香川大学農学部近郊の溜池,男井間池と平田池のマイクロシスチン汚染調査(2014)
田渕結実・川村 理
Occurrence of microcystins in Oima Pond and Hirata Pond which were reservoirs in the suburbs of
Faculty of Agriculture, Kagawa University in
2014.
Yumi Tabuchi and Osamu Kawamura
Abstract
Microcystin (MCs) is one of toxic cyanotoxins, which are contaminated in eutrophicated lakes and ponds. MCs has the strong liver toxicity and carcinogenetic promoter activity, and causes healthy damage to domestic animals and humans. Reservoirs more than 14,000 are in Kagawa, and blue-green algae occur almost every year. However, there is limited MCs contamination data. Therefore, we collected water samples form Oima Pond and Hirata Pond in the suburbs of Faculty of Agriculture, Kagawa University from July to November in 2014, and analyzed MCs in these waters by our established ELISA.
As a result, all waters were contaminated with more than 1 ng/mL of MCs, which was standard value in drink-ing water set by World Health Organization. The waters from Oima pond were contaminated with 71 times higher of MCs in an average than Hirata pond. The samples, which were more than 10 ng/mL which was the regulation level in recreation water set by Australia, were only 3% in Hirata Pond, but were 87% in Oima Pond. There were no sam-ples which were over 100 ng/mL in Hirata Pond, but 22% of samsam-ples in Oima pond. We made clear that Oima Pond was contaminated with considerably highly-concentrated MCs for the first time.
Key words : microcystine, Oima Pond, Hirata Pond, reservoir in Kagawa
香川大学農学部学術報告 第69巻 23~26,2017 緒 言 アオコは富栄養化した湖沼などで発生し,景観悪化や 悪臭発生のみならず,シアノトキシン(藍藻毒)を生産 し水を汚染する(1).アオコを構成する主要な藍藻であ るミクロキスティス属(代表菌種Microcystis aeruginosa) などは,7個のアミノ酸から構成される環状のペプチド で,強い肝臓毒性と発がんプロモーター活性を有するマ イクロシスチン類(microcystins, MCs)を生産する(2). 日本では,主に,MC-LR,MC-RRとMC-YRなどが主要 なMCsである(Fig. 1). マイクロシスチンによる家畜やヒトへの被害は,かな り以前から,米国やオーストラリアなどで,放牧家畜が アオコの発生した湖沼水を摂取し,斃死する事故が多発 している.また,ヒトでのマイクロシスチン摂取が原因 と考えられる死亡事例がいくつか報告されており,特 に,1996年にブラジルで人工透析液にマイクロシスチン が混入し,52名の透析患者が死亡した事件は象徴的であ る(3).これらのことから世界保健機関は,動物実験の結 果からMC-LRのTDI(耐用1日摂取量)を0.04 µg/kg体 Fig. 1 主なマイクロシスチンの構造式
Fig.1
Microcystins R1 R1Microcystin-LR L-Leu L-Arg Microcystin-RR L-Arg L-Arg Microcystin-YR L-Tyr L-Arg
香川大学農学部学術報告 第69巻,2017 重/dayとし,飲料水中のMCsの基準値を1µg/Lに設定 し,また,オーストラリアなどでは,レクリエーション 水の規制値を10 µg/Lに設定している(4).日本では,水 道の要検討項目としてMC-LRの目標値を0.8 µg/L(5)とし ている. 香川では地理的に水不足が大きな問題であり,14,000 以上の溜池があり,現在でも農業用水の50%以上を溜池 に頼っている(6).しかし,これらの溜池ではアオコが毎 年のように発生しているが,マイクロシスチンの汚染実 態は不明確であった.そこで,マイクロシスチンに対す るモノクローナル抗体を作製し,これを用いたELISA法 を確立した(7)。本研究では,このELISA法で2014年7月 から11月に香川大学農学部近郊の溜池である男井間池と 平田池から水検体を収集し,MCsの汚染調査を行った. 方 法 試験試料 2014年7月から11月に毎週1回,ほぼ東西南北の男井 間池では5カ所(合計75検体),平田池では4カ所(合 計64検体)から日中の11時から14時までに水面付近から 水検体を収集した.検体は,40メッシュの金網でろ過し ゴミなどを除去した後,最終0.1%となるようにNaN3を 加え,-20℃で凍結保存した.分析前に凍結融解を2回 繰り返し,シアノバクテリアを溶菌させ菌体内MCsを放 出させた後,GA-200ガラス繊維ろ紙(ADVANTEC)で 破砕菌体を除去後,1/10容量の10倍濃度のダルベッコの リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加え中和後,ELISAで MCsを測定した. ELISA MC-LRウシ血清アルブミン結合体を0.01 M炭酸ナトリ ウム-炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH 9.6)で0.1 µg/mL に希釈し,50 µLずつ96ウェルマイクロプレート(Nunc) の各ウェルに加え,プレートミキサーで撹拌後,プレー トシールで密閉し,4℃で一晩静置しコーティングを 行 っ た. プ レ ー ト を0.05% Tween20を 含 むPBS(PBS/ Tween)で3回洗浄した後,各ウェルに0.1%卵白アル ブミン(Sigma-Aldrich)を含むPBS溶液を125 µLずつ加 え,室温で1時間又は4℃で一晩静置し,ブロッキング を行った.プレートをPBS/Tweenで3回洗浄した後,各 ウェルに50 µLずつ20~2,000 pg/mLに調製したMC-LR 標準品(和光純薬工業)溶液又は,PBSで希釈した検 体を加えた.これらのウェルにPBSで1/2000希釈した抗 MCsモノクローナル抗体MC. 5-3溶液を50 µLずつ加え, 撹拌後,室温で60分間競合反応を行った.プレートを PBS/Tweenで3回洗浄した後,PBS/Tweenで1/4,000希釈
し たGoat anti-mouse Ig’s horseradish peroxidase conjugates (BIOSOURCE)を50 µLずつ加え,室温で45分反応させ た.PBS/Tweenで6回洗浄後,100 µLの0.005%過酸化水 素と0.1 mg/mLの3,3’,5,5’-テトラメチルベンチジン(和 光純薬工業)を含む0.1 M酢酸緩衝液(pH 5.0)を加え, 室温で30分間酵素反応させた後,1M硫酸50 µLを加え 酵素反応を停止し,450 nmの吸光度を測定した.各検体 は2回以上測定し,その平均値を測定値とした. 結果および考察 ELISAの検量線と測定感度 代表的なMCsの検量線をFig. 2に示した.コンスタン トに有意に阻害がかかる80% Bindingを検出限界として 測定値を算出した.Fig. 2に示した検量線の場合の測定 感度は,70 pg/mL(=0.07 µg/L)であった.この値は, 世界保健機関の飲料水中のMCsの基準値1µg/L及び日 本の水道の要検討項目としてMC-LRの目標値(80 µg/L) の1/10以下であり,充分な感度であった.また,80か ら1,000 pg/mLまでが測定範囲であり,阻害が90%以上 (10% Binding以下)の検体は,希釈し再度測定した. また,使用したMC. 5-3抗MCsモノクローナル抗体は, MC-LR,MC-RRとMC-YRとほぼ同程度に反応する抗 体(7)であることから,測定値はこれらの合計量として 取り扱った. 男井間池と平田池のマイクロシスチン汚染 2014年7月から11月までに採取した男井間池75検体 と平田池64検体のMCs測定値をTable 1に示した.今回分 析したすべての検体が世界保健機関の飲料水中のMCsの 基準値1µg/L(=1ng/mL)以上のMCsに汚染されてい た。特徴的な傾向はあまり認められなかったが,各地点 Fig. 2 ELISAの代表的な検量線 0% 20% 40% 60% 80% 100% 120% 1 10 100 1,000 Bi nd in g MC-LR (pg/mL) 0
Fig.2
24田渕・川村:男井間池と平田池のマイクロシスチン汚染 のMCsの測定値の平均値は,平田池では各採取地点での 測定値が認められなかったのに対して,男井間池では, 1,000 ng/mL以上の検体がなかったことから,東-2と北 では他の地点より,低い傾向が認められた.また,採取 地点毎の平均値では,男井間池の方が平田池より,1 桁から2桁以上高い値であった.男井間池と平田池の MCs濃度の平均値,中央値と最高濃度を比較した結果 (Table 2),男井間池の方が,平均値で71倍,中央値で 3.7倍高い濃度のMCsに汚染されていた.最高値では387 倍も差があった.さらに,男井間池と平田池のMCs濃度 分布を比較した結果(Fig. 3),1以上10 ng/mL未満の検 体は,平田池では97%であったのに対して,男井間池で は13%であった.オーストラリアのレクリエーション 水の規制値を10 µg/L(=10 ng/mL)以上の検体は,平 田池ではわずか3%であったのに対して,男井間池では 87%であった.さらに,男井間池では100以上1,000 ng/ mL未満の検体が15%で,1,000 ng/mL以上の検体も7% あった。男井間池ではかなり高濃度のMCsに汚染されて いることを初めて明らかにした.藍藻類の増殖には,水 温,日光,富栄養化(溶存窒素とリン濃度)の3要素が 重要なので,おそらく,溶存窒素とリン濃度を測定し, 両者の違いを明らかにする必要があると考えられた. また,男井間池と平田池の月別のMCsの平均濃度と平 均気温の関連性について検討した.男井間池では,MCs 濃度は,7月から上昇し,藍藻類の最適温度(25℃付 近)である9月に最大値となり,気温が低下する10月と 11月には低下する傾向が認められた(Fig. 4).一方,平 田池では,男井間池と同様に7月から9月にかけ,MCs 濃度は上昇したが,気温が15℃以下に低下する11月に最 も高濃度のMCsを検出した.この理由に関しては,上流 の溜池から9月や10月に生産されたMCsが流れ込んだ可 能性や11月が溶存窒素とリン濃度が上昇したなどの可能 Fig. 3 男井間池と平田池のマイクロシスチンの濃度分布 Fig. 4 男井間池の月毎の平均マイクロシスチン濃度と 平均気温 Table 1 男井間池と平田池のマイクロシスチン濃度(ng/mL,2014) 採取日 7/9 7/12 7/17 7/19 7/23 7/30 8/2 8/6 8/26 9/2 9/9 9/18 9/30 10/30 11/4 11/11 11/18 11/25 各地点の 平均値 天候 雨 晴れ 晴れ 晴れ 晴れ 曇 雨 雨 曇 晴れ 晴れ 晴れ 曇 晴れ 晴れ 曇 晴れ 雨 池 地点 男井間 東-1 8.7 495 4,172 303 2.1 1.5 2.3 5,119 8.3 25.7 35.0 2.3 7.9 12.8 12.8 NT NT NT 681 東-2 NT* 10.3 333 29.1 3.1 1.2 1.6 18.2 3.9 8.5 9.3 25.6 7.4 13.7 13.7 NT NT NT 34.2 西 2,369 8.4 61.2 28.3 11.0 1.2 1.2 135 11.7 10.1 37.1 37.1 5,412 NT 256 NT NT NT 599 南 52.3 7.2 69.1 20.9 9.4 2.5 1.2 14.1 9.6 8.3 9.7 9.7 3,545 80.2 310 59.4 185 34.5 246 北 30.5 74.1 79.8 20.0 50.9 2.5 2.5 172.0 27.5 40.1 45.2 45.2 9.3 NT 12.6 NT NT NT 43.7 平田 東 3.6 2.5 1.5 3.5 1.8 2.0 2.0 3.7 7.4 6.5 3.8 3.8 6.2 NT 10.4 8.7 6.3 NT 4.6 西 3.5 4.3 2.5 2.5 2.8 1.7 1.7 3.6 6.4 5.2 3.2 3.2 4.9 NT 8.0 10.8 7.1 NT 4.5 南 1.6 3.7 2.0 2.2 2.3 1.1 1.1 3.2 8.5 4.7 4.4 4.4 4.3 NT 8.9 7.5 3.9 NT 4.0 北 3.5 4.0 2.1 1.9 2.9 1.3 1.3 4.0 6.9 4.6 5.1 5.1 5.5 NT 14.0 9.1 5.7 NT 4.8 *NT; not tested Table 2 男井間池と平田池のマイクロシスチン濃度の比較 マイクロシスチン濃度(ng/mL) 濃度比 男井間池 平田池 男井間池/平田池 平均値 321 4.5 71 中央値 14.1 3.8 3.7 最高値 5,412 14.0 387
Fig.3
13% 65% 15% 7% 97% 3% 0% 0% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 120% 1-10 ng/mL 10-100 ng/mL 100-1,000 ng/mL > 1,000 ng/mL 頻 度 マイクロシスチン濃度範囲 男井間池 平田池Fig.4
0 5 10 15 20 25 30 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 7月 8月 9月 10月 11月 平 均 気 温 (℃ ) マ イ ク ロ シ ス チ ン (ng /mL) MCs平均値 平均気温 25香川大学農学部学術報告 第69巻,2017 性が考えられているが,現時点では不明である.今後, 上流の溜池のMCsの測定や溶存窒素とリン濃度を測定す る必要があると考えられた. 摘 要 マイクロシスチン(MCs)は,アオコを構成する藍藻 が生産する強い肝臓毒性と発がんプロモーター活性を有 するシアノトキシンで,水を汚染し,家畜やヒトへの健 康被害を起こしている.香川には14,000以上の溜池があ り,アオコが毎年のように発生しているが,マイクロシ スチンの汚染実態は不明確であった.そこで,確立した ELISAで2014年7月から11月に香川大学農学部近郊の男 井間池と平木尾池から水検体を収集し,MCsの汚染調査 を行った. その結果,分析したすべての検体が世界保健機関の 飲料水中の基準値1ng/mL以上のMCsに汚染されてい た.男井間池の方が平田池より,平均値で71倍,中央値 で3.7倍,最高値で387倍高い濃度のMCsに汚染されてい た.オーストラリアのレクリエーション水の規制値を10 µg/L(=10 ng/mL)以上の検体は,平田池ではわずか 3%であったのに対して,男井間池では87%であった. 男井間池ではかなり高濃度のMCsに汚染されていること を初めて明らかにした. Fig. 5 平田池の月毎の平均マイクロシスチン濃度と平 均気温
Fig.5
0 5 10 15 20 25 30 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 7月 8月 9月 10月 11月 平 均 気 温 (℃ ) マ イ ク ロ シ ス チ ン (ng /mL) MCs平均値 平均気温 欠測 引 用 文 献⑴ Merel, S., Walker, D., Chicana, R., Snyder, S., Baurès, E., Thomas, O. : State of knowledge and concerns on cyano-bacterial blooms and cyanotoxins. Environment Interna-tional, 59, 303–327 (2013).
⑵ Van Apeldoorn, M. E., Van Egmond, H. P., Speijers, G. J. A., Bakker, G. J. I. : Toxins of cyanobacteria. Mol. Nutr. Food Res., 51, 7-60 (2007).
⑶ Azevedo, S. M., Carmichael, W. W., Jochimsen, E. M., Rinehart, K. L., Lau, S., Shaw, G. R., Eaglesham, G. K.: Human intoxication by microcystins during renal dialysis treatment in Caruaru-Brazil. Toxicology, 181-182, 441-446 (2002).
⑷ Chorus, I. : Current approaches to Cyanotoxin risk as-sessment, risk management and reg-ulations in different countries. Dessau-Roßlau, Germany, Federal Environ-ment Agency (2012). ⑸ 厚生労働省:要検討項目と目標値,(平成28年4月 1日施行) http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/ topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html (2016/10/31) ⑹ 香川県:かがわの農業農村整備 ため池について http://www.pref.kagawa.jp/tochikai/tameike/data/ (2016/10/31)
⑺ Tabuchi, Y., C. R. Takabayashi-Yamashita, T. A. Miguel, N. K. Ishikawa, L. F. Maciel, K-I. Harada, E.Y. Hirooka, O. Kawamura: Generation of Monoclonal Antibodies Producing Hybridomas for Detection of Microcystins in Environmental Water by ic-ELISA. Proceedings of the
International Conference on the Water Crisis in the Asia-Pacific Region, p59-60, 31 Mar 2015, Kagawa
Univer-sity, Takamastu, Kagawa Japan.