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1 商品の減少による希少性の操作が消費者の選好に与える影響 有賀敦紀井上淳子 ( 1 立正大学 ) ( 2 成蹊大学 ) 1 2 人間は希少なものに魅力を感じる ( 希少性効果 ) 本研究では ものの価値規定における希少性効果の存在を確認するとともに その効果が生起する要因を実験によって解明した そ

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人間は希少なものに魅力を感じる(希少性効果)。本研究では、ものの価値規定 における希少性効果の存在を確認するとともに、その効果が生起する要因を実験に よって解明した。その結果、希少性効果は対象の相対的な数の少なさではなく、特 徴に基づく対象の減少的変化によって生起することが明らかになった。つまり、希 少性効果を活用して商品価値を増大させるためには、商品が他の消費者によって購 買され、その数(入手可能性)が減少していく様子を可視化することが有効である と示唆される。 キーワード: 希少性効果、魅力評価、選好

有 賀 敦 紀

1

井 上 淳 子

21立正大学)2成蹊大学)

商品の減少による希少性の操作が

消費者の選好に与える影響

Ⅰ はじめに

「数量限定」「期間限定」「○○店限定」といった文言は、消費者の購買意欲を駆り立てる 常套手段ともいえる。入手が困難だと言われると、我々はその対象の価値を高く見積もった り、対象を手に入れること自体に価値を見出したりする。限定商品を購入するためにわざわ ざ遠方から来店したり、開店前日から夜を徹して並ぶなどの行為は、金銭的、身体的コスト を支払ってでも対象を入手したいという強い購買意欲の表れである。 このように対象の入手が困難であるために、その対象の魅力や価値が高まることは希少 性効果と呼ばれる(scarcity eff (Brock 1968)によると、希少性の認知は対象の入手に何らかの制約がある場合に生じる。 制約とはたとえば、対象の供給量や供給者の数が限定されている、供給に遅延が発生してい

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る、さらに獲得や保有、譲渡に係るコストが高い、対象の保有自体が制限されているなどの 状況である。制約によって生み出された希少性は対象の価値を増大させ、人々はますます それを欲するようになる(e.g. Brock 1968; Hirshleifer, Glazer and Hirshlerifer 2006; Lynn 1991; Mittone and Savadori 2009; Szybillo 1975)。 実際、骨董品や美術品などは数が限定されているがゆえに、オークションなどでは高値で 取引される。ダイヤモンドは使用価値が低くても希少であるがゆえに交換価値が高い(い わゆる「水とダイヤモンドのパラドクス」、Smith 1776/1937)。希少性は人間の価値評価 を規定する決定的な要因として古典的にも注目されてきたテーマである。しかしながら、 マーケティングの研究においては、これまでほとんど議論されてこなかった(Stock and Balachander 2005)。 そこで本研究では、希少性効果の生起要因、つまり人間がある対象ついてどのように希少 性を認知し、魅力を評価しているのかを明らかにする。希少性効果が生起する条件を特定す ることは、マーケティング実務における希少性効果の利用に対して科学的根拠を与えるとと もに、希少性の効果的な訴求による商品価値の向上に寄与すると期待できる。

Ⅱ 先行研究のレビュー

2 ─ 1 希少性効果に対する説明 人間はなぜ希少なものに魅力を感じるのか。この問いに対してはさまざまな観点から説 明がなされている(Baumeister and Bushman 2011; Cialdini 1993)。まず 1 つは、人間の 学習に基づく説明である。多くの場合、希少なものは高品質であることから(Monroe and Petroshius 1981; Rao and Monroe 1989)、希少性が意思決定の際のヒューリスティックな手 がかりとなる、というものである。 2 つめは、対象の入手困難性に基づく説明である。一般に、希少なものを手に入れるため には多大な努力が必要である。希少なものを見つけることは難しいし、たとえ見つけたと してもそれを手に入れるためには他者との競合は避けられない。さらに、現在所有している ものが希少であれば、それを失った時に同じものを再度入手できる可能性は極めて低い。 つまり、人間は希少なものを手に入れる際のコストを、ものの価値と結びつける(Seta and Seta 1982)。古典的なミクロ経済学の理論に従えば自由経済における財の価格は需給をバラ ンスさせる機能を果たし、希少な財の価格も需要が供給可能レベルに落ち着くところで安 定する。ここでは、消費者の対象に対する選好は供給と独立であると仮定されるが、現実の 人々にとって希少で高価であることは対象をより魅力的に見せるのである(Lynn 1992)。 3 つめは、選択の自由に基づく説明である。心理的リアクタンス理論によれば、自由な 選択が制限されたりはく奪されたりすると、人間は自由を回復しようとする欲求を持つ (Brehm 1966; Brehm and Brehm 1981)。希少なものはそれだけで選択の自由を奪うため、 人間は希少なものを手に入れて自由を確保したいと考える。つまり、自由の回復という人間 の基本的欲求に基づいて、人間は希少なものを欲する。 そのほか、独自性の追求という観点からも説明がなされている。人間は入手困難なものを

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保持することで他者とは異なるという独自性を感じるため(Belk 1988)、希少なものを求め る傾向がある(Snyder and Fromkin 1980; Lynn 1991)。 2─ 2 希少性効果の実証的研究 Worchel et al. (1975)の研究は、希少性効果を明らかにした最初の実験心理学的研究で ある。実験参加者の課題はビン詰めのクッキーを味見して、その好ましさを評定すること であった。実験参加者が 10 枚入りのビンからクッキーを取り出して味見しようとしたとこ ろ、実験室に突然別の実験者(以降、来訪者)が入室して、以下のいずれかの実験的操作 が行われた。まず交換・需要条件では、来訪者は「他の実験室でクッキーが不足したので分 けてもらいに来た」と説明して、来訪者が持っていたビン(2 枚入り)と実験参加者の目前 にあったビン(10 枚入り)を交換した。次に交換・偶然条件では、来訪者は「クッキーの ビンを間違えて配置した」と説明して、やはり手持ちの 2 枚入りのビンと実験参加者の前に あった 10 枚入りのビンを交換した。最後に無交換条件では、来訪者は「クッキーの枚数が 足りているかを確認しに来た」と説明して、10 枚入りのビンがそのまま残された。以上の いずれかの操作の後、実験参加者はクッキーを味見して、その好ましさを評定した。実験の 結果、全ての実験参加者が同じクッキーを味見したにも関わらず、好ましさは交換・需要条 件で最も高くなることがわかった。さらに、交換・偶然条件における好ましさも、無交換 条件と比較して高かった。この結果から、他所で需要が高い(すなわち高い評価を受けてい る)という情報だけでなく、対象の希少性そのものが魅力を増大させる要因になることが明 らかにされた。さらに Worchel et al. (1975)は、これまでに指摘されてきたような対象の 供給が少ない状態(少数状態)だけでなく、供給が少なくなったという時間的変化(減少的 変化)を評価者が観察することによって、希少性効果は強く生じると主張している。 2─ 3 希少性効果の生起条件 前述したように、希少なものが我々にとって魅力的に映る理由はさまざまな理論に支えら れている。しかし、この希少性効果を生み出す要因については実証されていない。Worchel et al. (1975)の実験では、実験参加者の目前でクッキーの枚数が減少した(10 枚入りのビン が 2 枚入りのビンに交換された)交換・偶然条件の方が、無交換条件よりもクッキーが好ま しいと評価された。しかし、交換・偶然条件における好ましさの増大が、クッキーの減少的 変化(8 枚の減少)の影響を強く受けていたのか、それとも評価時のクッキーの少数状態(残 された 2 枚)の影響を強く受けていたのかわからない。本研究ではこの点を明らかにする。 Mittone, Savadori and Rumtiati (2005)は 4 種類(テディベア、ボール、鉛筆、鉛筆削 り)× 6 つの刺激(計 24 個)を実験参加者に同時に呈示して、実験参加の謝礼として 1 つを 選ばせた。このとき、各種類の刺激は、1 つだけ異なる色の刺激と 5 つの一様な色の刺激か ら構成されていた(希少性の操作)。実験の結果、1 つだけ異なる色の(希少な)刺激は有 意に多く選ばれず、希少性効果は生じなかった。つまり、希少性が対象の減少的変化によっ て定義されない場合(希少性が評価時の対象の少数状態によってのみ定義される場合)、希 少性効果は生じないことが報告されている。一方で、先行研究の中には数の少ないものに 対して希少性効果が生じることを報告している研究もある。たとえば Parker and Lehmann

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(2011)や van Herpen, Pieters and Zeelenberg (2009)は、小売店の棚における陳列製品 の数を操作することで希少性が消費者の選好に与える効果を検証した。いずれの研究でも 消費者は陳列数の少ない商品について他の商品より人気がある、品質が高い、と推論し、そ の希少な商品を購買選択する傾向にあったことが示された。対象の少数状態が希少性効果 を引き起こすか否か、引き起こすとしたらどのような状況で希少性効果を引き起こすのか、 については現在でも議論の最中であり、評価者のパーソナリティ(e.g. Amaldoss and Jain 2005; Harris, Lynn and Clair 1991; Lynn 1991)や対象に関する評価者の熟知性(Stock and Balachander 2005)、希少性が生み出された原因(Parker and Lehmann 2011; Verhallen 1982; Verhallen and Robben 1994)など、様々な要因が複雑に影響していると考えられている。 しかしながら、対象が新たに希少になったときに希少性効果は顕著になるという減少的 変化に基づく考えは、実証的研究はないものの、Cialdini (1993)や Worchel et al. (1975) によって一貫して主張されている。この主張に基づけば、Worchel et al. (1975)における 2 枚入りのビンから取り出されたクッキーに対する魅力の増大(すなわち希少性効果)は、評 価時のクッキーの枚数の少なさの影響というよりは、評価時に至るまでの枚数の減少的変化 の影響を強く受けていたと推測することができる。 2─ 4 本研究の目的 希少性効果において、対象の少数状態と減少的変化の 2 つの要因を統制された条件下で実 験的に操作して比較検討した研究はこれまでにない。そこで本研究では、色の異なる 2 種類 のクッキーを用い、色ごとのクッキーの数を操作することで、対象の少数状態と減少的変 化のどちらが強く希少性効果に影響を与えるのかについて比較検討した。具体的には、2 種 類のクッキーの割合によって評価時の少数状態を作り出し、その状態に至るまでに減少した クッキーの色を変えることで減少的変化の要因を操作した。そして、実験参加者の好ましさ の評定が、少数状態にある色に強く依存するのか、それともそれまでに減少したクッキーの 色に強く依存するのかを調べた。 なお、前述したように、希少性は対象の入手可能性が制限された状況として定義される (Brock 1968)。したがって本研究では先行研究(Worchel et al. 1975)と同様に、現在どれ ほどの供給量があるのか(少数状態)、また過去と比較して現在どれほどの供給量があるの か(減少的変化)、によって対象の希少性を実験的に操作した。

Ⅲ 実験

3─ 1 手続き 実験の目的を知らない東京都内の大学に通う男子学生 24 名と女子学生 36 名(計 60 名、 平均年齢 21.0 歳)を実験参加者とした。 実験に用いる刺激として、色の異なる 2 種類のクッキー(「しっとりクッキー・ジャージー 牛乳」と「しっとりクッキー・生チョコ」、いずれもカバヤ食品株式会社)を採用した。前

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者は黄みがかった白色のプレーンクッキーであり、後者は黒色のココアクッキーであった。 以降、便宜的に前者を白色のクッキー、後者を黒色のクッキーと呼ぶ。なお、事前の予備実 験(9 件法を用いた評定実験)によって、白色のクッキーと黒色のクッキーの好ましさに有 意な差は無いことが確認されている(N=10, t(9)= 0.71, ns.)。 実験は以下のように個別に実施した。まず実験者は実験参加者に、クッキーの味見をして その好ましさを評定するよう依頼した。その後、彼らの目の前に 10 枚のクッキーが入った ガラス容器 A を呈示した(クッキーの色の内訳については後述する)。10 枚のクッキーは 一部重なり合っていたが、実験参加者からはすべてのクッキーを観察することができた。そ の後、実験参加者がガラス容器 A に対して手を伸ばそうとしたタイミングで、実験者は実 験参加者に「用意する容器を間違えた」と言って、隠しておいたガラス容器 B とガラス容 器 A を交換した(ガラス容器 A と B は同一製品)。このとき、ガラス容器 A は実験参加者 から見えない場所に置いた。ガラス容器 B には 5 枚のクッキーが入っていた(クッキーの 色の内訳については後述する)。5 枚のクッキーは一部重なり合っていたが、実験参加者か らはすべてのクッキーを観察することができた。実験者は実験参加者に、ガラス容器 B に 入った白色のクッキーと黒色のクッキーを 1 枚ずつ食べて、1 枚食べるごとに好ましさを評 定するよう求めた(9 件法:1 =とても好ましくない、9 =とても好ましい)。実験参加者が クッキーを食べる順序についてはカウンターバランスをとった。 3─ 2 実験デザイン 実験参加者は次の 3 つの条件のいずれかに無作為に割り当てられた(図 1 参照)。白減少 条件(N=20)では、ガラス容器 A に白色のクッキー 9 枚と黒色のクッキー 1 枚を用意し、 ガラス容器 B には白色のクッキー 4 枚と黒色のクッキー 1 枚を用意した。黒減少条件(N =20)では、ガラス容器 A に白色のクッキー 4 枚と黒色のクッキー 6 枚を用意し、ガラス 容器 B には白色のクッキー 4 枚と黒色のクッキー 1 枚を用意した。統制条件(N=20)で はガラス容器の交換はなく、白色のクッキー 4 枚と黒色のクッキー 1 枚が入ったガラス容器 B が、最初から最後まで実験参加者に呈示された。つまり、白減少条件では、白色のクッ キー 5 枚が実験参加者の目の前で減少する条件であった。一方、黒減少条件では、黒色の クッキー 5 枚が減少する条件であった。統制条件ではクッキーの減少はなかった。 要因計画は、2 要因 3(条件:白減少、黒減少、統制)× 2(評価するクッキーの色:白 統制条件 黒減少条件 白減少条件 ガラス容器 A ガラス容器 B 評価 評価 評価 図 1 各条件におけるクッキーの色の操作

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色、黒色)の混合計画(条件は参加者間要因、評価するクッキーの色は参加者内要因)で あった。 3─ 3 結果の予測 希少性効果が対象の減少的変化に強く依存するのであれば、クッキーが減少する条件(白 減少条件および黒減少条件)において、減少した色のクッキーに対する好ましさが、減少し なかった色のクッキーに対する好ましさよりも高くなることが予測される。

Ⅳ 結果

各条件におけるクッキーの好ましさの平均評定値を算出し、図 2 に表した。2 要因 3(条 件:白減少条件、黒減少条件、統制条件)× 2(クッキーの色:白色、黒色)の分散分析を行っ たところ、条件の主効果(F (2,57) = 1.16, ns.)およびクッキーの色の主効果(F (1,57) = 0.31, ns.)は有意でなかった。要因間の交互作用は有意であった(F (2,57)= 4.47, p < .05)。 クッキーの色の単純主効果は白減少条件(F (1,57)= 4.16, p < .05)、および黒減少条件(F (1,57)= 4.16, p < .05)において有意であったが、統制条件では有意でなかった(F (1,57)= 0.92, ns.)。つまり、白減少条件の実験参加者は白色のクッキーの方が黒色のクッキーよりも 好ましいと評定した。一方、黒減少条件の実験参加者は黒色のクッキーの方が白色のクッ キーよりも好ましいと評定した。統制条件では、白色のクッキーと黒色のクッキーの好まし さの評定に違いはなかった。さらに、条件の単純主効果は黒色のクッキーにおいて有意で あった(F (2,114)= 3.53, p < .05)。多重比較(ライアン法、Ryan 1960)の結果、白減少条 件と黒減少条件の間に有意な差が認められた(p < .05)。 白減少 黒減少 統制 7 6 5 4 白 黒 評価されたクッキーの色 図 2 各条件において評価されたクッキーの好ましさ

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Ⅴ 考察

5 ─ 1 本研究の結果の解釈 実験では白色と黒色の 2 種類のクッキーを用いて、評価時のクッキーの色の割合(少数状 態)とそれに至るまでに減少したクッキーの色(減少的変化)を独立に操作した。その結 果、白色のクッキーが減少した条件(白減少条件)では、評価時に黒色のクッキーが少数 状態であったにもかかわらず、白色のクッキーが黒色のクッキーよりも好ましいと評定され た。一方、黒色のクッキーが減少した条件(黒減少条件)では、黒色のクッキーが白色の クッキーよりも好ましいと評定された。実験参加者はどちらの条件でも同じクッキーを味見 したにもかかわらず、好ましいと評定したクッキーの色は条件間で逆転した。つまり、好ま しさの評定値は減少した色のクッキーにおいて高かった。さらに統制条件では、2 色のクッ キーの評定値に有意な差はなかった。したがって、希少性効果は評価時における対象の少数 状態ではなく、評価時に至るまでの対象の減少的変化に強く依存することがわかった。 これまで、対象の少数状態は希少性効果を生み出すという報告(Parker and Lehmann 2011; van Herpen, Pieters and Zeelenberg 2009)と、逆に少数状態は希少性効果を生み出 さないという報告(Mittone et al. 2005)があった。本研究の結果は、後者の立場を支持す るものであった。少数状態が希少性効果を生み出す条件については現在でも議論の最中であ るが、Stock and Balachander (2005)は、「希少=人気」あるいは「希少=高品質」といっ たヒューリスティクスは当該製品カテゴリーについて熟知性が低い消費者にしか通用しない と指摘している。この指摘と一致する形で、Lynn (1989)はワインの選好において、ワイ ンの価格が実験参加者に伏せられた条件でのみ希少性効果は生じ、価格が明示された条件で は希少性効果は生じないことを報告している。つまり、希少性効果は、消費者が対象の価値 を推測することが難しいときに生じやすいと考えられる。本研究では、実験参加者である大 学生が普段購入するような比較的安価なクッキーを刺激として用いたため、おそらく実験参 加者は見た目などからその価値をある程度妥当に推測することができた。したがって、統制 条件における評価時の枚数の少なさは、希少性効果を有意に引き起こさなかったと考えられ る(1) 以上の考察を踏まえると、本研究では、評価時の少数状態だけでは本来希少性効果が有意 に生起しないような事態でも、実験参加者に減少的変化を呈示することで希少性効果は有意 に生じることを明らかにした。希少性効果の生起要因として、評価時の少数状態と評価時に 至るまでの減少的変化の 2 つの要因を、1 つの実験内(統制された条件下)で比較した研究 はこれまでにない。本研究の結果から、希少性効果において、対象の減少的変化は評価時の 少数状態よりも強固に魅力評価に影響を与えることがわかった。 興味深い点として、減少したクッキーの枚数が同じであったにもかかわらず、黒減少条 件では統制条件よりも黒色のクッキーに対する好ましさの評定値が高く、白減少条件では統 制条件よりも評定値は低かった(ただし、いずれも有意ではない)。前者については、以下 のようなプロセスで希少性効果が生じたと考察できる。黒減少条件では最初、白色のクッ キーも黒色のクッキーも共に複数枚あった(ガラス容器 A)。しかし、その後の実験的操作

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によって黒色のクッキーが 1 枚だけになった(ガラス容器 B)。このとき実験参加者は、黒 色のクッキーが減少したことに加え、その結果として黒色のクッキーが 1 枚だけしか残らな かった状況から、黒色のクッキーが非常に希少であると認知した。その結果、黒減少条件の 実験参加者は統制条件の実験参加者よりも、黒色のクッキーを好ましいと評定したと考えら れる。 一方、白減少条件では最初から、黒色のクッキーが 1 枚だけあり、白色のクッキーが多数 あった(ガラス容器 A)。その後の実験的操作によって白色のクッキーが減少しても、白色 のクッキーは依然として 4 枚残されていた(ガラス容器 B)。つまり、実験参加者は白色の クッキーの減少的変化に基づいて白色のクッキーが希少であると認知したが、減少後も 4 枚 のクッキーが残っていたため、黒減少条件における黒色のクッキーほどの希少性は感じな かったと考えられる。その結果、白色のクッキーに対する好ましさの評定値は、統制条件と 比較してそれほど高くならなかったのだろう。さらに実験参加者は、減少しなかった(すな わち、希少性に変わりがない)黒色のクッキーの好ましさについて、白色のクッキーとの対 比により低く評定したと考えられる。 これらの結果は、対象の減少的変化が希少性効果の生起に強く影響を与え、減少的変化の 結果が希少性効果の程度に影響を与えていたことを示唆している。加えて、複数の評価対象 が存在するとき、その中で減少した対象に対して生じた希少性効果は、それ以外の対象の魅 力評価に相対的、副次的に影響を与えることも示唆された。この考察は、対象に対する人 間の魅力が対比によって形成されるという、これまでの認知心理学的知見との整合性も高い (e.g. Kenrick and Gutierres 1980)。 5─ 2 希少性の適切な操作 現在、冒頭で述べた「数量限定」「期間限定」「○○店限定」などのセールス・プロモー ションは現実世界で広く使用されており(Howard, Shu and Kerin 2007)、これらの方略は 一般的には消費者の購買意欲に対してポジティブに作用すると考えられている。しかし、 希少な状態がどのような原因によって生み出されたのかを消費者が推測することで、その ようなプロモーションの効果が失われる可能性が指摘されている。たとえば Yeo and Park (2009)は、ある商品が希少である(あるいは希少ではない)ことを表すメッセージを記載 したパンフレットを実験参加者に呈示して、その商品を評価させた。このとき実験参加者に は記憶課題が課せられ、パンフレットを読む間の認知負荷が操作された(8 個の数字を記憶 する高負荷条件 vs. 2 個の数字を記憶する低負荷条件)。実験の結果、高負荷条件の実験参 加者は、希少な商品を希少ではない商品よりも好ましいと評価した(希少性効果)。一方、 低負荷条件の実験参加者では、希少性効果は生じなかった。さらに低負荷条件の実験参加者 は、希少性をアピールするメッセージから、「消費者の購買意欲を操作しようとしている」 というマーケターの意図を推測していたことがわかった。これらの結果から、記憶課題に よって多くの認知資源が奪われた高負荷条件の消費者については、マーケターの意図を推測 する(希少性の原因帰属をする)ことができないため希少性効果は生じるが、認知資源が豊 富に残されている低負荷条件の消費者については、マーケターの意図を推測することができ るため希少性効果は生じないと結論付けられた。 「数量限定」などのセールス・プロモーションは、消費者に対して積極的、顕在的に希少

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性をアピールする方略である。しかしこのような顕在的なアピールの場合、消費者がマーケ ターの意図を推測する確率は必然的に上昇する。本研究で示したように、商品の数を減少さ せて消費者に対して希少性を潜在的にアピールすることができれば、消費者がマーケターの 意図を推測する確率は大幅に低下する。したがって本研究は、現実世界で希少性効果を確実 に生み出すための適切な方略を提案していることになる。

Ⅵ おわりに

本研究の目的は、希少性効果の生起要因を特定することであった。Worchel et al. (1975) の古典的研究をベースに、希少性効果が評価時の対象の少数状態に強く依存するのか、それ とも減少的変化に強く依存するのかを調べる実験を行った。その結果、希少性効果の生起に 関して、以下の 3 つの点が明らかにされた。(1)希少性効果は、対象の減少的変化に強く依 存して生じる。(2)希少性効果の程度は減少的変化の結果に依存する可能性がある。(3)希 少性効果は、減少しなかった対象の魅力評価に対しても相対的、副次的に影響を与えると考 えられる。これらの発見は希少性効果の発生自体に関わるこれまでの知見を発展させるとと もに、マーケティング実務における希少性効果の活用に大きく寄与するものである。 従来の説明モデルでは、希少性は対象の質の高さを示す手がかりになること、希少なもの は入手困難でコストがかかること、希少なものはそれだけで選択の自由を奪うこと、など が要因となって希少性効果を生み出すと考えられてきた(Baumeister and Bushman 2011; Cialdini 1993)。これらの説明からは一見すると、希少性がその対象の価値評価だけに影響 を与えるように思える。しかし本研究の結果は、ある対象における希少性の認知は、特徴の 異なる別の対象の価値評価にも相対的に影響を与えることを示唆している。 近年は、インターネット通販や TV ショッピングの普及に伴い、購買局面における他者の 影響が働かない状況、すなわち店頭で自分と同じ棚を眺めて商品を吟味している人たちがど のブランドを選択するか、在庫が現在どのくらいあるか、を視覚的に確認できない状況での 購買意思決定が増加している。しかし、希少性効果の操作を考えた場合には、この見えない プロセスをあえて可視化することによって可能性が広がると言える。 たとえば TV ショッピングのプログラムでは、番組進行中リアルタイムで在庫数(注文数 ではなく)を表示していく。同型色違いのニットを販売する場合、この在庫数の減少プロセ スを色別に(色を無視した総数ではなく)可視化することで、減少が早かったり、大きかっ たりする商品に対して選択的に希少性効果が働くようになるだろう。減少していく対象と同 じ特徴を持つ対象に対して消費者の購買意欲はより喚起され、希少性の高いものを購買でき るとさらに満足度も高まる。ホテル宿泊サイトでも、自分と同じプランを見ている人が何人 いるとか、何時間前にこのプランを予約した人がいて、あと何部屋同プランが残っているか などが表示される。意思決定者が気になるプランを並列させて上記のような情報を参照する ことができれば、さらに効果的に希少性効果を得られる可能性がある。 上述のように相対的、時間的な変化を意識して希少性を操作することは、商品カテゴリー の価値評価全体を高めるためにも効果的手法だと言えよう。ただし、本研究における白減少 条件のように、操作した希少性の程度が低いと、商品カテゴリーの価値評価が全体的に低下

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する恐れもある。ここに今後の研究課題が残されている。本研究における白減少条件では、 白色のクッキーに対する評価が、黒減少条件ならびに統制条件における評価との間に有意差 を示さなかった。9 個から 4 個という物理的な数の減少はあったものの、その差は絶対的な 魅力の増大にはつながらなかった。人間に絶対的な魅力の増大をもたらすための希少性の閾 値がどこにあるのかについては、今後取り組むべき興味深い課題である。 謝辞 本研究は立正大学心理学部の五十嵐友理さん、森誠さん(いずれも平成 24 年度卒業生) の協力のもと行われました。ここに深く謝意を表します。 (1) ただし、統制条件において 2 色のクッキーの間で数値上は若干の差(0.40)が見られたた め、本研究において対象の少数状態も希少性効果を生み出していた可能性は完全に否定で きない。このことによって、黒減少条件と統制条件の間の黒色のクッキーに対する好まし さの違いが、有意差に至らなかったと推察される。 引用文献

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(12)

1Rissho University)

2Seikei University)

Atsunori Ariga

1

Atsuko Inoue

2

Consumer Preference Depends on the Scarcity Defined

by the Decrease, not Fewness, of Goods

Abstract:

Scarce objects attract people (scarcity effect). The present study examined determinant factors for the scarcity effect to be elicited, decreasing the number of objects of a certain feature while keeping objects of another feature constant. The results interestingly showed that the likeability was rated higher for the decreased abundant objects than for the constant few objects, demonstrating that newly generated scarcity given by the decrease of objects is a predominant factor in the effect. Given these results, visualizing the decreasing products could easily boost the likeability of products in the real world.

Key Words:

参照

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