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研究論文 : 報告 RESEARCH REPORT Received October 11, 2011; Accepted January 22, 2012 戦後日本の家具小売業店頭展示の変遷と木製家具メーカーの販促手法戦後日本の家具小売業店頭展示の変遷と木製家具メーカーの販促手法 家具小売専門店

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要旨 家具小売専門店・百貨店家具売場における家具の展示方法は、 1950・60 年代は平場展開が全盛であったが、70 年代の海外家 具メーカーのギャラリー展開を機に、ルーム展開が導入された。 80 年代はルーム展開と平場展開が並列したが、バブル崩壊を経 て、90 年代以降は平場展開に回帰した。ライフスタイル提案型 ショップは、70 年代の海外家具メーカーのギャラリー展開にそ の萌芽が見られ、80 年代初めから 90 年代中盤に興隆期を迎え た。90 年代中盤以降は小規模化し、一点豪華主義的になった。 主要木製家具メーカーのコスガは、トータルインテリアコーデ ィネート家具シリーズを家具小売業の店頭にギャラリー展開す るため、70・80 年代には家具だけのルーム展開プランを販売店 側に提案したが、90 年代以降は、ライフスタイル提案型ショッ プの影響を受けて、家具と生活雑貨を展示する生活感溢れる提 案へと販売促進手法を変化させた。コスガのギャラリー展開の 情報源は、アメリカの家具小売市場におけるイーセン・アーレ ン等の家具メーカー主導のギャラリー展開の事例であった。

Summary

In 1950s and 60s furniture retailing stores and department

stores were filled with lots of furniture. As foreign furniture

manufacturers’ galleries opened in 70s, room setting display

was introduced. In 80s there was a mixture of room setting

display and non-room setting display. After the collapse of

the bubble economy, non-room setting display became

dominant. Germination of life style shops was found in

the furniture galleries in 70s, and from 80s to mid 90s

they flourished, but after mid 90s they scaled down and

became like art galleries. Kosuga made display plans of

furniture alone for furniture retailers in 70s and 80s, but

from 90s onwards, having been influenced by the life

style shops, Kosuga proposed display plans of furniture

with interior accessories. Kosuga took the idea of

furniture gallery display from American furniture

manufacturers’ franchise showcases / gallery operations,

such as Ethan Allen.

1. はじめに 1. 1. 研究目的 終戦直後の復興期から高度経済成長期にかけて、戦後日本の 家具小売専門店や百貨店家具売場では、家具を山のように積み 上げて展示していた。しかしいつのまにか家具小売専門店や百 貨店家具売場からそのような姿が消えて、家具とインテリアア クセサリーを展示するインテリアショップへと変貌を遂げた。 そのような変化は、いつ、どのように起こったのであろうか。 戦後日本の家具小売業(家具小売専門店・百貨店家具売場)の 店頭展示の変遷を知ることができる網羅的且つ詳細で一貫した 歴史資料として『木工界/室内』(工作社:1955.1-2006.3)に 掲載された家具小売業の店頭展示に関する記事及び掲載当時の 実際の店頭展示風景写真を挙げることができる[注1]。そし てこれらは未だ整理・分析・考察されていない。そこで本稿で は、まず『木工界/室内』に所収された家具小売業の店頭展示 に関する記事及び実際の店頭展示風景の写真を整理・分析する ことを通して、戦後日本における家具小売業の店頭展示の変遷 を明らかにすることを第一の目的とする。次に、論者はこれま で戦後日本における木製家具メーカーの実物利用型の販売促進 活動について、「新作家具展示会」[注2]及び「常設ショール ーム」[注3]の概要とその変遷に関する論考を重ねてきた。 本稿ではこれまでの議論を踏まえて、「家具小売業の店頭展示」 に対する木製家具メーカーの販売促進手法の特質を把握し、そ の変遷を明らかにすることを第二の目的とする。尚、本稿では ホームユース家具市場に注力した主要木製家具メーカーの一つ であったコスガ[注4]に着目して、家具小売業の店頭におけ る自社製品の展示方法に関する販売促進手法の特質を把握し、 その変遷を明らかにする。コスガの有力な競合企業であったカ リモク、マルニ木工、飛騨産業等も、コスガと類似した販売促 進手法を採用したので、コスガの事例を検討すれば、家具小売 業の店頭展示に対する木製家具メーカー側の販売促進手法とし て一般化できると考える[注5]。合わせて、家具小売業の店 頭展示に対するコスガの販売促進手法の情報源がどこにあった のかを明らかにすることを第三の目的とする[注6]。 1. 2. 研究方法 まず『木工界/室内』(工作社:1955.1-2006.3)全冊を渉猟

戦後日本の家具小売業店頭展示の変遷と木製家具メーカーの販促手法

─家具小売専門店・百貨店家具売場の店頭展示とコスガの販売促進手法との比較研究

Progress of Store Display at Furniture Retailers and Marketing Promotion Methods of

Wooden Furniture Manufacturers in Postwar Japan

─Comparison of Store Display at Furniture Retailing Stores and Department Stores with Marketing Promotion Methods of Kosuga ● 新井竜治

共栄大学 Arai Ryuji Kyoei University

Key words : Store Display, Furniture Retailer, Marketing Promotion Method

Summary 要旨

研究論文: 報告 RESEARCH REPORT

Received October 11, 2011; Accepted January 22, 2012

戦後日本の家具小売業店頭展示の変遷と木製家具メーカーの販促手法

-家具小売専門店・百貨店家具売場の店頭展示とコスガの販売促進手法との比較研究

Progress of Store Display at Furniture Retailers and Marketing Promotion Methods of

Wooden Furniture Manufacturers in Postwar Japan

-Comparison of Store Display at Furniture Retailing Stores and Department Stores with Marketing Promotion Methods of Kosuga ● 新井竜治

共栄大学 Arai Ryuji Kyoei University

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して、家具小売専門店及び百貨店家具売場の店頭展示に関する 記事を整理して一覧表(表1)に纏めた。これらの記事中に掲 載された実際の店頭展示風景の写真及び記事内容を精査分析す ると、①「平場展開とルーム展開との鬩ぎ合い」という「家具 の並べ方」の問題と、②「多様な家具スタイルの集積型ストア と特定ライフスタイルの提案型ショップとの競合」という「ス タイルを絞るか否か」の問題という2つの位相が存在すること が判った。そこで前者については、(1)平場展開の全盛期、(2) ルーム展開の本格的出現期、(3)ルーム展開と平場展開の並 列期、(4)平場展開への回帰期という4期に分けて、各期の 代表的事例の分析を通して、各期の特質を把握した。また後者 については、多様なスタイル展開は、戦後日本の家具市場の一 般的事象であった[注7]ので、ここではライフスタイル提案 型ショップに焦点を当て、(1)ライフスタイル提案型ショッ プの導入期、(2)同・興隆期、(3)同・転換期という3期に 分けて、各期の代表的事例の分析を通して、各期の特質を把握 した。尚、百貨店家具売場では、戦後復興期に話題を浚った大 丸、百貨店家具売場にルーム展開を戦後初めて導入した西武池 袋、家具インテリア単館であった小田急ハルク、新宿丸井イン テリア館、丸井インザルーム等を代表的事例とした。また家具 小売専門店では、コスガ KF 会メンバーであった家具の大正堂、 原家具、郊外型大型家具小売専門店の早期の事例である村内ホ ームセンター八王子店、家具の山新等を代表的事例とした。ま たライフスタイル提案型ショップでは、国際家具産業振興会編・ 発行『わが国家具産業の概要』(2002)の「日本の家具流通概 況」の章中に登場するフランフラン等を代表的事例とした。と ころで論者は、新作家具展示会の変遷に関する論考の中で、1970 年代中盤以降、国際的な家具取引の影響が日本国内に波及した ことを指摘した[注8]。そしてこの時期以降、海外家具メー カーの製品の直輸入、デザインの導入、技術提携だけでなく、 海外家具メーカーの「売り方」や「見せ方」までもが日本国内 に導入された。本稿ではこの点を明示するために、百貨店家具 売場や家具小売専門店の店頭に実際に陳列されたアルフレック ス・ジャパン、イーセン・アーレン、ハビタ・ジャパン等の外 資系企業(日本法人)の店頭展示の事例も採り上げた。 次に、コスガの主要トータルインテリアコーディネート家具 シリーズを、家具小売専門店や百貨店家具売場にギャラリー展 開するために作成された販売促進企画書の内容を整理・分析し て、その特質を把握した。事例とした家具シリーズは、(1) Human Live、(2)New England、(3)THE PER DUE SHOP、(4) PROVENCE World、(5)New England Regent House COLLECTION の各シリーズである。それから、家具小売業の店頭展示に対す るコスガの販売促進手法の情報源についても検討した。 2. 家具小売専門店・百貨店家具売場の店頭展示の変遷 2. 1. 平場展開とルーム展開との鬩ぎ合い[注9] (1)平場展開の全盛期 (a)大丸百貨店(図1) 1954 年 に開店した大丸百貨店東京店は、「家具の大安売り」で大評判

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(a) 和家具売場 (b) ダイニングセット売場 (c) 収納タンス売場 (a) ムラウチ家具店(八王子) (b) 宮田家具(笹塚店) (c) うさわ家具店(黒磯町) になり、その後 10 年間ほど大丸人気が続き、「家具なら大丸」 という時代があった[注 10]。当時の大丸百貨店東京店は中二 階式の構造で、1・2階が衣料品売場、3~5階が家具売場で あった。家具の大安売りの大丸百貨店らしく、店内には家具が 沢山陳列されており、典型的な平場展開が見られた[注 11]。 (b)郊外の家具小売専門店(図2) 1965 年1月から9月ま で『室内』に連載された高篠薫一郎氏(日本店舗設計家協会会 員)の「家具店の設計」という記事の冒頭に、当時の家具小売 専門店の風景を如実に描写した記述がある。「・・・どこの家具店 もまるで材木屋みたいに、天井いっぱい、店内所狭しと商品を つめこんで、・・・たとえば右と左にタンスを並べる上に下駄箱 や肘掛イスをのせている店がある。ひどいところではタンスの 上にもう一本タンスをつんで、まるで倉庫のような店で商売し ている・・・」[注 12]。そして掲載された家具小売専門店の店内 写真にも、百貨店家具売場よりも更に所狭しと家具が並べられ た平場展開的展示風景が見られる。例えば、図2の八王子のム ラウチ家具店[注 13]、宮田家具笹塚店[注 14]、黒磯町のう さわ家具店[注 15]等の店内写真には溢れるような応接セット、 食堂セットが見える。 (2)ルーム展開の本格的出現期 (a)アルフレックス・ジ ャパン(青山通り)(図3) アルフレックス・シャパンは、イ タリアに渡った保科正が製造及び販売のライセンスを得て帰国 して 1969 年に設立した日本法人であり、イタリアのモダンデ ザインの家具を国内で製造・販売する「ライセンス生産」メー カーであった。そして、イタリア本社のデザインの他、日本オ リジナルのデザインも開発した。保科正氏によれば、創業直後 の 1970 年代はアルフレックス・ジャパンにとって不遇の 10 年 間であった。しかしその中から、アルフレックス・ジャパンの 二つの基本理念が考案され実行に移された。一つ目は「道具を 売るのではなく、ライフスタイルを売る」、二つ目は「日本オ リジナルのモダンファニチャー:イタリアのセンスを活かしな がら日本の現代生活に適合する家具」というものであった[注 16]。アルフレックス・ジャパンが創業後まもなく青山通りに 構えたショールーム兼直販店[注 17]を 1974 年に『室内』編 集部が取材している。当時のショールームはワンフロアーで構 成され、床はスッキプフロアになっていて、各スペースのイン テリアを色で統一していた。特筆すべきは、専属ディスプレイ デザイナーを3名置いて、毎月ディスプレイを変え、その都度 (a) 入口右側 リビング・ダイニング (b) 入口正面 円形ダイニング (c) 平面図・家具レイアウト図 (a) ダイニングルーム (b) リビング・ダイニングルーム (c) ベッドルーム (a) スタジオカーサ (b) LDプラザ (c) リビングセット売場 ラフスケッチを描き、図面に起こしていたことである[注 18]。 レイアウト図(図3(c))から判る通り、店内全部がルーム展 開になっている。またインテリアアクセサリーも沢山飾られて いる。正に道具を売るのではなく、ライフスタイルを売るとい うコンセプトが体現されている。この点では、同店は後述する ライフスタイル提案型ショップの先駆けでもあった。 (b)イーセン・アーレン・ギャラリー(図4) アーリー・ア メリカ・スタイルの家具メーカーのイーセン・アーレン(ETHAN ALLEN)のフランチャイズ・ギャラリーが横浜双葉家具、サァ ラ麻布、イズミ家具(横浜元町)、三越本店等で展開され始め たのは 1970 年代後半であった。横浜双葉家具のイーセン・ア ーレン・ギャラリーは 1978 年に導入され、モデルルームは寝 室、居間、子供部屋等の 10 室で、ドア・窓の建具を入れて完 全な部屋を構成した。また 8 畳・6 畳という部屋の広さも表示 された。そしてインテリア相談室(スタッフ 9 名)と連携して 販売に当たった。一方サァラ麻布のイーセン・アーレン・ギャ ラリーは、図4に示す通り、居間、食堂、寝室等の 10 室で構 成され、固定壁で仕切られた完全なルーム展開となっていた。 『室内』では「生活再現型ディスプレイ」の一例として幾度も 紹介されている[注 19]。イーセン・アーレン・ギャラリーも 後述するライフスタイル提案型ショップの早期の事例であった。 (c)西武百貨店池袋店(図5) 1979 年2月の『室内』で、 横浜高島屋と並んで、「ディスプレイに注力しているデパート」 として紹介された西武百貨店池袋店[注 20]は、1980 年 11 月 の『室内』では、「インテリア専門店になった西武池袋店」と して再度紹介されている。この記事は「インテリアゾーン」(5・ 6階:売場面積約 9200 ㎡)の直近の大改装の模様の報告であ る。それまで食器売場であった5階を家具売場として、6階を ベッド・寝具、ふとん売場とした。この改装の目玉の一つは、 5階家具売場に新設された、2LDK・3LDK マンション住民を対象 とした、モデルルーム3室で構成された「スタジオカーサ」[注 21]であった。また近傍にインテリア雑誌を常備した「情報コ ーナー」、「インテリア相談コーナー」、内装材・金具を常備し 図1 大丸百貨店 家具売場(『木工界』,工作社,1959 年9 月) 図2 家具店の売場風景(『室内』,工作社,1965 年1 月・3 月・4 月) 図3 アルフレックス・ジャパン(青山通り)(『室内』,工作社,1974 年8 月) 図4 サァラ麻布イーセン・アーレン・ギャラリー(『室内』,工作社,1981 年2 月) 図5 西武百貨店池袋店 家具売場(『室内』,工作社,1980 年11 月・81 年3 月)

(4)

(a) リビング・ダイニングセット展開 (b) ダイニングセット売場 (c) リビングセット売場 (a) 高級リビング・ダイニングセット売場 (b) ダイニングセット売場 (c) リビングセット売場(マルニ) (a) オレンジ・スペース(日進木工) (b) シンプル・セゾン(イノベーター) (c) カジュアルリビング(カリモク/マルニ) た「マテリアルコーナー」、「住宅設計コーナー(西武都市開発)」 を配置して、建築業、インテリア工事、家具小売の一連の相談 業務を一体化及び円滑化した。もう一つの目玉は、同階に設置 された、リビング・ダイニング単位の展示を行なう「LDプラ ザ」であり、ここにはリビングセット・ダイニングセットの家 具が組み合わせてディスプレイされた。これまでリビングセッ トとダイニングセットは別々の売場で売られていたが、これを 部屋のようにディスプレイして、食器棚、飾り棚、照明器具な どと組み合わせて展示して、そのままリビング・ダイニングル ームに置けるディスプレイにした[注 22]。この後も西武百貨 店池袋店の家具売場は改装を重ねてルーム展開を充実させてい った。そのことは『室内』誌上で 1981 年8月(ルーム展開 30 室)、1987 年 12 月(4月の家具売場大改装)、1989 年7月(4 月のリフレッシュオープン)に記事となっている[注 23]。 (3)ルーム展開と平場展開の並列期 1981 年1月から 1982 年 12 月まで「家具販売店のためのディスプレイ・マニュアル」 が、そして 1983 年1月から同年 12 月まで「ニュー・インテリ ア・ショップ」が『室内』誌上に連載された[注 24]。そして 主要百貨店・全国有名家具小売専門店の実際の店内写真が掲載 された。この連載では「生活再現型」と「平ベタ型」がキーワ ードとなっている。そして全編を通して、完全なルーム展開に 移行していない状態が確認できる。一部分だけルーム展開とし て、それ以外は品種別(ダイニングセット、リビングセット、 ベッド、婚礼タンス等)の平場展開になっている。 (a)小田急ハルク(図6) 新宿の小田急ハルクは住まいに 必要な家具、寝具、食器、生活用品、その他インテリア用品全 般を集めて、小田急百貨店本館から独立した別館として 1967 年に新装開店した[注 25]。その小田急ハルクの家具売場は、 1980 年のリニューアル直後、一部がルーム展開になっているが、 他はリビングセット、ダイニングセット等の家具売場に区分さ れており、全般的に平場展開になっていた[注 26]。 (b)家具の大正堂・戸塚店・町田店(図7) 1982 年3月・ 4月に掲載された家具の大正堂・戸塚店は、所々にルーム展開 (a) 1階平面図・売場配置図 (b) 2 階平面図・売場配置図 (c) 3 階平面図・売場配置図 (d) リビング・ダイニングセット売場 (e) フェアレディコーナー(チトセ) (f) ブライダル家具売場 (a) SK+SF・LDルーム展開 (b) リビングセット売場 (c)トータルコーディネート(Henredon) を置きつつ、全体的には平場展開が占めている。興味深い組み 合わせに、ブライダルセット(婚礼タンス)・家具調コタツ・ コタツふとんを組み合わせたルーム展開があった[注 27]。ま た7月・8月に掲載されたE&L大正堂・町田店は、家電と家 具をドッキングさせた店であるが、3階から5階の家具売場で は、一部にリビング・ダイニングのルーム展開が見られるが、 全般的には平場展開であった[注 28]。 (c)原家具・福岡店・小倉店(図8) 『室内』編集部によ れば、原家具福岡店は総合的に見てよく出来た店であった。建 物外観のバランスが良く、内と外の接点も美しく、外の客を中 に引き込む魅力があった。また中に入ると、商品に広がりがあ り、通路がはっきりしていて、演出とドラマがあり、主張・発 言・夢があった[注 29]。但し2階奥の森繁のリビング・ダイ ニングのルーム展開、婚礼タンス・収納セットとベッドとの組 み合わせ展示等を除き、基本的に平場展開であった。また原家 具小倉店でも、一部はルーム展開であったが、大半は平場展開 であり、リビングセット、ダイニングセット、ベッド、収納セ ット等の品種別の売場構成であった[注 30]。 (d)家具の山新・牛久店(図9) 入口を入ると左右 45 度に 通路があり、回遊できる売場構成になっている事例として採り 上げられた家具の山新・牛久店では、メーカー毎の売場(ブー ス)の取り合いになっている様子が、各階のマップから見て取 れる(図9(a)(b)(c))。また1・2階のメーカー別の各ブース は基本的にルーム展開になっているが、固定壁(パネル)の間 仕切りの代わりに腰高ワイヤーボックスで間仕切りされていた。 このため顧客は売場全体を見渡すことができたので、一見する と平場展開のように見えた(図9(d)(e))。また3階のブライ ダル家具売場は完全な平場展開になっていた(図9(f))[注 31]。 (e)村内ホームセンター・八王子店(図 10) 1982 年にリニ ューアルオープンした村内ホームセンター・八王子店では、シ ステム・キッチン(SK)とシステム・ファニチュア(SF)の売 場や高級ブランド家具売場(Henredon)等では、リビング・ダ イニングのルーム展開が見られるものの、リビングセットは平 図6 小田急ハルク 家具売場(『室内』,工作社,1981 年2 月) 図7 E&L大正堂・町田店 家具売場(『室内』,工作社,1982 年7 月・8 月) 図8 原家具・小倉店 家具売場(『室内』,工作社,1983 年3 月) 図9 家具の山新・牛久店 家具売場(『室内』,工作社,1982 年9 月・10 月) 図10 村内ホームセンター・八王子店 家具売場(『室内』,工作社,1983 年2 月)

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(a) 地下1階ファニチュアフロア (b) 地下1階を望む (c) 1階ファニチュアモデルルーム (d) 2階テーブルウエアコーナー (e) 3階ナチュラルウエアコーナー (f) 4階ファブリックスコーナー 場展開されているといった具合に、ルーム展開と平場展開の両 方の展示方法が用いられていた[注 32]。 (4)平場展開への回帰期 バブル経済期(1985-91 年)の家 具小売業の店頭展示では、引き続きルーム展開と平場展開が使 い分けられていた。そしてバブル景気が崩壊した直後の 1992 年暮れ、『室内』に「どうのりこえるこの不況:百貨店」とい う記事が掲載された。取材されたのは三越本店、新宿丸井イン テリア館、小田急ハルク等であった。各店とも①品揃えの価格 を安くしたこと、②リビング家具は革張りよりも布張りを主力 にしたことが共通していた。しかし①「雑貨を増やすか/減ら すか」、②「ルーム展開にするか/平場展開にするか」につい ては各店各様であった。三越本店では、雑貨売場が縮小されカ ジュアルなダイニングセットやベーシックなリビングセット売 場に変更されて平場展開が増えた。新宿丸井インテリア館では、 ブランド別・メーカー別のルーム展開を極力やめ、単品を集め て売場を平場に近づけた。一方小田急ハルクでは、バブル景気 崩壊の危機に瀕してやっとルーム展開を導入した。またカジュ アル路線の復活で低価格化が進み、インテリア小物との複合販 売への梶が切られた[注 33]。この後の複合不況期では、坪効 率の悪い家具自体の販売を極端に減らす百貨店が続出した。ま た家具販売を残した百貨店の中には、後述するライフスタイル 提案型ショップの商品を展示するところも出現した[注 34]。 2.2. 多様な家具スタイル集積型ストアとライフスタイル提案 型ショップとの競合[注 35] (1)ライフスタイル提案型ショップの導入期 国際家具産業 振興会の報告書によれば、ライフスタイル提案型ショップはバ ブル経済崩壊後に出現したことになっている[注 36]が、1970 年代のアルフレックス・ジャパン青山通りショールーム兼直販 店、イーセン・アーレン・ギャラリーは、ルーム展開型展示の 国内家具小売業界への本格的展開の事例であったばかりでなく、 ライフスタイル提案型ショップの国内家具小売業界への導入期 の事例でもあった。 (2)ライフスタイル提案型ショップの興隆期 1970 年代に日 本に導入されたライフスタイル提案型ショップは、バブル経済 期以前の 1980 年代初頭以降に興隆期を迎えた。それと呼応す るように、1980 年代以降、『室内』の特集記事にインテリアシ ョップが多数紹介されるようになった(表1)。 (a)西武ハビタ池袋館(habitat)(図 11) 1980 年代のライ (a) ベッド&リネン (b) ステラミアハウス(丸井オリジナル) (c) カンディハウス(左)/モビリア(右) (d) 日本ビクター (e) カーテン・カーペット (f) 生活雑貨(CLICK) フスタイル提案型ショップの事例として、まず西武ハビタ池袋 館を挙げることができる。イギリスのハビタ社は家具・インテ リア用品・日用品の販売店として、テレンス・コンラン卿によ って 1964 年に創業した。同店のコンセプトはカジュアルなイ ンテリアであった。取扱商品はシンプルなモダンスタイルのデ ザインのものであり、若者にも手の届く価格帯で構成された。 そのハビタ社と西武百貨店の共同出資で設立されたのがハビ タ・ジャパン(社長:西武百貨店インテリア館長鈴木勝人)で あった。このハビタ・ジャパンは英国ハビタ社からノウハウを 導入しただけで、その取扱商品はすべて日本国内で開発若しく は調達された[注 37]。1982 年にオープンしたハビタ・ジャパ ン直営第1号店の「西武ハビタ池袋館」では、リビングセット・ ダイニングセットはワンルームで展示され、ベッドはワードロ ーブ、デスク等と一緒に展示されていた。このように家具は基 本的にルーム展開で展示されていた。そして家具以外に、照明 器具、インテリア小物、日用品、ガーデン用品、ファブリック ス等のコーナーが設けられていた。このように西武ハビタ池袋 館は、全館を通して、中産階級の若者向けのカジュアルなライ フスタイルを提案するインテリアショップとして計画されてい た[注 38]。そしてこのライフスタイル提案型ショップの流れ は、新宿丸井インテリア館(1984 年)、丸井インザルーム(渋 谷店 1991 年・池袋店 1994 年)、新宿 OZONE 内のザ・コンラン ショップ(1994 年)へと続いた。 (b)新宿丸井インテリア館(図 12) 1984 年にオープンした [新]新宿丸井インテリア館(3400 坪)は、都心型のモダンで シンプルな店として首都圏の幅広い層の客から支持を集めた[注 39]。そのオープン直後の新宿丸井インテリア館の店内の様子 が 1984 年5月の『室内』に掲載されている。一見するとメー カー毎にブースを割り当てる一般的な百貨店の手法を採用して いる印象を受ける。そしてブース内はルーム展開になっている ところと、単品の平場展開的展示になっているところが混在し ている[注 40]。しかし 1987 年 12 月の『室内』には、リニュ ーアルした新宿丸井インテリア館の様子が記録されている。時 機はバブル経済の最盛期であった。このリニューアル時の改装 ポイントは、①部屋をトータルでディスプレイした実例をいく つも見せられる売場構成に変えたこと、②ファッションと一番 連動しやすいファブリックスに力を入れ、ベッドリネンやカー テンなどをアパレルの布から選んで販売したこと、③接客カウ ンターを広くとり、インテリアコーディネートや住宅・設備に 関する相談に応じやすくしたことであった[注 41]。ここでは、 図11 西武ハビタ池袋館(habitat)(『室内』,工作社,1983 年1 月) 図12 新宿丸井インテリア館(『室内』,工作社,1984 年5 月)

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(a) インザルーム横浜 (b) インザルーム溝口 ルーム展開的展示が本格的に拡充しただけでなく、「徹底して 若者の流行に合わせる」という丸井流のトータルインテリアコ ーディネートの提案姿勢が見られた。この新宿丸井インテリア 館では、前述の西武ハビタ池袋館のように、家具とインテリア アクセサリーを同一店舗内に展開するという考え方を採用して おり、ライフスタイル提案型ショップの一つと考えられる。そ してこの考え方は丸井インザルームに踏襲されていった。 (c)丸井インザルーム(図 13) 新宿丸井インテリア館の成 功を受けて、その路線を踏襲しつつ、より深化させたのが丸井 インザルーム渋谷店(1991.3 オープン,地上9階,1800 坪) であった。そのコンセプトは「ハナコ層[注 42]が、パリのア パルトマンの生活を実現できる店」というものであった。具体 的な展示としては、家具と雑貨を一緒に並べ、生活のワンシー ンを見せながらこれらを販売した。また各階ごとに「物語」を 用意して、それに合せて商品をコーティネートして展示した。 そして、話題性も手伝って、首都圏の広い範囲から客を集めた [注 43]。また丸井インザルーム池袋店(1994.2 オープン,地 上6階・地下1階,840 坪)は、「自然体=ナチュラルスタイル」 をテーマにしたライフスタイル型の専門館と位置付けられた[注 44]。そして丸井インザルーム自由が丘店(1994.9 オープン, 地上 2 階,200 坪)は、渋谷店・池袋店とは違い、キッチン用 品・食器・タオル等のインテリア小物が中心であった[注 45]。 この後 1998 年に新宿丸井インテリア館と丸井インザルーム渋 谷店が閉館したのに合わせて、丸井インザルームはチェーン店 化した。1999 年時点で、売場面積 300 坪前後の地域密着型の単 独店は、池袋、自由が丘、横浜、川崎、溝口、吉祥寺、八王子、 柏、所沢に9店あった。また「インザルーム」商品を扱う丸井 のインテリア売場は8箇所あった[注 46]。後述のコスガ THE PER DUE SHOP シリーズは、新しい形の婚礼家具として、そのターゲ ットが同じであった丸井インザルーム各店でよく売れた[注 47]。 (d)フランフラン(図 14) 福井県のソファメーカー、マル イチセイリングの子会社バルス(1990 年設立)の直営店である フランフランは、家具や小物を雑貨感覚で売り、気軽に買って もらうインテリアショップとして 1992 年に天王洲アイルに1 号店を開店した。そのセンスと品揃えが若い女性に受け、1999 年度末時点で 29 店舗まで拡大した。1号店の天王洲アイル店 では、1 軒の家を想定して商品を構成していた。その構成は、 家具 30%、食器 20%、ファブリックス 15%、ガーデン用品 10%、 他にインテリアアクセサリー・洋服であった。そして2号店は 1993 年に横浜みなとみらいランドマークプラザにオープンした [注 48]。このバルスはフランフラン以外にも多店舗展開のラ イススタイル提案型ショップを経営した。「フランフラン」が 「シンプル&カジュアル」をコンセプトとしたのに対して、「ジ ェイピリオド」は「和風」、「香風楼」は「チャイナ&アジア」 がコンセプトであった[注 49]。 (a) 外観 (b) スロープのある店内① (c) スロープのある店内② (a)アート・ファニチャー・ギャラリー(目黒) (b)ウッドユウライクカンパニー(南青山) (c) 家具蔵 (南青山) (3)ライフスタイル提案型ショップの転換期 (a)家具作 品展示型ショップ:hhstyle.com(図 15) 1990 年代中盤以降 は、ミッドセンチュリーモダンデザインのブームに乗って「名 作椅子」の単品買いのブームが到来した。これはインテリアに おける「一点豪華主義」とも言える消費行動である。それに呼 応して「家具作品展示型ショップ」が出現した。『室内』にお いても 1994 年に「名作椅子はどこで買えるか」という特集が 組まれている[注 50]。この種の特集はこれが初出である。こ のミッドセンチュリーモダンデザインの家具作品に特化するラ イフスタイル提案型ショップの典型的な事例は、2000 年9月、 神宮前にオープンした hhstyle.com であろう。同店は、輸入オ フィス家具・デザイナー家具を取り扱うインター・オフィスの 直販店であり、妹島和世設計の建築としても話題を浚った。そ の店内のディスプレイは、有名椅子の単品展示であった[注 51]。 (b)工房型ショップ(図 16) 家具作品展示型ショップが出 現した 1990 年代中盤頃、『室内』において「東京の家具ブティ ック 14 軒」という特集が組まれている。採り上げられたショ ップは、ウッドユウライクカンパニー(南青山ショップ・東京 昭島工房)、アート・ファニチャー・ギャラリー(目黒区中目 黒)、サーブ(吉祥寺)等であった[注 52]。また 2000 年代に なってからは、無垢の木の家具に特化した家具蔵などのショッ プも採り上げられている[注 53]。これらは、自分だけの「オ リジナル家具」を顧客の細かな注文に応じて製作する工房兼シ ョールームの家具店であり、「工房型ショップ」とでも呼べる 新しい形のインテリアショップである。オリジナル家具作品に 特化するライフスタイル提案型ショップである工房型ショップ では、自社工房で製作した「一点物の作品」を、あたかも「ア ートギャラリー」の「立体彫刻」の如く展示する。これは先述 の家具作品展示型ショップと同じく、インテリアにおける一点 豪華主義に通じるところがある。 3.家具小売業の店頭展示に関するコスガの販売促進手法 3. 1. コスガのギャラリー展開手法の変遷 (1)コスガ Human Live シリーズ(シリーズ生産 1974-79 年 /企画書 1974 年発行[注 54])(図 17) Human Live シリーズ はコスガにおける「ギャラリー展開」の最初の事例である。企 画書では、インテリアスペースを構成するために「群」として 商品を展開する必要があるので、従来通りの単品扱いは好まし くなく、店頭の一角に一定の広さ(10 坪、20 坪、40 坪)の展 図13 丸井インザルーム(『室内』,1999 年9 月) 『室内』2000年2月) 図14 フランフラン新宿 図15 hhstyle.com(『室内』,工作社,2000 年11 月・2001 年6 月) 図16 工房型ショップ(『室内』,工作社,1994 年11 月・2004 年10 月)

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(a) TYPE B-1 レイアウト図 (b) TYPE B-1 パース (c) TYPE B-1 展示例

(d) TYPE B-2 レイアウト図 (e) TYPE B-2 パース (f) TYPE B-2 展示例

(a) レイアウト図・配置イメージ図 (b) リビングルーム展開家具一覧

開コーナーを要求している。また契約販売店は値引き販売を差 し控えることが前提とされた。その代わり、年間 12 回の日本 経済新聞誌上の広告キャンペーン中で各販売店の紹介を行なう という特典があった。売場構成プランは、基本パターン 13 種 類(TYPE A-1~A-5, TYPE B-1~B-3, TYPE C-1~C-5)の中か ら、坪数に応じて数パターンを選択して組み合わせるというも のであった。各基本パターンについては、家具レイアウト図及 びインテリアパースが示された。また翌 1975 年には同シリー ズの単冊カタログが発行され、ルーム展開の様子が写真によっ ても示された[注 55]。比較的短命であった同シリーズが、ど の程度百貨店家具売場や家具小売専門店の店頭に展開されたか は定かではないが、コスガ Human Live シリーズのギャラリー 展開企画書は、当時俄かに流行し出した海外家具メーカーのギ ャラリー展開に対抗する動きが、1970 年代中盤に国内家具メー カーの側からも起こっていたことを示す重要な証拠である。 (2)コスガ New England シリーズ(シリーズ生産 1981-97 年 /企画書 1987 年発行[注 56])(図 18) 伝統的ヨーロッパス タイル(特に新古典様式)のコスガ New England シリーズが家 具小売業の店頭に展開されるに当たって作成された企画資料に は、家具レイアウト図、配置イメージ図、各室用家具一覧図が 見られる。この企画資料に示されたのは家具だけであり、当該 家具シリーズのトータルインテリアコーディネートを表現する ギャラリー展開を提案することが主な目的であった。 (3)コスガ THE PER DUE SHOP シリーズ(シリーズ生産 1994-2008 年/企画書 1996 年発行[注 57])(図 19~22) THE PER DUE SHOP シリーズは、「2人のための」という意味の新しいタイプの婚 礼家具シリーズとして、佐戸川清とゼロ・ファースト・デザイ ンのコンセプトを基にコスガデザイン部が協同設計した家具シ リーズである。このシリーズは、所謂メディアミックスを実現 した、コスガにおける総合的な販売促進活動の事例である。ま ず同シリーズは、1994 年 12 月東京国際家具見本市のコスガブ ース内に THE PER DUE SHOP としてお披露目された。そしてそ

(a) THE PER DUE カントリー (b) THE PER DUE カントリー (c) THE PER DUE リゾート

(b) THE PER DUE カントリー 展示場 パース

(a) 30 坪展開例 レイアウト図 (c) THE PER DUE リゾート 展示場 パース

のギャラリー展開コンセプトを受諾する百貨店家具売場・家具 小売専門店にそのまま展開された。実際に THE PER DUE SHOP が展開された店舗の事例として横浜そごう家具売場の写真があ る(図 19)。発表当初のアイテムをフル展開するには最低 30 坪程度の売場面積が必要であった。そして、当該スペースをモ ダン・リゾート・カジュアル・カントリー・生活雑貨の6区画 に固定壁で仕切る基本レイアウトがあった。実際の導入に際し ては、各売場の状況に合わせて微調整された。また商品導入に 際してはインテリアパースを事前に提示して販売店側の了承を 取り付けた(図 20)。また発表後約2年を経て開催された THE PER DUE SHOP 展開店のミーティングでは、「1996 年秋冬企画書」と して、15 坪・20 坪展開の場合の家具レイアウト図、インテリ アパース、アイテム・リスト、新規ファブリクス・イメージ、 ファブリクス・リスト、インテリアアクセサリー、広告掲載媒 体・TV タイアップ企画(TV ドラマ大道具協賛)が示され、同 シリーズ展開店に対するコスガの継続的支援が約束された(図 21)。また店頭配布チラシが随時発行された他、一般書店でも 販売された『THE PER DUE STYLE BOOK』(青幻舎:1997-98)も 発行された(図 22)。その他、ミニシリーズ別の単冊カタログ (業者向け・一般消費者向け)も随時発行された。「ライフスタ イル提案型ショップ」の丸井インザルームにおいても、この THE PER DUE SHOP シリーズは、店側の意向に沿って展示方法に若干 の修正が加えられたが、積極的に展開されて成功を見た。この ようにコスガ THE PER DUE SHOP シリーズは、「新しいタイプの 婚礼家具による新生活」というライフスタイルを提案するショ ップのパッケージであり、そのギャラリー展開であった。 (4)コスガ PROVENCE World シリーズ(シリーズ生産 1984-2002 年/企画書 1996 年発行[注 58])(図 23) THE PER DUE SHOP シリーズの一応の成功を見たコスガは、PROVENCE シリーズのリ ニューアル(PROVENCE World シリーズ)に際して同様の手法を 適用した。PROVENCE シリーズが最初に発表された時(1984 年) の企画資料には、展示風景写真とアイテム・リストしか示され ていなかった。しかしリニューアルに際しては、10 坪・15 坪 展開の場合の家具レイアウト図、インテリアパース、アイテム・ 図17 コスガHuman Live シリーズ店頭展示プラン(1974 年11 月) 図18 コスガNew England ギャラリー展開プラン(1987 年)

図19 横浜そごう 家具売場内 コスガTHE PER DUE SHOP(1996 年)

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(a) 15 坪展開例 パース (b) 15 坪展開例 レイアウト図 (c) アイテム・リスト (d) ファブリックス・リスト (e) インテリアアクセサリー (f) 広告掲載媒体&TV タイアップ リスト、雑誌広告、オーナメント等が企画書に示され、南仏プ ロヴァンス地方のカントリースタイルの生活のイメージが伝わ る店頭展示を実現するための方策が提案された。このように PROVENCE シリーズは、単にルーム展開できるだけでなく、ライ フスタイル提案型ショップ風のギャラリー展開ができるシリー ズとして再構築された。

(5)コスガ New England Regent House COLLECTION シリーズ (シリーズ生産 1996-2008 年/企画書 1996 年[注 59])(図 24) 前述の New England シリーズのリニューアル版である Regent House COLLECTION の市場投入(1996 年)に当たっても、コス ガは THE PER DUE SHOP シリーズ、PROVENCE World シリーズで 定着した店頭展示に関する販売促進スキルを活用した。伝統的 ヨーロッパスタイルの家具シリーズを選択する消費者に対して、 腰壁、暖炉、窓、回縁、巾木、フローリング床、バランス付カ ーテンといった室内装飾全般を伝統的ヨーロッパスタイルに統 一するプランが示された。これも伝統的ヨーロッパスタイルの ライフスタイル提案型のギャラリー展開の一つの事例であった。 (6)家具小売業店頭展示に対するコスガの販促手法の変遷 コスガにおける 1970 年代の Human Live、1980 年代の New England、 1990 年代の THE PER DUE SHOP、PROVENCE World、Regent House COLLECTION 等のルーム展開は、「家具メーカー主導のギャラリ ー展開」の具体的な表れであった。また 1990 年代はライフス タイル提案型ショップが全盛になったため、その要素を加味す ることによって、1970・80 年代に主流であった、家具だけをル ーム展開するといった展示方法から、家具に日用雑貨を混ぜた 生活感溢れる展示に変化していった。 3. 2. 家具小売業店頭展示に対するコスガの販促手法の情報源 (1)アメリカにおける家具流通の2大形態 1971~72 年に、 アメリカにおける家具小売業の変化と対応に関して報告した里 見幸男氏は、アメリカにおける家具小売業の第一の大きな流れ

(a) 店頭配布チラシ SUMMER 1995 Vol.1 (b) スタイルブック(1997)

を、「ウェアハウス・ショールーム・コンセプトの販売メソッ ド」と総括している。これはウェアハウス即ち倉庫の一部をシ ョールームとするものである。ウェアハウスに入った顧客は、 まずラックに積み上げられたダンボール箱に梱包された家具の 在庫を見上げながら、その突き当たりのショールームへの入口 を入る。ショールーム内部は品目別に区分けされ、数多くのダ イニングセット、リビングセット、ベッド等の中からデザイン、 品質、価格を比較検討して選択できるようになっていた。展示 方法としては、品目別の平場展開である。このような「ウェア ハウス・ショールーム・コンセプト・ストア」の代表格は「レ ビッツ(LEVITZ)」であり、その競合相手はマンガリアンズ (MANGURIANS)、クロスローズ(CROSSROADS)であった[注 60]。 アメリカにおける家具小売業の第二の大きな流れについて里 見幸男氏は、アメリカの家具メーカーが、自社製家具を販売す るフランチャイズ・チェーンを構築して販路を拡大する販売戦 略を立てていたことを指摘している。そしてこの「フランチャ イズ・チェーン・ストア」には、店舗1軒丸ごとショールーム にする「ショーケース・ストア」と、既存の家具小売専門店又 は百貨店の一角に配置された「ギャラリー」とがあった。この ような「フランチャイズ・チェーン・ストア」の事例は、イー セン・アーレン(ETHAN ALLEN)、ドレクセル・ヘリテージ (DREXEL-HERITAGE)、ウエリントン・ホール(WELLINGTON HALL)、 レーン(LANE)であった[注 61]。 メープル材を主体とするアーリー・アメリカン・スタイル家 具の製造工場として 1932 年に発足した BAUMRITTER CORP は、 1970 年代初頭、総人員約 4000 名を擁し、アメリカ東部地区に 18 工場、ロサンゼルスに1工場を構えて、アメリカ伝統家具フ ランチャイズ・チェーン「イーセン・アーレン」を主宰してい た。そして BAUMRITTER CORP の工場生産品の大部分がイーセン・ アーレンに流されていた。また同社はコントラクト家具も生産 していた。しかし膨大なチェーンストアを持つイーセン・アー レンの全商品を自社工場だけで賄うことは不可能であったため、 多数の下請け工場・アクセサリー工場・海外の輸入商社を翼下 に収めていた。イーセン・アーレンのフランチャイズ・システ ムには2種類あった。①イーセン・アーレンだけを扱うフラン チャイズ・ショーケース・ストアは 1970 年代初頭に全米に 186 店あった。その建物と店内の一切が本部の厳格な規格に基づい て構成されていた。建物中央に尖塔を配した美しい公会堂のよ うに見える外観が特徴であり、内部はアーリー・アメリカン・ スタイルの家具を中心に据えて、ふんだんにインテリアアクセ サリーが飾られた。ここに「ルーム展開的展示」と「ライフス タイル提案型展示」の原形が見られる。また②家具小売専門店 又は百貨店の一角に配置されたイーセン・アーレンのフランチ ャイズ・ギャラリーは当時全米各地に 650 箇所あった[注 62]。 図21 コスガTHE PER DUE SHOP '96 秋冬企画書(1996 年7 月)

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(a) 秋冬用売場 10 坪展開例 パース (b) 秋冬用売場/春夏用売場・10 坪展開例 (c) アイテム・リスト① (d) アイテム・リスト② (e) 雑誌広告 (f) オーナメント (2)コスガ KF 会 1980 年アメリカ研修旅行 コスガの「ギャ ラリー展開」は、アメリカの家具小売市場における家具メーカ ー主導のギャラリー展開がアイデアの源泉になっていた。コス ガは日本の家具小売市場において自社商品のギャラリー展開を 実現するに当たり、このイーセン・アーレン等の販売戦略を大 いに参考にした。コスガ商品を積極的に取扱う全国有力家具小 売専門店で組織されたコスガ KF 会結成2年目の 1980 年7月の アメリカ研修旅行(ニューヨーク・ダラス・ロサンゼルス)に おいては、ニューヨークの有名百貨店のブルーミング・デール やメーシーズを見学した他、ロサンゼルスのイーセン・アーレ ンのショーケースも見学している[注 63]。また同旅行中に開 催された鈴木庄吾氏の講義においては、「[欧米の]家具小売り の営業形態」について解説がなされ、①SUPPER-DISCOUNT 型の クロード・ル・ゴフ社、②TAKE-AWAY 型のイケア社、③PICK-OUT 型[ウェアハウス・ショールーム・コンセプト・ストア]のレ ビッツ社、④DESIGN-ACCEPT 型の R&B 社、⑤SHOW-CASE 型[フ ランチャイズ・チェーン・ストアのショーケース・ストア/ギ ャラリー]のベーカー社やイーセン・アーレン社といった事例 が紹介された[注 64]。そして実際の店舗も見学した。この時 の参加者は、44 名(42 社)であり、日本全国の地域一番店の 経営者に当時のアメリカの家具流通の現状を生々しく植えつけ た。そしてコスガ KF 会会員店に対して、コスガ商品のギャラ リー展開導入の動機付けがなされたのである。 4. おわりに 以上のことから以下の結論が導き出される。 (1)家具小売専門店・百貨店家具売場における家具の展示方 法は、1950・60 年代は平場展開が全盛であったが、1970 年代 の海外家具メーカーのギャラリー展開を機に、ルーム展開が導 入された。そして 1980 年代はルーム展開と平場展開が並列し (a) 15 坪展開 レイアウト図・配置イメージ図 (b) 内装材施行プラン たが、バブル崩壊を経て、1990 年代以降は平場展開に回帰した。 また、ある一つのスタイルに特化するライフスタイル提案型シ ョップは、1970 年代の海外家具メーカーのギャラリー展開にそ の萌芽が見られた。そして 1980 年代初めから 90 年代中盤に興 隆期を迎えて、一館丸ごとのライフスタイル提案型ストアも出 現した。しかし 1990 年代中盤以降のライフスタイル提案型シ ョップは小規模化し、一点豪華主義的になった。 (2)主要木製家具メーカーの一つコスガにおける家具販売促 進手法は、自社のトータルインテリアコーディネート家具シリ ーズを家具小売専門店及び百貨店家具売場の店頭にギャラリー 展開するために、1970・80 年代には家具だけのルーム展開プラ ンを販売店側に提案するというものであった。しかし 1990 年 代以降は、ライフスタイル提案型ショップの影響を受けて、家 具と生活雑貨を渾然一体と展示する生活感溢れる提案をすると いうものに変化していった。 (3)コスガのギャラリー展開の情報源は、アメリカの家具小 売市場におけるイーセン・アーレン等の家具メーカー主導のギ ャラリー展開の事例であった。 注および参考文献 1) 本研究では、国際家具産業振興会編:わが国家具産業の概 要,1985 & 1990 - 2010(隔年刊)、工芸指導所・産業工芸 試験所・製品科学研究所編:工芸ニュース, 1932.6 - 1974.7 (略月刊)、日本家具工業会編:家具産業/家具 Sangyo, 家具産業出版社,1971.2 - 1983.12(月刊)等も渉猟した。 2) 新井竜治:戦後日本における主要木製家具メーカーの新作 家具展示会の変遷,デザイン学研究,58,3,1-10,2011 3) 新井竜治:戦後日本における主要木製家具メーカーの販売 促進活動の概要と変遷,デザイン学研究 研究発表大会概要 集,58,146-147, 2011 4) 新井竜治:株式会社コスガにおける家具シリーズ・スタイ ル・デザイナーの変遷,デザイン学研究,58, 1, 67-76, 2011 5) コスガの競合他社でも別冊カタログ品はルーム展開された。 例えばカリモクのドマニシリーズ、マルニ木工の地中海ロ イヤルシリーズ、飛騨産業のプロビンシャルシリーズ等に 関する販売促進手法はコスガの事例に類似していた。 6) 戦後日本における家具小売業の店頭展示の変遷に関する体 系的且つ詳細な通史は未だ書かれていない。またその家具 小売業の店頭展示に対する木製家具メーカー側の販売促進 手法について記したものも管見の限り見当たらない。 7) 新井竜治:戦後日本の主要木製家具メーカーにおける家具 スタイルの展開,日本インテリア学会論文報告集,21, 23-31, 2011 図23 コスガPROVENCE World 企画書(1996 年8 月)

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8) 前掲 2) 9) 「ルーム展開」とは、実際の住居の室内に家具を配置する ようにダイニングセット、ソファ、キャビネット等を組み 合わせて展示する方法である。「平場展開」とは、限られた 売場により多く詰め込むために、ステージではなく平場に、 脚物家具や箱物家具を並べたり、台物家具を積み上げたり して展示する方法である。 10) 山本夏彦他:室内,工作社,415, 68-70, 1989.7 11) 山本夏彦他:木工界,工作社,57, 30-31, 1959.9 12) 山本夏彦他:室内,工作社,121, 100-103, 1965.1 13) 同上 14) 山本夏彦他:室内,工作社,123, 114-117, 1965.3 15) 山本夏彦他:室内,工作社,124, 96-99, 1965.4 16) 保科正:アルフレックスと私とイタリアと,集英社インタ ーナショナル,163-178, 2000 17) その後アルフレックス・ジャパンは1981-97年に六本木AXIS ビル地下1階にショールームを構えた。 18) 山本夏彦他:室内,工作社,236, 30-31, 1974.8 19) 山本夏彦他:室内,工作社,290, 96-99, 1979.2 及び同 314, 96-103, 1981.2 及び同 315, 95-101, 1981.3 20) 山本夏彦他:室内,工作社,290, 96-99, 1979.2 21) 一戸建ては都内では入手困難のためという西武百貨店の市 場調査結果に基づく。 22) 山本夏彦他:室内,工作社,311, 111-113, 1980.11 23) 山本夏彦他:室内,工作社,320, 135-137, 1981.8 及び同 396, 88-90, 1987.12 及び同 415, 68-70, 1989.7 24) 山本夏彦他:室内,工作社,313-348, 1981.1-1983.12 25) 山本夏彦他:室内,工作社,311, 121, 1980.11 26) 山本夏彦他:室内,工作社,314, 96-103, 1981.2 27) 山本夏彦他:室内,工作社,327, 55-61, 1982.3 及び同 328, 55-61, 1982.4 28) 山本夏彦他:室内,工作社,331, 55-59, 1982.7 及び同 332, 55-61,1982.8 29) 山本夏彦他:室内,工作社,319, 65-75, 1981.7 30) 山本夏彦他:室内,工作社,339, 94-101, 1983.3 31) 山本夏彦他:室内,工作社,333, 79-86, 1982.9 及び同 334, 55-61, 1982.10 32) 山本夏彦他:室内,工作社,338, 94-100, 1983.2 33) 山本夏彦他:室内,工作社,456, 108-111, 1992.12 34) 山本夏彦他:百貨店の新しい家具の売り方,室内,工作社, 551, 84-87, 2000.11 35) 本稿では、多様なスタイルの家具を一堂に集積して、顧客 の好みの多様化に対応した家具小売専門店・百貨店家具売 場を「多様な家具スタイル集積型ストア」と呼ぶ。一方、 ある一つのライフスタイルに特化して、家具・窓装飾品・ 照明器具・生活雑貨等を渾然一体と展示する家具インテリ アショップを「ライフスタイル提案型ショップ」と呼ぶ。 36) 国際家具産業振興会編:わが国家具業界の概要―主として 木製家具・家庭用家具について―,国際家具産業振興会, 33-35, 2002 37) 山本夏彦他:室内,工作社,337, 91-94, 1983.1 38) 山本夏彦他:室内,工作社,337, 95-103, 1983.1 39) 山本夏彦他:室内,工作社,537, 86-89, 1999.9 40) 山本夏彦他:室内,工作社,353, 52-57, 1984.5 41) 山本夏彦他:室内,工作社,396, 88-90, 1987.12 42) ハナコ層とは雑誌『Hanako』を愛読する若い女性たち。 43) 山本夏彦他:室内,工作社,537, 86-89, 1999.9 44) 山本夏彦他:室内,工作社,484, 94-97, 1995.4 45) 前掲 43)及び 44) 46) 前掲 43)

47) 丸井インザルームにおけるコスガ THE PER DUE SHOP シリー ズは、コスガが意図したギャラリー展開ではなく、丸井イ ンザルーム風にアレンジされて館内にディスプレイされた。 48) 山本夏彦他:室内,工作社,542, 78-81, 2000.2 49) 前掲 36) 50) 山本夏彦他:室内,工作社,477, 13-49, 1994.9 51) 山本夏彦他:室内,工作社,551, 98-100, 2000.11 及び同 558, 86-88, 2001.6 52) 山本夏彦他:室内,工作社,479, 23-37, 1994.11 53) 山本夏彦他:室内,工作社,598, 9-39, 2004.10 54) コスガ:HUMAN LIVE シリーズ開発について,コスガ,1974 55) コスガ:Human Live シリーズカタログ,コスガ,1975 56) コスガ:New England ギャラリー展開 PLAN,コスガ,1987 57) コスガ:THE PER DUE SHOP '96 秋冬のご提案,コスガ,1996 58) コスガ:PROVENCE World 売場展開の御提案,コスガ,1996 59) コスガ:New England Regent House COLLECTION 開発背景・

開発コンセプト・展示プラン・施行プラン,コスガ,1996 60) 里見幸男:アメリカの家具販売戦略,日本木工新聞社,32-75, 1974 61) 同上 168-212 62) 同上 175-179 63) コスガ KF 会:KF 会アメリカ研修旅行報告書,コスガ KF 会, 3-4,1980 64) 鈴木庄吾:アメリカの家具店を調査するにあたって,KF 会 米国研修ツアー,KF 会事務局,9-10,1980 謝辞 コスガ各位から長年に亘り賜ったご厚誼に深謝申し上げる。

参照

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