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大学・地域・企業の連携によるスポーツを通じた地域活性化 : 学園祭サッカー教室を活用した教育と地域貢献の融合について

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大学・地域・企業の連携によるスポーツを通じた地域活性化

― 学園祭サッカー教室を活用した教育と地域貢献の融合について ―

新潟経営大学助教

福田 拓哉

1.はじめに  1-1.大学による地域貢献の必要性  1-2.新潟経営大学の成り立ち(地域貢献の必然性)  1-3.大学の地域貢献活動の阻害要因と解決手段  1-4.変化するスポーツ環境と知識教育の限界  1-5. スポーツマネジメント教育における大学の社会的機能 2.学園祭サッカー教室の概要と実施までの調整方法  2-1.学内調整  2-2.周辺地域との調整  2-3.スポンサーとの調整  2-4.学生の指導 3.サッカー教室の成果  3-1.学外的成果  3-2.学内的成果 4.成功要因  4-1.ハード  4-2.情報、ノウハウ(教員)  4-3.学生、教学システム  4-4.地域とのつながり  4-5.まとめ 5.課 題  5-1.組織の位置づけ  5-2.学内の認知向上と啓発活動  5-3.外部団体との更なる連携強化  5-4.授業として実施する際のプログラム化  5-5.課外活動とのバランス 6.結 語 7.謝 辞

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− −68 − −69 はじめに 1-1.大学による地域貢献の必要性  最高学府としての大学には、教育と研究という2つ の使命がある。近年、少子化に伴う大学全入時代の到 来、国公立大学の独立行政法人化の影響を受け、地域 貢献が3つ目の使命として認識されてきており、全国 各地で活発化している。  また、大学が位置する各地方自治体においても、近 年の地方分権化の流れの影響を受けている。これによ り、行政単独による統治という視点から、様々な利害 関係者との連携による協治という視点でまちづくりを 行うというパラダイムシフトが起こっており、大学を 地域の資源という観点で捉えなおす動きが活発になっ ている1  財団法人日本高等教育評価機構による大学評価基準 の中にも、「社会連携」が明記されており、基準項目 として、「大学が持っている物的・人的資源を社会に 提供する努力がなされていること」、「教育研究上にお いて、企業や他大学との適切な関係が構築されている こと」、「大学と地域社会との協力関係が構築されてい ること」が定められている2  地域貢献には地域、企業、住民、行政との関係構築 が必要不可欠であり、それぞれのメリットを意識した ネットワークの構築が欠かせない。つまり、教員や学 生のためだけの大学ではなく、社会資本の一つとして 地域の活性化に貢献できる機能を持った、「開かれた 存在」としての運営が求められているのである。 1-2.新潟経営大学の成り立ち(地域貢献の必然性)  新潟経営大学は1994年に周辺18市町村からの多額の 寄付金により設立された公設民営の私立大学であり、 地域に貢献する人物育成を目的とした4年生の単科大 学である。2005年に競技スポーツマネジメント学科が 設立されたが、建学の精神は普遍のものであり、ス ポーツを通じて地域を活性化できる人材の育成と、ス ポーツを通じた地域貢献が本学科に課せられた使命で ある。 1-3.大学の地域貢献活動の阻害要因と解決手段  大学の地域貢献活動に関する研究に目を通していく と、その阻害要因として教員の多忙が挙げられている。 大学教員は、教育や研究を行わなければならず、運動 部の顧問をしている場合もあるため、時間をかけられ ない状態であることが多く、これが地域貢献活動の阻 害要因となっていることが指摘されている3  解決方法としては、地域貢献活動を研究・教育にプ ラスした活動とするのではなく、研究・教育に溶け込 ませるような活動として行っていくこと4が重要とな るだろう。つまり、教員が実際のフィールドに「当事者」 として関与しながら、その経験を通じて研究・教育と 実践とを両立していく、「アクションリサーチ5」によ る取り組みが望ましいと考えられる。これにより、教 員・学生・地域住民・企業などが同じフィールドに「当 事者」として参画でき、このフィールドを通じた現場 の経験に基づく教育・研究・地域貢献活動が可能にな ると考えられる。  「当事者」として大学が実際に地域貢献活動を実施 する動きは活発になってきているが、スポーツを通じ た大学の地域貢献として、早稲田大学、福島大学、横 浜国立大学などでは、学内にNPO法人を立上げ、学 内の運動部との協力により、地域の子ども達や中年・ 高齢者を対象としたスポーツ教室を定期的に開催して いる先進事例がある。  本学でも、2007年より幼児から小学生までを対象と したサッカー教室や、小学生のサッカー大会を企画・ 実施するなど、スポーツを通じた地域貢献活動が行わ れてきた。  こうしたスポーツを通じた大学の地域貢献は、時代 の要請に基づくものであり、このような活動を通じて 大学と地域とのつながりを構築し、その中で学生を教 育していくことが今後も重要であると考えられよう。 1-4.変化するスポーツ環境と知識教育の限界  現在の日本におけるスポーツを取り巻く環境は、大 きく変化している。  これまで青少年のスポーツ環境を支えてきた学校体 育において、少子化の影響や指導教員の高齢化や異動

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− −68 − −69 により、チームを組織したり、専門の指導教員を確保 したりすることが困難になってきている。このために、 中学・高校の部活動において、外部指導者を活用する 動きが進んでいる6  また、日本のアマチュアスポーツを支え、整備して きた企業においても、バブル経済の崩壊以降、企業が 持つスポーツチームの休廃部が増加し、直接的な利益 につながらないスポーツへの投資から撤退する傾向が 顕著である。アメリカ発の経済危機の影響から、こう した動きは今後さらに加速することが予想される。一 企業が丸抱えするスポーツ振興のあり方は、すでに崩 壊しかかっており、近年のスポーツ振興の担い手は、 地域密着による独立採算型クラブチームにシフトしつ つある7  日本のスポーツ行政を担う文部科学省は、1. スポー ツの振興を通じた子どもの体力の向上方策、2. 地域 におけるスポーツ環境の整備充実方策、3. 我が国の 国際競技力の総合的な向上方策という3本柱によるス ポーツ振興基本計画(2000年)を策定した8。この中 の地域におけるスポーツ環境の整備充実方策におい て、「成人の週1回以上のスポーツ実施率が50パーセ ントとなること」を政策目標に掲げ、その達成に向け 2010年までに各市区町村に最低一つの総合型地域ス ポーツクラブを設置することを到達目標としている9 今後は、総合型地域スポーツクラブの円滑な運営に向 けたマネジメント人材の需要拡大が求められている10  プロスポーツにおいても、1993年のJリーグ開幕以 降、地域に根ざした独立採算経営の重要性が認識され た。赤字を計上しても、広告宣伝費名目で親企業が負 担する方式からの脱却が進みつつある。また、Jリー グ開幕以降、プロ野球の独立リーグ(四国・九州アイ ランドリーグ、BCリーグ、関西独立リーグ)、バスケッ トボールのプロリーグ(bjリーグ)などが誕生し、日 本のプロスポーツチーム数は急激に増加した。  このように、現在の日本においてスポーツをとりま く環境は、様々な分野で急激に変化している。こうし た変化に対応するために、スポーツ組織をデザインし、 マネジメントできる人材の育成が大学に求められてい るといえる。  こうした変化に対応できる人材の育成のためには、 その基礎となる知識(理論)教育だけでは自ずと限界 が生じてくる。実務の世界では、知識として変化を認 識するのではなく、自らの感覚によって変化を感じ取 り、それに対応していくことのできる能力を鍛える必 要があるからである。つまり、急激に変化するスポー ツ界で、その発展に貢献できる人材を育成するために 図1-1 企業スポーツの休廃部数(1991年-2006年) 0 10 20 30 40 50 60 70 2006年 2005年 2004年 2003年 2002年 2001年 2000年 1999年 1998年 1997年 1996年 1995年 1994年 1993年 1992年 1991年 休廃部数 累計 0 50 100 150 200 250 300 350 (出所)㈱スポーツデザイン研究所

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− −70 − −71 は、座学で学んだ知識を血肉化するために実践を行い、 その実践を通じて経験したこと、感じたことをもとに、 再度知識を深めていくという循環型の教育環境を教学 システムの中に組み込むことが必要不可欠である。 1-5. スポーツマネジメント教育における大学の社会 的機能  大学がこのような実践の場を設けるためには、地域 や企業、行政との連携が必要である。そしてそのよう な連携を行うためには、互いのメリットを創造するこ とが重要であり、連携内の関係性をマネジメントする 必要が出てくる。真理の探究の名において、大学だけ がメリットを享受するような連携であってはならな い。  つまり、大学が地域や企業と連携して、実践的教育 の環境を創造・維持するためには、連携を保つため に、その関係性をマネジメントしていくことが重要で あり、そのために大学に与えられた本来的な機能であ るアカデミック機能だけではなく、実用的機能、実利 的機能といった側面が、今後重要度を増していくと考 えられる(表1-1、図1-2を参照)。  このように大学が社会との接点を持つ事で、マネジ メントの学問的側面だけでなく、実務的・臨床的側面 を持つことが可能となる。その現場を地域貢献活動の 場と設定し、これと学生教育とを融合されることによ り、地域貢献活動と研究・教育活動が両立できるの である。P.F.ドラッカーが、マネジメントとは、「科 学であるとともに技能である11」というように、マネ 表1-1 大学の社会的機能 アカデミック機能 実社会からの要請に直接的に対応していない、真理の追究自体目的とする、い わゆる学究的な研究教育機能 実用的機能 実社会全体の要請に基づく研究教育活動(例えば、医学分野での実学的研究や 教育分野での教員養成など) 実利的機能 社会全体ではなく、個人や特定集団の要請(要求)に基づく、又は日々の日常 生活に直接すぐに役立つような研究教育機能(例えば、個別的需要に応じた職 業教育、企業との共同研究や公開講座など) (出所)山本長史ら(1989)「地域と大学の連携-知性豊かな社会へのキック・オフ」神奈川自治総合研究センター、p.11 (出所)山本長史ら(1989)「地域と大学の連携-知性豊かな社会へのキック・オフ」神奈川自治総合研究センター、p.12 図1-2 大学の社会的機能 社会全体 実   用   的 実利的 ア   カ   デ   ミ   ッ   ク 個人・特定集団 日常生活 要請の属性・性格 即応する 即応しない 要請への即応度

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− −70 − −71 ジャーの養成には知識だけではなく、実践の場を設け、 その技能を磨く環境を大学内のシステムとして組み入 れることが重要なのである。これにより、教員はもち ろん、学生が実際のマネジメントに触れる機会を確保 できるのである。  今回の論文では、大学におけるスポーツを通じた地 域活性化のために必要な研究・教育と実践との関係及 びスポーツマネジャー養成のための実践教育につい て、平成20年10月26日に開催された本学学園祭におけ る小中学生対象のサッカー教室を事例に用いながら論 じていく。 2.学園祭サッカー教室の概要と実施までの調整方法  本論分で取り扱うサッカー教室の概要は以下の通り である。  日 時:2008年10月26日(日)      午前10時∼午後1時  場 所:新潟経営大学グラウンド      (人工芝、サッカーコート1面)  対 象:小学5年生∼中学3年生 100名  参加料:100円(保険代として)  主 催:新潟経営大学、スポーツまちづくりの会  協 賛:P社、O社  講 師: S氏(元Jリーガー)、本学サッカー部コー チ、部員  保 険: スポーツ傷害保険に加入し、参加者、スタッ フ全員に対し保険をかけた。  告 知: 地元新聞社へのパブリシティ、本学および 本学サッカー部ウェブサイト、地元商店へ のポスター設置、地元サッカー少年団、中 学校サッカー部への呼びかけ  応 募:電子メールによる応募 2-1.学内調整  学内の複数の教員が各担当を持ち実施された今回の イベントでは、各教員間の連絡はもちろん、学園祭実 行委員会との調整も必要であった。  特に重要であった部分は、本学サッカー部の公式戦 との時間調整とアシスタントコーチの手配であり、こ れはサッカー部監督である杉山准教授が担当した。  また、大学としてこのようなイベントを実施するこ とを学科会議を通じて教授会に報告し、了承を得るこ とで学内調整を図った。 2-2.周辺地域との調整  教員有志と周辺地域有志から組織される任意団体 「スポーツまちづくりの会」を通じて、学内関係者と 学外関係者との調整を図った。また、このようなイベ ントを実施するには、イベントの告知と参加者の募集 が重要である。これにはプレスリリースを通じて外部 メディアによるパブリシティ告知を実施すると同時 に、周辺地域のサッカー少年団や中学校サッカー部 へ、スポーツまちづくりの会の学外幹事であり、加茂 市サッカー協会事務局長を務めるM氏を通じて周知徹 底と参加募集を行った。更に、イベント企画・運営を 実施した学生達がポスターを作製し、地域の商店にお 願いをして掲出をしていただいた。 2-3.スポンサーとの調整  サッカー教室で講師を務めるS氏は、本学サッカー 部のユニホームサプライヤーであるP社から派遣して いただいた。また、参加者への参加特典として、O社 よりスポーツドリンクを提供いただいた。この2社は、 本学サッカー部との関係が深いため、サッカー部にそ の調整を依頼した。P社には本学との関係性を強固に することと、サッカーを通じたCSRを実施すること、 地方都市における自社ブランドの認知を高めるメリッ トがある。 2-4.学生の指導  サッカー教室で講師を務めるS氏のアシスタントと して、サッカー指導者志望の本学学生10名ほどが参加 した。事前の指導をサッカー部総監督である堀井教授 と、監督である杉山准教授の演習を通じて実施し、当 日はサッカー部のコーチが細かな指示を与えた。  また、サッカー教室のイベント企画・運営は、「ス ポーツイベント論」を習了した3年次学生の中から希

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− −72 − −73 望者を募り、9名が「スポーツイベント実践Ⅰ」の実 習授業として参加した。 この「スポーツイベント実践 Ⅰ」の学生には、以下の担当を与え、担当教員である 筆者指導のもと、実務実践に当たらせた。   i :台本作成、演出・・・・・・・・・3名  ii :音響、撮影、ビデオ作成・・・・・1名  iii :受付・誘導・・・・・・・・・・・4名  iv :司会進行・・・・・・・・・・・・1名  以上のように、学内調整を本学教員が実施し、学外 調整を本学教員とスポーツまちづくりの会に所属する 地域の有志が実施し、イベントの企画・運営を本学教 員の指導の下、学生達が実習事業の一環として担当す るという役割分担であった。 3.サッカー教室の成果 3-1.学外的成果  元Jリーガーという一流指導者から子ども達が直接 指導を受ける機会を提供でき、そのモチベーションを 高めることができた。同時に地域の新聞にも取り扱わ れ、明るい話題を地域に提供することができた。  また、特別協賛としてS氏を派遣したP社も、大学 機関における初のサッカー教室の開催となり、新たな 可能性を開拓することができた。 3-2.学内的成果  スポーツを通じた大学の地域活性化に対する一つの モデルを提示することができた。また、教員個々が持 つノウハウや知識を集結させ、実践を通じて学生に伝 えることができた。このイベントを通じて、学生は広 告宣伝、イベント企画・実践、スポンサー・関係者へ のアフターフォローを実体験できた。  以下は学生の感想の抜粋である(原文のまま一部を 抜粋)。〔 〕内は筆者加筆。  「今回学べたことで特に自分のためになったことは イベントを行うときに協賛してくれた会社をいかにし て選手や観客〔の印象〕に残すかということと脚本作 りだ。まずイベントに協賛してくれた会社を〔参加者 の〕印象に残すということに関しては脚本の中に〔社 名やロゴを〕入れるだけでなく、写真撮影会やサイン 会のときにもしっかり旗などを出すこと〔が重要だ。 このように取り組むこと〕で協賛してくれた会社を参 加してくれた選手や保護者の人にいかに印象づける 〔かという〕ことの大切さを学べた。特に今回は協賛 側にほとんど恩返しができない状況のなかでも工夫し ながらできることを考えるという点では非常に勉強に なった。」(台本・演出担当、男子学生A)  「私はこのイベントをやると聞いた時に、自分の中 で一つの目標が出来ていました。それは“自分の殻を 破る”ということでした。私は、人前に出てマイク で自分の意見を言うことが苦手でした。(中略)だか ら、そんな自分を少しでも変えたくて、成長させたく て、司会に挑戦するという一大決心をしました。(中 略)まずは司会業という苦手要素と向き合わなくては ならないので、多くの壁にぶち当たりました。まずは 声の出し方です。とても奥が深く、大きさや早さな ど、変化させることで他人に与える感情も違ってくる し、そして台詞を噛んでしまいやすかったので、時間 のある限り本番を想定して発声練習をしました。ま た、難題だったのが言葉選びです。失礼のない言葉選 びを瞬時にするのが難しく、ついつい普段使っている 言葉が口から出てしまい、本番がとても不安でした。 そんなこんなで、本番1週間前からはテレビ番組や YOUTUBEから、PK対決やサッカーイベントを見つ けて、見よう見まねで司会者の声のテンションを真似 してみたり、場を盛り上げる言葉を自分のものにしよ うと試行錯誤を続けました。) (司会担当、女子学生)  以上のように、イベント企画・運営に携わった学生 からは、実際のイベントを通して、座学で学んだ知識 が血肉化される様子と、成功に向けて不安と戦いなが ら、それを乗り越えるために自発的に取り組んだ様子 が伺える。このような「経験による学習」によって、 自らの知識やスキルを高められたことは、大きな教育 効果といえるであろう。

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− −72 − −73 写真1:会場全体の様子    全体を4グループに分けたうちの1つ。    4-4、5-5等の少人数での実践形式のトレーニング 写真2:PK対決の様子 講師のS氏(Jリーグでの連続無失点記録を持つ元GK)と参加 者とのPK対決。会場を盛り上げるため、司会の学生がインタ ビューを実施。 写真3:閉会式の様子 サッカー部総監督堀井教授、講師を務めたS氏、スポーツまちづ くりの会副会長などが子ども達に向けてのメッセージを語った。 写真4:サイン会の様子 閉会式後、講師を務めたS氏のサイン会を実施。参加者の満足 度を高めるとともに、協賛のP社、O社のスポンサーメリット に配慮した会場レイアウトになっている。 (出所)本学入試広報課、本学サッカー部(写真1∼4)

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− −74 − −75 4.成功要因  上述のように、今回は大学・地域・企業との連携に より、サッカー教室を成功に導くことができた。また、 地域や企業と共に、スポーツを通じて研究・教育と実 践を実施し、それを更に次のステップにつなげていく という循環型教育の一つのあり方を提示することもで きた。  今回の成功要因を以下の4つの観点から検証してい きたい。 4-1.ハード  本学には国際サッカー連盟(FIFA)公認の人工芝 グラウンドがあり、サッカー教室の開催に欠かせない ピッチは確保できている。また、駐車場、トイレ、観 覧席、医務室、シャワー室等も完備されており、周辺 のスポーツ施設と比較しても高いスペックを誇ってい る。 4-2.情報、ノウハウ(教員)  Jリーグにて普及活動のフィールドマネジメント、 ビジネスマネジメントの経験がある教員12がそれぞれ おり、サッカー教室開催のノウハウを熟知している。 それぞれが指導者志望の学生、マネジャー志望の学生 を指導することで、学生を教育すると同時にサッカー 教室のスタッフとして活用することが可能である。ま た、地域のサッカー普及に長年携わってきた堀井教授 と、本学の設立時から教鞭を取り、地域との交流があ る関教授が、地域との窓口役になり、直接的・間接的 に地域のニーズを聞き出す仕組みが構築されている。 また、競技スポーツマネジメント学科全体で、スポー ツを通じた地域活性化に対する高い意欲を持っている ことも大きく影響をしている。 4-3.学生、教学システム  サッカーの指導者を目指す学生、マネジャーを志望 する学生が多数在籍し、本サッカー教室開催までにそ れぞれ座学による知識習得を習了している。また、実 践実習の単位化も認められており、学生達の積極的な 参加を促進することにもつながっている。 4-4.地域とのつながり  新潟経営大学では、1994年に創部され、2002年より 強化指定部となったサッカー部の活躍(2006年から3 年連続総理大臣杯出場、2007年インカレ出場、2008年 天皇杯本戦出場)を通じ、地域との交流を図ってきた。 2007年からは幼児・小学生を対象としたサッカー教室 がスタートし、学内のみならず、地域のサッカー振興 に尽力してきた。  こうした動きを更に発展させるべく、2008年度より、 学内教員有志と周辺地域の有志からなる「スポーツま ちづくりの会」が発足し、大学と地域が一体となった スポーツによる地域活性化に取り組んでいる。 4-5.まとめ  大学の地域貢献には、外部機関との提携や連携が重 要である。本学には、スポーツ指導、マネジメントに 関する専門家が多数在籍し、大学が持つハードや部活 動の成績とあいまって地域の理解・協力を獲得してき た経緯がある。これまで教員個々が行ってきた地域貢 献や地域との連絡を、「スポーツまちづくりの会」を 発足させ、大学教員が組織体として地域の声を聞き、 地域と共にスポーツを通じた活性化に取り組んでいく 土台を構築したことにより、様々な連携が円滑に行わ れるようになったことが今回の成功要因と考えられ る。 5.課 題  新潟経営大学におけるスポーツを通じた地域貢献活 動は、その第一歩を踏み出したばかりである。今後、 こうした活動を発展させるためには、多くの課題をク リアしていかなければならない。 5-1.組織の位置づけ  スポーツまちづくりの会は、本学教員有志と地域の 有志からなる任意団体である。これまで述べてきたよ

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− −74 − −75 うに、この組織がスポーツを通じた地域貢献を行うに あたり、大きなメリットをもたらす。しかし、この組 織を学内的にどの部署に位置づけるか、ということは 決定していない。従来のまま、学外の任意団体として 位置づける方法もあるが、地域の声やニーズを取り入 れるために学内組織として位置づける方法もある。今 後の大学運営においても、一般的に外部の意見を取り 入れる組織づくりが求められていることから、どのよ うな位置にこの組織を組み込むか、検討を重ねる必要 があるだろう。 5-2.学内の認知向上と啓発活動  これまで述べてきた大学・地域・企業が一体となっ たスポーツを通じた地域活性化に対する取り組みにつ いて、学内の認知を更に高めていく必要がある。また、 スポーツを通じた大学の地域活性化の取り組みに対す る意識啓発を行っていく必要がある。  そのためにはこうした活動に対する学内からの幅広 い参加を促す仕組みの構築と、継続的な活動が欠かせ ない。 5-3.外部団体との更なる連携強化  大学の地域貢献活動は、大学からの一方的なアク ションではなく、周辺の地域、企業、行政などのニー ズに即したものでなくてはならない。そうしたニーズ をくみとるためには、外部団体との連携・連絡体制を 強化しなければならない。  今回のサッカー教室当日は、周辺の多数の小学校が 文化祭を実施しており、残念ながら参加を見送った小 学生も多数存在した。  学園祭のイベントとして実施したサッカー教室であ るため、日にちをずらすといった対応は取れなかった ものの、地域のこうした動きを把握するために、日ご ろからの連絡体制が重要になることを経験できた。  また、このような連携をより広範なものにするため には、マスメディアの協力も欠かせない。どのような 考え方・理念でこうした活動が実施されているか広く 地域に伝達できなければ、連携を広めるにあたり、か なりの労力がかかってしまう。今後はスポーツによる 地域活性への取り組みを継続しつつ、マスメディアに よる伝達の機会を増やしていくことが課題である。 5-4.授業として実施する際のプログラム化  授業として実施する際に、シラバスの作成が必要と なる。一年間の計画を立てる中で、どの時期にどのよ うに授業としてスポーツによる地域活性化イベントを 組み込むか、ということは非常に重要な問題となる。  また、実践的教育は、事前に基本知識の積み重ねが あってその効果を発揮するものであると考えられるた め、基礎知識を習得する授業との整合性も図らなけれ ばならない。  また、教員は外部機関との調整や、学生への指導・ 教育を行うため、スポーツイベントを実施する回数に 限度が出てくる。これらのバランスを鑑みてプログラ ム化を図る必要がある。 5-5.課外活動とのバランス  大学には部活動やサークルといった課外活動もあ り、その多くは公式戦等の年間スケジュールが立てら れている。教員は部活動の顧問や監督をしていること が多く、試合や練習との調整を図らなければならい。  現在、スポーツまちづくりの会には、強化指定部 の指導教員が幹事として名を連ねているため、スケ ジュール調整が円滑に行われている。今後もこうした 部活動の現場担当者をスタッフに組み入れることによ り、企画段階から調整が円滑に進むような体制を維持・ 発展させることが重要と考えられる。 6.まとめ  これまで述べてきたように、大学の地域貢献活動に は多くの障壁が立ちふさがっている。内藤(2007)が 指摘するように、大学は授業や運動部活動、公式戦の 開催等により、一部の施設や機能を地域住民へ開放す ることはあり得ても、日常的な地域住民のスポーツ活 動の拠点となり得ることは考えにくく、従って大学は 地域スポーツの核としてではなく、地域の構成体の一 つとして、地域との連携の中で資源を活用していくと

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− −76 − −77 いう考え方で活動をするべきである13  また、地域や行政との連携だけでは解決できない部 分もあり、その点では企業との連携も重要となってく る。つまり、地域貢献活動を通じて、様々な組織が連 携することが重要となるが、連携するそれぞれの組織、 団体、個人のメリットを明確にしながらその関係性を 構築し、維持していくことが大切である。  以上、スポーツによる大学の地域貢献活動の実施に ついて、これまで述べてきたことを整理すると以下の ようになる。 ① 地域貢献を行う際には、地域が価値を認めている大 学の持つ資産を活用することで連携を円滑に進めら れる。本学の場合は、全国大会への継続的な出場を 続けているサッカー部を取り巻く資産を活用し、こ れを中核として大学、地域、企業が連携を取り合っ た結果、本論で取り上げたサッカー教室を開催する に至った。 ② 大学がスポーツを通じた地域貢献活動を行うために は、学内調整、学外調整、部活動との調整、カリキュ ラムとの整合性を図る必要性があり、そのために学 内の教員はもちろん、学外との連携が重要である。    つまり地域貢献活動を中核として、これをとりま く利害関係者が、それぞれにメリットを感じるよう なものでなくてはならない。こうした観点では、関 係性マーケティングによるアプローチが必要となっ てくる。また、こうした活動をより広範なものにす るためには、学内外に渡る広報活動が重要であり、 そのために特にマスメディアとの連携が大切にな る。 ③ 大学が地域貢献を実施する際に、教員の負担増加が その阻害要因となるが、地域貢献活動を研究・教育 と融合させることで、その負担を軽減することがで きる。その際、大学教員も地域貢献活動に「当事者」 として関わりながら、研究・教育との橋渡しを行っ ていく「アクションリサーチ」の手法が重要となる。 ④ 学生教育において、スポーツを通じた地域貢献活動 は、実践を通じてマーケティング、広報、企画、運 営、サービスマネジメントといった分野の多くのス キルを体得する機会になる。しかし、座学による基 礎知識の習得が前提になければならない。  このように、スポーツを通じた大学の地域貢献活動 には、学内外の広い連携が重要であり、それぞれのメ リットを調整しながら、各個人や各組織にかかるリス クと負担の軽減を図りながら実施していくことが重要 である。また、大学が当事者として地域や企業と関わっ ている必要性があり、この場合それぞれの立場やニー ズの調整が必要である。まずはアクションを起こしな がら、場面に応じて方法を変更していく柔軟性も必要 となるであろう。  今後の課題として、地域のニーズに耳を傾ける組織 を、どのように大学運営のシステムに組み入れるかと いうことを検討する必要がある。 7.謝 辞  今回の研究は学内共同研究として取り組んだ、『ス ポーツを通じた地域活性化の検討 ― 大学・住民・行政・ 企業とのコラボレーションについて ―』における社 会実験として実施したサッカー教室について、現在日 本の大学が置かれている地域貢献に関する状況を論じ ながらまとめたものである。  このサッカー教室を開催するにあたり、地域との連 絡役・学内調整役にあたっていただいた堀井教授、関 教授、サッカー教室開催に関する企業との調整、アシ スタントコーチの指導に当たっていただいた杉山准教 授、スポーツまちづくりの会の運営に関し協力をいた だいた横山(泰)助教、スポーツまちづくりの会を通 じて地域との調整を行っていただいたI氏、M氏、ご 協賛をいただいたP社、O社、アシスタントコーチ・ 企画運営スタッフとしてサッカー教室に参加した学生 達に感謝申し上げる。

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− −76 − −77         1 こうした時代背景の変化による大学、地方自治体のパラダ イムシフトについては、杉岡秀紀(2007)「大学と地域との地 学連携によるまちづくりの一考察」、同志社大学政策科学研究 9(1)、pp.77-96を参照されたい。 2 ㈶日本高等教育評価機構(2005)「大学評価基準」 3 内藤正和(2006)「運動・スポーツを通した大学の地域貢献 に関する研究 ― 大学の資源に着目して ―」愛知学院大学心身 科学部紀要第2号増刊号、pp.69-76. 4 前掲書 5 内山(2007)によると、『アクションリサーチとは、現場の 経験から学ぶ研究方法論である。日本語では「行為研究」と訳 されているが、これは行為を対象として、外から観察して科学 的実証的に研究する「行為の研究」ではなく、研究者が現場に 行為的に関わって、自己と世界のあいだから触発されてくるア クチュアルな「思い」を研究する「行為に関わる研究」である。 研究者は状況に行為的に関わることにより「行為からの学習 (learning by doing)」を獲得するが、これはある意味で日本人 が昔からやってきた「経験から学ぶ」ということに近い考え方 である』と定義している。詳細は、内山研一(2007)「現場の 学としてのアクションリサーチ」p.1、白桃書房を参照されたい。 6 詳細は、山口泰雄ら(2006)「第4章スポーツの人的資源」『ス ポーツ白書』pp.85-87、SSF笹川スポーツ財団を参照されたい。 7 企業がスポーツを支援する形が終わった訳では決してない。 スポーツの発展を考える上で、今後も企業は重要な存在である。 8 文部科学省(2000)「スポーツ振興基本計画」 9 日本体育協会によると、2008年7月1日時点で、全国1,046 の市区町村に2,768の総合型地域スポーツクラブが設置されて いる(申請中を含む)。 10 設立された総合型地域スポーツクラブは、その大多数が人 材、予算、施設が潤沢ではなく、その運営に大きな課題を抱え ている。この点において、経営資源を獲得し、それを活用する ことができるクラブマネジャーが早急に必要といわれている。 11 P.F.ドラッカー[上田惇生編訳](2000)「チェンジリーダー の条件」pp.5-6、ダイヤモンド社 12 本学競技スポーツ学科の杉山准教授は、アルビレックス新 潟を1998年に引退後、同クラブのスタッフとしてサッカース クールの立ち上げに関与し、指導者としても活躍した。また、 筆者は2004年から2007年まで、Jリーグ・京都パープルサンガ (現・京都サンガF.C.)のスタッフとして、普及部にて、サッカー 教室のマーケティングやイベント企画・運営に携わった。 13 内藤正和(2006)「運動・スポーツを通した大学の地域貢献 に関する研究 ― 大学の資源に着目して ―」愛知学院大学心身 科学部紀要第2号増刊号、pp.69-76.

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