。 俺よ り パ ワ ー の あ る ヤ ツい るか ? いね えだろ う ?
横山 生涯不良な ん で す も ん ね(笑 ) 。 角川 今、 よ う やくプロローグ が 終 わ った。 つ まり 「男た ち の大和」 (※) 以 前の俺の人 生 っ て のは予告編みたい なもの。 で 、 イン トロが 「 男た ち の大和」 。 いよいよ これから俺の人生の本 編 が 始ま るわ けだな 。 横山 だっ て僕 ら、 も う 相 当 豪快 な予告編 を見 てま すよ 。 あ れ だ けの ことを や っ と い て 予告 編 ですか? 角川 これからの方が ず っと 楽しみだ よ。 そ う 思っ て や っ て き たし、 「蒼き狼~地果て 海尽きる まで ~」と 同 時 並 行で 「 椿 三十 郎」も や っちゃ お う と 。 横山 今、一つだけ願いを叶えて くれると したら、何が いい です か? 角川 気 に 入った女とヤリたい ( 爆笑)! 横山 そ の へんは僕とすごい似 て ます (笑) 。 角 川さんバツ5 で 独身 ですもん ね。 もう結婚 はし ない でし ょ ? 角川 ない ねえ。 横山 僕 は 角 川さんと恋愛番組やりたい で す(笑) 。角 川 さん が 愛や恋を語る、みたい な。 角川 ありえな いよ(笑) 。 ヤリ たいっ て いうだけな ん だ か ら(笑) 。 横山 今日、 ち ょっとま た角川さんからパワーをもらったの で 、 こ れ から僕も 今まで の 人生は 予告編 だ った と言えるよ う に ・ ・ ・ 。こ れ が 今 日 の 教 訓で す ね 、 僕 の 。 角川 そり ゃ 良 か っ たな ! ※ 「 男 た ち の 大 和 」・・・ 20 05 年 12 月に公開した角 川春樹復活第一弾となる映画作品。 公開 12 日で 100 万人を動員 す るなど大盛況と遂げ た 。
本日、第三回目の「 魂の一行詩」の講 座の結 果 は次 の通りだが 、 わずか三回目の授業にし て 特 選に選ん だ 五 句 は か な りの 水準 だ。 十九歳、 二十歳の若 い感性 がい かに柔軟 で、私の発言 をス ト レートに消化 する能力に、正直驚かされる。それほど全生徒の進歩 が 著しいの だ。 しかし、 教室に出 て みると、 同 行者の海老原実君、 RCC 中国 放送の横山雄 二 君 、 山 田友美 さ ん 、 作家 の光原 百 合 さ んを 含め て、前 回 の 半 分し か出席し てい ない こと に、私 は シ ョ ッ ク を受 けた。 全回、前々回 で 特 選を採った横山奈津紀も 欠 席し て い る。私は尾 道 大学 で 教 鞭 ( き ょ う べ ん)を 執るために、一日半を 犠牲(ぎせ い )にし、 さらに一日 は テキスト作りに費やし て い るの だ。二 単位の選択 課 目を年十回教 えることになっ て いるから、 最 後ま で キ チンとやり 通 すけれど も、心 から残念に思う 。 特選 誰にとも向けぬ怒り が 飯 を食う 徳田翼 前回の次の句に続 い て の特選。 会いた く て 会 いた くなく て 立 ち どまる 翼 「飯 を 食 う」の句 は、 次の芭 蕉 の句を浮かび あがらせた。 あさがほに我は飯 くふ男か な 芭蕉 芭 蕉 の句 は、 「朝 顔」 とい う 「 晴」 に 対 し て 、「 我 は 飯 く ふ男 」 と 「 褻 ( け ) 」 に転 換させた 「 も どき」芸の句。翼 作品 は 、 誰にもぶつけること の出来 ぬ 怒 りを抱 い たまま 、 飯 を 食うと い う 、 私 の俳句三原 則 の中の「自己の投影 」を結実させた一行詩。 「下五」の 「 飯を食う」が 素晴らしい。 こ の下五は日常的な動 作 で あ りなが ら 、な かな か詠 めるも の で は な い。 同時 作に 、 お茶会の 猫舌男窓を見 る 終電を二人 で ゆくゆく海の底 があり、 共に佳作。 生 徒た ち の 互選 で 「海の底」 の句は9点入った が、 作品とし ては、 「 飯を食 う 」 の方が断然良 い。 炭酸の泡 が消えゆく待 ち時間 佐々木なも 華 炭 酸 飲料といえ ば 、コーラ 、ソーダ水 、サ イダーが 思い 浮かぶ が 、 こ れらは夏 の季 語。 ソ ー ダ 水と いえ ば 黛 まど かの次 の 句、サ イ ダーと い え ば 獄中 の 私の句が あ ぶり出される 。 ソーダ 水 つつく彼の名出るたびに 黛まど か
サイダーやしんしん遠き昼下がり 角川 春 樹 まどかも なも 華 も 共 に 甘美 な青 春句。まどかの句は、 彼女の作品 の 中でも代 表句。私の 主張 する俳句の 三 原 則 を実 地 で 行ったよ うな秀吟 。 ま どか もか つ て は私の弟子 だ った 。 な も華 の句 は、 青春期の倦怠感を言い止めた佳吟。 下五の 「 待 ち 時間」 が 良い。 「 魂の一行詩」 は、 永遠の中の今 を詠うことが重 大 な 要 (かな め) とな っ て い る。なも 華 の 「待ち 時 間」の句は、それを言い止め た。 同時 作に 、 全身を揺 さぶらない 恋 なん て 逃避行逃げゆく 先 は 桃 源郷 があり、 「恋な ん て 」 は秀逸、 「逃避行」は佳作。 「 待ち 時間」は互選で 第三位の十一点。 残り香を閉じ込め て 結 う 乱れ髪 田内美帆 前回の講座の作品は、 火照(ほて ) る肌持 て 余し て い る二十歳(はた ち ) 今回の投句は他に、 焦げ た肌 隠 せ は し な い 夏 の ヴィ ーナ ス 恋ご ろも君にほめ られるワンピース 「夏のヴ ィーナス」 は 秀逸に、 「恋ご ろ も」 は佳作に採った。 これらの句は全 て 恋の句。 子規 以来 の現代俳句は 、 万 葉以来 の 「恋歌 ( こ い う た ) 」 を切 り捨てて しま ったが 、 こ れ も 現 代俳句が 無視した 「笑い」 「風 刺」 と 共 に、 「魂の一行詩」 で は 、 重 要 な テ ーマと 考 えて いる。 「 乱れ 髪」 の 句は 、後 日、映画「 男 たち の大和」の原作者 で あ る姉 の辺見じゅ ん に 見 せた所、こ の 句の艶っぽ さに驚嘆した。さらに作者 が二十歳と知ると、 「 た いし たも のね 。こ れで 二十 歳な の 。 大 人 で も な か な か 詠 め な い 作 品 よ 」 と激賞した 。 倖田來未 のキャッチ ・ フレーズそ の ままの、 「エロかっ こ いい」作品 。 生徒た ち の 互選で も 十六点の第一位だ った。 新緑に 埋 も れ て 朽 ち る 言葉(こ と の は ) よ 槙野未羽 前回、私が 採 った、次の作品に続 い て の 特選句。 道行き て まつげに灯る白木蓮(はくもくれん)
白 木 蓮 がま つ げに灯る と表現した の は繊細 で 感 覚 的 な 一 行 詩 だ った が、今回 は 全 作品の 中 でも 一番 の秀 吟 。 古代から、言葉は 言の葉(こ とのは )とい い 、木の葉 と関連させ て 考えられ て来た が、 新 緑 が燃 える 木の 下 で は、 古い 落 葉 が朽 ちるよ うに、 人 間の言 葉 も 、 朽 ち て ゆ く、 と い う意。 一般選でも七 点入ったが 、広義の意味 で の「風刺」句。 「新緑」の季語が 素 晴らしい。 同時 作に 、 雨垂れ て 滴り落 ち る藤の房 があり佳作 。 未羽の句 は、自然 詠 が 特色 で 他 の生 徒と違っ て 必 ず一句に一つの季語が 入る。大 多数の作品に季 語 が入っ て い な い が 、 未 羽の一行詩を眺めると、 「 魂 の 一行詩」 にとっ て も、 季 語 がいかに魅 力 的 で ある か が 解 る 。 こ の こ とを 、芸術文化 学部の生徒た ち も認識 し て欲しい 。私の 俳句歳時記を利用し て 貰いたい。 口吻(くちづけ) す 幾 千億もの言葉を殺し 神谷ちひろ 前回の次の作品、 栗 鼠 (り す)の 瞳 (め ) に 針刺 すことを思 ふ夜 半 (よ わ) に続 い て の特選。 「栗鼠の瞳」 の句は、 青春の屈 折率の見事な一行詩と激賞した が、 今回の こ の 作も 、中七、下五の「幾千億も の 言葉を殺 し」が 良 い。 こ の 言葉の溢れる ような 勢 いは 、私の次 の処女作品の世界に通じる。 黒き蝶ゴッホの耳を殺( そ )ぎに来る 向日葵( ひ ま わ り )や信長の首斬り落とす 同時 作に 、 手に 触れる 手の冷たさ よ熱帯夜 大根に染みる血眺む昼餉時( ひ るげどき) 「熱帯夜」 の句は秀逸に、 「大根」 の句は佳作に採った が 、 ど の句も鮮烈な一行詩の世界。 注 目 に価する一行詩人 だ。 秀逸 さみしくな い さみしくな い とくり返す 永田 悠 史 「さみしくない」と言い ながら 作者の淋しさが読み手に響く。
木下 闇(こ し たやみ ) どろ りと恋が 蟠(わだ かま )る 光原百合 同時 作に 、 夜叉 となり あ なた を掠 (さら) う木下闇 があ り、 共に秀逸。 「どろ りと恋が 蟠 ( わだ かま ) る 」 の 句は 、 互 選で も十 四 点 の第二位。 生 徒 に 負 け た く な いと いう光原百合さんが 見 せた 一行詩の世 界 。確かに、黒い闇が蟠るように、恋の 季節が 終 ったあとも、想念が 実体化し て 質 量を持ったよ うな 作品。先生、さすがです よ 。 将来(さき)思う我の裸足(はだ し )を月照らす 末次麻耶 同時 作に 、 我と油虫のゴング響きたり も共 に 秀 逸。 「裸 足」 の句 は、 互 選 でも七点 入 っ た が 、 確 か に 共感 の得 られ る青 春の不 安 を描 い た作品。一方、 「油虫」の句は、ユー モ アがあっ て 面 白い。 春雨の優しく 起 こ す 日 曜日 槌本 さくら 同時 作に 、 出かけよ うさっきの空の靴をはき 「春雨」の句は、さりげな い が 好感 がもてる。 「 さつきの空」は佳作。 春冷えの宵に沸かした白湯(さゆ)の味 岡村め ぐ 美 同時 作に 、 紫陽花や、芙 美子の像を彩( い ろど)り て 猫の背に誘われ惑(まど)う裏小路(こう じ) がある。 「春冷え」 と 紫陽花 は 共に秀逸。 「 猫の背」 は佳作。 「紫陽花」 の句は文学散歩の尾道に 心を 寄せた句だが 、「 春冷え」 の方 が 面白く、 互 選で も 八 点入った。 し かし、 「 春冷え」 の季 語は 、 「春 寒(はるざむ ) 」 か 「 花冷( び え ) 」に直した方が 、 より面白く 、 かつ 映像的にな る 。 式神 ( しきが み ) よこ の 胸 の 恨( ハ ン ) 預け たり 朴耀子 同時 作に 、牡 丹落つ刻(とき ) を止 め我紅をさす
があり、 共に秀逸だ が 、 「 式 神 」 に 「恨(ハ ン) 」を預け るとい う 発 想 の方が面 白い。朝鮮 半 島 の 人 々 に と っ て 「 恨( ハ ン ) 」 は 重 大 な キ ー ワ ー ド 。 そ の 民 族 的 な 情 念 の「 恨( ハ ン ) 」 を「 式 神 」 に預けて 、自 分はもっ と自由になりたい とい うことなの か ?また解 釈し ても、 こ ちらの方 が「魂 の一行詩」とし て 、結実し て い る。 目を閉じる携帯電話を投げ捨 て る 真野美樹 同時 作に 、 恋し く て 三度 (みたび)見 上 げる梅雨の空 言いかけ て 酒 と一緒に飲み こ ん で がある。 「目を 閉 じる」 「 投げ 捨て る」 のリ フレ インが 面 白く 、 秀 逸 。「恋 し く て 」 は 互選で 九 点。 「言いか け て 」は同じ く六点入っ て い る が、共に佳作。美 樹の句を全 て 私 は 採っ て い る。 佳作 君に逢い頬の熱 き を思い出 す 藤井 公子 同時 作に 、 待ち 合わ せ燃ゆ る つ つ じで 紅 を さす と共 に佳作。 とおまわりやっ と 出逢えた赤い糸 山田友 美 同時 作に 、 離れて も 同じ月をみて 君 想 ふ と 共 に佳作。 「 同じ月」は一般選 で も 六 点入 り、 「赤い糸 」は運 命 を指 すが 、私 も 共 感 で きる一 行詩。 春の海戦艦大和出撃 す 海老原実 同時 作に 、 少年兵豊 後水道南下せり 尾道 に 戦 艦 大 和帰還 す る
があるが、全 て を 私 は 佳作に採 った。海老 原 実 は 角川春樹事務所 の代表取締役常務。か つ て 彼 は、京都の 七月十七日の祇園祭( ぎおんまつり)に 同行 し、私の京 都 の女弟子 の九割が、前日の 宵 山 (よい や ま) に バ ージ ン を 失った 、 とい う話 を聴 き、私 は 次の句 、 祇園ばやし抜け出 て 君 を抱きにける を 作 句 し たが 、女 弟子 の 一 人がコ ン チキ チン の祇園 囃子( ばや し) の 音 を 聴 く 度に 、 胸 が キ ュ ン と する とい う話 に、 次のよ う な句 を作 っ て 皆の 顰蹙 ( ひ んし ゅく) を買 っ た 。 コンチ キ チン パン ツの 中も コンチ キ チン パン ツの 中のペ ニ ス が コチ ン コ チ ン に な った とい うの だ。 彼 は ア ニ マル ・ 海 老原 とい われ、 「愛 は 精 子と 共に 消えて ゆ く 」 と い う名 台 詞 で 、 こ れ ま た 女子 社員 の顰蹙を 買 い 、かつて の女性 秘 書 から、 「海老原さんのセクハ ラを止めさせ て下さい」 と訴えられた男性原理。 沢山、 書 き たいエピソードの持 ち 主だが、 「魂の一行詩」 が 誤解される の で 、 こ れ で 止め る事 に す る。そ の彼にし て 、以上の三句 は驚きに 価 す る。前 述 の 姉 の辺 見じ ゅ んが 、 「少年兵の句は、いいじ ゃ な い 」 と言 わしめた 。 泣く空に小さな部屋でうづくまる 岩堀光宏 微笑(ほほえ)ましい青春の句 で 、 好 感 が持 て る 。 青空の真の青さに雲 ひ とつ 横山雄二 同時 作に 、 まんじりとた だまんじりとたたずん で 決めか ね て一歩踏 み出せず うつ む い て RCC 中国 放送の横山雄 二の ナイ ーブ な一行 詩 。 高得点 句 残り香を閉じ込め て 結 う 乱れ髪 田内美帆 十六点 木下 闇(こ し たやみ ) どろ りと恋が 蟠(わだ かま )る 光原百合 十四点
炭酸の泡 が消えゆく待 ち時間 佐々木なも 華 十一点 恋し く て 三度 (みたび)見 上 げる梅雨の空 真野美樹 九点 終電を二人 で ゆくゆく海の底 得田翼 九点 春冷えの宵に沸かした白湯(さゆ)の味 岡村め ぐ 美 八点 誰にとも向けぬ怒り が 飯 を食う 徳田翼 七点 将来(さき)思う我の裸足(はだ し )を月照らす 末次麻耶 七点 新緑に 埋 も れ て 朽 ち る 言葉(こ と の は ) よ 槙野未羽 七点 離れて も 同じ月をみて 君 想 ふ 山田友 美 六点 【講評】 横山 奈津紀が 欠席 したが 、全 体 のレ ヴェル は 、前回よりも 格段に上。特選に採った五 句 は 現段 階 で も「河 」 作品と比べ て 「魂の 一 行詩」とし て 通用 する作品。秀 逸の句も決し て 悪くない。第 一 回 の「 魂の一 行 詩 」 講 座 で 、 今後 に 期 待が持て ると 私は 感 想 を 熱 を 込 めて 述べ たが 、 そ れ 以 上 の出 来栄 え。 私 も 熱 を 込め て、 「魂の一行 詩 」 講 座 に 取り 組 む 積り だ。 受 講 生も、 私 の言 葉 と 文章 を何度 も 読み返し て欲しい。