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ドイツにおける消費者の財産被害事案に係る 行政による経済的不利益賦課制度に関する調査 獨協大学法学部准教授宗田貴行 < 目次 > 1. はじめに 2. 過料 制裁金制度 (1) 過料制度一般の概説 (2)GWB 上の連邦カルテル庁の制裁金 ( 過料 ) 制度 (3)TKG 及び UWG 上の連邦ネッ

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ドイツにおける消費者の財産被害事案に係る 行政による経済的不利益賦課制度に関する調査 獨協大学法学部准教授 宗田貴行 <目次> 1.はじめに 2.過料・制裁金制度 (1)過料制度一般の概説 (2)GWB 上の連邦カルテル庁の制裁金(過料)制度 (3)TKG 及び UWG 上の連邦ネット庁の過料制度 3.その他利益剥奪制度等 (1)過料との関係について (2)GWB 上の連邦カルテル庁の利益剥奪制度 (3)TKG 上の連邦ネット庁の利益剥奪制度 (4)UWG 上の事業者団体及び消費者団体等の利益剥奪請求権制度 (5)GWB 上の事業者団体等の利益剥奪請求権制度 4.検討 <ヒアリング先> 連邦ネット庁(ボン) 2012 年 8 月 7 日 13 時~ Mirja Junghans(電話広告過料制度担当)

Andrea Wulschläger(付加価値的サービス濫用・スパム規制担当)

消費者センター総連盟(ベルリン) 2012 年 8 月 20 日 14 時~ Helke Heidemann-Peuser(集団的権利保護担当) Bianca Skutnik(集団的権利保護担当) ハンス・ユルゲン・アーレンス裁判官(ゲッティンゲン) 2012 年 8 月 12 日1 <法律名の略称の凡例> AO 租税法 BGB 民法 GG 基本法(憲法に相当) GWB 競争制限禁止法 InsO 倒産法 KapMuG 投資者ムスタ手続法 OWiG 秩序違反法 RBerG 法律相談法 StGB 刑法 StPO 刑事訴訟法 TKG 電気通信法 TMG テレメディア法 UKlaG 差止訴訟法 UWG 不正競争防止法 1 アーレンス裁判官への筆者からの電子メール及び後述の諸先生方の訪問による質問、アーレンス裁判官 からの電子メールでの回答による。アーレンス裁判官のヒアリングには、龍谷大学法科大学院中田邦博教 授及び慶應義塾大学法科大学院鹿野菜穂子教授に貴重な御尽力を賜った。この場をお借りして、御礼を申 し上げます。

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VWvG 行政執行法 ZPO 民事訴訟法 1.はじめに ドイツにおいては、消費者保護のための一般法は存在せず、消費者保護を目的の一つと する様々な法律等により、消費者保護が図られている。消費者保護の中心的役割を担って いるのが、不正競争防止法(UWG)であり、その他に消費者保護を図る重要な法律として競 争制限禁止法(GWB)及び電気通信法(TKG)がある。これらの法律においては、消費者の 財産的被害事案に係る行政等による種々の経済的不利益賦課制度が規定されている。そこ で、これらの法律を中心に、消費者の財産被害事案に係る行政による経済的不利益賦課制 度を調査し、かかる制度の実効性を確保するためという観点から、それと併せて財産の隠 匿・散逸防止策に関する調査を行った2 2.過料・制裁金制度 (1)過料制度一般の概説 各過料制度・制裁金制度の説明に入る前に、同制度の位置付けを明らかにするために、 過料制度の概要と運用状況を簡単にみておくことにする。 過料は、概略を述べれば、所管行政官庁が、秩序違反者に対し秩序違反を理由として経 済的不利益を賦課する制度である。 ①歴史的経緯 過料制度の歴史的経緯は、以下のようになる。すなわち、自然犯と行政犯を区別するこ とを前提として、単に行政的な秩序に違反するにすぎない行為を犯罪とは別個に処理する ことを目的として、1952 年に秩序違反法(OWiG)が成立した。そこでは、いわゆる経済統 制法規違反が規制対象とされた。その後、交通犯罪の秩序違反行為を規制対象とする改正 が行われ(1968 年)、さらに、違警罪とされていた多くの行政法規違反を秩序違反行為へと 変更する改正が行われた(1975 年)。今日では、道交法、青年保護法、不正労働法、外国人 法、データ保護法、労働法、動物保護法、環境保護法、商法、TKG、テレメディア法、GWB、 UWG などにおいて、秩序違反行為が限定列挙の形で規定されている。 2 なお、違反行為によって被害を受けた者の損害賠償請求権等を消費者団体が訴訟上まとめて行使する RBerG 関連の制度、それに金融分野の KapMuG 上の制度も、違反行為者に一定限度で経済的不利益を与え、 違反行為者が違反行為により獲得した利益を吐き出させることに資するが、今回の調査は、経済的不利益 賦課を行政が主体となって行う場合についての調査であることと、個々の被害者の被害の回復とは一応離 れたところで経済的不利益が賦課される制度についての調査であることから、これらは今回の調査対象か らは除外した。これらの制度については、平成 21 年度消費者庁請負調査・ドイツ調査報告書 (宗田)(「ア メリカ、カナダ、ドイツ、フランス、ブラジルにおける集団的消費者被害の回復制度に関する調査報告 書」(2010 年 3 月 26 日)。以下「2010 年ドイツ調査報告書」という。)を参照されたい。

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②秩序違反行為 刑罰と過料は、ともに過去の行為に対する非難である点で共通するが、刑罰は社会倫理 的な非難であるのに対し、過料は義務履行を促すためのものであり、社会倫理的な非難を 伴うものではないという差がある。OWiG 第 1 条第 1 項によれば、秩序違反行為とは、過料 を定めた構成要件に該当する、違法で非難可能性のある行為とされ、秩序違反の実体的成 立要件は、犯罪成立要件とほとんど同じものとされる。故意ある行為のみが、秩序違反と して罰されうるが、諸法により過失ある行為も明示的に過料を課されると規定されている 場合は除く(OWiG 第 10 条)。 ③過料の額 過料の額は、自然人に課される過料の場合には、5 ユーロから 1000 ユーロ(OWiG 第 17 条第 1 項)であるが、個別の法律によって、それを超える額を定めることが可能である。 秩序違反行為の重大性、行為者の非難の程度、行為者の経済状況を考慮して、裁量に基づ き具体的な額が決定される(OWiG 第 17 条第 3 項)。過料額の算定において、既に利益が刑 事罰や民事情報請求権により支払われている場合には、それが差し引かれ考慮される。法 人等に課される場合の過料の額は、OWiG 第 30 条第 2 項によって定められており、それによ ると、従業員等の行為の種類により分類され、故意による犯罪行為の場合には 100 万ユー ロ以下、過失による犯罪行為の場合には 50 万ユーロ以下、秩序違反行為の場合には当該行 為に対する過料額の上限となる。なお、過料額は違反者が違反により獲得した経済的利益 を上回るべきであると規定されており(OWiG 第 17 条第 4 項第 1 文)、秩序違反行為によっ て獲得した利益は、過料として課されなければならない。また、利益の額が過料の上限額 を上回るときは、上限額を超えて利益額に対応した額の過料を課すことができるものと規 定されている(OWiG 第 17 条第 4 項第 2 文)。ある行為が同時に刑法違反及び秩序違反であ る場合には、刑法のみが適用され(OWiG 第 21 条第 1 項)、ある行為が同時に刑法違反及び 秩序違反である場合であって刑罰が科されないときは、秩序違反として処罰され得る(OWiG 第 21 条第 2 項)。このため、過料と刑罰が同時に賦課されることはなく、額の算定におい て両者の調整は問題とならない。民事法上の請求権との調整については、連邦カルテル庁 の制裁金及び連邦ネット庁の過料のところで述べる。 ④過料手続 過料賦課の手続3 過料賦課の手続において異議申立てがなされた場合には、裁判所によって審理と判決又 は決定がなされることとなるが、この場合以外には、過料を課す権限は、裁判所ではなく は、まず、当該行政官庁による事前手続(Vorverfahren)が行われ、秩 序違反行為が認定されると軽微な違反については 5~35 ユーロの戒告(Verwarnung)が当 該行政官庁によりなされ得る(OWiG第 56 条第 1 項)。それ以外の違反については、過料の

告知(Erlass eines Bußgeldbescheid)がなされる(OWiG第 65 条)。OWiG第 65 条は、秩序

違反は、この法律に特段の規定のない限り過料によって罰されると規定する。過料の告知 までの事前手続は、刑事事件の捜査手続と類似したものであり、審判手続ではない。

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所管の行政官庁が有している点で、刑事手続とは大きく異なるものである。 ⑤過料の執行 過料の執行については、以下のようになっている。 所管行政官庁による過料(Bußgeldbescheid)又は裁判所による過料に係る判断(判決又 は決定)の執行のために、前もって警告(Mahnung)を行う必要はないが、執行上の費用を 無駄に発生させないために、過料の事例において、通常、警告が行われている4 所管行政官庁による過料(Bußgeldbescheid)又は裁判所による過料に係る判断(判決又 は決定)は、過料(Bußgeldbescheid)又は裁判所による過料に係る判断(判決又は決定) が確定した場合(rechtskäftig)であり、かつ執行妨害(Vollstreckungshindernisse)が 存在しない場合に限り執行され得る。ここにいう過料の執行猶予は、関係人の経済状況に 鑑み、関係人が過料を直ちに支払えない場合に支払期日を定めること又は分割払いを認め ることである(OWiG 第 18 条、第 93 条)。 。 執行に係る消滅時効については、過料の金額に応じて消滅時効期間が定められており、 過料の告知又は裁判所の過料に係る判断が確定し効力を有することとなってから、過料額 が 1000 ユーロを超える場合には 5 年間、1000 ユーロ以下の場合には 3 年間とされ(OWiG 第 34 条第 2 項)、この期間を徒過した場合には執行はできない(OWiG第 34 条第 1 項)5 行政官庁による過料の執行は、過料を告知した当該行政官庁がその権限を有する(OWiG 第 92 条)。 関係人が任意に過料を支払わない場合、過料及び費用は当該行政官庁によって取り立て られることとなる。具体的には、以下の方法によって行われる。 す なわ ち、 まず 、不動 産 につ いて は、 保全抵 当 (Sicherungshypothek )、強 制 競売 (Zwangsversteigerung)、強制管理(Zwangsverwaltung)の登記によって執行される。次 に、動産については、金銭又は対象物の差押え(Pfändung)によって執行される。さらに、 債権及び権利については、債権差押え(Forderungspfändung)によって執行される6 過料は、当該所管行政官庁の過料告知に対して支払われる場合には、国庫へ、それ以外 の場合、すなわち、異議申立て後の各裁判所での判決又は決定に対して支払われる場合に は、各裁判所の所在する州の州庫へ支払われる(OWiG 第 90 条第 2 項)。 。 そもそも違反者が外国にその財産を有している場合や、違反者が当該所管行政官庁によ る過料告知時又は過料に係る裁判所の判決時又は決定時において、既にその財産を外国に 移転させてしまっている場合に、違反者の外国における財産に対する執行は、どのように 行われるのであろうか。これについては、今日において、以下のような国際司法共助の制 度が用意されている7

4 Raimund Wieser, Handbuch des Bußgeldverfahrens, 6. Aufl. (2009), S. 589.

5 Joachim Bohnert, Ordnungswidrigkeitenrecht, 4. Aufl.(2010), S. 139-140.

6 前注に同じ。StPO2006 年改正についての資料(Gesetz zur Stärkung der Rückgewinnungshilfe und der

Vermögensabschöpfung bei Straftaten, vom 24. Oktober 2006, BGBl. I Nr. 49, am 30. Oktober 2006, S. 2350ff.)をアーレンス裁判官から提供して頂いた。

7 Seitz in Göhler, Ordnungswidrigkeitengesetz, 16. Aufl. (2012), Vor §89 Rn. 14, 14a, 14b, 14c,

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すなわち、過料の執行のための要請は、個別の事案ごとに外国で行われ得るものであり (刑事における国際司法共助に関する法律(以下「国際司法共助法」という8)第 71 条) また反対に、外国法に従いOWiGによる過料と同様の制裁を受ける行為に基づく外国のため の執行に関する共助もまた、ドイツ法に従い一定の要件の下で適法である(国際司法共助 法第 1 条第 2 項、同法第 48 条第 1 文参照)。国際法上の協定は、それが国内法化されてい る限りで国際司法共助法に優先する(国際司法共助法第 1 条第 3 項)。罰金及び過料の相互 承認の原則の適用に関する欧州理事会の基本決定(Rahmenbeschluss)9が 2005 年 2 月 24 日 に発効したことを受け、ドイツにおいては、罰金及び過料の相互承認の原則の適用に関す る欧州理事会の基本決定を国内法化する法律10が、2010 年 10 月 18 日に制定され、2010 年 10 月 28 日から施行されている。同法により改正された国際司法共助法第 86 条~第 87p条、 及び同法第 98 条が、ここでの問題に関する重要な規定であり、国際司法共助法は、2010 年 10 月 28 日以後に下された所管行政官庁による過料の告知及び 2010 年 10 月 28 日以後に確 定した過料に係る裁判所の判断(判決及び決定)について適用される(国際司法共助法第 87 条第 2 項第 3 号及び第 4 号、同法第 98 条第 1 文及び第 2 文)。したがって、この限りで、 執行共助(Vollstreckungshilfe)が行われうることになる。ここでの執行は、過料に係る 諸費用にも及ぶものである。 ⑥過料と財産の隠匿・散逸の防止策 違反者が財産を隠匿したり散逸したりすることを防止する手立てとしては、過料・没収・ 押収に関して、以下のいくつかの手段が用意されている。 ア.まず、過料については、民事執行上の仮差押えの規定が適用される。仮差押えの要件 を定めた ZPO 第 917 条第 1 項は、仮差押えがなければ判決の執行が不可能又は実質的に困 難となることを仮差押えの要件として規定している。また、ZPO 第 917 条第 2 項は、①仮差 押えがなされなければ判決が外国で執行されねばならないこととなり、かつ②相互性 (Gegenseitigkeit)が保証されない場合には、仮差押えの必要性があると看做されると規 定している。後述する国際司法共助法の適用範囲内においては、相互性はあるとされ、こ の②の要件が問題となることはない。 また、OWiG 第 90 条第 3 項は、押収の執行について、以下のように規定する。物の押収 ( Einziehung ) が 命 じ ら れ た 場 合 に は 、 そ の 命 令 は 、 関 係 人 又 は 押 収 関 係 人 (Einziehungsbeteiligten)(以下「関係人等」という。)からその物が剥奪されることに よって執行される。その物がその者のもとに存在しない場合には、所管行政官庁の申立て により、関係人等は区裁判所でその物の所在する場所について宣誓に代わる保証をしなけ ればならない。 イ.違反者がその財産を隠匿・散逸することに関しては、違反者が倒産(Insolvenz)した

8 Gesetz über die internationale Rechtshilfe in Strafsachen (IRG), vom 27. Juni 1994 (BGBl. I 1537,

letztes ÄndG vom 18. Oktober 2010 (BGBl. I 1408).

9 ABl. L 76 vom 22. 3. 2005, S. 16.

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場合も関係してくる。これについては11 まず、前者(a)の場合については、以下のようになる。すなわち、裁判上の倒産手続は通 常 、 執 行 禁 止 を も た ら す も の で あ る 。 そ の 結 果 、 倒 産 債 務 者 の 支 払 不 能 (Zahlungsunfähigkeit)、支払い不能の虞、又は債務超過(Überschuldung) 、(a)倒産手続開始前に過料告知を導く秩序違反が 行われ、これに基づき過料又は没収が命じられた場合と、(b)倒産手続中又は残債務免除(免 責)手続中に係る秩序違反が行われこれに基づき過料又は没収が命じられた場合とに分け て検討を行う必要がある。 12 次に、(b)倒産債務者が倒産手続中又は残債務免除手続中に過料告知を導く秩序違反を行 った場合には、過料、没収、所管行政官庁の過料告知又は没収告知のための手数料及び経

費に係る債権は、倒産債権にも(InsO 第 38 条)、財団債権(Masseverbindlichkeiten)(InsO

第 55 条第 1 項)にもならず、新たな債権(Neuschulden)となる。しかし、過料、没収、 所管行政官庁の過料告知又は没収告知のための手数料及び経費に係る債権は、これらの手 続中は執行され得ない。なぜなら、倒産債務者の差押え可能な財産は、倒産財団に属する

からであり(InsO 第 35 条)、また残債務免除手続中には裁判上の受託者(Treuhändler)に

倒産債権者のために譲渡されているからである(InsO 第 287 条)。したがって、これらの債 権に係る執行は、倒産手続及び残債務免除手続の後に可能となる。 の状態にお ける任意の支払いは、否認権の対象となり、倒産管財人(Insolvenzverwalter)によって 取り消され得る(倒産法InsO第 129 条以下)。倒産債権者が強制執行によって倒産申立ての 直前(1ヵ月以内)に倒産財団から財産を獲得したとしても、その財産の入手は、倒産手 続の開始によって無効となる(InsO第 88 条)。過料及び没収は、倒産手続において他の債 権よりも劣後する債権(nachrangige Forderung)として扱われる(InsO第 39 条第 1 項第 3 号)。このため、通常、所管行政官庁の過料告知又は没収告知の手数料及び経費とは異なり、 倒産債権として申し立てることはできない。しかし、過料及び没収は、残債務免除の対象 とはならない(InsO第 302 条第 2 号)。 ⑧過料制度の運用 このような過料制度全般の実際の運用については、今回の調査では過料事件に関する統 計資料に接することができたわけではないが、以下の諸点を指摘することができる。 第一に、前述のように、今日において、様々な行政法規違反に関して過料が定められて いるところ、道交法違反から GWB 違反、さらに近時は消費者保護に資する TKG や UWG など に違反する一定の行為について、現在多くの分野において、秩序違反が定められ、実際に 多くの事例で過料が課されている。 第二に、GWB 違反や近時において秩序違反とされるに至った TKG 違反、UWG 違反、TMG 違 反等の過料の件数よりも、古くから OWiG 違反とされてきた道交法違反の方が、その性質上、 過料の件数が多いことである。

11 Raimund Wieser, Handbuch des Bußgeldverfahrens, 6. Aufl. (2009), S. 590.

12 自然人の場合の倒産手続開始原因は、支払不能(InsO 第 17 条)及び支払不能のおそれ(InsO 第 18 条)

である。法人の場合の倒産手続開始原因は、基本的に、支払不能及び債務超過(InsO 第 19 条)であり、 倒産手続申立人が法人等の代表(Vertretung)権限を有している場合には、これらに加えて支払不能のお それも倒産手続開始原因となる(InsO 第 18 条第 3 項)。

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第三に、GWB 違反、TKG 違反、UWG 違反、TMG 違反の場合は、その性質上課される過料の 額が、そもそも規定の上でも高く、また後述する調査内容において明らかとなるように、 実際に課される額も高い傾向にあるといえることである。 (2)GWB上の連邦カルテル庁の制裁金13 ①制度の概要 (過料)制度 連邦カルテル庁 14の制裁金制度(GWB第 81 条)15は、故意又は過失 16あるGWB違反行為に 対し適用されるものである。価格カルテルや再販売価格維持行為など消費者保護に関係す る事例に適用が可能な制度である17。前記の過料制度と同様に、過料により罪があがなわれ ることが目的ではなく、一定の秩序を維持することを目的とするものであり、競争秩序の 維持を目的とする18 GWB 上、制裁金の対象となる行為は、以下のように実に様々なものがある。すなわち、同 法上、故意又は過失により以下の行為を行った者は、秩序違反を行ったものとされる(GWB81 条)。例えば、EU 条約第 101 条第 1 項、同第 102 条違反(GWB8 第 1 条第 1 項)や、法律上 の禁止規定の違反(GWB 第 81 条第 2 項第 1 号。カルテル、市場支配的地位の濫用、不当な 差別・不当妨害、優越的地位の濫用等)である。 。制裁金には、違反行為の抑止的効果があり、GWB第 7 次改正(2005 年) により制裁金額の算定方法等が変更されたことにより、この抑止的効果が強化された。 連邦カルテル庁の制裁金賦課に係る調査権限は、以下のとおりである。連邦カルテル庁 は、制裁金手続において訴追的行政官庁として、犯罪行為の訴追の際の検察官に代わる役 割を担い、検察官と同じ権限を有しかつ義務を有する(OWiG 第 46 条第 2 項)。例えば、連 邦カルテル庁は、全ての官庁に報告を求めることができ、かつ自ら調査を行い、又は警察 署・警察官にこれを行わせることができる(StPO 第 161 条第 1 項第 1 文)。他方で、警察署・ 警察官は,連邦カルテル庁の嘱託又は請求に対し応じる義務を負っている(StPO 第 161 条 第 1 項第 2 文)。 連邦カルテル庁は、証人及び鑑定人を召喚することができる。召喚された証人及び鑑定 人は、出頭し、事実について供述し、又は鑑定を行う義務がある。また、連邦カルテル庁 は,被疑者を召喚することができる(StPO 第 163a 条第 3 項)だけではなく、事業所や役員 13 「制裁金」というが、過料(Bußgeld)である。売上げに基づき算出されることから他の過料とは区別す るためという理由と、一般的に制裁金という呼び方が使われているという理由から、「制裁金」という表 現を使用する。 14 GWB において、カルテル庁(Kartellbehörden)は、連邦カルテル庁(Bundeskartellamt)、連邦経済技 術省及び各州法に従い管轄権のある上級地方行政官庁(oberste Landesbehörden)(各州のカルテル庁) である(GWB 第 48 条第 1 項)。企業結合規制は連邦カルテル庁が専属的に管轄する(GWB 第 39 条第 1 項) が、その他の違反については違反の効果が各州にとどまる場合には各州のカルテル庁が GWB を執行し、違 反の効果が複数の州に及ぶ場合には連邦カルテル庁が執行する(GWB 第 48 条第 2 項)。 15 Immenga/Mestmäcker/Dannecker/Biermann, GWB 4. Aufl. (2007), §81 Rn. 1ff; Langen/Bunte/Bunte/Raum, GWB 11. Aufl. (2011), §81 Rn. 1ff. 16 ここでの故意又は過失は、刑事法上の故意又は過失と同様に解釈されねばならない。

ここでの故意には、未必の故意(bedingter Vorsatz)も含まれる(Langen/Bunte/Bunte/Raum, GWB 11. Aufl. (2011), §81 Rn. 44-47)。

17 以下は、公正取引委員会のウェブサイト(http://www.jftc.go.jp)によるところが多い。 18 Langen/Bunte/Bunte/Raum, GWB 11. Aufl. (2011), §81 Rn. 2 u. 3.

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私宅等に立ち入り、関係書類の捜索及び押収を行いうる。ただし、あらかじめ地方裁判所 裁判官の令状を得ることが、緊急を要する場合を除き必要とされている(StPO 第 98 条、同 第 105 条)。 なお、連邦カルテル庁は、制裁金手続において、通常の(GWB 違反行為等に係る排除措置 命令を行う場合の)行政手続の調査権限も行使できる。 連邦カルテル庁の制裁金手続における聴聞の機会に関しては、関係人(制裁金が課され

る者も含む。)には自己の意見を述べる機会が与えられる(OWiG 第 55 条、StPO 第 163a 条

第 1 項)。 GWB第 81 条第 1 項、同条第 2 項第 1 号、同条第 2 項第 2 号a、同条第 2 項第 5 号、同条第 3 項違反の場合には、制裁金額は、100 万ユーロが上限とされている(GWB第 81 条第 4 項第 1 文)。ただし、これは、違反行為を行った者が自然人である場合についてであり、違反行 為を行った事業者及び事業者団体に対して制裁金が課される場合には、上限額は、100 万ユ ーロを超えることも可能とされ、各々が前事業年度に獲得した総売上高の 10%とすること も可能である(GWB第 81 条第 4 項第 2 文)。制裁金額の算定に当たっては、当該違反行為の 重大性だけではなく、それとともに、違反行為の行われた期間も考慮に入れられる(GWB第 81 条第 4 項第 6 文)。また、OWiG第 17 条第 4 項が適用され、秩序違反により獲得された利 益が過料により剥奪され得ることとされている(GWB第 81 条第 5 項)19 制裁金算定の実際の運用においては、連邦カルテル庁は、その制裁金算定ガイドライン (告示第 38/2006 号)に基づいて制裁金を算定している。そこにおける算定の手順は、ま ず、(a)基本額が算定され、次に、(b)基本額の調整が行われるというものである。まず、 (a)基本額の算定として、価格カルテルや市場支配的地位の濫用行為を故意又は過失をもっ て行ったような場合(GWB 第 81 条第 1 項、同条第 2 項第 1 号、同条第 2 項第 2 号 a、同条 第 2 項第 5 号、同条第 3 項違反のような場合)には、基本額は、違反行為に係るドイツ国 内における売上高の 30%を上限とする金額(ハードコアカルテルの場合には通常 30%を適 用)が用いられることとなっている。次に、(b)基本額は以下のように調整される。すなわ ち、基本額は、抑止効果を目的として増額(最大 100%の増額)される場合があり、また、 再度の違反、審査妨害、違反行為の先導者等を考慮して増額される場合もある。さらに、 第三者への損害賠償の支払い、受動的な参加、公的機関による助長等を考慮して減額され る場合もある。このように、刑事罰、民事法上の請求権との調整は、裁量的な(b)基本額の 調整の場面で行われる。 。 なお、企業結合関係の違反行為等の場合(GWB 第 81 条第 2 項第 2 号 b、同条第 2 項第 3 号、同条第 2 項第 4 号、同条第 2 項第 6 号)の制裁金の最高額は 10 万ユーロであり(GWB 第 81 条第 4 項第 5 文)、ガイドラインによる基本額の算定及び基本額の調整は,上記の場 合と同様であるが、そこでの違反行為に係る売上高は、合併により影響を受ける市場にお ける当該事業者の国内売上高を意味するものである。なお、リニエンシー制度の利用によ り制裁金は減免され得る。 19 Immenga/Mestmäcker/Dannecker/Biermann, GWB 4. Aufl. (2007), §81 Rn. 443ff.

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②運用状況 連邦カルテル庁の制裁金制度の事例は、2009~2011 年の 3 年間において、年間 10 件前後 存在する。制裁金額は通常、数 100 万ユーロ(日本円で数億円)以上であり、中には 1750 万ユーロ(日本円で約 17 億 5000 万円)や 2400 万ユーロ(日本円で約 24 億円)といった かなり高額の事例もある。 近時は、ボン所在の製菓業を営む事業者(ハリボ社)らが行った割引条件に係る違法な 情報交換活動について、連邦カルテル庁がカルテル(GWB第 1 条)と認定し、同社に対し 240 万ユーロ(日本円にして約 2 億 4000 万円)の制裁金の支払いを命じた事例(2012 年 8 月 1 日)や、家具職人、画家、自動車塗装業者等に専門店を通して販売していた電気工具製造 業者の再販売価格維持行為を連邦カルテル庁がGWB第 1 条違反と認定し、当該電気工具製造 業者に対し 8200 万ユーロ(日本円にして約 82 億円)もの制裁金の支払いを命じた事例(2012 年 8 月 20 日)等がある20 これらの事例においては、当然、違反行為によって最終消費者が被害を受けることも想 定されるものである。もっとも、競争秩序の維持・回復の観点から(もちろん違反行為の 抑止の観点も加え)、これらの事例で制裁金が命じられており、消費者利益の保護のみの観 点から、これらの制裁金が命じられているわけではない。 。 (3)TKG 及び UWG 上の連邦ネット庁の過料制度 ①総説 近時、消費者保護の分野に連邦ネット庁(Die Bundesnetzagentur)による過料の制度が 導入され、行政による経済的不利益賦課制度が導入されている21 第一に、近時のUWG改正(2008 年 12 月 30 日施行)により、UWG上、消費者が受け手であ る場合に受け手の事前の明示的同意のない電話広告について、UWG7 条違反とされ、その後 の改正(2009 年 8 月 4 日施行)により、係る電話広告について、故意又は過失のある場合 に、5 万ユーロ以下の過料が連邦ネット庁によって賦課されることとなっている(UWG第 7 条第 2 項第 2 号、同法第 20 条) 。 22 第二に、電気通信法(TKG; Telekommunikationsgesetz)2009 年改正(2009 年 8 月 4 日 施行)により、電話広告の際に掛け手がその電話番号を隠匿する又は電気通信事業者が掛 け手の電話番号を隠匿させる行為(TKG第 102 条第 2 項第 1 文)が禁止され、これについて、 故意又は過失のある場合に(TKG第 149 条 1 項柱書)、同法上、連邦ネット庁によって 1 万 ユーロ以下の過料が課されることとなり(TKG第 149 条第 1 項第 17c号、同条第 2 項第 1 文)、 その後のTKG2012 年改正 。 23(2012 年 5 月 10 日施行)によって過料額が 10 万ユーロ以下にま で引き上げられている24 第三に、いわゆる電話番号の濫用(Rufnummermissbrauch)といわれる各種の違反行為が 。 20 http://www.bundeskartellamt.de/. 21 宗田貴行『消費者法の新展開』慶應義塾大学出版会 2009 年 191 頁以下。 22 過料の際の故意・過失は、民事法上ではなく刑事法上の故意・過失(StGB 第 15 条)である。

Köhler/Bornkamm/Köhler, UWG 30. Aufl. (2012), §20 Rn. 2, 4.

23 Gesetz zur Änderung telekommunikationsrechtlicher Regelungen (TKGuaÄndG), Gesetz vom 03.05.2012

BGBl. I S. 958 (Nr. 19), 1717; Geltung ab 10. 05. 2012.

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規定され、それに対する過料が規定されている。 たとえば、TKG2005 年改正により、有料電話サービスの広告において当該料金を表示する 義務(TKG第 66a条)が規定され、故意又は過失をもって料金の表示を全くしない、料金の 表示を正確にしない又は不完全に料金の表示をする場合(TKG第 66a条第 1 文、第 2 文、第 5 文、第 6 文、第 7 文又は第 8 文の規定に違反する場合)、最高 10 万ユーロまでの過料が賦 課されることとなった(TKG第 149 条第 1 項第 13a号、同条第 2 項第 1 文)25 なお、2007 年改正(2007 年 3 月 1 日施行)によって、送信者情報を偽った電子メール広 告の送信等についてテレメディア法(TMG; Telemediengesetz)上、5 万ユーロ以下の過料 が課されることとなっている(TMG第 6 条第 2 項、同第 16 条)。これについては、当該事案 に密接に関係するプロバイダーの所在する州の官庁(Landesmedienanstalten 。また、故意又 は過失をもってTKG第 66a条第 3 文に違反し、料金を短時間表示した場合には、最高 10 万ユ ーロまでの過料が課されることとなった(TKG第 149 条第 1 項第 13b号、同条第 2 項第 1 文)。 故意又は過失をもってTKG第 66a条第 4 文の規定に違反し、注意書き(Hinweis)を全くしな い、正確にしない、又は不完全に注意書きをする場合、最高 1 万ユーロまでの過料が課さ れることとされている(TKG第 149 条第 1 項第 13c号、同条第 2 項第 1 文)。 26)が管轄権 を有する形の規制となっており、連邦ネット庁は規制権限を有していない27 ②連邦ネット庁 連邦ネット庁(Bundesnetzagentur)28は、正式には、電力、ガス、通信、郵便及び鉄道 のための連邦ネット庁29といい、ボンに所在する。連邦ネット庁は、TKG第 116 条を根拠規 定とする独立した連邦行政官庁(連邦ネット庁法30第 1 条第 2 文)であり、TKG第 8 章(同 法第 116 条~第 141 条)にその組織、権限、手続等が定められている。連邦ネット庁は、 ボン所在の連邦経済技術省31下の独立した連邦行政官庁であり、2005 年 7 月 15 日の省庁再 編により創設された。今日、約 10 の部署からなり(連邦ネット庁法第 3 条)、構成員は約 2600 名である 32。電力分野、ガス分野、電気通信分野、郵便分野、鉄道分野の諸法を所管 し(連邦ネット庁法第 2 条)、後述するように、諸法の執行に必要となる調査権限及び過料 等の制裁権限を有する。連邦ネット庁は、UWGについても同法第 20 条に関し所管する(UWG 第 20 条第 3 項)。 ③UWG と TKG に過料制度を導入した改正までの経緯 2009 年にUWGとTKGの前記の改正が行われるまでに、連邦ネット庁には、数年にわたり、 電話番号の濫用及び受け手の同意のない電話広告について数多くの消費者からの苦情を受 け取っていた。改正の前の時点で多くの市民は、電話番号の濫用と受け手の同意のない電

25 BeckTKG-Komm/Kless, 3. Aufl. (2006) TKG-E§66a Rn. 26. 26 http://www.die-medienanstalten.de/

27 連邦ネット庁でのヒアリング(2012 年 8 月 7 日)。 28 http://www.bundesnetzagentur.de/

29 Die Bundesnetzagentur für Elektrizität, Gas, Telekommunikation, Post und Eisenbahnen. 30 Gesetz über die Bundesnetzagentur für Elektrizität, Gas, Telekommunikation, Post und Eisenbahnen,

vom 7. Juli 2005, BGBl I 2005, S. 2009ff.

31 Bundesministerium für Wirtschaft und Technologie (http://www.bmwi.de/). 32 連邦ネット庁でのヒアリング(2012 年 8 月 7 日)。

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話広告により被害を受け、マスメディアでも受け手の同意のない電話広告のテーマが取り 上げられた。2009 年 7 月には、電話番号の濫用及び受け手の同意のない電話広告に関する 消費者からの書面での苦情の件数は、2009 年 6 月の1ヵ月分の 3 倍に達し、1 ヵ月で 1 万 件を超え、その 1 万件の苦情のうち 70%の苦情が、受け手の同意のない電話広告に関する 苦情であった。この状況に鑑み、消費者保護のための改正が必要であることから、両法の 前記改正が行われたといえる33 ドイツにおいては、新聞の年間購読や、賭博(Glücksspiel)への参加、新しい電話料金 などの広告が電話で行われ、しばしば、消費者は、直接であれ、それがアンケートの形を 装って隠された形であれ、そこにおいて、新たな契約の申込みの誘引や申込みを受けるの であり、場合によっては、消費者は契約の締結又は変更をさせられるのである。受け手の 同意のない電話広告は、従来から長年にわたりUWG上違法とされてきたが、電話の掛け手が 受け手の同意があったと主張することから、しばしば、いわば法の目を掻い潜ること(法 規制を潜脱すること)が行われてきた。これを克服するためにUWG上、受け手の「明示の同 意」がない限り電話広告は違法であるとする改正が行われた。さらに、電話の掛け手は、 しばしば電話番号を隠匿した。このような状況を踏まえ、立法者は、受け手の同意のない 電話広告(いわゆるコールド・コールズ)及び電話広告の際の電話番号の隠匿及び電話番 号の濫用の克服のための前述したUWGとTKGの改正を行ったのである 。 34 ④連邦ネット庁の行政処分等の権限 前述の UWG 違反の場合も TKG 違反の場合も、連邦ネット庁は、違反者に対し、違反行為 の中止に係る警告(Abmahnung)(TKG 第 126 条第 1 項)だけではなく、正式の行政処分とし て、違反行為の中止(TKG 第 126 条第 2 項)を命じることができる。また、これとは別個に、 以下の各処分を命じることができる。

例 え ば 、 連 邦 ネ ッ ト 庁 は 、 公 共 電 気 通 信 業 者 ( die Betreiber von öffentlichen Telekommunikationsnetzen)及び公に利用可能とされている電気通信サービスを提供する 業者(die Anbieter von öffentlich zugänglichen Telekommunikationsdiensten)に対し、 当該電話番号の所有者及び利用者の氏名や住所等の個人情報の提出を請求することができ

る(TKG第 67 条第 1 項第 2 文~第 3 文)。また、連邦ネット庁は、法律上又は官庁の命じた

義 務 の 違 反 の 場 合 に 、 号 外 義 務 違 反 者 に 対 し 当 該 電 話 番 号 の 取 消 し ( Entzug von

Rufnummern)(TKG第 67 条第 1 項第 4 文)を命じ得る。連邦ネット庁は、公共電気通信業者35

に対し、当該電話番号の使用の中止(Abschaltung von Rufnummern)(TKG第 67 条第 1 項第 5 文)を命じ得る。連邦ネット庁は、料金請求の禁止(Verbot der Rechnungslegung und

Inkassierung)(TKG第 67 条第 1 項第 6 文)を命じることができる。この料金請求の禁止は、

以下 2 つの場合を含む36

33 Verbraucherbeschwerden stark anstiegen (02.09.2009), Bundesnetzagentur.

。すなわち、(a)当該消費者に対し一定の料金に係る請求を将来に おいて行ってはならないことを命じる場合と、(b)消費者が既にかかる請求を受けていると

34 Unerlaubte Telefonwerbung (Cold Calls)(November 2009), Bundesnetzagentur.

35 ここでは、前出の die Betreiber von öffentlichen Telekommunikationsnetzen ではなく、

Netzbetreiber という文言が用いられている。

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きに当該債権の回収(支払い)を禁止する場合である。これら各行政処分は、50 万ユーロの

間接強制金によって(TKG第 66 条第 3 項、同法第 126 条第 5 項等)、その履行が担保されて

いる。これら各行政処分に対する不服申立ては、行政裁判所(Verwaltungsgericht)に対

してなされ得る。さらに、連邦ネット庁は、過料(Bußgeld)(TKG第 149 条)、没収(OWiG

第 29a条)、押収(OWiG第 22 条)を命じることもできる。 違反行為の中止等の一般の行政処分は、明白な違反により多くの消費者に被害が生じて おり、かつ迅速に解決しうる事案について行われるものであり、一日で処分が出される37 また、事案によっては、一般の行政処分によってでは外国の企業に対する処分が難しい場 合に、過料手続がとられる38 ⑤連邦ネット庁による過料手続39 以下では、前記の UWG 違反や TKG 違反の場合の連邦ネット庁による過料手続の概略を述 べることとする。 連邦ネット庁は、第一に、通常、消費者からの苦情又は通報により事件の端緒をつかみ、 当該電話番号の利用の程度や通報の信憑性等を考慮して事件の振り分けを行う。どのよう な製品やサービスにかかわる事件であるのかという点や、当該事件で問題となっている電 話番号は何番であるのかという点について、情報を収集する。 第二に、調査段階に入ると、OWiG第 46 条に基づく調査権限により、以下の諸点の調査を 行う40 第三に、OWiG 第 66 条に従い過料の告知がなされ、それに対する異議の申立て(OWiG 第 67 条以下)がなされない場合には、連邦ネット庁により過料が命じられ、支払われた過料 は、国庫に帰属する(OWiG 第 90 条第 2 項第 1 文)。 。連邦ネット庁は、調査段階において、まず電気通信事業者によって電話番号を割り 当てられている者は誰であるのかという点を調査する。ここでは、端緒の段階でつかんだ 電話番号が正しいものであることが重要である。次に、行為者は誰であるのか(コールセ ンターであるのか、代理店(Agent)であるのか、広告を行った企業であるのか)という点 について調査を行う。また、別の事件との関連性を調査する。さらに、消費者や企業に証 人(Zeugen)としてヒアリングを行い、契約の証拠書類(Vertragsunterlagen)も収集す る。また、違反者の財産状態を調査する。この調査段階の後、連邦ネット庁は、当該事件 について過料手続を開始するのか、開始せずに事件を検察官に委ねるのかという判断を行 う。OWiG第 21 条に従い、StGBがOWiGに優先することから、過料手続は、秩序違反のみが成 立する場合にのみ開始されるものである。すなわち、当該行為が同時にStGB違反及び秩序 違反となる場合には、StGBのみが適用されるため、事件は検察官に送致されることになる。 そして、関係人(Betroffenen)のヒアリング(聴聞)が行われる。 37 連邦ネット庁でのヒアリング(2012 年 8 月 7 日)。 38 同上。 39 同上。 40 なお、個別の権限については、連邦カルテル庁の制裁金賦課に係る調査権限として前述したところとほ ぼ同様であるが、連邦ネット庁に特有の調査権限としては、後述する情報請求権限がある。

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⑥過料額の算定 過料の最低額は 5 ユーロ、最高額は、個別の法律において特段の規定がない限り、1000 ユーロと規定されている(OWiG 第 17 条第 1 項)。今日、多くの法律において、各法律違反 について、個別に各法律の規定が最高額を定めている。受け手の同意のない電話広告につ いては、UWG 第 20 条第 2 項によって、故意又は過失のある場合に、過料の最高額は 5 万ユ ーロとされている。前述した TKG 上の電話番号の隠匿(Unterdrückung)及び価格の表示義 務等に関する各違反(電話番号の濫用)については、TKG 第 149 条が、故意又は過失のある 場合に(TKG 第 149 条第 1 項)、過料の最高額を 10 万ユーロと規定している(TKG 第 149 条 第 2 項)。また、故意又は過失のある電話番号の濫用については、5 ユーロから 10 万ユーロ までの過料が課される。 OWiG 第 17 条第 2 項は、「法律が故意又は過失のある行為について過料を課すと規定して いる場合には、その最高額にかかわらず、過失ある行為は、規定されている最高額の半額 を限度として罰される」と規定している。したがって、例えば、受け手の同意のない電話 広告については、過失のある場合には、2 万 5000 ユーロを最高額として過料が課される。 過料額の算定は、個別の事例に相応しいようにケースバイケースで定められる。秩序違 反の重大性や、行為者の非難の程度といった要素が特に考慮される(OWiG第 17 条第 3 項)41 ⑦過料手続と民事手続との関係ないし両手続間の調整 受け手の明示的同意のない電話広告については、違反者に故意がある場合に、消費者団 体の利益剥奪請求権(後述)という民事の制度と、連邦ネット庁の過料という行政上の制 度とが並存している。 OWiG第 90 条第 2 項第 1 文は、「過料は、個別の法律において特段の規定のない限り、連 邦行政官庁が過料を告知した場合には国庫へ、それ以外の場合には州庫(Landeskasse)に 支払われる」と規定している。このことから、過料は被害者や特定の組織に支払われるこ とはない42 過料手続と民事手続は、それぞれが独立して依存することなく行われる 。 43が、OWiG第 17 条第 4 項により、利益の額を過料の額の算定に当たって考慮に入れることから、既に民事 の利益剥奪請求により利益が剥奪されていれば、過料の額の算定に当たって、その分は差 し引かれることとなる44。逆に、すでに過料により利益が吐き出されていれば、民事の利益 剥奪請求の利益の額の算定の際にそれが考慮される(UWG第 10 条第 2 項第 1 文)。すなわち、 違反者が過料として利益の幾分かをすでに国庫に支払っていた場合、利益剥奪の利益の額 の算定に当たって、その支払った分の額は差し引かれる。 41 連邦ネット庁でのヒアリング(2012 年 8 月 7 日)。 42 同上。 43 同上。 44 UWG 第 10 条第 2 項第 2 文に従うと、利益剥奪請求に応じて国庫に利益を支払った後に、さらに利益の幾 分かを過料として支払ってしまった場合には、国庫から後者の分の金額を返還され得ることになるが、 OWiG 第 17 条第 4 項により、過料の算定には利益剥奪請求により利益が剥奪されたか否かが考慮に入れら れるので、あまりそのようなことは考えられない。

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⑧過料と没収45

違反者が違反によって獲得した利益を吐き出させるには、既にみたように、過料による

こともできる(OWiG第 17 条第 4 項)し、没収によることもできる(OWiG第 29a条)。過料の

方が優先的に適用されるという規定(OWiG第 29a条第 1 項)があることに加え、連邦ネット 庁では、利益の額に係る証拠の収集が困難であるという大きな問題があり、それ故に、没 収命令が下された事例は、今日までないということである。また、利益の額が個別の法律 の規定により定められた最高額を上回るときには、過料はその最高額を上回ることができ るとOWiG第 17 条第 4 項第 2 文に規定されているが、利益の額に係る証拠の収集が困難であ ることか大きなネックとなっており、連邦ネット庁においては、今日までのところ、OWiG 第 17 条第 4 項第 2 文にあたる事例はない46 ⑨StGB 違反との関係、違反者の財産の隠匿・散逸防止策 連邦ネット庁の年次報告書(2011 年)によると 47、受け手の同意のない電話広告に関す る苦情は、多くの場合に、それが刑事訴追のための官庁に排他的に管轄権のあるStGB違反 行為に関連した。そこでは、特に、いわゆるフィッシング電話が問題となる。フィッシン グ電話の場合には、電話の掛け手は受け手の銀行預金口座から金銭を引き落とすために、 電話の受け手を騙して受け手の銀行口座のデータを聞き出すことを試みるものである。そ のような事例についての調査の結果は、連邦ネット庁から検察へと送致される。2011 年に おいて、消費者からの約 8500 件の通報に基づき 79 件の事例で、連邦ネット庁から検察に 事件が送致された48 連邦ネット庁でのヒアリングによると、電話番号の濫用や受け手の同意のない電話広告 についてTKG違反に基づき過料を課す場合に、違反者がその財産を第三者に譲渡したり、隠 匿したりするときに、比例原則からみて連邦ネット庁が違反者の銀行預金口座を凍結する ことは難しいのではないか、また、連邦ネット庁は、特に受け手の同意のない電話広告の 事例で違反者の銀行預金口座や財産状況などを知り得ないことから、証拠上の困難がある のではないか、とのことである 。 49 45 連邦ネット庁でのヒアリング(2012 年 8 月 7 日)。 46 同上。 47 Bundesnetzagentur, Jahresbericht 2011, S. 35. 48 これに関しては、2010 年の事例であるが、以下の事例がある。高額の通話料金が請求される、冒頭に 0900 の付く電話番号を用いた法違反の懸賞の約束(Gewinnversprechung)によって(ドイツでは BGB 第 661a 条によって、事業者が消費者に賞金を約束した場合には、その金額の請求権が消費者に生じるとされてい る)、多数の消費者に 700 万ユーロ以上の賞金を約束したとみられる事業者に対し、連邦ネット庁が調査 を行い、電話番号の濫用に基づき、26 の高料金の前記の電話番号につき使用の中止を、9 つの電話番号に つき使用の中止及び料金請求の禁止を命じ、かつ詐欺容疑で検察に事件を送致した事例がある

(Bundesnetzagentur, Pressmitteilung vom 1. 10. 2010)。

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⑩一般の行政処分50 連邦ネット庁は、いかなる調査も行うことができ、その調査のために必要なあらゆる証 拠を収集することができる(TKG第 128 条第 1 項)。連邦ネット庁は、通常の行政処分の場 合には、電気通信事業者に対し、電話番号所有者及び利用者の個人情報といった情報 (Auskunft)を請求する権限を有する(TKG第 67 条第 1 項第 2 文・第 3 文、第 127 条)と ころ、過料命令の場合にも、これと同様の権限が連邦ネット庁に認められている(TKG第 112 条第 1 項)。このように、連邦ネット庁には、受け手の同意のない電話広告、電話広告の際 の電話番号の隠匿、及び電話番号の濫用について、いわゆる契約者情報についての情報請 求権限のみが認められており、個々の電話の接続データ及び誰が当該電話を掛けたのかと いう点についての情報を請求する権限は認められていない。このため、連邦ネット庁は、 電話番号の隠匿行為の場合には、当該電話番号が不明であり、当該電話番号の使用の中止 等の行政処分を行うことができないという問題がある の場合の調査権限と情報請求権限に関する問題 51 ⑪苦情件数、行政処分の件数、過料制度導入の効果 受け手の同意のない電話広告及び電話番号の濫用に関する苦情及び問合せ(以下単に「苦 情」という。)の件数は、過料制度導入後、劇的に減少してきている。連邦ネット庁の年次 報告書(2011 年)52によると、受け手の同意のない電話広告に関する書面での苦情について、 前年と比較すると、30%以上の減少がみられる53 表1 受け手の同意のない電話広告及び 電話広告の際の電話番号の隠匿に関する苦情件数(連邦ネット庁) 2010 年 2011 年 4 万 3503 件 3 万 231 件 受け手の同意のない電話広告及び電話広告の際の電話番号の隠匿に関する苦情数や行政 処分数については、連邦ネット庁の年次報告書(2011 年)によると、表1のようになって おり54 この苦情件数の減少の原因は、第一に、連邦ネット庁によって高額の過料が課されたこ とと、第二に、それにより市場の意識が向上したことにある。 、苦情件数の明白な減少がみられた。 しかし、電話番号の濫用に関する苦情については、これと異なり減少していない。特に 50 ドイツにおいては、行政法とは別に過料の場合について過料法という分野があるため、ドイツ法的に言 えば、違反の中止の処分など行政処分について説明する際に「一般の」行政処分という限定はいらない。 しかし、過料法という分野がない(あるいは確立していない)日本において、日本法的に言えば、過料は 行政法に入るというのが一般的な理解であると思われるので、ここでは、過料を除く意味で「一般の」行 政処分と言う限定を付して説明することにする。また、行政と刑事の区別から、過料の場合にそれが「課 される」と表現し、刑事罰の罰金等の場合にそれが「科される」と表現する。

51 Themenblatt unerlaubte Telefonwerbung, S. 1.

この点は、民事の利益剥奪請求の場合に消費者団体等が有する情報請求権は、接続データも請求し得るも のであり、異なる。

52 Bundesnetzagentur, Jahresbericht 2011, S. 25. 53 連邦ネット庁でのヒアリング(2012 年 8 月 7 日)。 54 Bundesnetzagentur, Jahresbericht 2011, S. 33.

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料金表示に関する行為や電話番号スパム 55(ファックス、電話及びSMS56による広告におい て、製品を直接的に広告するのではなく、例えば通話料金が 1 分間 5 ユーロなどの高額の 有料の電話番号57を広告し、それを受け取った消費者にその電話番号に電話を掛けさせるこ と)等による苦情の件数は約 6 万件にのぼる 58。また、連邦ネット庁の年次報告書(2011 年)によると59、連邦ネット庁は 2011 年に電話番号の濫用に係る 2163 件の行政処分のため の手続を開始し、846 の電話番号についてその使用の中止を命じており、使用の中止を命じ た件数は、前年に比べて 36%の増加となる。また、連邦ネット庁は、2011 年に約 80 件の 事例で料金請求の禁止を命じた(表2)。 表2 2011 年における行政処分等の件数 行政処分手続開始件数 2163 件 電話番号使用中止命令 836 件 料金請求禁止命令 約 80 件 この料金請求の禁止に違反する事業者に対しては、26 万ユーロの過料を命じた事例もあ る。2011 年において、連邦ネット庁の行政処分に対し行政裁判所になされた不服申立てに ついて、行政裁判所は、全ての事例で連邦ネット庁の勝訴の判断をしている。 ⑫過料手続の事例数・過料金額 連邦ネット庁の年次報告書(2011 年)によると60 これらのうち、最高額の過料が課された事例では、総額 258 万 4000 ユーロの過料が課さ れた。 、2009 年~2010 年までの連邦ネット庁 の受け手の同意のない電話広告及び電話番号の際の電話番号の隠匿に関する過料手続の数 に比べて、2011 年の係る過料手続の数は著しく増加し、連邦ネット庁は、2011 年において、 64 件の過料手続の事例において総計 840 万ユーロもの過料を課した。過料手続の関係人 (Betroffen)そして過料の名宛人となった者は、当該コールセンター及び特にマスメディ ア、電気通信、食料品、保険及び金融業界における広告主の事業者であった。 ⑬近時の改正の動き 近時の改正の動きとしては、第一に、ドイツにおいては、近時、保険契約や銀行の預金

55 Bundesnetzagentur, Maßnahmen gegen Rufnummernmissbrauch.

過去 2 年間、0137 が冒頭につく電話番号(0137-7981001 等 13 の電話番号)について、診療所(Arztpraxis) 及びその他の健康サービス業(Gesundheitsdienstleister)による詐欺の温床となっていたことから、連 邦ネット庁が 2010 年 9 月にこれらの電話番号の使用の中止を命じた事例がある (http://www.teltarif.de)。 56 ドイツ市民は、一日に 2 通の SMS を送信しているとの統計がある(Bundesnetzagentur, Pressmitteilung vom 9. 5. 2012)。 57 例えば、(0)900 から始まる付加価値サービス電話番号や Premium-Dienste が、しばしば問題となり、 (0)137 から始まる電話番号のいわゆる Massenverkehrsdienste の MABEZ-Dienste や、(0)180 から始まる Service-Dienste や、Kurzwahldienste(Premiun SMS)なども問題となる。 58 連邦ネット庁でのヒアリング(2012 年 8 月 7 日)。 59 Bundesnetzagentur, Jahresbericht 2011, S. 26-29. 60 Bundesnetzagentur, Jahresbericht 2011, S. 34.

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などの消費者からの問合せ電話に有料電話番号が使用された場合に、20~30 分間通話の途 中で待たされ、その間の通話料を課金されるという事態が多く発生している。このため、(こ れについての詳細は今後の検討課題ではあるが)2013 年 6 月 1 日から施行される予定の改 正法は、このような場合について、一定の要件に合致しない場合に禁止することとし、故 意又は過失のある場合に過料を課すこととしている。なお、これは、B to C及びB to Bの 取引に適用されるものとのことである61 第二に、現行のUWGでは、(a)受け手の同意のない電話広告は、自動電話による場合は過 料の対象となっていない。また(b)受け手の同意のない電話広告は、自然人宛の場合にのみ 過料の対象となっている 。 62。これらのうち、(a)について、自動電話を使った受け手の同意 のない電話広告による被害が多いことを踏まえ、改正によりこれをも対象とすることが連 邦ネット庁によって提案されている63 第三に、受け手の同意のない電話広告の場合の過料の額を 5 万ユーロから 30 万ユーロに 引上げるUWGの改正が、今日準備されている。現行法の過料額では低額に過ぎることから、 連邦ネット庁は、この改正に賛成している 。 64 3.その他利益剥奪制度等 (1)過料との関係について 過料が違反行為によって獲得した利益を超えた額の支払いを命じ得るのに対し、行政も しくは事業者団体が、係る利益のみを支払わせる制度として、下記のような利益剥奪制度 がある。 (2)GWB 上の連邦カルテル庁の利益剥奪制度 GWB 上、違反行為者が一定の違反行為により獲得した利益を剥奪する制度として、以下の 2 つの制度がある。第一に、連邦カルテル庁の利益剥奪権限である(GWB 第 34 条)。第二に、 事業者団体の利益剥奪請求権(民事)である(GWB 第 34a 条)。いずれの制度においても、 支払われた金銭は国庫に帰属し、違反行為により被害を受けた消費者に分配されることは ない。また、国庫に帰属した金銭は、必ずしも消費者保護のために利用されるわけではな い。なお、財産の隠匿散逸防止策としては、制度上、財産保全のための仮差押えが可能と なっている。 ①連邦カルテル庁の利益剥奪権限 ア.概要について GWB 第 34 条第 1 項は、以下のように規定し、連邦カルテル庁の利益剥奪権限を定めてい る。 61 連邦ネット庁でのヒアリング(2012 年 8 月 7 日)。

62 Bundesnetzagentur, Themenblatt unerlaubte Telefonwerbung, S. 1. 63 連邦ネット庁でのヒアリング(2012 年 8 月 7 日)。

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GWB 第 34 条第 1 項 「事業者が、故意又は過失をもって、本法の規定又は、EU 条約第 101 条又は第 102 条又はカルテル庁の処 分に違反し、それにより、経済的利益(wirtschaftlicher Vorteil)を獲得したときは、カルテル庁 (Kartellbehörde)は、その経済的利益の剥奪を命じ、かつ事業者に適切な金額の支払いを命ずることが できる。」 GWB 第 7 次改正(2005 年)によって導入された GWB 第 34 条第 1 項の規定は、従来の超過 利得剥奪権限を、GWB 違反により獲得された経済的利益の全体の剥奪のための手段にまで拡 大したものである。また、従来、GWB 第 34 条は、カルテル庁の処分に違反する極めて稀な 事例において適用されたにすぎなかったが、今後、GWB 第 34 条は、ドイツ又は欧州競争法 の規定に対する全ての違反を把握することとなる。連邦政府案理由書によると、カルテル 庁の利益剥奪権限がこのように明確に拡大されたのは、損害賠償請求権が被害者により行 使されない事例において、競争違反により生じた『利益(Rendite)』が、当該事業者に残 ることを避けるためである。すなわち、個々の損害額が少額の範囲に留まる場合には、提 訴のための費用は損害の額とは無関係に生ずることから、費用対効果の問題により被害者 は通常提訴を諦める。また「損害の発生」「損害額」「因果関係」等の主張・立証が困難な 場合にも、被害者は提訴に踏み切ることができない。このような事例においては、当該事 業者に競争違反により生じた『利益(Rendite)』が残ることとなるため、カルテル庁の利 益剥奪権限が意義を有する。 ところで、GWB 第 34 条は、従来と同様に有責性の要求を維持している。又従来と同様に、 行政法上の手段が問題となるのであり、刑事又は過料法上の手段が問題となるのではない。 利益の剥奪により、GWB 違反により獲得された経済的利益が行為者に留まらないことが重視 されるべきである。 次に、GWB 第 34 条第 2 項は、以下のように規定する。 GWB 第 34 条第 2 項 「第 1 項は、経済的利益が損害賠償給付により、又は過料(Geldbuße)の命令(Verhängung)又は没収 (Verfall)命令により剥奪された限りで適用されない。事業者が、(第 2 項―筆者注)第 1 文に従った給 付を、利益剥奪の後にもたらした限りで、支払われた金額は、証明された支払額でその事業者に返還され ねばならない。」 利益の剥奪は、経済的利益が、個人の損害賠償請求権、過料又は没収(Verfall)により 剥奪される場合には、これらの補助的なものとなる。これらの給付は、経済的利益の調査 に加味され、既に支払われた場合には、同条項第 2 文に従い返還されねばならない。 イ.調査権限について 以上の利益剥奪に係る調査権限は、カルテル庁が有している。GWB第 57 条以下が、カル

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テル庁の調査権限について規定している65。第一に、審査(investigation)・必要な証拠の

収集・関係人を含む証人への尋問(GWB第 57 条)である。第二に、資料提出要求・事業者

等の営業所への立入検査(inspect and examine)(GWB第 59 条第 1 項)である。第三に、

事業者等はカルテル庁に要求された資料及び営業関係記録を提出し、並びにカルテル庁に よるこれらの記録の検査、営業所への立入を容認しなければならない(GWB第 59 条第 2 項)。 第四に、地方裁判所の裁判官が発行する令状に基づく捜索(search)(GWB第 59 条第 4 項)。 第五に、押収(GWB第 58 条)である。 ウ.過料制度との関係 カルテル庁の利益剥奪請求制度と制裁的な過料制度(我が国の課徴金に相当)との関係 については、OWiG 第 17 条第 4 項において、過料は、利益剥奪をも含んでいると規定されて いることから、カルテル庁の利益剥奪請求制度と過料制度は、どちらかのみしか命じられ ないという関係になっていると考えられる。実務においては、通常、まず、過料手続を開 始している。過料金額の算定には、売り上げ(Umsatz)を概算すれば足りる(GWB 第 81 条 第 5 項)のに対し、利益剥奪請求制度における利益の算定は、さまざまな経済的事情を考 慮しなければならないためである。 対象事業者の財産の隠匿・散逸防止策については66、利益剥奪命令については、保全処分 は理論上可能であるが、UWG上の利益剥奪請求制度に関するところで後述するように、債務 者が外国に財産を移転させる場合であっても、保全処分(ZPO第 917 条第 2 項)の要件に合 致する場合は限定されており、通常の事例では保全の必要がないとされる67 違反事業者がカルテル庁の利益剥奪に応じない場合の強制執行について(特に労役場留 置について)は、民事訴訟の場合の強制執行と同様となり、労役場留置はない。 。 なお、この利益剥奪権限については、ほとんど適用されていないのが実情である。 (3)TKG 上の利益剥奪制度 事業者が、TKG 第 42 条第 1 項違反に係る連邦ネット庁の行政処分に違反し又は、故意若 しくは過失をもって TKG の規定に違反し、かつその違反により経済的利益を獲得した場合 には、連邦ネット庁は、その経済的利益の剥奪を命じ、かつその事業者に対し適切な金額 の支払を命じることができる(TKG 第 43 条第 1 項)。 前述した連邦カルテル庁の利益剥奪権限と同様の権限が、連邦ネット庁にも認められて いる。GWB 上の利益剥奪権限に係る改正の議論と同様に、従来、利益の剥奪は過料によって のみ行われ、行政処分違反の場合に限られた TKG 上の超過利益の剥奪権限は、実務上の意 義が乏しかった。しかし、GWB 上と同様に違反行為により獲得した利益を違反行為者の手元 から剥奪することによって違反行為を抑止するとの観点から、TKG 上の利益剥奪権限の対象 行為を拡大する TKG2004 年改正が行われ、連邦ネット庁の超過利益の剥奪の権限ではなく、 経済的利益の剥奪の権限となった。 65 連邦カルテル庁及び日本の公正取引委員会のウェブサイト、2010 年ドイツ調査報告書・連邦カルテル庁 ヒアリング議事録/概要 3.ドイツ(第 2 章)。 66 同上。 67 同上。

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連邦ネット庁の利益剥奪権限の要件は、以下の通りである。 ① TKG 第 42 条第 1 項(電気通信サービス提供者の市場力の濫用禁止)違反に係る連 邦ネット庁の処分違反又は、故意又は過失ある TKG の規定違反 ② 経済的利益の獲得 ③ ①と②との間の因果関係 連邦ネット庁の利益剥奪権限を規定したTKG第 43 条第 1 項は、経済的利益が損害賠償に より又は没収により既に清算されている場合には適用されない(TKG第 43 条第 2 項第 1 文)。 このように利益剥奪権限の補充性が規定されている。ここでは、損害賠償と没収しか条文 上明記されていないが、過料による支払いも、この場合に含まれるとされている68 以上のように規定されてはいるが、かかる利益の算定のためには様々な証拠の収集が必 要であり、利益の算定が困難である。連邦ネット庁が、受け手の同意のない電話広告、電 話広告の際の電話番号の隠匿、電話番号の濫用の事例で、この規定に基づき利益の剥奪を 命じた事例は、今日までのところ存在しない。 。事業者 が、このTKG第 43 条第 2 項第 1 文における給付を利益剥奪後にもたらした場合に限り、支 払われた金銭は証明された支払額を限度として事業者に返還されねばならない(TKG第 43 条第 2 項第 2 文)。 (4)UWG 上の事業者団体及び消費者団体等の利益剥奪請求権制度 ①総説 UWG上の利益剥奪請求制度(UWG第 10 条)は、一定の消費者団体及び事業者団体等により、 故意あるUWG違反により違反行為者が多数の購入者の負担の下で獲得した利益の剥奪がな されるものであり、厳密にいえば、今回の調査の対象である行政による不利益賦課に係る 制度ではない。しかし、民間の団体の請求権とはいえ、その機能や存続意義等は、その主 体が行政となる場合にも応用可能である点や、請求権者とされる消費者団体に公の資金を 注入している点等に鑑み、検討を要するものと考えられる。なお、近時導入されたUWG上の 電話広告に関する過料制度については、前述のとおりである69 UWG第 10 条(2008 年のUWG改正後)は、以下のように規定し、違反行為者が故意ある違反 行為により多数の購入者の負担で獲得した利益について、一定の消費者団体や営業利益促 進団体等が国庫への支払いを求める権利を認めている 。 70 UWG 第 10 条 「第 1 項 故意をもって第 3 条又は第 7 条に従い違法とされる取引上の行為を行い、かつそれにより多数 の購入者の負担で利益(Gewinn)を獲得した者は、第 8 条第 3 項第 2 号~第 4 号に従い差止請

68 BeckTKG-Komm/Kless, 3. Aufl. (2006) TKG-E§43 Rn. 23.

69 この他、同法上、虚偽の表示により消費者を誤認させる一定の広告について刑事罰(2 年以下の自由刑

又は罰金)が科される(UWG 第 16~第 19 条)。また、競争業者の差止請求権及び損害賠償請求権もある(UWG 第 8 条及び第 9 条)。さらに、一定の消費者団体及び事業者団体等の差止請求権もある(UWG 第 8 条)。

70 宗田貴行『団体訴訟の新展開』27 頁以下(慶應義塾大学出版会・2006 年)71 頁以下。なお、以下の記

表 3  経済的不利益賦課制度の種類、対象行為、不利益の種類・範囲・算定方法、規制機関等の証拠収集力、不利益の算定の難易度  経済的不利益 賦課制度の  種類  連邦カルテル庁の 制裁金(過料) (GWB) 連邦ネット庁の過料 (UWG, TKG)  消費者団体の利益剥奪請求権(UWG)  連邦カルテル庁の 利益剥奪権限(GWB) 事業者団体の 利益剥奪請求権(GWB)  事業者団体の利益剥奪請求権(UWG)  連邦ネット庁の利益剥奪  権限(TKG)  対象行為  故意又は過失ある  1) GWB 違反

参照

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