Exeter 訪問記 2016.4
岐阜大学整形外科 瀧上伊織
今回 2016 年 4 月に CHEF (Cemented Hip Education Foundation)から Traveling Sponsorship program (TSP) と し て イ ギ リ ス 、 エ ク セ タ ー の Princess Elizabeth Orthopaedic Centre (PEOC)を訪問させていただく機会をいただきましたので報告させて いただきます。 今回 TSP への応募は当教室の秋山治彦教授から CHEF に海外研修のプログラムがあるので 応募してみては?との提案をいただいたことがきっかけです。卒後 3 年目にセメント THA と KT プレートで有名な田中千晶先生のいらっしゃる京都市立病院で研修をしたのが私と セメント THA の出会いでした。その後も人工骨頭症例を中心にセメント固定を日常診療で 行いつつ、Exeter セミナーにも複数回参加していました。さらに京都大学より岐阜大学教 授に就任された秋山教授の指導の下、Exeter ステムを使用した大腿骨近位骨欠損モデルの 力学解析の論文が Journal of Orthopaedic Science に掲載されたばかりで、ちょうど応募 資格を満たしておりましたので、応募してみたところ無事参加の機会を与えていただくこ ととなりました。 先方の都合で訪問日程は 4 月 20 日水曜日から 22 日金曜日に短縮となりました。 もともとよく知らない人と話をすることが苦手であることから出発が近づくにつれて気が 重くなっていましたが、親友に“英語で話す時はいつもより人見知りじゃなく見えるよ”と言 われたのを positive に捉えて準備をすすめました。 18 日に出国し、ロンドン・ヒースロー空港に夕方に到着。ディズニーランドのアトラクシ ョン並みの行列の入国審査に多少ぐったりしながらやっとのことでヒースローエクスプレ スに乗車し 15 分ほどでパディントン駅に到着しました。これまでに参加されていた先生方 の中にはロンドンで 1 泊していた方もいらっしゃいましたが、その日のうちにエクセター まで行く計画を立てており、日本から電車もインターネット予約していきました。
かなり余裕を持った電車の予約をしていたつもりが入国審査のせいで意外とギリギリとな り、内心あせりましたが発券も smooth にでき、予定通り Great Western Railway(図 1) に乗車し、そこから 2 時間半の電車移動の末 Exeter St Davids 駅に到着。 その時点で現地時間 21 時 30 分、家を出発してからほぼ 24 時間が立とうとしていました。 当初ホテルまで徒歩 20 分程の計算でしたので、歩いてやろうと思っていましたが、道は暗 く、危険と判断しタクシーにて疲労困憊状態でホテルに到着しました。日本は 4 月になり 暖かい日が多くなってきていましたが、ロンドン、エクセターはともに肌寒く感じ、日本 でいう 3 月初旬の印象でした。 20 日は 15 時から術前・術後症例検討会に参加しました(図 2)。週に約 20 件ある primary および revision の discussion が行われており、中にはかなり severe な症例が含まれてい ました。Native の English discussion は理解できないところが多く、自分の英語力が悲し くなりました。
21 日は Dr. Timperley の THA3 件と Dr. Hubble の THA3 件が予定されていました(図 3)。 手術室の様子、術式等についてはこれまでの TSP 報告で予習していた通りでした。午前は Dr. Hubble の THA2 件を見学(図 4)、1 件目は通常のセメント THA で、カップは 48mm、 セメントはトブラマイシン入りの Simplex を使用、44mm オフセットで股関節は安定して いましたが、オフセットのかなり大きい患者であったため 50mm オフセットステムを試す ことに、しかし髄腔が狭かったためショートステムの使用を試み、ラスプをおこないまし たが今度は前後径が大きくなりすぎたため入らず断念し 44mm オフセットのスタンダード ステムをセメント固定しました。骨頭径は 32mm でした。 2 件目は精神疾患を有する患者でしたので Dual mobility を使用する症例でした。この症例 も髄腔が狭く、予定の 37.5 オフセットステムが入らなかったため迷いなく Dr. Hubble は ショートステムを選択し 37.5mm オフセットのショートステムをセメント固定していまし た。Dr. Hubble はこのような症例ではショートステムが有用だと強調されていました。 図 2:PEOC
午後は 3 件目として Dr. Timperley の THA を見学しました。Dr. Hubble は梨状筋を温存 した後方アプローチにて手術を行っていましたが、Dr. Timperley は症例に応じて梨状筋と 内閉鎖筋を温存した後方アプローチを行っているとのことです。寛骨臼展開時に視野を確 保するために屈曲、軽度外転位とするのですが、助手が一人しかいないので、肩関節鏡用 の上肢保持装置(トリマノ)を改造して下腿を乗せられるようにして肢位を保持していま した。これにより寛骨臼の視野は十分確保され、また大腿骨側の展開にも問題はありませ んでした。体格の大きな患者でセメントカップは 54mm、ステムは 44mm オフセット No.2、 骨頭は 36mm を使用し、セメントは Palacos R+G(ゲンタマイシン入り)を使用していまし た。セメントの使い分けは術者の好みとのことでした。手術室の室温は 20℃で一定で、手 術をしていないと肌寒く感じました。 Dr 陣は途中に休憩室で食事をしていたようでしたが、 私は結局昼食抜きで充実した手術見学を終えました。 図 3:Dr. Timperley(右)、 Dr. Hubble(左)と 図 4:2D テンプレート
22 日は朝から雨でした。傘を持ち歩くのは嫌いですが、折りたたみ傘を持って行っており 助かりました。しかし街中では傘をささずに濡れながら歩いている人や泥除けのない自転 車に気にせず乗っている人が沢山おり文化の違いを感じました。 手術は Dr. Wilson の再置換術 2 件を見学させていただきました。1 件目は表面置換 metal-on-metal の failure 症例で、ロッド部分が折損していました。難なく破損した大腿 骨インプラントは抜去でき、次にゆるみのないセメントレスカップをエクスプラントを用 いて、それほど苦労することなく抜去していました。当初 IBG も計画されていましたが、 前方に軽度の骨欠損があるのみで、その他は良好な海綿骨面が露出していましたので IBG は行わないこととなり、その後は昨日までと同様の手技でセメント THA(セメントは Simplex 使用)が行われました。 2 件目はチャンレーTHA の遅発性感染症例の再置換術で、RCT に参加している関係でこの 症例は一期的再置換となったとのことでした。ゆるみのないチャンレーステムは比較的容 易に抜去され、osteolysis がありゆるみが予想されたセメントカップもゆるみがなかったた めリーマーでポリエチレンカップを削り、セメントをノミ、セボトームで除去しました。 大腿骨側のセメントも前回手術のセメンティングが非常に良好で、近位からすべてのセメ ントの除去は不可能と判断され、ETO を行い、遠位、近位のセメントを徹底的に除去、そ の後 ETO 骨片をエチボンド糸で仮固定し皮下を連続縫合し、一旦シーツ、汚染された器械 を交換するために手をおろし、見学の私を含めてスタッフ全員術衣を着替えて再度消毒し 手術再開となりました。その後は寛骨臼側、大腿骨側ともに流れるように順調な IBG が行 われました。寛骨臼側は containment が良好であったためメッシュやトラベキュラーメタ ルオーギュメントは使用されず少し残念でした。良好なセメンティングテクニックで固定 されたセメントを全て除去することは、ゆるみのないセメントレスステムを抜去すること と同様に大変である、ということを痛感した症例でした。 23 日は早朝の Exeter St Davids 駅からパディントン駅行の電車にのり、ヒースロー空港 へ乗継いで日本への帰路につきました。手術見学内容を中心に書き連ねましたが、空き時 間にはエクセターの街並みや大聖堂(図 5)などを見て回り、自転車レースでよくみる交差 点のラウンドアバウト(Roundabout)を実際見て小さな感動をしたり、と異文化に触れる こともできました。早朝にランニングもして病院までの道や帰りのために駅までの道を確 認しておいたのは見知らぬ土地で一人で過ごすには重要でした(帰りは駅までスーツケー スを引いて 30 分弱歩きました)。
今回 primary から当初より見たいと思っていた revision までさまざまな手術の見学をする ことができ、本場 Exeter の手術を肌で感じることができました。これまでの知識の整理に なりましたし、これからの臨床に必ず役に立つものと確信しています。本レポートが今後 訪問される先生方の参考になれば幸いです。今回このような機会を与えていただきました CHEF 役員の先生方、快く送り出してくれた岐阜大学整形外科の皆様にこの場を借りて深く 感謝いたします。ありがとうございました。 図 5:エクセター大聖堂