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Jour. Geol. Soc. Japan, Vol. 124, No. 1, p , January 2018 doi: /geosoc 総 説 A new perspective of the subducti

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(1)

A new perspective of the subduction zone derived from the Ocean Drilling Program for the Nankai

Trough Seismogenic Zone Experiment (NanTroSEIZE)

南海トラフ地震発生帯掘削がもたらした沈み込み帯の新しい描像

Abstract

The NanTroSEIZE project has been one of the most complex and challenging scientific ocean drilling projects in history, representing a milestone for the Integrated Ocean Drilling Program (2005–2013) and the current International Ocean Discovery Program (2013–013) and the current International Ocean Discovery Program (2013fic oc-seismogenesis of the Nankai Trough is now approaching the final stage; i.e., directly sampling, analyzing, and monitoring the plate boundary fault system responsible for historically recurring mega-earthquakes and associated tsunamis. The study area is located southeast of Kii Peninsula and comprises a transect of drill sites ex-tending from the Kumano Basin across the Nankai Trough to the in-coming Philippine Sea Plate.

The drilling of the Nankai seismogenic subduction zone, initiated in 2007, has resulted in the re-evaluation of previously accepted geo-logical models. The main findings are as follows:

1) The Nankai forearc grew intermittently between ~6 and ~2 Ma due to rapid terrestrial sediment supply, resulting in the forma-tion of a hanging wall wedge as a result of the occurrence of great earthquakes.

2) Slip along the plate boundary megathrust and along the associ-ated splay fault has previously reached as far as the Nankai trough and ocean floor.

3) The fault, composed of clay-rich gouge, is weak in both static and dynamic cases.

4) The in situ stress conditions of the accretionary wedge and in-coming Philippine Sea Plate are well constrained, and the hori-zontal compressional stress, parallel to the direction of plate convergence, suggests tectonic loading of accretionary sedi-ments, implying a possible stress buildup that could result in the next great Nankai earthquake.

5) Borehole observatories and an ocean floor network recorded the earthquake, tsunami, and slow slips along the megathrust on 1 April 2016, and represent a new and innovative technology for application in the field of ocean floor science.

Keywords: Nankai Trough, subduction zone, seismogenic zone, accretionary prism, plate boundary, splay fault

木村 学

1

 木下正高

2, 3

金川久一

4

 金松敏也

5

芦 寿一郎

6

 斎藤実篤

3

廣瀬丈洋

7

 山田泰広

3

荒木英一郎

5

 江口暢久

8

Sean Toczko

8

Gaku Kimura

1

, Masataka Kinoshita

2, 3

,

Kyuichi Kanagawa

4

,

Toshiya Kanamatsu

5

, Jyuichiro Ashi

6

,

Saneatsu Saito

3

, Takehiro Hirose

7

,

Yasuhiro Yamada

3

, Eiichiro Araki

5

,

Nobuhisa Eguchi

8

and Sean Toczko

8

2017年215日受付.

2017年1026日受理.

1 東京海洋大学海洋資源環境学部

Department of Marine Environment and Re-sources, Tokyo University of Marine Science and Technology, Tokyo 108-8477, Japan

2 東京大学地震研究所

Earthquake Research Institute, The Universi-ty of Tokyo, Tokyo 113-0032, Japan

3 海洋研究開発機構海洋掘削科学研究開発セン

ター

Center for Ocean Drilling Science (ODS), Ja-pan Agency for Marine-Earth Science and Technology, Yokohama 236-0001, Japan

4 千葉大学理学研究院

Department of Earth Sciences, Chiba Univer-sity, Chiba 263-8522, Japan

5 海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発セ

ンター

Center for Earthquake and Tsunami (CEAT), Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology, Yokosuka 237-0061, Japan

6 東京大学大気海洋研究所

Atmosphere and Ocean Research Institute, The University of Tokyo, Kashiwa 277-8564, Japan

7 海洋研究開発機構高知コア研究所

Kochi Institute for Core Sample Research, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology, Nangoku 783-0093, Japan

8 海洋研究開発機構地球深部探査センター

Center for Deep Earth Exploration (CDEX), Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology, Yokohama 236-0001, Japan Coressponding aouthor: G. Kimura, [email protected]

©The Geological Society of Japan 2018 47

(2)

は じ め に 南海トラフはフィリピン海プレートが年間数

cm

の相対速 度で西南日本の島弧の下に沈む海溝である.七世紀の地震の 記録が「日本書紀」に書き記されて以来,繰り返し地震と津波 を起こしてきた場が南海トラフであることは今や社会的に周 知の事柄である.今後

30

年以内の地震津波の再来する確率 は

70%

を超えると判定されている(

2016

6

月政府地震調 査推進本部).地震が,いつ,どこで,どの程度の規模で起 こるのかを事前に正確に予測することは甚だ困難なことであ る.しかし,確率的ではあっても天気予報のように予測し, 地震や津波によってもたらされる被害を少しでも減少させた いとの一般社会からの希望もよく理解できるところである. そのような社会の期待に対して,科学は,プレート境界で の地震発生メカニズムを解明し,応えようとしている.それ らを減災イノベーションへ活かす技術開発も同時に進められ ている. 地震発生メカニズム解明のために,あらゆる有効な観測・ 観察,実験,シミュレーション,理論を用い,これまでの伝 統的な地質学,地震学,地球物理学,地球化学などの分野区 分は,この目的達成のために自ら積極的に破り,融合させな ければならない. 海洋底掘削の科学は,発足当初,プレートテクトニクスの 検証の科学目的からはじまったように,そのような分野を超 える融合と総合の科学であった.海洋底掘削は,主に地球物 理学的・地震学的な観測を事前に実施し,掘削によって検証 可能な仮説を構築する.その仮説を,掘削孔検層,回収コア の分析と実験によって検証するという科学的方法のループを 蓄積してきたのである.

1997

年,

21

世紀の深海掘削科学計画を議論すべく,東 京代々木に世界から科学者たちが集まった.日本は,これま で誰も実現した事のない,科学のためのライザー掘削船を造 ることを宣言した.それが「ちきゅう」である.そして,世界 の科学者は,その最初の掘削対象を南海トラフの地震発生プ レート境界とすることに合意した.科学目的は,「プレート 境界での地震発生メカニズムの解明」である.その時から更 に

10

年の歳月をかけて,「ちきゅう」の建造,就航,慣熟航 海が実施された.

2007

9

月,いよいよ南海トラフでの掘 削が開始された.そして更に

10

年の歳月が流れた. これまで実施された掘削,およびその対象については次章 に記すが,ここではなぜ世界の科学者が南海トラフを最優先 掘削対象とすることに合意したのかの科学的理由について簡 潔に記しておこう.多々あるが主な点は以下の

3

つである.

1

)七世紀以来の世界最長の地震記録が残っているという ことを含めて,総延長約

4

km

ある世界の海溝の中 で,南海トラフが,最もデータが蓄積され,観測網の 配置を含め,最も研究の進んでいる海溝である.

2

)低周波微動の研究など,最新の沈み込み帯地震の重要 な発見はほとんどが南海トラフ発である.

3

)近い未来に巨大地震・津波発生の長期予測を政府が公 表しており,研究への社会的国民的関心,期待が極め て高い.またそのような中で実施予定の孔内連続観測 は,巨大地震前に何がどう進行しているかを知る世界 初の例になる事は確実である. このような意義を確認して,

2007

年掘削が開始された. 掘削は,

1944

年東南海地震の震源域となった紀伊半島沖と した.浅い深度の掘削で地震発生帯の分岐断層・プレート境 界に届くところをライザー掘削の対象とした.その他の掘削 対象は,南海トラフより南側で,沈み込む堆積物とフィリピ ン海プレートの基盤岩,南海トラフより北側で,前弧海盆域 とした.分岐断層および前弧海盆域には,孔内連続観測装置 を設置することとした. この研究計画の作業仮説は以下の

5

つである.

1

)沈み込 む物質と状態の系統的変化が地震発生帯の成立をもたらす,

Fig. 1. The IODP NanTroSEIZE area and drill sites (white

circles).

Fig. 2. 3D bathymetric cross-section of the IODP

NanTro-SEIZE area, showing the DONET network (red lines), 3D seismic section, and drill sites from the Kumano Basin (Site C0009) to the incoming Philippine Sea Plate (Sites C0011 and C0012). The long-term borehole monitoring systems (LTBMS) are installed at Sites C0002 and C0010 (blue boreholes).

(3)

2

)沈み込み帯の巨大衝上断層は弱い,

3

)プレート間の相対 運動は基本的に狭い領域の地震性すべりでまかなわれてい る,

4

)断層帯の物性・化学組成・状態は地震サイクルの時 間経過を通して系統的に変化する,そして

5

)巨大分岐断層 は巨大地震時の津波発生などを伴いながらすべる.南海トラ フ地震発生帯掘削計画は,これらを掘削を通して検証すると いうプログラムとしてスタートした. また,

2011

年の日本海溝での巨大地震・津波発生を踏ま えて,南海トラフ近傍の付加体から構成される上盤への孔内 連続観測装置設置も追加で盛り込んだ. これまでの掘削の結果,

2017

年時点で,ライザーによる プレート境界までの掘削,南海トラフ近傍上盤への孔内連続 観測装置設置を残すだけとなり,南海トラフ地震発生帯掘削 は最終段階となった.南海トラフでの掘削は,当初予定から 大きく伸びて十年以上に及ぶ事となったが,多くの科学的成 果を挙げる事ができ,沈み込み帯に対する見方が大きく変 わったといえる.また大量のデータと研究の蓄積は,プレー ト沈み込み帯での地震発生などの未来予測に関して複雑系と してのアプローチが一層重要であり,科学方法論を含めて一 層の進展が必要であることを知らしめている. 本総説では,それらについて簡潔に紹介したい.紹介して いる個別の詳細については,個々の論文や論説を参照してい ただきたい.なお,本総説の著者は,これまでの南海トラフ の航海で首席研究者を務めた者,計画国際中央管理チーム研 究者のうち日本人担当者,および,海洋研究開発機構地球深 部探査センターの南海トラフ担当責任者の連名で記すが,科 学的成果は,これまで研究に携わった者たちの共同のもので あることはいうまでもない. 実施された南海トラフ地震発生帯掘削計画の概要 南海トラフの掘削は,

2007

9

21

日に開始され,最 新の航海は

2016

4

27

日に完了した.南海トラフ地震 発生帯掘削計画(以下

NanTroSEIZE

)は,国際統合深海掘 削計画(

IODP

2005

2013

),そして現在の国際深海科学 掘削計画(

IODP

2013

∼)の中で最も複合的で挑戦的な計 画であり,科学掘削史上,画期的なものになることは間違い ない.「プレート境界での地震発生メカニズムの解明」のため に,地震発生断層現場で応力・歪の蓄積,断層の組成や構造 を明らかにすること(

Kinoshita et al., 2009

)と孔内観測装 置の設置による常時連続観測の開始(

Saffer et al., 2010;

Kopf et al., 2016

)は,現在その最終段階にある. 巨大地震・津波の繰り返し発生の歴史解明にとっても,断 層の直接試料の回収は欠かせない(

Hirose et al., 2013

). 掘削地点は三重県紀伊半島沖であり,掘削は南海トラフの 走向にほぼ直交する配置でなされた(

Figs. 1, 2

). しかし,これらを実施するにあたっては,強い黒潮流との 対峙,掘削に関わる多くの技術的困難との対峙,そして掘削 に関わる費用の確保に関わる困難との対峙などを一歩ずつ克 服する,多大な努力の積み重ねが必要であった.

Table 1. Summary of expedition results.

(4)

これまでの計画の概要を

Table 1

に示す.全部で

11

航海,

15

の掘削地点,合計

68

掘削孔,掘削孔総延長は

37 km

に および,回収したコアの総延長は

4 km

を超える.参加研究 者はのべ約

240

名となり,総計の航海日数は

668

日に及ぶ. この掘削計画によって塗り変えられた世界記録を

Table 2

に示した.

NanTroSEIZE

計画は,掘削のみによって遂行されてき たわけではない.科学目的を達成するために多くの他の計画 と連携しながら進められてきた.海洋研究開発機構が進めた 地震・津波のための海洋底観測ケーブルネットワーク計画 (

DONET

)な ど で あ る.こ の

DONET

NanTroSEIZE

の孔内観測と長期孔内観測システム(

LTBMS

)が接続され (

Kopf et al., 2011, 2015

),

2016

年夏より,間隙水圧,傾 斜,温度,遠近での地震の常時連続観測が可能となった.

2016

4

1

日に発生した三重県沖地震は,紀伊半島沖 で

72

年ぶりに発生したプレート境界地震であったが,それ は

IODP

365

次研究航海の最中に起こった.予定を急遽 変更して観測装置を回収した結果,掘削孔内観測装置の有用 性が見事に示された(

Wallace et al., 2016

). 熊野海盆下付加体中の

C0002G

孔には

2010

年に実施さ れた第

332

次研究航海で

LTBMS

が設置され,

DONET

へ の接続後

2013

年から連続観測が開始され,一方同航海では 分岐断層の

C0010A

孔に

DONET

と連結しない簡易型の 観測装置を設置していたが,第

365

次研究航海で

LTBMS

と交換し

DONET

への接続後,連続観測が開始された.今 後付加体先端部

C0006

地点での設置が計画されている. 「ちきゅう」による掘削の特色は,ライザーによる超深度掘 削であることはいうまでもない.ライザー掘削孔

C0002

に おいて,さらに深部へ掘り進め,プレート境界断層を貫き断 層試料回収をする,というのが当初計画である.深度は海底 下

5200 m

程度と見積もられている(

Tobin et al., 2015a

).

IODP

348

次研究航海では,海底下

3058.5 m

の付加体 内部に達した(

Table 2

).構成される地層や断層などの傾斜 は

80

° に達する高角であった.この変形した付加体の状態 が,掘削孔の不安定性の原因となり,孔壁の崩落などを起こ し,掘削パイプの捕捉による掘削の技術的困難に直面した. これらの技術的困難の克服について,海洋研究開発機構は精 力的に研究を進めており,

IODP NanTroSEIZE

の掲げる 前人未到の科学計画を達成すべく,新しい技術開発を含め鋭 意努力を重ねている. 南海前弧形成のテクトニクス これまでの海洋掘削では,実施され,詳細な時代などの新 しいデータが得られるたびにその地域一帯のテクトニクスの フレームが塗り替えられてきた.この間の南海トラフの結果 についても同様である.更に,南海トラフで沈み込むフィリ ピン海プレート,伊豆マリアナ弧でもジョイデス・リゾ リューション号による掘削が行われたので,それらも合わせ るとテクトニクスの詳細が一層鮮明となってきた. 以下の点がこれまでとの大きな違いである.

1

.約

6 Ma

開始の南海トラフでの沈み込み 現在に繋がる南海トラフの沈み込みは,

6 Ma

前後から開 始された.それ以前には沈み込みはなかったとみなされる. 掘削によって得られた堆積物,とくに砂粒子ジルコンの熱 年代・放射年代測定(

Clift et al., 2013

)と組成を分析した結 果(

Pickering et al., 2013

),日本列島,フィリピン海プレー ト,太平洋プレートの三重会合点の東方移動モデルが提案さ れた.このモデルはプレーテクトニクス理論の提案後,

Marshak and Karig

1977

)によって提唱されていたもの で,

Hall

1995, 2002

)によって東アジア,太平洋地域全体 のテクトニクス復元の中でも取り上げられていたモデルであ る.それを受けて,

Kimura et al.

2014

)はこの新モデルと, 日本で広く受け入れられている

Seno and Maruyama

1984

) 以来の三重会合点固定モデルとの違いを検討した.

Kimura et al.

2014

)は, 陸 上 部 の 様 々 な デ ー タ を レ ビューし,この三重会合点移動モデルが成立するかどうかを 検討した.その結果,三重会合点付近の古伊豆弧の本州との 衝突を,

Hall

らが推定した

8 Ma

より早く

12 Ma

頃とすれ ばこれまでの陸上部の地質学的観察と整合性が保たれること を指摘し,

Fig. 3

のような復元をした.

Fig. 3. Tectonic reconstruction of SW Japan, considering recovered sediments and the terrestrial geology (Kimura et al.,

(5)

Kimura et al.

2005

)は,フィリピン海プレートの沈み込 み は 途 絶 え る こ と は な く 継 続 し て い た と し て い た が,

Kimura et al.

2014

)では,

12 Ma

以降は,南海トラフでの 沈み込みは停止したと論じた.

熊野前弧海盆について,

Moore et al.

2015

)と

Boston

et al.

2016

)は,

C0002

C0009

の岩相と年代をつないで 新しい発達史を提案した.前弧域の熊野海盆側のウェッジ (

inner wedge

)は海底面が平坦で一見内部変形のない安定的 なものとみなされてきたが,実際には変形が進行していたこ とを明らかにした.約

6 Ma

以降付加体を覆う斜面堆積物か ら変形と堆積を経て,本格的な前弧海盆への成長したことを 明らかにした.特に

2 Ma

以降は日本列島から大量の堆積物 が熊野海盆に流れ込んだのである.分岐断層域の急速な隆起 によって,熊野海盆では沈積直後の堆積物は次々と北側へ傾 き,その下にある斜面堆積物や付加体の上にオンラップ不整 合を形成しながら埋積した.堆積中心が北へ移動したのであ る.

Tsuji et al.

2015

)は,このオンラップ不整合が,現在熊 野海盆の北縁にあることを反射法地震探査によって得られた 断面によって示した.その北縁は現在の前弧域を構成する付 加体の形成開始が約

6 Ma

であり,

Kimura et al.

2014

)の 沈み込み開始の推定と整合的であることを示した.さらにこ の付加体形成のはじまりは,それより北側にある基盤岩の上 に衝上断層によってのし上げることではじまったと推定して いる.その基盤岩と斜面堆積物の不整合の地震反射面の振幅 は大きく,極性が正である.

Tsuji et al.

2015

)は,その基 盤 岩 は,陸 上 部 に 広 く 分 布 し,

Kodaira et al.

2006

)や

Kimura et al.

2014

)が推定している中期中新世の熊野酸性 岩類か,あるいは固結した古第三紀から前期中新世の付加体 と推定した(

Fig. 4

).

2

.広域テクトニクスとの関連

Kimura et al.

2016

)は,この約

6 Ma

という年代を決め たテクトニクスのより広域的な関連について議論している. 彼らはこの年代は,マリアナトラフや沖縄トラフの拡大開 始,琉球海溝とフィリピン海溝の沈み込み開始と同期してい る可能性があることを論じ,フィリピン海プレートの西向き の沈み込みが始まったことによるのではいかと推論してい る.約

12 Ma

の沈み込みの停止は,浮揚性のある古伊豆弧 の衝突とその後のやはり浮揚性のある拡大直後の四国海盆の 接触によるものであろうとしている.それでも瀬戸内火山群 などは四国海盆のスラブ溶融などが関与した可能性が論じら れているので,そこまでは沈み込んだ図になっている. 約

6 Ma

の沈み込みの再開は,フィリピン海プレートの西 フィリピン海の部分の沈み込みよるスラブプル力(

Lalle-mand, 2016

ほか)が主な原動力であろうとしている.熊野 海盆や付加体の形成開始など前弧域から推定される沈み込み 再開と沈み込みに伴う火山活動の再開の間にほとんど時間差 がない.これは,先行した浮揚性を持ったスラブが瀬戸内海 の下に停滞して存在していたからなのかもしれない.これ は,非地震性スラブが,深くまで認められる(

Huang et al.,

2013

)ことに説明を与えることができる. フィリピン海プレートは,今は沈み込み帯に囲まれてい る.囲まれた他のプレート(太平洋やユーラシア)の運動に応 じて受動的に動くだけである.大局的には,インド・オース トラリアプレートとアジア大陸域のプレートに挟まれてい る.インド・オーストラリアプレートの北上によって羽交い 締めにされたことによって約

6 Ma

に沈み込みを開始したの かもしれない.いずれにしてもより詳細な年代の判定と,因

Fig. 4. Simplified geological profiles from the eastern Kii Peninsula to the Nankai Trough at ~6 Ma (top) and at present

(6)

果関係の検討が必要である.

3

2 Ma

以降の付加体の急成長

一方,南海海溝斜面ブレークあるいは外弧隆起帯(分岐断 層あるいは付加体の順序外断層形成が地形の原因となってい る)の外側の付加体は,約

2 Ma

以降大規模に成長したこと が紀伊半島沖でも確認された(

Strasser et al., 2009;

Kimu-ra et al., 2011

).これは,室戸半島沖の掘削でも確認されて いたように,富士川や天竜川流域から,大量の堆積物が南海 トラフへ流れ込んだ結果,付加体が急成長したことによる. なぜ∼

2 Ma

なのかについて,

Kimura et al.

2016

)は,西 南日本と東北日本の衝突東西圧縮がこの頃に開始され,それ はより広域的に見ると,日本海東縁地域での東西圧縮開始 (

Okamura et al., 2007

)とつながっているとみなしている. さらに広域的には,アジアにおけるアムールプレートの成立 (

Tamaki and Honza, 1985

)と関連し,

GPS

から推定され る現在のテクトニクスのフレームの成立(

Miyazaki and

Heki, 2001

)と関連するとみなせると説明している. 付加体の構造と物性

1

.構造 孔内検層およびコア試料観察によると,層理面は熊野前弧 海盆堆積物中では

15

° 以下の緩傾斜であるのに対して,付 加体内では急傾斜となり,掘削地点

C0002

の海底下

1400

m

以深では,北北西に

70

80

° 高角傾斜となっている(

Ex-pedition 314 Scientists, 2009; ExEx-pedition 315 Scientists,

2009; Yamada et al., 2011; Strasser et al., 2014; Tobin et

al., 2015b

).なお,

C0002

付近での三次元地震探査と孔内 検層(孔壁画像)による地層傾斜の方位と傾斜角は,孔内検層 の解析結果のばらつきを除いてほぼ一致するが,方位を復元 したコア試料に認められる地層傾斜データとはほとんど一致 しない.掘削地点

C0001

C0004

では,コア試料の観察 結果だけではなく,三次元探査と孔内検層の解析結果も一致 しない.これらは,観察のスケールに応じて異なる形態の構 造が付加体では観察できることを示している(

Yamada et

al., 2011

.

断層は,熊野海盆堆積層中では頻度が比較的少なく正断層 が卓越するが,付加体内では頻度が多く,正断層に比べ横ず れ断層や逆断層が多くなっている(

Expedition 315

Scien-tists, 2009; Hayman et al., 2012; Lewis et al., 2013

).後 者では横ずれ断層や逆断層が正断層によって切られており (

Lewis et al., 2013

),熊野海盆形成後は少なくとも付加体 浅部までは正断層形成の応力場が維持されていると考えられ る. 陸上に露出した付加体中のメランジュや衝上断層に特徴的 に観察される鱗片状構造は,掘削地点

C0002

の海底下

2430 m

以深で認められている(

Tobin et al., 2015b

).

2

.圧縮・破壊強度 泥質堆積物コア試料の一軸圧縮試験により,掘削地点

C0002

の海底下

1021

1034 m

から採取された試料につい て,それぞれ

4.12 MPa

Chang et al., 2010

)および

2.69

MPa

Kitajima et al., 2012

)という一軸圧縮強度が得られ

ている.ほぼ同じ深度から採取された

2

試料の粘土鉱物含 有量は類似しており(

Guo and Underwood, 2012

),両試 料の一軸圧縮強度の差(約

1.4 MPa

)が岩質の差に起因して いるとは考えにくい.

Chang et al.

2010

)の実験条件は記 載されていないが,

Kitajima et al.

2012

)は

0.005

µ

m/s

と いう極めて遅い変位速度で実験を行っており,その結果比較 的小さい一軸圧縮強度が得られた可能性がある. 一方,

Takahashi et al.

2013

)は掘削地点

C0002

の海底 下

945

1049 m

から採取された泥質堆積物コア試料につい て,室温,試料原位置相当の封圧

36

38 MPa

Expedition

315 Scientists

2009

)によって計測された密度に基づく)と 間 隙 水 圧

28

29 MPa

( 静 水 圧 を 仮 定 )の 下 で 変 位 速 度

10

µ

m/s

の三軸圧縮試験を行い,それぞれ

14.2

20.1 MPa

という破壊強度を得ている.両者の破壊強度の差(約

6 MPa

) は有効圧の差(

1 MPa

)に加えて,両者の岩質(粒径や粘土鉱 物含有量),孔隙率や透水性の違いを反映していると考えら れている(

Takahashi et al., 2013

).すなわち,海底下

945

m

の試料は極細粒粘土質で石英・長石などの砕屑粒子に乏 しく粘土鉱物に富むのに対して,海底下

1049 m

の試料は シルト質で石英・長石などの砕屑粒子に富み粘土鉱物に比較 的乏しいため,前者が後者に比べて破壊強度が小さかったこ とに加え,後述するように前者は後者に比べて孔隙率が小さ く難透水性で,三軸圧縮試験中に間隙水圧が上昇して,破壊 強度がさらに低下した可能性が大きい.前者の粘土質試料は

40

秒ほどかかってゆっくりと破壊しており,高間隙水圧下 で発生していると推定されている浅部スロー地震との対応関 係が注目される(

Takahashi et al., 2013

).

3

.摩擦特性 掘削地点

C0002

および

C0009

の海底下

945

1581 m

から採取された粘土質泥質堆積物,シルト質泥質堆積物,凝 灰岩および砂岩の各試料について,室温,試料原位置相当の 封圧

36

57 MPa

Expedition 315 Scientists

2009

)お よ び

Expedition 319 Scientists

2010

)によって計測された密 度に基づく)と間隙水圧

28

43 MPa

(静水圧を仮定)の下 で,変位速度を

0.1155

1.155

11.55

µ

m/s

の間でステッ プ状に変化させながら行った三軸摩擦実験では,先行研究 (例えば

, Logan and Rauenzahn, 1987; Takahashi et al.,

2007; Tembe et al., 2010; Moore and Lockner, 2011

)に よって明らかにされているような,粘土鉱物含有量の増加に 伴う摩擦強度の系統的な低下が認められた(変位速度

1.155

µ

m/s

に お け る 定 常 摩 擦 係 数µssは,粘 土 鉱 物 含 有 量 約

6 wt%

の 砂 岩 試 料 が

0.82

, 約

18 wt%

の 凝 灰 岩 試 料 が

0.71

30

34 wt%

のシルト質泥質堆積物試料が

0.53

0.56

,そして約

42 wt%

の粘土質泥質堆積物試料が

0.25;

Takahashi et al., 2014

).また,全試料とも変位速度の増加 に伴い摩擦強度が増加する,速度強化の挙動を示した (

Takahashi et al., 2014

). 一方,掘削地点

C0002

の海底下

1290.5

3030.5 mbsf

から採取された泥質堆積物試料について,試料原位置相当の 温度

51

98

°

C

Sugihara et al.

2014

)によって推定された 温度構造に基づく),封圧

44

83 MPa

Expedition 315

(7)

Scientists

2009

)および

Tobin et al.

2015b

)によって計測 された密度に基づく),間隙水圧

32

50 MPa

(静水圧を仮 定)の下で,変位速度を

0.1155

1.155

11.55

µ

m/s

の間 でステップ状に変化させながら行った三軸摩擦実験では,変 位速度

1.155

µ

m/s

におけるµssが深度の増加に伴って

0.52

から

0.26

へと低下する傾向が認められた(

Fig. 5a;

Kanaga-wa et al., 2016

).これは深度の増加に伴って粘土鉱物総量 が増加傾向を示している(

Tobin et al., 2015b

)ことを反映し ていると考えられる.また,変位速度急変前後の定常摩擦係 数の差から得られる定常摩擦係数の変位速度依存性(

a–b

値) は深度の増加に伴って小さくなり,海底下約

3000 m

a–

b ≈ 0

となることが明らかとなった(

Fig. 5b; Kanagawa et

al., 2016

).すなわち,この深度は速度強化(

a–b

0

)を示 す安定すべり(非地震性断層運動)と速度弱化(

a–b

0

)を示 す不安定すべり(固着すべり=地震性断層運動が起こり得る) の中間的な断層運動,すなわち浅部スロー地震性断層運動の 領域(例えば

, Obara and Kato, 2016

)と想定される.した がって,海底下約

3000 m

以深では

a–b

0

となると想定さ れ,地震発生域に迫っていると言える.深度増加(温度上昇) に伴って粘土鉱物総量に対するスメクタイト含有比の低下傾 向が認められており(

Underwood and Song, 2016;

Under-wood, 2017

),粘土鉱物総量に対するスメクタイト含有比

a–b

値の間には正の相関関係が認められる.一方,

a–b

値は温度とも負の相関があり,このような

a–b

値の温度依 存性は熱水条件ではスメクタイトを含まない泥質試料でも認 められることから(例えば

, den Hartog et al., 2012; Moore

et al., 2016

),

a–b

値の減少は粘土鉱物総量に対するスメク タイト含有比の低下に起因するのではなく,熱水条件で温度 上昇によって活動的になる,圧力溶解のような熱活性プロセ スに起因している可能性がある.

4

.水理特性

Takahashi et al.

2013

)は 掘 削 地 点

C0002

の 海 底 下

945

1049 m

から採取された泥質堆積物コア試料について, 室温,試料原位置相当の封圧

36

38 MPa

Expedition 315

Scientists

2009

)によって計測された密度に基づく)と間隙 水圧

28

29 MPa

(静水圧を仮定)の下で透水試験を行い, 水平方向の浸透率としてそれぞれ

2.92

×

10

−19

m

2および

2.29

×

10

−18

m

2を得ている.両者の浸透率の違いは前述し た岩質(粒径および粘土鉱物含有量)と孔隙率(前者が

11%

で後者が

38%

)の相違を反映していると考えられている (

Takahashi et al., 2013

).

Kitajima et al.

2012

)も掘削地 点

C0002

の海底下

1034 m

から採取された泥質堆積物コア 試料について有効平均応力

2

18 MPa

下で透水試験を行 い,試料原位置相当の有効平均応力下(約

9 MPa

)で約

7

×

10

19

m

2の浸透率を得ており,

Takahashi et al.

2013

)の 結果と矛盾しない. 付加体の応力場

1

.応力場の意義 巨大地震による断層すべりの発生をクーロン破壊として理 解すると,それを規定する要因は断層面の摩擦強度と,その 面にかかる応力(垂直

,

剪断)の大きさである.実際の地震発 生断層は,過去に破壊を繰り返した既存の断層が再活動す る.すなわち,周囲の岩石よりも弱い部分が破壊する.した がって,断層とその上盤・下盤の強度と応力の両方を知る必 要がある.応力場の推測方法には,掘削孔などを利用した広 域的な応力場推定法と,孔内での応力場の計測法がある.後 者には水圧破砕法,検層解析,コアの歪解析法などがある が,水圧破砕法は注水することにより,孔壁を破壊すること で行っている.当然のことだが,孔を掘るためには孔の状態 を安定に保つことが必須であり,そのような孔の破壊とはそ もそも相容れない.したがって注水実験などは,ケーシング パイプを設置した直下など,孔の崩落の影響が最小限となる 状況下でのみ,

OSI

Operations Superintendent;

掘削責任 者)の了解の下で行うことになる.

2

.手法 孔内検層から得られる孔壁内部の比抵抗画像は,現場応力 場など重要な情報をもたらす.掘削はドリルパイプ先端の ビット(切刃)が回転して行われるため,地層中の水平応力場 が均質であれば孔の形は円形になる.一方,プレート沈み込 みなどにより地層が一方向に圧縮されている場合には,掘削 時に最大圧縮方向と直交する円周上の(

180

度離れた)

2

か所 が圧縮破壊を起こして孔径が広がるため,その方向の比抵抗 が相対的に小さくなって孔内検層による比抵抗画像上に鉛直

Fig. 5. Steady-state friction

coef-ficient µss (a) and a–b value (b) at

a sliding velocity of 1.155 µm/s plotted against depth in meters below the seafloor (mbsf), as ob-tained from triaxial friction ex-periments on the Nankai Trough accretionary mud samples col-lected and cored at IODP Site C0002 (Kanagawa et al., 2016). The data from two samples from 944.6 and 1049.0 mbsf are after Takahashi et al. (2013). Shallow, intermediate, and deep samples are colored in blue, green/yellow/ orange, and red, respectively.

(8)

方向の筋ができる.これを孔壁破壊と呼び,水平最大圧縮主 応力(

SH

max)の方向を知る有力な手段である.これまでの航 海でほぼすべての孔で孔壁破壊が観測され,現在の

SH

max の方向が明らかになった(

Fig. 6

).検層と同じ場所でコア試 料が得られる場合には,応力場の大きさを推定することも可 能になる.岩石の一軸圧縮強度が計測できれば,上記の孔壁 破壊の「幅」から水平主応力の大きさが推定できる.またコア 試料回収後の弾性歪回復解析(

Ito et al., 2013

)や擬弾性歪回 復(

anelastic strain recovery,

略 称

ASR

)解 析(

Byrne et

al., 2009; Lin et al., 2010

)から主応力(σ1

,

σ2

,

σ3)の方向と 大きさを推定することもできる(注:林ほか(

2017

)などでは

anelastic strain recovery

は「非弾性歪回復」と訳されている が

,

理化学辞典(長倉ほか

, 1998

)では

anelasticity

は「擬弾 性」と訳されており

,

また非弾性は塑性も含むため

,

ここでは 「擬弾性歪回復」と訳す).一方,採取したコア試料に多数の 小断層が認められ,

X

CT

スキャナーによる非破壊三次 元構造解析により,地層に記録された過去から現在に至る詳 細な応力場や歪の履歴を捉えることができた(

Lewis et al.,

2013

).

3

.掘削により判明した現在の浅部応力場

NanTroSEIZE

では,すべての掘削地点でコア試料採取・ 孔内検層が実施されており,沈み込む前の四国海盆から固着 域の真上(熊野海盆上)における,海底下数百

m

1 km

程度 までの現在の応力場が推定されている(

Figs. 6, 7

).本稿で は,

Lin et al.

2016

)による総説を参考とした.詳細はそち らを参照されたい. トラフ∼海側(

C0011/C0012

) 掘削地点

C0011

では,孔 壁破壊(海底下

600

650 m

)から見積もられた

SH

maxの方 向はプレート沈み込み方向と斜交する.また樫野崎海丘上の

Fig. 6. Unwrapped borehole resistivity images of NanTroSEIZE drill sites aligned from NW (left) to SE (right), with a

com-mon depth scale (Kinoshita et al., 2009; Kopf et al., 2011; Saito et al., 2010; Strasser et al., 2014). Darker colors indicate more conductive sections, suggesting either porous formations or larger calipers. Dark vertical bands indicate borehole breakouts. ‘N’ and ‘S’ indicate north and south azimuths, respectively.

Fig. 7. Maximum principal horizontal stress (SHmax)

orien-tations (Byrne et al., 2009; Tsuji et al., 2011) and fault traces. The bars show the SHmax orientations in the

bore-holes (red in the accretionary prism and blue in the overly-ing sediments; Lin et al., 2010). White bars indicate the fast S-wave polarization directions estimated from OBS data along the white dashed lines (Tsuji et al., 2011). The dark-gray curves are normal faults mapped in the 3D seis-mic volume at 150 mbsf (Sacks et al., 2013). The rose dia-gram in the upper-left corner shows the extension direc-tions indicated by fault traces. Yellow arrows indicate the far-field convergence vectors between the Philippine Sea Plate and Japan (Heki, 2007).

(9)

掘削地点

C0012

ではコアの

ASR

解析から,堆積層中は正 断層的な場であり,

SH

max

WNW

方向である(

Yamamo-to et al., 2013

).堆積層の応力場は伸長場ではあるものの, プレート収束による

NW–SE

圧縮の影響を受けていると考 えられる.一方,海洋地殻中では横ずれ断層∼逆断層的な応 力場(

SH

max

NE

方向)である. 付加体先端部(

C0006/C0007

) 孔壁破壊は全深度に見ら れるが,弱い(差応力が小さい).

SH

max

NNW

方向であ る.

ASR

解析やコア試料の小断層逆解析から,現在は正断 層場と考えられる. 分岐断層浅部(

C0004/C0010

) 孔壁破壊は上盤・下盤を 問わず全体に存在し,

SH

max

NW

方向である.横ずれ∼ 逆断層の応力場と解釈される(

Olcott and Saffer, 2012;

Ya-mada and Shibanuma, 2015

). 掘 削 地 点

C0004

か ら 数

km

南西の掘削地点

C0010

には

LTBMS

が設置されたが, ここでも検層が行われ,同様の孔壁破壊が検出された.掘削 地点

C0010

では断層面を挟んで孔壁破壊の方位が急変した ことなどから,力学強度不連続が存在すると指摘された. 分岐断層上盤(

C0001

) 掘削地点

C0001

では,分岐断層 上盤部分が

900 m

掘削された.上部

500 m

には孔壁破壊が 明瞭に認められ,

SH

maxの方位は

NNW

方向と推定された. コア試料の圧密試験や小断層解析の結果などから,最大圧縮 主応力は鉛直方向であり,したがってこの地点付近は

ENE

拡大の正断層場である.

Chang et al.

2010

)は,

500 m

以 深では最大圧縮主応力が水平方向となり,横ずれ断層場に変 化していると指摘した(

Fig. 8

).なお

500 m

付近の破砕帯 では,検層時の孔内水圧が静岩圧を超えている(

Fig. 8;

Moore et al., 2013

).注水の影響もあるが,現在でも水圧 破砕等が起こっている可能性がある. 熊野海盆南端(

C0002

) 表層

900 m

の熊野海盆堆積層から その下の

6 Ma

より古い付加体にわたって,ほぼ全体に孔壁 破壊が観測される.

SH

max

NE

方向であり,掘削地点

C0001

C0004

などと直交している.また

ASR

解析やコ ア試料の小断層解析からは正断層場(最大圧縮主応力は鉛直 方向)と推定されている.このことは,三次元地震探査記録 でこの掘削地点付近に顕著にみられる,海底まで到達する正 断層から推定される

SH

maxと整合的である(

Fig. 7; Gulick

et al., 2010; Moore et al., 2013; Sacks et al., 2013

).一 方,この付近の三次元地震探査記録の詳細な解析の結果,

0.44 Ma

以前には海溝軸と平行に拡大(現在と直交方向)し

ていたことが示された.コア試料の解析から,深部では最大 圧縮主応力が水平方向となり,横ずれ断層場に変化している 可能性が指摘されている(

Fig. 8; Chang et al., 2010

).本 掘削地点ではライザー掘削が続けられて,現在海底下

3058.5 m

に到達している.ライザー掘削では泥水比重を調 整し,孔壁の崩落を防いでいるため,孔壁破壊はできにく い.そのため

SH

maxの方向の同定は困難であるが,孔内注 水試験等により,ある程度の様子が判明しつつある. 熊野海盆中央部(

C0009

) ライザー掘削により,海底下約

1600 m

まで掘削が行われた.その中で地層テスター(

MDT

) ツール等による現場応力計測が実施された.その結果,

C0002

孔と同様,浅部(熊野海盆堆積層)での正断層場と, その下での水平横ずれ断層場が推定された(

Fig. 8; Saffer et

al., 2013

).

4

.広域応力場 掘削孔を利用した応力場推定法には,掘削孔内に地震計ア レーを設置し,その周囲で別船舶からエアガンを発震してそ の到達反射波を受信する,鉛直地震探査法(

VSP

)がある. そもそも孔の周囲の断層や地層構造を詳細に求めるための手 法であるが,孔の周囲で正確に円を描いてエアガンを発震し

Fig. 8. In situ stress profiles at Sites C0009 (Ito et al., 2013; Saffer et al., 2013; Tsuji et al., 2011), C0002 (Chang et al.,

2010), and C0001 (Chang et al., 2010; Song et al., 2011). Pore pressure is assumed to be hydrostatic throughout. At shallow depths, the two horizontal principal stresses (SHmax and Shmin) are generally lower than the lithostatic stress (Sv), suggesting

a normal faulting stress regime. At greater depths, SHmax is larger than Sv, suggesting the stress regime favors strike-slip

faulting. MDT = modular dynamic tester, LOT = leak-off test, DITF = drilling-induced tensile fracture, and APRS = annu-lar pressure (borehole pressure).

(10)

て求められる,

P

波速度や偏向

S

波速度の方位異方性を利 用するのである.地中にランダムに分布するクラックや断層 のうち,その走向が

SH

maxと平行なものは開口し,これに 直交する方向に伝播する

P

波速度が遅くなるので,

P

波速 度が速い方位が

SH

maxになると考えられる.このことを利 用して,

Tsuji et al.

2011

)は

C0009

孔付近の広域応力場 を推定した.その結果は孔内応力場と整合的で,

SH

maxはプ レート収束と平行であった.

Tsuji et al.

2011

)はまた,エ アガンと海底地震計を用いた屈折法地震探査データから求め られた

S

波偏向異方性から,同様に堆積層全体の平均とし ての

SH

maxを推定した.その結果は掘削孔の結果と見事に 一致した(

Fig. 7

).ちなみに,掘削海域で

2003

2006

年 に発生した浅部超低周波地震(

VLFE

)の応力テンソルイン バージョン解析から,

Ito et al.

2009

)はこの海域は逆断層 ∼横ずれ断層型の応力場と推定している.

5

.応力場のまとめ 南海トラフ紀伊半島沖の掘削地点においては,海底から数 百

m

程度までは最大圧縮主応力が鉛直方向を向く,正断層 型の応力場であることが分かった.その一方で,深部に行く につれて最大圧縮主応力が水平を向く(横ずれ断層場になる) ことが示された.

SH

max方向は掘削地点により変化してい る.現在活動的な南海トラフ付加体内部の断層付近(

C0001

C0004

C0006

)では,

SH

max方向とプレート収束方向がほ ぼ一致しているが,巨大分岐断層のすぐ北に位置する熊野前 弧海盆南東縁(

C0002

)では,

SH

max方向がプレート収束方 向にほぼ直交していることが判明した.さらに北側(

C0009

) では再び

SH

max方向がプレート収束の方向にほぼ一致した. 一方,トラフ海側の

2

地点(

C0011

C0012

)では,

SH

max 方向はプレート収束方向とはやや斜交している.鉛直および 水平方向の応力場の変動の原因として考えられるのは,プ レート収束に伴うテクトニックな水平圧縮応力(ここでは

Sh

⊥ とする)が,深度や場所によって変動するため,と考えると 説明できる.

C0002

浅部では

Sh

⊥はσ3であり,トラフに平 行な走向を持つ正断層が形成される.一方

Sh

⊥が増加して

Sh//

(プレート収束と直交∼トラフ底と平行方向の水平応力) を超える状況になると,正断層場ではあるがその走向が

90

° 回転し,トラフに直交する走向を持つようになるだろう (

C0001

など).

Sh

⊥がさらに増加して

Sv

(鉛直応力)を超え ると,横ずれ断層場に変化する(

C0002, C0001

の深部). いずれにせよ,浅部での水平差応力は小さい(数

MPa

以内) ので,プレート運動によるテクトニック応力以外に,地震サ イクルにおける応力変動や,地すべりなどにも影響されて変 動する可能性がある. 巨大分岐断層・プレート境界断層の活動履歴 巨大分岐断層および付加体先端部のプレート境界断層は第

316

次研究航海でコア試料が回収され,地質学的時間スケー ルでの活動履歴が明らかとなった.

Fig. 9

C0004

の掘削 地点における地震反射断面,年代測定結果(

Kimura et al.,

Fig. 10. Simplified cross-section

of the frontal part of the Nankai Trough accretionary prism (modi-fied from Screaton et al., 2010). See text for details.

Fig. 9. Sequence of geological events around Site C0004

and the splay fault. Each event is labeled by a sequential number (a) referring to a specific geological event (b). The timing of events is based on fossil ages (Expedition 316 Scientists, 2009a).

(11)

2009; Strasser et al., 2009

)に基づいて,分岐断層活動の履 歴を記す.

Fig. 9a

に断層や不整合面,地層などの地質学的 マーカーについて番号を記し,

Fig. 9b

に微化石年代から推 定されるその地質学的事象の年代について記した.分岐断層 は二条認められ,より下位のもの(

Fig. 9

中の

9

)は活動を停 止,上位のもの(

Fig. 9

中の

10

)がより最新まで活動的であ る.活動の開始は,

2.2

1.95 Ma

とみなされている(

Ex-pedition 316 Scientists, 2009a, b; Strasser, et al., 2009

.

上記の分岐断層が海底付近まで達しているかどうかは地震 反射断面上で明確ではない.しかし,分岐断層周辺の掘削の 結果,上盤側のみに地震動による未固結堆積物の変形の痕跡 が認められ,最も新しい変形が

1944

年の東南海地震時であ ることから(

Sakaguchi et al., 2011b

),分岐断層は現在も 活動的であると言える. 付加体先端部の掘削によって,プレート境界のデコルマの 試料が回収され,後述するように摩擦すべりによる発熱痕跡 が検出された(

Sakaguchi et al., 2011a

).この断層からは 活動年代の情報は直接得られていないが,付加体先端部なの で最近も活動したであろうと推定される

.

一方,この付加体先端部に幾重にもある,プレート境界か ら分岐した断層を地震反射断面を基に簡略化して示したのが

Fig. 10

である.付加体は,先端部に露出するものを含めて, 下部は泥質岩が卓越する.それらはフィリピン海プレート上 の四国海盆上に堆積した半遠洋性堆積物とみなされる.時代 は中新世まで遡る.その下に沈み込む粗粒な堆積物は南海ト ラフに堆積したもので,その境界がデコルマとなる.境界近 傍直上の泥質岩からデコルマに平行な断層岩が回収されてい る. 反射断面と掘削コア試料の対比により,第四紀以後に粗粒 堆積物が入り始め,細礫サイズの礫層も挟在することが確認 された.これらはいずれも海溝充填堆積物である.第四紀以 後に急激に堆積物が流れ込んだという,分岐断層近傍のイベ ントなどと整合的である. これらの堆積物は,褶曲と断層によって変形している(

Fig.

10

).しかし反射断面から推定する限り,あるところまでは 地層の厚さに変化はない(

Fig. 10

で最上部の茶と黄で塗色 した部分).しかし,最上部では背斜部では薄く,向斜部で は厚くなる(

Fig. 10

の青色部).しかも,現在の海底面では 背斜部で侵食による不整合も観察される.このことは,掘削 地点

C0006

の掘削において,海底直下から間隙率の小さい コア試料が回収されたことと調和的である. この地層の厚さと背斜構造の調和,その軸部に集中するデ コルマからの分岐断層との交切関係から,デコルマ活動開始 が決められる.微化石年代からは

0.43 Ma

より若いことが 推定される.海底面は背斜部の隆起によって侵食が起こって いるのであるから,現在も活動的で,隆起と崩壊が繰り返し ているとみなすことができそうである. 巨大分岐断層・プレート境界断層の構造と物性

1

.構造 巨大分岐断層帯は掘削地点

C0004

の海底下

256

315 m

に観察される破砕帯に,一方,プレート境界断層帯は掘削地 点

C0007

の海底下

398.5

446 m

に観察される破砕帯に, それぞれ対応している(

Figs. 9, 10; Expedition 316

Scien-tists, 2009a, b

).これらの断層帯の上下で化石年代が逆転 しており(

Expedition 316 Scientists, 2009a, b

),いずれも 衝上断層運動と調和的である.また掘削地点

C0007

の海底 下約

419 m

には,衝上断層センスを示す複合面構造も認め られている(

Expedition 316 Scientists, 2009b

).掘削地点

C0004

の海底下約

271 m

には厚さ約

1 cm

の,また掘削地 点

C0007

の海底下約

438 m

には厚さ約

2 mm

の,ガウジ 層境界と平行または斜交した極細粒粘土鉱物粒子の配列に よって特徴づけられる断層ガウジが観察されており(

Fig.

11; Ujiie and Kimura, 2014

),巨大分岐断層とプレート境 界断層の主要な断層面と考えられている(

Expedition 316

Scientists, 2009a, b

).これらの断層帯では鉱物脈や熱水変 質は認められていない(

Ujiie and Kimura, 2014

).

2

.摩擦発熱の痕跡

前述した掘削地点

C0004

の海底下約

271 m

および掘削 地点

C0007

の海底下約

438 m

の断層ガウジ近傍で,ビト リナイト反射率が周辺(

0.24

0.27%

)より高い(掘削地点

C0004

0.57%,

掘削地点

C0007

0.37%

)異常が認めら れており(

Fig. 12; Sakaguchi et al., 2011a

),断層運動に 伴う摩擦発熱の痕跡と考えられている.前者の断層ガウジで は母岩に比べてスメクタイトが減少してイライトが増加して おり,摩擦発熱によってスメクタイトのイライト化が進んだ と考えられている(

Yamaguchi et al., 2011

).

Fulton and

Harris

2012

)や

Hamada et al.

2015

)は分岐断層とプレー

Fig. 11. Fault gouges from the megasplay fault zone at Site

C0004 (a) and the plate-boundary fault zone at Site C0007 (b) (Ujiie and Kimura, 2014).

(12)

ト境界断層の断層ガウジ近傍のビトリナイト反射率プロファ イル(

Fig. 12

)にビトリナイト熟成のカイネティクスモデル を適用し,摩擦発熱によって上昇した最高温度を

340

400

°

C

と推定している.このような巨大分岐断層およびプ レート境界断層の浅部における摩擦発熱の痕跡は,かつて地 震性高速すべりが海底付近にまで到達していたことを示唆し ており(

Sakaguchi et al., 2011a

),その結果大きな津波が 発生したであろうことは想像に難くない.

3

.摩擦特性

Hirose et al.

2008

)は,掘削地点

C0004

の巨大分岐断層 帯と掘削地点

C0007

のプレート境界断層帯の各

1

試料につ いて,それぞれ室温,垂直応力

10 MPa

,含水条件,変位速 度

0.8

80

µ

m/s

の回転剪断実験を行い,前者の定常摩擦係 数µssが約

0.5

と比較的大きくわずかな速度弱化の挙動を示 すのに対し,後者のµssが約

0.27

と小さくわずかな速度強 化の挙動を示すことを明らかにしている(

Fig. 13

).前者が 砕屑粒子に富むシルト質の試料であるのに対して後者は細粒 均質で砕屑粒子に乏しい粘土質の試料であり(

Hirose et al.,

2008

),両者の摩擦特性の違いはこのような岩質の相違に起 因していると考えられる.

Ikari et al.

2009

)および

Ikari and Saffer

2011

)も掘削 地点

C0004

の巨大分岐断層帯の

4

試料と掘削地点

C0007

のプレート境界断層帯の

2

試料について,それぞれ室温, 有効垂直応力

25 MPa

(封圧

6 MPa,

間隙水圧

5 MPa

),変 位速度

0.03

100

µ

m/s

の二軸剪断実験を行い,変位速度

10

µ

m/s

で は 前 者 のµss

0.36

0.44

)が 後 者 のµss

0.32

0.40

)に比べてやや大きいことを示している(

Fig. 13

).しか しながら,いずれの断層帯の試料も速度強化の挙動(

a–b

0

) を示している(

Ikari et al., 2009; Ikari and Saffer, 2011

).

また,

Tsutsumi et al.

2011

)は,掘削地点

C0004

の巨 大分岐断層帯試料について,室温,垂直応力

5 MPa

,含水 条件,変位速度

2.6

µ

m/s

26 cm/s

の回転剪断実験を行い, 変位速度

2.6 cm/s

以下では,µssが比較的大きく(

0.4

0.5

) 速度弱化の挙動を示す試料と,µssが比較的小さく(

0.3

0.4

) 速度強化の挙動を示す試料が存在することを明らかにしてい る(

Fig. 13

).前者が砕屑粒子に富むシルト質の試料である のに対して後者は細粒均質で砕屑粒子に乏しい粘土質の試料 であることから(

Tsutsumi et al., 2011

),

Hirose et al.

2008

) の場合と同様に,両者の摩擦特性の違いも岩質の相違に起因 している可能性がある.

一方,変位速度

6 cm/s

以上になると,全ての試料と実験 条件で変位速度の増加に伴い急激にµssが小さくなる,顕著

な速度弱化の挙動を示すことも明らかとなっている(

Fig.

13; Hirose et al., 2008; Ujiie and Tsusumi, 2010;

Tsut-sumi et al., 2011

).高速域におけるこのような顕著な速度 弱化はよく知られている現象で(例えば

, Tsutsumi and

Shi-Fig. 12. Vitrinite reflectance (Ro)

maps overlying photographs of split core samples from the mega-splay fault (A) and the plate boundary frontal thrust (B) (Saka-guchi et al., 2011a). CSF = core depth below seafloor. Black dots on the Ro map indicate where Ro was measured. The graph to the right of each core shows Ro val-ues. Red lines show smoothed Ro curves.

Fig. 13. Steady-state friction coefficient (µss) plotted

against sliding velocity (V) for samples from the mega-splay fault at Site C0004 and the plate boundary frontal thrust at Site C0007. σ: normal stress.

(13)

mamoto, 1997; Wibberley et al., 2008; Di Toro et al.,

2011

),無湿・無水条件で含水粘土鉱物を含まない場合は摩 擦発熱に伴う温度上昇による摩擦強度低下が主要な原因であ ることが明らかとなっている(例えば

, Yao et al., 2016

). 一方,含湿・含水条件や含水粘土鉱物を含む場合は摩擦発熱 による水の熱膨張や水蒸気化による間隙圧上昇も高速域にお ける速度弱化に大きく寄与しており,さらにすべり弱化距離 が短くなり破壊が伝播しやすい摩擦特性となることが知られ て い る( 例 えば

, Boutareaud et al., 2008; Ujiie and Tsu-

stumi, 2010; Faulkner et al., 2011; Wada et al., 2016

). 実際,掘削地点

C0004

の巨大分岐断層帯試料について含水 条件で行われた高速回転剪断実験でも,すべり弱化距離が著 しく短くなること(

Ujiie and Tsutsumi, 2010

),さらに実 験後の試料に観察された粘土鉱物粒子の配列などは,巨大分 岐断層帯の断層ガウジの微細構造の特徴と調和的であること が報告されている(

Ujiie and Kimura, 2014

).このことは, 上述のビトリナイト反射率や粘土鉱物に認められる摩擦発熱 の痕跡(

Sakaguchi et al., 2011a; Yamaguchi et al., 2011

) と合わせて,かつて地震性高速すべりが海底付近にまで到達 していたことを支持する.

4

.水理特性

Ikari et al.

2009

)は,掘削地点

C0004

の巨大分岐断層帯と その上盤・下盤の試料について,上述の条件で摩擦実験を行っ た後に封圧

6 MPa

,間隙水圧

5 MPa

の下で透水試験を行い, それぞれ

2.2

5.5

×

10

−20

m

2および

1.5

7.0

×

10

−19

m

2とい う浸透率を得ており,巨大分岐断層帯試料の方が上盤・下盤 の試料に比べて摩擦実験により浸透率がより小さくなること を報告している.これは,断層帯試料の方が上盤・下盤の試 料に比べて粘土鉱物含有量が多いことに起因していると考え られている(

Ikari et al., 2009

).摩擦実験中の圧密によって 粘土鉱物粒子が定向配列して浸透率が小さくなるため,粘土 鉱物含有量が大きいほど浸透率も小さくなると考えられる.

Tanikawa et al.

2012

)は,掘削地点

C0004

の巨大分岐 断層帯

1

試料および掘削地点

C0007

のプレート境界断層帯

1

試料について封圧

3.5 MPa

,間隙水圧

0.2

0.6 MPa

の 下で透水試験を行い,それぞれ

2.7

×

10

−18

m

2および

7.7

×

10

18

m

2という浸透率を得ている.両者の浸透率の違いは, 前者が細粒でスメクタイト含有量が多いことを反映している と考えられる.

Hirose et al.

2008

)の摩擦実験で使用され た両断層帯の試料とは異なり,試料の岩質も異なっている.

Tanikawa et al.

2012

)はまた,これらの試料を粉砕した ガウジ試料について室温,垂直応力

1.5 MPa

,含水または 無水条件下で低速(変位速度

1.3 cm/s

)・高速(変位速度

1.05

m/s

)摩擦実験を行い,実験前後に浸透率の測定を行ってい る.それによると,巨大分岐断層帯試料およびプレート境界 断層試料の摩擦実験前の浸透率はそれぞれ

6.45

×

10

−19

1.81

×

10

18

m

2および

3.69

8.00

×

10

19

m

2で,含水条件 の摩擦実験後にはそれぞれ

7.87

×

10

20

3.19

×

10

19

m

2 および

1.28

3.16

×

10

−19

m

2へと低下するのに対して,無 水条件の摩擦実験後には

3.51

6.90

×

10

−18

m

2および

1.26

2.73

×

10

−18

m

2へと増大している.また,含水条件では 低速ほど実験後の浸透率が小さくなるのに対して,無水条件 では高速ほど実験後の浸透率が大きくなっている(

Tanika-wa et al., 2012

).含水条件では実験中に試料の圧密が観察 されており,低速の実験でより大きな圧密が起こっているの に対して,無水条件ではいずれの場合も実験中に試料の膨張 が観察されており,高速の実験でより大きな膨張が起こって いる(

Tanikawa et al., 2012

).試料の膨張は,試料に含ま れるスメクタイトが摩擦発熱により脱水し,その水が水蒸気 化して間隙圧を上昇させたことに起因していると考えられ(例 えば

, Boutareaud et al., 2008; Ujiie and Tsustumi, 2010

), 膨張により孔隙率が大きくなるため,実験前に比べて浸透率 が大きくなったと考えられる.高速ほど摩擦発熱に伴う温度 上昇が大きく水蒸気圧も大きくなったため,試料の膨張も大 きくなり,その結果,孔隙率や浸透率もより大きくなったの であろう.一方,含水条件では摩擦発熱が抑制されてスメク タイトの脱水が起こりにくく,試料は摩擦実験により圧密 し,実験前に比べて孔隙率が減少して浸透率が小さくなった と考えられる.低速ほど試料の圧密が大きいことから孔隙率 がより小さくなったため,浸透率もより小さくなったのであ ろう. 孔内計測によるプレート境界地震と ゆっくりすべりの連続観測

2016

4

1

日,紀伊半島南東沖約

50 km

の海底下約

10 km

Figs. 14, 15

)で地震が発生した.この地震の震源の 上を覆うように

DONET

が展開されており,また震央から 南東方向へ

25

35 km

の場所では,

IODP

365

次研究 航海によって,既に設置された

2

か所(掘削地点

C0002

お よび

C0010

)の掘削孔内観測装置による観測が行われていた (

Fig. 14

).この地震発生時とその前後の震源域近傍での様々 な海底観測データ(

DONET

による地震・海底水圧),掘削 孔内観測による海底下の間隙水圧データが得られた.なお, 掘削地点

C0002

の掘削孔内観測データは,孔内に設置した 長期孔内観測装置が

2013

年から

DONET

に接続され,地 震発生時にリアルタイムで取得された.一方,掘削地点

C0010

の掘削孔内観測データは,

2010

年から設置されて いた(

DONET

には未接続)簡易型孔内観測装置を,この地 震の発生直後の

IODP

365

次研究航海実施中に回収して 取得された. 震源域から離れた陸上での観測結果に基づく解析だけで は,この地震がプレート境界で起こったのかそうでないのか が明らかでないことから,海底および掘削孔内で得られた近 接観測データに,これまでの海底下地殻構造探査の成果も加 えて統合的な解析を実施した(

Wallace et al., 2016

).

1

4

1

日の

Mw6.0

地震前後を含む一連の地震の詳細か つ精密な活動状況(震源分布)を

DONET

の海底地震計 のデータと海底下構造探査から得られた高精度な構造 モデルに基づき決定した.その結果,プレート境界面 近傍に地震活動が集中していることが明らかとなった (

Fig. 15

).

2

DONET

の水圧計によって,地震によって海底面の震

(14)

央近傍で

1.7 cm

程度の沈降,沖合で数

mm

の隆起を していることがわかった.また,震源域の沖合の

2

ヵ 所の

IODP

掘削孔内観測で得られた海底下の間隙水圧 上昇の変動観測結果から,地震によって掘削地点

C0002

0.37

×

10

6

C0010

で掘削地点

0.15

×

10

6 , それぞれの比率で体積収縮していることが明らかに なった(

Fig. 16

).これらの観測結果を検討した結果, 本震では,震源分布で見られたのと同様にプレート境 界面の地震すべりをしていると判断すべきであると結 論された.

3

DONET

の水圧計では,地震直後に震央付近で高さ

2

cm

程度の小さな津波が発生し,津波が周囲に伝わって いく様子が明らかになった.この津波もまた,プレー ト境界面で地震すべりをした場合の予測と合致した.

4

)掘削孔内の間隙水圧は,本震時に

2 kPa

急上昇し,そ の後も

2

日間にわたってさらに

30%

程度上昇を続けた (

Fig. 16

).これは本震後も滑りが継続したことを意味 する.また,本震後に震源から

10 km

程度離れた場所

Fig. 15. Cross-section of the 1 April 2016 earthquake

loca-tions and aftershocks projected onto a P-wave velocity profile (top) and temporal history of the earthquakes with-in the cross-section with respect to the origwith-in time of the main shock (bottom) (Wallace et al., 2016).

Fig. 16. Borehole pressure changes during the 1 April 2016

earthquake (Wallace et al., 2016). (A) Pressure data from C0002 during the ~two-day period surrounding the earth-quake. (B) Close-up of the time of the earthquake (gray box in A), showing pressure records from C0002 (red) and C0010 (blue).

Fig. 14. Map of Kii Peninsula showing the DONET

net-work borehole, observatory sites C0002 and C0010, and hypocenters of the 1 April 2016 earthquakes scaled for magnitude (Wallace et al., 2016).

Fig.  1 . The IODP NanTroSEIZE area and drill sites (white  circles).
Table  1 . Summary of expedition results.
Fig.  3 . Tectonic reconstruction of SW Japan, considering recovered sediments and the terrestrial geology (Kimura et al.,  2014)
Fig.  7 . Maximum principal horizontal stress (SH max ) orien- orien-tations (Byrne et al., 2009; Tsuji et al., 2011) and fault  traces
+4

参照

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