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食品関連企業の国際化プロセスと文化的障壁

―理論的視点の整理と製茶業のケーススタディによる検討―

Internationalization Process of Food Companies and Cultural

Barriers: Revisited Assessment on Existing Research in

Japanese Tea Industry

山 本 聡 1. 問題意識と本論文の貢献 2. 食品関連企業と文化的障壁:既存研究の系譜と整理 (1) よそもの不利益と心理的距離 (2) 文化的距離と文化的障壁 (3) 日本における既存研究 3. 日本の製茶産業のケーススタディ (1) 概要 (2) TSR データによる定量研究 (3) 定性研究 4. 結論と残された課題 1. 問題意識と本論文の貢献 日本の食品関連企業はどのように国際化しているのだろうか。これが本論文の 緒となる問いである。近年、日本では食品関連企業の国際化に注目が集まってい る。食品関連産業は胃袋産業と呼ばれ(張(2012))、食品関連企業間の競争は「胃 袋の争奪戦(Share of Stomach)」と呼称されている(Todd,2017)。すなわち、 食品関連企業の業績は市場にどのくらいのヒトがいるのか、その胃袋がどのくら い大きいかに依拠しているのである。日本の人口は 2008 年以来、減少局面に入 っている。厚生労働省(2019)によれば、2019 年の一年間の人口の減少幅は 51 万2,000 人と、鳥取県全体の人口が消滅するほどまでに至っている。また、人口 減少とともに少子高齢化も進展している。総務省統計局(2018)によれば、2018 年の日本における65 歳以上人口は全人口の 28.1%で、75 歳以上人口も 12.2%と なっている。日本の全人口の3 割近くが高齢者となっているのが現状である。さ らに出生数の低迷も相まって、高齢者割合は年々上昇している。一般的に食欲が 旺盛なのは年少人口(0~14 歳)や生産年齢人口(15 歳~64 歳)、その中でも若 年層(15 歳~29 歳)だと言える。高齢者の食事量は相対的に少なくなるのが通 例である。すなわち、胃袋の数も少なくなり、肝心の胃袋自体も平均的に小さく なっているのが日本の現状である。日本の食品関連市場の規模は縮小傾向にある と言えよう。 一方、世界人口は増加傾向にある。2019 年の世界人口は 77 億人に達している。 また、アジアなど世界の多くの国・地域では、経済成長が進展することで、食生

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活が量的にも質的にも豊かになっている。その結果、世界の食品関連市場の規模 は拡大の一途を辿っている。加えて、農林水産省(2016)などによれば、世界的 に日本食レストランの数が顕著に増加したり、「和食」がユネスコ無形文化遺産に 登録されたり、外国人が日本食を目的に多数来日するといった事象も観察される ようになった。以上の結果、食品関連企業の海外輸出や海外展開が様々なかたち で政策的に支援されるようになった。例えば、ジェトロでは食品関連企業に対し て、海外見本市にジャパンパビリオンを設けたりすることで、その出展を促して いる。また、海外商談会を開催することで、食品関連企業と海外バイヤーとのマ ッチングも促している。さらに2019 年 11 月には「農林水産物及び食品の輸出の 促進に関する法律」が成立している。そこでは、「輸出先国による食品安全等の規 制等に対応するため、輸出先国との協議、輸出を円滑化するための加工施設の認 定、輸出のための取組を行う事業者の支援について、政府が一体となって取り組 むための体制整備」が謳われている。 上述した種々の要因から、日本の食品関連企業は国際化、より具体的には海外 輸出や海外展開を加速させている。農林水産省(2019)によれば、日本の加工食 品の輸出金額は2012 年の 1305 億円から 2018 年の 3,101 億円と 1,805 億円の増 加で、増加率は 137.6%と 2 倍以上になっている。また、後述する抹茶など緑茶 の輸出も金額自体はいまだ少ないものの、増加傾向は顕著である。このような変 化は加工食品だけにとどまらない。食品関連産業の一つである外食企業も海外展 開を顕著に進展させている。日経 MJ(2017)によれば、調査対象となった外食企 業のうち、39.7%が「今後海外への出店を積極化させる」と回答している。また、 19.1%の外食企業が「3 年後の店舗売上高に占める海外比率は 10%以上」とも回 答している。このように外食企業も海外展開に対して、旺盛な経営姿勢を示して いる。なお、産業分類上、加工食品企業は製造業、外食企業はサービス業と分類 されるものの、本論文では「食品の提供」という観点から一括して捉えている。 そもそも、食品関連産業の国際化は経営学の理論的にはどのように捉えられる のだろうか。古典的な国際経営論では、企業の国際化プロセスには、間接輸出、 直接輸出、海外販売子会社設立、海外生産、研究開発活動の移転といった「階段」 があるとされている(Johanson and Vahlne,1977、Dunning,1993)。企業はそう した階段を登っていくことで、国際化を進展させていくのである。これをウプサ ラ・ステージ・モデルと言う。ただし、企業がどのような特徴を有する製品・サ ービスを手掛けているかで、国際化の階段の登り方は変化する(Baum, Schwens and Kabst,2015)。例えば、山本・名取(2015)では和紙を手掛けている企業を、 山本(2016a)では理美容師向けの鋏を手掛ける企業をケースとして、それらの 国際化プロセスを詳述している。前者の企業は欧州の顧客を和紙の「初心者」と して捉えた。その上で、和紙製のクリスマス用雪結晶のオナメントを開発し、欧 州の顧客に和紙の機能を理解してもらうことで、海外輸出を果たした。一方、後 者の企業は理美容師という「専門家」を顧客とし、そのニーズを十全に満たす製 品開発をし、口コミの評判を得ることで海外輸出を実現した。このように、どの ような製品・サービスを手掛けているのか、どのような顧客に相対しているのか

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が、当該企業の国際化プロセスのあり方を決めるのである。また、BtoB の自動 車部品企業の場合は、特定の海外顧客企業との取引をいかに強靭なものにするか が問われることになる(山本,2016b)。 それでは、本論文で焦点を当てる食品はどのような製品上の特徴を有している と言えるのだろうか。その一つの解答として、Montanari (2006)の書籍名でもあ る「食品とは文化である (Food is Culture)」という言葉を提示することができる。 食品にはそれぞれの国・地域の環境や習慣が色濃く影響している。ある国で幅広 く受け入れられている食品が、別の国では取り付く島もなく忌避されるといった ことも珍しくない。すなわち、日本の加工食品企業が自社の手掛ける食品を海外 に輸出しようとした場合、あるいは日本の外食企業が海外に新たな店舗を出店し ようとした場合、そこには参入障壁としての「文化的障壁(Cultural Barrier)」 (Barkema,Bell and Pennings,1996)が生じることになるのである。そして、 食品が他国にはない日本独自の文化に根差しているものであればあるほど、文化 的障壁は高くなることになる。 なお、国際化は新規参入の一形態であり、経営者による様々な意思決定と企業 行 動 の 帰 結 と し て の 経 営 成 果 だ と さ れ て い る (Surdu,Mellahi and Glaister,2015)。経営者は「新たな財・サービスを創造するために、国境を跨ぎ ながら、事業機会を発見し、規定し、評価し、活用する」のである(McDougall and Oviatt,2003)。そして、ボーン・グローバル企業(Knight and Cavusgil,2004)や 国際的ニューベンチャー(Gabrielsson, Gabrielsson and Dimitratos,2014)、ボ ーン・アゲイン・グローバル企業(Bell, McNaughton and Young,2001)の諸議論 が示すように、経営者のアントレプレナーシップが、企業の国際化の実現に関す る駆動力としての役割を果たすことになる。食品関連企業の文脈に則るかたちで 記述すれば、経営者はアントレプレナーシップを発露することで、母国と海外輸 出や海外展開の対象とする標的国の間に横たわる食品特有の文化的障壁を乗り越 え、海外市場参入を果たすのだと言える。そのため、文化的障壁に着目して、食 品関連企業の国際化を論じることは、国際的アントレプレナーシップ研究の発展 にも貢献することになる。 日本の食品関連産業の国際化は政策的な関心事項であり、喧伝もされている。 しかし、その国際化プロセスに関する研究は、製造企業やハイテク企業と比較し て、理論的にも実証的にも蓄積が少ないのが現状である。本論文では当該研究の 進展を企図して、関連する既存研究を文化的障壁の観点から紐解き、理論的視点 の整理を行う。その上で、伝統的な食品関連産業である製茶業に関する企業デー タとケースを概観することで、当該研究を深化させることの必要性を主張する。 以上が本論文の目的と学術上の貢献である。 2. 食品関連企業と文化的障壁:既存研究の系譜と整理 (1) よそもの不利益と心理的距離 企業が海外輸出や海外展開を実現しようとする際に直面する障壁が「よそ者の

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不利益(Liability of Foreignness)」である(Zaheer,1995)。Zaheer(1995)は、 よそ者の不利益として以下の4つを挙げている。すなわち、① 海外市場までの距 離や時差によって生じる移動や輸送、連絡の費用 ② 海外市場の経営環境に不慣 れなことによって生じる費用 ③ 海外市場における「正統性」の欠如によって生 じる費用 ④ 母国市場の輸出規制などから生じる費用の 4 つである。Gallego and Casillas(2014)では、企業が海外輸出を実現するには、よそ者の不利益を乗り越 えることこそが重要になるとしている。そして、そのためには経営者のアントレ プレナーシップと企業家行動が鍵になることを示している。 なお、よそものの不利益を大きくするのは、母国と標的国の間の物理的距離だ けではない。経営者など個々人の母国と標的国の間にある心理的距離(Psychic Distance ) も よ そ も の の 不 利 益 を 大 き く し て い く の で あ る (Ojala and Tyrväinen ,2007)。そして、心理的距離の遠近を規定するのに重要となるのが文 化である。Hofsted(1991)では文化を「ひとつの人間集団の成員を他の集団の成員 から区別することができる人間心理の集合的プログラミング」と定義付けている (日本語訳は佐藤(2008)を参照)。こうした文化の定義を下敷きにして、 Swift(1999)は母国と標的国の文化的な近接さ/遠隔さや相性の良さ/悪さの程度が 主たる要因となって、心理的距離の長短に影響を与えることを見出した。 (2) 文化的距離と文化的障壁 母国と標的国における文化的な差異によって惹起された心理的距離は「文化的 距離(Cultural Distance)」(Sousa and Bradley,2006)と呼ぶことができる。文 化的距離は参入障壁としての文化的障壁を生じさせることになる。前述したよう に、食品と文化は不可分の関係にある。食文化(Food Culture)あるいは食習慣 (Food Habits)という言葉は非常に多義的であり、ヒトの食に関する様々な行 為を内包している。食品や食材をどのように選ぶのか、どのように手に入れるの か、どのように流通させるのか、どのように調理するのか、どのように給仕する のか、どのように食べるのかといった食に関係するヒトの行為の全てが含まれる (Kittler, Sucher and Nelms, 2012)。言い換えれば、上述したそれら全ての行為 にはその国・地域独自の文化や習慣が関わっているのだとも言える。まさにある ヒトを他の集団から区別することができる人間心理の集合と言える。その中でも、 食べること、すなわち、口に入れ、咀嚼し、体内に受け入れるという行為は、文 化感応度が極めて高いものとなる。加えて、食文化とはその国・地域の過去の歴 史にも深く根差している(Chung,Chung and Kim,2016)。上記の文脈に則るこ とで、食品とは非常に文化特殊的(Highly Culture Specific)な製品と描写でき る (Azar,2011)。そのため、加工食品や外食といった食品関連企業の経営もその 国・地域の文化と不可分の関係にあると言える。 農林水産省(2016)などの輸出施策に関する資料では、「日本食・食文化の魅力の 発信」といった文言が頻繁に記載されていることがその証左と言える。加工食品 企業や外食企業は海外輸出や海外展開など国際化を遂行しようとしたときに、文 化的距離に紐づいた文化的障壁に直面することになる。こうした状況を背景に、

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Azar(2011)では「食品と文化は近しく統合されている。そのため、食品以外の製 品が自国・地域とは異なる市場に多少の変化で参入することができたとしても、 食品で同じことをしようとするのは困難である」と述べている。また、Barrena, García and Sánchez(2014)ではある食品がある国・地域で、その源流や消費地、 製品としての特徴から「エスニック(ethnic:民族的)」と形容された場合、消費 者がそれらをどのように受容するか、その過程を分析することの重要性を指摘し ている。 そして、既存研究では食品関連企業がどのように文化的障壁を克服し、国際化 を果たすのかに関して、様々な研究がなされている。例えば、Chung and Smith(2007)では、オーストラリアのビール企業における中国市場の文化的障壁 の克服とブランドの確立に関して、中国の飲酒文化を踏まえながらケーススタデ ィを行っている。また、Azar(2011)では、スウェーデンとフィンランドの加工食 品企業126 社を対象に、文化的距離と輸出マーケティング戦略、輸出実績の関係 を調べている。その上で、文化的距離の長短と食品に関する適応戦略の高低に正 の有意な相関関係を見出している。さらにOtengei et al.(2017)は東アフリカ料理 の外食企業を対象にして、Sun and Lee(2013)はアメリカの外食企業を対象にし て、海外展開における文化的障壁を克服するための適応能力の重要性を指摘して いる。 (3) 日本における既存研究 日本の既存研究は以下のようなものがある。張(2012)は焼酎やこんにゃく、 醤油といった日本の伝統加工食品企業が現地代理店との連携による商品開発から、 海外輸出に至ったプロセスをケーススタディの中で描写している。日本の外食企 業の海外展開に関する既存研究に関しては、李(2018)が一定の整理を行ってい る。具体的なケーススタディとしては、以下が存在する。川端(2015)は、戦前 以来の日本における外食企業の海外展開の歴史を整理した上で、2010 年代に日本 の外食企業における海外展開の件数が著しく増加したことを指摘している。それ に伴い、日本の外食企業の海外展開に関するケーススタディも徐々にだが蓄積が 進んでいる。ミンハオ・富山(2018)では、丸亀製麺(うどん)がベトナムに海 外展開する際のマーケティング戦略に関するケーススタディがなされている。ま た、口野・大島(2016)では、大戸屋(和定食)の東アジア市場参入、東南アジ ア市場参入がケーススタディの対象になっている。加えて、浅岡(2016)では一 風堂(ラーメン)のシンガポール展開のケーススタディが行われている。ただし、 これらの既存研究では、文化的障壁に関連する記述は少なく、どのように克服し たかの分析が限定的だったり、皆無だったりする。 文化的障壁の克服を正面から捉えた研究として、山本(2017)と山本(mimeo) がある。前者は食材である牡蠣の養殖企業をケースとして、日本と欧米の牡蠣市 場にある文化的障壁を克服するための新たな牡蠣の養殖をどのように実現したの かを、アントレプレナーシップの理論から描写している。後者は、製麺企業が海 外輸出および海外展開をどのように成し遂げたのかをファミリービジネスの理論

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に則りながら描写している。さらに当該製麺企業と関連した外食企業の国際化に も焦点を当てた。その中で、「文化的障壁の性質や程度は食品の種別により、差異 や濃淡がある」ことを指摘している。すなわち、食品ごとに文化的障壁の克服の 仕方が異なり、それ故、多様なケーススタディの蓄積が求められるのである。 以上、食品関連産業の国際化に関する経営学の既存研究を紐解いた。その上で、 食品は文化と不可分の関係にあり、その国際化は文化的距離に由来する文化的障 壁の克服が鍵になること、食品ごとにその克服の仕方が異なり、それ故、多様な ケーススタディの蓄積が求められていること、しかし、そうした研究は少ないこ とがわかった。これらは既存研究上の空隙であり、さらなる研究の進展が必要と なる。次に製茶業の海外輸出に関する定量的および定性的な企業データを踏まえ ながら、こうした知見を援用することの重要性を主張する。 3. ケーススタディ (1) 概要 日本の緑茶の歴史および緑茶を飲む習慣はおよそ 1300 年前の平安時代にまで 遡るとされている。現在では、世界第二位の緑茶生産国でもある。また、2011 年には「お茶の振興に関する法律」が制定されている。そこでは農林水産大臣が 「お茶の生産、加工又は販売の事業及びお茶の文化の振興に関する基本方針」を 定めることが謳われ、各都道府県は「茶業及びお茶の文化の振興に関する計画」 を定めることが求められている。これらのことから、加工食品としての緑茶と日 本の文化の間には不可分の関係があることが理解できる。また、緑茶は日本食関 連の外食店舗では必ずといってよいほど提供される飲料でもある。そのため、緑 茶に焦点を当てることは、本論文の論旨にも則っている。しかし、日本における 緑茶の消費量は国民の生活スタイルの変化や人口減少により、長期的に縮小傾向 にある。一方、海外では先述した人口増加や日本食ブームなどが重なり合うこと で、緑茶、その中でも抹茶の需要が増加している。こうした中で、日本の製茶企 業にとっては海外輸出や海外展開などの国際化が事業継続上の要諦の一つとして 取り上げられるようになっている。 上記の「茶業及びお茶の文化の振興に関する計画」でも、「輸出の振興」が謳わ れていることがその証左である。日本茶輸出協議会(2019)などによれば、日本の 緑茶の輸出金額は2018 年で 153.3 億円とそれほど大きくはないものの、2012 年 の50.5 億円から 102.8 億円の増加で、増加率は 203.6%と 3 倍以上になっている。 2016 年比で見ても、32.8%の増加率となっている。また、主な輸出先としては米 国、ドイツなど欧州諸国、台湾となっている。それでは、海外輸出を行う製茶企 業はどのくらい増えているのだろうか。また、海外輸出は製茶企業のパフォーマ ンスにどのような影響を与えているのだろうか。 (2) TSR データによる定量研究 前者の問いに関して、東京商工リサーチ提供の2012 年から 2017 年の 6 年間

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図表1 海外輸出を行う製茶企業数の推移

(出所)東京商工リサーチ提供データより、筆者作成

図表2 海外輸出の有無による製茶企業数の前年度比売上高増加率の比較

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の4878 件の企業データを用いて概観したものが図表 1 と図表 2 である。図表 1 は1 年ごとに海外輸出を行っている製茶企業の数をカウントしたものである。図 表1 より、海外輸出を行っている増加傾向にある。しかし、全体の企業件数から 見ればごく一部であることも理解できる。なお、この場合の海外輸出は直接輸出 に限っている。そのため、製茶企業が商社などを利用して、間接輸出により海外 輸出を行っている場合は上記に含まれないことに注意を払う必要がある。加えて、 後者に関して、図表2 では、製茶企業を海外輸出の有無により二つのグループに 区分して、前年度比売上高増加率を比較している。100 が変化なしの閾値となる。 海外輸出の有無が判別できないサンプルは除外している。その結果、6 年間で 3656 件の企業データが分析対象になっている。図表 2 から、海外直接輸出をし ている製茶企業はそうでない製茶企業に比べて、より高い売上高増加率を示して いることがわかる。データ上の制約はあるものの日本の製茶産業では、海外輸出 を志向する企業が増加していて、それを実現した企業は売上高を向上させること ができている。しかし、その数はいまだに少ないというのが現状である。 (3) 定性研究 それでは、何が製茶企業の海外輸出の障壁になっているのだろうか。その一つ として、日本の消費者は「国産」の食品を好む一方で、その食品が「有機栽培か どうか」、「無農薬かどうか」にはあまり関心を払わないといった食文化を有して いることが挙げられる。これは緑茶でも同様である。その結果、茶農家の多くも 有機栽培による無農薬茶葉の生産を志向しなくなる。一方、米国や欧州、台湾と いった国々では緑茶に関する残留農薬の規制が厳しくなされている。消費者も有 機栽培の緑茶や抹茶を志向するのである。すなわち、日本市場と海外市場の間に は「国産の捉え方」や「有機栽培の緑茶や抹茶の捉え方」に関する文化的距離が 存在し、それが製茶企業の海外輸出に関する文化的障壁となっているのである。 そのため、製茶企業が海外輸出を志向した場合、有機栽培を志向する茶農家から 無農薬茶葉を調達することが不可欠になるのである。これは調達面でのイノベー ションを生じさせることと同義とも言える。 実際、海外輸出に先駆的な製茶企業は有機栽培を志向する茶農家との関係性の 構築と無農薬茶葉の調達に傾注している(1)。丸山製茶(静岡県掛川市)は九州の 茶農家を開拓し、無農薬の茶葉を調達することで、ドイツ、アメリカ、スイス、 台湾、フランス、スペインなどに抹茶など緑茶を輸出し、海外輸出が売上の2 割 以上を占めるようになっている。また、カクニ茶藤(静岡県静岡市)でも茶葉の 有機栽培が盛んな宮崎県や鹿児島県の茶農家から、無農薬の茶葉を調達し、海外 輸出を拡大させている。また、丸山製茶およびカクニ茶藤ともに地元静岡県の有 機栽培の茶農家との関係性も構築している。これらのケースの詳細に関しては、 別途のケーススタディで描写する予定である。 以上、製茶企業は海外輸出の要諦として、有機栽培による無農薬甜茶の調達に 関し、企業家的に行動することで、文化的障壁を克服することができたのである。 このように、文化的障壁に着目することで、日本の食品関連企業における国際化

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プロセスの具体的構造の一端を解明することにつながることが主張できる。 4. 結論と残された課題 本論文では、「日本の食品関連企業はどのように国際化しているのだろうか」と いった問いを中心に設定した上で、食品の製品としての特徴に着目した。その上 で、欧米アカデミアの研究成果を整理しながら、食品とは文化特殊的な製品であ ること、食品関連企業の海外輸出や海外展開に関しては、母国と標的国の間の文 化的距離に惹起される文化的障壁の克服が必要になることを示した。また、食品 は多様であり、加工食品企業や外食企業の国際化プロセスを解明するために、種々 のケーススタディの蓄積をしていく必要があることを示した。そして、製茶業の ケースを通じて、文化的障壁の克服に着目することが、当該プロセスの具体的構 造を解明する手掛かりになることを示した。ウプサラ・ステージ・モデルの言葉 を用いれば、直接輸出や海外販売子会社設立といった階段の前には文化という壁 があるとも言うことができる。 なお、本論文のケーススタディは簡易的なものであり、食品関連企業の国際化 プロセスの分析に関して、文化的障壁への着目が有用であることを主張するに留 まっている。文化的障壁の克服には、経営者のアントレプレナーシップが介在す る。製茶企業の場合、有機栽培の茶農家との関係性の構築といった調達面でのイ ノベーションがどのように生じたのか、その詳細を経営者の思考・意思決定や企 業家行動から解明する必要がある。これらを本論文の残された課題と今後の研究 目標として提示する。 【謝辞】 本研究は科学研究費補助金 若手 B(16K17176)「中小・小規模企業の国際的ア ントレプレナーシップと地域公的機関活用モデル」(研究代表者 山本聡)および 基盤C(19K01872)「中小企業の海外市場参入プロセスにおける従業員の企業家行 動の促進・阻害要因と自律性」(研究代表者 山本聡)の支援を受けている。記し て、感謝する。 参考文献

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図表 1   海外輸出を行う製茶企業数の推移

参照

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