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外傷急性期の血液凝固線溶系

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はじめに

「外傷後にみられる血液凝固線溶系の変化−新し い考え方と治療方法−」と題する総説を 2006 年に 公表した1)。本総説では止血・創傷治癒のための生 理的凝固線溶反応と病的凝固線溶反応(disseminated intravascular coagulation, DIC)の相違を解説した上 で,外傷後のDICは外傷初期の線溶亢進型と外傷後 期の線溶抑制型に二分類され,前者が重症の場合に は病態変化を伴い後者へ連続して移行することを述 べた。線溶亢進型DICの主な死亡原因は大量出血で あり,線溶抑制型DICでは臓器不全,なかでもmul-tiple organ dysfunction syndrome(MODS)の発症が

重要である。次に外傷性出血性ショックに対する大 量輸血と凝固線溶反応の変化に言及し,希釈性凝固 障害は誤った輸血療法に起因する医原性凝固障害で あることを述べた1, 2)。1990 年代後半に提唱された 「死の3徴候-lethal triad」は低体温・アシドーシス・ 凝固障害を指すが,低体温とアシドーシスは外傷後 にみられる凝固障害の主因ではなく修飾因子である ことを指摘した上で,ここで言う凝固障害の本態は 米国ではDICではなく希釈性凝固障害と位置づけら れていることも指摘した1, 3) 2000年代中頃に,希釈性凝固障害は赤血球濃厚 液(packed red blood cells, PRBC) に対して新鮮凍結 血漿(fresh frozen plasma, FFP)の投与量が少ない 輸血療法に起因することを指摘した論文4),希釈性 凝固障害・アシドーシス・低体温が進行する前に外 傷自体により引き起こされる凝固障害が存在するこ とを再確認した論文が公表されるようになった5, 6) その後外傷患者の輸血療法と凝固障害に関して多数

外傷急性期の血液凝固線溶系

−現在の世界的論点を整理する−

丸藤  哲  澤村  淳  早川 峰司  菅野 正寛 久保田信彦  上垣 慎二  平安山直美       

要旨 外傷急性期の凝固線溶系の変化に関してEducational Initiative on Critical Bleeding in Trauma

(EICBT)から新しい病態概念である「Coagulopathy of Trauma」と「Acute Coagulopathy of Trau-ma-Shock(ACoTS)」が提唱された。しかし,これらの診断基準は存在せず,両者の本態は従来 から独立した病態として存在する線溶亢進型DIC(disseminated intra vascular coagulation)に一致 する。診断基準がないことが同概念と線溶亢進型DICおよび類似病態との鑑別を不可能としてい る。これらの理由により「Coagulopathy of Trauma and ACoTS」は,独立した疾患・病態概念では なく定義不能な臨床状態として位置づけることが可能である。このような曖昧な概念を外傷急性 期の凝固線溶系変化の病態生理解明のために使用すべきではない。外傷急性期の凝固線溶系異常 は線溶亢進型DICで説明可能であり,線溶亢進型DICは従来どおり正しく線溶亢進型DICと呼称 されるべきである。 (日救急医会誌. 2010; 21: 765-78) キーワード:凝固線溶,播種性血管内凝固症候群(DIC),大量出血,凝固障害

Coagulation and fibrinolytic responses at an early phase of trauma: The main issues in the world are reviewed and discussed

北海道大学大学院医学研究科侵襲制御医学講座救急医学分野 〒060-8638 北海道札幌市北区北15条西7丁目

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の論文が公表され,新知見の集積とともに病態解明 が進んだ。しかし,外傷急性期の凝固障害に関して は議論が多く,新しく提唱された外傷性凝固障害の 病態生理に対する反論も公表された7-9) 本稿ではお互いに深い関連を持つ外傷性大量出血 に対する輸血療法および外傷性凝固障害の歴史的展 望と現在の世界的論点を整理して紹介し,その問題 点に対して批評と考察を加える。

外傷性大量出血と輸血療法

1. 歴史的展望 外傷後の凝固障害を理解するためには,外傷性大 量出血に対する輸血療法の変遷を学ぶ必要がある。 外傷性大量出血に伴う血小板・凝固線溶反応異常(い わゆる凝固障害,coagulopathy)は,米国系外傷外 科医により希釈性凝固障害(dilution coagulopathy) であるとの主張が繰り返されてきた。しかし,これ は前述のごとく大量出血に対して輸血を施行する際 にFFP等で十分量の凝固因子を補充しないことに起 因する米国特有の医原性凝固障害である。 凝固因子を十分に含む全血輸血が行われた 1980 年代前半までは血小板減少が止血異常の主因であり 凝固障害に先立って出現するために,止血異常が出 現した場合に最初に投与すべきは血小板であると考 えられていた10)。この全血輸血時代の考えがそのま ま成分輸血に応用されたこと,外傷後の輸血療法に 関する科学的根拠がなくいわゆる専門化の意見(ex-pert opinion)が通用したこと,応用された輸血指針 が外傷とは病態の異なる定期予定外科手術のもので あったこと,高価なFFPの無制限使用を抑制すべき であるとの意見が大勢を占めたこと等が大量出血を 伴う外傷症例へのFFP投与指針を誤らせ,その過少 投与の原因となってきた。実際,2000 年初頭まで 外傷性大量出血に対して,米国では経験に基づき PRBC5-6単位に対して FFP1 単位,4 単位に対して 1 単位,あるいは10単位に対して1単位の投与を行う べきであるとする誤った総説が公然とかつ賞賛を受 けて外傷専門雑誌に掲載されていた2)。翻って本邦 では 1980 年代からの DIC 学進展の成果として,厚 生労働省による輸血療法の実施に関する指針・血液 製剤の使用指針では,「外傷などの救急患者では, 消費性凝固障害が存在していることを検討し」と正 しい指摘が記載されている。DIC に起因する消費性 凝固障害が存在する時に充分量のFFPを投与すべき ことが厚生労働省の輸血指針に公表されていること は注目に値する11) Hiippala 12) は出血傾向が出現する(補充が必要と なる)血小板および凝固因子の危険値を提示し,そ の危険値に達するに必要な出血量を算出した。血小 板がその危険値 50,000/mm3に減少するためには循 環血液量の 230% に及ぶ出血が必要であり,フィブ リノゲンが 100mg/dl 以下に減少するためには同様 に142%の出血が必要である(Table 1)。これは出血 量が循環血液量の2倍以上になり初めて血小板が危 険値まで低下することを意味すると同時に,希釈性

Table 1. The decline of hemostatic factors during major blood loss replaced with red blood cells and colloids.

Critical levels* Critical blood loss%(95% confidence interval)** r2

Platelet counts 50,000/mm3 230 (169-294) 0.60

Fibrinogen 100mg/dl 142 (117-169) 0.90

Prothrombin time 20% 201 (160-244) 0.80

Factor V 25% 229 (167-300) 0.63

Factor VII 20% 236 (198-277) 0.82

* Critical level indicates the levels of coagulopathy with a bleeding tendency; ** the percent of calculated blood volume; r2, coefficient of determination. Hypofibrinogenemia develops the first and the majority of patients reach a

critical level of fibrinogen by 142% blood loss of circulating blood volume, which is an unrealistic value in acutely injured trauma patients associated with massive blood loss. Modified from the reference (12).

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に血小板が 50,000/mm3に低下するためには 230% に 及ぶ出血を血小板および凝固因子を含まない輸液・ 輸血(Hiippala は赤血球製剤と膠質液を使用)で補 正する必要があることを示している。この報告は希 釈性凝固障害が非現実的設定で初めて起こる現象で あることを示したと同時に,血小板数が危険値に減 少する前にフィブリノゲン減少が起こること(即ち 出血傾向が出現した場合に最初に投与すべきは血小 板ではなくFFPである)を初めて科学的に証明した ものである。その後FFP過少投与に対する批判的論 文が相次いで公表されるようになった4, 13)。さらに, FFP:PRBCの投与比率の上昇が兵士を対象とした緊 急大量輸血症例の転帰を改善した報告受けて14),外 傷性大量出血に対する輸血療法に関する新知見が集 積された。 これらの研究成果に基づき希釈性凝固 障害は誤った輸血療法が招いた結果であることが認 識され,その出現を阻止するために最大限の努力が 必要であることが現在強調されている。 2. 現在の考え方 外傷性大量出血への輸血療法の詳細を述べること が本総説の趣旨ではないために,現在の代表的考え 方を近年公表された総説をもとに簡潔に概説す る15, 16) 輸血療法は,速やかな外科的止血術,低体温・ア シドーシス・低カルシウム血症の予防等からなる damage control resuscitation(DCR)の一環として施 行されるが,その主眼は希釈性凝固障害予防のため の晶質液の過剰投与制限と充分量の FFP 投与にあ る。具体的には,FFP:PRBC:濃厚血小板液(plate-let concentrate; PC)の比率を 1:1:1 で投与するこ とにより生存率の改善を認めたとの報告が多く,可 能であれば新鮮血投与が推奨される。この考え方の 基本は,大量出血に対して充分量の血小板と凝固因 子を全血輸血時代同様に投与することにある。医原 性希釈性凝固障害予防のために充分量のFFPを投与 するとの意見に異存はないであろう。しかし,この 投与方法が外傷性大量出血患者の生存率を改善する か否かは別の問題であり,Spinella ら16) の総説で取 り上げられている十数編の論文は1編を除き全て後 方視的研究であり前向き検討を行った1編も統計学 的検出力に欠けることが指摘されている点に注意が 必要である。さらに,これらの論文の生存バイアス (FFP 投与比率を上げても救命不可能,あるいは投 与比率上昇が可能な患者は出血速度が遅い軽症患者 であり,速度の速い重症患者では比率上昇が達成で きない)の存在が指摘されている17)。FFP:PRBC: PC=1:1:1が受傷後どの時点で達成できたのか(初 期には不可能でICU入室後に可能になった,あるい は6, 12, 24時間かかったのか)の明確化,ショック と凝固障害の関与および組み入れと除外基準の明確 化 と 統 一 の 必 要 性 も 強 調 さ れ て い る。 さ ら に, FFP:PRBC:PC = 1:1:1 の投与比率が外傷性大 量出血の転帰を改善することを科学的に証明した論 文(レベル I)は未だ公表されていない事実,同比 率の達成は転帰を改善しないとした報告18),あるい は FFP 投 与 が MODS と acute respiratory distress syn-drome(ARDS)合併率を有意に上昇させたとする 論文の存在19) に関しても充分な注意を払う必要が あ る。 大 量 輸 血 に 伴 う transfusion-associated acute lung injury(TRALI),transfusion-associated circulatory (cardiac)overload(TACO)を初めとする多くの輸 血合併症の存在も検討課題であろう。これらの問題 点解決のために,今後の科学的研究の成果を期待し たい。 3. 新たに出現した問題点 外傷性凝固障害の本態と考えられてきた希釈性凝 固障害が誤った輸血療法が招いた医原性障害である ことが判明したが,時期を同じくして 1980 年代後 半にすでに証明されていた外傷自体が引き起こす凝 固 障 害 を 再 確 認 し た 論 文 が 相 次 い で 公 表 さ れ た5, 6, 20)。本邦では救急隊が外傷症例に輸液を行う ことができないために,搬入直後に外傷自体に起因 する凝固障害が存在することは外傷専門医にとり周 知の事実である。その凝固障害の主因がDICであり

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DICによる消費性凝固障害に対して補充量法として 充分量のFFP投与が必要なこともこの二十数年来認 知されてきた。しかし,DICを熟知しない米国系外 傷外科医は,外傷性凝固障害を説明可能な希釈性凝 固障害以外の新理論構築の必要性に迫られた。その 結果誕生した概念が「Coagulopathy of Trauma」と 「Acute Coagulopathy of Trauma-Shock, ACoTS」であ り8, 21),その理論的支柱となったのが Brohi らのグ ループが主張する「活性化プロテインCによる凝固 抑制」理論である22, 23)。この新概念および理論に対 して反論が公表されているが9),以下にこれらに関 する問題点を列挙しつつ外傷性凝固障害の本態を考 察する。

外傷急性期の凝固線溶系の変化

1. 米国系外傷外科医の考え方 すでに述べたように,外傷後のDICは外傷初期(受 傷から24-48時間)の線溶亢進型と外傷後期の線溶 抑制型に二分類され,前者が重症の場合には病態変 化を伴い後者へ連続して移行する。現在世界的議論 が集中しているのは,外傷初期約24-48時間の凝固 線溶障害であり,この凝固障害を我々は「線溶亢進 型DIC」と呼称し,米国系外傷外科医は「Coagulopathy of Trauma」 と「Acute Coagulopathy of Trauma-Shock, ACoTS」であると主張する(Fig. 1, upper)。しかし, 日本語に翻訳すると,後者が曖昧な概念であること が良くわかる。「外傷後の凝固障害の原因は多様で ある(multifactorial)。そこで,これらを総称して外 傷性凝固障害(Coagulopathy of Trauma)と呼び,外 傷とショックに誘発された凝固障害を外傷・ショッ クによる凝固障害(ACoTS)と呼ぼう」。これでは, 凝固障害の本態は凝固障害であると言っているに等 しい。この考えに基づくと,敗血症に起因する凝固 障害(線溶抑制型DIC)はFig. 1, bottomのように表 現可能であり,この図が荒唐無稽であることは一目 瞭然であろう。 それでは,外傷急性期の凝固障害の本態をどう考 えればよいのであろうか。 2. 線溶亢進型 DIC 線溶亢進および抑制型を問わず,DIC では外因・ 内因系凝固反応の亢進に起因する広範かつ持続する 大量のトロンビン産生とその活性化が認められる。 線溶抑制型DICは線溶抑制因子plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)の発現誘導がその原因と考えら れている。線溶亢進は大量フィブリン血栓に対する 二次線溶の発現により,プラスミン阻止因子である α 2plasmin inhibitor が消費性に枯渇して発現するか (過剰二次線溶),フィブリン血栓溶解とは別個に何 らかの原因により組織型plasminogen activator(t-PA) が循環血液中に放出されて発現する(一次線溶亢 進)24)。後者のみが全身性に発現する場合は,フィ ブリン血栓が存在しないためにフィブリノゲン分解 が起こり出血傾向が出現する。この状態を全身性 (過剰)一次線溶発現[systemic fibrin (ogen) olysis,

hyperfibrin (ogen) olysis]と呼称するが,純粋な一次 線溶の発現は臨床病態では少なく慢性肝臓疾患等で の発現が観察されている24)

DICの原因疾患が一次性にt-PA産生・放出を起こ すことがあり,この場合DICによる二次線溶亢進と hyperfibrin (ogen) olysisが同時に存在し,この状態を 線溶亢進型DICと呼称する。線溶亢進型DICの代表 例である急性前骨髄球性白血病では癌細胞が組織因 子(tissue factor; TF)を発現して外因系凝固反応を 亢進させ(DIC 発症),同時に癌細胞に発現したア ネキシンIIがt-PAのプラスミノゲン・プラスミン変 換を過剰発現させて線溶亢進を起こしている。低酸 素刺激が直接的に,あるいは放出されたカテコラミ ン依存性に血管内皮細胞から t-PA の血管内遊離を 起こすことが証明されている25-27)。外傷に伴う出血 性ショックは組織低灌流と酸素運搬量低下による組 織低酸素血症を引き起こすが,この低酸素刺激が血 管内皮細胞から循環血液中へ t-PA 遊離を促進する。 この t-PA が外傷急性期にみられる systemic (hyper) fibrin (ogen) olysisの原因であり,消費性α2plasemin

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inhibitor減少による二次線溶亢進と相乗的に作用し て外傷急性期の線溶亢進型DICを発症させる。

この線溶亢進型 DIC では消費性に血液凝固第 XIII 因子サブユニットA(FXIII subunit A)および創傷治 癒に必須でありフィブロネクチンが消費性に減少す ることが証明されており,これらに伴う架橋結合型 フィブリン血栓の減少と創傷治癒遅延が出血傾向を 増強する28)。DIC症例では白血球活性化により好中 球エラスターゼが高値となる。この現象は特に受傷 直後に著明であり,好中球エラスターゼがフィブリ ン分解を起こし(エラスターゼによるフィブリン分

解産物elastase-derived fibrin degradation product-EXDP の上昇として認識可能である)外傷急性期の線溶亢 進を加速することが知られている29)

外傷後の凝固線溶系変化をFig. 2としてまとめた30) 3. DIC ではないとする考え方

Bouillon,Brohi ら21) が中心となっている Educa-tional Initiative on Critical Bleeding in Trauma(EICBT) は,外傷後の凝固障害,すなわち Coagulopathy of TraumaとACoTSの病態を以下のように考えている。 1) 消費性凝固障害はほとんど認められず,DICを

Fig. 1. A diagram showing the mechanisms leading to the coagulation and fibrinolysis disorder in

trauma patients.

Upper: mechanisms of Coagulopathy of Trauma and the Acute Coagulopathy of Trauma-Shock (ACoTS) proposed by Hess et al.8) and EICBT 21).

Lower: a caricature of the upper diagram. If these proposed entities by Hess and EICBT are correct, then sepsis-induced DIC should be renamed, namely, Acute Coagulopathy of Sepsis Shock (ACoSS). However, this term has not been used and it will also likely not to be used in future.

Other Diseases Hypothermia Dilution Factor Consumption Fibrinolysis Medications Genetics COAGULOPATHY Resuscitation Inflammation Trauma ACoTS Hypothermia Acidemia Shock Hemorrhage Other Diseases Hyperthermia Dilution Factor Consumption Impaired Fibrinolysis Medications Genetics COAGULOPATHY Resuscitation Inflammation Sepsis ACoSS Hyperthermia Acidemia Shock Hypovolemia

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示唆する所見は全くないため Coagulopathy of TraumaとACoTSはDICではない。

2) Cell-based モデルに準拠すると止血反応は傷害 局所に止まり全身に波及することはないので DICは起こらない。

3) Coagulopathy of Trauma と ACoTS はショックが ないと発症しない。

4) Coagulopathy of Trauma と ACoTS の本態は,ト ロンビン・トロンボモジュリン複合体がプロテ イン C/ 活性化プロテイン C 変換を起こし,産 生された活性化プロテイン C がプロトロンビ ナーゼ複合体(FVa/FXa)とテナーゼ複合体 (FVIIIa/FIXa)を制御して凝固反応を抑制(ト ロンビン産生減少)することにあり,この凝固 抑制が出血傾向を惹起する。同時に,トロンビ ン・トロンボモジュリン複合体は PAI-1 作用を 制御して t-PA 活性を増加させて出血傾向をさ らに助長する。 5) 外傷初期の凝固障害は完全に寛解し,その後外 傷後期の凝固障害が起こることがある。この凝 固障害は敗血症性DICに似ているがDICではな く,induced coagulopathy あるいは sepsis-like coagulopathyと呼ぶべきである。即ち外傷 患者は受傷初期も後期もDICという病態に陥る ことはない。

6) 診断にはプロトロンビン時間測定が有用であ り,あるいはTrauma associated severe hemorrhage (TASH)スコアが有用な可能性もある31) 以下にこれらの主張を概説し反論を試みる。

外傷急性期の凝固線溶障害

−世界的論点の整理とその考え方−

1. 急性期に DIC は起こるのか Brohiらのグループは消費性凝固障害を認めない ことを,外傷急性期にはDICの兆候は微塵たりとも 0 10 20 30 40 50 0 1 2 3 4 T im es A B C D 0 10 20 30 40 50 0 1 2 3 4 T im es A B C D DIC with fibrinolytic phenotype

Days post trauma

DIC with thrombotic phenotype

Fig. 2. The schematic variation of thrombin activity (FPA), plasmin activity (FPBβ15-42), fibrin formation and secondary

fi-brinolysis (D-dimer), and the inhibition of fifi-brinolysis (PAI-1) after trauma. Patients without DIC (left) and with DIC (right). DIC with the fibrinolytic phenotype changes into DIC with the thrombotic phenotype and is associated with persistently high levels of PAI-1. A vertical axis shows increases from the normal values.

(7)

ない(nothing to suggest DIC)とする根拠にしてい る22, 23)。しかし,彼らの研究の最大の弱点は,健常 人対照値を欠くことと,採血が搬入時の一回のみで あり経時的測定が行われていないことである。もち ろん不可能であるが,受傷前の対照値があればなお 良いであろう。経時的測定の反復により消費性凝固 障害の出現は速やかに明瞭になるであろうし,過去 の論文を繙けば消費性凝固障害を証明した論文は多 数存在するにもかかわらず,これらは一切引用され ていない30)。その後前向きに施行した臨床研究では 従来の報告同様に消費性凝固障害が再確認されてい る29) 2. 細胞依存型モデル(Cell-based model) 従来の瀑布型モデル(cascade model)に対して最 近は細胞依存型モデルで凝固線溶反応が説明され る32)。このモデルを使用すると生理的止血と病的血 栓の相違が理解しやすい。 細胞依存型モデルの凝固反応は開始(initiation), 増幅(amplification),進展(propagation)の三段階 から成立する。開始段階では,TF 発現細胞(単球 / マクロファージ,線維芽細胞,傷害血管内皮細胞等) に TF 発現が誘導されるが,以下は傷害血管内皮細 胞を想定して論を進める(Fig. 3)。循環血液中に露 出した TF が FVII を活性化する。その結果形成され た TF/FVIIa が FIX と FX を活性化し FVa/FXa(プロ トロンビナーゼ)が傷害内皮細胞上に形成されて外 因系凝固反応が開始される。増幅期ではこの FVa/ FXaが少量のプロトロンビンをトロンビンに変換 し,産生された少量トロンビンが,傷害局所に粘着 した血小板を活性化・凝集させる。トロンビンは同 時に血小板α顆粒から FV を血小板表面上に遊離

Fig. 3. A cell-based model of hemostasis. The figure depicts injured endothelial cells as a representative type of tissue-factor

bearing cells, such as monocytes/macrophages and fibroblasts. Under normal conditions, hemostasis is localized to the sites of in-jured vessels as shown in this figure. Systemic inflammation elicited by inflammatory cytokines can alter the properties of tissue factor-expressing cells and the endothelium by altering the expression of pro- and anti-coagulation molecules. When these chang-es overwhelm the control mechanisms of coagulation that locally rchang-estrict hemostasis, then systemic thrombosis, namely, DIC en-sues. From reference (1).

Platelet Va XI XIa VIIIa V VIII Activated platelet

Amplification phase Propagation phase

VIIIa IXa Va Xa X Prothrombinase complex IX Tenase complex X Va Xa TF VIIa

Prothrombin Thrombin Thrombin burst Prothrombin

Fibrinogen Fibrin

Normal endothelium Fibrin network

Injured endothelium or TF bearing cells

Initiation phase

Tissue factor bearing cell: Monocyte/macrophage, fibroblast, endothelium PAR

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する。次いで活性化血小板上に循環血液中のFV(α 顆粒からの遊離型に加えて),FVIII,FIX が結合し これらの凝固因子活性化が進行する。進展期では血 小板上に形成された FVIIIa/FIXa(テナーゼ)およ びFVa/FXa がプロトロンビンに作用してフィブリン 血栓形成に必要な大量のトロンビンが産生される (thrombin burst)。 外傷では通常TFは傷害された内皮細胞下血管周囲 組織から血管内に露出し,止血反応はこの傷害局所 周辺で進行する。FVa/FXaにより産生されたトロン ビンは血小板に発現する protease-activated receptor 4 (PAR4)に作用して血小板活性化を起こすが,速や かにアンチトロンビン/グリコサミノグリカン系お よびトロンボモジュリン/プロテインC系が関与する アンチトロンビンと活性化プロテインCにより補足 中和あるいは抑制されるために,血小板粘着・凝集 も傷害局所に限局されている。しかし,外傷初期 DICが発症する症例では,炎症性サイトカイン発現 が循環血液中の単球,組織マクロファージ,血管内 皮細胞を活性化させてこれらの細胞・組織(すなわ ち循環血液中,全身性に)にTFが発現してくる。同 時に,tissue factor pathway inhibitor(TFPI)・アンチト ロンビン・プロテインC・プロテインSの消費性減少, 内皮細胞傷害によるグリコサミノグリカン・トロン ボモジュリンの脱落減少,炎症性サイトカインによ る トロンボモジュリンのダウンレギュレーション・ 不活化,好中球エラスターゼによるTFPI・アンチト ロンビン・プロテインC・プロテインS分解,アン チトロンビンの血管外漏出等が起こるために凝固制 御機能が低下する。この結果産生されたトロンビン が局所に止まらず,全身循環血液中へ逸脱し,広範 な循環血液中での血小板の活性化を引き起こす。こ れらの結果傷害局所を逸脱した凝固反応亢進が起こ るが,これを生理的止血ではなく病的血栓形成と称 し,播種性に起こる場合がDICである。 炎症性サイトカインによる単球・血管内皮細胞等 の TF 発現に加えて,脳,肺胞上皮,皮膚,血管周 囲組織等に大量に発現している TF は,広範な鈍的 挫滅性外傷に伴い直接血管内に遊離する。Dunbar ら33) は外傷直後(受傷1時間)に凝固障害を発症し た症例(彼らは慎重に言葉を選び,この凝固障害を DICではなく DIC-like と称している)では,全身循 環血液中に傷害細胞・組織から遊離した TF あるい はリン脂質やコラゲン等の凝固促進因子が存在する ことを証明した(Fig. 4)。この結果は,外傷性 DIC では血漿中TF抗原の上昇を認め,このTFがトロン ビン活性化の指標であるFPAおよびフィブリン形成 の指標である D- ダイマーと有意な相関を認めた臨 床研究の結果を補完するものとして興味深い34)。こ れらの研究結果は,重症外傷急性期に TF 等凝固促 進因子が循環血液中に全身性に存在することを科学 的に証明したものである。 接触因子(FXII),高分子キニノゲン,カリクレ イン等が関与する内因系凝固反応は,従来止血・創 傷治癒への関与は少ないとされてきた。しかし,細 胞・組織障害に伴い細胞外に放出される核内 DNA/ RNA,なかでも RNA が直接 FXII を活性化すること が最近証明された。傷害細胞から血管内に遊離する RNAが従来知られてきた所謂「異物面」として FXIIを活性化させていると考えられ,広範な細胞・ 組織挫滅に伴う RNA の循環血液中への放出が全身 性に内因系凝固反応亢進を起こす可能性が現在指摘 されている35) 以上の研究結果は,重症広範鈍的外傷では傷害局 所の止血反応に加えて全身性の血栓形成,即ち播種 性血管内血栓形成(DIC)が起こるとする説を支持 するものである。 3. ショックと凝固線溶系

EICBTは出血性ショックが Coagulopathy of Trau-maと ACoTS の原因であり,外傷のみでは凝固線溶 障害は起こらないとの立場をとる。しかし,この主 張も患者搬入時の1回の採血結果に基づくものであ り,彼らがショックの指標として使用したbase defi-cit(BD)の閾値(-6.0)は恣意的に決定されたもの である22, 23)

(9)

我々はSurviving Sepsis Campaign Guideline 2008に 準拠してショックを組織低灌流の指標である乳酸値 ≧ 4mmol/l と定義して外傷急性期の凝固線溶反応の 検討を行った29, 36)。その結果,ショックにより凝固 線溶障害(DIC)は明らかに悪化するが,ショック に陥らなくとも外傷自体により消費性凝固障害を伴 いDICが発症することを確認できた29)。すでに述べ た様にショックに伴う組織低灌流・低酸素血症が一 次線溶亢進の原因として重要であり,ショックによ る血管内皮細胞からのt-PA遊離が線溶亢進型DIC発 症の主因と考えられている。 4. 外傷初期の大量出血(止血異常)の病態生理 ここで言う大量出血は,直接的心血管損傷や鋭的

Fig. 4. Native and TF-stimulated thrombin generation (TG) curves in a normal subject

and in a trauma patient with acute coagulopathy of trauma (ACT), or DIC. The normal subject exhibits little or no thrombin generation during native thrombin generation. However, in the trauma patient with ACT, native and TF-simulated thrombin generation curves were similar, suggesting that circulating procoagulant activity, such as TF that can spontaneously initiate coagulation throughout the vascular system not restricted to the site of injury. Native thrombin generation, no added TF or phospholipids, contact activation blocked; TF-stimulated, sample activated with TF and phospholipids. From reference (33). T hr om bi n ge ne ra tio n (n m ol / l ) 0 50 100 150 200 250

Normal Subject, TF-Stimulated TG

Normal Subject, Native TG T hr om bi n ge ne ra tio n (n m ol / l ) 0 50 100 150 200 250

Trauma+ACT Patient, TF-Stimulated TG Trauma+ACT Patient, Native TG

0 20 40

Time (min)

(10)

制)することが,線溶活性化の原因であると主張す るが,この考えもまた誤りである。 活性化プロテインCによる凝固抑制が外傷初期の 大量出血の原因であるならば,活性化プロテインC 産生の基質であるプロテインCおよびトロンボモジュ リンは可及的に少ない方が良いことになる。この考 えは,外傷性大量出血には凝固因子(プロテインC を含む)を含む充分量のFFPを速やかに投与すべき とする近年の輸血指針と当然矛盾するであろう。 5. 制御型 DIC(controlled DIC)と不全型

DIC(un-controlled DIC)

国際血栓止血学会(International Society on Throm-bosis and Haemostasis, ISTH)はDIC の病態を二分類 した38)。一つは血管内皮細胞の恒常性が一過性に傷 害されて白血球 - 血管内皮細胞活性化が起こるが, その原因疾患・病態が改善・治癒すると速やかに回 復する DIC であり,制御型 DIC と称する。白血球 -血管内皮細胞活性化から恒久的内皮細胞傷害に到 り,その原因疾患・病態の改善に加えDIC自体の改 善・治癒も困難なDICを不全型DICと定義する。外 傷初期や産科出血に合併する DIC は制御型であり, 外傷後期および敗血症に合併するDICは不全型であ る。 外傷初期にみられる制御型DICの多くは外科的止 血・創傷処置と充分量のFFP補充量療法で速やかに 回復する。一旦完全に回復したDIC症例が急性期を 過ぎて新たに敗血症を合併して発症するDICは敗血 症性の線溶抑制型 DIC である。しかし,大量出血・ ショックを伴う重症外傷に合併するDICは制御型か つ線溶亢進型DICとして発症し,多くは病態改善を 認めずに受傷後約 24-48 時間を経て(ショックが改 善すると)外傷後期の不全型かつ線溶抑制型DICへ 連続的に移行する。この病態生理は線溶亢進の原因 であるショック改善に伴い t-PA ではなく,新たに 炎症性サイトカインにより転写・翻訳を経て発現す る PAI-1 が優位となるためと考えられる。この DIC は敗血症ではなく外傷自体が引き起こすことに注意 損傷(刺創等)が原因となる大量出血ではなく,打 撲皮下・創傷面に加えて粘膜・上皮,静脈路確保部 位等から止血異常を伴い発現するoozingを指す。こ の止血異常は消費性凝固障害と線溶亢進,即ち線溶 亢進型DICで説明可能であるが,EICBTはトロンビ ン産生が活性化プロテインCにより抑制されること が原因であるとの立場を取る。すなわち,Brohi ら22, 23) は,外傷直後の一回の採血データで可溶性ト ロンボモジュリンの高値とプロテインCの減少を認 め,この結果に基づき「可溶性トロンボモジュリン とトロンビンが複合体を作り(可溶性トロンボモ ジュリン/トロンビン複合体),この複合体がプロテ インCを活性化プロテインCへ変換するためにプロ テインCの減少が起こる」同時に「産生された活性 化プロテインCがトロンビン産生を抑制する」ため に出血が起こると考察した。 可溶性トロンボモジュリンは血管内皮細胞傷害に 伴い,内皮細胞上の正常トロンボモジュリンが脱落 し血管内へ遊離したものであり,その活性値は正常 トロンボモジュリンの約20%にすぎない37)。可溶性 トロンボモジュリン増加は内皮細胞上の正常トロン ボモジュリン脱落・減少の結果である。内皮細胞上 トロンボモジュリンはすでに述べたように,炎症性 サイトカイン刺激によりダウンレギュレーション・ 不活化され,さらに好中球エラスターゼの分解を受 けて減少する。プロテインCはDIC症例では消費性 に減少すると同時に好中球エラスターゼにより非特 異的に分解されてさらに減少する。同時に存在する アンチトロンビン・グリコサミノグリカン系不全が 凝固制御機能不全を増強・増悪する。すなわち,正 常機能を欠く凝固制御機構が活性化プロテイン C産 生を通じて,大量かつ持続的トロンビン産生の必死 な制御を試みていると考察可能であり,活性化プロ テインCがプロトロンビナーゼ・テナーゼ活性を抑 制し,この結果充分なプロトロンビン・トロンビン 変換が起こらないことが出血の原因であるとする考 察は妥当性を欠く。Brohi ら22, 23) は,可溶性トロン ボモジュリン・トロンビン複合体がPAI-1を中和(抑

(11)

が必要である(Fig. 2)29, 30)

HessらおよびEICBT 8, 21) は外傷後にDICは発症し ないとの立場をとるために,外傷初期線溶亢進型 DICをCoagulopathy of TraumaおよびACoTSと称し, 制御型DICが完全に寛解した後に敗血症が原因で発 症するDICもDICと呼称せずに,この凝固障害は敗 血症性 DIC に似ているが DIC とは異なり sepsis-in-duced coagulopathyあ る い は sepsis-like coagulopathy と呼ぶべきであると主張している。このような考え 方は到底許容できないことは明瞭であろう。 6. DIC および Coagulopathy of Trauma と ACoTS の

診断 外傷急性期および後期のいずれに対しても日本救 急医学会急性期DIC診断基準が科学的根拠に基づき 応用可能であることが証明されている39, 40)。ISTH 診断基準も使用可能である。しかし本基準を満たし た場合は出血と MODS の合併により急性期 DIC 診 断基準単独で診断された症例の死亡率(約25%)の 3倍近い死亡率となることが報告されているため, 外傷初期DIC診断には推奨できない39) 診断基準を持たない新しい疾患・病態概念の提唱 は「曖昧かつ非科学的な提案」にすぎない。診断基 準を具備していても従来の独立した類似疾患・病態 概念が明瞭に鑑別診断されなければ,従来の疾患・ 病態概念を「別の用語で言い換えた」にすぎない。 新しく提唱された病態概念「Coagulopathy of Trauma とACoTS」は診断基準がなく,診断基準が存在して も従来の線溶亢進型DICを鑑別できない(言い換え ると急性期DIC診断基準でこれらの病態診断が可能) ことは明瞭である(Fig. 5)。これまでいわゆる凝固 障害(coagulopathy)の大多数はプロトロンビン時 間測定単独で診断されてきた5, 6, 21-23) が,これら論文 の著者等によりその原因は多種多様(multifactorial) であると主張されるcoagulopathyの診断が単一指標 で確実に診断可能とは思われない。EICBT はTrauma associated severe hemorrhage(TASH)スコアを含む数 種の診断基準を提唱しているが,彼ら自身が認める

とおりこれらは Coagulopathy of Trauma と ACoTS の 診断基準ではなく,その原因となるショック診断基 準あるいは大量出血および輸血予測基準である21, 31) 従来から使用されているthromboelastgram(TEG)は 測定に要する時間の長さから外傷急性期への応用は 不 可 能 で あ る が, 近 年 測 定 時 間 の 短 い rotational thromboelastometry(ROTEM®)が臨床応用可能となっ た41)。ROTEM は TEG に比較して短時間かつ正確に 血小板,凝固,線溶機能状態を評価可能であり今後 の臨床応用が期待される。この特徴からROTEMは 個々の血小板・凝固線溶異常の治療方針決定に威力 を発揮する可能性が高い。しかし,凝固線溶系の全 体的変化を俯瞰することができないために血小板・ 凝固線溶異常を惹起している病態を総合的に把握し て診断する能力に欠けることに注意が必要である。 以上を考慮すると新しく提唱された「Coagulopa-thy of TraumaとACoTS」が診断可能な独立した病態 概念として認知されるまでには多くの障壁が存在す ることが明瞭であろう。

結  語

外傷急性期の凝固線溶障害を外傷性大量出血と新 しく提唱された「Coagulopathy of TraumaとACoTS」

Fig. 5. A new clinical entity should be clearly distinguished

from other diseases and syndromes using specific diagnostic criteria. Both the Coagulopathy of Trauma and the ACoTS should be entities independent from DIC with the fibrinolytic phenotype. However, the EICBT failed to establish a definite diagnosis of the two clinical entities, and therefore the Coagul-opathy of Trauma and the ACoTS are not independent clinical entities but are only vague clinical conditions.

DIC with Fibrinolytic Phenotype Coagulopathy of Trauma Acute Coagulopathy of Trauma-Shock Diagnostic criteria

(12)

との関連を通じて概説した。外傷急性期の凝固線溶 障害の本態は,重症広範外傷および出血性ショック が引き起こす線溶亢進型DICである。通常このDIC は制御型であり外科的止血術と補充療法で速やかに 改善する。しかし,重症化すると合併する大量出血 により予後不良となり,ショック改善後は病態変化 を伴い受傷後 24-48 時間後に外傷後期の線溶抑制型 DICへ移行する。重症化した線溶亢進型DICの治療 は,DCR および補充療法としての充分量の FFP お よびフィブリノゲン等の凝固因子の速やかな投与が 主体となる。診断基準がない曖昧な臨床状態である 「Coagulopathy of TraumaとACoTS」を外傷急性期の 凝 固 線 溶 系 変 化 に 対 し て 使 用 す べ き で は な い。 EICBTの提案はFig. 6のように言い換えることが可 能である。 最後に,本総説の理解を深めるために,文献1, 9, 30, 42) およびweb site 43) をあわせて参照されることを推奨し たい。

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op-Fig. 6. A diagram showing that Coagulopathy of Trauma and ACoTS are equivalent to

DIC with the fibrinolytic (hemorrhagic) phenotype.

Other Diseases Hypothermia Dilution Factor Consumption Fibrinolysis Medications Genetics

DIC with fibrinolytic (hemorrhagic) phenotype

Resuscitation Inflammation Trauma Hypothermia Acidemia Shock Hemorrhage 文  献 1) 丸藤哲, 亀上隆, 澤村淳, 他: 外傷後に見られる血液凝固 線溶系の変化 - 新しい考え方と治療法 . 日救急医会誌 . 2006; 17: 629-44.

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dis-seminated intravascular coagulation. We should learn from the classical literature. Ann Surg. (Revised submission)

(14)

ABSTRACT

Coagulation and fibrinolytic responses at an early phase of trauma: The main issues in the world are reviewed and discussed

Satoshi Gando, Atsushi Sawamura, Mineji Hayakawa, Masahiro Sugano Nobuhiko Kubota, Shinji Uegaki, Naomi Henzan

Division of Acute and Critical Care Medicine, Department of Anesthesiology and Critical Care Medicine,

Hokkaido University Graduate School of Medicine

We reviewed the recent advances in the coagulation and fibrinolytic responses in patients at an early phase of trau-ma. Recently, the Educational Initiative on Critical Bleeding in Trauma (EICBT) proposed new clinical entities, “Coagulopathy of Trauma” and “Acute Coagulopathy of Trauma-Shock (ACoTS)”. A new clinical entity must be clearly distinguished from other diseases and syndromes using definite diagnostic criteria. However, the EICBT failed to establish diagnostic criteria for these two clinical entities. Increasing clinical evidence suggests that the Co-agulopathy of Trauma and ACoTS are equivalent to disseminated intravascular coagulation (DIC) with the fibrin-olytic phenotype. Neither the Coagulopathy of Trauma nor ACoTS can be differentially diagnosed from DIC with the fibrinolytic phenotype, thus suggesting that these two concepts are not independent diseases or syndromes but instead are only vague clinical conditions. Misleading terms, such as Coagulopathy of Trauma and ACoTS without a clear definition or diagnostic criteria should not be used for the explanation of changes in coagulation and fibrinoly-sis in patients at an early phase of trauma. We emphasize that DIC with the fibrinolytic phenotype should be de-scribed in the same manner that it has been until recently.

(JJAAM. 2010; 21: 765-78)

Fig. 2.   The schematic variation of thrombin activity (FPA), plasmin activity (FPB β15-42 ), fibrin formation and secondary fi- fi-brinolysis (D-dimer), and the inhibition of fifi-brinolysis (PAI-1) after trauma
Fig. 5.   A new clinical entity should be clearly distinguished  from other diseases and syndromes using specific diagnostic  criteria

参照

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