⃝特集「鉄道会社と沿線まちづくりの課題と将来」
都市経済から見た京阪神圏の鉄道ネットワークのあり方
Urban Economic Perspective of Railroad Network in Keihanshin Area
政策研究大学院大学准教授
岡本 亮介
1. はじめに
都市は、様々な地域との間の交通の結節点であり、都 市内および都市間のフェイストゥフェイスコンタクトが 容易になることが、都市の生産性の向上につながる。ま た、買い物や娯楽のための移動が容易になることで、所 得水準一定の下での生活水準が向上する。さらに、集積 の不経済の要素である疲労などの非金銭的費用も含めた 通勤費を小さくすることで、より一層の都市集積が可能 となる。大都市の生産性・魅力の向上には、JR、私鉄、 および地下鉄からなる鉄道のネットワークが効率的に機 能することが重要である。本稿は、近年輸送実績を低下 させている京阪神圏の私鉄を中心に、鉄道ネットワーク と運営方法が都市構造と経済の効率性に与える効果につ いて考え、都市の生産性・魅力を向上する方法について 議論する。2. 東京圏と京阪神圏の鉄道
東京圏においては、依然として主要区間の平均混雑率 が 164%と高い水準にあるのに対し、京阪神(大阪)圏 では 124%にまで低下している(国土交通省資料、2015 年度)。この背景には、東京一極集中の反面としての京 阪神圏の経済的地位低下もあると考えられるが、京阪神 圏の鉄道自体の問題も大きい。そして、鉄道の利便性の 低さが放置されているために、京阪神圏が相対的に利便 性の低い地域となり、地域経済の衰退を招いていると考 えられる。 鉄道営業距離を見ると、東京圏の 2,458.6km に対し、 京阪神圏は 1,500.7km で東京圏の約 61%に相当する(『平 成 24 年版都市交通年報』)。鉄道路線規模だけで見れば 経済規模ほどの格差はなく、京阪神圏はむしろ鉄道路線 が充実しているように見える。しかし、鉄道分担率を見 ると、東京都区部 36.7%、横浜市 35.8% に対し、大阪市 30.0%、京都市 18.8%、神戸市 27.6% となっており、京 阪神圏の鉄道利用率の低さが分かる(平成 22 年度全国 都市交通特性調査、平日の値)。東京圏と京阪神圏では、 鉄道ネットワークの成り立ちが大きく異なり、それが利 便性の格差、さらに利用実態の差を生み出している。3. 京阪神における JR と私鉄
民営化前の国鉄は、東京圏を中心に鉄道整備を行って おり、京阪神圏は二の次という状況であった。そのため、 京阪神圏の国鉄路線はそのポテンシャルを生かせず、京 阪神圏は私鉄王国と呼ばれるような私鉄中心の生活文化 圏であった。私鉄との格差のある状態で発足した JR 西 日本は、それまでの東京圏中心の国鉄とは違い、大阪駅 を中心としたネットワークを利用した輸送の効率化策を 展開した。図1は、京阪神圏の JR 西日本在来線および 大手私鉄 5 社の輸送人キロの推移を示している。JR は 発足後(1987 年)から急激に輸送量を増やしているの に対し、私鉄はバブル崩壊後一貫して輸送量を減少させ ているのが分かる。 JR の優位性は、全国に広がるネットワークと高速性 にある。私鉄は比較的狭い範囲に路線網を持つため、人々 の移動が近距離に収まっていた JR 発足以前には、単独 の路線網で国鉄に対抗することができた。しかし近年は、 人々の移動が広域化している。図2は、関東および関西 地方内での都府県間流動の都府県内流動に対する比率を 示している(JR で定期券外の利用者のみ)。概ね、両地 域において県境をまたぐ移動の割合が増加しており、交 通行動の広域化傾向が見て取れる。すなわち、近年の消 費者の交通行動は、より広域のネットワークを持つ JR が相対的に優位になるように変化しつつある。私鉄は、 このような変化に対応することが必要となる。4. 私鉄の JR・地下鉄との接続
東京圏においては、国鉄が国の計画に基づき輸送の中 核となり、私鉄はそれを補完するため国鉄に接続するよ うにネットワークが形成されてきた。国鉄にとっては東 京圏の整備が最優先で京阪神圏の整備は大きく遅れてい た。そのため、京阪神圏では私鉄が中核となって、都市 圏内輸送を担うという形が定着した。このような構造は、 JR 発足後 30 年近くたっても変わっていない。図3は、 東京圏と京阪神圏の放射状路線を持つ大手私鉄が持つハ ブ駅(3 以上の方向に路線が伸びる駅)を示している1)。 縦軸はハブ駅数を営業距離で割ったものであり、特に JR との接続を黒で示している。多数の路線が密集する 地域を地盤とする阪神の値が高いこと以外に、東京圏と 京阪神圏で、全体の数値では大きな違いは見られない。 しかし、JR との接続に限ると、京阪神圏において小さ い傾向があり、特に阪急は極端に小さい。京阪神圏では JR・私鉄間の乗り継ぎ場所が限られており、営業距離 の割にネットワーク効果が十分に発揮されていないこと を示している。 さらに、京阪神圏の乗換駅では、歩行距離が長く、混 雑と所要時間により利便性を大きく損ねているケースが 多数ある。『第 12 回年度大都市交通センサス』(2008) によると、首都圏、近畿圏での平均乗換え水平移動距離 は、首都圏で 191.6m、近畿圏で 220.3m となっている。 本来、鉄道網が複雑になるほど乗換移動距離が長くなる はずであるが、逆になっていることは、近畿圏の乗換が 必要以上に不便であることを意味する。 乗換の利便性を高めることは重要であるが、複数の路 線にまたがる移動のために最も利便性の高い方法は相互 直通運転である。直通運転においても、京阪神圏は東京 圏に比べて大幅に劣っている。東京の放射状路線では、 都心部へ乗換なしで達することができない路線の方が少 なく、都心部を貫通し反対側の郊外まで達する路線も多 数ある。東京の地下鉄で他の路線と直通しない路線は、 銀座、丸の内、大江戸線の3線のみである。逆に、大阪 の郊外から都心部を貫通し反対側の郊外まで達する路線 は少なく、JR 東西線および近鉄奈良線・阪神難波線の 相互直通のみである。大阪の地下鉄で他路線と直通する のは、堺筋線のみである2)。5. 鉄道ネットワークと都市構造
交通ネットワークは都市構造に影響を与える。人々の 移動がより広域になることは、地域間の競争がより広域 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 1990 1995 2000 2005 2010 図1 京阪神圏鉄道輸送人キロの推移 出所:JR 西日本資料 0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 図3 営業距離あたりハブ駅数 出所:筆者計測 0.29 0.3 0.31 0.32 0.33 0.34 0.35 0.36 0.37 2000 2005 2010 図2 都府県間・都府県内流動比率(JR 定期外利用) 出所:地域旅客流動調査 1) 都市的路線に注目するため、東武は栗橋、羽生、坂戸駅、西武は飯能駅、近鉄は桜井駅、南海は橋本駅より先を計算から除外している。また、路 面電車区間は排除している。同一駅名でも実質的に乗換駅として機能しない場合は接続駅に含めていない。 2) 北大阪急行線と近鉄けいはんな線は、新たに既存の地下鉄と直通することを前提に作られた距離の短い路線であり、実質的に地下鉄の延伸である。 また、堺筋線は、片側で阪急京都線と直通している。になることを意味する。そのような状況で、広域ネット ワークのハブが成長し、広域の集客ができない地域は衰 退する。多くの大都市で JR の駅前地区が新たな商業地 として発展し、旧来の中心地が衰退するという現象が見 られるが、その背景として交通ネットワークを考慮しな ければならない。 大阪駅前である梅田地区は多くの路線が集まるだけで なく、JR で遠方からの集客が可能である。それに対し、 大阪の旧来からの中心地心斎橋地区には地下鉄しか通っ ておらず、乗換なしで集客できる範囲はほぼ大阪市内に 限定される。図4は、梅田地区と心斎橋地区の地価比率 の推移を見たものである。縦軸は、梅田の地価を心斎橋 の地価で割ったものである3)。相対的に梅田の地価が上 昇しているが、近年その傾向が顕著になってきている4)。 東京の銀座地区には、郊外から直通できる路線が複数存 在し、依然として東京における商業の中心地であり最高 地価地点であるのとは対照的である。 心斎橋が位置する大阪市中央区域は、豊臣秀吉の城下 町建設以降、大阪(大坂)の中心であり続けた。中央区 の国勢調査人口は、1960 年に 133,220 人でピークとなっ て以降、1995 年に 52,874 人まで減少を続けた(ドーナ ツ化現象)。そこから上昇に転じ、2015 年に 93,037 人に まで回復している。大阪市全体では 1995 年から 2015 年 の間に約 3.4%しか増加していないので、中央区の回復 ぶりが際立つ。しかし、この変化は、中心業務地区が徐々 に住宅地に変化しつつあることを示している。地価の動 きと合わせて考えると、大阪の中心地が梅田地区にシフ トしていることを示している。
6. 新駅・改札口の設置
新駅の設置は、遠くの駅まで長距離を歩いていた利用 者の移動費用を減少させるという利益をもたらす。しか し同時に、新駅設置によって停車駅が増えると、新駅を またぐ利用者にとっては、乗車時間が長くなるという不 利益も生じる。国土交通省鉄道局(2012)による鉄道プ ロジェクトの評価では、このような効果は考慮されてい ない。 新駅設置の是非を簡単に検討するための情報を整理し てみよう。まず、新駅は他路線と接続しない駅(非乗換 駅と呼ぶことにする)で、普通列車のみ停車するものと する。新駅利用者の便益は、既存駅を利用するよりも駅 までの歩行時間が短縮されることであり、平均 t1分の 短縮、歩行時の時間費用を c1円 / 分とする。新駅利用 者が n1人とすると、利益の合計は t1 c1 n1円となる。新 駅設置によって普通列車の運行時間が t2分延び、乗車 時間当たりの利用者の時間費用を c2円 / 分とする。新 駅をまたいで乗車する人数を n2人とすると、他の駅の 利用者の不利益は、t2 c2 n2円となる。新駅設置の是非は、 t1 c1 n1 - t2 c2 n2が建設費に比べて十分に大きいかどうか による。既存駅間距離が長いほど新駅設置によって節約 できる時間 t1が増加し、利用者 n1も増える。速達列車 の利用割合が大きい場合には、n2が小さくなる。また、 列車内の混雑がそれほど激しくなければ、乗車時の疲労 は小さくなり c2は c1に比べて小さくなる。このような 観点で、十分大きな t1 c1 n1- t2 c2 n2が得られるような箇 所を見つけて、さらに詳細な需要予測や建設費の推定を して最終的な判断をすべきである。線路は近くにあるの に駅は利用しづらい、というような地域を少なくして、 鉄道の利用率を上げることを図るべきである。 路線間の乗換駅を新設することは、非乗換駅の設置よ りもはるかに大きな効果となる。新駅周辺を出発地・目 的地とする利用者については、上の t1 c1 n1を計算すれ ばよいが、追加的に乗換利用者の利益が発生する。それ まで都心の混雑するターミナル駅で乗り換えて遠回りし ていたのが、乗換時の混雑が緩和されて乗車距離も短縮 3) 梅田地区の地価は、大阪駅、梅田駅、東梅田駅、西梅田駅を最寄り駅とする調査地点、心斎橋地区は心斎橋駅を最寄り駅とする調査地点のうち、 各年の最高地価としている。そのため、年によって調査地点は変化している。 4) 2016 年に心斎橋地区が急上昇したため異常な動きとなっているが、要因は不明である。2012 年から 2015 年を異常値として捉えたとしても上昇傾 向にあることは変わらない。 1 1.2 1.4 1.6 1.8 1995 2000 2005 2010 2015 図4 梅田・心斎橋地区の地価比率 出所:地価公示できるようになる。図3で示したように、京阪神圏の私 鉄と JR との乗換駅が少ない傾向にある中でも、特に阪 急が少ない。阪急と JR の路線が交差するもしくは接近 する箇所は、数多くある。また、近鉄は奈良盆地内に多 数の路線を持つが、やはり JR との交差点は多い。これ まで京阪神圏において軽視されてきた JR・民鉄間の乗 換駅を新設することで、私鉄から JR に乗り換えてより 遠方とつながるネットワーク効果を発揮することができ る。 新駅設置は新駅を利用しない人にとっては損失をもた らす可能性があるが、ほぼすべての利用者に利益をもた らすのが、改札口や通路を新設して乗換や目的地までの 歩行時間を短縮させることである。出発地から駅の改札 口、改札口からホームでの乗車位置、降車位置から改札 口、改札口から目的地の移動を考えると、すべて改札口 の数が増えることによって距離を短縮させる余地があ る。また、混雑する駅では歩行速度が大幅に落ちる。改 札口の増設によって、距離が短くなるばかりでなく、混 雑も緩和され歩行速度が上昇する5)。
7. 混雑と運賃制度
JR、大手私鉄、地下鉄の運賃は、公正報酬率規制に 基づいており、設備や輸送量などの指標を用いて算定さ れる基準コストに基づいて規制水準が決定される6)。乗 換の利便性向上や混雑解消などの利用者の便益は、直接 的な形で運賃収入に反映することはない。また、仮に間 接的に運賃に反映させることができたとしても、そのこ とでかえって非効率化する可能性がある。経済学的には、 価格が限界費用に等しく設定されることで効率性が達成 される。したがって、利用者の利便性を向上させても限 界費用が変化しない限り運賃を変化させるべきではな い。このとき発生する消費者余剰は、利便性の高い鉄道 沿線に住むことの利益なので、最終的には地代に帰着す る(土地への資本化)。鉄道のような規模の経済が存在 する事業においては、限界費用価格形成の下で赤字が発 生する。消費者余剰によって沿線の地代が上昇した分を 事業者に補填して利潤がゼロとなるような状況が最適投 資水準となる7)。 実際に計算すべき限界費用は、金銭的費用だけでなく 混雑費用も含めた社会的限界費用である。山鹿(2006) は JR 中央線のデータを用いて列車内の混雑効果を分析 し、ピーク時には現行の定期運賃額の 2 から 3 倍の価格 に設定する必要があることを示している。ピーク時に現 行よりも高い運賃を徴収した上で、赤字が出るような状 況が最適であるので、オフピーク時の運賃は、現行より もはるかに低い水準にしなければならないことが分か る。現在は、多くの乗客が IC 乗車券を使っているため、 乗車時間ごとに変わる運賃額を設定するのは容易になっ ている。京阪神圏では東京圏に比べて混雑率は低いとは いえ、着席できない乗客がいる状況には変わりはなく、 ピークロードプライシングを導入することの利益は大き い。オフピークに余裕のある設備を効率的に稼動させ、 鉄道利用率を上昇させることが必要である。 列車内の混雑以上に重要な問題は、駅の混雑である。 駅のホームが混雑すると、乗り降りに時間がかかり、停 車時間が長くなる。また、駅通路の混雑により、歩行速 度が大幅に低下する。上で議論したように、改札口と通 路を増設することで混雑は緩和されるが、なくなるわけ ではない。これには、現行の初乗り運賃に代わって、駅 の混雑料金を設定することで対処できる。駅の混雑を反 映した駅利用料金と列車の混雑を反映した列車利用料金 の合計を徴収する料金制度である。このような運賃設定 によって、混雑する駅を利用する代わりに 1 つ手前の混 雑しない駅を利用したり、混雑しない時間帯に利用する という行動を促進し、駅混雑の緩和につながる。8. 広域行政・大都市制度
東京の地下鉄の多くが直通する私鉄に合わせて建設さ れているのに対し、大阪市営地下鉄は、大阪市内で完結 することを前提として、私鉄との直通が不可能な第三軌 条方式が採用されている。大阪の郊外に住む人々は、通 勤、通学、買い物などで都心部へ移動する際に、乗換に よって大きな不便を強いられる。大阪都心部の不動産所 有者や企業にとっても収益の低迷をもたらしている。 私鉄との相互直通化や乗換の利便性向上を政策によっ て行うことを阻むのが現行の大都市制度である。大阪市 は、大阪大都市圏の中で、中心部の非常に狭い範囲を市 域としていながら、政令指定都市として府並みの大きな 5) 岡本(2013)はこの利益が非常に大きいことを主張している。 6) 詳しくは、水谷(2014)が解説している。 7) これをヘンリージョージ定理と呼び、金本 (1992) などが理論的な解説をしている。権限を持っている。大阪市外に住む人々は、選挙によっ て大阪市政に影響を与えることができない。大阪都心部 の不動産所有者、都心に立地する企業の株主なども、多 くが大阪市外に住む。これらの人々の利益は、大阪市政 には反映されない仕組みとなっている。このような状況 を少しでも緩和する方策が、大阪都制度である。政策に より利益・不利益を受ける範囲と自治体の範囲を一致さ せる制度を実現することが、効率的な自治体運営のため に必要であり、このような視点で大阪都構想の議論をす べきである。東京の鉄道網が、中心部と郊外で一体化さ れている背景には、東京都が中心部と郊外を一体的に管 轄していることもあると考えられる8)。ただし、東京都 制度も東京都市圏の効率的運営のために完全ではなく、 埼玉、千葉、神奈川などから東京へ来る人々の利益を反 映させることはできない。大阪都が実現した場合も同様 で、京都、兵庫、奈良の人々の利益を反映しないため、 完全な制度とは言えない。より長期的には、道州制など によって効率的な鉄道整備を目指す必要がある。 しかし、個別の鉄道沿線のまちづくりについては、よ り小さい自治体で地域の個性を追求することが可能であ る。都心に通勤する人は、都心周辺の住宅地のうち、自 分の好みの生活環境に最も近い住宅地を選択することが できる。生活スタイルの多様化、外国人労働者の増加な どにより、人々の求める生活環境が多様化すると、この ような住宅選択問題はより重要になる。このような状況 で、地方分権により各自治体が個性を追求するまちづく りを指向するようになると、実際に各鉄道沿線に様々な タイプの人材が分離居住するようになる。このとき、多 様なタイプの人材を雇用する企業は、都心に立地するこ とで労働者の通勤費を抑えることができる9)。つまり、 都心への企業の集中を促進することになるので、都心か らの放射状鉄道の利便性を追求することは、今後も重要 な課題である。
9. 人口減少と環境問題への大都市の役割
少子化によって日本人労働者が減少しても、高スキル の外国人労働者を受け入れることで労働人口の減少を抑 制させ、GDP の成長を促進することはできる。しかし、 仮に人口減少を前提としても、それは、大都市への集中 度を高め、集積の経済を利用して 1 人あたり所得を高め るチャンスである。 交通政策を考える上では、環境問題も重要な視点であ る。自動車の利用を抑制して CO2排出の少ない鉄道依 存度を高めることが重要である。大都市ではすでに大き な鉄道インフラが整備されているため、自動車依存度が 高い地方小都市や農村部から大都市への人口移動を促す ことで CO2排出を削減することができる。利用者の極 端に少ないローカル鉄道の赤字補填をしたり、地方部の 道路整備に多額の支出をしたりするよりも、大都市部の 鉄道を整備する方が、長期的に財政支出を削減し、温暖 化を抑制し、経済成長を促進するなど様々な正の効果が 期待できる。 京阪神圏が衰退しているのは時代の流れと片付けてし まわずに、これまで放置され続けてきた鉄道の利便性の 低さを直視して改善を図り、そのポテンシャルを生かす べきである。日本経済の中で京阪神圏の果たす役割は大 きく、その中で鉄道が地域の生産性・魅力を高めるため に果たす役割は大きいのである。 (参考文献) 岡本亮介(2013)「大都市の生産性を高める空港・鉄道インフラ整備」『日 本不動産学会誌』26 巻(4 号)、pp.90-95. 金本良嗣(1992)「空間経済と交通」藤井弥太郎・中条潮編『現代交通 政策』東京大学出版会、第 7 章、pp.117-129. 国土交通省鉄道局(2012)『鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル (2012 年改訂版)』 水谷淳(2014)「鉄道事業におけるヤードスティック規制−基準コスト 算出方法の検討−」『運輸政策研究』17 巻(2 号)、pp.20-27. 山鹿久木(2006)「通勤の時間と疲労費用の計測と混雑料金の導出」八 田達夫編『都心回帰の経済学』日本経済新聞社、第 5 章、pp.147-164. Okamoto, Ryosuke (2007) “Location choices of firms and workers in an urban model with heterogeneities in skills and preferences” Regional Science and Urban Economics Vol.37 No.6, pp.670-687.8) 1943 年に東京都が成立して以降に計画された地下鉄で、他の路線と直通しないのは、大江戸線のみである。 9) 理論的には、Okamoto(2007)によって示されている。