1.研究の背景と目的 東南アジア地域の大都市においては,農村から都市への 人口流入,都市域の拡大が急速に進行しつつある。その過 程ではヒートアイランド問題や大気汚染問題,洪水被害の 増大といった住環境悪化が深刻化しつつある。また,発展 途上国の大都市においてはこのような急速に悪化する都市 環境問題への対処と共に,地球温暖化問題をはじめとする グローバルな環境問題への対処,都市内での生活における 快適性の向上への取り組みを同時に進めていくことが求め られている。地域環境問題の解決,地球環境問題の解決, アメニティ向上という異なる三つの目標を持ちながら都市 整備を進めていくためには,都市に形成される環境の物理 的特徴を把握するとともに,都市住民が日常生活の中でど のように都市空間を利用しているかについて知見を重ねて いく必要がある。 そこで本研究では,人口増加を続ける巨大都市のひとつ であるインドネシアの首都ジャカルタを取り上げて,市街 地の環境特性と住民の空間利用行動の関係について考察す ることを目的とした。 東南アジアの都市空間を対象とした既往研究では,都市 化にともなう土地利用の変容や,市街地や居住地の空間特 性に関する研究などがある。村上ら1)は,フィリピンのメ トロマニラ外縁に位置する町を対象に都市化の特徴と土地 利用変化を考察し,無秩序な住宅地開発が町の交通網に悪 影響を及ぼし,洪水被害の増大など都市環境の悪化を招く ことを明らかにしている。布野ら 2)はマレーシアのマラッ カを対象に旧市街の街路体系や施設分布などを調査し,歴 史的な背景と関連付けて整理している。また布野ら 3)は 1984 年と 2006 年にインドネシアの都市内カンポンの住居 を対象とした現地調査を実施し,住居の構成素材の変化や 建物の高層化の過程を明らかにしている。また辻原ら4)は 台湾の台北市,シンガポール,マレーシア・ペナン島のジ ョージタウンの連続覆付歩廊を対象に温熱環境を実測調査 し,その特徴を考察している。しかしいずれの研究でも住 民の詳細な空間利用については分析されていない。エネル ギー問題等の地球環境問題への対処を検討し,生活空間の アメニティを議論していくためには住民の詳細な行動を考 察する必要があるといえる。 一方で空間の特徴,特に温熱環境と空間利用の関係につ いては多くの既往研究がある。中瀬ら5)は温熱環境実測の 結果から地表面やその周辺の温度が屋外空間利用に影響し ていること,また地表面温度が気温よりも強く影響を及ぼ していることを示している。赤川ら6)は代表点における温 熱環境実測と利用者観測を行うことで,平均放射温度が人 間の屋外空間利用時間と負の相関を持つことを明らかにし ている。これらの研究では特定地点における定点実測の結 果を基に温熱環境を議論している。その際,放射環境につ いては一部の表面温度の観測結果かグローブ球を用いた地 点毎の実測結果を基に議論をしている。しかし放射環境は 周辺の表面温度分布全体に影響を受けるため,数十cm 離 れただけでも大きく変化する。また機材を設置した場合に はその機材の存在によって空間利用が変わる可能性がある。 そこで本研究では,複数のインターバルカメラによる建 築外部空間の行動観察と,3D-CAD 対応型熱収支シミュレ ータを用いた放射環境の評価を組み合わせることで,市街 地の環境特性と住民の空間利用行動の関係について考察す ることとした。同シミュレータを用いることにより,利用 地点周辺の詳細な環境特性の変化を分析することが可能と なり,かつ測定機材等を用いないことで,より客観的に利 用行動を分析することが可能となる。また本研究では屋外 Relationships between thermal environment and residents' usage of outdoor spaces in a kampung in Jakarta, Indonesia
村上 暁信*・栗原 伸治**・原科 幸爾*** Akinobu Murakami*, Shinji Kurihara** and Koji Harashina*** In this study, the features of thermal environment in a residential area of Jakarta, Indonesia, and the residents’ usage of
outdoor spaces were examined. In order to discuss the relationships between thermal environment and residents’ behavior, field observation of outdoor spaces and application of a numerical simulation were implemented. The information on building shapes and materials was collected in the study area, and the 3D-CAD model, to which the material and physical property data were added, was developed. Then the surface temperature distribution and Mean Radiant Temperature distribution were calculated using numerical simulations. The residents’ behavior was recorded using interval cameras, then compared to the MRT distribution map. The results indicated that the residents used the space where scored low MRT value during the hottest times on an elective basis.
Keywords: outdoor spaces, thermal environment, observation of residents’ behavior
屋外空間,熱環境,住民行動観察
* 正会員 筑波大学システム情報系(University of Tsukuba) ** 正会員 日本大学生物資源科学部(Nihon University) *** 正会員 岩手大学農学部(Iwate University)
空間を利用する頻度とその目的についてアンケート調査を 実施し,屋外空間利用の意義について考察を行った。 2.研究手法 2-1 分析対象地区 インドネシアでは,本来農村や漁村の集落を意味する「カ ンポン」と呼ばれる集落が首都ジャカルタをはじめとする 都市域にも多く存在している。低層高密な都市域のカンポ ンは,土地の所有権が細分化されていることもあり,今後 の更なる都市化の進行の中でも残存していくものと考えら れている。本研究ではこのカンポンを取り上げて,屋外空 間の特徴とその利用実態について考察することとした。ま た,利用される空間の特徴については,屋外空間利用に影 響を与えていると考えられる熱環境に着目した。 分析にあたって,インドネシア・ジャカルタ首都特別州 の中央ジャカルタ市タナアバン地区カンプンバリを研究対 象地とした。中央ジャカルタ市はジャカルタ5 市の中で面 積人口ともに最小であるが,ジャカルタの中央に位置し政 治経済の中枢が集中している地区である。対象地は公共施 設やショッピングモールが立地するタムリン通りから 500m 程のところに立地しており,その規模はおよそ 100m 四方の地区である,2012 年 9 月時点で全部で 61 戸の住宅 が立地している。住居の多くはRC 造やブロック造,レン ガ造であり,階層は2 階建ての住居が 7 割を占めている。 対象地区の縁には東西南北に直線道路が通り,対象地区 内部には1本の細街路が通っている。本稿では対象地東側 の南北道路を東通り,西側の南北道路を西通り,南側の東 西道路を南通り,北側の東西道路を北通りと表記する。ま た対象街区内部を通っている細街路を中通りと表記する。 東通りの幅員は3m 程度であり,他の通りに比べて広い。 事前調査では住民が設置した簡易的な椅子や植木鉢,バイ ク,自転車など多くの物品が屋外空間に置かれていた。西 通りの幅員は2m 程である。西通り両側には生垣と植木鉢 群が並んでいた。また通り沿いの住戸には塀を設置してい るものが多かった。南通りの幅員は2m50cm 程であり,バ イクなどが多く置かれていた。また高い塀を有している住 居が多くみられた。北通りの幅員は2m50cm 程度であった。 屋外空間では洗濯物が干してある様子がみられた。中通り の幅員は,他の通りに比べ最も狭く1m 前後であった。植 木鉢,洗濯物がみられたが,幅員が狭いため,椅子等の設 置はみられなかった。 2-2 住民へのアンケート 都市内カンポンの暮らしにおける屋外空間利用の意義を 検討するため,2011 年 9 月に対象地区において住民へのア ンケート調査を行った。都市内カンポンの屋外空間が実際 に住民間コミュニケーションの場として重要な役割を果た しているかどうか,屋外空間利用が住民の隣人とのつなが りとどのような関係を持つかを把握することを目的に,表 -1に示した項目についてアンケート調査を実施した。 2-3 住民の屋外空間利用の分析 屋外空間の利用状況を把握するためには対象地区全域の 屋外空間を同時に観察する必要がある。そこで任意の撮影 間隔で自動的に画像を撮影できるインターバルカメラ(以 下,IC)を用いることとした。対象地区全域の屋外空間利用 状況を撮影できるようにIC を複数設置し,2012 年 9 月 7 日16:30 から同年 9 月 11 日 11:30 まで定点撮影を行った。 撮影間隔は5 分とした。撮影期間の天候は晴れであった。 本研究では住民の屋外空間利用の形態を立位利用(立っ たままの状態,滞留)と座位利用(座って利用している状 態)に分けて検討することとした。尚,座って利用してい る方がより積極的な意思が表れている行為と考えられるた め,放射環境との比較分析については座位利用のみを扱う こととした。さらに座位利用については着座と滞座の二つ に分類した。着座・滞座の定義は以下の通りとした。 着座:1 フレームのみで座位での地点利用(5 分以内の利 用) 滞座:2 フレーム以上で連続した座位での同一地点利用 (5 分以上の利用) IC で取得された画像を 1 フレームごとに目視判読して, 1 フレームのみで地点利用が確認された場合に着座として Jabotabek JAKARTA Serang
Sukabumi CimahiBandung Bogor 50 km North Jakarta City West Jakarta City
Central Jakarta City
East Jakarta City South Jakarta City Tangerang City South Tangerang City Bekasi City 0 5 10km 分析対象 地区 0 20 40m 対象地 街区内路地 図-1 研究対象地 表-1 アンケート項目 住民の属性 ・性別 ・年齢 ・職業 ・家族構成(年齢,性別) ・居住歴 家電の所有 ・エアコン(有の場合は使用時間帯) ・ テレビ 屋外空間利用について ・暇な時間帯はいつか ・どのように過ごしているか 「室内で休んでいる」「外に出て休んでいる」「地区の外に出かける」「その他(自由記述)」 ・隣人と一日平均何分くらい話をするか ・隣人と話す場所 「自分の家」「他人の家」「屋外空間」「その他(自由記述)」 ・家の近くの屋外空間を一日平均何分くらい利用するか ・家の近くの屋外空間を利用する理由 写真―1 西通りと北通り 写真-2 北通りの様子 の結節点付近の様子
集計した。また2 フレーム以上で同一人物が同一地点を利 用していることが確認された場合には滞座として集計した。 また目視判読した地点を対象地区地図に住民の屋外空間 利用位置としてプロットした。 2-4 屋外空間に形成される放射環境の分析 本研究では熱環境の特性を把握するために3D-CAD対応 熱収支数値シミュレータを用いることとした。同シミュレ ータは梅干野ら7), 8), 9)によって開発されたものであり,3 次 元の形状を再現した建物(3 次元 CAD モデル)及び地表面 の全表面をメッシュ分割(本研究では0.4m)し,それぞれ に設定した質点において,表面の熱収支計算(直達日射, 天空日射,反射日射,大気放射,周辺地物との長波長放射 の授受,対流熱伝達)と各面断面方向の一次元非定常熱伝 導計算を行い,表面温度を算出するものである。本シミュ レータによって,あらゆる日・時間について対象地区の全 表面温度分布を算出することができる。 熱収支シミュレータにより熱環境を再現,評価するため には,対象地及びその周辺地区の空間形態及び構成材料デ ータの収集と3D-CAD モデルの作成が必要となる。本研究 では既往研究の手法を参考にして,2011 年 9 月と 2012 年 9 月に現地調査を行ない,ベランダや窓面等を含む建物,地 面(被覆状況),緑に関する空間形態及び構成材料データを 収集した。また計算に際して必要となる入力データ(気象 条件)については,既往研究を参考にして2012 年 9 月 10 日に現地観測を実施し,その結果を利用した。計算は4 日 間助走計算させ,5 日目の結果を周期定常解として採用し た。 屋外空間の熱環境評価に際しては赤川ら6)によって空間 利用に大きな影響を与えることが指摘された平均放射温度 (Mean Radiation Temperature,以下 MRT)に着目することと した。一般に,人間が感じる熱的快適性については,環境 側の要素として気温,湿度,風速,放射の4要素が影響を 与える。今回の対象地区は面積が小さいことにより,気温 と湿度については場所による違いは小さいものと考えられ る。また風速は常に変化するものであるため,屋外空間の 連続的な利用に与える影響は限定的なものと考えられる。 さらに予備調査では対象地区内で特に定常的に強い風が観 測された場所などはなかったことから検討項目から削除し た。一方で放射は,隣接した空間であっても建物の日影や 化する環境要素であるため,本研究の分析には適した要素 であるといえる。平均放射温度は以下の式によって算出さ れる。 MRT〔℃〕=4 N 1 k N 1 j 4 sjk jk jk v h T F
-273.2 Tsi:微小面の表面温度〔℃〕 ε:微小面の長波長放射率 F: 微小球からある面への形態係数 Nh,Nv:それぞれ微小球から周辺地物の表面温度参照のために仮 想の放射線を全球方向に射出する際の水平方向,垂直 方向の射出分割数 本研究で用いる3D-CAD対応型熱収支シミュレータでは, 上式を用いることで,任意地上高さのMRT 分布の算出が 可能である。本研究では座っての空間利用を想定して議論 するために,地上高さ100cm の MRT 分布を算出した。 3.結果 3-1 アンケート結果 対象地内の居住できないもしくは居住者のいない建物を 除いた61 件中 45 件,46 名の住民からアンケートの回答が 得られた。尚,46 名の内,露店経営者 4 名が含まれていた ため,これらを除外した42 サンプルを用いて分析を行った。 家電製品の所有についてはテレビの所有率は 100%であ ったが,エアコンの所有率は26%であった。エアコンを所 有している家庭が利用する時間帯は,ほぼ一日利用する(18 時間以上)という家庭は 33%,夜間から早朝にかけて利用す る家庭は50%,早朝から日中に利用するという家庭は 17% であった。 図-3は,横軸を屋外空間利用時間,縦軸を隣人との一 日の会話時間としたグラフである。屋外空間利用時間の増 加に伴い隣人との一日の会話時間も増加している。因果関 係を統計的に示すことはできないが,屋外空間利用は会話 の機会に繋がるものと考えられる。また屋外空間を利用す る理由としては,友人・隣人に会うためという回答(41%) が最も多く,次に屋内が暑いためという回答(24%)が多 かった。これらから,屋外空間が隣人や友人と会いコミュ ニケーションを行う空間として認識されているといえる。 また屋内空間の熱的快適性が悪化した場合に,屋外空間に 出るという傾向があることが示唆された。 3-2 住民の屋外空間利用の分析結果 着座者と滞座者の人数について,IC の設置期間(2012 年9 月 7 日 16:30 から 9 月 11 日 11:30)のうち 9 月 8 日,9 日,10 日の3日間の合計数を時間帯別に集計した。時間帯 は太陽が正中高度を通過する12:00,気温が最も高くなる 14:00 を基準に,その前後 10:00,16:00 を含めた 4 時刻と し,10:00,12:00,14:00,16:00 のそれぞれ前後 30 分を対 象時間帯と設定した。その結果,対象地区全域で 10:00 (9:30~10:30)は着座者 37 名,滞座者 38 名,12:00 図-2 インターバルカメラの設置位置及びその向き(11:30~12:30)は着座者 41 名,滞座者 41 名,14:00 (13:30~14:30)は着座者 46 名,滞座者 71 名,16:00 (15:30~16:30)は着座者 73 名,滞座者 97 名が確認された。 4つの時間帯では14:00 以降に両者とも増加し,16:00 の時 間帯に最も屋外空間が積極的に利用されていたといえる。 また対象地区全体の屋外空間利用人数と同様に,通り別 に各時間帯における屋外空間利用人数を着座,滞座に分け て集計した(図-4)。その結果,東通りは12:00 に着座者, 滞座者が減少し,14:00 に急激に増加していた。西通り,南 通りは一貫して利用者が少なかった。これは前記のように 通り沿いにバイクが置かれていたり,植木鉢が多く置かれ ていることにより利用できる空間が少ないことによるもの と考えられる。北通りは滞座者が14:00 で減少していた。 中通りは14:00 では滞座者,着座者ともに増加したが,16:00 には両者ともに減少した。 3-3 屋外空間に形成される放射環境の分析結果 MRT 分布の算出は着座者と滞座者の人数を集計した 4 時刻について行った(図―5)。 各時刻のMRT 分布の傾向として,10:00 では,東通りの MRT が通り西側で 33℃以上になるなど高い値を示す一方 で,西通りは全体的に30℃程度の相対的に低い値を示した。 この違いは通りの幅員によるものと考えられる。広幅員の 東通りでは日射の影響を受けて路面の温度が上昇したため にMRT も上昇したものと考えられる。北通り南側では建 物際の領域も高い値を示した。北通りには庇がのびた建物 が連続していたが,日射により,庇自体が暖められた結果 であると予想される。次に12:00 では街区全体で MRT の値 が10:00 に比べて高くなっていた。特に東通り,西通りの 各通り東側など,東側に建物等の遮蔽物がある場所では MRT の上昇が著しい。10:00 の段階では建物の影になって いた箇所が,太陽高度が上がることにより路面全体が暖め られ,熱的に不快な領域が多くなったと考えられる。しか し西通り,中通りは部分的にMRT が 32℃程度に低くなっ ているところがみられる。これらは緑陰によりMRT の低 下がもたらされていたり,通りの幅員が狭いことにより建 物の影が影響している場所だと考えられる。14:00 では東通 り,西通りの西側でMRT が 34℃程度まで低下しているも のの,全体的に12:00 と比べて顕著に MRT が低下したとこ ろは少なく,熱的に不快な領域が多く残っているといえる。 16:00 では,東,西,南通りで通りの中央部の MRT が低下 した。 3-4 屋外空間利用と放射環境の関係 対象地区に形成された放射環境の特性と,利用されてい る空間の位置との関係を分析するために,IC で観察された 利用場所をMRT 分布図上にプロットした。一例として図 -6に東通りにおける10:00, 12:00, 14:00, 16:00 の各時点で 確認された立位利用と座位利用の位置を示す。この図から, 決まった場所だけでなく様々な場所が利用されていること がわかる。また,12:00 と 14:00 においては,それぞれの MRT 分布の中で相対的に低い値を示す場所のみを使って いるのに対して,10:00 と 16:00 においては MRT 値が相対 的に高い場所も利用されていることがわかる。 さらに詳細に放射環境と空間利用の関係を考察するため に,対象地区のMRT のヒストグラムを作成し,利用場所 との関係を分析した。MRT のヒストグラムを作成する際に は,通りに面した塀の内側など,人が入れない空間や側溝 の上など利用ができない空間は削除した。現地調査の結果 からこれらの場所を特定し,MRT 分布図から削除した上で, 横軸にMRT の値,縦軸に頻度を示すグラフを作成した。 さらに,滞座者・着座者の位置をMRT 分布図上で確認し, 各位置の MRT の値を記録した。その上で同様に横軸に MRT の値,縦軸に利用している人数を示した(図-7)。 図-7で10:00においては,全体のMRTは29.0℃~35.0℃ に分布し,ピークは31.0℃付近に出ている。これに対して, 利用される屋外空間のMRT は 30.0℃~33.0℃(着座者), 29.5℃~33.0℃(滞座者)に分布している。また顕著な頻度 の増加はみられない。12:00 では,全体の MRT は 32.5℃~ 38.0℃に分布し,ピークは 36.5℃付近に出ている。着座者 0 40 80 120 10:00 12:00 14:00 16:00 0 40 80 120 10:00 12:00 14:00 16:00 0 40 80 120 10:00 12:00 14:00 16:00 0 40 80 120 10:00 12:00 14:00 16:00 0 40 80 120 10:00 12:00 14:00 16:00 合計 滞座者数 着座者数 滞留者数 時間 人 時間 人 時間 人 時間 人 時間 人 東通り 西通り 南通り 北通り 中通り 図-3 屋外空間利用時間と会話時間 図-4 通り別の屋外空間利用人数の推移
が利用していた空間のMRTは全体のMRT分布に対して偏 りなく分布している。しかし滞座者の利用した空間のMRT は33.0~36.0℃に分布しており,ピークは 33.5℃付近に出 ている。これは全体のMRT 分布に比して低い領域に分布 しており,ピークのMRT 値も低くなっているといえる。 14:00 では,全体の MRT は 33.0℃~37.0℃に分布し,ピー クは34.0℃付近と 36.0℃付近に出ている。着座者が利用し ていた空間のMRTは全体のMRT分布に対して偏りなく分 布しているが,ピークは全体の分布のピーク値の低い方と 同等の値付近に出ている。一方で滞座者の利用した空間の MRT は 33.0~35.5℃に分布しており,ピークは 34.0℃付近 に出ている。これは12:00 と同様に全体の MRT 分布に比し ピークのMRT 値も低くな っているといえる。16:00 においては,全体のMRT は31.0℃~34.0℃に分布し, ピークは32.0~33.0℃付近 に出ている。これに対して, 利 用さ れる屋 外空 間の MRT は全体のMRT 分布域 と同範囲に分布しており, かつピークの位置も違いが ない。 この特徴は,10:00,16:00 においては屋外空間の熱的 快適性が劣悪ではないため, 位置選択において放射環境 が強い影響を持たなかった ものと考えられる。一方で 12:00,14:00 においては 10:00や16:00の時間帯と比 べて屋外空間全般の熱的快 適性が悪化するため,放射 環境の良好な領域(MRT が特に低くなる領域)が優先的に 利用されたものと考えられる。また,この傾向は着座者よ りも滞座者でより顕著であり,放射環境の良好でない領域 は一時的に利用されるものの利用が継続しないのに対し, 放射環境の良好な領域は長時間留まれる領域として人々に 利用されていたと考えられる。 4.考察 本研究では,ジャカルタの都市内カンポンにおける放射 環境特性と住民の空間利用行動の関係について考察を行っ た。対象地区では,オートバイや植木鉢を置くなどの利用 の他に,屋外空間に座って滞在する様子が観察された。住 民を対象としたアンケートからは,屋外空間は隣人とのコ ミュニケーションの場として,また住民自身の感覚として 室内が暑くなって過ごしにくくなった際に涼を取る場所と して利用されていることが示された。また,屋外で過ごす 時間が長い住民程,隣人との会話時間が長くなる傾向がみ られた。 さらに,複数のインターバルカメラによる建築外部空間 の行動観察と,3D-CAD 対応型熱収支シミュレータを用い た放射環境の評価を組み合わせた解析からは,熱的快適性 が大きな問題とはならない10:00 や 16:00 の時間帯では, 放射環境に関係なく利用場所が選択されている一方で, 12:00や14:00といった熱的快適性が劣悪になる時間帯にお いては住民はMRT の低い領域を積極的に選択して利用し ていることが示された。この傾向は屋外空間を継続的に利 用する際にみられたことから,対象地区内に放射環境の良 好な空間を整備していくことで,より多くの屋外空間利用 10:00 (気温31.6℃) 12:00 (気温33.6℃) 14:00 (気温34.3℃) 16:00 (気温33.8℃) 28 35℃ 32 39℃ 31 38℃ 28 35℃ 0 20m 図-5 MRT 分布図(図毎に異なる温度レンジを採用) 28 35℃ 32 39℃ 31 38℃ 28 35℃ 10:00 12:00 14:00 16:00 × × ×× 〇 〇 〇 〇〇 〇 〇 〇〇 × × × 〇〇 〇 〇 〇 〇 〇〇 〇 〇××× 〇〇 〇〇 〇 〇 × × 図-6 東通りにおける屋外空間の利用位置と MRT 分布(〇:座位利用,×:立位利用)
を誘導していける可能性があるといえる。 対象地区全体ではいまだにエアコンがほとんど導入され ていないものの,今後地区のヒートアイランド問題が進み, 熱環境が劣悪化していけば快適に過ごすためにエアコンの 導入が進むものと予想される。そうなればエネルギー消費 が増大し,地球温暖化問題に対して負の影響を与えること になる。しかし現状では暑く感じるようになれば外に出て 涼を取る,という習慣もみられることから,この習慣を最 大限活用するために屋外空間の放射環境を良好な状態にし て屋外空間の利用を誘導し,エアコン使用に直接的に繋が ることを防いでいくことが求められるといえる。放射環境 は対象とする地点の周囲の表面温度分布によって決まるた め,熱的快適性に影響する気温,湿度,風速の他の3要素 と異なり,空間構成や用いる材料を考慮することで人為的 に容易に改変することができる。従って今後は木陰を提供 する緑化を推進したり,放射環境を悪化させないための建 築構成材料の選択をしていくなどが求められるといえる。 さらに,そのような取り組みを進めて屋外空間利用を誘 導することができれば,住民間のコミュニケーションの機 会が増すことが期待される。すなわち環境保全上の利点だ けでなく,コミュニティ形成においても重要な意義を持ち 得るといえる。以上の観点から,今後は屋外空間を放射環 境の点から改善,整備することで,より快適な生活空間を 形成することが重要な課題であるといえる。 【謝辞】 本研究の実施に際して,(株)ミサワホームの朝倉恭平氏(当時・ 筑波大学大学院修士課程学生)から多大な協力を得た。ここに記 して謝意を表する。 【引用文献】 1) 村上暁信,原祐二,小笠原澤(2003),「フィリピン・メトロマ ニラ外縁部における土地利用変化に関する研究」,ランドスケ ープ研究,66(4),290-293. 2) 布野修司,山崎大智,宇高雄志,ナウィットオンサワンチャ イ,山田協太(2005),「マラッカ(マレーシア)旧市街の空間特 性と住居形式に関する考察」,日本建築学会計画系論文集,590, 41-47. 3) 布野修司,高橋俊也,川井操,チャンタニー・チランタナッ ト(2009),「カンポンとカンポン住居の変容(1984-2006)に関 する考察」,日本建築学会計画系論文集,637,593-599. 4) 辻原万規彦,中村泰人,田中稔(1999),「東南アジアを中心に 分布する連続覆付歩廊内部の温熱環境に関する研究」,日本建 築学会計画系論文集,515,105-112. 5) 中瀬勲,清田信(1987),「春季の公園での熱的環境要因と人間 行動との相互依存関係」,造園雑誌,51(5).216-221. 6) 赤川宏幸,福味克幸,久保田孝幸,竹林英樹,森山正和(2007), 「大規模商業施設屋上庭園における夏季の温熱環境と訪問者 の滞留特性に関する研究」,日本建築学会環境系論文集,611, 67-74. 7) 梅干野晁,浅輪貴史,村上暁信,佐藤理人,中大窪千晶(2007), 「実在市街地の3D-CAD モデリングと夏季における街区のヒートアイ ランドポテンシャル 数値シミュレーションによる土地利用と土地被覆に着 目した実在市街地の熱環境解析 その1」,日本建築学会環境系 論文集,612,97-104 8) 梅干野晁,浅輪貴史,中大窪千晶(2004),「3D-CAD と屋外熱 環境シミュレーションを一体化した環境設計ツール」,日本建築学会技術 報告集,20,195-198 9) 梅干野晁,浅輪貴史,高田真人,円井基史(2002),「土地利用 と熱環境対策からみた都市街区におけるヒートアイランドポテンシャルの 特徴」,日本建築学会計画系論文集,559,63-70 0 3 6 9 12 15 0 500000 1000000 1500000 2000000 2500000 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 (画素) 画素 数 (M RT ) MRT(℃) 10:00(人) 人数 0 3 6 9 12 15 0 500000 1000000 1500000 2000000 2500000 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 (画素) 画素数 (M R T) MRT(℃) 12:00(人) 人数 0 3 6 9 12 15 0 500000 1000000 1500000 2000000 2500000 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 (画素) 画素 数 (M RT ) MRT(℃) 14:00(人) 人数 0 3 6 9 12 15 0 500000 1000000 1500000 2000000 2500000 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 (画素) 画素数 (M R T) MRT(℃) 16:00(人) 人数 0 3 6 9 12 15 0 500000 1000000 1500000 2000000 2500000 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 (画素) 画素 数 (M R T) MRT(℃) 10:00(人) 人数 0 3 6 9 12 15 0 500000 1000000 1500000 2000000 2500000 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 (画素) 画素 数 (M R T) MRT(℃) 12:00 (人) 人数 0 3 6 9 12 15 0 500000 1000000 1500000 2000000 2500000 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 (画素) 画素 数 (M R T) MRT(℃) 14:00(人) 人数 0 3 6 9 12 15 0 500000 1000000 1500000 2000000 2500000 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 (画素) 画素 数 (M R T) MRT(℃) 16:00(人) 人数 図-7 MRT 分布ヒストグラムと屋外空間利用人数(左:着座,右:滞座)