チリの鉱業開発プロジェクトと
社会環境問題
サンティアゴ事務所 副所長縫部 保徳
はじめに
チリ鉱業界が直面する課題として、近年、電力、鉱 業用水、生産性の問題が指摘されているが、法廷闘争 化も鉱業開発に対する重大な懸念事項となっている。 法廷闘争化問題は鉱業開発プロジェクトだけでなく、 電力プロジェクトにも大きな影響を与えており、今後 チリにおける電力需要が堅調に伸びていくと予想され る中、安価で安定的な電力供給が脅かされ、鉱業開発 のボトルネックの1つともなっている。 チリでは2010年に環境基本法が改正されたことによ り、環境省や環境評価局、環境監督庁が設立され、 2013年には新しい環境影響評価システムに関する規則 令が公布・施行されるなど、環境法制・行政面の充実 が近年図られているところである。 本稿では、環境基本法が改正された2010年以降に法 廷闘争化等、社会環境問題の影響を受けた鉱業開発プ ロジェクトを中心にその内容を検証し、チリ鉱業に影 響を及ぼす社会環境問題の傾向について分析する。 なお、本稿で採り上げた問題には進行中のものがあ り、適宜情報の更新はしたものの、基本的に2014年3 月までの状況をベースに記述していることをご了承頂 きたい。1. チリにおける開発停止プロジェクトの概況
SOFOFA (Sociedad de Fomento Fabrical:製造業 振 興 協 会 )が 発 行 す る Observatorio de la Inversión2013年6月号のデータによると、チリにおい て何らかの障害により停止したプロジェクトは39件、 その計画投資額総計は553億4,400万US$に上る。これ らのプロジェクトの内訳は、計画投資額ベースで80% 弱が延期(postponed)もしくは凍結(paralyzed)、残り の20%強が中止(desisted)となっている(図1)。 停止したプロジェクトを産業セクター別に見ると、 エネルギーが50.5%、鉱業が48.9%(割合は計画投資額 ベース)を占め、開発停止に追い込まれているのはほ とんどエネルギーまたは鉱業セクターのプロジェクト であることが分かる(図2)。 鉱業セクターで開発停止したプロジェクトは、延期・ 凍結が多くを占めているのに対し、エネルギーセクタ ーでは、中止に追い込まれたプロジェクトの計画投資 額が最も多い(図3)。 要因別に見ると、不確定要素(開発に必要な環境認可 が得られたとしても、計画どおりの期間とコストで投 資を実施できるかどうかを投資家が確信出来ない状況 になっているプロジェクト)が数でも金額ベースでもも っとも多く、法廷闘争、エネルギー不足、環境基準違反、 環境規則(大幅な遅延や環境当局からの多くの要求のた めに危機に陥っているプロジェクト)と続く(表1)。こ れらの問題の多くは、プロジェクトによる環境影響の 正確な評価とともに、地元コミュニティや先住民コミ ュニティへの影響に関連しているとされる。 図1. チリで延期・凍結・中止されたプロジェクト 図2. セクター別にみたチリで延期・凍結・中止され (出典:SOFOFA(2013)) (出典:SOFOFA(2013))
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チリの鉱業開発プロジェクトと社会環境問題2. 社会環境問題の影響を受けた鉱業開発プ
ロジェクト
ここでは、2010年以降に先住民族問題も含む社会環 境問題の影響を受けた鉱業開発プロジェクトとして11 プロジェクト(図4及び表2)を抽出し、問題の背景等を 検証する。 図3. 鉱業及びエネルギーセクターの延期・凍結・中止プロジェクト の計画投資額(縦軸の単位は百万US$) 図4. 本稿で取り上げた社会環境問題の影響を受けた 鉱業開発プロジェクト位置図 表1. 延期・凍結・中止プロジェクトの原因と プロジェクト数及び計画投資額 表2. 社会環境問題の影響を受けた鉱業開発プロジェクト一覧 原因 プロジェクト数 (百万US$)計画投資額 不確定要素 15 24,755 法廷闘争 9 11,866 エネルギー不足 5 7,540 環境基準違反 7 6,865 環境規制 3 4,319 合計 39 55,344 (出典:SOFOFA(2013)) プロジェクト名 企業 州 計画投資額 (百万US$) Catanave探鉱 プロジェクト SouthernCopper 第XV州 (Arica・Parinacota州) 0.95Los Pumas MineraHemisferio Sur S.C.M. 第XV州 (Arica・Parinacota州) 100 Pampa Hermosa SQM (Tarapacá州)第Ⅰ州 1,033 塩 化 カ リ ウ ム 乾 燥・ 圧 縮 プ ラント拡張 SQM 第Ⅱ州 (Antofagasta州) 20 Atacama 塩 湖 に お け る 天 日 蒸 発 池 シ ス テ ム の 変 更 及 び 改善
Rockwood Litio (Antofagasta州)第Ⅱ州 17
Cerro Casale 最 適 化 プ ロ ジ ェクト
Barrick Gold/
Kinross Gold (Atacama州)第Ⅲ州 5,200
El Morro Goldcorp/New Gold (Atacama州)第Ⅲ州 2,500
Pascua Lama Barrick Gold (Atacama州)第Ⅲ州 500
Tres Valles S.C.M Tres Valles (Coquimbo州)第Ⅳ州 102
砂金開発 Copper CapitalMinera La Montaña
第Ⅸ州
(Araucanía州) 0.374
Invierno鉱山 Minera IslaRiesco SA (Magallanes州)第XII州 180 Santiago Santiago Catanave Los Pumas Pampa Hermosa 塩化カリウム乾燥・圧縮プラント拡張 Atacama 塩湖天日蒸発池システム Cerro Casale El Morro Pascua Lama Tres Valles 砂金開発 Invierno 鉱山 権利保護訴訟 異議申し立て 自発的に中止 (出典:SOFOFA(2013))
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チリの鉱業開発プロジェクトと社会環境問題2-1. Catanave探鉱プロジェクト
(1)オーナー企業:Southern Copper Corporation(以 下、Southern Copper) (2)所在地:第XV州(Arica・Parinacota州) (3)社会環境問題の種類 憲法上の権利保護訴訟(Recurso de Protección) (4)概要 プロジェクト地域内に広がる約1.5㎢の熱水変質帯 地下の金-銀鉱化状況を確認することを目的とした探 鉱プロジェクトで、投資計画額は95万US$であった。 2009年11月にSouthern Copperは、プロジェクトに 関 す る 環 境 影 響 評 価 書(EIA : Estudio de Impacto Ambiental)を提出、2010年12月に環境認可が承認さ れた(裁定番号73)。その後、2011年に複数の憲法上の 権利保護訴訟が起こされたが、訴えは退けられた。
(5)訴訟の背景と裁判所の裁定
a.原告
Angelo Carrasco Arias 氏:Putre 市(第 XV 州) 市 長 で、 先 住 民 族 Aymara 族 の 人 で あ り、 Sucesorial Juan de Dios Aranda コミュニティの メンバー
Richard Antonio Fernández Chavez 氏: Aymara 族の人で先住民芸術・文化センターの所 長
Joaquin Huanca Colque 氏:Guailatire 及 び Wilma の Aymara 先住民コミュニティ会長 b.訴訟の法的根拠 訴訟は、Cantanave探鉱プロジェクトの環境認 可を承認した地方環境委員会(COREMA)に対す るものであった。 訴訟の法的根拠として、以下の憲法上の権利に 抵触していると訴えた。 ⅰ) 人の生命及び個人の身体・精神の安全の権利 (第19条の1) ⅱ) 法の下の平等 (第19条の2) ⅲ) 汚染のない環境で生きる権利 (第19条の8) また、ILO第169号条約(チリは2008年批准、2009 年発効)に準じた先住民族への協議プロセスが実施 されなかったと訴えた。 c.訴訟理由 原告は、次のような理由で憲法上の権利が侵害 されたと主張した。 ⅰ ) プ ロ ジ ェ ク ト の 影 響 を 受 け た 地 域 は、 Ticnamar、Saxamar、Guallatireの先住民コミ ュ ニ テ ィ が 暮 ら し、Misitune、Quilvire、 Chua、Catanave村に非常に近接した先祖伝来 の放牧地である ⅱ) プロジェクトは国立Vicuña保護地区に位置する ⅲ) プロジェクトはLauca川の水源だけでなく、 リャマやアルパカが分布する高地の湿地帯 (bofedales)にも悪影響を及ぼす可能性がある。 毛や肉の販売によりリャマ及びアルパカは Aymaraコミュニティの重要な収入源となって いる。ボーリングのための水のくみ上げは、湿 地に不可逆の損害を与え、コミュニティが利用 可能な動物の頭数が減る可能性がある ⅳ) 先住民族の土地で実施されるあらゆる探鉱、 採掘計画実施前の先住民への協議を義務付けた ILO第169号条約第6条、第7条、第15条で謳わ れた権利を市民参加プロセスが侵害した ⅴ) プロジェクトは先祖伝来の保護地区内に位置 しており、先住民族法(法律第19,253号)に違反 する ⅵ) これらの行為は、先住民族の伝統、文化、土 地所有権及び水源を維持し誇りある生活を営む 権利を脅かしている d.裁判所の裁定 裁判所は、環境影響評価プロセスがプロジェク トに関する全ての重要事項と様々な意見を考慮し た上で、環境基本法に則って実施され、地方環境 委員会は法に基づき行動したことを立証した。 また、先住民族への協議プロセスが環境基本法 及びILO第169号条約に基づいて実施されたとし、 先住民の訴えを認めなかった。
この裁定を受け、Richard Antonio Fernández Chavez氏及びJoaquin Huanca Colque氏は最高裁 判所へ上訴したが、最高裁判所は上訴を棄却した。 2-2. Los Pumas
(1)オーナー企業:Minera Hemisferio Sur S.C.M.(以 下、Hemisferio) (2)所在地:第XV州(Arica・Parinacota州) (3)社会環境問題の種類 憲法上の権利保護訴訟(Recurso de Protección) (4)概要 このプロジェクトはマンガン鉱石を採掘・選鉱し、 マンガン精鉱の生産を検討するもの。投資額は1億 US$が見込まれていた。2010年8月に環境影響宣言書 (DIA : Declaración de Impacto Ambiental)を提出し たが、2011年11月にHemisferioが手続きを中止、2011 年5月及び6月に再び環境影響評価書を提出したものの 環境当局から手続きが認められなかった。その後、 2011年8月に提出した環境影響評価書が、2013年8月に
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チリの鉱業開発プロジェクトと社会環境問題環境認可(裁定番号50)の承認を受けた。 環境認可承認後、先住民族コニュニティから複数の 憲法上の権利保護の訴えがなされ、Arica上訴裁判所 は環境認可を無効とする判決を下した。 (5)訴訟及び環境認可取り消しの背景 a.訴訟理由 プロジェクトの環境認可承認に対し、先住民族 を 含 む 複 数 の 地 域 コ ニ ュ ニ テ ィ か らArica・ Parinacota州環境評価委員会を相手取り、憲法上 の権利保護に関する5件の訴訟が起こされた。 原告側は、承認された環境認可の環境影響評価 プロセスの中で先住民族への協議が考慮されなか ったと訴えた。この事態は、ILO第169号条約及 び以下の憲法上の権利に抵触するとした。 ⅰ) 人の生命及び個人の身体・精神の安全の権利 (第19条の1) ⅱ) 法の下の平等(第19条の2) ⅲ) 職業の自由(第19条の6) ⅳ) 汚染のない環境で生きる権利(第19条の8) ⅴ) 財産権(第19条の24) 上記を根拠とし、原告側は環境認可の取り消しを 求めた。 b.環境認可取り消しの背景 提出された環境影響評価書には、先住民族への 協議プロセスは考慮されていなかった。この事態 は、先住民族開発公社によって確認され、後に、 Hemisferioも認識した。しかし、環境評価局は、 ILO第169号条約の条項は環境影響評価システム の一部ではないので、環境認可の承認に関し法へ の抵触はないと反論した。さらに、原告側の先住 民族は、先住民族法によって先住民族との認定を 受けていないと反論した。 しかし、Arica上訴裁判所は、環境基本法第1、 11、16、26条の内容を吟味し、共和国憲法第19条 の2に違反するとして、先住民族コミュニティへ の協議は行われなければならないと結論した。ま た、以下の事項も環境認可無効の理由とされた。 ⅰ) プロジェクトサイトを承認した環境認可は、 廃さいダムの設計・建設・操業・閉鎖などの認 可プロセスを定める6年前に廃止された規則に 基づいたもので有効でない ⅱ) この事態は、人々の健康を脅かし、もって憲 法が保障する汚染がない環境で生活する権利 (共和国憲法第19条の8)に抵触するだけでなく、 生命と環境を保護するためのより新しく高い技 術的要求も考慮していない ⅲ) プロジェクトに関連して建設される新設道路 は、保護地域の生物多様性を脅かす 同プロジェクトの一部は、ユネスコ生物圏保護区 に指定されているLauca国立公園内に位置してお り、保護植物種(Azorella Compacta)がプロジェク トによる影響を受け、危機に瀕する可能性があると いわれている。 2-3. Pampa Hermosa (1)オーナー企業:SQM (2)所在地:第Ⅰ州(Tarapacá州) (3)社会環境問題の種類 環境認可付与に対する異議申し立て(Recurso de Reclamación) (4)概要 Nueva Victoria工業地区のヨード生産量を年6,500t 引き上げ、さらに、Sur Viejo工業地区に硝酸ナトリ ウム・カリウム120万t/年の生産能力を有するプラン トの新設を計画したプロジェクト。このプロジェクト には570.8l/秒の新規水利権及び海水利用のためのパイ プライン敷設許可が必要であった。投資計画額は、10 億3,300万US$。 SQMは本プロジェクトに関する環境影響評価書を 2008年8月に提出、環境認可(裁定番号890/2010)は 2010年9月に承認された。先住民が環境認可承認と同 年同月に環境認可承認に対する異議申し立てを行った ものの、閣僚委員会はその訴えを退けた。 (5)異議申し立て及び却下の背景 2010年9月、QuillaguaのAymaraコミュニティを代 表しGeorgina Soza Salazar氏が環境認可承認に対す る異議申し立てを行った。 異議申し立ては環境認可の無効を求めたもので、先 住民族及び部族民に影響する問題に関して、ILO第 169号条約に準じた協議が彼らに対し行われず、また、 以下の点についても考慮されなかったと訴えた。 ⅰ) 先住民族法に準じた水源のこと ⅱ) ILO第169号条約及び先住民族法に準じた先祖 代々の伝統的な土地利用のこと ⅲ) 環境基本法第11条に準ずるQuillaguaに居住す る人民の生活様式、習慣、風習への影響のこと ⅳ) 共和国憲法、先住民族法、ILO第169号条約に より認められた先住民族の権利及び人権 2011年8月、閣僚委員会は以下を理由として、異議 申し立てを退けた。 ⅰ) 異議申し立てで表明された事項は重要とはいえ ず、市民参加プロセスにおいて評価されていた。 また、環境影響評価プロセスの中で全てが考慮さ れ、評価されていた ⅱ) ILO第169号条約に抵触するとの申し立てに関
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チリの鉱業開発プロジェクトと社会環境問題しては、環境影響評価プロセスが始まった時点、 または、市民参加プロセスが実施された時点で同 条約は発効していなかった 2-4. 塩化カリウム乾燥・圧縮プラント拡張 (1)オーナー企業:SQM (2)所在地:第Ⅱ州(Antofagasta州) (3)社会環境問題の種類 憲法上の権利保護訴訟(Recurso de protección) (4)概要 2006年10月に環境影響評価書の環境認可(裁定番号 226/2006)を受けたプロジェクトの変更を計画するも ので、塩化カリウムの乾燥・圧縮プラントの生産能力 を110万tから180万tへ引き上げるもの。プロジェクト の計画投資額は2,000万US$。 2012年12月に環境影響宣言書を環境当局に提出し、 2013年6月に環境認可(認可番号154/2013)が承認され た。しかし、先住民らから憲法上の権利保護を求める 訴えがAntofagasta上訴裁判所になされ、2013年12月、 同裁判所は訴えを認める裁定を下した。 しかし、2014年5月、最高裁判所は先住民開発公社 が環境影響評価プロセスにおいて同プロジェクトを承 認していたことなどを根拠として、先住民等の訴えを 退ける裁定を下した。 (5)訴訟の背景とポイント a.原告
Atacama 先 住 民 審 議 会 会 長(Rolando Humire Coca氏)
Peine先 住 民 審 議 会 会 長(Jaime Patricio Mora Rodriguez氏)
Socaire先住民審議会会長(Edilia Venancia Plaza Varas氏) b.被告 Antofagasta州環境評価委員会(CEA : Comisión de Evaluación Ambiental) c.訴訟理由 承認された環境認可について、環境影響評価プ ロセスの中で先住民との協議を考慮しておらず、 ILO第169号条約及び以下に挙げた共和国憲法が 保障する権利を侵害するとした。 ⅰ) 人の生命及び個人の身体・精神の安全の権利 (第19条の1) ⅱ) 法の下の平等(第19条の2) ⅲ) 職業の自由(第19条の6) ⅳ) 汚染のない環境で生きる権利(第19条の8) ⅴ) 財産権(第19条の24):土地、水及び天然資源 の利用と所有権は先住民の権利であることが認 められているというもの。ILO第169号条約、 先住民族の権利宣言及び国際人権基準に抵触す るとした d.権利を侵害するとした理由 ⅰ) プロジェクトが先住民族の土地で行われ、か つ、プロジェクトはコミュニティの水利権を侵 害しているにもかかわらず、先住民族への協議 プロセス実施を検討しなかった ⅱ) SQMは環境基本法第11条に準じて環境影響 評価書を提出する必要があったが、環境影響宣 言書を提出した。これは同法第11条b)、c)、d)、 e)、f)に違反しているとした e.要求事項 環境認可(裁定番号154/2013)の無効 f.環境評価委員会の対応と裁判所の評価 環境評価委員会の弁護団は、提出された申し立 てについて強く反論したが、上訴裁判所はSQM 側が権利を侵害したことを認定、最初の環境影響 評価書が提出された2006年と、拡張プロジェクト の環境影響宣言書が提出された2012年の間の期間 を考慮し、プロジェクトは環境影響宣言書ではな く環境影響評価書を提出するべきであるとして、 差し止め命令を下した。 g.SQMの最高裁判所への上訴と逆転判決 SQMは上訴裁判所の裁定を不服とし、最高裁 判所に上訴した。2014年5月、最高裁は先住民族 側からの訴えを退け、SQMの勝訴を判決した。 先住民開発公社が環境影響評価プロセスにおい て、プロジェクトを承認していたこと、先住民族 コミュニティがプロジェクトから影響を受けるこ とを公的に立証できないこと、地域の土地や水源 に対し、先住民族コミュニティが訴えたような影 響をこれまでにプロジェクトが与えていないこと を判決の理由とした。 h.その他のポイント SQMはあくまで拡張プロジェクト(塩化カリウ ム生産量70万t/年)として環境影響宣言書を提出 したが、Atacameños人民審議会は、当初の110 万t/年と合わせた180万t/年となるプロジェクト の影響は大きいと主張していた。 2-5. Atacama塩湖における天日蒸発池システムの変 更及び改善 (1)オーナー企業:Rockwood Litio (2)所在地:第Ⅱ州(Antofagasta州)
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チリの鉱業開発プロジェクトと社会環境問題(3)社会環境問題の種類 環 境 影 響 評 価 書 却 下 に 対 す る 異 議 申 し 立 て (Recurso de Reclamación) (4)概要 Atacama塩湖のリチウムかん水採水量を現在認め られている142 l/秒から600 l/秒へ段階的に引き上げ ていくプロジェクト。この引き上げにより、採水量を 年間ベースで現在認められている80,000㎥/年から 170,000㎥/年に増やすことができる。プロジェクトの 計画投資額は1,700万US$。 このプロジェクトは2009年5月に環境影響評価書を 提出したものの、2011年9月、環境評価委員会に却下 された(裁定番号156/2011)。 却下の裁定を受けたRockwood Litioは、2011年10月 に閣僚委員会への不服申し立てを行った。同委員会は 再検討を行い、委員会からの要求事項を満たした上で の環境影響評価プロセス再開を認めた。 (5)環境影響評価書の却下及び異議申し立ての経緯 環境評価委員会は、Rockwood Litioに対し、環境影 響評価書中に認められた技術的に不十分な点を指摘し たが、その指摘を受けて企業側が提出した3件の回答 書(ADENDA:環境影響宣言書または環境影響評価 書の評価に関わる様々な機関からの所見に対してプロ ジェクトオーナーが回答する書類)ではそれに触れら れておらず訂正もされなかった。このため、環境影響 評価書が却下された。 一方、Rockwood Litioは、査定審議が実施される1 営業日前に環境評価委員会に対し技術報告書を提出し ていたが、環境評価委員会はこの資料を使用しないこ とで合意していた。 環境評価委員会は、環境影響評価書の却下を決めた 理由として閣僚委員会に次のように報告した。 ⅰ) 許認可:プロジェクトは特定の環境認可に関し、 内容、義務、要求事項を満たしていない。地質鉱 業局(SERNAGEOMIN)や水利総局(DGA)を含む 複数の環境当局は、認可取得に必要な条件は、環 境影響評価システムに関する規則令第Ⅶ章に準じ て評価されることで合意していた ⅱ) ベースライン:Rockwood Litioは、異議申し立 てで提出したベースラインに対し要求されていた 統計データを解析しなかった。これにより、環境 影響評価書中の情報は、プロジェクトが水資源に 与える影響を確実なレベルで保証していない ⅲ) 所在地:プロジェクトは、政府の保護措置が取 られている観光地域及び水源地帯近傍に位置して いる。Rockwood Litioは、これら保護地域へのプ ロジェクトの影響を評価するのに十分な情報を提 供しなかった ⅳ) 初期警告プラン:水利総局は、初期警告プラン が要求基準を満たさなかったと言明した Rockwood Litioは、閣僚委員会に環境影響評価書の 却下裁定の無効を求め、環境影響評価書は適切な環境 認可とともに適用される環境基準を全うしていると宣 言した。同社はさらに、環境基本法第11条b)、d)、e) で定められるものも含め、プロジェクトにより生じる 可能性のある環境影響全ての責任を負うことを表明し た。加えてRockwood Litioは、2011年9月の裁定前に プロジェクトの評価に利用された全ての情報の提供が なされなかったと訴えた。 しかし、必要かつ重要な情報の欠如により、プロジ ェクトによって生じる環境影響が正しく把握されてい ないとして、閣僚委員会は異議申し立てを却下した。 一方、プロジェクトの再評価及び4番目の統合レポ ート(ICSARA:環境評価局が作成する環境影響宣言 書または環境影響評価書に対する全ての所見を含む統 合レポート)の作成は受け入れられ、以下をRockwood Litioに要請した。 ・ 環境基本法第11条に従い、プロジェクトによる全て の影響及び効果を抽出、評価すること ・緩和、補償、修復措置を提案、提言すること ・ 部門別環境認可を含む適用される環境規則の明確化 及び法令遵守を証明すること ・ 地下水システムの元々の状況とプロジェクトの影響 範囲を考慮し、初期警告プランが発動する限界点を 決定すること 4番目の統合レポートは2013年6月にRockwood Litio へ送付され、同社はそれに対する4番目の回答書を 2014年1月に提出、2014年2月には、5番目の統合レポ ートがRockwood Litioに対し送付された。 2-6. Cerro Casale最適化プロジェクト
(1)オーナー企業:Compañía Minera Cerro Casale (Barrick Gold 75%・Kinross Gold 25%、以下
Cerro Casale) (2)所在地:第Ⅲ州(Atacama州) (3)社会環境問題の種類 憲法上の権利保護訴訟(Recurso de Protección) (4)概要 銅、金、銀の回収を目的とした露天採掘プロジェク ト。以前はAldebaránと呼ばれ、2002年に環境認可(裁 定番号014)を取得していたが、技術的な変更が行われ ることになり、2011年7月にプロジェクト変更の環境 影響調査書を環境評価局に提出、審査が行われた。 プロジェクト変更の環境影響調査書は、2013年1月 に承認された(裁定番号004)。 これに対し2013年2月、先住民族のCollaコミュニテ ィは、先住民族に対する協議が行われなかったとして 環 境 評 価 局 を 相 手 取 り 憲 法 上 の 権 利 保 護 訴 訟 を Copiapó上訴裁判所に起こした。
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チリの鉱業開発プロジェクトと社会環境問題2013年5月、上訴裁判所は先住民族コミュニティへ の必要な協議は行われたとして訴えを棄却した。 (5)訴訟の背景 2013年2月に環境評価局に対し起こされた訴訟は3件 である。 a.原告
・Aguas de Copiapo、Piedra Cogada、Piedra Colgada-Desembocadura、Copiapó、Caldera、 Tierra Amarillaの住民コミュニティ
・Lautaro Carmona Soto下院議員
・CopiapóのPaipote Cerro Casaleコミュニティ b.訴訟の法的根拠 原告は環境影響評価プロセスの中で先住民族へ の協議が考慮されなかったと訴えた。この事態は、 ILO第169号条約及び以下の憲法上の権利に抵触 するとした。 ⅰ) 人の生命及び個人の身体・精神の安全の権利 (第19条の1) ⅱ) 汚染のない環境で生きる権利(第19条の8) ⅲ) 道徳、公共の秩序及び国家の安全に相反しな い如何なる経済活動をも遂行する権利(第19条 の21) ⅳ) 財産権(第19条の24) 原告は、憲法で保障された権利に抵触するものとし て彼らの訴えを認め、新たな環境影響評価実施を Cerro Casaleに要求するための環境認可無効を求めた。 c.訴訟の背景 原告は、環境評価局が実施した評価プロセスが 次のとおり規則に従って行われなかったと訴えた。 ⅰ) 水源に関する十分な情報の欠如。鉱業のみが 水を必要とするのではなく、農業やその他の経 済活動も水を必要とする。このことは共和国憲 法第19条の21(いかなる経済活動をも実施する 権利)に抵触する ⅱ) 統合レポートに含まれていたCaldera市及び Copiapó市からの所見が回答書の中で考慮され ず、いくつかは環境評価局により除外されてい た。第1、第2、第3回答書に対する所見が、環 境評価プロセスに含まれず、第4回答書では回 答がなされていないと原告は訴えた。この様な 状況を鑑みると、プロジェクトの評価は完了し ていない ⅲ) Cerro Casaleは、生活様式や人々の習慣に対 するプロジェクトの影響を考慮しなかった。そ れらは、回答書にも盛り込まれなかった d.裁定理由 環境評価局が主張したとおり、原告は彼ら自身 の た め に 訴 え を 起 こ し て お り、Copiapó市、 Caldera市、Tierra Amarilla市の住民全ての利益 のためとしているのは、正当性がない。 環境評価局の業務に関し、同局が現行規則を遵 守して市民参加プロセスを実施したことが認めら れた。 Caldera市及びCopiapó市からの所見が考慮さ れなかったことについては、この種の訴えは異議 申し立て(Recurso de Reclamación)によって扱わ れるものとした。さらに、プロジェクトの環境影 響を適切に判断するため、本件のような所見は技 術的に分析されるべきとされた。 この判決で裁判所は、行政当局による決定の取り消 し目的で権利保護請求を利用することはできないとの 判断基準を明確にした。 先住民族コミュニティからの環境評価プロセスへの 参加に関する要求も退けられた。 法廷は、訴えが主に水源に対するプロジェクトの影 響に関する不安であることを明確にし、環境当局が適 切な水の使用を管理・点検するためのモニタリングを Cerro Casaleに対し求めていたことを鑑み、訴えを退 けた。 2-7. El Morro
(1)オーナー企業:Sociedad Contractual Minera El Morro(Goldcorp 70%・New Gold 30%、以下、 El Morro) (2)所在地:第Ⅲ州(Atacama州) (3)社会環境問題の種類 憲法上の権利保護訴訟(Recurso de Protección) (4)概要 El Morroプロジェクトは、金・銅の採掘を計画す る鉱業開発プロジェクトであり、2008年11月に環境影 響評価書を提出した。 2011年3月、特定の要請や義務を遵守するとの条件に よりプロジェクトの環境認可は承認された(裁定番号 49)。しかし、同時に先住民族開発公社は、地方環境委 員会の局長に対し、プロジェクトの位置が、羊や家畜 の放牧を生業としている先住民族の人々の生活や経済 状況に直接影響を与えるであろうことを報告した。 こ れ を 踏 ま え、 地 域 の 先 住 民 族 コ ミ ュ ニ テ ィ (Comunidad Agrícola Diaguita de los Huascoaltinos、
以下CADH)は、Copiapó上訴裁判所に対し憲法上の 権利保護訴訟を行い、裁判所はそれを認めた。これに より、El Morroプロジェクトは2012年初頭に建設凍 結に追い込まれた。 2013年2月、Copiapó上訴裁判所に2度目の訴えがな されたが、2012年のCADHからの要請事項はEl Morro
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チリの鉱業開発プロジェクトと社会環境問題が全うしたとして、環境評価局は2013年10月にプロジ ェクトの環境認可を承認した(裁定番号232)。しかし、 その1ヶ月後の2013年11月、先住民からの訴えを受け、 Copiapó上訴裁判所からプロジェクトの凍結が命じら れた。 2014年4月、プロジェクトが先住民の権利を侵害す る可能性があることを協議期間中に当局に訴えていな かったことから、環境認可承認に関して違法性は認め られないとして先住民族コミュニティ他の訴えを退け る裁定を上訴裁判所が下した。 この結果を受け、2014年5月、先住民族コミュニテ ィは最高裁判所へ上訴した。 (5)訴訟の背景と裁判所の裁定 a.訴訟の法的根拠と要請事項
2012 年 2 月、Fernando Campusano 氏 が Los Huascos Altinos農業コミュニティを代表し、El Morroプロジェクトの環境認可承認について、環 境当局を相手取り2件の憲法上の権利保護訴訟を 起こした。 原告は、環境認可を承認した裁定が以下の共和 国憲法第19条が保障する権利の一部に抵触してい ると訴えた。 ⅰ) 法の下の平等(第19条の2) ⅱ) 汚染のない環境で生きる権利(第19条の8) ⅲ) 道徳、公共の秩序及び国家の安全に相反しな い如何なる経済活動をも遂行する権利(第19条 の21) ⅳ) 共和国憲法第19条の26に準じた財産権(第19 条の24) また、ILO第169号条約で定められる先住民族へ の協議プロセスが実施されなかったことも理由の1 つとした。 原告は、権利の侵害であることから訴訟を認め、承 認済みの環境認可を無効とするよう裁判所に求めた。 さらに、原告は、地域コミュニティ維持に対する 保証を考慮し、先住民族法、ILO第169号条約、環 境規則に謳われている彼らの財産及び文化の権利を 認めた上で新たな調査をEl Morroに実施させるよ う政府に求めた。 b.訴訟理由 原告側が主張した訴訟理由は次のとおりである。 環境認可は、先住民族の土地にプロジェクトが 位置することを考慮していない。
Los Huascos Altinosコミュニティの土地と領 土遺産に対して不公平な扱いをしている。El Morroによると、約145か所の考古学的サイトが 直接的に損傷を受けたり、影響を受けたりするが、 国家遺跡審議会はさらに多くのサイトが影響を受 ける可能性があるとし、それらは環境影響評価書 の中では評価されていなかった。 また、以下の理由で環境認可には恣意性と非合 法性が存在する。 ⅰ) プロジェクトは、地域コミュニティの土地及 び水の権利に加え、習慣や生活様式をも侵害し ており、家畜飼育場移動の原因となった ⅱ) プロジェクトは、ILO第169号条約第6条、第 7条、第15条、第16条で定められた先住民族の 参加の権利を考慮していない ⅲ) プロジェクトは地域コミュニティCADHの先 住民族団体としてのステータスを否定し、環境 基本法及びその他規則で保護されているコミュ ニティないしは先住民及び部族民に対するプロ ジェクトの影響評価とそれに関する規則に違反 し、彼らを差別している
iv) Cazadero川上流のQuebrada Larga地域の牧 草地破壊はプロジェクトからの影響の1つであ り、環境影響評価の柱である予防の原則に違反 している ⅴ) 地域コミュニティの生産活動の発展に必要不 可欠となる財産権や天然資源を否定すること で、彼らの経済活動の発展を妨げている c.2012年4月の裁判所の裁定 環境認可は全ての人間へのプロジェクトからの 影響を考慮しておらず、プロジェクト周辺の土地 を保有する先住民族コミュニティの人々を無視し ていたとして、裁判所は訴えを認めた。環境認可 では、プロジェクトに直接影響を受ける3家族の みを考慮していた。 裁判所の見解によれば、環境認可で考慮された 3家族のためだけの緩和、再定住、補償措置を検 討し、国家遺跡審議会が指摘した影響を受ける可 能性のある他の人々のための措置を考慮していな いことは、法の下での不平等にあたる。また、農 業コミュニティが先住民族のステータスを有する 事実を無視することは、不動産登記所が認証して いる39.5万ha以上に及ぶLos Huascos Altinos農場 の土地の所有権を侵害するとされた。 プロジェクトの環境評価は環境当局によって規 制され、それは非常に技術的なプロセスであるた め、憲法上の権利保護請求が環境評価局の裁定を 無効にするのは適切ではないと裁判所は明言した が、今回の様な特殊ケースでは国内法(環境基本 法及び先住民族法)及び国際法(ILO第169号条約) を考慮する必要があると述べた。 その他の主張については、環境基本法第11条に よれば恣意的または非合法的活動とは異なる景 観、観光、考古学的かつ歴史的地区等に関する問 題であるとし、訴訟で検討される問題にはあたら ないとした。 このように、憲法上の権利保護訴訟は裁判所に
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チリの鉱業開発プロジェクトと社会環境問題認められ、El Morroが軽減・補償措置を伴う先 住民族コミュニティの再定住の問題を解決するま でプロジェクトは凍結された。 環境評価局は最高裁判所へ上訴したが、上訴裁 判所の裁定が確認された。 2-8. Pascua Lama (1)オーナー企業:Barrick Gold (2)所在地:第Ⅲ州(Atacama州) (3)社会環境問題の種類 憲法上の権利保護訴訟(Recurso de Protección) (4)概要 Pascua Lama金-銀プロジェクトは、世界初の二国 間鉱業プロジェクトで鉱床は国境を跨いで賦存する。 露天採掘を計画。チリ・アルゼンチン両国は、このプ ロジェクトの開発のための議定書を締結している。 2000年 にBarrick Goldは 子 会 社Compañía Minera Nevada SpA(以下、Minera Nevada)を通じて本プロ ジェクトの環境影響評価書を提出し、2001年4月に環 境認可(裁定番号39)が承認された。2004年には更新計 画の環境影響評価書が提出され、2006年2月に承認さ れた(裁定番号24)。2010年11月には、環境評価局がこ の環境認可の訂正を行った。 本プロジェクトの建設工事は2009年10月に開始され たが、2012年に非政府組織に後押しされた先住民族コ ミュニティは、建設現場から排出される砒素、アルミ ニウム、銅などを多く含む水がEstrecho川を汚染して おり、先住民及びその他のコミュニティが農業や個人 で利用する渓谷に影響を及ぼしていると訴えた。 2012年7月、Copiapó上訴裁判所が川の汚染を確認 したことを受け、Barrick Goldは同年10月にプロジェ クトの建設を中断した。同社は川を汚染したことはな く、規則を遵守し、環境保全のために必要な活動を継 続すると表明した。 2013年10月、Barrick Goldは同プロジェクトの建設 作業を無期限で中断することを発表した。 (5)訴訟と判決の背景 a.訴訟の法的根拠 Huasco渓谷の地域コミュニティ及び先住民族 (Diaguita族)コミュニティは、2006年に承認され た環境認可に対し、Minera Nevada及びAtacama 州環境評価委員会を相手取り、憲法上の権利保護 訴訟を起こした。 原告側の訴訟理由は、環境影響評価プロセスに おいて、先住民族への協議を考慮しなかったとい うもの。このことは、ILO第169号条約及び以下 の憲法上の権利に違反するとした。 ⅰ) 人の生命及び個人の身体・精神の安全の権利 (第19条の1) ⅱ) 汚染のない環境で生きる権利 (第19条の8) b.訴訟に至った背景 環 境 認 可 承 認 時 に 要 求 さ れ た 次 の 事 項 を Barrick Goldが遵守しなかったと原告側は訴え た。 ⅰ) 建設作業 Barrik Goldは廃棄物の発生による天然水の 汚染を防止し、酸性岩排水処理プラントの建設、 管理を行う必要があった。環境認可で定められ たこれらの要求は、地域の水源、主に氷河を保 護するのが目的であった。作業は剥土作業の初 期に行わねばならなかったが、実際には実施さ れていなかった。訴訟を起こした時点で約 1,200万tが剥土され、Estrecho川及びEl Toro氷 河の水源に直接的な影響が出ていると原告側は 訴えた ⅱ) 氷河モニタリング計画に関する合意の不履行 環境評価委員会は、地域の主要水源であるこ と を 鑑 み、Toro I 氷 河、Toro II 氷 河、 Esperanza氷河の移動、撤去、破壊、干渉を行 わないことをBarrick Goldに対し求めていた 原告は、2012年8月に環境評価委員会がBarrick Goldに対する制裁適用手続きを始めたにも関わ らず、罰則不適用としたことの説明も合わせて求 めた。 c.環境評価委員会の主張 ・ 環境影響評価プロセスが行われたのはILO第 169号条約発効前であるため、先住民族への協 議は要求されない ・ あらゆる政府機関は、必要なときにいつでも監 督し、制裁措置の適用ができる ・ 不作為については、監査プロセスに瑕疵はなく、 政府機関は調査及び監査の実施に責任を有する d.Barrick Goldの主張 ・ 訴訟で問題にされた事項に関し、環境評価局や 水利総局などとともに取り組む未決の行政手続 きがあることから、訴訟を拒否する ・ 不作為及び水管理システムや氷河に関連する水 源の状況を立証するものはない ・近傍に水はなく、川の汚染を否定 ・ 2012年は降雨が非常に少なく、酸性岩排水のリ スクはない ・ 様々な環境低減対策措置を講じており、予防原 則に従っている 上記の理由により、Barrick Goldは裁判所に対し
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チリの鉱業開発プロジェクトと社会環境問題て訴訟の却下を要請した。 e.判決の背景 評決は、Barrick Goldが環境認可の要求事項を 全うしたとの前提で行われたものの、同社は水源、 環境低減対策、氷河近傍道路の汚染に関する全て の資料を提出しなかった。 また、地質鉱業局などが2つの氷河(Toro I氷河 及びEsperanza氷河)に道路からの汚染が及んで いることを明らかにした。 環境監督庁及びその他政府機関が提示した資料 により、水源に対する環境影響は実際の脅威であ ることが示され、裁判所はこの状況を修復しなけ ればならないと決議した。 先住民との協議プロセスに関しては、環境影響 評価書が提出されたのがILO第169号条約の批准 前であったことから、必要なしと判定された。 これらの情報を基に、裁判所は以下を裁定した。 ⅰ) 環境評価局に対する訴訟は却下 ⅱ) Barrick Goldに対する訴訟は認め、同社に以 下の対策を要求 ・ 水管理システムに関し、Barrick Goldが環境 認可で定められている全ての措置を全うする までプロジェクトの建設を中断すること ・ 環境認可を再評価し、水源のベースラインが 変化していないか調査すること ・ 氷河のモニタリング計画を環境監督庁に提出 すること 2-9. Tres Valles
(1)オーナー企業:Sociedad Contractual Minera Tres Valles (以下、Tres Valles)
(2)所在地:第Ⅳ州(Coquimbo州) (3)社会環境問題の種類 環境認可付与に対する異議申し立て(Recurso de Reclamación) (4)概要 このプロジェクトには、銅カソード生産を目的とし た鉱石の採掘及び処理が含まれる。処理プラントの計 画粗鉱処理能力は5,400t/日。投資額は1億200万US$が 見込まれていた。 Tres Vallesは2006年に探鉱を開始、2008年11月に Coquimbo州国家環境委員会へ環境影響評価書を提 出、地域コミュニティから1,000件を超えるクレーム が提出されたにも関わらず環境認可(裁定番号265)が 承認された。 環境認可承認を受け、個人からの異議申し立てがあ ったが、環境当局及び閣僚委員会はその訴えを退けた。 2013年になりTres Vallesは、コミュニティから要 求された情報を考慮し、Coquimbo州環境評価局に2番 目の環境影響評価書を提出したが、2014年1月、Tres Vallesは手続きを取り下げた。 (5)異議申し立ての背景 2009年11月に承認された環境認可に関し、2010年3 月、Sonia Rojo Flores氏が閣僚委員会へ異議申し立て を行った。訴えは、以下を理由とし環境認可の無効を 求めるものであった。 ⅰ) Tres Vallesが提出した環境影響評価書では、生 活、土地、環境、水等の価値の評価を行っていな い。最も重要な懸念事項は水に関するもので、貧 困世帯から水を奪い、地域の水不足を招いている ⅱ) 環境影響評価書には、影響を受ける世帯への補 償計画に加え、影響の軽減措置や修復計画が考慮 されていない。農業が当該地域で最も影響を受け る活動の1つである この申し立てに対し、環境当局は規則に従って評価 は行われたとして検討を行わなかった。 全てのクレーム事項は、法が定めるところにより市 民参加プロセスで議論されているとして、閣僚委員会 も異議申し立てを却下した。 2-10. 砂金開発
(1)オ ー ナ ー 企 業:Copper Capital Minera La Montaña (以下、Copper Capital)
(2)所在地:第Ⅸ州(Araucanía州) (3)社会環境問題の種類 自発的な中止 (4)概要 このプロジェクトはColico川の堆積物からの砂金採 取を検討するもので、河床の状況に応じた段階的な採 掘が計画され、採掘現場を浄化するための川の迂回路 建設も考慮されていた。計画投資額は374,000US$であ った。 Copper Capitalは、Colico川からの砂金採取のため、 種々のプロジェクト評価を2009年から実施していた。 2009年12月に最初の環境影響宣言書が却下され、2011 年11月に提出した2番目の環境影響宣言書も認可され なかった。2011年11月末に3番目の環境影響宣言書を 提出したものの、その5ヶ月後、プロジェクト実施の ために受容可能な最低限の保証が得られないとして、 Copper Capitalはプロジェクトの中止を決定した。 (5)プロジェクト中止の背景 Copper Capitalは、2012年4月、Araucanía州環境評 価局地方局長にプロジェクトの中止決定を通知した。 プロジェクト断念に至った主な理由として、先住民
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チリの鉱業開発プロジェクトと社会環境問題族(Mapuche族)、地方政治家及びプロジェクトの環 境被害を喧伝する地域主義者グループからの圧力によ り、プロジェクト遂行に不可欠な保証が保たれていな かったとした。同社は加えて、当該地方における鉱業 開発に対する暴力レベルの高さに関する懸念も示し た。具体的な暴力事件は報告されていないが、脅迫等 があったという。 一方のMapucheコミュニティに率いられたプロジ ェクト反対派は、地域社会の自然遺産であるとして、 プロジェクトが環境に対し悪影響を与える恐れがある と訴えていた。 2-11. Invierno鉱山
(1)オーナー企業:Minera Isla Riesco S.A.(以下、 Isla Riesco) (2)所在地:第XII州(Magallanes州) (3)社会環境問題の種類 環境認可付与に対する異議申し立て(Recurso de Reclamación) (4)概要 チリ中央・北部地方の火力発電所の燃料となる石炭 の採掘・販売のためのInvierno石炭鉱床の露天採掘プ ロジェクトで投資計画額は1.8億US$。 Isla Riescoは2010年に環境影響評価書を提出、2011 年2月に環境認可が承認された(裁定番号25/2011)。 その後、環境認可承認に対し、個人等から異議申し 立てが行われた。 (5)異議申し立ての背景 a.原告
Nicolas Butorovic Alvarado氏 Oscar Gibbons Munizaga氏 全国動植物保護委員会(CODEFF) Hector Barria Henrique氏
b.異議申し立て理由 気象データや軽減措置及び補償措置などの情報 を 求 め て い た 環 境 評 価 委 員 会 の 所 見 が、Isla Riescoの回答書で十分に取り組まれなかった。 c.閣僚委員会の裁定とその後の対応 閣僚委員会は、4件の異議申し立てを認めたが、 Oscar Gibbons Munizaga氏からの1件は、環境影 響評価書の却下を求めていたため、退けられた。 Isla Riescoも異議申し立てを行い、古生物レポ ート及びプロジェクトの影響地域の植生の修復に 関する申し立ての一部が、環境評価委員会に認め られた。 環境認可は、環境評価委員会が申し立てについ
3. まとめ
ここまで、チリにおける開発停止プロジェクトの概 況と社会環境問題の影響を受けた鉱業プロジェクトの 実例を見てきた。 チリにおいて何らかの障害により停止したプロジェ クトは、エネルギーセクター及び鉱業セクターのプロ ジェクトでほぼ全てと言って良い状況である。エネル ギーセクターのプロジェクトの相当数が中止にまで追 い込まれているのに対し、鉱業セクターでは中止にま で至るプロジェクトは割合的には少ない。停止の要因 は、法廷闘争や環境基準違反、環境規制と言った社会 環境問題に関連したものが件数で半分、計画投資額ベ ースでは4割以上を占めている。 以下では、チリにおける鉱業関連の社会環境問題の 理解に役立つと思われるので、本稿で取り上げた社会 環境問題の影響を受けた鉱業開発プロジェクトの共通 要素を抽出・分析する。(表3参照) ここまでに見てきた11件の鉱業プロジェクトの社会 環境問題は、次の3つにタイプ分けできる。 (1)憲法上の権利保護を求めた裁判所への訴訟(6件) (2)環境認可承認または却下に対する閣僚委員会への 異議申し立て(4件) (3)地域先住民コミュニティからの圧力(1件) (1)の憲法上の権利保護を求めた6件の訴訟問題のう ち、4件が裁判所に認められている。環境影響評価プ ロセスにおいて、先住民族への協議を欠いていたとの 訴えは6件全てに含まれているが、その訴えが認めら れたのは2件である。Pascua Lamaプロジェクトへの 裁定は、環境監督庁の監査結果に基づいてなされ、環 境当局の監査が法廷闘争化した問題の裁定に影響を与 えうることを示している。 (2)の環境認可承認または却下に対する異議申し立 ては、環境影響評価システムに関する規則令に認めら れているもので、環境評価手続き却下に対しプロジェ クトオーナーが異議申し立てを行ったのが1件、環境 認可承認に対して地域コミュニティ等が異議申し立て を行ったのが3件となっている。後者のうち、申し立 て側の主張が一部ではあるが認められたのは1件であ り、残り2件は却下されている。却下された2件のうち、 1件は先住民族への協議欠如が争点となっている。 (3)は地元先住民コミュニティからの圧力によりプ ロジェクトが放棄されたもので、脅迫等があったとい われる。このケースのプロジェクトは、先住民運動の 激しいチリ南部に位置するもので、件数も1件だけで あり鉱業活動に関連する環境問題としては現時点で一 般的とはいえないだろう。 本稿での検証結果から、チリの鉱業開発を難しくし ていると言われる近年の法廷闘争化問題の多くに、 ILO第169号条約が求めるプロジェクトが直接影響を 与える可能性のある先住民族への協議が環境影響評価 プロセスにおいて行われたかどうかが争点となっていレポート
チリの鉱業開発プロジェクトと社会環境問題ることが分かる。 このような背景から、2014年3月に先住民族への協 議規則が施行された。この規則により、環境当局は定 められた手順に沿って協議プロセスを行えば、双方合 意の有無にかかわらず協議の遂行は認められるため、 協議の実施有無が法廷闘争の争点になることは今後減 少することが予想される。しかしながら、合意の義務 づけがないことにより、法廷闘争化が質を変えて続い ていく可能性がある。今後生じる法廷闘争化の問題に ついては、その争点を継続的に注目していく必要があ るだろう。 (2014.6.24) 参考文献
SOFOFA (2013) Observatorio de la Inversión. junio de 2013, 5p
表3. 本稿で取り上げた社会環境問題の影響を受けた鉱業プロジェクト及び問題のまとめ
Catanave
探鉱プロジェクト Los Pumas Pampa Hermosa 塩化カリウム乾燥・圧縮プラント拡張
Atacama塩 湖 に お け る天日蒸発池システ ムの変更及び改善
Cerro Casale 最適化プロジェクト オーナー企業 Southern Copper Minera Hemisferio Sur SQM SQM Rockwood Litio Cerro Casale 所在州 (Arica・Parinacata州)第XV州 (Arica・Parinacata州)第XV州 (Tarapacá州)第I州 (Antofagasta州)第II州 (Antofagasta州)第II州 (Atacama州)第III州 計画投資額
(百万US$) 0.95 100 1,033 20 17 5,200 環境影響評価手
続きの種類 環境影響評価(EIA) 環境影響評価(EIA) 環境影響評価(EIA) 環境影響宣言(DIA) 環境影響評価(EIA) 環境影響評価(EIA) 環境影響評価
プロセスの状況 環境認可承認 環境認可承認 環境認可承認 環境認可承認 評価中 環境認可承認 社会環境問題の
種類 権利保護訴訟 権利保護訴訟 異議申し立て 権利保護訴訟 異議申し立て 権利保護訴訟 申立側(原告) 先住民族コミュニティ及びPuture市長 地域コミュニティ(先住民族他) Aymaraコニュニティ(先住民族) 地域先住民族コミュニティ Rockwood Litio 地域コニュニティ及び国会議員 申立相手(被告) Arica・Parinacota州地方環境委員会 Arica・Parinacata州環境評価委員会 国家環境委員会 Antofagasta州環境評価委員会 Antofagasta州環境評価委員会 Atacama州環境評価委員会 申立先 Arica上訴裁判所 Arica上訴裁判所 閣僚委員会 Antofagasta上訴裁判所 閣僚委員会 Copiapó上訴裁判所
訴 訟/申 し 立 て 理由 ・ ILO第169号条約に 準じた先住民族へ の協議を考慮して いない ・ 憲法上の権利(第19 条1,2,8)への抵触 ・ ILO第169号条約に 準じた先住民族へ の協議を考慮して いない ・ 憲 法 上 の 権 利( 第 19条1,2,6,8,24)へ の抵触 ・ ILO第169号 条 約 に 準じた協議が先住民 族へ行われなかった ・ 先住民族法に則し た水源、環境基本 法に準ずる人民の 生活様式などが考 慮されなかった ・ ILO第169号条約に 準じた先住民族へ の協議を考慮して いない ・ 憲 法 上 の 権 利( 第 19条1,2,6,8,24)へ の抵触 ・ プロジェクトは環 境規則を全うして お り、 必 要 な 許 認 可を保有 ・ 環境評価委員会に よる関連資料の提 示なし ・ ILO第169号条約に 準じた先住民族へ の協議を考慮して いない ・ 憲 法 上 の 権 利( 第 19条1,8,21,24)へ の抵触 要求事項 環境認可の無効 環境認可の無効 環境認可の無効 環境認可の無効 環境影響評価書の受理 環境認可の無効 申し立てに対す る 裁 判 所/閣 僚 委員会の裁定 却下 承認 却下 承認 (最高裁で却下) 却下 却下 El Morro Pascua Lama Tres Valles 砂金開発* Invierno鉱山
オーナー企業 El Morro Barrick Gold Tres Valles Copper Capital Minera Isla Riesco 所在州 (Atacama州)第III州 (Atacama州)第III州 (Coquimbo州)第IV州 (Araucania州)第IX州 第XII州 計画投資額
(百万US$) 2,500 500 102 0.374 180 環境影響評価手
続きの種類 環境影響評価(EIA) 環境影響評価(EIA) 環境影響評価(EIA) 環境影響宣言(DIA) 環境影響評価(EIA) 環境影響評価
プロセスの状況 環境認可承認 環境認可承認 環境認可承認 中止 環境認可承認 社会環境問題の
種類 権利保護訴訟 権利保護訴訟 異議申し立て 中止声明書(自発的) 異議申し立て 申立側(原告) Los Huascos Altinosコミュニティ(先住民族)ティ(先住民族)及びDiaguita族コニュニ
複数個人
Sonia Rojo Flores
(地域コニュニティ) Minera La Montaña 個人・市民団体及びMinera Invierno 申立相手(被告) Atacama州環境評価委員会 Minera Nevada (Barrick Gold子会社) 及びAtacama州環境 評価委員会 Coquimbo州地方 環境委員会 Araucania州環境評価局地方局長 Magallanes州環境評価委員会 申立先 Antofagasta上訴裁判所 Copiapó上訴裁判所 閣僚委員会 Araucania州環境評価委員会 閣僚委員会
訴 訟/申 し 立 て 理由 ・ ILO第169号条約に 準じた先住民族へ の協議を考慮して いない ・ 憲 法 上 の 権 利( 第 19条1,8,21,24)へ の抵触 ・ ILO第169号条約に 準じた先住民族へ の協議を考慮して いない ・ 憲 法 上 の 権 利( 第 19条1,8)への抵触 ・ オーナー企業は環境 認可で求められた事 項を全うせず氷河に 影響を及ぼした ・ 環境影響評価書中 のプロジェクトの 影 響、 軽 減 措 置、 保証手段に関する 資料の欠如 ・ プロジェクトの環 境 影 響 に 関 す る Mapuche 族( 先 住 民族)、地方政治家、 地域主義者グルー プからの圧力 ・ オーナー企業はプ ロジェクト遂行に 必要な保証がない としてプロジェク ト中止 ・ 環境評価委員会の 所見に対するオー ナー企業の回答が 十分でなかった 要求事項 環境認可の無効 環境認可の無効 環境認可の無効 − 環境認可の無効 申し立てに対す 承認 環境評価委員会に対す 6件の訴訟のうち、5