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当初 酪農 畜産を学んでいるとは言え酪農経験のない学生に どのような貢献ができるのか懸念されたが それは杞憂であった なぜなら 現地の酪農は 筆者の主観ではあるが 我が国の 30~50 年前の農村風景 農民気質そして衛生水準を彷彿とさせるものであり 大学で学んだ知識でも 十分に様々な課題を指摘できる

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Academic year: 2021

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1 南米で小規模酪農家の経営強化を支援する学生たち ~帯広畜産大学と JICA との連携事業より 国立大学法人帯広畜産大学 畜産フィールド科学センター長 教授 木田克弥 国立大学法人帯広畜産大学では、独立行政法人国際協力機構(JICA)と連携し、パラグ ア イ 共 和 国 ( パ 国 ) の 南 端 に 位 置 す る イ タ プ ア 県 で 小 規 模 酪 農 家 の 強 化 プ ロ ジ ェ ク ト (FOPRILEI)を 2012 年から 6 年計画で展開している(図 1)。 図 1 パラグアイの位置(左)と活動地域のイタプア県(右 )緯度、経度を入れ替え、日本との相対 的位置を示す (Google earth より) このプロジェクトは、大学の専門知識・技術を活用してパ国の小規模酪農家の経営向上 を図り、同時に大学のミッションである国際的視野を持った人材育成に資することを目的 としている。帯広畜産大学の大学院生または卒業生が、青年海外協力隊員(長期隊)とし て、乳牛の飼養管理、繁殖、搾乳衛生の向上に係る支援活動(任期は国内研修を含めて 2 年間)を行う。そこに夏休みと春休みを利用して学部学生と大学院生が短期学生ボランテ ィア(短期隊)として 1 か月間余り派遣され、酪農家を訪問調査してプロジェクトの進捗 状況をモニタリングする。現在(2016 年 6 月)までに、長期隊 8 名、短期隊 21 名が派遣 され、2018 年 3 月までに、さらに 20 名程度が派遣される予定である。

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2 当初、酪農・畜産を学んでいるとは言え酪農経験のない学生に、どのような貢献ができ るのか懸念されたが、それは杞憂であった。なぜなら、現地の酪農は、筆者の主観ではあ るが、我が国の 30~50 年前の農村風景、農民気質そして衛生水準を彷彿とさせるもので あり、大学で学んだ知識でも、十分に様々な課題を指摘できるものであった。 本稿では、学生が見たパ国の小規模酪農家の驚きの現状を紹介するとともに、6 年間の プロジェクトの折り返しを過ぎた時点での成果についても言及する。なお、多くの発展途 上国共通点として、パ国でも生活環境や農業技術などの様々な分野で、最新技術と旧態依 然とした技術とが混在しており、例えば、手搾り酪農家の隣で日本では見ることがないほ どの大型コンバインによる大豆収穫が行われていたり、ごく一部ではあるが、大型フリー ストール酪農経営も存在したりする。本稿は、あくまで、活動地域の小規模酪農について 紹介するものであり、これがパ国の酪農産業の平均的姿ではないことを付記しておく。 1. パラグアイの小規模酪農 本プロジェクトの活動地域は、パ国の南端イタプア県の 3 市(コロネル・ボガード、ヘ ネラル・アルティーガス、サンペドロ・デル・パラナ)で、肉牛(セブ種など)の放牧に よる牛肉生産と、麦、米、大豆、ゴマなどの作物栽培が行われている(図 1)。この地域の 酪農は、元来、出産後の肉牛から搾乳したミルク(平均日乳量 5L/頭程度)の自家消費で あり、余剰分をペットボトルに詰めたり、チーズ(パラグアイチーズと呼ばれ、牛乳にレ ンネットを混ぜて凝固させたもの)に加工したりして近隣家庭に配達・直販している。パ 国でも近年、牛乳・乳製品の需要が高まっており、各地で酪農組合が組織され、乳業会社 から貸与されたバルククーラーに数戸分のミルクを集め、出荷する動きが高まってきてい る。さらに、個体乳量を増やすには遺伝的改良が不可欠であるため、近年は、人工授精も 普及しつつある。 (ア) 酪農家の様子 活動地域の酪農家は、芝生(牧草)に覆われた敷地全体が柵で囲まれ、その中に住宅と 豚小屋、鶏小屋、搾乳小屋(牛舎)があり、牛、鶏、豚、そして例外なく犬が自由に動き 回る‐人も家畜も同じ空間で生きている(図 2)。親鶏の後ろには数多くの雛がついて歩き、 親鳥は牛糞を見事なまでに蹴散らしてエサとなる虫を探し与えている‐これなら、不食過 繁草には絶対にならない(図 3)。住宅周りにはバナナ、グレープフルーツ、グァバ、カシ

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3 ス、マンゴー、パパイヤ、ザクロなどの果樹が季節ごとに実をつけている。 一戸当たり数頭から 20~30 頭の牛(乳牛・肉牛混在)が放牧飼育され、朝夕 2 回、手 搾り搾乳されている。経営者は高齢の方が多く、その理由は、少頭数飼育では生活困難な ため、働き手は、教員や役所などの勤めに出たり、アルゼンチンなどに出稼ぎしたりして いるためのようである。このような状況を踏まえ、本プロジェクトでは、大きく 3 つのテ ーマ(搾乳衛生、繁殖管理、飼料給与)で技術移転を行ってきている。 図 2 小規模酪農家(左奥)と赤土の道路 図 3 庭を歩き回る鶏家族 (イ) 繁殖管理の現状と課題 広大な平原に肉牛を雄牛と共に放牧 する自然交配 “蒔き牛”による繁殖が行われてい たため、酪農家には繁殖管理という概念が希薄で、最終分娩日はもとより、交配も雄牛任 せ、妊娠鑑定は「乳量が減ってきたら妊娠」と判断し、出産予定日も「乳房が張ってきた らわかる」というものであった。調査開始当初、記録が無いだけでなく、牛には耳標もな いため、個体識別にも苦慮することが多かった。そこで、繁殖管理改善の具体的取り組み として、まず、耳標装着による個体識別と繁殖台帳への記録および繁殖カレンダーの活用 を推進することとした。 また、子牛の発育は親牛任せであるため、発育が遅延し、初回交配は満 2 歳、初産分娩 は満 3 歳が一般的である。これは、栄養管理の問題であり、哺育・育成に関する技術の普 及も必要である。 なお、対象農家の中には、自ら人工授精師の資格を取り、いち早くホルスタイン種の精 液を用いて遺伝的改良に取り組んでいる方がいた。この方は、小規模経営ながら、一頭当 たり産乳量が多く、他の農家とは一線を画す優良経営をされており、本プロジェクトの到

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4 達目標に最も近いモデル農家として、隊員達の良き相談相手にもなっている。 (ウ) 搾乳衛生の現状と課題 多くの農家は、1 日 2 回の搾乳を行っているが、乳量の少ない牛については、1 日 1 回 搾乳も珍しくない。さらに、搾乳牛舎(搾乳小屋)を持たない農家では、立ち木に牛を係 留して搾乳しているため、雨の日には搾乳が行われないこともある。 一般的な搾乳方法は、以下のとおりである。 ① 牛を放牧地から搾乳小屋に呼び込み、飼槽の柵などに繋ぐ(図 4) ② 飛節上部にロープを回して後肢を縛る(搾乳中の蹴りを防ぐ) ③ 子牛を連れてきて 4 乳頭から吸乳させる(前搾りと乳頭清拭と哺乳を兼ねる)(図 5) ④ タオルで乳頭清拭(拭かない農家も少なくない) ⑤ 片手にカップを持ち、もう片方の手で搾る(図 6) ⑥ カップが一杯になったら、バケツに貯める ⑦ 搾乳中は、細断牧草に濃厚飼料を混ぜて採食させる ⑧ 搾乳終了後は、子牛と共に再び放牧され、子牛は乳房に残ったミルクを飲む ⑨ 農家は、バケツのミルクをペットボトルに移して、近隣家庭に配達する ⑩ 余ったミルクを、パラグアイチーズに加工する このように、現地の搾乳方法は、“衛生的”搾乳には程遠く、活動当初は、CMT 検査(乳 房炎検査)結果がほとんどの牛で陽性であった。このため、本プロジェクトの取り組みと して、正しい衛生的搾乳方法と乳房炎検査(CMT 検査)による乳質モニタリングを普及 させることとした。

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5 図 4 搾乳準備(牛をつなぐ) 図 5 搾乳準備(子牛による前搾り) 図 6 搾乳 (エ) 飼料給与の現状と課題 基本的にすべての牛は、通年放牧により青草を摂取している。さらに、搾乳時に、青刈 りしたサトウキビや牧草(カメルンやグラマファンテなど)が配合飼料と共に給与されて いる(図 7)。しかし、飼料給与に際して、基本的事項であるエネルギーとタンパク質のバ ランスや濃厚飼料(屑米、米ぬか、粉砕トウモロコシ、および配合飼料)の栄養特性など はほとんど考慮されておらず、高泌乳牛の栄養不足と低泌乳牛の栄養過剰の問題が混在し ている農家も少なくない。

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6 図 7 青刈り牧草と濃厚飼料を採食する牛、首は脱柵防止用具 また、放牧地は野草(自然草)地のため季節による草量の変動が大きく、乳生産や繁殖 成績が左右されている(図 8)。特に、冬期間は牧草の再生が遅れ、年によっては霜 で牧草 が枯れてしまうなど、冬場の粗飼料確保が大きな課題になっている。そこで、本プロジェ クトでは、冬期間の貯蔵飼料(サイレージ)確保を主要課題とし、栄養管理の基本的知識 の啓蒙と共に技術移転を進めることとした(図 9)。 図 8 天然草地に放牧されている育成牛、後方は、青刈り給与牧草(カメルーン)

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7 図 9 袋詰めサイレージ製造を指導する隊員 2. 学生隊員の活動 長期隊員は、JICA 青年海外協力隊として、日本で約 2 か月間の訓練を受けた後、任地 で活動する。この活動成果を半年ごとにモニタリング調査しているのが、学生短期ボラン ティア(短期隊)の学生である。短期隊は 4 名で調査を行い、繁殖管理、搾乳衛生、飼料 給与、そして経営の各分野を分担してデータをまとめている。一か月余りの活動期間中に 3 市 12 戸の酪農家を訪問調査し、後日、再訪問して各農家に結果報告および改善提案を行 い、活動の最後には、全戸のデータを集計し、過去データと比較して、プロジェクトの進 捗状況を 3 市でそれぞれ開催される最終報告会に報告し、ミッション完了となる。 (ア) モニタリング調査 酪農家のモニタリング訪問調査は、朝の搾乳立会から始まる。酪農家の朝は早く、滞在 先のホテル出発が午前 3 時半になることも・・。満点の星々に埋め尽くされた夜空の下、 酪農家まで 1 時間余り、農家に到着すると時を告げる鶏の声が出迎えてくれる。 暗い中、搾乳が始まり、いよいよ調査開始である(図 10)。個体確認し、CMT 検査板に 乳汁を採取してもらい、乳質検査をする(図 11)。同時に、搾乳前準備作業の手順と各作 業の精度をチェックする。傍らでは、飼料給与が行われており、飼料の種類を確認しなが ら給与量を測定する。搾乳が終了したら、ボディコンディションスコア(BCS)とルーメ ンフィルスコア(RFS)を判定し、併せて、繁殖状況(最終分娩日、発情・交配の有無、

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8 妊非)を聞き取る。搾乳終に、牛群管理や経営目標、そして飼料購入費や乳・チーズの販 売額など経営状況を聞き取り、すべての調査を終える。 図 10 乳量を計量する隊員 図 11 乳質検査(CMT)をする隊員 図 12 調査結果をまとめた手書きのポスター 現地調査後はホテルに戻り、調査したデータの解析をする。担当分野ごとに、現状を整 理・分析し、過去データと比較して、改善点や課題を報告資料(手書きのポスター)に取 りまとめる(図 12)。さらに、その説明文を作成してスペイン語への翻訳を終えると、深 夜になることもしばしばである。通常、翌日に農家を再訪問して、ポスターを示しながら 報告し、ミッション完了である(図 13)。

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9 図 13 農家で調査結果の説明 このような毎日のため睡眠不足が蓄積するが、学生たちのモチベーションは高い。それ は、少しでも現地の酪農家の経営向上に貢献したいという想いに加え、取り組み成果(乳 質向上や繁殖成績改善など)に対する酪農家からの感謝の言葉が、何よりもの励みになっ ている。御礼にと昼食をご馳走になることもしばしばあり、庭先を徘徊している鶏を捕ま え、その場で捌いて煮込んだ料理は、その光景こそ衝撃的ではあるが、その味は絶品であ り、ご家族とテーブルを囲んだとき、学生にとっては、まさに苦労が報われる瞬間である。 3. まとめ 2016 年 3 月現在、搾乳衛生向上による乳質改善(図 14)とは顕著な成果を収めており、 多くの酪農家で冬季用の貯蔵飼料(サイレージ)作りが行われるようになっている。さら に、以前から人工授精に取り組んでいる農家においては適切な栄養管理も相まって、蒔き 牛よりも良好な繁殖成績(1 年 1 産)を達成している(図 15)。しかしながら、これらの 取り組みは、目に見える形で経済効果、すなわち酪農家の儲けにはつながっていない。そ の理由は、そもそも遺伝的改良には時間がかかるためであり、セブ系肉牛に対して、いか に良い飼養管理を行っても乳量には限界があるためである(図 16)。 したがって、今後、3 市の酪農を発展させていくための最重要課題は人工授精による遺 伝的能力の向上であり、それと共に、牧草の適期利用、すなわち栄養価の高い牧草を摂取 させることによる乳生産と健康の確保である。これらは、我が国の酪農がこの 30 年間に 歩んできた道程を辿ることであり、我が国よりも自然資源に恵まれているパ国においては

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10 前途揚々である。

図 14 CMT 分房陽性率の推移:最終報告会スライドより(日本語版)

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図 15  優良農家の分娩間隔の推移:最終報告会スライドより(日本語版 )
図 16  品種別の個体乳量:最終報告会スライドより(日本語版)

参照

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