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新たな基礎年金制度の構築に向けて

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Academic year: 2021

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[第5章]

基礎年金被保険者数・受給者数

および

1 人当たり負担額の将来推計

1 シミュレーションの概要

第4 章において、昭和 60 年改正によって導入された基礎年金制度 がどのような理念に基づいて設計され、どのように運営されているか を明らかにし、基礎年金制度に係る資金の流れを示した。さらに、現 在のままの基礎年金制度が十分に機能していくために人々が負わねば ならない拠出金算定対象者1 人当たり負担額(以下、「1 人当たり負担 額」と略記する)を算出した。最後に、現行基礎年金制度の問題点とし て、費用負担のあり方と給付水準算定基準に関する事項を指摘した。 本章では、年金制度をモデル化して、高齢化が進む中で将来の年金 給付・負担がどのようになるのかをシミュレーションによって示す。 公的年金制度に関するシミュレーションというと、次のような分析を 思い浮かべる人が多いかもしれない。公的年金制度の存在が各個人の 貯蓄量・労働供給量の決定に影響を及ぼすので、それを考慮し、さら に貯蓄量・労働供給量を組み込んだマクロ経済モデルを想定して、そ のモデルの中で、将来推計人口を与えて、公的年金制度のあり方とし ていくつかのものを考えて、それぞれの場合のマクロ経済効果などを シミュレーションするというものである。わが国の今後の公的年金制 度のあり方を検討するにあたって、いま述べたようなシミュレーショ ンが意義あるものだということを私たちは十分に理解している。しか し、今回の第1 次報告書における基礎年金に関するシミュレーション

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に際しては、そのような方法をとることはしない。技術的にはもっと 簡単なものを使う。簡単だからそれを行うのではない。今回の第1 次 報告書において私たちの求めようとする基礎年金制度のあり方を考え るにあたって、将来人口推計のもとでの現行制度および私たちの提案 する基礎年金制度において想定する給付水準に対応した1 人当たり負 担額を把握することが必要だから行うのである。基礎年金制度のあり 方として、給付水準と負担のいくつかの組み合わせを考えることが必 要なのである。そのような目的をもって行うシミュレーションである が、大きな欠点をもつ。それは部分均衡分析の枠組みで行われるとい うことである。その欠点については認めざるを得ない。 第4 章では、現在の被保険者数・基礎年金受給者数および 1 人当た りの基礎年金給付額の現行平均水準を前提にして、1 人当たり負担額 を求めた。それに対して、本章のモデルの中では、将来における1 人 当たりの基礎年金給付水準を外生的に与えて、将来推計によって求め られる被保険者数・基礎年金受給者数を用いて、今後に必要とされる 基礎年金給付総額と1 人当たり負担額を計算するのである。 以下に示す推計結果では、各ケースとも最終的には「1 人当たり負 担額」を提示することを試みているが、この点について予めことわっ ておく。第4 章で述べたように、現行制度では、第 1 号被保険者から 定額保険料を徴収するとともに、第2 号被保険者から標準報酬比例の 保険料を徴収し、各制度の勘定から拠出金として基礎年金勘定に基礎 年金の給付に要する費用を集中させるという財源調達方法をとってい る。つまり、基礎年金の給付に要する費用に係る1 人当たり負担額は、 事実上、拠出金算定対象者数で頭割りした定額負担...................ということである。 以下に示すすべての推計結果で「1 人当たり負担額」を提示するか らといって、本報告書が現行制度のように賦課方式に基づいた拠出金... 算定対象者数で頭割りした定額負担................を課すことがよいと主張するわけ ではない。確かに、本報告書が主張するように、1 階部分(基礎年金) と2 階部分の負担を全国民について分離し、1 階部分の費用負担は負

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担能力に比例させるという捉え方をするならば、「1 人当たり負担額」 という概念で負担額の大小を測ることは必ずしも適切ではない。しか し、現行制度のように拠出金の形をとっている複雑な資金循環におい て、保険料とは別に「1 人当たり負担額」という概念を示すことは、 国民が最も把握しやすい尺度の示し方の一つといえる。応能的負担方 式をとることで、実際の負担額には個人差が生じてくるとはいえ、負 担全体を把握する尺度として「1 人当たり負担額」を用いることによ って、少子・高齢化が進展して人口構成が変化していく中で負担額の 推移を検証するための「国民全体としての負担額の大小の目安.................」を提 示しようとしているのである。この点を念頭においてもらいたい。 本題に戻ろう。本報告書は、将来の1 人当たり負担額を求めるにあ たって二つのケースを取り上げる。一つは、現行制度が今後も存続す るという想定での推計であり、財政再計算で行っている将来見通しと ほぼ同様のスタンスをとったものである。つまり、受給者1 人当たり の基礎年金額は1996 年度における 1 人当たりの平均受給額からスタ ートして、将来の各年度においても同じ条件で伸ばしていくというケ ースである。これを「標準ケース」とする。 もう一つは、第3 章 4.3(2)の考え方に基づき、1997 年度から 1 人当 たりの基礎年金額を高齢者に対する一律保障としての水準に設定し、 65 歳以上の全員にその金額を支給するというケースである。これを 「標準ケース」に対して「給付額一律ケース」と呼ぶことにする。 どちらのケースにおいても、最終的には1 人当たり負担額を計算す る。その場合、1 人当たり負担額としては、第4章と同様に、基本的 には2 種類の数値を算出する。第一は、1/3 国庫負担(租税)、2/3 保険 料という現行財源調達方法で、保険料財源として担うこととなる1 人 当たり負担額の大きさを算出することである。第二は、第一の負担額 に加えて、保険料財源だけではなく、1/3 国庫負担(租税)分も含めて 1 人当たり負担額の大きさを算出することである1 1 ただし、給付額一律ケースでも、税方式に変更した場合においては国庫負担

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まず 2 では、シミュレーションに用いたモデルの概要を説明する。 続く3 では、2 で示すモデルを用いて行ったシミュレーション結果を 示す。そして、最後の4 では、本章で行ったシミュレーション結果に 基づいて、わが国の今後の基礎年金制度のあり方について考察する。 将来世代が担う負担のことを考慮した上で基礎年金の適正な給付水準 について考えてみる。その際に、給付と負担に関していくつかのケー スを検討する。その内容が続く第6 章において論ずる移行問題の分析 へとつながっていく。

2 モデルの概要

2.1 モデルの構成

本章において使用するモデルは、基礎年金制度に焦点を絞り、被保 険者数・受給者数および年金給付額が将来に向けてどのように推移し、 その結果、1 人当たり負担額がどのように変化するのかをシミュレー トするために作成したものである。第2 次報告書における被用者年金 に関する検討まで視野に入れながらモデルを作ったが、第1 次報告書 ではその一部分だけを用いる。本モデルの構成は、「労働ブロック」、 「国民年金ブロック」、そして、「その他職域年金ブロック(厚生年金・ 共済年金)」の三つに分けられる。 労働ブロックでは、将来の年齢階級別人口、名目賃金、物価上昇率 や女子の就労率に関わる平均初婚年齢、育児休業を規定している事業 所の割合、保育所の在所率などといったいくつかの変数を外生的に与 えて、それをもとに年齢階級別労働力人口を推計する。国民年金ブロ ックでは、まず年齢階級別労働力人口をもとに第 1∼3 号の基礎年金 の余地がないことから「国庫負担なし」の1 ケースである。詳しくは該当箇 所で述べる。

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被保険者数を、また、将来推計人口をもとに基礎年金受給者数を推計 する。加えて、その他の職域年金ブロックと合わせて、将来において 必要となる基礎年金給付総額と1 人当たり負担額を計算する。 本報告書は第1 次報告書として 1 階部分の基礎年金について扱い、 2 階部分の被用者年金に関する検討は第 2 次報告書に委ねることとし ている。したがって、今回のモデルでは、その他職域年金ブロック(厚 生年金・共済年金)を用いることはあまりない。ただし、旧制度の適用 者の場合には、「みなし基礎年金」ということで、基礎年金勘定からそ の者が属していた職域年金勘定に繰り入れが行われて支給されるため、 その部分に関して、その他職域年金ブロック(厚生年金・共済年金)が 関係してくる。そこで、第1 次報告書におけるモデルでもその他職域 年金ブロック(厚生年金・共済年金)に関しては、その部分だけを取り 上げる。 これまでの章において説明してきたように、わが国の基礎年金制度 は、保険原理に基づきながらも、昭和 60 年改正で導入された財源調 達方法、賦課方式の考え方に基づいて運営されている。そこで、毎年 の基礎年金給付総額を支える1 人当たり負担額の大きさが重要となる。 その大きさが、高齢化の進展の中にあって、将来に向かってどのよう に変化していくかが注目される。本章のシミュレーションの目的も、 それが将来どのようになるかを、また、給付水準を変えることによっ てそれがどのように変わるかを明らかにすることにある。そこで、こ のモデルは、現行基礎年金制度を忠実に再現できるように配慮しつつ、 基礎年金被保険者数・受給者数および年金受給額を推計して、将来に 必要とされる1 人当たり負担額を算出できるように作成した。制度改 正が行われる際には、それに対応して、いくつかの追加的なシミュレ ーションを行えるようにしてある。 以下、労働ブロックと国民年金ブロックについて説明する。なお、 以下のモデルの説明部分は、巻末に収録してある構造式一覧と対応す る形となっているので、興味ある読者は参照しつつ読まれることをお

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勧めする。

2.2 労働ブロックの概要

(1) 年齢階級別労働力人口の推計 男女とも、年齢階級別の労働力人口を計算する。男女・年齢階級に よって求め方を変えている。一つは、過去における当該年齢階級の人 口と当該年齢階級の労働力人口とを回帰させて過去の平均的な労働力 率を求めて、それに基づいて当該年齢階級の労働力人口を計算する。 これについては、下記(3)イ)の所を参照されたい。もう一つは、下記 の各項目ごとに求められる人口の合計として定義する。 外生として与える将来人口は国立社会保障・人口問題研究所『日本 の将来推計人口(平成 9 年 1 月推計)』である。本報告書が行うシミュ レーションの対象期間は 2025 年度までである。このような近い将来 においては、中位推計値と低位推計値の差異が顕著には現れない。そ こで、本報告書では中位推計値を用いたシミュレーションだけを行う。 労働ブロックでは、労働力を「労働力調査」にならって、以下のよ うに従業上の地位により分類し、従業上の地位×性別×年齢階級別に 推計を行った。 (イ) 農林業就業者 (ロ) 非農林業自営業(自営業主、家族従業者) (ハ) 非農林雇用者 (ニ) 完全失業者 (ホ) 非労働力人口 農林業雇用者については、基礎年金被保険者としては第 1 号被保険 者となっているケースが多いと考え、(ハ)には入れずに、(イ)として一 括して取り扱っている。このようにした理由は、基礎年金被保険者の

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うち、第1 号被保険者と第 2 号被保険者は基本的に従業上の地位によ って分けられているからである。一方、第 3 号被保険者の場合には、 むしろ被扶養者であるかどうかが決定的である。 上記の各項目((イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ))に関して、男女・年齢階級別に人 数を計算する。そこで求められた数値に基づいて、後述の国民年金ブ ロックにおいて、それを区分して、第1・2・3 号被保険者数を求める のである。基礎年金被保険者区分をまとめてみると、表5-1 のように なる。 それでは、上記の各項目のいくつかについて説明しよう。 (2) 農林業・非農林業自営業 農林業・非農林業自営業の就業形態を考えてみると、特に農林業に おいては家業を継ぐという形で就業することが極めて多く、非農林自 営業においても同様の傾向が当てはまると考えられる。そこで、モデ ルでは、男子の場合にはコーホートモデルの考え方を基として推計し ている。コーホートモデルの考え方としては、各世代においてある集 団(この場合は農林業・非農林自営業における各年齢階級の従事者)へ の流入・退出の確率を推計し、その確率にしたがって毎年人数の増減 を計算し、それを繰り返すことによって将来の人数に関するデータを 推計する。ここでは、5 歳刻みの各年齢階級ごとの就業者数を推計す るのにあたって、5 年前の一階級前の就業者数(つまり同じ集団の 5 年 前の人数)を説明変数としている。 また、女子の場合には、配偶者が農林・非農林自営業であれば、そ の一定割合が家族従業者として労働することを選択すると考え、配偶 者として対応する年齢階級(同年齢と想定する)の男子の農林・非農林 自営業者数の一定割合を女子の年齢階級別自営業者数として推計して いる。

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(3) 非農林雇用者 非農林雇用者の推計については、男女・年齢階級によって扱い方が 若干違うので、以下に説明する。 イ)男子25-29 歳から 50-54 歳までの年齢階級 男子の労働力率を見ると、25-29 歳から 50-54 歳までの年齢階級で は、労働市場における需給関係を端的に表す実質賃金と欠員率の代理 指標である有効求人倍率の変動にも拘わらず、時系列な変動は小さい。 このため、これらの年齢階級では、まず過去の平均的な労働力率を推 計して、それと当概年齢階級別人口から年齢階級別労働力人口を求め る。さらに、別の推計方法によって求められる農林・非農林自営業者 数(上記の(イ)と(ロ)の合計)および想定する完全失業者数(上記の(ニ)) を年齢階級別の労働力人口から控除して、それを非農林雇用者数とし て把握する。 ロ)男子15-19,20-24,55-59,60-64,65 歳以上の年齢階級 男子15-19,20-24,55-59,60-64,65 歳以上の年齢階級においては、雇 用労働力率を実質賃金率の関数と見て推計する方法を採用する。 さらに、60-64,65 歳以上の年齢階級の場合には、実質賃金率に加え て、年金受給が労働供給に影響を与えることが多くの既存研究によっ て指摘されている。そこで、これらの年齢階級の場合には、雇用労働 力率に影響を与える変数として、実質賃金率の他に年金の新規裁定受 給平均額も加える。 以上の推計によって求められる年齢階級別雇用労働力率と当該年齢 階級別人口からそれぞれの非農林雇用者数を求める。 ハ)女子の場合 女子の場合には、男子と異なり、ほとんどの年齢階級において市場 における需給環境で雇用労働力率が変化する。そのため、各年齢階級

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における雇用労働力率を実質賃金で説明する定式化を基本とする。さ らに、これに以下のような女子に固有の雇用労働力率に影響を与える いくつかの要素を加味する。 まず第一に、進学率の上昇である。これまで、男子に比べて女子の 4 年制大学への進学率は低く、短大などを選択する傾向が強かったが、 近年では逆に4 年制大学への進学率が高まり、男子との進学率格差も 縮小しつつある。進学率の上昇は、15-19 歳階級の雇用労働力率を押 し下げる一方、高い賃金を得られる雇用機会を得やすくすることから、 20-24 歳階級以上の雇用労働力率を高めると考えられる。このため、 15-19 歳階級では女子の 4 年制大学学部への進学率を説明変数として 採用する。 第二に、婚姻が労働供給に与える影響である。女子労働力率のカー ブが30-35歳の年齢階級をボトムとするM 字形を呈することからもわ かるように、結婚・出産・育児というライフステージの存在は女子の 労働供給に極めて大きな影響を与える。このため、20-24 歳および 25-29 歳の階級では、既婚者・未婚者比率を説明変数に加えている。 この既婚者・未婚者比率は、女子の平均初婚年齢を説明変数として、 各年齢階級ごとに推計されている。 第三に、育児を支える制度である。1997 年に育児・介護休業法が成 立したが、その中で、雇用主は求めがあれば一定期間の育児・介護休 業を与えなければならないとされている。しかし、制度が十分成熟し ていない時期においては、それが企業内で実際に明文規定としておか れているかどうかは利用に際して大きな影響を与えると考えられる。 そこで、育児休業制度明文規定事業所比率を25-29 歳の階級で説明変 数として加えている。 第四に、低年齢の児童を抱える親にとって、保育所を利用できるか どうかは就業上大きな問題である。無論、現行制度の下では保育所入 所には親の所得制限が課されているので、すべての世帯が利用可能と いうわけではないが、その利用が労働供給に与える影響を反映させる

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ために、一定人口当たりの保育所所在数を 30 歳以上の年齢階級にお いて説明変数として加える。 実質賃金率の他に、年齢階級によっては、以上に説明した四つのい ずれかを説明変数として加えて、年齢階級別の雇用労働力率を求める。 そして、それと当該年齢階級別人口からそれぞれの非農林雇用者数を 求める。 (4) 完全失業率 各年齢階級別の完全失業率を推計するためには、厳密には産業別・ 年齢階級別の労働市場を設定して分析を行う必要があるが、モデルに おいてはそのような分析は行っていないことから、各年齢階級別に過 去の完全失業者と人口とを回帰させ、その係数を求めて、それを用い て各年齢階級別の完全失業者数を求めた。 (5) 非労働力 非労働力人口は、人口から労働力人口を控除して求める。なお、非 労働力については、今回のシミュレーションにおいて被保険者数の推 計ないし年金受給者数の推計には用いられていないが、参考までにそ の推計式を巻末の一覧に掲載しておく。

2.3 国民年金ブロックの概要

(1) 国民年金ブロックの概要 国民年金ブロックでは、2.2 で説明した労働ブロックで得られる男 女別・年齢階級別・職業別の人口を用いて、イ)被保険者数の推計、 ロ)基礎年金給付額の推計、ハ)被保険者1 人当たり負担額の算出を 行っている。 まず保険料の負担サイドとして、労働ブロックの推計結果を用いて 被保険者数を推計する。被保険者数は第1・2・3 号の各号ごとに、そ

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れぞれ男女別に推計され、さらに得られた被保険者数の合計から保険 料納付免除者、未納者などを差し引くことによって将来の保険料を負 担する人数を算出する。 次に受給サイドとして、将来の年金給付費を推計する。年金給付費 の推計は基礎年金部分について、新法適用者に対するものと旧法適用 者に対応するもの(みなし基礎年金)とに分けて、それぞれ老齢・障害・ 遺族の各年金ごとに推計する。そしてそれを合計することによって将 来の基礎年金の給付に要する費用の総額を求める。 最後に受給サイドで求められた年金給付総額を、負担サイドで求め られた保険料を負担する人数で割ることにより、1 人当たり負担額を 算出する。この1 人当たり負担額を見ることによって、将来にどの程 度年金の負担が増加するかを検証する。 なお、将来の年金給付費の推計にあたっては、給付水準から物価ス ライドの要素を排除している。したがって本章で述べられる将来の年 金給付費および被保険者1 人当たり負担額についてはすべて実質額で あり、平成8 年度の価格を基準としている。 (2) 基礎年金被保険者数および拠出金算定対象者数の推計 A)被保険者数の推計 (a) 基礎年金被保険者 定義としては、次のようになる。日本国内に住所を有する 20 歳以 上 60 歳未満のすべての者とそれ以外の年齢階級で任意加入または被 用者年金に加入している者が基礎年金制度の被保険者である。20-59 歳の任意の年齢階級(男女)において、次の式が成立していなければな らない。 被保険者総数=第1 号被保険者数+第 2 号被保険者数+第 3 号被保 険者数 しかし、実際の統計には漏れや例外があり、必ずしも一致してはい ない。本モデルでは、被保険者総数を性別に第1 号、第 2 号、第 3 号

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というように各号ごとに推計し、その総和として求めている。 (b) 第 1 号被保険者 第1 号被保険者は、学生などの例外はあるが、主に農林・非農林自 営業の就業者から構成されるものと考えられる。そこで、モデルでは、 男子・女子とも、労働ブロックから得られた農林・非農林自営業者の 総数の一定比率として仮定して推計を行った。 (c) 第 2 号被保険者 第2 号被保険者の中心は非農林雇用者である。非農林雇用者は原則 第2 号被保険者となるが、有配偶で被扶養者の場合には、必ずしも第 2 号被保険者となるとは限らない。そこで、労働ブロックから得られ た雇用労働力に対する第2 号被保険者の割合が安定的であると仮定し て、第2 号被保険者数を推計することにする。 具体的には、まず15-19 歳、20-59 歳、60 歳以上という三つの年齢 階級に分けて、それぞれの年齢階級におけるこれまでの第2 号被保険 者数とその年齢階級の雇用労働力とを回帰させて係数を求めて、それ と労働ブロックで得られた各年齢階級の将来の雇用労働力から各年齢 階級の第2 号被保険者数を求める。それらの総和が第 2 号被保険者総 数である。 第2 号被保険者は、厚生年金の被保険者と共済の被保険者から構成 されている。このそれぞれの構成数を求めるにあたっては、まず厚生 年金に属する被保険者数を推計し、その残りの部分を共済年金に属す るものとしている。厚生年金に属する被保険者数の推計は、第2 号被 保険者数の推計と同様に15-19 歳、20-59 歳、60 歳以上の各年齢階級 ごとに、それぞれ雇用労働力を説明変数として推計している。 (d) 第 3 号被保険者 男子の第3 号被保険者数は、被保険者総数に比して、その占める割

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合が小さいため、20-59 歳の年齢階級人口の一定比率を占めるものと 仮定して推計した。また、女子の第3 号被保険者は被扶養者が多くを 占めると考えられることから、女子の20-59 歳人口から就業者(女子の 第1 号被保険者数+女子の第 2 号被保険者数)を控除したものの一定比 率を占めるものと仮定して推計した。 第3 号被保険者といっても、配偶者の扶養者である第 2 号被保険者 が厚生年金に属する場合と共済年金に属する場合がある。第3 号被保 険者からの保険料徴収の影響を検討するためには、厚生年金に属する 第2 号被保険者の被扶養者たる第 3 号被保険者と共済に属する第 2 号 被保険者の被扶養者たる第3 号被保険者を峻別する必要がある。両者 を分けるにあたっては、第4 章で用いたのと同様の簡便法を採用した。 例えば、女子の第3 号被保険者のことを考えてみる。この場合、女子 の配偶者である男子の第2 号被保険者に注目して、彼らが厚生年金に 属する者と共済に属する者とにどのような比率で分かれているかを把 握する。そして、その比率で女子の第3 号被保険者数を厚生年金と共 済に按分するといった方法である。 B)控除対象者 A)で求めた第1・2・3 号の被保険者のうち、その全員が実際に保 険料を納めているわけではなく、保険料の免除の適用や支払うべき保 険料を納めていないケースが存在する。このため1 人当たりの保険料 負担を算出するためには、これらのケースを被保険者数から控除する 必要がある。控除の対象となるのは、第1 号被保険者のうち保険料免 除を認められた者および保険料が未納である者、それと第2 号被保険 者のうち20 歳未満の者と 60 歳以上の者である。 (a) 保険料免除者 第1 号被保険者に適用される保険料の免除制度には法定免除と申請 免除の二種類があり、法定免除は障害者や生活保護法による扶助を受

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けている者等が、申請免除は所得がない等を理由に本人が申請して認 められたときに免除の対象となる。本モデルにおいては、免除者を第 1 号被保険者の一定割合と考え、平成 8 年度の実際の比率がそのまま 続くと仮定して外生変数として与えている。 (b) 保険料未納者 厚生年金・各共済組合のように各年金勘定ごとに保険料を納める第 2 号・第 3 号被保険者の分については基本的に未納というのはありえ ないことから、保険料の未納分というのは第1 号被保険者の一部が支 払っていない部分である。そこで保険料未納者も免除者と同じく第 1 号被保険者の一定割合と考え、平成8 年度の実際の比率がそのまま続 くと仮定して外生変数として与えている。 (c) 20 歳未満及び 60 歳以上の第 2 号被保険者 基礎年金の保険料納付対象者は年齢が20 歳以上 60 歳未満の者であ るが、厚生年金・各共済組合に属する第2 号被保険者にはこの年齢階 級に含まれない者もカウントされている。そこでA)で第2 号被保険 者数を推計する際に年齢階級ごとに分けて推計し、20 歳未満の者と 60 歳以上の者は除外して考えることとしてある。 C)拠出金算定対象者 A)で得られる第1・2・3 号の被保険者数の合計から、B)の(a)(b)(c) を引いたものを、将来の基礎年金給付を支える拠出金の対象者とする。 以下、被保険者1 人当たり負担額を算出する際には、この対象者の数 字を用いる。 (3) 基礎年金の給付に要する費用の推計 A)受給サイドの概要 (2)において、国民年金ブロックの負担サイドに関して説明してきた。

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この(3)においては、受給サイドに関して説明する。 基礎年金の受給側はいくつかの要素に分けて捉えられる。これまで の章においても説明してきたように、基礎年金制度は昭和 60 年改正 によって導入されたため、基礎年金の給付の適用に関しても、改正を 境に昭和61 年 4 月以降の新法「基礎年金」が適用される人々と昭和 61 年 3 月以前の旧法が適用される人々に分けられる。旧法適用の人々 も、従来の制度の中で給付される1 階部分の年金を「みなし基礎年金」 というように読み替えて支給されるが、それにともなう勘定間の資金 の流れについては、すでに第4 章において説明したので、ここでは省 く。 モデル内では、この新法「基礎年金」と「みなし基礎年金」とを分 けて別々に推計している。前者、すなわち新法適用となる人々の基礎 年金給付費に関する推計の説明は次のB)で行い、後者、すなわち旧 法適用となる人々のみなし基礎年金給付費に関する推計の説明はその 後のC)で行う。 このことについてもすでに触れたが、基礎年金は「老齢基礎年金」 「障害基礎年金」「遺族基礎年金」から構成されている。したがって、 受給側の推計もこの三つについて行わなければならない。そこで、上 記のように分けられたB)C)それぞれにおいて、それら三つの構成 項目ごとに推計(後述の(a)(b)(c))を行う。 B)新法適用者に係る給付費の推計(基礎年金給付費) (a) 老齢基礎年金 新法適用者に支給される老齢基礎年金は、基本的にはフルペンショ ンの考え方が採用されており、原則として保険料納付済月数が480 月 を満たすものに対しては法定フルペンション額×物価スライド率2 支給し、480 月未満の場合にはその足りない割合に応じて年金額を下 2 法定フルペンション額×物価スライド率の金額は、1996 年度で 785,500(年 額)である。

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げるという制度となっている。本モデルにおいてもこれに準じて、 (老齢基礎年金総額)=(老齢基礎年金受給者数)×(実効保険料納付 済月数割合)×(フルペンション基準額) の右辺の各項目を得ることによって、左辺の老齢基礎年金総額を求め ている。 ここで、実効保険料納付済月数割合とは、全期間480 ヶ月に対する 受給者平均の保険料納付済月数の割合を示す変数である。フルペンシ ョン基準額にこの割合を乗じることによって、受給者1 人当たりの年 金額を実際のものと同様になるようにしている。 ところで、制度上は上式の右辺のようにして年金給付費の総額が決 定されるはずであるが、実際の年金会計においては必ずしも左辺と右 辺が一致していない。このことを反映するために、モデル上では右辺 を「理論値」として捉え、実際の年金給付費の総額はこの理論値の一 定割合であると仮定している。 老齢基礎年金の内訳としては、65 歳から受給する本来受給者の分と、 受給開始年齢を繰り下げる繰下げ受給者分、逆に繰上げて 60∼64 歳 のうちから受給する繰上げ受給者分がある。このそれぞれの受給の仕 方に応じて、対象となる年齢層や1 人当たり平均の受給額が変わって くるため、それぞれをきちんと区別して推計することが望ましい。た だし実際には繰下げ受給者は他の二つと比較してはるかに少数である ため、ここでは(本来+繰下げ)と(繰上げ)の二つに分けて推計すること とした。 受給者数については、(本来+繰下げ)は 65 歳以上人口、(繰上げ)は 60 歳以上人口を説明変数とし、その一定割合として推計した。ただし、 大正15 年 4 月 1 日以前の生まれの人は新法の対象外であるため、こ こでいう65 歳以上人口および 60 歳以上人口からは除外している。 実効保険料納付済月数割合およびフルペンション基準額は、外生変 数として与えられている。実効保険料納付済月数割合は過去の平均の 変化率で推移していくものと仮定され、緩やかに上昇していくと想定

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している3。またフルペンション基準額は平成8 年度の金額が将来にわ たり一定と仮定している。 (b) 障害基礎年金 障害基礎年金はより重度の障害者を対象とする第1 級および第 2 級 からなり、それぞれ一定の要件を満たす者に定額4が支給される。 モデル上では、第1 級障害基礎年金・第 2 級障害基礎年金のそれぞ れについて(人数)×(基準額)の形で給付費を求めている。人数について は、全人口に対する障害者の割合が比較的安定していることから、全 人口の一定割合として推計している。基準額は平成8 年度の実績値で 一定としている。 (c) 遺族基礎年金 遺族基礎年金は被保険者もしくは老齢基礎年金受給権者が亡くなっ たときに、その収入によって生計を維持されていた妻または子が受け 取る年金であり、基本的に定額が支払われる5 遺族基礎年金についても、障害基礎年金と同様に(人数)×(基準額) の形で給付費を求めている。人数については全人口の一定割合として 推計しており、基準額は平成8 年度の実績値で一定としている。 C)旧法適用者に係る給付費(みなし基礎年金給付費) 昭和 60 年の年金制度改正の際に、すでに受給権の発生している人 に対しては旧制度にしたがった年金給付が行われるような措置がとら れたため、当分の間は旧制度による受給者と新制度による受給者が併 存する形となっている。本モデルにおいては基礎年金部分に焦点をあ 3 1996 年度 0.883→2025 年度 0.908 4 第 1 級 981,900 円、第 2 級 785,500 円、平成 8 年度。ただし子の数によっ て「子の加算」がある。 5 平成 8 年度で 785,500 円。ただし子の数によって「子の加算」がある。

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てているので、旧法適用者に対して給付される国民年金、厚生年金、 共済年金のうち、基礎年金に相当する部分であるみなし基礎年金給付 費について推計を行っている。いずれの旧制度の適用者についても、 新規裁定は、1986 年以降極めて少数であり、今後死亡等によって受給 権が消滅していくにつれ受給者も単調に減少するものと考えられる。 (a) 国民年金の旧制度適用部分 国民年金の旧制度適用は、老齢年金については老齢年金、通算老齢 年金、5 年年金に分けることができ、これに障害年金と遺族年金等を 加えたものが給付費となる。 老齢年金、通算老齢年金および5 年年金の給付費については、基本 的に新法の老齢基礎年金と同様に、(人数)×(実効保険料納付済月数) ×(フルペンション基準額)としてこのそれぞれを推計することによっ て得ている。ただし5 年年金に関しては実効保険料納付済月数を乗じ ていない。 老齢年金、通算老齢年金および5 年年金については、受給者の年齢 層に対応する年代の総人口を説明変数とし、その一定割合であると仮 定して受給者数を推計している。また、実効保険料納付済月数および フルペンション額、およびそこから導かれる1 人当たりの年金受給額 は平成8 年度の実績値で一定と仮定している。 障害年金、遺族年金等については、基本的には障害基礎年金、遺族 基礎年金と同様に(人数)×(基準額)として推計している。今後は新規裁 定者がほとんど発生しないため、受給者数は減少する一方であると考 えられることから、過去のトレンドが今後も続くと仮定して将来推計 を行っている。また1 人当たり給付基準額は平成 8 年度の実績値で一 定としている。 (b) 厚生年金・共済年金の旧制度適用部分 厚生年金・共済年金の旧制度適用部分についても基本的には各制度

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の給付ごとに、それぞれの人数および1 人当たり給付額を推計するこ とによって給付費を算出している。 厚生年金の旧制度適用部分については、老齢年金給付を男女別にわ けてそれぞれ人数および1 人当たり給付額を推計している。 共済年金の旧制度適用部分については、退職年金・減額退職年金・ 通算退職年金のそれぞれにつき人数および1 人当たり給付額を推計し ている。 受給者数については厚生年金分、共済年金分ともに 1986 年度以降 一貫して減少しており、今後も減少する一方であると考えられるため、 過去のトレンドを用いて将来推計を行っている。また1 人当たり平均 受給額は、すべて平成8 年度の実績値で一定としている。 (4) 1 人当たり負担額の算出 先の(2)の負担サイドおよび(3)の受給サイドにおいて得られた被保 険者数(および拠出金算定対象者数)と基礎年金の給付に要する費用を 用いて、各年度の1 人当たり負担額を算出する。 本モデルは完全な賦課方式を仮定している。すなわち、各年度にお いて収入総額(負担サイド)と支出総額(受給サイド)が必ず一致するよ うに、1 人当たり負担額が決定される。本来の年金会計に存在する繰 越金の概念はここでは捨象される。 負担サイドの対象者は、(2)C)で得られた、被保険者総数から免除 者・未納者などを除いた拠出金算定対象者数を用いる。 受給サイドである基礎年金の給付に要する費用は、(3)B)で算出さ れた新法適用者に支給される老齢・障害・遺族の各基礎年金と、(3) C)で算出された旧制度適用の受給者に支給されるみなし基礎年金の 合計額である。 そして受給サイドによって得られる将来の基礎年金の給付に要する 費用を、負担サイドで得られる将来の拠出金算定対象者数で除するこ とにより、算定対象者1 人当たりいくら負担すれば将来の基礎年金の

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給付に要する費用を賄うことができるのかを算出する。 この2 ではもっとも標準的な仮定にしたがう形で将来推計モデルの 概要を説明した。この試算結果については、次の3 で詳しく述べるこ ととする。 さらに本モデルは、被保険者の定義、基礎年金の給付に要する費用 の定義などにつき、分析の目的に応じて変更が可能になっている。た とえば、被保険者の定義の仕方では未納者を含めて考えることもでき るし、基礎年金の給付に要する費用として老齢基礎年金のみを対象と することも可能である。このようないくつかの仮定の下でのシミュレ ーションについても、次の3 において触れることとする。

3 推計結果

3.1 シミュレーションのケース分け

この3 では 2 までで説明したモデルを用いたシミュレーションのケ ース分けについて表5-2 を参照しながら説明する。本章の冒頭でも触 れたが、今回行ったシミュレーションでは標準ケースと給付額一律ケ ースという二つのケースを設定している。標準ケースと給付額一律ケ ースとでは、基礎年金額の決め方が異なっている6 標準ケースでは、2.3(3)基礎年金給付費用の推計方法の所で説明し たように、新法適用者分・旧法適用者分をそれぞれ別々に老齢・障害・ 遺族の各年金項目ごとに、将来推計人口を用いて受給者数を推計し、 一方で、フルペンション額に平均保険料納付済月数を乗じて得られる 1 人当たりの給付額を求め、この両者を掛け合わせることによって基 礎年金の給付に要する費用を求めている。したがって、標準ケースは 6 以下では、「基礎年金額」と記した場合にはすべて月額を指すものとする。

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基本的に現行制度が今後も存続した場合には1 人当たり負担額はどう なるかということを示している。また、障害基礎年金・遺族基礎年金 を除いた老齢基礎年金のみに限定した推計も行った。 一方、給付額一律ケースは、基礎年金は高齢期の生活費の基礎部分 を支えるものであるという理念に立つと同時に、現行のフルペンショ ン額が高齢期の生活費の基礎部分に相当すると解釈して推計を行った ものである。このように、給付額一律ケースは「高齢期の生活費の基 礎部分」にスポットをあてた推計であるため、すべてのケースにおい て、対象とする給付を老齢基礎年金に限定した。その上で新法適用者 分と旧法適用者分とを区別せずに、まとめて一つの項目として推計し ている。給付費はやはり(人数)×(1 人当たり給付額)で求めているが、 人数は65 歳以上の将来推計人口をそのまま用い、1 人当たり給付額は フルペンション額をそのまま用いている。したがって、給付額一律ケ ースは、上記の理念に基づき、一定の老齢基礎年金額が保障された場 合に、将来において老齢基礎年金に係る負担がどのようになるかを示 している。 また、国庫負担の取扱いに関して、基本的にはさらに次のようなケ ース分けを行っている。 1 人当たり負担額= イ)(基礎年金の給付に要する費用−国庫負担相当額)÷算定対象者数 ロ)基礎年金の給付に要する費用÷算定対象者数 ハ)(老齢基礎年金......の給付に要する費用−国庫負担相当額)÷算定対象 者数 ニ)老齢基礎年金......の給付に要する費用÷算定対象者数 イ)の算出方法をとった場合には、現行制度を可能な限り忠実に再 現したものとなる。一方、ロ)の算定方法をとった場合には、基礎年 金の給付に要する費用はどんな形であれ国民の負担であるという考え

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方で、国庫負担相当額を控除せずに、全額を保険料(ケースによっては 租税)として算定対象者で頭割りして算出したケースである。ハ)とニ) は、基礎年金の給付に要する費用のうちの老齢基礎年金相当分のみを 独立させてイ)ロ)と同様の方法をとったケースである。 給付額一律ケースの一部は、標準ケースと同様に、国庫負担を考慮 せずに算定対象者で頭割りしたケースについても推計を行っている。 給付額一律ケースにおける財源調達方法は2 通り考えられる。すな わち、現行制度のように社会保険料と国庫負担(租税)で賄う方法と、 本報告書が提言するような全額所得比例の租税で賄う方法である。後 者の方法をとった場合には、保険料の免除や未納といった事柄は生じ 得ないため、負担の対象となる人は20 歳以上 60 歳未満の全国民とな る。そこで、推計結果も二つに区分した。

3.2 被保険者数・受給者数の推計結果

被保険者数、受給者数などの人数に関する推計結果を表5-3 に示し た。 負担サイドとして被保険者数を見ると、総数では 1999 年度までは 7,000 万人程度でほぼ横ばいに推移するものの、その後は総じて減少 していき、2025 年度には約 15%減の約 5,800 万人まで減少する。第 1 号∼第 3 号の個々の推移を辿ってみよう。第 1 号被保険者が 1996 年度にピークを迎え、その後2025 年度まで急速に減少していくのに 対し、第2 号被保険者は 2006 年度までは増加を続け、その後は緩や かに減少していく。第 3 号被保険者数のこれまでの推移(実績値)を見 ると、1995 年度までは増加し続けてきたものの、1996 年度には減少 に転じている。推計結果においてもこの動向を引き継ぐ形で単調に減 少している。 また拠出金算定対象者数を見ると、被保険者数とほぼ同様に 2000 年度まではほぼ横ばいに推移し、それ以降は減少していく。その結果、

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1996 年度の約 6,250 万人から 2025 年度には約 5,300 万人にまで減少 すると見込まれる。 次に受給サイドとして受給者数について見てみる。主に老齢基礎年 金の受給者数が増加することから、全体として 1996 年度の約 1,600 万人から2025 年度には約 3,200 万人とほぼ 2 倍に増加する見通しと なっている。なおこれは旧制度、新制度の両方の受給者を合わせたも のであるが、旧制度の受給者については特に老齢基礎年金の受給者が 高齢であることから減少していくと見られ、2025 年度においてはほぼ ゼロになると見込まれている。このため、2025 年度ではほぼ全員が新 制度の受給者となると予測される。 老齢・障害・遺族といった給付区分で見ると、老齢基礎年金の受給 者は今後大幅に増加していき、1996 年度に約 1,400 万人であるものが 2025 年度には約 3,000 万人に達する見込みである。障害年金・遺族年 金の受給者については、これまでの傾向をほぼ引き継ぐ形で緩やかに 増加していくと見られる。

3.3 標準ケース

標準ケースとは、現行基礎年金制度が今後も存続した場合に、将来 の1 人当たり負担額がどのようになるかを明らかにするケースである。 推計結果は表5-4「標準ケースab」に示してある。 まず、1996 年度の基礎年金の給付に要する費用は 11.62 兆円である が、今後も増加が見込まれ、2025 年度には 20.70 兆円になると予測さ れる。 『事業年報』によると、1996 年度の基礎年金勘定においては、 イ)基礎年金給付費(新法分)=4.95 兆円 ロ)みなし基礎年金給付費(旧法分)=6.68 兆円 である。将来的には、イ)は増加の一途をたどる一方、ロ)は年々旧

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法の受給者が少なくなっていくことにより減少を続け、中長期的には ほぼゼロに近くなる見込みである。つまり、1996 年度に 4.95 兆円で あるイ)が2025 年度には 20.70 兆円まで膨らむと見込まれる。 この中には障害基礎年金給付費、遺族基礎年金給付費も含まれてい るが、寄与度としてはそれほど大きくはないため、基礎年金の給付に 要する費用の増加は新法老齢基礎年金の受給者数が将来増加すること によってほぼ説明される。 次に1 人当たり負担額を見ると、1996 年度においては 9,894 円と なっている。つまり、1996 年度に 1 人の被保険者が納付した保険料 のうちの9,894 円分が基礎年金勘定にまわったということである。推 計結果が示すように、上記の被保険者数、受給者数、給付費の推移を 背景に、1 人当たり負担額は 2025 年度には 20,996 円まで増えると推 計されている。 この推計結果は可能な限り現行制度に忠実な形で今後の推移をシミ ュレートしたものであるため、給付費用の3 分の 1 に相当する国庫負 担があるものとして算出している。国庫負担の財源は租税であるが、 第4 章で算出したのと同様に、ここでも国庫負担を考慮せず、基礎年 金の給付に要する費用全額を社会保険料で賄った場合を考える。 その結果は表5-4「標準ケース b」に示しているが、算定対象者の負 担額は国庫負担分が上乗せされてほぼ1.5 倍になっている。この国庫 負担なしのケースでは、1996 年度に 15,495 円である 1 人当たり負担 額が、2025 年度には 32,258 円まで増加すると予測される。 以上の結果を要約すると、1996 年度末時点と比較して、2025 年度 には被保険者数は17%程度減少するのに対し、基礎年金給付にかかる 給付費用は78%程度増加する。その結果、1 人当たり負担額はおよそ 2.1 倍となる。

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この結果から、次のような問題が提起される。このように後代世代 の負担が膨らむことは、世代間の公平性から見て問題はないのか、ま た、将来の働き手の世代がこのような負担額の増加に耐えることがで きるのか、ということである。 世代間の所得再分配という視点で見た場合、基礎年金給付の中でも とりわけ老齢基礎年金の動向こそ注目すべきである。障害基礎年金、 遺族基礎年金と異なり、老齢基礎年金こそ世代間の所得再分配を行う 制度であるからである。そこで、モデルから障害基礎年金・遺族基礎 年金を除き、老齢基礎年金のみに限定したケースの推計結果を次に見 ていくことにする。

3.4 標準ケース(老齢基礎年金給付のみの場合)

年金制度改革に不可欠な視点の中で特に重要なことは、急速に進む 高齢化に対して、若中年世代が無理なく高齢世代の生活を支えていく ことができるためには、どのように給付と負担をバランスさせていく べきかということである。このように考えると、年金制度の中でも特 に注目すべきことは、世代間の所得再分配を行う老齢基礎年金である といえるだろう。 本モデルにおいてもこのような問題意識にしたがって、すべての基 礎年金の給付に要する費用の中から老齢基礎年金に係る給付費、さら には1 階部分の給付費のみを抽出することを試みている。具体的には、 まず1 階部分の給付費の総額を基礎年金給付費とみなし基礎年金給付 費の和として考える。そして老齢基礎年金と障害基礎年金および遺族 基礎年金とを分けるために、以下の手順で導き出した。 イ)基礎年金勘定における老齢基礎年金給付費(新法分)の基礎年金 給付費全体に占める比率を算出する ロ)これをみなし基礎年金給付費を含めた基礎年金の給付に要する 費用全体に占める老齢基礎年金給付費の比率の近似値とする ハ)この比率を基礎年金の給付に要する費用に乗じることにより老

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齢基礎年金給付費の総額と仮定する ちなみに、1996 年度実績で 80.0%であった基礎年金勘定における 老齢基礎年金給付費の割合は、標準ケースの推計結果によると 2025 年度には90.4%となるものと見込まれる。 受給サイドを老齢基礎年金のみに限定した推計結果は表 5-4「標準 ケース c d」のとおりである。老齢基礎年金給付費は1996 年度におい て9.25 兆円、2025 年度には 19.39 兆円になると予測される。 この金額をもとに、老齢基礎年金給付を支えるために必要な1 人当 たり負担額を算出すると、1996 年度には 7,787 円であるものが、老齢 基礎年金給付費の増加にともなって、2025 年度には 19,639 円に増加 すると予測される。 これについても国庫負担を考慮しないケースを算出してみると、1 人当たり負担額は1996 年度には 12,335 円、2025 年度には 30,224 円 となる。

3.5 給付額一律ケース

標準ケースにおいては、現在の平均年金額がこのまま推移したら算 定対象者1 人につきどれくらいの負担額が必要であるかを算定するこ とが主眼であった。しかし、前記したように、老齢基礎年金というの は理念的には高齢期の生活の基礎部分を支えるためのものであり、現 行フルペンション額はそうした基礎部分を支えるのに必要な水準とし て一定の基準で決められているはずである。実際の制度では、実効保 険料納付済月数が300 月以上 480 月に満たない場合にはフルペンショ ン額から減額されて支給される。本来の理念としては全員がフルペン ションに相当する水準の老齢基礎年金を受けるというのがあるべき姿 であるといえる。 このような視点から、3.5 では老齢基礎年金の受給権を持つ人全員 に対して、一律に一定額の給付を行うケースを考える。まず最初に、

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現行フルペンション額と同額の月額 65,000 円を受給権者全員に一律 に支給する場合の推計結果を示す。このような想定でシミュレーショ ンを行う目的は、制度の本来の主旨どおりに年金の給付を行うとする とどの程度の給付費用がかかり、結果として1 人当たり負担額がどの 程度になるかを示すことにある。 給付額一律ケースにおいては、65 歳以上の受給権者全員に対して月 額65,000 円の老齢基礎年金を支給することとしている7。また、保険 料納付済月数についても一切考慮していない。なお、総人口や被保険 者数その他の仮定はすべて標準ケースの場合と同様とする。 3.1 で述べたように、給付額一律ケースは財源調達方法によって 2 通りが考えられるため、表5-5 に示したそれぞれのケースについて説 明する。 (1) 社会保険料での財源調達方法を残した場合 表5-5(1)の推計結果は、上記のような給付額の前提をおいた場合で、 かつ現行制度と同様に一部を社会保険料で賄う財源調達方法を残した 場合のものである。国庫負担で1/3 を賄う場合と国庫負担を考慮しな い場合のそれぞれについて、基礎年金の給付に要する費用および1 人 当たり負担額を求めたものである。まず、「給付額一律ケース a」の老 齢基礎年金の給付に要する費用をみると、1996 年度で 14.83 兆円、 2025 年度には 25.83 兆円が必要であると見込まれる。この費用を支え るために算定対象者1 人当たりいくら負担しなければならないかとい うと、1996 年度においては 12,745 円、2025 年度においては 26,326 円という金額となる。 また、標準ケースと同様に、老齢基礎年金の給付に要する費用の 3 分の1 にあたる国庫負担を考慮しない「給付額一律ケース b」では、1 7 ここでは旧法による給付(みなし基礎年金)か新法による給付かは区別せず、 あくまでも受給権者全員に一率65,000 円を支給する。

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人当たり負担額が1996 年度で 19,711 円、2025 年度で 40,253 円とな る。 これらの結果を標準ケースの場合と比較すると、2025 年度において は国庫負担がある場合、ない場合とも約1.3 倍の負担額となる。 (2) 給付費用の全額を所得比例の租税で調達した場合 表5-5(2)の推計結果は、給付費用の全額を所得比例の租税で賄うと いう、本報告書が提言する方法をとったケースである。 給付財源を所得比例の税方式で調達することになると、それに伴っ て次のような二つの事柄が生じる。 (イ) 現行制度下で負担している国民年金保険料(第 1 号被保険者)お よび被用者年金保険料(第 2 号被保険者)のうち、基礎年金保険 料相当分が負担減となる (ロ) 全額を租税で賄う方法であるため国庫負担があるケースは考 えられず、国民全体としては国庫負担額に相当する税負担が軽 減される 所得比例の税方式という財源調達方法をとることによって、対象者 である人は個々の負担能力に応じた負担を行うことになるため、保険 料免除や保険料未納といった事柄は生じ得ない。このため、ここでは 標準ケースで使用した「被保険者数」「拠出金算定対象者数」という人 数を把握するのではなく、標準ケースにおける「被保険者」から、「第 2 号被保険者のうち 20 歳未満または 60 歳以上の人」だけを除いた「20 歳以上 60 歳未満である対象者」という人数を把握する。これによっ て、1 人当たり負担額(平均値)を算出する際の分母が変わる。また、上 記(ロ)のとおり国庫負担という概念は考えなくてよいことになり、ケ ースとしては「国庫負担なし」に限定される。 「給付額一律ケース c」における老齢基礎年金の給付に要する費用 は上記(1)と同様であり、この費用を支えるために必要な対象者 1 人当 たり負担額は、1996 年度においては 18,191 円、2025 年度において

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は38,352 円となり、「給付額一律ケース b」より分母が大きくなる分 だけ1 人当たり負担額は小さくなる。 なおこの試算は、シミュレーションの概要の所で述べたように、あ くまでも「国民全体としての負担額の大小の目安.................」を提示するという 目的で、最終的に1 人当たり負担額を算出したままであり、実際には 所得に比例した負担を課すため個人差が生じる。

3.6 推計結果のまとめ

以上、将来推計人口の中位推計に基づいて、標準ケースと給付額一 律ケースという二つの推計結果を示した。ここでまとめておこう(表 5-6 参照)。 標準ケースのように現行制度が存続した場合には、2025 年度におけ る1 人当たり負担額は月額 20,996 円となり、1996 年度における負担 額(9,894 円)の 2 倍以上になることが示された(標準 a)。国庫負担相当 分を負担額に上乗せした場合の負担額は、ほぼ 1.5 倍の月額 32,258 円に膨らむ計算になる(標準 b)。 また、老齢基礎年金給付に限定したケースで見ても、算定者1 人当 たり負担額は、1996 年度から 2025 年度までの 29 年間に 12,000 円程 度上昇し、今後老齢基礎年金給付を支えるための負担が非常に大きく なっていくことがわかった(標準 c,標準 d)。 一方,基礎年金の理念を実現するように給付水準を一律とする給付 額一律ケースのシミュレーションにおいては、1 人当たり負担額は 1996 年度においても 12,745 円に上昇するとともに、2025 年度には 26,326 円まで膨らむことが示された(一律 a)。国庫負担相当分を負担 額に上乗せした場合には、1996 年度に 19,711 円に上昇するとともに、 2025 年度には 40,253 円まで膨らむことになる(一律 b)。 さらに、財源調達方法を所得比例の税方式に変更した場合には、 1996 年度に 18,191 円、2025 年度には 38,352 円となる(一律 c)。

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これらの推計結果から言えることは以下のようになろう。 (イ) 財政再計算等にも示されているように、現行制度に手を加えず そのまま存続させた場合、2025 年度には現在(1996 年度)の 2 倍以上の負担を強いられることになり、事実上の負担額はさら にその1.5 倍になる。 (ロ) 本来的には、基礎年金の理念に基づいて高齢期の生活費の基礎 部分を一律に保障するように老齢基礎年金の給付水準を設定 する(現行制度では月額 65,000 円)とともに、財源調達方法を所 得比例の税方式に変更する必要があると考えられるが、この場 合には現在(1996 年度)の負担額が 18,191 円に膨らむとともに、 2025 年度には 38,352 円に達する。 少子・高齢化の進展に伴う基礎年金制度の懸念材料には老齢基礎年 金に関するものが多い。したがって、ここでの推計は老齢・障害・遺 族という年金給付を別制度として捉え、老齢基礎年金についての給付 と負担のバランスをどのように保っていくかということに主眼をおい たのである。各個人の負担としては、障害基礎年金に係る負担部分と 遺族基礎年金に係る負担部分がこれに上乗せされることになる。 上記(ロ)は老齢基礎年金に限定した上で、現在の法定フルペンショ ン額である月額 65,000 円をもとに導かれたものであり、現行制度の 「あるべき給付水準」を維持するためには、後代世代がどれだけの負 担増に耐えなければならないかを示している。 さて、後代世代はこれだけの負担に耐えられるだろうか。次の4 で は、このような給付と負担のバランスが妥当なものであるか、もし妥 当でないならばどのようなバランスが適当であるかを検討する。

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4 給付と負担のバランスの選択肢

4.1 老齢基礎年金の本来あるべき水準

標準ケースでは、実効保険料納付済月数割合が将来上昇していくこ とによって、1 人当たりの平均的な受取り年金額は基礎年金の法定年 金月額である65,000 円に接近していくことになる。 しかし、そもそも現行基礎年金制度は「国民全員が基礎年金を支え、 同条件で同額の年金を受け取る」という理念に基づいて運営されてい る。そして、現行の月額65,000 円(年額 780,000 円)という法定年金額 は、高齢者の消費支出等を勘案したうえで高齢期の生活の基礎部分を 保障する水準として何らかの正当な基準で決定されているはずである。 確かにこの算定基準は明らかにされてはいないが、このような理念か らすれば「すべての受給者は原則として月額 65,000 円に物価スライ ド相当分を加算した額を受け取る」ということになる。 このことを前提として、国民(大正 15 年 4 月 2 日以降の生まれの人 に限る)は少なくとも昭和 61 年 4 月以降の拠出義務がある期間(20 歳 以上60 歳未満の期間)については法律上の義務として全期間にわたり 拠出しなければならなくなった。 つまり、基礎年金制度は、イ)20 歳以上 60 歳未満の被保険者全員 がもれなく拠出義務を果たすという前提で、ロ)同額の年金を支給す るという制度であるはずなのである。よって、本来は負担と給付とい う両輪のどちらが欠けていてもこの制度は成り立たない。 このように考えると、上記の「国民全員が基礎年金を支え、同条件 で同額の年金を受け取る」という理念に基づき、負担側は完全である という前提で給付側を考えなくてはならないだろう8。そして、第3 章 8 実際には未加入者や未納者が存在するため、負担側は完全とはなっていない が、これら負担側に存在する問題は別扱いとすべきである。

(32)

でも述べたように、給付水準は一律であるという捉え方が必要となっ てくる9

4.2 老齢基礎年金の給付と負担のあり方

上記のような考え方に基づくならば、受給者全員が一律に「あるべ き給付水準」である月額 65,000 円を将来にわたって受け取るという 想定の下で給付と負担の将来推計を行うことには意味がある。だから こそ、前期の給付額一律ケースとして表5-5 に取り上げたのである。 前記したように、後代世代は標準ケースのように現行制度が存続する 場合よりも重い負担を強いられることになる。このような重い負担に 後代世代が同意してくれるならば問題はないが、1999 年度の年金改革 に向けた各方面からの提言等を見るとそのような訳にはいかないこと がわかる。ここに給付水準見直しの必要性が生まれてくる。 第4 章 3.2「基礎年金の給付水準算定基準に関する問題点」でも触 れたように、給付水準見直しに際しては、給付と負担のバランスを維 持しつつ給付水準を決定していく必要があるが、考えられる方法は次 のいずれかである。 イ)あるべき給付水準を維持する考え方 どうしても法定月額65,000 円という給付水準を維持しようと するためには、後代世代はそれに応じた重い負担を将来にわた って行わなければならない ロ)後代世代の負担可能性を考慮して給付水準を見直す考え 方 9 昭和 60 年改正では、制度適用が新法(現行制度)適用者と旧法適用者として 明確に区分されたため、拠出制をとっていた旧法が適用される受給者まで含 めて受給者全員の給付水準を一律とすることには異論があるかもしれないが、 ここではあえて基礎年金制度を一本の制度と捉えて一律給付として推計した。

(33)

法定月額65,000 円という給付水準を維持するには後代世代の 負担が過重であるため、後代世代が耐えうる負担水準まで給付 水準を引き下げようとする考え方である 法定月額 65,000 円という給付水準が何らかの正当な基準で決定さ れているのであろうが、もしも老齢基礎年金の理念に基づき、高齢化 が著しく進んだ将来においても高齢者全員にその給付水準を保障しよ うとするならば、負担側はその負担の重みに耐えられなくなる可能性 は非常に高い。したがって、上記ロ)のように負担側が耐えうる水準 で受給側と負担側の妥協点を見出し、そこで決定する以外には考えに くいことになる10

4.3 給付と負担のバランス−老齢基礎年金「6 つの選択

肢」−

表5-7 に老齢基礎年金に関する選択肢を6通り用意した。表 5-5「給 付額一律ケース c」に示したような「税方式に変更した上で法定月額 65,000 円を一律に支給するケース」を基準(A 案)として、給付と負担 の水準を比例的に削っていたものがB 案から F 案である11 A 案:現行水準維持(=「給付額一律ケース c」) B 案:老齢基礎年金月額を一律に A 案(65,000 円)の 80%に設定した ケース C 案:老齢基礎年金月額を一律 50,000 円に設定したケース(削減率 10 このような考え方に基づく選択肢の示し方は、厚生省年金局監修『年金白 書』に示されている「5 つの選択肢」における A∼D 案と同様である。 11 ただし前記したように、ここでは障害給付・遺族給付を除外して考えてい るため、実際の 1 人当たりの平均負担額合計は、各案における老齢基礎年金 に係る1 人当たり平均負担額に障害基礎年金保険料と遺族基礎年金保険料が 上乗せされることになる。

(34)

23.1%) D 案:老齢基礎年金月額を一律 45,000 円に設定したケース(削減率 30.8%) E 案:老齢基礎年金月額を一律 40,000 円に設定したケース(削減率 38.5%) F 案:老齢基礎年金月額を一律 35,000 円に設定したケース(削減率 46.2%) 現行制度が存続する場合と比較するには、老齢基礎年金のみを対象 としており、かつ国庫負担を考慮していない「標準ケース d」を比較 対象とするのが妥当である。各案における1 人当たり負担額を「標準 ケース d」における1 人当たり負担額と比較すると、C∼F 案では負担 額が小さくなる。 さて、給付と負担のあり方として、どの案を選択したらよいだろう か。 以上では、負担側は拠出義務のある全問題についてはもれなく義務 を果たしているという前提で、新法適用であるか旧法適用であるかに 関係なく全受給者について一律給付とし(脚注 9 参照)、負担側の問題 は別扱いとした(脚注 8 参照)。しかし、実際には保険料納付義務を果 たしている人ばかりではないということは周知の事実であり、現行制 度下での大問題となっている事柄でもある。未納者・未加入者問題に 代表される負担側における諸問題の解決策については、次の第6 章に おいて、ここで提示した選択肢の一つを例にとって制度移行措置の考 え方として述べる。

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表5−1 従業上の地位と被保険者区分の関係

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表5−6 基礎年金に係る1人当たり負担額の将来見通し一覧

参照

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