香 川 大 学 経 済 論 叢 第66巻 第4号 1994年 3月 3-28
購買力平価からの希離要因とその作用径路
宮 田 亘 朗
I 購買力平価からの請離G
カツセルの購買力平価説は,為替レートが二国通貨の価値(購買力)の比 に落ちつくことを説く。いま,邦貨建て為替レートをR,一般物価をP,相対 表示の購買力平価をPPP
とすれば,購買力平価からの希離Xは(ただし,t
は 現時点o
は基準時点,また添え字*は外国を表す),2
7
4
P
P
P
)
=
φ
党
"
*
(1) で定義される。 両国の一般物価(以下時点を示す添え字は省略)は,それを構成する財を貿 易財と非貿易財(圏内品)とに分け(それぞれ添字T
,Nで表す)その構成割 合をα
,β
とa
*
,β*
で示すと,P =α
ρI+spN = Rρ
1
*
(
α+
s
/
:
π
)
/
r
(
2
)
P* =α
*
ρ
T
ネ+s*
ρN*=ρ1*(α*+s*j
π
*
)
(3) ただし,α+β=
1,α
*
十s*=
1, となる。ここでπは相対価格であり ,rは両国貿易財価格の離れである。即ち,π=ρ
r
!
PN,
(4)r
P
1
=
R
.
ρ
1
*
(5) である。 (2)式---(5)式を(1)式に代入し,購買力平価からのパーセント講離を求め ると,(1) Cassel, G, The Theory of Soaal Economy, 1923, p..487及びMoneyand Foreign Exchanges ajter 1914, 1925, pp 138-39川
-4ー 香川大学経済論叢
王子={事仏一歩手配
}
_
{
R
by*2JIM
一
ぬ
ρ
r
*
臼p*_-1/
,
7rり",),dr
H / da*J
十 一 r 818(
6
)
となる。すなわち,購買力平価からの請離の変化(dx/x)は,両国のπ
,α
,r
の 変化の和から生じるod
x
/
x
=
相対価格の変化一取引量ウエイトの変化+貿易財価格の離れの変化 (7) 次の(8)式は, (6)式を小国仮定の下に書き改めたものである。 dx _ RPr2s
rT__R
.
'Tl*臼1
/
;
冗:
)
.
7
,d
r
X 一 二 論 付 ♂ d匂+ 7
(8) (7)式の意味をより明瞭に表現している第1
図は,試みに小国仮定の下で基準 時点以降ニ国聞の貿易財価格に離れがない(
r
= じonstant= 1,π<
1)と仮定 して,購買力平価からの敢離を示したものである。それによれば,購買力平価 からの乗離は,相対価格の変化と取引量の変化からのみ生じ,しかも両変化の 差に依存するものである。 d1C¥ i
仰抑ここミヶ赴
j、評価 過大評価 l、、、、¥ ¥
図1 (7r<
1) da すなわち,上図から,原点だけでなく dx/x= 0直線上のすべての点において購 買力平価からの講離を生じないことがわかる。したがって, (6)式にもどり一般 的に考えると,為替レートが購買力平価と一致するチャンス (dx/x=0
)
は,相 対価格,取引量,貿易財価格の離れのいずれもが同時に変化しない場合(
d
π zdπ*=oα=o
♂ =d
r
= 0
)
のほか,それらが相互に相殺し合う場合もありう819 購買力平価からの飛離要因とその作用径路 5-るのである。ただし,基準時点で荊離がないものとする)。 以上の考察に基づいて,以下購買力平価からの靖離を表す(6)式を用い,デー タによる実証分析を試みることにする。 II 対ドル円為替レートと購買力平価からの諦離 まず,
G
カツセル本来の購買力平価概念に従い,日本とアメリカのGNP
デ フレータを用い両国間の購買力平価を計算し対ドル円レートと比較してみる。 使用するデータは,日経NEEDS
,IMF
-
IFS
及びUS
,Surv~yo
f
C
u
r
r
e
n
t
Business の四半期別データ(1 974 年第 1 四半期~, 1992 年第 1 四半期)であり, 基準時点を変動為替レート制移行時の 1973年(平均値)にとった。 四半期別対ドルfIjレートと購買力平価 (1974 1-1992.1;基準年=1973) 1 ドル当たりの円表示 320 300 280 260 240 220 200 180 160 140 120 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 1974年第1四半期-1992年第1四半期 -¥/$レート l 購買力平価 図2 ( 2) 拙稿『購買力平価と国際通貨.1,香川大学経済研究叢脅し昭和64年, 159ページ。既 に基準時点で議離がある場合は,dx/x= 0の条件は為替レートの購買力平価への一致を 意味せず,;iji;離の拡大のなかったことを意味するにすぎない。 (3 ) 長谷川聴l哲・秋葉弘哉・谷重雄共著『購貿力平価と為替レートJ,文冥堂,昭和59年, 59-60ぺ」ジにおいては, 1973年2月を基準時点として選んでいる。しかし,われわれは 1973年を基準時点、としその平均値を100としている。基準時点の選択については,上記著 書に記載のほか特別の理由はない。
-6 香川大学経済論叢 820 図2は,当該期間の為替レートと購買力平価を描いたものである。それによ ると, 1974年から 1976年初めまでほぽ両者は一致する。 1976年第2四半期 ---1982年第1四半期にかけて,為替レートの大幅な購買力平価以下への下落が みられる。この大幅な下落は, 1983年---1984年の一時的な一致あるいは為替 レートの上昇を除き, 1985年第4四半期以降1992年第l四半期まで続く。前者 の下落は第一次オイル・ショック(1973年10月)ベトナム戦争終結(1975年 6月)後のカータ一政権時代(1977年---1980年)に当たり,レーガン大統領が 選出され経済再建計画(1981年2月発表)の効果が出てくるまでの期間であり, 他方後者の下落はレーガン政権の期間 (1981年---1988年)とブッシュ政権の期 間 (1989年---1993年)のうちプラザ合意(ドル高是正1985年9月)以降の期 間である。 つづいて,図3は,この図2の為替レートを 1973年を基準としたパーセント 表示に改めると共に,その購買力平価からの講離(xの1973年を基準とした% 表示)を描いたものである。そのうち,為替レートが購買力平価から需離する 程度が
2
0.%を超える期間 (xの%表示のグラフを参照)は, 1977年第4四半 期---1979年第2四半期と 1986年第2四半期---1992年第1四半期のみである。 他方, 1992年の第4四半期の靖離は,購買力平価を大幅に下回り-334%
を示 している。なお,各四半期毎の購買力平価からの講離の変化(パーセント訴離 図 4dx/xのグラフ)は,0..114から -0.157の聞の値を示し,極めて小さい。( 4 ) Galliot, H.. J., Purchasing Power Parity as an Explanation of Long-Term Changes in Exchange Rates, l M. C. s, VoL 2, N 0..3, Aug. 1970, pp. 348-357
Genberg, H, Purchasing Power Parity under Fixed and Flexible Exchange Rates,
1 L E, VoI.8, May 1978, pp.247-276
Kravis, L B. & Lipsey, R E, Price Behavior in the Light of Balance of Payments Theory, l L E, Vol.8, No.2, May 1978, pp.193-246
Officer, L H, The Purchasing-Power-Parity Theory of Exchange Rates: A Review Article, IMF StajJ Papers, VoL 23, Mar. 1976, pp..1-60
以上の論者が希離の程度について論じているが,われわれは,長谷川聴哲他共著上掲 書 24ページ及び63ページの20%案を踏襲している。
821 購買力平価からの苦情離要因とその作用径路 7ー 1973 年基準値からの%表示
j
j
:
「¥/¥/んノ¥…
20 0ヤ
←
マ
H品.-::..:.::.ニ与斗』迫ニ与副叫.“..:.::.ヰ与 一20 40 -60 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 1974年 第l四半期-1992年 第1四半期 一¥/$レート(%表示) 栽 離 , 、 句 -、 , “ 図3 購買力平価からの需離 (dx/x) 015o
10。
05o
00 -0.05 -0 10 -0 15 -0 20 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 1974年 第l四半期-1992年 第1四半期 -dx/x 図4-8ー 香川大学経済論叢 822 III 日本及びアメリカの物価指数と
π
7[*及びα
, ♂ の 変 化 使用するデータは, 1973年を基準にとった上記第II節に記載したものと同じ である。図5
は日本の卸売物価指数,消費者物価指数,GNP
デフレータを描い たものであり,図6はアメリカの卸売(生産者)物価指数,消費者物価指数,GNP
デフレータである。これら卸売物価指数,消費者物価指数,GNP
デフレー タは,貿易財価格指数,非貿易財価格指数,一般物価指数の代理指数として使 用した。卸売物価指数を貿易財価格指数の,またGNP
デフレータを一般物価指 数の代理変数として使用することについて異論はない。しかし,消費者物価指 数を非貿易財価格指数の代理変数として使用することについては大いに疑問が あろう。しかしながら,一般物価指数を構成する価格指数は,卸売物価指数と 消費者物価指数を使用するのが通常であると思われる。そこで非貿易財価格指 数の代理指数として賃金指数よりも消費者物価指数を適切と考えた。 図5と図 6を比較する。一般的に言って,アメリカの物価指数の上昇傾向は, 日本の物価指数のそれよりも大きく急である。日本の消費者物価指数及びGNP
デフレータの値は1992年第1四半期の例でみると250%
以下であり,ア メリカのそれは250%
を超えている。また,アメリカの消費者物価指数は,同 四半期で300%
近くに達している。卸売物価指数についても,同様にアメリカ の上昇傾向は日本よりそれより高い。しかしながら,両国ともにGNP
デフレー (5 ) 例えば,一般物価指数の代理変数としてGNPデフレータを使用しているのに『昭和62 年 版 通 商 白 書J334ページがある。他方,貿易財価格指数の代理変数として卸売物価指 数を使用している例は,上掲の長谷川聴哉他共著『購買力平価と為替レートJ76-78ペー ジカまあり, Kravis, L B.. & Lipsey, R E, Price Behavior in the Light of Balance of Payments Theories, J 1 E, VoL 8, No 2, May 1978, pp.193-246がある。(6 ) 長 谷 川 聴 哉 他 共 著 上 掲 脅 76-80ページ。なお,非貿易財価格指数の代理変数として 賃金指数を使用する場合,導出される相対価格は,国内の労働市場の競争を完全なものと すれば,貿易財産業におけるある種の利潤率を示すものとなろう。その意味でも賃金指数 の使用を跨路した。また,非貿易財価格指数の代理変数として消費者物価指数を使用した 例は, Officer, L.H.., The Productivity Bias in Purchasing Power Parity: An Econometric Investigation, IMF Stalf Papers, VoL 23, No.3, Nov.1976, pp..545 -579及びLee,M.. H , Punhasing Poweγ Pari~y , 1976 (Marcel Dekker, Inc., N.. Y)な
-9-購買力平価からの希隊要因とその作用径路 日本の物価指数 (1974.1-1992.1: 1973=100) 823
:
:
:
L
r
j
いて:二二
250 PERCENT % 50 0 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 四半期別暦王子 消 費 者 物 価 指 数 一-GNPデフレータ 図5 一 卸 売 物 価 指 数 アメリカの午勿{面f旨事t (1974.1-1992.1: 1973=100) ー'ヲτ,戸ー+〆ー〆ー~、....__..ーー~:
;
;
L
J
グ /
350 300 250 50 0 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 四半期別暦年 1 消費者物価指数 図B ー -GNPデフレータ 一 生 産 者 物 価 指 数 タは,他の二つの物価指数より比較的に滑らかな曲線を描いており,上昇の緩 やかなことを示している。 これらの物価指数のデータを用いて,相対価格,取引量ウエイト,両 国間貿易財価格の離れ等の各四半期毎の変化率を求める。先ず, (4)式を用いて さて,-10- 香川大学経済論叢 824 両国の相対価格(π,が)を求め,その四半期毎の変化率(dπ
/
7
r,d7[*I
π*)を計算 する。図7はそれらを描いたものである。日本の相対価格変化 (d;π/π)をみると, 貿易財価格は 1979 年第 I 四半期~1980 年第 2 四半期に前期より大きく上昇 し, 1985 年第 2 四半期~1986 年第 3 四半期に前期より大きく下落している。そ の他の期間では際だ、った変化はみられない。同様にアメリカにおいても,1
9
8
4
年第 2~ 第 4 四半期に前期より大きく上昇し, 1984 年第 3 四半期~1986 年第 1 四半期に大きく下落しており,その他の期間では際だ、った変化はみられない。 しかしながら,一般的に言えば,両国の相対価格変化は,おしなべて下落傾向 (前期と較べて貿易財価格がマイナス)にあるようである。o
06o
05o
04o
03o
02o
01o
00 -0 01 -0 02 -0 03 -0..04 -0 05 -0 06 -0 07 日本とアメリカのπの変化率 (1974.1 -1992.1) 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 日本のdπ/π アメリカのd7r/π 図7 次に,取引量ウエイトの変化率(dlα/α,dlα*,/α*)を求める。 (2)式と (3)式を用い て,一般物価を構成する卸売物価と消費者物価の構成割合(α,β,a*,β*)を求 め,取引量ウエイトの変化率を計算した。図8は,その結果を示している。そ れによれば,日本の取引量ウエイトの変化率は,1
9
7
4
年第3
四半期に2..
1
8
,1
9
7
5
年の第1
四半期に-13
欠23
(グラフでは省略)及び1
9
8
0
年第1
四半期に 1..80
を除けば,極めて小さい値を示しでいる。また,アメリカについても1
9
7
5
825 購買力平価からの飛離要因とその作用径路 -11-日本とアメリカのαの変化率 (1974 1-1992 1) 5 4 3 2
。
ー - ) 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 一 日 本 の ぬα
/
アメリカのぬα
/
図 B 年第2四半期に2.27
,1983年第2四半期に4.25
及び同年第3四半期に2.69 を除けば,同様に極めて小さい。しかも両国ともに, 1980年代半ば以降をみる と,ゼ、ロ水準をはさみ正負相半ばし,大きく変化していない(これは,毎期の 前期に対する変化率であるから,全期間についてみて正または負に片寄りがな ければ,全体として取引量に大きな変化がなかったことを意味する)。 最後に,貿易財価格の両国間較差の変化率(
d
r
/
r
)
を求める。使用する方程式 は(
5
)
式である。その結果は,図9
の下方に掲げた通りである。それによれば, 変化率d
r
/
r
は,取引量ウエイトの変化率dα/α,d
a
*
/
α,*と較べて大きい。しか し,全期間平均でみてー2ρ1,最大変化率でみて1986年第1四半期のー13ρ4 に過ぎない。 ところで,しばしばこの貿易財価格指数を用いて購買力平価を計測すること がある。いま,(
5
)
式の定義を改め ,R,ρ
7
,ρ
7
*
にそれぞれ為替レートの変化率, (7) このように貿易財価格指数を使用して購買カ平価を導出することにGカッセル自身 反対であり,また購買力平価説が発表された当初にすでに J Mケインズはこのような平 価を自明の理であるとして批判した。 Cassel,G.,M
o
n
e
y
a
n
d
F
o
r
e
i
g
n
Exc
h
a
n
g
e
s
a
j
t
e
γ 1914, 1922, p..184及び拙著『国際的貨幣ヴェール観』龍谷大学経済学研究叢脅し昭和 35年9月, 41ペ ー ジ 。 し か し な が ら 通 商 白 書 昭 和63年版J,284ページやLω,M826 香川大学経済論叢 。 , “ 内 切 JM 唱 E A A 叫 J V 川 別 方 Q u r 、 、 o o ' ι JfJ ω ∞ 期 め は 半
t
四 ぱ 町 1 i、
J E 存 示 問 ω 引 濃 n F 白 n w 内 A-QuhI R U Q d r l m 山 T よ 3 内 u e m ω 半日リ図 百 は コ ニ ノ ,u u
u
表 ∞ 仰 第 w w ゐ 汁 、 卜 9 4 -勺 4 n J 一 8 M M レ ウ d 作 中 巧' ' f f J 7 ¥ 均 一 戸 川 υ 巧 , a a A T 巧 d 山 MAUA 町 山 町 崎 町 古 υ ハ リ ハ リ ハ υ ハ υ ハ U ハ υ ハ υ A V A υ F J 4 胃 i れ U C U O R U 門 t F O R d A U τ つ i υ 。 , U 7 ム T A っ “ 1 1 一 一 円レートの%変化と rの変化率 (1974.1-1992.1 基準年=1973) :--~ι....:.,~でで声明で一ーで一→一ー+→ー、一、,、 ! -12ー アメリカの貿易財価格指数を代入し,貿易財価格較差 それを(1)式と比較する。 そして, る せ AC 激 汁 o 一 *0 説 マ 包 μ 判 長 引 V ﹂e
*
畑 出ρ
一 九 叶 陀 z v r 揚 紡 = 庖 E F 己 百 t 一 o の 吋R
一
R
本 ト ド 日 ん い (9) この場合のr
は,形式的には明らかにわれわれのx
と同じ表現となる。しかし このτは,xとは異なり,二国間の関税及び奨励金や運送費,独占的競 またそれは,為替レートに依存して変動するとする と r(%表示)を描き,両者を ながら, 争の状態等を表している。 研究もある。ちなみに,為替レート(%表示) 比較してみよう。両者のグラフは,図9の上方に示しである。両グラフは,講 離があるけれども, よく似た軌跡を示していることがわかる。 H, Purchasing Power Parity, 1978(Marcel Dekker, Inc:, N.. Y)においては,貿易財 価格指数を使用している。なお,詳細は拙稿~M.H リーの購買力平価の検証について』 香川大学経済論叢,第53巻,第3号,昭和56年1月,及び拙稿『一物一価の法則と購買 力平価』香川大学経済論議,第60巻,第l号,昭和62年6月。(8) Isard, P, How Far Can We Push the“Law of One Price"?, A.. E R, VoL 67, Dec 1967, pp..942-948 拙稿『一物一価の法則と購買力平価』香川大学経済論叢,第60巻, 第l号,昭和62年6月, 65ページ。
827 購買力平価からのま危機要因とその作用径路 13
I
V
購買力平価からの請離の検証 最後に以上第凹節で導出した各種変数(
d
x
/
x
,d;
π
/
π
,d
π
*
/iT*,d
a
,
f
α
,d,α
*
,/α
*
dr
/
r)を用いて,第I節で考察した購買力平価からの講離(6)式の検証を行う。そ のため(6)式より次のような回帰式を設定する。dπdπ
*
d
α d α
,
*
d
r
一一 =α。 +al~+ α2----=* 十ぬ一一+ぬ一γ+α5一一 +Ut (10) 』【一α α
-
r
(
+
) 一 一 ( + ) (1) ただし,制約条件α
。
=
0"U
t
は誤差項である。各項(
a
l
"
"
a
4
)
の下方に示した括弧内の符号は,それらの回 帰係数が+,-,-,+の符号をとらなければならないこと,またα
5
の下方の括 弧内の数値は,回帰係数が1の値に近似せねばならないことをそれぞれ示して いる。なお,上記回帰係数の導出には, α0=0
の制約条件を設けた。その制約 条件の下で最小自乗法を用いた結果は,生
=1..5770生
-138064-0001
生
-0.002与
+
0011 d! (11) A α (728) (-4..72) (-2.73) (-0.36) (1220) R2=
0.84,
d
l
= 67
,
ρ=
1669
の通りである。この(lU
試の各国帰係数の下に掲げた括弧内の数値は t備を示し, またR2は決定係数を ,d
f
は自由度を,ρはダービン・ワトソン比を示している。 決定係数R
2の値は0
.
8
4
であり,ω
式の当てはまりの良いことを示す。しかし, アメリカの取引量ウエイトの回帰係数仇は t値-0.36であり有意でないこ と,またその正負符号が負値であり制式で期待されたものと異なっていること を示している。さらに, ρの値をみると1669
であり,系列相関の存在するこ とを示している。このρの値が大きいことは,前節で述べたように貿易財価格 の二国間較差 rが為替レートに依存して変化することを考えるなら,当然のこ とである。 そこで,先ずd
a
*
,
f
α
*
の項を省き最小自乗法により再度回帰係数を求めた。そ の結果は,ω
式の如くであり,各係数の正負の符号 ,t
値,決定係数等について-14 香川大学経済論叢 828 生 = 1.5906生
-136574-oρ
'006生+'0ω
泣 ( 日 ) A α (7.49) (-4.75) (-2.79) (1246) R2 = '083,
d
f
=68
,
ρ = 7.981
満足すべきものであった。しかし,夕、ービン・ワトソン比ρについては相変わ らず悪いことを示した。 そこで,系列相関を修正しなければならない。そのため通常のコックラン・ オルコットの繰り返し法を用いた。結果は(13)式の通りである。なお ,a
o
= 0の 制約条件を外し回帰式に定数項ぬを入れた場合についても,繰り返し法を用い 系列相闘を修正し回帰係数を求めた。結果は(13)式に類似する。その場合の定数 項は '0.0006420で,t
値は '0.64であり,有意の値が得られなかった。 購買力平価からの議離(実測値と理論値) (1974 1-1992 1)o
2o
1 ハ υ ハ H V -0 1 -0 2 -0 3 M~nn~~w~~æ~~~~~æ~m~ (ρ 修正後のグラフ) 一 実 測 値 一一理論値 図10 ( 9) Kmenta, J, Elements0/Econometri・ω,1971, pp 287-289. 及び伊大知良太郎編『経 済統計講義』青林書院新社, 1971年5月, 120-122ページ。829 購買力平価からの栽離要因とその作用径路 -15 dx ""A~dπdπ*
'
¥
/
/"1/'¥.11"-'"dα
ど ー= 0.945三 一 一1210.とτ -0.0.0.03aa +0..0.11~ω
π ' α
(880) (-7.23) (-247) (2597) R2 = 0..95,
d
l
= 66,
ρ=2 “0.59 以上からしてわれわれは,(1)購買力平価からの飛離の変化は,日本及びアメ リカの相対価格の変化及び日本の取引量ウヱイトの変化,さらに貿易財価格の 二国間較差の変化からのみ生じること,(
2
)
アメリカの取引量ウエイトの変化は, 購買力平価からの需離の変化に影響を与えないこと,の結論を得た。 そこで,われわれに残された課題は,これら変化率(
d
π
/
π
,d
7[* /7[*,d
α
/
α
,d
r
/
r
)
が何に依存して変化するのか,を改めて検討することである。かくして購 買力平価からの需離を正確に把握できることとなり,購買力平価説の妥当性に 光をあてることができるように思われるからである。V
各種変化率に関する検証 (1) 相対価格の変化率(dπ
/7t, dπ
*
/
π
*
)
まず,日本とアメリカニ国それぞれについて,各国の国内財価格で割った貿 易財の相対価格が何に依存し変化しているかを検証する。使用するデータは前 節と同じである。 国際経済理論によれば,上記相対価格の変化は,人口の増加や資本の増加(生 産技術変化を含む)など明らかに生産可能曲線を変化させるものと,趣好変化 や政治経済的な変化など社会的無差別曲線をも変化させると思われるもの(国 民総支出,市場の開放性,公的支出割合,オイル・ショック等)とがある。容 (10) Heller, H..R, Infernafional Trade, TheOJy and Empirical Evidence, New Jersey, U S A, 1968, Chap 8 木村滋・村上敦訳『国際貿易論』ダイヤモンド社,昭和46年, 第8章。 (ll) 社会的無差別曲線を変化させると考えられるものは多数考え得るであろう。勿論,それ らは需要のみならず供給にも影響を与える。ここでは過去の購買力平価に関する検証に 用いられた変数を選び列挙したに過ぎない。例えば, Genberg, H..,Purchasing Power Parity under Fixed and Flexible Exchange Rates,] 1 E.., VoL 8, May 1978 0伍cer,L.H..,Purchasing Power Pari(y and Exchange Rafes Theory, Evidence and Relevance, (Contemporary Studies in Economic and Financial Analysis, VoL 35 New-16- 香川大学経済論叢 830 易に入手可能な人口や資本ストック,労働生産指数,実質及び名目 GNP,貨幣 ストック
M3
などのデータ(または代理変数のデータ)を用いて回帰係数を求め た。しかし,いずれも t値 が 悪 い か 決 定 係 数 が 小 さ し 望 ま し い 結 果 を 得 る こ とが出来なかった。そこで,被雇用者一人当たりの名目組圏内生産高(GDP/ EMP)とGDP当 た り の 対 外 取 引 高 ( ( 輸 出 + 輸 入)/GDP=
市 場 の 開 放 性 OP)及び政府支出の対GDPシェア(GVE/GDP)を用いて再度回帰係数を求 めた。言うまでもなく GDP/EMPは生産技術変化(技術進歩)を表す代理変数 であり,他は需給両側に影響を与えると思われる変数である。なお,以下の結 果を導出するに際しすべての変数は,変化率の形で使用した。またオイル・ ショックやプラザ合意などの影響を表すものとしてダミー変数(Dl,D2)を用 い, 1974 II '"'-' 1975 II, 1979 1 '"'-' 1980 1, 1985 II '"'-' 1986 IIなどに挿入した。そ の結果は帥式の通りである。生
π= -0.006 -0.025 d(GDP/EMP1+0.GDP/EMP .1004
笠
L
,~..~~~ OP (-641) (-2.18) (6.09) ( 14) ρ = 1.96York Univ), 1982 Balassa, B, The Purchasing-Power-Parity Doctrine: A Reap -praisal, ] P E, VoL 72, Dev. 1964. Kravis, I B. and R Lipsey, Price Behavior in the Light of Balance of Payments Theories, ] 1 E, VoL 8, May 1978等である。よ
り詳細には,長谷川聴哲・秋葉弘哉・谷重雄共著 r購買力平価と為替レート』文真堂,昭 和59年, 64-70ページ及び富田亘朗著『購買力平価と国際通貨』香川大学経済学会,昭和 64年, 6主主, 7章を参照されたい。 (12) Frenkel,
J
AやMussa,M などのマネタリー・アプローチを念頭において貨幣ス トックM3のデータを使用した。勿論,M,J M2についても同様の試みをした。しかし, いずれも好ましい結果を得ることが出来なかった。なお,FrenkelやMussaの購買力平 価に対する考えについては,拙著上掲書,第8章参照。831
o
06o
05o
04o
03 0.02o
01o
00 -0 01 -0 02 -0 03 -0 04 購買力平価からの飛離要因とその作用径路 日本の相対価格変化率と回帰曲線 (1974 1-1992 1) 17 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 ( 2 {聞のダミ一変数を使用) - d7r/7r 理論佑 図11 この結果から,日本においては生産技術進歩(
d
(
G
D
P
!
E
M
P
)
/
(
G
D
P
/
E
M
P
)
)
及び政府支出の対GDP
シェアは相対価格(π=ρr
/
PN)を騰貴させ,市場の開 放(
d
(
O
P
)
/
O
P
)
はそれを下落させることになる。 同様のことをアメリカの相対価格変化(dIr*/
:
π
*
)
についても行った。その結 果は,ω
式 の 通 り で あ る 。 ア メ リ カ の 場 合 , 政 府 支 出 の 対GDP
シェア(
G
V
E
*
/
G
D
P
*
)
が,t
値が悪く回帰式から省かれた。このことから,少なくとも 当該考察期間でみる限り政府支出の対GDP
シェアは,アメリカでは経済に対 し有効でなく購買力平価からの靖離にも影響を与えないことになる。使用した3
つのダミー変数には,日本と同じく,第1
次と第2
次のオイlレ・ショックの 影響が異なること,また1
9
7
7
年のカータ}政権への交代やプラザ合意(19
8
5
年 9月),またアメリカのデータについて入手出来たものが季節調整済のもので あったことなどを考慮している。なお,ダービン・ワトソン比ρが悪く,繰り 返し法による修正を行った。 (ρ修正のため次式の定数項の推定値は,0
ρ008
と (13) 常数項の推定値は,帥式の常数須の値-0012を (1-23802842)でわったα
0008で ある。~18 ← 香川大学経済論叢 832 改めるべきである。)
ヰ =-
π*
0
.
012+
0.28o.J:f(GDP*/EM4~-- o. 仰迎土
~ VV~~' V~~V GDP*/E
MP* V V v V op* (-882) (6日 (-4.43)+
0
.
ρ
'llD1*+0
.
.
o
.
49Dゾ-
o
.
o
.
52D3* (587) (9.45) (-990) ) F K J V l ( R2=
0
.
.8,
.
0
d
l
=
65,
ρ=2.0
.
5 このことからアメリカでは,日本と異なり被雇用者一人当たり名目圏内生産 高(GDP/EMP)の増大は相対価格変化率(d7r*/
:
π
*
)
を騰貴させ,市場の開放性(O
P)はそれを下落させる。ただし,アメリカでは,政府支出の対GDPシェア (GVE/GDP)は,影響がなく方程式から除外された。その他,日本と同様に趣好 変化や政治経済的変化で需給に影響すると思われるものがあるが,それらはい ずれもダミー変数の導入で処理した。他に望ましい代理変数が見い出せなかっ fこことによる。 アメリカの相対価格変化宗と回帰曲線 (1974 1-1992 1)o
04o
03o
02o
01 0..00 -0 01 -0 02 -0.03 -0 04 -005 -0 06 -0..07 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 (ρ 修正副iのグラフ:3イ闘のダミー変数使用) - d7C* /7C* 一 理 論 偽 図12833 購買力平価からの希離要因とその作用径路 -19ー (2) 日本の取引量ウエイト (da
,
f
α
)
取引量ウエイトに関して,アメリカのそれは既に前節で t値が悪く除外され ている。そこで,われわれは,日本についてのみ検証する。 この取引量ウエイト(
α
)
のデータは,一般物価 (GNPデフレータ)とそれを 構成する卸売物価及び消費者物価から, (2)式及び(3)式を用いて間接的に導出さ れたものである。したがってそれは,明らかに GNPデフレータ,卸売物価,消 費者物価に依存すると思われる。そこで,これら物価のうち後の2
つ比(相対 価格討を用い回帰係数を求めてみた。その結果は, (16
)
式の通りである。2
つのダミー変数を使用したこと及び系列相関の修正を行ったこと等は,上 記ケースと同様である。(次式の定数項の推定値は,系列相関の修正を考える と,-0028506
とすべきである。) 日本の取引filウエイト変化率と戸]帰曲線 (1974 1 -1992 1) 3 2。
. , i -2 ~~~nn~WM~~~~~~~~OO~~ (ρ 修正前のグラフ:2 {闘のダミ一変数使用) 一 如 何 一 理 論f直 図13 (14) 常数項の推定値は,制式の常数項の値0.0.47を(1-26539884)で割った-0..0.2850.6 である。-20- 香川大学経済論叢 834
守
= 0047+8575今
+
1073D1 -137 763D2 帥 (110) (4..06) (591) (-476.11) R2 = 0.99,
d
f
= 67,
ρ = 2..19 この(16)式はある種の定義式であり自明のことである。それは,上式の決定係 数R2 の値が,正確には0.99972であり 1に等しいことに示されている。(
3
)
貿易財価格のニ国間較差(
d
r
!
r
)
貿易財価格の二国間較差は,両国の相対価格変化や取引量ウエイト以外の関 税や貿易障害などを含む幾多の変数の変化に依存するとみることができる。例 えば,アイサ}ド,P
ゎは二国間較差の変化率が為替レートの変化率に依存する とし,またフィーレク,N.S
引は金利差と為替売買スプレッド及び市場の不確実 性を生じる各種会議や政府の発表などに依存すると考えた。そこでわれわれは, これら入手可能なデータすべてを用いて検証を試みた。勿論,日本とアメリカ の貨幣ストックM3
やGDP当たりの貿易収支など考え得るものも検証を行っ た。しかし,いず、れもtfI震が悪く有意な結果が得られなかった。結局残されたも のは,日本とアメリカの市場開放性(d(OP)jOP,d(OP*)jOP*)であっ主。最 小自乗法による結果は, (17)式の通りである。 dE=-1014+297984Lr
.L,V .L-r I ~,J ,' ,J U OP笠
L-13263A
l
.
Op*笠 立
+
4J93Dl-4562D2 (17) (-288) (720) (-227) (766) (-7.72) R2 = 0.82,
d
l
= 67,
ρ = 195(15) Isard, P, How Far Can We Push the “Law of One Price",?A..E R" VoL 67, Dec 1967及びFieleke,N. S, Exchange-Rate FlexibiIIity and Efficiency of the Foreign Exchange Markets, J
0
/
Financial Quantitative Ana(ysi,s.VoL 10, Sep..1975.詳細は, 拙著『購買力平価と国際通貨』香川大学経済学会,昭和64年,第7章II.及び「所得変 動と購買力平価からの飛離Jr神戸大学金融研究会年報』第1号. 7~16 ページ参照。 (16) 卸売物価(WPl. WPJ)の変化率を用いて回帰をしている例がある。例えば『昭和62年 版 通 商 白 書J332ページにある相対輸出価格関数である。また,深尾光洋「為替レート とリスク・プレミアム」金融研究資料,第13号.1982及び翁邦雄『期待と投機の経済分 析』東洋経済新報社.1985にも類似の考え方がみられる。拙稿「所得変動と購買力平価か らの希離Jr神戸大学金融研究会年報』第 l 号 7~16 ページ参照。しかし,われわれはこ の方法を採用しなかった。それは,左辺の rの導出に際し卸売物価を使用し,また右[辺に も同じ卸売物価を用いるのに腐踏したためである。835 購買力平価からの議離要因とその作用径路 -21ー rの変化率と回帰曲線 (1974 1-19921) 10
。
5 F h υ -10 -15 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 ( 2個のダミ一変数を使用) - dr/r 一理論{直 図14 また,日米金利差(i-i*)についても,導入して回帰係数を求めた。この場合 も有意な t値がえられた。しかしそれは,ときにマルチコを生じ,確定的なも のとは言えない。次のものは,良い結果の得られた一例である。 dr r = -1.217
+
2
8
.
295
必
9
!
)
-1
2..833
d(2苧
-,~~~-~op
op*
(-3.38) (6.87) (-5..72)o
132(
i
-i*)+4.193Dj-4.562D2 (18) (-1.99) (756) (-2.24) R2 = 083,
df = 66,
ρ = 1.97 使用した2つのダミー変数は,第l次(1973/10)及び第2次(1978/12)の オイル・ショック以外に,ベトナム戦争終結(1975/4)北海油田本格操業開始 (19
7
5
/
1
1
)
SDR
の創出 (19
7
8
/
1)IMF
協定改正 (1978/4)イラン革命 (1978/12)EMS
発足(
1
9
7
9
/
3
)SDR
バスケットの改訂(1981/1)米財政赤字拡大(1981/ (17) アメリカの金利データは, Board of Govemors of Federal Reserve System, Federal Reserve Bulletinの該当年のものから採った。一一22 香川大学経済論叢 836 rの変化率と回帰曲線 (1974 1-19921) 5 10
。
F h d -10 -15 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 (独fiL変数に金平JI差を含む) - dr/r … 理 論 備 図15 1)経済再建計画発表(1981/2) フォークランド紛争 (1982/4~7) 大韓航空機 事件(1983/9)プラザ合意 (1985/9)ルーブノレ合意 (1987/2)ブラック・マンデー (1987/10)銀行の自己資本比率に関する国際統一化公表(1988/7)天安門事件 (1989/6)米ノTナマ侵攻(1989/12)ソ連アフガン侵攻 (1989/12)イラクのク ウェート侵入 (1990/8)湾岸戦争 (1991/1)ソ連解体 (1991/12),及びカーター (1977~ 1980)レーガン (1981~ 1988) ブッシュ(1 989~1993)への政権の交代 等を考慮したものである。V
I
講離要因の作用径路 本節では上記第 V 節(l)~(3)の結果を用い,購買力平価からのパーセント講離 (dx/x)を再度検証してみよう。 前節よりして,両国の相対価格ρr
(
/
P
N
,p
y
*
/
P
N
*
)
の変化率は,それぞれの生 産 技 術 ( 技 術 進 歩 ) と 市 場 開 放 性(GDP/EMP,
GDP'お/EMPヘ
OP/OP,
837 購買力平価からの希離要因とその作用径路 -23 率に依存する。日本の取引量ウエイト
(
α
)
は,相対価格の変化率に依存する。ま た,貿易財価格の二国間較差(r)は,日本の技術進歩(GDP!EMP)の変化率, 両国の市場開放性(O
P!OP,OP* !OPネ)の変化率,日本の政府支出対 GDPシェ ア(GVE!GDP)の変化率(及び金利差(z-i*))に依存する。そこで,われわれ は,これらの結果を用いて,購買力平価からのパーセント議離(dx!x)が第I
V
節 (10)式のように相対価格と取引量ウエイト及び貿易財の二国間較差に依存するも のとせず,直接に技術進歩,市場開放性,政府支出対GDPシェア,金利差など に依存するものとして回帰係数を求めた。その結果は(19)の通りである。なお, ダミー変数については前節と同じである。また,ダービン・ワトソン比ρが悪 くその修正を行っている。(そのため次式の定数項の推定値は,0.9471616とす べきである。) 購買力平価からの訴離と匝]帰曲線 (1974 1-1992 1) 5 15 10。
戸 、
υ -10 -15 -20 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 (ρ 修正副jの グ ラ フ :2 {闘のダミ一変数使用) - dx/x 一 理 論 値 図1624 香川大学経済論叢 838 ) AU 可 HV l (
R
2 = 0.89
,
d
l
= 64,
ρ = 1.96 アメリカの生産技術(技術進歩GDP
り
寄
'EM
P
*
)
と政府支出の対GDP
シェア(
G
V
E
*
/
G
D
P
*
)
及び金利差(
z-
i
*
)
は,ともに有意な結果が得られず(t値が悪 く)独立変数から除かなければならなかった。すなわち,アメリカの技術進歩 は,購買力平価からの需離に影響を与えなかったか,あるいはその技術進歩自 体がこの期間余りなかったか,いずれにせよ講離(x)を変動させなかったよう である。またアメリカの政府支出対GDP
シェアも,日本(t値が有意を示す) と異なり,経済システムの違いか経済規模の差のためか,全く効かなかった。 金利差についても有意の結果が得られなかった。ところで,金利差について 例えば深尾光洋氏の資産市場アプローチでS
,次のように主張される。完全に 代替的な内外債券を仮定し国際間の資本移動を考慮に入れるとき,二国利子率 の聞にi
=i
*
+
μの関係が成立する(ただしμ=(
R
e
-
R
)
/
R
である)。また投 機者は,両国のインフレ率を予想し,為替レート(
R
)
が購買力平価から離れる とき再びそれに近づく傾向があると予想する。ゆえにこの場合μ=(ρ
-
p
*
)
+
&(g-e)
となる。ただしρ
,p
*
はインフレ率,g
,e
は購買力平価と為替レー トの対数値,。は調整速度である。そこで,購買力平価からの需離(g-e;
わ れわれの定義の逆)はg-e
=す
{
(
i
-
i
*
)
+
(
ρ
-
p
*
)
}
となり,ニ国の金利差に依存し変化することになるとする。 このモデノレは,本来リスク・プレミアムを導入しオーバーシュトやパブノレ現。
。
象を説明しようとする短期分析のものである。これに対し,われわれの分析は, 四半期別データを使用した長期分析である。したがって,ω
式にみるように金 (18) 脚 注 (15)参照。839 購買力平価からの飛離要因とその作用径路 -25-利差に関する回帰係数の t値は,有意とならず方程式から排除されたものと理 解されねばならない。 第
I
V
節のω
式と第V
節の帥式 側式を比較検討し,購買力平価からの荊離を 変化させる各種要因の作用(影響)径路を図示すると図17のようになる。 議離への作用径路PPP
か ら の % 議 離 仲 介 変 数 各種要因/三叩友一一雌歩向山
十↓ +アメリカの技術進歩(
G
D
P
*
/
E
M
P
*
)
i?' ____ -d.α/α¥)¥
与____ U U { UY
i
+
日本の市場開放性(OP) dx/x~'
-
V
で\ -d;内*~ーアメリカの市場開放性(伊) ¥ 必/、 日本の政府支出対GDPシェア(
G
V
E
/
G
D
P
)
¥+dr/τ 唖一一一日米金利差(i-i*) 図17 上の作用径路図で,+符号は回帰係数が正値であり影響が正比例関係にある ことを示し,一符号は回帰係数が負値であり逆比例関係にあることを示す。すな わち日本の技術進歩(GDP/
E
MP)は,日本の相対価格付=
P
1
!PN)を下落させ 購買力平価からのパーセント靖離(x)を縮小する。日本の市場開放性(OP)は, 日本の相対価格を騰貴させパーセント請離を拡大すると共に貿易財価格のこ国 間較差 (r)を拡大しパーセント宣告離をも拡大する。(このうち日本の相対価格に 影響する要因は,日本の取引量ウエイト(
α
)
にも作用しパーセント需離に影響 する。)アメリカの市場開放性は(OP*)アメリカの相対価格を下落させパーセ ント講離を拡大すると共に貿易財価格の二国間較差を縮めパーセント靖離を縮 小する。(アメリカの市場開放性についてはパーセント講離に与える影響を異に している。それは, (15)式と(17)式の変数d(O
P*)!OP*の係数の大きさ (-0.095 と-13..263)を比較し,ω
式の(d(OP*) !Op*とdr
/
r
の係数 (-1..210とα
011)に照らすとき,貿易財価格のニ国間較差を経由するときの係数の値(-13
い 263x
0.011=
-0146)が相対価格 (d7r*
/
:
π
*
)
を経由するときの係数の値((-0095) X (-1..210) = 0115)より大きいことからも推測できる。)日本の政府 支出対GDPシェア (GVE!GDP)は,日本の相対価格を下落させパーセント講-26- 香川大学経済論叢 840 離を縮小する(以上図17で実線表示)。しかしながら,アメリカの技術進歩
(
G
D
P
*
/
E
M
P
*
)
はアメリカの相対価格(π* ありρ'N*)を下落させ,また日米金 利差(z-i*)は貿易財価格の二国間較差を縮めることが考えられる。しかし,い ずれもパーセント靖離(x)への影響は認められない(図17で破線表示)。 以上,われわれは為替レートを購買力平価から議離させる要因を検討してき た。購買力平価からの需離の原因を探るとき,通常(19
)
式のような各種要因を独 立変数として使用し,回帰係数を導出して,直ちにそれら各種要因が敢離の原 因であるとの結論に到達する。そしてこれらの各種要因が相対価格,取引量ウ エイト,貿易財の二国間較差のような仲介変数のいずれを経由したものか,あ るいは上記各種要因と仲介変数が同列にあるものか,全く判然としないまま放 置されている。したがって,このような分析ではそれらの各種要因がどのよう な経路でパーセント飛離に影響するのか,全く分からない。そこで,われわれ は,先ず制式を用いて購買力平価からの請離を生じる要因が日本とアメリカ両 国の相対価格,取引量ウエイト,貿易財価格の二国間較差のいずれかを経由せ ねばならないことを見出し,次いでそれを仲介変数と位置づけ,それらがどの ように需離要因と関係しているかを尋ねたのである。購買力平価からの請離に ついて得られたわれわれの結論は,次のようなものである。 ①日本・アメリカともに市場開放性の影響が認められる。しかもアメリカで は,貿易財価格の二国間較差を経由する影響が相対価格を経由する影響よ り大きい。 ②日本では生産技術(技術進歩)及び政府支出の対GDP
シェアの影響が認め られる。 ③アメリカでは生産技術(技術進歩)の変化は,相対価格に作用するけれど も靖離には影響しない。他方,取引量ウエイト及び政府支出対GDP
シェア の変化は,ともにその影響が認められない。 ④日米金利差は貿易財価格の二国間較差に作用するが需離には影響しない。 ⑤日本の生産技術の進歩と政府支出の対GDP
シェアの増大は弟離を縮小 し,市場の開放性の変化はそれを拡大する。841 購買力平価からの議離要因とその作用径路 -27 ⑥日本の市場開放性の増大は荊離を拡大し,アメリカの開放性の増大は諦離 を縮小する。
V
I
I
む す び われわれは,第 I節において為替レートの購買力平価からの靖離Xを(1)式で 定義すると共にその請離が自国と外国における貿易財・非貿易財の相対価格(
π
, 7[*),取引量ウエイトα
(
,日),貿易財価格の二国間較差(r
)
に依存して変 化することを見出した。そして第 II~IV節において,円レートと日米両国のデー タを用いこのことが正しいかどうかの検証を行った。その結果,購買力平価か らの請離は,アメリカの取引量ウエイトの変化に影響されないが,日本の取引 量ウエイトと両国の相対価格の変化及び貿易財価格の二国間較差の変化に影響 されるとの結論に達した。 そこで,第V節において,日米両国の相対価格の変化,日本の取引量ウエイ トの変化,貿易財価格の二国間較差の変化につき,それらが何に依存して変動 するものかを,考え得る各種変数を用いて実証的に検討した。そして,日本の 相対価格変化は日本の生産技術変化(技術進歩)と政府支出の対 GDPシェア及 び市場開放性に依存すること,他方アメリカの相対価格はアメリカの生産技術 変化(技術進歩)と市場の開放性に依存するがアメリカの政府支出の対 GDP シェアに依存しないこと,また日本の取引量ウエイトは日本の相対価格変化に 依存すること,さらに貿易財価格のこ国間較差は日米両国の市場開放性に依存 すると共に両国の金利差にも依存するが明かとなった。 最後に,第V
I
節において,前節で見出した生産技術変化(技術進歩)や政府 支出の対GDPシェア,市場開放性,金利差などの各種係数を為替レートを購買 力平価から希離させる要因と考え,他方第 II~IV節の相対価格,取引量ウエイ ト,貿易財価格のこ国間較差等を仲介変数と位置づけて,主主離要因の作用径路 を描いた。このような径路図(図17)が正当であることを確かめるため,上記 諦離要因を独立変数とし購買力平価からの需離Xを従属変数とする回帰方程 式の当てはまりの良さ及び t値を導出した(仰)式)。その結果,アメリカの生産28- 香川大学経済論叢 842 技術変化及び政府支出の対 GDPシェアと両国間の金利差を除く他の全ての要 因が,購買力平価からの乗離に影響すること,またわれわれの上記径路図の設 定が概ね妥当であること,を見出した。 われわれは,上記分析で月別データの使用を排除し,すべて四半期別データ を使用した。これは購買力平価説が長期理論であることを考慮、したためである。 したがって,第