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糖尿病の重症化予防における理学療法の可能性

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 46 巻第 2 号 125 ∼ 132 頁(2019 糖尿病の重症化予防における理学療法の可能性 年). 125. 理学療法トピックス シリーズ 「糖尿病重症化予防と理学療法」. *. 連載第 1 回 糖尿病の重症化予防における理学療法の可能性. 井 垣   誠 1). 2) は 3 ∼ 5 倍高くなることが報告されている 。. はじめに.  理学療法士が糖尿病重症化予防に貢献できる手段とし.  2 型糖尿病はインスリン作用の低下を基盤とした慢性. ては,大きく分けて以下の 2 つが考えられる。1 つは運. 的な高血糖を呈する代謝疾患である。インスリン作用の. 動・身体活動による血糖コントールの改善である。これ. 低下は,インスリン分泌能の低下とインスリン抵抗性の. には体重や血圧,脂質プロフィールのコントロールも含. 増大(インスリン感受性の低下)のいずれか,あるいは. まれる。HbA1c 値を目標値に維持することは,食事療. 両者によってもたらされる。この病態は欧米人と日本人. 法,薬物療法の効果も含まれるので運動のみの効果を見. を含む東アジア人とで異なることが知られている。欧米. 出すことは難しいが,運動・身体活動は生活習慣改善の. 人ではインスリン分泌能が高いわりにインスリン感受性. 主要な要素であることに間違いない。もう 1 つは運動機. は低く,東アジア人ではインスリン分泌能は低いがイン. 能を維持して歩行能力を保つことである。これには糖尿. 1). スリン感受性は悪くない 。このことは日本人が欧米人. 病神経障害による筋力低下,糖尿病足病変,フレイル・. と比べて軽度の肥満や体重増加でも糖尿病を発症しや. サルコペニアの改善等が含まれる。運動器障害が起こり. すいことの背景になっていると想定されている。実際,. やすい糖尿病患者の運動機能を保持することや,下肢切. 2. 糖尿病患者の平均 BMI では,米国人は 30 kg/m で非. 断を回避するための足病変患者に対する理学療法および. 糖尿病患者よりもかなり高値であるのに対し,日本人. 切断後の理学療法によって歩行能力の維持・改善を図る. 2. は 23 kg/m で非糖尿病患者とさほど変わらない。した. ことは,患者の ADL を高く保つという点で重症化予防. がって日本人では軽度の肥満でも高血糖になる可能性が. である。. あり,これは患者の高齢化や罹患期間の長期化も関連し.  近年,糖尿病管理の重要性が強調され,重症化予防を. ているものと考えられ,糖尿病合併症の発症にも影響し. 図ることが喫緊の課題となっている。本稿では,行政に. ていくことが予想される。. よる糖尿病重症化予防対策に関する解説ならびに理学療.  厚生労働省が実施した 2016 年の国民・健康栄養調査. 法士が糖尿病重症化予防にどのように貢献できるかを考. によると,糖尿病が疑われる人は 20 歳以上の成人で. えてみたい。. 12.1% となり過去最多の 1,000 万人に上ることが明らか となった。また,糖尿病の可能性を否定できない糖尿病. 糖尿病に対する行政の施策. 予備軍は 2007 年以降減少しているとはいえ,推計 1,000.  行政の枠組みにおける方針は,国(厚生労働省),都. 万人であると報告されている。また,糖尿病で失明する. 3) 道府県,市町村の順に伝えられる (図 1)。厚生労働. 人は年間約 3,000 人,糖尿病が原因で透析導入する人は. 省の医政局から伝達される医療計画とは一定期間におけ. 年間約 16,000 人,糖尿病壊疽による足切断は外傷では. る都道府県の保健医療に関する方向性を定めたもので,. ない切断原因の第 1 位となっている。さらに大血管症に. 「医療機能の分化・連携の推進を通じて,地域において. ついて,糖尿病患者では非糖尿病患者と比べて脳梗塞の. 切れ目のない医療の提供を実現し,良質かつ適切な医療. 発症率が 2 ∼ 3 倍,冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)で. を効率的に提供する体制の確保を図ること」が目的とさ れている. *. Physical Therapy to Prevent the Progression of Diabetes 1)公立豊岡病院日高医療センターリハビリテーション技術科 (〒 669‒5392 兵庫県豊岡市日高町岩中 81) Makoto Igaki, PT, PhD: Department of Rehabilitation, Toyooka Public Hospitals’ Association Hidaka Medical Center キーワード:糖尿病,重症化予防,理学療法. 4). 。これを受けて各地域においても医療計画が. 定められ,定期的に見直されることになっている。医療 計画における医療提供体制とは,医療機関の機能分担, 業務連携を行う体制のことであり,地域間での医療の格 差をなくすための重要な取り組みとなる。5 疾病(がん,.

(2) 126. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. 図 1 行政の糖尿病に対する取り組み(文献 3 より改変して引用). 図 2 糖尿病性腎症重症化予防のための地域連携体制の構築(文献 6 より引用). 脳卒中,心血管疾患,糖尿病,精神疾患)と 5 事業(救. 生活習慣の是正を図り,糖尿病等の生活習慣病の発症予. 急医療,災害時における医療,へき地の医療,周産期医. 防に重点を置いた施策が展開されている。保険局では糖. 療,小児医療)および在宅医療について医療計画に定め. 尿病性腎症重症化予防事業. られ,地域の医療施策に盛りこまれている。糖尿病は 5. 診の患者の受診勧奨や疾患管理のための療養指導等で人. 疾病のひとつに定められていることから,行政の立場. 工透析への移行を防ぐ事業がなされている。. では医療提供体制の現状の把握や地域医療連携の促進, 研修会の開催,住民への啓発等の取り組みが整えられて. 6). が進められており,未受. 糖尿病性腎症重症化予防プログラムとは  糖尿病性腎症重症化予防プログラムは,2016 年 4 月に. いる。  厚生労働省では健康局と保険局でも糖尿病に関する事 5). 業がある。健康局は健康日本 21(第二次) を定めて. 厚生労働省が日本医師会,日本糖尿病対策推進会議とと もに策定した(図 2) 。このプログラムは,糖尿病が重症.

(3) 糖尿病の重症化予防における理学療法の可能性. 127. 図 3 糖尿病性腎症重症化予防プログラムの目標設定の考え方(文献 6 より引用). 化するリスクが高い未受診者,受診中断者に対して受診. 機関,自治体,療養指導に関係する専門団体(専門家). 勧奨,保健指導を行うことにより治療に結びつけ,腎不. との連携が重要となる。したがって厚生労働省から都道. 全,人工透析への移行を防止することが目的である。. 府県,市町村へ,日本医師会から都道府県医師会・郡市.  我が国における維持透析患者数は 32.5 万人(2015 年. 区医師会へ,日本糖尿病対策推進会議は構成団体である. 末)であり,年間の新規透析導入患者約 37,000 人のう. 各学術団体や職能団体へ周知され,医療従事者の研修や. ち糖尿病性腎症が 16,000 人で第一位となっている。人. 地域医療体制の構築に協力することが求められている。. 工透析は患者の QOL を低下させるだけでなく,医療費 の増大に大きな影響を与える。透析に関する年間総額は. 運動・身体活動と糖尿病合併症. 1.5 兆円にのぼるといわれており,透析予防に向けた取.  我が国における 2 型糖尿病患者対象の大規模臨床研. り組みが急務となっている。糖尿病性腎症は減塩等の食. 究のひとつである Japan Diabetes Complications Study. 習慣の改善,禁煙,血圧や血糖コントロールの改善,適. (以下,JDCS)では,身体活動と脳卒中発症との関連が 8). 。JDCS 登録患者を仕事や日常生活以. 度な身体活動の促進等で進行を遅らせられる可能性があ. 報告されている. る(図 3)。しかしながら現実では,健診で高血糖や尿. 外に運動療法として実施している運動の総量で 3 分位に. 蛋白陽性を指摘されながらも放置している人,治療を中. 分けると,運動量がもっとも多い群の 8 年間の脳卒中発. 断してしまう人は少なくない。また,医療スタッフの関. 症および総死亡のリスクは,もっとも少ない群のほぼ半. 係でどの医療機関でも腎症の病期に合わせた食事療法や. 分であった。このもっとも多い群の 1 日の運動量は,時. 生活習慣改善の指導を受けられるというわけではない。. 速 5.6 km の速歩に(運動強度 4.3 Mets)に換算すると,.  そこで市町村(国保)が健診データやレセプトなどで. 1 日約 30 分以上であった。一方,もっとも少ない群は. 抽出されたハイリスク者に対する受診勧奨,保健指導を. 運動を実施していなかった。したがって運動療法を実施. 行い,治療中の患者には医療と連携した保健指導を行. していない患者が開始すれば脳卒中の予防を期待できる. う。対象者の抽出基準は,2 型糖尿病であること(空腹. ことになる。. 時血糖値≧ 126 mg/dL または HbA1c ≧ 6.5%,または.  J-DOIT3(Japan Diabetes Optimal Integrated. 糖尿病治療中,過去に糖尿病薬使用歴あり),腎機能の. Treatment study for 3 major risk factors of cardio-. 低下(尿蛋白ならびに eGFR により判定)のいずれも満. vascular diseases)は,厚生労働省の戦略研究のひとつ. たす者である。保健指導は,対象者の検査値や糖尿病性. として J-DOIT1(糖尿病発症予防の研究) ,J-DOIT2(治. 7). 腎症の病期に合わせた内容で実施される (図 4)。受. 療中断予防の研究)とともに計画され,統合的多因子介. 診により血圧・血糖管理,減塩や禁煙,肥満者では減量. 入と生活習慣改善による効果を検証した日本の大規模臨. 等の自己管理により,人工透析を回避あるいは遅延でき. 床研究である。生活習慣改善には運動療法プログラムが. ることを説明する。介入の例としては,1 回面接型,継. 含まれており,糖尿病合併症の発症抑制につながる研究. 続的支援型(3 ∼ 6 ヵ月間)がある。. として興味深いものである。2006 年 6 月∼ 2009 年 3 月.  重症化予防プログラムの運営のためには,地域の医療. にかけて 45 ∼ 69 歳の 2 型糖尿病で高血圧か脂質異常症.

(4) 128. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. 図 4 健診・レセプトデータで抽出した対象者に対する対応例(検査値別) (文献 7 より引用). のある患者で,食事・運動療法のみ,経口薬 1 剤,経 口薬 1 剤+ α グルコシダーゼ阻害薬で治療中の 2,542 人. 糖尿病腎症の重症化予防と理学療法. が対象であった。従来療法群(1,271 人,目標:HbA1c.  我が国における 2 型糖尿病による腎症の有病率につ. < 6.9 %, 血 圧 130/80 mmHg,LDL コ レ ス テ ロ ー ル. いては,29 の糖尿病専門クリニックに通院中の 2 型. < 120 mg/dL)と強化療法群(1,269 人,目標:HbA1c. 糖 尿 病 患 者 を 対 象 に し た 研 究(Japan Diabetes Data. < 6.2 %, 血 圧 120/75 mmHg,LDL コ レ ス テ ロ ー ル. Management:JDDM)がある。登録患者 14,919 人中,. < 80 mg/dL)とにランダムに割りつけされた。研究の. 尿中アルブミン排泄量の測定がなされた 8,897 人の解析. プロトコルは,最初の 3 ヵ月間は生活習慣改善のみによ. の結果,微量アルブミン尿が 31.6%,顕性アルブミン. る管理を行い,その後データに応じて段階的に薬物療法. 尿以上の腎症が 10.5%に認められたことが示されてい. 9). 11). を強化していくというものであった 。. る.  8.5 年間の介入により,従来療法群と強化療法群の各. 認めることが明らかになり,介入すべき対象者は非常に. パラメーターの平均値は,HbA1c 7.2 vs. 6.8%,血圧. 多いことがわかる。. 129/74 vs. 123/71 mmHg,LDL コレステロール 104 vs..  Yokoyama らによる顕性腎症期の 2 型糖尿病患者 211. 85 mg/dL でいずれも強化療法群で有意に改善してい. 例を対象とした追跡調査では,血糖および血圧に対する. た。主要評価項目は全死亡,冠動脈イベント,脳血管イ. 強化的治療により観察期間 5 年間で 116 例が微量アルブ. ベントであり,副次評価項目は腎症の発症・進展,網膜. ミン尿への寛解を示した。治療開始 1 年後に 82.8%の例. 症の発症・進展,下肢血管イベント(下肢切断,血行再. に寛解がみられ,寛解率の増加は HbA1c 値< 7%およ. 建術)であった。主要評価項目について,強化療法群は. び収縮期血圧< 130 mmHg の達成度と関連していたこ. 従来療法群と比べて補正後 24%有意に減少し,脳血管. とを報告している. イベントは 58%も有意に抑制されていた。副次評価項. 症を有する 2 型糖尿病患者 216 例を対象とした 6 年間の. 目は腎症が 32%,網膜症が 14%有意に抑制されていた。. 追跡調査においても,腎症の寛解に至る因子は微量アル. 下肢血管イベントは件数が少なく両群に差を認めなかっ. ブミン尿が出現してから治療開始までの期間が短いこ. 10). 。すなわち 2 型糖尿病患者のうち約 4 割に腎症を. 12). 。Araki らによる日本人の早期腎. 。J-DOIT3 では生活習慣改善のプログラムが重視. と,レニン・アンジオテンシン系抑制薬を使用している. されており,この結果は糖尿病重症化予防のためには食. こと,HbA1c 値が 7.35%未満であること,収縮期血圧. 事・運動療法を強化したチーム医療の重要性を示すもの. が 130 mmHg 未満であったことが報告されている. と思われる。.  このように腎症の危険因子を包括的に治療すること. た. 13). 。.

(5) 糖尿病の重症化予防における理学療法の可能性. 129. 表 1 糖尿病透析予防指導管理料 350 点(月 1 回) 〔算定要件〕 HbA1c が 6.5%(国際標準値)以上または,内服薬やインスリン製剤を使用している外来糖 尿病患者であって,糖尿病性腎症第 2 期以上の患者(透析療法を行っている者を除く)に対し, 透析予防診療チームが透析予防にかかわる指導管理を行った場合に算定する 〔施設基準〕 ①以下から構成される透析予防診療チームが設置されていること  ア.糖尿病指導の経験を有する専任の医師  イ.糖尿病指導の経験を有する専任の看護師または保健師  ウ.糖尿病指導の経験を有する専任の管理栄養士 ②糖尿病教室などを実施していること ③ 1 年間に当該指導管理料を算定した患者の人数,状態の変化などについて報告を行うこと 厚生労働省保険局医務課,平成 30 年度診療報酬改定の概要からの抜粋. 表 2 高度腎機能障害患者指導加算 100 点(月 1 回) 〔算定要件〕 腎不全期の糖尿病性腎症の患者に対して医師が必要な指導を行った場合(専任の医師が,当 該患者が腎機能を維持する観点から必要と考えられる運動について,その種類,頻度,強度, 時間,留意すべき点などについて指導し,また,すでに運動を開始している患者については その状況を確認し,必要に応じてさらなる指導を行った場合)に加算する 〔施設基準〕 腎不全期患者指導加算を算定する場合は,つぎに挙げるイのアに対する割合が 5 割を超えて いること  ア.1 ヵ月前までの 3 ヵ月間に糖尿病透析予防指導管理料を算定した患者で,同期間内に測 2 定した eGFRCr または eGFRCys(mL/min/1.73m )が 45 未満であったもの(死亡し たもの,透析を導入したもの,および腎臓移植を受けたものを除き,6 人以上が該当す る場合に限る)  イ.アの算定時点(複数ある場合はもっとも早いもの,以下同じ)から 3 ヵ月以上経過し た時点で,以下のいずれかに該当している患者   (イ)血清クレアチニンまたはシスタチンCがアの算定時点から不変または低下している こと   (ロ)尿蛋白排泄量がアの算定時点から 20%以上低下していること   (ハ)アで eGFRCr または eGFRCys を測定した時点から前後 3 ヵ月時点の eGFRCr また は eGFRCys を比較し,その 1 ヵ月当りの低下が 30%以上軽減していること 厚生労働省保険局医務課,平成 30 年度診療報酬改定の概要からの抜粋. が,腎不全への進展を防ぐために重要となる。したがっ. 全期患者指導加算は高度腎機能障害患者指導加算に名称. て医師およびコメディカルで構成される医療チームが共. 2 が変更され,算定要件は eGFR が 45 mL/min/1.73m 未. 通の認識をもって患者教育にあたる必要がある。2012. 満の患者へと対象患者が拡大された。. 年の診療報酬の改定では,腎症に対するチーム医療によ.  公益社団法人日本理学療法士協会の職能に資するエビ. る包括的治療に関して,糖尿病透析予防指導管理料 350. デンス研究において,日本糖尿病理学療法学会は 2016. 点の算定が可能となった。算定要件は HbA1c が 6.5%. 年度に日本糖尿病理学療法学会の会員 4,680 名を対象に. 以上または内服薬やインスリン製剤を使用している外来. 「糖尿病足病変・糖尿病腎症患者における理学療法士の. 糖尿病患者であって,糖尿病性腎症第 2 期以上(透析療. かかわりの実態調査」というテーマでアンケートを行っ. 法期は除く)の患者に対し,透析予防診療チームが透析. た。回答が得られた 1,363 名のうち 537 名(39.4%)が. 予防にかかわる指導管理を行った場合に算定できる(月. 腎症患者に対して理学療法を行っていると回答し,その. 1 回)(表 1)。残念ながらこの施設基準には理学療法士. なかで糖尿病透析予防指導管理料の透析予防診療チー. は記載されていない。しかし 2016 年の診療報酬の改定. ムの一員として参加していると回答した者はわずか 24. において,施設基準を満たした施設においては,腎不全. 名(4.5%)のみであった。さらに,この 24 名のうち運. 2 期(eGFR が 30 mL/min/1.73m 未満)の患者に対して. 動指導を行って腎不全期患者指導加算(高度腎機能障害. 専任の医師が適切な運動療法を指導した場合に腎不全期. 患者指導加算)も算定している者は 7 名(29.2%)だっ. 患者指導加算として 100 点が所定点数に加算可能となっ. た. た(表 2)。さらに 2018 年の診療報酬の改定では,腎不. わらず,理学療法士は透析予防のチーム医療に十分に携. 14). 。以上のように腎症を有する患者は多いにもかか.

(6) 130. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. わっていない実態が明らかとなった。. 献できる可能性を含んでいるものと思われる。. 糖尿病神経障害・足病変の重症化予防と理学 療法. 日本糖尿病対策推進会議  糖尿病患者が増え続ける状況に対し積極的な取り組み.  糖尿病患者の歩行能力を維持するためには,神経障害. が必要であるとの共通認識により,日本医師会,日本糖. や足病変の重症化予防を図ることが重要である。トレッ. 尿病学会,日本糖尿病協会の三者で,2005 年 2 月に「日. ドミル歩行の介入は運動神経障害,感覚神経障害ともに. 本糖尿病対策推進会議」が設立された。その後各団体が. 発症を抑制する. 15). ことや,中等度の運動は運動・感覚 16). 加わり,日本医師会,日本糖尿病学会,日本糖尿病協. こと等が報告されて. 会,日本歯科医師会が幹事団体となり,健康保険組合連. いる。また,糖尿病神経障害患者に対する理学療法(レ. 合会,国民健康保険中央会,日本腎臓学会,日本眼科医. ジスタンス運動,バランス運動)は,片脚立位時間,歩. 会,日本看護協会,日本病態栄養学会,健康・体力づく. 神経伝導速度の改善がみられる. 17)18). 。さらに足病. り事業財団,日本健康運動指導士会,日本糖尿病教育・. 変を有する患者に対しては,下肢切断を回避するための. 看護学会,日本総合健診医学会,日本栄養士会,日本人. フットウエアや免荷装具の作製は重要なポイントとな. 間ドック学会,日本薬剤師会,日本理学療法士協会が構. る。詳細は今後の本連載を参照いただきたい。. 成団体となっている(日本理学療法士協会は 2015 年に. 行速度等を改善させる可能性がある. 糖尿病網膜症の重症化予防と理学療法. 加入)。また都道府県単位でも糖尿病対策推進会議が立 ち上がり,地域の実情に応じた活発な取り組みが行われ.  2 型糖尿病患者における身体活動量の増加は,心血管. ている。特に 11 月 14 日の世界糖尿病デーを含んだ全国. イベントの発症リスクの低下など,様々な合併症の発. 糖尿病週間では,全国各地で一般向けの講演会や健康相. 症・進展予防に寄与できることが報告されている。一方. 談,広報活動等の糖尿病に関する啓発活動が行われてい. で身体活動量が減ると糖尿病網膜症の発症リスクが増加. る。これまで多数のイベントにおいて理学療法士が活躍. するのかは明らかにされていなかった。Kuwata らは,. しており,都道府県士会レベルで参画している地域もあ. 2 型糖尿病患者を対象にしてベースライン時の身体活動. る。日本糖尿病理学療法学会では年 1 回,学術集会の開. 量とその後の糖尿病網膜症の新規発症との関連を前向き. 催と合わせて地域での糖尿病対策推進事業に関する情報. に検討するコホート研究を行っている。対象患者は調査. 交換会が実施されている。社会貢献事業への参画は,理. 開始時に網膜症を有さない 2 型糖尿病患者 1,814 人で,. 学療法士が糖尿病管理に携わる一職種であることを医療. 身体活動量は国際標準化身体活動質問票(IPAQ)を. 者および一般住民に対してアピールできる機会となり,. 用いて調査している。対象患者を MET-hours/ 週で評. 職域の拡大につながることが期待できる。. 価した身体活動レベルで第 1 ∼第 5 群に分類し(METhours/ 週の中央値はそれぞれ 0,4.8,13.2,26.4,77), 2 年間追跡した。その結果,運動習慣と糖尿病網膜症の. 兵庫県豊岡市における糖尿病重症化予防の取 り組み. 新規発症との関連を,運動習慣がない群(第 1 群)と比.  筆者が勤務している兵庫県豊岡市においても,超高齢. 較した Cox 比例ハザードモデルを用いた解析では,多. 化と車社会による身体活動量の低下が顕著であること. 変量調整モデルにおいて第 2 ∼ 5 群のハザード比はそれ. から,さらなる糖尿病重症化が懸念されている。平成. ぞれ 0.87(95%信頼区間 0.53 ∼ 1.40,p = 0.557),0.83. 29 年度の統計では豊岡市の高齢化率は 32.5%と全国平. (同 0.52 ∼ 1.31,p = 0.421),0.58(同 0.35 ∼ 0.94,p =. 均(27.3%)を上回り,市民の約 3 人に 1 人が高齢者で. 0.027) ,0.63(同 0.42 ∼ 0.94,p = 0.025)と第 4 群およ. ある。また出生率は 2.0 を下回り今後急激に少子高齢化. び第 5 群で有意な低下が認められた. 19). 。. が進むことが予測される。平成 28 年に豊岡市が行った.  また Loprinzi は米国の成人糖尿病患者 282 人につい. 豊岡市健康行動計画作成のための市民アンケートでは,. てコホート研究を行い,身体活動の実施状況と糖尿病網. 1 日 30 分以上週 2 回以上の運動習慣がある者の割合は,. 膜症の有病率などについて関連性があるかどうか検討し. 成人男性 37.3%,成人女性 27.9%で全国平均(それぞれ. ている。その結果,全体的な身体活動量と糖尿病網膜症. 35.1%,27.4%)とほぼ同レベルであったが,公共交通. の発症との間には有意な関連性は見出されなかったが,. 機関の利便性が悪く自家用車での移動が多いこと,夏季. 座位行動時間が 1 日あたり 60 分増えるごとに軽度また. は猛暑,冬季は豪雪で外出の機会が少ないことなどで容. はそれ以上の糖尿病網膜症発症リスクは 16%増加して. 易に運動不足の状況になることは否めない。. 20). 。これらの研究結果は運動・身.  このような背景を踏まえ,平成 28 年 8 月に豊岡市医. 体活動が糖尿病網膜症の発症・進展に影響を与えること. 師会,公立豊岡病院組合,豊岡健康福祉事務所,豊岡市. を示すものであり,理学療法が糖尿病の重症化予防に貢. で構成する糖尿病対策推進会議が立ち上げられた。筆者. いることが示された.

(7) 糖尿病の重症化予防における理学療法の可能性. 131. も初回からその委員に入り,運動療法指導を担う理学療. ある。そして靴,スリッパの不適合による足病変をきた. 法士の立場として積極的な発言,行動を心掛けている。. しやすい条件などもチェックする。足病変予防の観点. 年 3 ∼ 4 回,会議が開催され,豊岡市における糖尿病重. で,家屋内での患者の動線,歩容,住宅環境の良否を判. 症化予防対策について協議している。その内容は,かか. 断することが必要である。また,糖尿病合併症の状況が. りつけ医と専門医との連携強化,豊岡市国民健康保険被. 不明な場合も多い。特に眼科を受診していないケースで. 保険者の特定健康診査データやレセプト等から糖尿病重. は,糖尿病網膜症の進展が危惧される。増殖網膜症の病. 症化予防対象者の抽出と適切な受診勧奨,医療機関の依. 態では,頭部が下がった姿勢は硝子体出血を生じる可能. 頼による豊岡市職員の管理栄養士の派遣,公立豊岡病院. 性を否定できないことから好ましくないとされている。. での糖尿病教育入院の実施,多職種連携による糖尿病教. しかし,訪問リハの場面で腹臥位や四つ. 室の開催,糖尿病患者会の発足等である。また,市内の. 患者にとらせることがよくある。したがって早期の受診. 運動施設に委託する運動療法指導のシステムをつくり,. を促すとともに,リスクが不明な場合はこのような姿勢. 施設利用料の一部を豊岡市が助成している。運動療法を. をとらないよう配慮が必要である。. 運動施設に委託することがスムースに行えたのは,運動.  以上のことは糖尿病合併症に配慮した訪問リハである. 施設にも理学療法士が勤務しており糖尿病患者に対す. が,身体活動量の増加によって体重や血糖管理を目指す. る運動療法について共通した認識を確認できたからであ. かかわりも可能であると思われる。糖尿病の運動療法に. る。監視型の運動療法が適応あるいはそれを希望する糖. 関する近年の研究成果では,低強度の身体活動や細切れ. 尿病患者には,筆者が病院で継続指導する体制も構築し. 運動の効果が報告されている。持久性の運動でなくて. ている。今後さらに豊岡市における糖尿病患者の実態を. も,数分の歩行や階段昇降,座位時間を減らすことへの. 分析し,重症化予防の取り組みを展開していく予定で. 介入でも糖尿病管理に有益となる可能性がある。ADL. ある。. 能力の維持・改善に加え,糖尿病管理としての身体活動. 在宅ケアにおける糖尿病患者に対する理学療 法士のかかわり  理学療法士は医療機関のなかだけでなく,在宅ケアに. い位の姿勢を. 量増加に向けたアプローチを立案することも理学療法士 の役割となる。. おわりに. おいても糖尿病患者に対して重要な役割を果たすことが.  糖尿病重症化予防対策は国レベル,地域レベルでも. できる。理学療法士の観点では,医療機関において糖. 徐々に進捗し,その成果が報告されてきている。しかし. 尿病の教育目的などでかかわる患者と,在宅ケアでか. ながら,本対策に理学療法士が十分参画できているとは. かわる患者の大きな違いは,歩行を含む移動動作能力,. 言い難い。この状況を打破して理学療法士が活躍できる. ADL レベルの違いにある。在宅ケアでの患者は歩行不. 場とするためには,重症化予防に対する理学療法のエビ. 能,あるいは歩行の介助や見守りが必要なことが多いの. デンスを集積し,それを社会に発信させ,かつ国・厚生. で通常の糖尿病に対する運動療法は適応できない。この. 労働省と交渉できる資料をつくるにほかならない。日本. 段階において,糖尿病管理のうえで理学療法士としてな. 理学療法士学会主導で行う多施設共同研究の体制を構築. にができるかを考えてみたい。. させ,理学療法士になにができるかを明らかにすること.  在宅ケアの場面では,タイムリーな医療情報が入手し. が急務である。. にくい環境にある。リスク管理を行うためには,サービ ス担当者会議でケアマネージャーなどの他職種,患者お よび家族から十分に情報提供を受けておくことが肝要で ある。低血糖を引き起こす可能性のある薬剤を使用して いる患者では,訪問リハビリテーション(以下,訪問リ ハ)の時間帯を配慮することからはじまる。また,低血 糖の経験の有無と症状,その出現頻度や時間帯などを聞 き取り,低血糖が起きたときの対処を確認して訪問リハ を進めていきたい。  在宅でかかわる患者では,糖尿病のことをあまり気に していない患者も少なくない。私は訪問リハ中に,糖尿 病とはどんな病気かを一から説明する場合が度々ある。 理学療法士として可能な合併症の評価には,感覚障害や 筋力低下,起立性低血圧などの糖尿病神経障害の有無が. 文  献 1)Kodama K, Tojjar D, et al.: Ethnic differences in the relationship between insulin sensitivity and insulin response: a systematic review and meta-analysis. Diabetes Care. 2013; 36: 1789‒1796. 2)曽根博仁,JDCS グループ:糖尿病学の進歩 2005 第 39 集.日本糖尿病学会(編) ,診断と治療社,東京,2005, pp. 19‒23. 3)今井健二郎:糖尿病医療体制構築に向けた行政の取り組み はどのようなもの? 糖尿病ケア.2018; 15: 15‒17. 4)厚生労働省:医療計画について.https://www.mhlw.go.jp/ file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000159901.pdf (2018 年 12 月 24 日引用) 5)厚生労働省:国民の健康の増進の総合的な推進を図るた めの基本的な方針.https://www.mhlw.go.jp/bunya/.../dl/ kenkounippon21_01.pdf(2018 年 12 月 24 日引用) 6)厚生労働省:糖尿病性腎症重症化予防プログラム.https://.

(8) 132. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12401000Hokenkyoku-Soumuka/0000121902.pdf(2018 年 12 月 24 日 引用) 7)津下一代:糖尿病性腎症 重症化予防プログラム開発のため の研究.http://tokutei-kensyu.tsushitahan.jp/jushoka/data/ H27houkokusyo_all.pdf(2018 年 12 月 24 日引用) 8)Sone H, Tanaka S, et al.: Leisure-time physical activity is a significant predictor of stroke and total mortality in Japanese patients with type 2 diabetes: analysis from the Japan Diabetes Complications Study (JDCS). Diabetologia. 2013; 56: 1021‒1030. 9)植木浩二郎:J-DOIT3 −背景・方法・結果と臨床的意義. プラクティス.2018; 35: 142‒146. 10)Ueki K, Sasako T, et al.: Effect of an intensified multifactorial intervention on cardiovascular outcomes and mortality in type 2 diabetes (J-DOIT3): an open-label, randomised controlled trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2017; 5: 951‒964. 11)Yokoyama H, Araki S, et al.: Association between remission of macroalbuminuria and preservation of renal function in patients with type 2 diabetes with overt proteinuria. Diabetes Care. 2013; 36: 3227‒3233. 12)Yokoyama H, Kawai K, et al.: Microalbuminuria is common in Japanese type 2 diabetic patients: a nationwide survey from the Japan Diabetes Clinical Data Management Study Group (JDDM 10). Diabetes Care. 2007; 30: 989‒992. 13)Araki S, Haneda M, et al.: Factors associated with frequent remission of microalbuminuria in patients with. type 2 diabetes. Diabetes. 2005; 54: 2983‒2987. 14)公益社団法人日本理学療法士協会:糖尿病足病変・糖尿病 腎症患者における理学療法士の関わりの実態調査.http:// www.japanpt.or.jp/upload/japanpt/obj/files/chosa/ tounyou_houkokusyo_2016.pdf(2018 年 12 月 24 日引用) 15)Balducci S, Iacobellis G, et al.: Exercise training can modify the natural history of diabetic peripheral neuropathy. J Diabetes Complications. 2006; 20: 216‒223. 16)Fisher MA, Langbein WE, et al.: Physiological improvement with moderate exercise in type II diabetic neuropathy. Electromyogr Clin Neurophysiol. 2007; 47: 23‒28. 17)Allet L, Armand S, et al.: The gait and balance of patients with diabetes can be improved: a randomised controlled trial. Diabetologia. 2010; 53: 458‒466. 18)Richardson JK, Sandman D, et al.: A focused exercise regimen improves clinical measures of balance in patients with peripheral neuropathy. Arch Phys Med Rehabil. 2001; 82: 205‒209. 19)Kuwata H, Okamura S, et al.: Higher levels of physical activity are independently associated with a lower incidence of diabetic retinopathy in Japanese patients with type 2 diabetes: A prospective cohort study, Diabetes Distress and Care Registry at Tenri (DDCRT15). PLoS One. 2017; 12: e0172890. 20)Loprinzi PD: Association of Accelerometer-Assessed Sedentary Behavior With Diabetic Retinopathy in the United States. JAMA Ophthalmol. 2016; 134: 1197‒1198..

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参照

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