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第三章

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21 第三章 環境リスクに対する個人の WTP と WTP 合計,WTP 比の分布図 第一章で述べたように,福江は,その研究で変動係数の比較などから WTP よりも,提案 した WTP 合計や WTP 比のほうの統計的信頼性が高いと結論付けたが,WTP の分布の変化 に着目した分析がなく,統計的に信頼性が向上したと結論付けるには不十分であった.そ のため本研究では,福江のアンケート調査結果(データ)を用いて,リスクごとの個人の WTP と WTP 合計,WTP 比の分布図を作成し,それらを比較することで,WTP を WTP 合 計と WTP 比に変換することの統計的意味を分布の観点から考察した. 本章では,これらの結果について述べる.これにより,福江の課題の 2)の解決を目指す. 3-1 福江のアンケート調査の概要1) 福江は,被験者の属性の違いが WTP 合計と WTP 比に及ぼす影響を明らかにすることを 目的とし,属性の異なる 4 つの集団に対して CVM 実験を実施した. 同実験で対象となったのは「R 大学大学院生」「大津友の会会員」「滋賀県立大学環境科学 部教員」「滋賀 GPN 企業会員」の 4 集団である.対象集団の概要を表 3-1 に示す. 以下,同 4 つの実験をそれぞれ「R 大学生」「大津友の会」「県大教員」「滋賀 GPN」と呼 ぶ. 福江は実験で,第二章で述べた日本リスク研究学会が定めた 7 つの環境リスク(放射線・ 重金属・農薬・遺伝子操作・廃棄物処理・ダイオキシン・環境ホルモン)を評価対象とし た.くわえて,それら環境リスクの比較対照として被験者が回答しやすいように,より身 近なリスクである自動車事故も合わせて評価対象とした.調査票に掲載された各リスクの 説明を表 3-2 に示す. 表 3-1 福江の実験の対象となった 4 つの集団の概要1) 集団 概要 R 大学大学院生 R 大学理工学部の大学院生. 大津友の会 全国友の会の大津支部.会員は女性のみで,主婦層が多い.毎月 1 回定期的 な会議を開き,月刊誌「婦人之友」や,普段の生活環境についての勉強会を開 いている. 滋賀県立大学環境科学部教員 環境における水質や経済学,地理学,建築,生態系,資源など様々な分野を 専門とした大学教員. 滋賀 GPN 企業会員 滋賀県内のグリーン購入を促進するために活動している企業会員.企業その ものが会員となっており,なお,本研究では,滋賀 GPN の記念誌「グリーン 購入ものがたり」に記載されている企業会員(2004 年 9 月 30 日現在)の各 企業の担当者を被験者とした.

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22 表 3-2 福江の実験における各リスクの説明 対象リスク (リスクを引き 起こす原因) リスクを引き起こす 原因(ハザード)の説明 ハザードが引き起こしうる 被害(出来事) A: 自動車事故 死亡事故 B:放射線 (原子力含む) 宇宙から降り注ぐ宇宙線や,原子力発電や核実 験などで環境中に漏れ出す可能性のある放射 線や,自然界に存在する放射能物質からの放射 線などのこと。 ガン 白血病 C:重金属 水銀や鉛,カドミウムなどのこと。 慢性的な重金属による中毒 (発達障害や臓器の障害) D:農薬 殺虫剤や除草剤,殺菌剤などのこと。シロアリ 防除剤なども含まれる。 慢性的な農薬中毒 (呼吸器や神経の障害) E:遺伝子操作 遺伝子組換え農作物などのこと。 周辺植物 1 種への悪影響 (予期せぬ交配や種の衰退) F:廃棄物処理 一般廃棄物や産業廃棄物を処理すること。 生活環境の悪影響 (悪臭や衛生害虫の発生) G:ダイオキシン 塩素を含む物質の不完全燃焼などで,意図せず に生じてしまう毒性物質。 胎児の健康障害 (生殖能力や免疫機能の低下) H:環境ホルモン 動物の生体内での正常なホルモン作用にかく 乱を与える恐れがある。ただし,その影響に関 して明確な結論はでていない。 野生生物 1 種への悪影響 (生殖機能や臓器の障害) 同実験では,表 3-2 に示した 8 つのリスクの削減に対する WTP が CVM によって尋ねら れた.実験(実験全体)の概要を表 3-3 に示す. 表に示すように,福江は実験で先ず,7 つの環境リスクと自動車事故の計 8 つの対象リス クについて,調査票に示した説明文(表 3-2)に基づき,各リスクの説明を行い,その上で, 被験者に,各リスクの削減に対する WTP を尋ねた.この質問で用いられた CVM の提示条 件を表 3-4 に示す.WTP を尋ねる前には,WTP の仮想対象となる環境リスク削減対策の効 果(1 年間でそれぞれ 10-5)に関する説明を行い,さらに,WTP の合計が高いリスクから順 に対策が実施されることや,削減するリスクは 1 つとは限らず,実施される対策全ての金 額を負担しなければならないことを指摘して,8 つのリスク一つ一つの対策に対する WTP を支払カード方式で尋ねた.実験で用いられた支払いカードを表 3-5 に示す. 福江は,以上の実験から,最終の「自由記述による実験の感想」を除く全ての設問にお いて,回答欄に 1 つでも無回答の項目があるものや,指定した数値以外を答えたもの,個 人の WTP の合計値が外れ値(極端な値)となるものは無効回答とした.外れ値の推定に箱 ひげ図を用いた.同方法は,五数要約により求めた第 3 四分位点(Q3)と第 1 四分位点(Q1) から,四分位偏差(Q3-Q1)の 1.5 倍よりそれぞれ大きな値と小さな値を外れ値とする方法 である2).CVM においては,一部の回答者が極端に高い WTP を回答することによって,全 体の WTP の平均値が引き上げられる,または引き下げられる可能性があることから,集計 結果の信頼性を高めるために,外れ値を無効回答とした.集計には,無効回答は含めてい ない.各集団実験の回収部数と有効回答件数を表 3-6 に示す.

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23 表 3-3 福江が実施した 4 つの実験の概要 目的 多属性間での WTP 合計と WTP 比の特徴を確認すること 質問項目 ①評価対象(7 つの環境リスクと自動車事故)の説明 A:自動車事故,B:放射線(原子力含む),C:重金属,D:農薬, E:遺伝子操作,F:廃棄物処理,G:ダイオキシン,H:環境ホルモン ②リスクの大きさの順位に関する質問 ・ 8 つのリスクの大きさを感覚的に順位付けさせる ③WTP に関する質問 ・ リスク削減対策の一覧を提示(リスク削減効果は 1 年間でそれぞれ 10-5 ・ 8 つのリスク削減対策 1 つ 1 つに対する 1 年間の WTP を尋ねる ※ 実施される対策全ての合計金額の負担を明示的に示す ※ WTP は支払カード方式で尋ねる(表 3-5) ④環境リスクに関する知識を問う質問 ⑤個人属性に関する質問 ・性別,年代,職業,世帯年収について尋ねる ⑥アンケートに関する質問 ・ 8 つのリスクに関する説明が理解できたのか尋ねる ・ 最後に自由記入欄に感じたことを記入させる 表 3-4 福江の実験における CVM で用いた提示条件 内容 回答条件 ・ 被験者が回答した金額の合計が高いものから順に対策が実施される ・ どの対策も,軽減できるリスクは年間 10-5(1/100,000)程度 ・ 対策の実施期間は 5 年間 ・ 対策が実施された場合,被験者は,その実施される対策に対して回答した負担 金額の合計..を今後,5 年間毎年負担しなければならない 表 3-5 福江の実験における金額表(実験に用いた支払カード) 0 円 100 円 200 円 500 円 1000 円 3000 円 5000 円 7000 円 9000 円 10000 円 15000 円 20000 円 30000 円 50000 円 それ以上 表 3-6 福江の実験における各集団実験の回収部数(率)とそのうちの有効回答件数(率) (各集団実験と実験全体) 実験名 回収部数(率) 有効回答件数(率) R 大学生 298(100%) 225(76%) 大津友の会 31(62%) 19(61%) 県大教員 37(66%) 24(65%) 滋賀 GPN 89(29%) 56(64%) 実験全体 455(46%) 324(71%)

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24 3-2 WTP 合計およびリスクごとの WTP と WTP 比の分布図 本研究では,福江の実験から得られた結果(データ)を用いて,個人の WTP 合計および 8 つのリスクごとに WTP と WTP 比の分布図を作成した.分布図のクラス分けに関しては永 田のヒストグラムの書き方3) を参考にした. 作成した WTP 合計の分布図を図 3-1 に,8 つのリスクごとの WTP と WTP 比の分布図を 図 3-2 に示す.図 3-1 と図 3-2 では,WTP 合計および各リスクの WTP と WTP 比の歪度と 尖度を合わせて示している. これら歪度と尖度についてまとめたものを表 3-7 に示す.歪度とは,正規分布を基準とし たときに,集団の分布図が,左右にどの程度偏っているかを,尖度とは,上下にどの程度 偏っているかは示す値である.いずれの指標も値が 0 に近いほど正規分布に近い分布であ ることを示す4) なお,図 3-2 ならびにこれ以降における,WTP 比は,WTP の横軸に合わせるために,式 (3-1)に示すように,本来の WTP 比に WTP 合計の平均値を乗じ,環境リスクの数で割った ものとした.また,横軸のクラスの数は 10 に揃え,階級が 10 番目以降は「それ以上」と して 1 つにまとめた. n TAW RW RW"ijij (3-1) ここで, RW"ij:WTP と比較するために,被験者 j の環境リスク i に対する WTP 比(RW)を貨幣価値に 再変換した値(円) N TAW TAW N j j 1

  0 10 20 30 40 50 60 70 3577.5 6955.5 10333.5 13711.5 17089.5 20467.5 23845.5 27223.5 30601.5 79.5 339 37357.5 40735.5 44113.5 91.5 474 50869.5 54247.5 57625.5 61003.5 図 3-1 WTP 合計(TAW)の分布図 TAW 歪度 3.51 尖度 14.62 (円) :被験者 j の環境リスク i に対する WTP の合計(TAWj)の被験者全体の算 術平均

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25 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 0 30 60 90 120 150 180 210 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 220 0 30 60 90 120 150 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 0 40 80 120 160 200 240 図 3-2 各リスクにおける個々人の WTP(AW)と WTP 比(RW")の分布図 放射線 重金属 農薬 遺伝子操作 廃棄物処理 ダイオキシン 環境ホルモン 自動車事故 AW RW" 歪度 3.34 1.13 尖度 15.81 0.60 AW RW" 歪度 3.91 1.14 尖度 22.14 2.24 AW RW" 歪度 2.50 1.39 尖度 6.56 2.09 AW RW" 歪度 2.92 1.69 尖度 12.40 3.42 AW RW" 歪度 3.09 2.44 尖度 10.93 7.83 AW RW" 歪度 1.98 1.65 尖度 3.73 3.67 AW RW" 歪度 2.45 1.61 尖度 6.84 3.59 AW RW" 歪度 3.51 2.18 尖度 14.62 4.78 (円) (円) (円) (円) (円) (円) (円) (円) AW RW"

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26 表 3-7 WTP 合計および各リスクにおける WTP と WTP 比の歪度と尖度 放射線 重金属 農薬 遺伝子操作 WTP WTP 比 WTP WTP 比 WTP WTP 比 WTP WTP 比 歪度 3.34 1.13 3.91 1.44 2.50 1.39 2.92 1.69 尖度 15.81 0.60 22.14 2.24 6.56 2.09 12.40 3.42 廃棄物処理 ダイオキシン 環境ホルモン 自動車事故 WTP 合計 WTP WTP 比 WTP WTP 比 WTP WTP 比 WTP WTP 比 歪度 3.09 2.44 1.98 1.65 2.45 1.61 3.51 2.18 1.15 尖度 10.93 7.83 3.73 3.67 6.84 3.59 14.62 4.78 0.83 図 3-2 が示すように,WTP の分布図に関しては,有効回答から外れ値を除外しているに もかかわらず,特異的に高い WTP が各リスクにおいてみられる.また,0 人のクラスが多 く存在し.各リスクの分布は左側に大きく偏っている. しかし,WTP を変換した WTP 比の分布図では,WTP に比べ,特異的に高い WTP 比の値 の数は減少し,また,0 人のクラスの数も減少していることがわかる.さらに,大きく左に 偏っていた WTP の分布が,WTP 比に変換することで,右側に少しシフトしていることがわ かる. また,表 3-7 が示すように,各リスクの歪度と尖度の値も,WTP 比のほうが WTP よりも 0 に近い値になっている.WTP 合計の歪度と尖度の値も,どのリスクの WTP の歪度と尖度 の値よりも 0 に近い値になっている.このことは,WTP 合計と WTP 比のほうが WTP より も,正規分布に近い分布であることを示している. 以上の結果から,WTP を WTP 合計や WTP 比に変換することで,WTP に比べて,分布図 が正規分布に近づいたことがわかった.この分布の変化によって,値の算術平均にも変化 が生じていると考えられる.次節では,WTP を WTP 合計と WTP 比に変換することで起こ る平均値への影響を検討する. 3-3 WTP を WTP 合計と WTP 比に変換することによる平均値への影響 3-3-1 平均値と中央値の差の変化 各リスクの WTP と WTP 比について,それぞれ平均値から中央値を引いた値を図 3-3 に 示す.

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27 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 自動車事故 環境ホルモン ダイオキシン 廃棄物処理 遺伝子操作 農薬 重金属 放射線 図 3-3 平均値と中央値の差 図が示すように,各リスクの WTP では,平均値のほうが中央値よりも最大で約 2500 円 高いことがわかる.一方,WTP 比では,最大が約 1500 円に減少している.また,「廃棄物 処理」を除くすべてのリスクにおいて,WTP に比べ,平均値と中央値の差が WTP 比では小 さくなることがわかる. これらのことから,WTP を WTP 比に変換することで,平均値と中央値の差が小さくなる ことがわかった.これは,WTP を WTP 比に変換することで,値の分布が正規分布に近い 分布になったためと考えられる. CVM の代表値は,2-4-3 で述べたように,平均値よりも控え目な値である中央値のほうが 適切であるという主張があるが,WTP 比を用いることで,WTP よりも平均値と中央値の差 が小さくなることで,中央値ではなく平均値を用いる問題も軽減できると考えられる. 3-3-2 各被験者の値と平均値との差の変化 次に,WTP を WTP 比に変換することで,各被験者の値と平均値の差がどのように変化す るのかを調べた.各リスクにおける,WTP と WTP 比の各被験者の値と平均値との差を図 3-4 に示す.なお,各被験者の値と平均値との差とは,式(3-2)と式(3-3)に示すように,WTP とWTP 比のそれぞれに関して,各リスクにおける平均値と個人の値の差を二乗し,足し合 わせたものを,サンプル数で割り,その平方根を求めた値である. N AW AW DAWj i ij 2 ) (    (3-2) ここで,

DAWi:被験者 j の環境リスク i に対する WTP(AWij)と算術平均(AW )の差(D:Difference)i

放射線 重金属 農薬 遺伝子操作 廃棄物処理 環境ホルモン ダイオキシン 自動車事故 0 1000 2000 3000 (円) AW RW"

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28 N AW AW N j ij i 0

  :被験者 j の環境リスク i に対する WTP(AWij)の算術平均 N RW RW DRW j i ij 2 " " " = (  ) (3-3) ここで, DRW"i:被験者 j の環境リスク i に対する WTP 比(RW"ij)と算術平均( i RW " )の差(D:Difference) N RW RW N j ij i " " 0

  :被験者 j の環境リスク i に対する WTP 比(RW "ij)の算術平均 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 自動車事故 環境ホルモン ダイオキシン 廃棄物処理 遺伝子操作 農薬 重金属 放射線 図 3-4 各被験者の値と平均値との差 図 3-4 が示すように,WTP では,被験者の値と平均値との差が一番大きいリスクは放射 線で,約 6000 円の差である.それに対して,WTP 比では,一番大きいリスクは放射線で同 じであるが,その差は約 3500 円に縮まっている.さらに,どのリスクにおいても差が減少 していることがわかる. 2-4-3 で述べたように,WTP の平均値とは社会的便益であるため,WTP の平均値と個人 の WTP の乖離が大きいということは,リスク削減による社会的便益と個人が考える便益に 大きなずれがあるということである.しかし,WTP 比に変換することで,WTP よりも,同 乖離が小さくなることから,このずれも小さくなると考えられる.このことは,3-2 で確認 した通り,各リスクに対する WTP において,特異的に高い WTP が WTP 比に変換されるこ とによって補正され,分布の幅が平均値を中心に狭くなったためであると考えられる. 3-3-3 平均値以上の値を表明した人の人数の変化 WTP の平均値を便益に用いて費用便益分析を行う場合,WTP の平均値よりも高い WTP を表明した人は,WTP よりも低い平均値の金額で実施する削減政策には賛成できると考え られる.しかし逆に,WTP の平均値よりも低い WTP を表明した人は,WTP よりも高い平 放射線 重金属 農薬 遺伝子操作 廃棄物処理 環境ホルモン ダイオキシン 自動車事故 0 2000 4000 6000 (円) DAW j DRW"j

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29 均値の金額で実施する削減政策には賛成しない可能性が考えられる. そこで,WTP を WTP 合計と WTP 比に変換することで,平均値以上の値を表明した人数 がどのように変化するのかを調べた. WTP 合計および各リスクの WTP と WTP 比において,平均値以上の値を表明した被験者 の人数の割合を図 3-5 に示す. 0 10 20 30 40 50 WTP合計 自動車事故 環境ホルモン ダイオキシン 廃棄物処理 遺伝子操作 農薬 重金属 放射線 図 3-5 平均値以上の値を表明した人の人数 図 3-5 が示すように,WTP では,各リスクにおいて WTP の平均値以上を表明した人の人 数は最大で約 35%,最小で約 20%である. これに対し,WTP 合計では約 40%,WTP 比では最大で約 40%,最小で約 30%に上昇し, また,リスク間における割合のばらつきも小さくなっている.このことから,WTP を WTP 合計と WTP 比に変換することで,平均値以上の評価値を表明する人数の割合が増加するこ とがわかる. このことは,WTP 合計や WTP 比の平均値を採用してリスク削減政策を実施する場合,政 策に賛成する人の割合が WTP の平均値を採用するときより増加することを意味する. このこともまた,WTP を WTP 合計と WTP 比に変換したことで,WTP の分布が,正規分 布に近づいたことにより,平均値が分布の中心に近づいたためであると考えられる. AW RW TAW 放射線 重金属 農薬 遺伝子操作 廃棄物処理 環境ホルモン ダイオキシン 自動車事故 WTP 合計 0 10 20 30 40 50 (%)

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30 3-4 まとめと考察 以下,分布からみた WTP を WTP 合計と WTP 比に変換することの統計的意味をまとめる. まず,WTP を WTP 合計,WTP 比に変換することによる分布図の変化の結論は次の通り である. 1)WTP よりも WTP 合計,WTP 比のほうが,より正規分布に近い分布図になる. WTP の分布図に比べ WTP 比の分布図は,特異的に高い値が減少し,また,0 人のクラ スの数も減少することがわかった.さらに,大きく左に偏っていた WTP の分布が,WTP 比に変換することで,右側に少しシフトすることがわかった.また,歪度と尖度を比較し ても WTP よりも WTP 合計と WTP 比のほうが 0 に近い値であった.このことから,WTP 合計と WTP 比のほうが WTP よりも,正規分布に近い分布であることがわかった. 次に,WTP 合計と WTP 比の分布が WTP よりも正規分布に近づくことによってみられた 平均値の変化の特徴は次の通りである. 2)WTP 比のほうが WTP よりも,平均値と中央値の差が小さい. WTP を WTP 比に変換することで平均値と中央値の差が小さくなることがわかった.こ のことから,WTP よりも WTP 比を用いることで平均値を用いる問題(中央値と比べて過 大評価になりやすい問題)も軽減できると考えられる. 3)WTP 比のほうが WTP よりも,各被験者の値と平均値の差が小さい. WTP を WTP 比に変換することで各被験者の値と平均値の差が小さくなることがわかっ た.このことから,WTP よりも WTP 比のほうが,リスク削減に対する社会的便益と個人 が考える便益のずれが小さく,WTP より WTP 比の平均値を採用した削減政策のほうが, 人々が政策に賛成する可能性が高いと考えられる. 4)WTP 合計と WTP 比のほうが WTP よりも,平均値以上の値を表明した人数が多い. WTP よりも,WTP 合計と WTP を変換した WTP 比のほうが平均値以上の値を表明する 人数が多いことがわかった.このことから,WTP よりも WTP 合計や WTP 比の平均値を 採用した削減政策のほうが,賛成する人が多い可能性があると考えられる. さらに,福江の研究により,次のことがわかっている. 5)WTP 合計と WTP 比のほうが WTP よりも変動係数が小さい1). WTP 合計と WTP 比のほうが WTP よりも変動係数が小さく,データのばらつきが小さ

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31 い.

以上のことから,変動係数の変化だけでなく,分布の変化からも,WTP 合計や WTP 比が WTP よりも統計的に信頼性が高いと結論付けることができると考えられる.これにより, 福江が残した課題の 2)が解決できたと考えられる.

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32 <参考文献> 1)福江岬:支払意思額(WTP)合計と WTP 比を用いた異種環境リスク間リスク分析手法 の提案,滋賀県立大学環境社会計画専攻修士論文(2006) 2)菅民郎:Excel 統計で学ぶ統計解析入門,pp.73-75,オーム社(2002) 3)永田靖:入門 統計解析法,pp.9-12,日科技連出版社(1992) 4)菅民郎:ホントにやさしい多変量解析,pp.41,現代数学社(1996)

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