Economic Trends
経済関連レポートエコカー補助金・エコポイント終了の反動減
発表日:2010年11月30日(火)~自動車・テレビで需要の先食い度合いは異なる~
第一生命経済研究所 経済調査部 担当 熊野英生(℡:03-5221-5223) 9 月にエコカー補助金が終了し、家電エコポイントも漸次見直しが行われ、2011 年 3 月をもって終わる予定で ある。こうした助成は、潜在需要そのものを高めるのではなく、需要を引き出す効果をものである。そのため、 乗用車、テレビ、冷蔵庫、エアコンはそれぞれに制度終了後に反動減が予想される。特に、テレビについては地 デジ移行後、更新需要が一巡した効果も加わって、反動減が大きく広がるとみられる。 エコカー補助金の反動減 9 月7日にエコカー補助金が終了※し、その 反動減が尾を引くのではないかと心配されてい る。2010 年 10 月の新車販売台数(乗用車+小 型車+軽自動車)は、前年比▲25.9%と大幅に 落ち込んだ(同 9 月▲3.2%)。今後、しばら く自動車販売は低調な推移を余儀なくされると みられる。 ※自動車減税自体は、自動車取得税(2012 年 3 月末 まで)、自動車重量税(2012 年 4 月末まで)が存 続する予定。 過去の事例を振り返ると、過去、自動車販売 がブーム後の反動減に苦しんだ経験は2度ほど ある(図表 1)。まず、(1)消費税導入と同時に物品税が廃止された時期のバブル期の経験。物品税廃止から 1 年が経過した 1990 年 3 月をピークに、減税効果の盛り上がりが剥落するかたちで 1993 年 7 月まで伸び率の悪化 が進み(29 か月間)、さらに 1994 年 6 月に前年比がプラス転化するまで 52 か月間もかかった。この時期は、バ ブル期のストック調整圧力が高かったことも加わって反動減が大きくなったと考えられている。次に、(2)消 費税率が 3%から 5%に引き上げられる直前 1997 年 4 月をピークにして、1998 年 2 月まで伸び率の悪化が進んだ (11 か月間)。このときも 1999 年 1 月に前年比が明らかにプラスに転じるまで 22 か月間を要している。 -30 -20 -10 -10 20 30 40 50 -40 -35 -30 -25 -20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 バブル期(1990年) 消費税引き上げ後(1997年) 今次局面 期間(月数) 前年比%(図表1)乗用車販売の伸び率・局面比較
52か月 月別には 22か月で プラス 3か月移動平均 3局面のピーク時点 を期間ゼロで合わせた 出所:日本自動車工業会「新車登録台数・軽自動車販売台数」 乗用車は、 小型車・軽自動車を含む。 今回も、エコカー補助金によって、最大 25 万円(廃車する場合、廃車しないときは最大 10 万円)が受けられ る恩恵が一時的な需要を引っ張り上げ、今後の反動減が避けられそうもない。この経験から看て取れるのは、長 くて大きな反動減が生じる手前では、同様に大きく盛り上がったブームが起こった後、そこで消化された需要が その後の需要をかえって押し下げるという図式である。言い換えれば、需要を先食いするブームの存在は、その 後のストック調整圧力としてのしかかるのである。 反動減を引きずる目処 教訓としては、「山高ければ谷深し」となることである。今回のエコカー補助金の反動減については、それを 勘案すると、過去 2 度の長期間に亘る低迷の局面とはやや異なる点がある。乗用車販売に関しては、今次局面の販売増がリーマンショック前の 2008 年央から起こった大規模な需要減反の後から始まっていることは留意が必要 である。エコカー補助金には、元来、需要の先食いの性格があるが、2009 年 6 月に実施されたタイミング(他の 自動車減税は同年 4 月から)では、一時的に生じた買い控えを解消させるのに役立っていた。シュリンクした需 要を氷解させるてこ入れになっていた点では、過去 2 度の反動減のときほどは先食いした需要は大きくない(図 表2)。 9 の 2006 年初から 2 年間のトレンドでみると、 2008 年央の落ち込み分は月平均値に対して 0.74 か月分に相当し、エコカー補助金で盛 り上がった販売増の 1.11 か月分と相殺する と、11 月までの需要先食いに相当する部分 は 0.36 か月に限定される。 この図式は、仮にエコカー補助金がもっと 大規模に延長されていたならば、深刻な需要 先食いに発展していた可能性があることを暗 に示している。エコカー補助金は、麻生政権 が経済対策として導入して成果を収め、その 後で鳩山政権が 2010 年 3 月末だった期限を約半年間ほど延長された。今回、9 月をもってエコカー補助金部分を 打ち切ったことは、その副作用を過剰につくらないという意味では英断であったとみてよい。 300,000 320,000 340,000 360,000 380,000 400,000 20 03 年 1月 20 03 年 7月 20 04 年 1月 20 04 年 7月 20 05 年 1月 20 05 年 7月 20 06 年 1月 20 06 年 7月 20 07 年 1月 20 07 年 7月 20 08 年 1月 20 08 年 7月 20 09 年 1月 20 09 年 7月 20 10 年 1月 20 10 年 7月 台/月平均 +0.74か月分 ▲1.11か月分 ネット▲0.36か月分 (図表2)乗用車販売の需要先食い部分 注:日本自動車工業会「新車登録台数・軽自動車販売台数」より計算 トレンド 2006年1月~2008年1月 エコカー 補助金 月次データの 12か月移動平均 新車販売の先行き もしも、新車販売における需要先食いがそれほど大きくはないとするならば、先行きの販売数量はどのように 推移するのだろうか。ひとつの考え方は、2006~2008 年のトレンドに戻っていくという見方である。その場合、 2010 年後半のどこかでトレンドに回帰して、急激な販売悪化には歯止めがかかると見込まれる。 ただし、この間のトレンド自体が下方向に向いている ことを考慮すると、トレンド回帰を単純に喜ぶことはで きない(トレンドは前年比▲5%の減少ペース)。乗用車 販売は、少子高齢化の影響によってかつての主な購買層 である若者人口が少なくなっていることや、若者の経済 環境の悪化を受けて購買余力が乏しくなっていることを 背景に、下方トレンドができていると考えられる。200 年・2010 年 1-8 月の乗用車販売について、エコカー補助 金に反応した購買層が誰であったかを知るために家計調 査のセグメント分析をすると、世帯主年齢が 50 歳以上 高年層、あるいは高齢者が減税メリットに機敏に反応し たことがわかった(図表 3)。彼らは、乗用車の新規購 入者というよりも買い替え需要、またはシニア世帯の 2・3台目の買い増しということになる。従って、エコカー補助金の反動は、シニア層に相対的に大きく表れる とみられる。 -45 -30 -15 -15 30 45 60 75 ~ 29 歳 30 ~ 39 40 ~ 49 50 ~ 59 60 ~ 69 70 歳 ~ 2009年平均 2010年1-8月平均 出所:総務省「家計調査」(2人以上世帯) 前年 比% (図表3)自動車等購入費を増やした年代層 月平均の支出額の伸び率 なお、こうした購買層が段々とシニアに移っていく傾向は、家計調査でみる限り、今に始まったことではなく、
2000 年以降に漸次進んでいる流れである。乗用車販売に占める若者消費のウエイトは、自動車において特に顕著 に低下していて、変化として潜在的ユーザーが高齢化に向かっているのが実情なのだ。 、 に、自動車販売における更新需要が、フローの販売増 につながっていくことも注目される。長い目でみたときに、 電エコポイントの影響 末をもってエコポイント付 与 地 。 今後の販売動向を考える際のポイントは、(1)ストック 調整圧力を受けないような魅力的な次世代エコカーの投入と (2)株価などの資産効果を通じてどのくらい販売需要が刺 激されるか、であろう。耐久消費財については、他の財・サ ービスよりも資産効果が働くと考えられる。シニア層の購買 行動は、勤労所得の制約が大きい分、すでに蓄えたストック の時価変化に応じて大口消費を行う傾向がある。 さら 最近の自動車販売は、更新需要を上回るようなストックの限 界的な増加を生じさせることにはなっていないようにみえる (図表 4)。新車販売はどちらかと言えば抑制的であり、む しろ更新需要の高まりを背景に販売が底上げされているとみられる。従って、エコカー減税に反応した販売増の 中には、更新需要の大きさを背景にして伸びた部分もあると考えられる。 -100 200 300 400 500 600 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 新車販売台数 廃棄台数(登録抹消) 年度、2010年は10月までの1年間 出所:全国自動車検査登録情報協会 万台 (図表4)自動車の新車販売・廃棄数 510,000 530,000 550,000 570,000 590,000 610,000 630,000 650,000 670,000 20 04 年 1 月 20 04 年 7 月 20 05 年 1 月 20 05 年 7 月 20 06 年 1 月 20 06 年 7 月 20 07 年 1 月 20 07 年 7 月 20 08 年 1 月 20 08 年 7 月 20 09 年 1 月 20 09 年 7 月 20 10 年 1 月 20 10 年 7 月 台/月平均 (図表5)エアコン販売の需要先食い部分 注:日本冷凍空調工業会の資料より計算 月次データの 12か月移動平均 トレンド 2006年1月~2009年4月 エコポイント 開始 家 目下、家電販売は、11 月 が半減されることが 10 月 8 日に発表されて以来、大 きな駆け込み需要が発生している。今後 2011 年 1 月か らは、エコポイントの対象範囲が絞り込まれ、同 3 月末 をもってエコポイントは制度廃止となる見通しである。 おそらくは、こうした見直しの反動減が、2011 年 1~3 月と 4~6 月の個人消費を下押しするであろう。 家電エコポイントの対象種類は、エアコン、冷蔵庫、 上デジタル放送対応テレビ、の3種類である。3 種類 の販売動向を見比べると、いずれも自動車販売とは異な っていて、リーマンショック前後の落ち込みは起こ っていない。2009 年 5 月からエコポイントの付与が 開始されてからの販売の推移は三者三様である。そ のうえで、個別にどのくらいの影響がありそうなの かをみていくと、次のようになる(図表 5、6、7) まず、エアコンは、エコポイントによる反動減が 最も軽微 270,000 290,000 310,000 330,000 350,000 370,000 20 04年 1月 20 04年 7月 20 05年 1月 20 05年 7月 20 06年 1月 20 06年 7月 20 07年 1月 20 07年 7月 20 08年 1月 20 08年 7月 20 09年 1月 20 09年 7月 20 10年 1月 20 10年 7月 台/月平均
(図表6)冷蔵庫販売の需要先食い部分
注:経済産業省「機械統計確報」より計算 トレンド 2006年1月~2009年4月 とみられる。エアコンは、季節商品の様相 が強く、年間販売数の 4~5 割が夏場(6・7・8 月)に 集中するため、駆け込みが発生する期間も短かった とみられる。むしろ、2010 年夏には、猛暑効果で大 きく嵩上げされたことを勘案しても、2011 年夏の気 ▲0.67か月分 月次データの 12か月移動平均 エコポイント 開始候に依存する部分が大きいということだろう。 次に、冷蔵庫は、エアコンよりもエコポイントの影響がより表れそうな品目である。エコポイントの割引率は、 冷 。 蔵庫が 400L以上になるなど大きくなるほど高くなる。2009 年 5 月以降の販売動向は、エコポイント開始から はしばらくは反応が乏しく、販売が伸び悩んでいたが、2010 年夏になって伸び率が高まってきた。2010 年 10 月 までの駆け込み需要の規模を試算すると、月平均販売(生産者出荷ベース)で 0.67 か月分となっている。この規 模自体は相対的にはそれほど大きなものではない。反動減があるとしても、低迷が長引く訳ではないとみられる 最後に、地上デジタル放送対応テレビは、大画面になるほど割引額が大きく、消費者が最も恩恵を感じやすい 種 ジ対応の切り替えが更 新 。 トックの入れ替えがあるから、潜 在需要に応じて販売実績が伸びているとみることもできる。内閣府「消費動向調査」によれば、2010 年 3 月のテ 、 。 類になっている。販売台数の伸び率は、2011 年 7 月に地上波アナログ放送終了を控えて、デジタルへの切り替 えを急ぐ動機をもっている消費者の活発な購入により、2010 年に入って大幅に高まった。さらに、10 月 8 日に 11 月末をもってポイント半減というアナウ ンスがあって、駆け込み需要には拍車が かかっている。 テレビは、地デ 需要を一気に加速させる分、エコポイ ントの期限が失効してしまった後の反動 減はより拡大してしまうことが心配され る。計算上、駆け込み需要分として計算 される積み上がりは 7.08 か月分に達する 一方、この動きは、地デジ化に伴う大 幅なス 60 80 100 120 140 160 180 2004年1月 2004年5月 2004年9月 2005年1月 2005年5月 2005年9月 2006年1月 2006年5月 2006年9月 2007年1月 2007年5月 2007年9月 2008年1月 2008年5月 2008年9月 2009年1月 2009年5月 2009年9月 2010年1月 2010年5月 2010年9月 2011年1月 2011年5月 月次データの 12か月移動平均
(図表7)テレビ販売の需要先食い部分
万台/月平均 レビ普及率は 99.5%、そのうち 69.2%は薄型テレビ(非ブラウン管)である。1 世帯に必ず 1 台の地デジ対応の テレビが必要だと考えて、2010 年 3 月時点では必要される需要は 1,602 万台あったと考えられる(チューナー対 応は考慮せず)。地デジ対応テレビが、4-10 月に 1,263 万台売れたことを考えると、最低 340 万台程度の需要は 残っていることになる(1 世帯で 2 台目以上を地デジ対応にすることも勘案すると、需要はもっと多い)。問題は 膨大な買い替えストックがあったとしても、2010 年7月の地デジ移行後からしばらくすると、テレビ販売が大き なストック調整圧力を受けると予想されることである。 なお、上記の 3 種類の家電に関しては、年代別に 購買層が異なっている(図表 8)。エアコンは高齢 者が主な購買層(60 歳以上が 54%)で、冷蔵庫は中 年層(40~60 歳代)が多い。テレビは年代のバラツ キが少なく、幅広い層が購入していることがわかる このデータから窺えるのは、2011 年以降に雇用環境 が改善していけば、若年・中年層の需要拡大が見込 まれ、テレビ・冷蔵庫の反動減からの脱却も早まる ということである。高齢層が主な購買者であるエア コンは、反動減のインパクトが少ないにしても、資 産効果※※の影響を受けやすいので、株価などの上昇 が販売動向に密接に影響してくるだろう。 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 29歳 以下 30~ 39歳 40~ 49歳 50~ 59歳 60~ 69歳 70歳 以上 自動車 テレビ 電気冷蔵庫 エアコン 出所:総務省「家計調査」(2009年) (図表8)耐久消費財の支出額に占める年代別シェア 注:電子情報技術産業協会「民生用電子機器国内出荷統計」より計算 2010年10月まで ▲7.08か月分 トレンド 2006年1月 ~2009年4月 ブ ラ ウ ン 管 テ レ ビ の ス トッ ク エコポイント 開始齢者が多かったと指摘した。しかし、平均的な乗用車の購買層は、家電製品以 上に若者のウエイトが高くなっている。エコカー減税の反動減は、乗用車を保有するシニア層で表れやすいとしても、若年雇用が 個 GDP の推移を振り返ってみると、リーマン ショックの落ち込みを経験した後の回復局面では、 のデフレータ要因が、先の ※※先に、エコカー減税に反応した乗用車の購買層は高 改善していけば従来からのコアの乗用車需要が喚起されるとみることができる。 人消費への影響 エコカー減税と家電エコポイントの2つの政策減税が 完全に終了してしまうと、その影響は決して小さくない とみられる。確かに、4 項目の規模は合計で名目GDP の 2.1%のウエイトに過ぎない(図表 9)。それでも実質 化した値は、物価下落などを織り込んで膨らむことにな る。 近年の実質 2009 年 1Q から 2010 年 3Q まで+31.7 兆円の実質 GDP の増加 分のうち、56.4%(実額+17.9 兆円)が耐久財消費の増 加分で占められていた(図表 10、11)。名目耐久財のう ち、4 項目が占めるウエイトは 46.2%(2009 年)にも及ぶので、エコカー補助金・家電エコポイントのてこ入れ が如何に大きな効果を及ぼしたのかがわかる。 もともと耐久財にはデフレータの下落が大きく、その代わりに実質値を押し上げやすい性格があった。耐久財 2.29 0.79 0.58 6.47 -32 -24 -16 -8 0 8 乗用車 テレビ エアコン 冷蔵庫 2009年の消費者 物価の下落率 名目規模(2009 年、GDPベース) 兆円 注:総務省「家計調査」、内閣府「国民経済計算」より試算。 4項目で2.1% のウエイト