参考資料 PC200906
内面および外面形状計測装置
埼玉医科大学
吉澤 徹 若山 俊隆
1.はじめに 光三次元形状測定法は非接触かつ非破壊で物体形状を測定できる手法として産業界を中 心に研究開発が進められている1).これらの装置は金型などを測定した場合,デジタル化 された 3DデータとCADデータとを比較し,製造ラインにフィードバックすることも可能 となっている.近年ではロボットビジョンとしても光三次元形状測定が注目されており, その応用は今や数え切れない2).このように盛んに応用されている光三次元形状測定法の 多くは測定される物体の表面形状を測定するのには適しているが,パイプや配管などの内 面を測定する用途には不向きといえる.例えば,格子パターン投影法を例にとってみると, 従来の格子パターン投影の光学系はパイプや配管の中に挿入すること自体が難しい.我々 が提案しているようなMEMSを利用した小型格子パターン投影システム3)を用いたとして も円筒状の測定対象を全て撮像するには回転機構が必須になる.さらにリニアステージを 用いることになると,装置は結局大型になったり,測定に時間がかかるという問題が生じ る.このためにパイプや配管内面の 3D測定は一般には難しく,工業用内視鏡を用いた目視 検査や画像処理のよるキズや欠陥の検査にとどまっていた. 一方で,測定対象は多少異なるが,リング状のビームを小穴内面に投影する穴径測定法 が提案されている4-6).我々が測定対象としているパイプや配管はそのサイズが大きいた めに,これらの方法は不向きと言える.上記の計測法に対して,我々のグループはパイプ や配管の内面形状計測を目的とした小型装置を開発してきた7,8).折しも時を同じくして, 2007 年に老朽化したガス管によるガス漏れ事故が相次いだ9).政府の調査によると全国に 埋没している老朽化した配管は約 3 万8千キロメートルに及び,現在も有効な検査法を探 している.そこで,ここではこうした事情を意識してパイプに負荷を加えたときの配管形 状の変化や自動車に使用されている特殊パイプの内面形状の測定結果を含めて述べる. さらに内面形状測定に加えて,同時に外面形状を測定できれば,パイプや配管の肉厚を 測定することが可能になる.近年では産業用X線CTを使用して物体の内外面を測定した例 が報告されているが,装置が非常に高価であることや高エネルギーを照射することに伴う 測定対象への侵襲が課題といえる10).一方で,光学式外面形状測定にはいくつかの有効な 方法が提案されているが,測定対象が笠歯車のように急な傾斜を有するものに関しては, 格子パターンを綺麗に投影することは難しくなる.このような背景から我々は先に提案し てきたリングビームデバイスを応用し,急な傾斜を有した円錐状の測定物の外面形状測定 を目指した.小型内面形状測定装置と組み合わせることでの内面および外面形状の同時計 測も可能となる11).2.内外面形状測定の原理 2.1 リングビームデバイス12) 図 1 にリングビームデバイスの光学系を示す.図に示したように円錐ミラーと半導体レ ーザで構成されている.円錐ミラーにレーザ光が入射すると入射光に対して直角方向にレ ーザ光が広がる.すなわち,図 1 に示すようにビームは 360°方向に広がり,ディスク状の 光が形成される.以下では,このビームをディスクビームと呼ぶ.例えば,パイプの中に このデバイスを入れると,図 1(b)のようにリングビームが光セクショニング面として断面 得られることから,これをリングビームデバイスと名づけている. 2.2 内面形状測定の原理 図 2 に内面形状測定法の原理を示す.半導体レーザと円錐ミラーで構成されたリングビ ームデバイスによって照射されたビームはディスク状に拡がり,測定対象物の内面を照ら す.これによって断面形状を示す光セクショニング面が形成される.この光セクショニン グ面がカメラによって撮影される.図 2(b)はカメラによって撮像される光セクショニング 面である.リングビームデバイスとカメラをz方向に動かしながらこのような画像を取得し, 解析することによって物体内面の3次元形状を非接触で測定することができる3). ここで,任意の位置 z においてカメラで撮像される光セクショニング面の半径 r(z,θ)は幾何 学的な計算から容易に次の式を得ることができる。
( )
z
,
θ
l
tan
φ
(
z
,
θ
)
r
=
⋅
(1) 半導体レーザ 円錐ミラー ディスク状の光 図1 リングビームデバイスの光学系と検査例 (a)リングビームデバイス (b)シリンダの欠陥検査と表すことができる.ここで,リングビームデバイスとカメラの間の基線長 l を表し,φ (z,θ) は基線長と光セクショニング面の角度を示している. さらに,図 2(b)で得られる光セクショニング面の光強度分布を考える.光セクショニン グされた部分の光強度は図 2(b)の r‐I のグラフで示されたように半径 r に対して光強度 I はガウス分布を描くため,
( )
(
)
⎥
⎦
⎤
⎢
⎣
⎡
−
⋅
−
=
2 2 0 0exp
ln
2
,
w
r
r
I
r
I
θ
(2) と表すことができる.ここで,I0は光強度の最大値,r0は中心の半径,wは半値幅を表して いる. 両辺の対数をとると,( )
(
2)
2 0 0ln
2
log
,
log
w
r
r
I
r
I
θ
=
−
⋅
−
(3) となる.この式は( )
r
ar
br
c
I
,
=
2+
+
log
θ
(4) と置き換えることができる.最小二乗法によってフィッティングすると,a
b
r
2
0=
−
,⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜
⎝
⎛
−
=
a
b
c
I
4
exp
2 0 ,a
w
2
1
2=
−
(5) が得られる.このガウスフィッティングによって画素間に失われた情報r0を引き出せば, サブピクセルでの測定が可能になる. l リングビーム デバイス φ (z,θ) Q 試料内壁 試料内壁 カメラ レンズ r 図2 内面形状測定法の原理 x y r(z,θ) I r θ (a) 光学系 (b) 撮像される光セクショニング面 z2.3 外面形状測定の原理 この考えを発展させれば,図 3 に示す外面形状測定の光学系に至る.外面測定はリング ビームデバイスと2つの凹面円錐ミラーを用いる.リングビームデバイスから照射される ディスクビームは第一の凹面円錐ミラーによって円筒状のレーザ光となる.このビームを シリンダビームと呼ぶ.シリンダビームが第二の凹面円錐ミラーに入射すると,再びディ スクビームが形成され,これは第一のディスクビームとは異なり一点に集光する.第二の 凹面円錐ミラーの中央付近に測定試料を設置すれば,その測定試料の外面形状に応じた光 セクショニング面が形成される.ハーフミラーとCCD カメラを介して画像に移ったリン グビームを解析することで,外面形状測定を非接触に行うことができる.測定試料となる ものは傾斜をもった試料を対象にしている.測定試料の外径 r(z,θ)は単純な幾何計算から
)
(
)
φ
(
θ
θ
)
tan
,
,
(
z
l
1l
2z
r
=
+
(6) と表すことができる.ここで,zはz軸ステージの変位量である.l1とl 2はそれぞれCCDカ メラとハーフミラー,ハーフミラーと第二の凹面円錐ミラーの集点までの距離である. 図3 外面形状測定法の原理 測定試料 変位 z ハーフミラー カメラ l2 l1 凹面円錐ミラー リングビームデバイス φそしてφ(z,θ)は z 軸ステージの位置が z のときの光セクショニング面とカメラの軸がなす角 である.ここでのθは xy 平面上での円座標系の角度成分である.得られた画像を内面形状 測定法と同様にガウスフィッティング処理を行えばサブピクセルによる高精度な測定が実 現できる. 3.測定装置と測定結果 3.1 小型内面形状測定装置 図 4 に試作した小型内面測定装置を示 す.これは半導体レーザ( 波長 655nm , 3mW)と直径 8mm の円錐ミラー,直径 8mm の CCD カメラで構成されている. 装置の寸法は直径 15mm,全長は 127mm である.半導体レーザや円錐ミラー, CCD カメラはパイレックスガラス製の 透明円筒によって連結されている.現在 までに直径 8mm,全長 110mm のものま でが完成しており,現在は直径 4mm の 装置を開発している段階である. 3.2 精度検定 状測定法も同様のアルゴリズムを用いているこ 3. 内面形状測定法の結果 擬サンプルを内面形状測定した結果である.図 6(a)はサンプ 図 5 は直径 50mm のリングゲージ(株 式会社ミツトヨ製)を用いて精度検証し た結果を示している.今回はθ 方向に 1° ずつ,r 方向にガウスフィッティングを しながら光セクショニングしている.測 定によって得られた半径 r の平均値は 25.07mm であり,フィッティングされた 楕円からのばらつきは 25μm になった. 以上の検証実験から精度良く測定が行わ れていることが実証された.これは外面形 とからほぼ同等の性能を有しているといえる. 3 図 6 は老朽化した配管の模 ル上部に負荷を加えたときの光セクショニング面を示している.図からも上部が少しつぶ れているのがわかる.一方で,図 6(b)はサンプルの付着物を検出した様子を示しており, 解析結果から付着物は約 3.2mm あることがわかった.このような光セクショニングされた 図 4 内面形状測定装置の外観 図 5 リングゲージの測定結果 -30 -20 -10 0 10 20 30 -30 -20 -10 0 10 20 3 θ X[mm] Y[mm] r
画像を複数枚得るために装置を 1mm 間隔で走査した.図 6 (c)は配管内面の 3D 分布を示し ている.配管のつぶれた様子はこの画像からは見難いが,内面の 3D データを得ているの で,どのくらいつぶれているかを解析することもできる.一方で,配管の付着物も複数個 検出されている.次に,ある特殊パイプの 3D 内面形状測定を行った結果を示す.図 7 (a) 付着物 φ64mm 付着物 :3.2mm 10mm 図6 配管の検査 (a) 負荷を与えたとき (b) 付着物を検出したとき (c) 配管の3D分布 図7 特殊パイプの内面3D測定の結果 左 (a) 特殊パイプ 左下 (b) 30°方向からの3D分布 右下 (c) 190°方向からの3D分布 weld weld hole3 hole2 hole1
は測定された特殊パイプの外観である.図のように長靴型をしており,センサ用の穴が空 いている.図では表面しかわからないが,裏面にはさらに2つ穴があいている.図 7 (a)と (b)は画像を解析し 3D 分布を表示し,30°方向と 190°方向から観察している.測定結果 から溶接痕やセンサ用の穴が観察される. .4 内外面形状測定法の結果 形状測定装置を用いて内外面の同時計測を行った.測定サ .まとめ 次元形状測定法では評価しにくかったパイプや配管の内面形状を非接触かつ 非 3 小型内面形状測定装置と外面 ンプルには円錐状のパイプを用いた.図 8(a)は内外面の 3D 分布である.灰色のプロット 点は外面測定の光学系で得た 3D 分布であり,黒色のプロット点で示されているのは小型 内面測定装置で得た 3D 分布である.図 8(b)は測定対象の断面プロファイルである.黒色 と灰色のプロット点群がそれぞれ内面と外面の形状を示している.これ計算すると,パイ プの肉厚分布が得られる.図 8(c)に肉厚分布を示す.図のように平均して 2.8mm の厚さを 持つことがわかる.また,パイプのθ方向の厚さの周期的な変化が解析から得られた. -60 -30 0 30 60 -60 -30 0 30 60x [mm] y [mm] r 0 90 180 270 360 0 8 4 θ[˚] th ick n ess [mm] θ 2.8mm 図8 内外面の形状測定 (a) 3D 分布:左上 (b) 断面プロファイル:右上 (c) 肉厚分布 4 従来の光三 破壊で測定することを目的に測定装置を開発してきた.ここでは配管の形状変化を定量 的に測定できることを示した.また,特殊形状をもつパイプ内面の 3D 分布を測定した. 一方で,リングビームデバイスを応用した外面形状測定法を示した.外面形状測定にはリ ングビームデバイスと凹面円錐ミラーを用いることでディスクビームからシリンダビーム を生成し,測定試料を包み込むように光セクショニングすることを可能にした.この方法
を中心に応用計測例を紹介してきた.一方で,医学系分野においても, 内 この装置の開発研究は埼玉医科大学を拠点に進めており,また本研究の一部は科学研究 費 参考文献 ,2006). メディア,2008). to profile 4. 理による動圧軸受けなどの内径測定機の開発, 5. 6. 投影方式小径穴内径および内面形状の計測に関する研究,博士論
7. a : Inner profile measurement of pipes and holes using a
8. file measuring instrument, Proc. of
9. リングの融合,精密工学会誌,77,1205-1208(2005). 12. この資料は第 18 回三次元工学シンポジウムにおいて発表した内容を修正したものである から従来の点走査,ライン走査による光セクショニング法や格子パターン投影法では測定 することが困難であった傾斜のある測定試料の外面形状測定を可能にした.また,小型内 面形状測定機を導入することで内外面の形状測定を実現し,傾斜のあるパイプの肉厚測定 を可能とした. ここでは産業分野 面形状測定を要求する人体の器官は数多く存在する.例えば,内視鏡検査として口腔, 咽頭,食道そして胃の検査がある.さらには外耳道や鼻腔なども測定および検査対象とな りえる。現在,それらの要求に応える装置の開発も進めており,サンプル製品が準備され ている. 補助金基板研究(C) No.20500398(2008)の援助を受けている.なお測定装置には有限会社 ソフトロンが開発した基本ソフトウエアを組み込んでいる. 1. 吉澤 編著:最新光三次元計測(朝倉書店 2. 吉澤 編著:光三次元・産業への応用(アドコム
3. T. Yoshizawa, T. Wakayama, H. Takano: Applications of a MEMS scanner measurement, Proc. of SPIE Vol.6762 (2007).
沖田,小野,佐藤:パターン投影像の画像処 光計測シンポジウム 2006 論文集,57-60(2006). 秋山,小林,エカリット,吉田,桑原:小径穴内面形状計測装置の開発,精密工学会誌, vol.68, 7, 967-970(2002). エカリット:スポット光 文(2003 年),長岡技術科学大学. T.Yoshizawa, M.Yamamoto, T.Wakayam
ring beam device, Proc. of SPIE Vol.6382, 63820D-1~6(2006). T.Wakayama T.Yoshizawa, Development of a compact inner pro SPIE 6762, 67620D-1~67620D-6(2007).
朝日新聞,43382 号,1,2007 年 1 月 20 日.
10. 鈴木:3 次元計測とデジタルエンジニア
11. T.Wakayama and T.Yoshizawa, Simultaneous measurement of internal and external profiles using a ring beam device, Proc. SPIE 7066, 70660D (2008)
吉澤,特開 2007-285891. *
お問合せ先 埼玉医科大学 吉澤 徹(E-mail [email protected]) p 若山俊隆(E-mail [email protected] )