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琵琶湖の水陸移行帯の湿地における脱窒とそれに影響を及ぼす環境因子

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Academic year: 2021

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論 文 題 目 :琵琶湖の水陸移行帯の湿地における脱窒とそれに

影響を及ぼす環境因子

著 者 : 赤塚 徹志 研 究 科 、 専 攻 名 : 環境科学研究科 環境動態学専攻 学 位 記 番 号 : 環課 第 27 号 博士号授与年月日: 2011 年 1 月 28 日 論文の要旨 陸域と水域の境界に位置する水陸移行帯は,その双方の化学的特徴が時空間的に混在す る複雑な環境を有する。本研究は,琵琶湖の水陸移行帯の湿地において脱窒とそれに影響 を及ぼす因子との関係を明らかにし,琵琶湖生態系の中で水陸移行帯の脱窒のもつ浄化機 能について環境科学的な視点も交えて議論した。 はじめに,湿地への硝酸イオンの負荷量が脱窒に及ぼす影響について研究した。農地を 流れる小水路から水の流入がある湿地は堆積物直上水(以降,直上水と示す)の硝酸イオ ン濃度が高く,水の供給が主に降雨である湿地ではその濃度が低かった。現場における脱 窒速度(現場脱窒速度)は直上水の硝酸イオン濃度の高い湿地で高く,直上水の硝酸イオ ン濃度の差異に影響された。一方,硝酸イオンを添加した潜在的な脱窒速度(潜在脱窒速 度)では,現場脱窒速度のような直上水の硝酸イオン濃度の差異による影響はみられなか った。しかし,湿地における潜在脱窒速度は,堆積物中の有機物量の少ない砂浜と比較し て高く,湿地の潜在脱窒速度は豊富な有機物により維持されると考えられた。 次に,湿地における堆積物の冠水と干出による堆積物の乾燥度の変動が脱窒に及ぼす影 響について研究した。冠水域における脱窒速度は検出限界以下であり,干出域における脱 窒速度は堆積物の乾燥により増加した間隙水の硝酸イオン濃度に依存していた。一方,潜 在脱窒速度は,酸化還元電位の低い冠水域よりも高い干出域で高かった。この結果は,干 出域における脱窒菌数が好気環境で酸素呼吸により増殖することで高く維持されることを 示唆した。さらに,冠水堆積物を干出させる乾燥化実験では,脱窒の酵素反応定数(Vmax, Ks)は増加し,干出堆積物を冠水させる湿潤化実験においてこれらの定数値は減少した。 堆積物の乾燥化によるVmaxの増加は,好気環境への移行により酸素呼吸により増殖した脱 窒菌が,硝化により蓄積した硝酸イオンを誘導物質として脱窒酵素を合成することを示唆 した。一方,Ksの変動は,堆積物の乾燥化と湿潤化に連動した硝酸イオンの蓄積・枯渇によ り,硝酸イオンに対する親和性の異なる脱窒菌種への遷移が起こることを示唆した。 次に,湿地におけるヨシの成長・枯死に伴うヨシ群落域の環境因子の変動が脱窒に及ぼす 影響を明らかにするために,水ヨシ群落域(ヨシの茎の下部が水中に没しているヨシ群落 域)と陸ヨシ群落域(ヨシの茎が全て大気中にあるヨシ群落域)で研究を行なった。水ヨ シ群落域における硝酸基質未添加での脱窒速度は全て検出限界以下であり,硝酸イオンに 強く制限されると考えられた。また,有機物の添加による脱窒速度の増大幅は水ヨシ群落 域と水ヨシ対照域(水ヨシ群落域に隣接するヨシが生育していない冠水域)で大きな差が なく,少なくとも水ヨシ群落域においてヨシによる有機物の供給者としての機能は認めら

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れなかった。一方,陸ヨシ群落域では,硝酸基質未添加でも脱窒速度は測定されたが,そ れらの値に陸ヨシ対照域(陸ヨシ群落域に隣接するヨシが生育していない干出域)と明確 な差はなかった。有機物の添加による脱窒速度の増大幅は水ヨシ群落域よりも陸ヨシ群落 域で高く,このことから陸ヨシ群落域では有機物による影響が強かったといえた。さらに, 硝酸基質の添加による脱窒速度の増大幅は陸ヨシ群落域よりも陸ヨシ対照域で高く,陸ヨ シ対照域において硝酸基質の添加による効果が強かった。このことは,陸ヨシ群落域にお いてその対照域と比較して硝化で生成された硝酸イオンが効率的に脱窒に利用されること を示唆した。また,水ヨシ群落域と陸ヨシ群落域ともに,硝酸基質添加での脱窒速度はヨ シ群落域よりも対照域で高く,ヨシ群落域では微生物による窒素の有機化に硝酸イオンが 利用されることが脱窒を抑制すると考えられた。 以上の結果から,水陸移行帯の湿地は,硝酸イオンの負荷量の高い場で脱窒速度が高く,流 域からの窒素負荷を軽減する場であった。また,硝酸イオンの負荷がない場においても潜在的 な脱窒活性は維持されており,脱窒による窒素の潜在的な浄化機能としては維持されていると 考えられた。そして,干出域において潜在的な脱窒活性が高く,堆積物を乾燥化させた実験で も脱窒の最大速度が増大したことから,堆積物が冠水と干出を繰り返すことは,水陸移行帯の 浄化機能を高く維持する上で重要であった。陸ヨシ群落域では,対照域としたヨシの非生育域 と比較して脱窒は硝化との結びつきが強く,脱窒が効率的になされる場であることが示唆され た。このように,水陸移行帯における脱窒とそれに影響を及ぼす因子の多様性は,流域からの 窒素負荷量の変動に対して窒素の浄化という観点から広い応答範囲を維持した。水陸移行帯を 排水処理の場のごとく扱うのには疑問を感じるが,琵琶湖生態系の中で水陸移行帯の湿地は流 域からの栄養物質の負荷に対して窒素の浄化機能を有する場といえる。

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